株主総会の議案書のひな形|議事録とどう使い分けるか


この記事のポイント
- ✓株主総会議案書の雛形を探している人に向けて
- ✓議案書と議事録の役割の違い
- ✓普通決議と特別決議での書き分け
「株主総会議案書 雛形」で検索した人の多くは、実はひな形そのものを探していない。探しているのは「この書類、そもそも作らないといけないのか」という答えのほうだ。結論を先に書く。議案書は法律で作成が義務づけられた書類ではない。義務があるのは議事録のほうで、こちらは作らないと過料の対象になる。それでも議案書を作る意味はある。作っておくと、議事録の中身が自動的に埋まるからだ。この記事では、議案書と議事録の役割の違い、議案書に書くべき項目、普通決議と特別決議での書き分け、そして登記に使うときに何が追加で必要になるかまでを、法務局と条文で確かめた範囲だけで整理する。
議案書と議事録は別の書類。まずここを分ける
用語を先にそろえておく。議案とは、株主総会で「これを決めてください」と株主に諮る個々の案件のこと。役員を選ぶ、定款を変える、決算を承認する。これらが1つずつ議案になる。議案書とは、その議案を文書にまとめたもので、総会の前に株主へ配るか、総会の場で配る資料を指す。
対して議事録は、総会が終わったあとに「何をどう決めたか」を記録する書類だ。時間の流れでいえば、議案書は総会の前、議事録は総会の後に作る。
この2つを混同したまま検索すると、出てくるひな形がどれも議事録の形をしていて話が噛み合わなくなる。実際、検索上位に並ぶページの多くは議事録のひな形で、議案書そのものの様式を示しているものは少ない。理由ははっきりしている。議案書には法律で定められた決まった形がないからだ。
一方、議事録のほうは中身が法令で決まっている。会社法は株主総会の議事について法務省令の定めるところにより議事録を作らなければならないと定め、その法務省令である会社法施行規則が、書くべき項目を具体的に並べている。
株式会社は、株主総会の日から十年間、前項の議事録をその本店に備え置かなければならない。 株式会社は、株主総会の日から五年間、第一項の議事録の写しをその支店に備え置かなければならない。 出典: laws.e-gov.go.jp
本店で10年、支店では写しを5年。この保存期間が、議事録が「記録して終わり」の書類ではないことを示している。備え置きを怠った場合、会社法は100万円以下の過料に処すると定めている。過料は前科がつく刑罰ではなく行政上の制裁金だが、会社ではなく取締役個人に科される点は押さえておきたい。
議案書に決まった様式がないのに、それでも作る理由
法律が求めていない書類をわざわざ作るのは無駄に見える。だが実務では、議案書を先に作っておいたほうが結果的に早い。理由は3つある。
1つ目は、議事録の中身が議案書からそのまま移せること。後述するが、議事録に書くべき項目のうち「議事の経過の要領及びその結果」という部分は、議案書の文言を土台にすると格段に書きやすい。議案の表題と本文を先に確定させておけば、総会後は決議の結果を足すだけで済む。
2つ目は、株主への説明責任を果たせること。取締役が1人か2人の小さな会社で、株主も同じ顔ぶれという場合は口頭で足りることも多い。しかし株主に社外の人が混じっている会社、親族間で持株が分かれている会社では、「何を決めるのか」を紙にしておかないと、あとで言った言わないになる。
3つ目は、招集通知との整合が取れること。会社法は、株主総会を招集する取締役は、総会の日時と場所、そして目的である事項があるときはその事項を定めなければならないとしている。この「目的である事項」が議案書の表題とずれていると、決議そのものの効力を争われる余地が生まれる。
正直なところ、ここは軽く見られがちな部分だ。招集通知に「第1号議案 取締役選任の件」と書いておきながら、当日配った議案書が「役員体制の変更について」という別の表題になっている。この程度のずれなら実害が出ないことがほとんどだが、株主間に対立があるときは真っ先に突かれる。表題は招集通知と1文字単位でそろえるのが安全だ。
議案書に入れる項目を1つずつ
議案書は自由形式だが、実務で使われている形はだいたい決まっている。次の項目を上から順に並べれば足りる。
会社名と書類名。冒頭に「株式会社〇〇 第〇期定時株主総会 議案書」と書く。臨時総会なら「臨時株主総会 議案書」とする。
開催日時と場所。招集通知に書いた日時と場所をそのまま転記する。オンライン併用で開く場合は、その方法も書いておくと議事録に移すときに楽になる。
報告事項と決議事項の区別。定時株主総会では、事業報告のように「報告するだけで決議しない」項目と、「決議する」項目が混ざる。この2つは見出しレベルで分けたほうがいい。報告事項は議案ではないので、あとで議事録を作るときも決議要件の記載が要らない。
議案ごとの表題と本文。表題は「第1号議案 取締役2名選任の件」のように、何を何人分決めるのかまで書く。本文には決議を求める内容そのものを書く。
提案理由。法律上の必須項目ではないが、株主が判断できるだけの材料を書いておく。定款変更なら「なぜ今変えるのか」、役員選任なら「任期満了に伴うものか、増員か、辞任に伴う補充か」を1行添える。
決議要件。その議案が普通決議で足りるのか特別決議が要るのかを明記しておくと、当日の集計で迷わない。ここは次の節で詳しく見る。
議案書のひな形としては、次の程度の骨組みがあれば実務で通る。
株式会社〇〇
第〇期定時株主総会 議案書
日時 令和〇年〇月〇日 午前〇時〇分
場所 当会社本店会議室(東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号)
【報告事項】
第〇期(令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日まで)事業報告の件
【決議事項】
第1号議案 第〇期計算書類承認の件
第〇期の貸借対照表および損益計算書を別紙のとおり承認する。
(決議要件:出席株主の議決権の過半数)
第2号議案 取締役2名選任の件
取締役全員が本総会終結の時をもって任期満了となるため、
次の2名を取締役として選任する。
〇〇 〇〇(再任)
△△ △△(新任)
(決議要件:議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する
株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数)
第3号議案 定款一部変更の件
当会社の事業目的に次の1項を追加する。
〇 〇〇〇〇の企画、制作および販売
(決議要件:特別決議)
伏字の部分は自社の内容に置き換えて使う。別紙を付ける場合は、議案書に「別紙のとおり」と書いて実物を添える。
普通決議と特別決議で、議案の書き方が変わる
議案書と議事録のどちらでも、書き分けが必要になる最大のポイントがここだ。決議要件は議案の内容によって変わる。
会社法の原則では、株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。これがいわゆる普通決議になる。
ところが役員の選任と解任だけは、別の条文で扱いが少し違う。定足数、つまり「何人分の議決権が集まれば総会を開けるか」の基準を、定款で下げられる下限が3分の1までと決まっている。普通決議の定足数は定款で完全に外すこともできるのに対し、役員の選任と解任では3分の1未満にはできない。役員人事だけは緩めすぎないようにしてある、という作りだ。
特別決議はさらに重い。議決権を行使することができる株主の議決権の過半数、定款で3分の1以上の割合を定めた場合はその割合以上を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う。定款変更、事業譲渡、資本金の額の減少、合併などがこちらに入る。
議案書に決議要件を書いておく意味は、当日の司会進行のためだけではない。総会後に議事録を作るとき、「何分の何の賛成で可決したのか」を書く必要があるからだ。普通決議の議案に特別決議の書き方をしてしまうと、登記の添付書類として出したときに補正の連絡が来る。
自社の定款に定足数の緩和規定があるかどうかは、議案書を作る前に必ず確認しておきたい。中小企業の定款では「当会社の株主総会の決議は、法令に別段の定めがある場合を除き、出席した株主の議決権の過半数をもって行う」という形で定足数を外している例が多い。この一文があるかないかで、議事録に書く定足数の表現が変わる。
賛成が何個必要かを、数字で計算しておく
決議要件は条文を読むだけでは頭に入らない。数字を入れて計算しておくと、当日の集計で迷わなくなる。
発行済株式が1,000株、1株につき1個の議決権があり、議決権を行使できる議決権の総数が1,000個の会社を例にする。
定足数は、議決権の過半数を持つ株主の出席だから501個以上だ。500個ちょうどでは過半数に届かない。出席した議決権が800個だったとして、そこから先を計算する。
普通決議は、出席した株主の議決権の過半数だから401個以上の賛成が必要になる。400個では足りない。
特別決議は、出席した株主の議決権の3分の2以上だ。800個の3分の2は533.33個なので、534個以上の賛成が必要になる。533個では足りない。端数が出るときは、必要数を切り上げる方向で押さえておくと安全だ。
役員の選任と解任は、賛成の要件は普通決議と同じだが、定足数の扱いだけが違う。定款で下げられる下限が3分の1、この例では334個までと決まっている。
ここで効いてくるのが、自社の定款に定足数を外す一文があるかどうかだ。「法令に別段の定めがある場合を除き、出席した株主の議決権の過半数をもって行う」という定めがある会社では、普通決議の定足数がない。出席した議決権が300個しかなくても総会は成立し、151個以上の賛成で可決できる。
ところが、この状態で定款変更を決議しようとすると詰まる。特別決議の定足数は定款で下げても3分の1が下限なので、この例では334個の出席が必要になる。300個では足りない。普通決議は通るのに特別決議だけ通らない、という状況が起きる。
定款変更や事業譲渡のように特別決議が必要な議案を出すなら、招集の段階で出席の見込みを確認しておく。議案書に決議要件を書いておくのは、この確認を忘れないための仕掛けでもある。
議案書から議事録へ。移すときに落としやすい項目
総会が終わったら議事録を作る。ここで議案書をそのまま清書しても、議事録としては項目が足りない。会社法施行規則が求めている内容は次のとおりだ。
・株主総会が開催された日時および場所。その場所にいない取締役や株主が出席した場合は、その出席の方法も含む ・株主総会の議事の経過の要領およびその結果 ・一定の規定により総会で述べられた意見または発言があるときは、その概要 ・株主総会に出席した取締役、執行役、会計参与、監査役または会計監査人の氏名または名称 ・株主総会の議長が存するときは、議長の氏名 ・議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
議案書から移せるのは、日時と場所、そして議案の中身だけだ。残りは総会が終わってからでないと書けない。特に落としやすいのが最後の2つ、議長の氏名と議事録作成者の氏名になる。どちらも施行規則が名指しで求めている項目なので、抜けていると添付書類として使えない。
オンライン開催や電話会議を併用した場合の「出席の方法」も忘れやすい。条文は、その場所に存しない取締役や株主が出席した場合における当該出席の方法を含むと書いている。「取締役〇〇はウェブ会議システムにより出席した」の1行を足すだけで足りる。
もう1つ、議事録には開催しない形の決議もある。取締役または株主が提案をした場合に、議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する旨の決議があったものとみなされる。いわゆる書面決議だ。株主が1人か2人の会社では、総会を開かずにこの形で済ませていることが多い。
ただし書面決議のときは議事録の記載事項が別に定められている。決議があったものとみなされた事項の内容、その提案をした者の氏名または名称、決議があったものとみなされた日、そして議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名。この4点だけになる。議長も定足数も出てこない。開催していないのだから当然だ。ここを普通の議事録の形で書いてしまうと、実態と書面が食い違う。
書面決議の同意書についても、会社法は決議があったものとみなされた日から10年間、その書面または電磁的記録を本店に備え置かなければならないとしている。議事録と同じ期間だ。
登記に使うときは、議事録だけでは足りない
決めた内容が登記事項に関わる場合、議事録は法務局に出す添付書類になる。ここから先は書類が1枚増える。
株主リストだ。法務省は、登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合と、株主全員の同意を要する場合の2つで、添付書面として株主リストが必要になると案内している。
登記事項につき,株主総会決議を省略する場合(会社法319条1項)にも,株主リストの添付が必要です。 出典: moj.go.jp
書面決議で済ませた場合も株主リストは要る、という点は見落としやすい。
株主リストに載せる株主の範囲も決まっている。議決権数の上位10名の株主か、議決権割合が3分の2に達するまでの株主か、いずれか少ない方だ。3分の2に達するまでの株主は、議決権割合の多い方から順に足していく。書く内容は、株主の氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数割合の5点で、これらを代表者が証明する形になる。
自己株式のようにその事項について議決権を行使できない株式を持つ株主は除く。一方で、総会を欠席した株主や議決権を行使しなかった株主は含める。ここは直感と逆なので注意したい。
登記そのものの期限も決まっている。法務局は、株式会社の役員変更登記の場合、登記の事由が発生した時から本店の所在地において2週間以内にしなければならないと案内している。期間内に登記を怠り、その後に申請する場合でも、そのことだけで申請が却下されることはないが、会社の代表者に対して裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があるとしている。
登録免許税も確認しておく。登録免許税法の別表では、取締役や代表取締役に関する事項の変更登記は1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円とされている。定款変更に伴う目的の変更のような、他の項目に当てはまらない登記事項の変更は1件につき3万円だ。収入印紙で納めるときは、印紙に割印をしないで貼る。割印をするとその印紙は使えなくなる。
議事録の原本は会社に残す必要があるので、原本還付を請求するのが通常だ。法務局は、原本をコピーしたものに、申請書に押印した人が「原本に相違ありません。」と記載して記名したものを、必ず原本とともに提出してくださいと案内している。
なお、ここまでの内容は一般的な手続の流れであり、株式の種類や定款の定め、会社の機関設計によって必要書類は変わる。自社のケースで迷ったら、管轄の法務局か司法書士に確認したほうが早い。
作った書類をどこに置くか。備え置き義務の中身
議事録は作って終わりではない。会社法は、株主および債権者は、株式会社の営業時間内はいつでも、議事録が書面で作られているときは当該書面または当該書面の写しの閲覧または謄写を請求できると定めている。電磁的記録で作っている場合は、法務省令で定める方法により表示したものの閲覧または謄写を請求できる。
つまり、請求が来たらすぐ出せる場所に置いておかないといけない。本店で10年というのは、金庫にしまい込んでいいという意味ではない。
電子で作る場合も認められている。施行規則は、株主総会の議事録は書面または電磁的記録をもって作成しなければならないと書いている。PDFでの保存も可能だが、支店への写しの備え置きを省略するには、支店で閲覧謄写の請求に応じられるようにするための措置として法務省令で定めるものをとっている必要がある。支店がない会社であれば、この論点は出てこない。
押印についても触れておく。株主総会議事録そのものには、会社法上の押印義務の定めがない。取締役会の議事録は、出席した取締役および監査役が署名または記名押印しなければならないと明記されているのに対し、株主総会議事録にはその条文がない。
ただし登記に使うときは別の話になる。商業登記規則は、代表取締役の就任による変更登記の申請書について、株主総会の決議で代表取締役を定めた場合は、議長および出席した取締役が議事録に押印した印鑑について市町村長の作成した証明書を添付しなければならないとしている。ただし、その印鑑と変更前の代表取締役で取締役を兼ねる者が登記所に提出している印鑑とが同一であるときは不要だ。
法律上は押印不要でも、登記に使う可能性がある議事録には押印しておいたほうが手戻りが少ない。この判断は、その総会で何を決めたかによる。
年に一度の流れを日付で並べる
議案書は単独で存在する書類ではなく、決算から登記までの流れの途中に置かれている。3月決算で取締役会を置いていない会社を例に、日付で並べてみる。
4月から5月。決算を締めて計算書類を作る。貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、そして事業報告だ。ここが遅れると後ろの日程がすべてずれる。
6月上旬。議案書を作る。計算書類の承認、剰余金の処分、役員の任期が満了するならその選任。議案の表題と本文をここで確定させる。
6月中旬。招集通知を出す。公開会社でない会社で書面による議決権行使を認めないなら、総会の日の1週間前までに発すれば足りる。株主全員の同意があれば招集の手続そのものを省略できる。議案書は招集通知と一緒に送るか、当日配る。
6月26日。総会を開く。決議の結果と賛成した議決権の数を、その場で記録する。
6月26日から27日。議事録を作る。議長の氏名と議事録を作った取締役の氏名を忘れずに書く。役員を選任したなら就任承諾書もこの日のうちにもらっておく。
6月末から7月上旬。登記事項に関わる決議があったなら、株主リストを作って登記を申請する。期限は決議の日から2週間なので、6月26日に決議したなら7月10日までだ。
7月から8月。決算公告を出す。官報を使うなら申し込みから掲載までに4週間ほどかかるので、総会の直後に取次店へ連絡する。貸借対照表をウェブに置く方法を選んでいるなら、この時期にページを更新する。
5月末。法人税の申告の期限がここに来る。事業年度終了の日の翌日から2か月以内が原則で、延長の申請をしている会社は1か月延びる。総会の日程を6月下旬に置く会社が多いのは、申告と総会の作業を離すためでもある。
この並びを一度作って社内に置いておくと、翌年は日付を差し替えるだけで済む。年に一度の作業は、手順を覚えるのではなく紙に残すほうが早い。
取締役会がある会社とない会社で、議案書の重みが変わる
同じ「議案書」でも、会社の作りによって果たす役割が違う。ここを知らないと、他社のひな形をそのまま使ったときに噛み合わない。
取締役会を置いている会社では、株主総会の招集を決めるのは取締役会だ。会社法は、取締役会設置会社においては、株主が総会を招集する場合を除き、日時と場所、目的である事項などの決定は取締役会の決議によらなければならないとしている。つまり議案は、まず取締役会で固まる。株主総会に出す議案書は、取締役会で決めた内容を株主向けに整えたものという位置づけになる。
さらに取締役会設置会社には、決議できる範囲の制限がある。株主総会は、招集の際に目的である事項として定めた事項以外については決議をすることができない。当日になって株主が別の議題を持ち出しても、その場では決められない。だからこそ議案書と招集通知の記載が実質的な上限になる。
取締役会を置いていない会社では、この制限がない。株主総会は会社に関する一切の事項について決議できるので、議案書に書かれていない事項を当日に決めることも理屈のうえでは可能だ。株主が数人の会社なら、その場で話がまとまることも珍しくない。
ただし「決められる」ことと「登記に使える」ことは別問題になる。招集通知に書いていない事項をその場で決議した場合、手続の適法性を後から問われる余地が残る。登記の添付書類として出す予定があるなら、取締役会の有無にかかわらず、議案は事前に議案書の形で固めておいたほうがいい。
招集通知を出す期限も、会社の作りで変わる。原則は総会の日の2週間前までだが、書面や電磁的方法による議決権行使を認めない場合で、かつ公開会社でない会社であれば1週間前まででよい。公開会社でない会社が取締役会設置会社以外であるときは、定款で1週間を下回る期間を定めることもできる。さらに、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく総会を開催できる。
株主が全員身内という会社では、この全員同意による招集手続の省略を使っている例が多い。手続を省略した場合でも、議事録は必要だ。省略したのは招集の手続であって、総会そのものではない。
合同会社にはこの書類がない
合同会社で同じものを探して見つからず、株式会社のひな形を使ってしまう例がある。ここは作りが違う。
合同会社に株主はいない。出資した人は社員と呼ばれ、株主総会という機関も置かれていない。だから議案書も議事録も出てこない。
では何を作るのか。会社法は、持分会社は定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって定款の変更をすることができると定めている。株式会社の3分の2ではなく、社員全員の同意だ。書類としては、決めた内容と同意した社員の氏名を並べた同意書を作る。日付を入れて全員が記名押印すれば足りる。
登記に出す書類も変わる。株式会社では株主リストが必要になるが、この規定は合同会社に準用されていない。商業登記規則が、合同会社について準用する条項の範囲を条文で限定しているためだ。株主がいないのだから株主リストも出てこない、という理屈で覚えておけばよい。
社員が1人の合同会社なら、同意書は数行で終わる。それでも書面に残す意味は株式会社と同じだ。決めた事実を証明できるものがなければ、登記でも金融機関の手続でも通らない。
20年この市場を見てきた立場からの観察
フリーランスと在宅ワークの市場を長く運営してきた立場から言うと、この手の社内書類でつまずく会社には共通点がある。書類そのものが難しいのではなく、「誰が作るか」が決まっていない。
法人成りしたばかりの会社だと、代表者が営業も経理も総務も全部やっている。議事録は年に1回か2回しか出番がないので、そのたびに1から調べ直すことになる。1本作るのに半日かかり、しかも翌年には手順を忘れている。これが毎年繰り返される。
一方で長く続いている会社を見ると、書類の作り方を覚えるのではなく、書式を1度きちんと作って使い回している。議案書のテンプレートを自社用に整えておけば、翌年は日付と数字を差し替えるだけで済む。最初の1回に時間をかけて、2回目以降をゼロにする考え方だ。
もう1つ、外部に出す判断も現実的になっている。書類作成や事務代行を業務委託で受ける人は増えており、月に数時間だけ頼む形も普通になった。ここで効いてくるのが取引の構造だ。仲介手数料が乗らない直接の取引なら、同じ予算で依頼側はより多くを頼めるし、受ける側の手取りは厚くなる。金額が安いという話ではなく、支払った金額のうち実際に働いた人に届く割合が変わるという話で、手数料0%の取引はこの点で続きやすい。継続して同じ人に頼めるようになると、議事録のような年1回の書類ほど品質が安定する。
書類まわりを誰に頼むか、相場から逆算する
自分で作るか外に出すかを決めるときは、作業時間を金額に換算してみるといい。判断材料として、隣接する職種の単価相場が参考になる。
文書の作成を担う職種の水準は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で職種単位の実勢を確認できる。議事録や社内規程の整備は、この領域の人が請ける仕事と重なる部分が大きい。自分の時間単価がこれを上回るなら、外に出したほうが会社としての採算は合う。
書式そのものを扱う力を測りたいなら、ビジネス文書検定が分かりやすい指標になる。文書の構成や敬語、社内文書の形式を体系的に扱う検定で、事務代行を頼む相手の判断材料として見る会社もある。資格の有無が仕事の質を保証するわけではないが、何を学んだ人かは分かる。
社内の手続を仕組みに落とし込みたい場合は、システム側の支援を受ける手もある。決裁や書類の回付を業務フローとして組み直す領域は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事で扱う範囲に近い。年に数回しか動かない手続ほど属人化しやすいので、書式と手順をセットで外部の目に整理してもらう価値はある。
書類の電子化やワークフローの内製に踏み込むなら、アプリケーション開発のお仕事の領域になる。議事録の作成そのものを自動化する規模の会社は限られるが、承認の記録を残す仕組みは中小企業でも導入例が増えている。
報酬の取り決めを文書で固めておく重要性については、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに発注書と契約書の必須項目が整理されている。社内の議事録を整える会社は、外注先との書面も同時に整えておいたほうが効率がいい。
勘違いされやすい5つ
この領域は、思い込みで作業が増える場面が多い。よく出てくる5つを並べる。
議案書を作らないと総会が無効になる、という勘違い。議案書に法律上の作成義務はない。義務があるのは議事録で、こちらは備え置きを怠ると過料の対象になる。
議事録には押印が必要、という勘違い。株主総会の議事録について、会社法は押印を義務づけていない。取締役会の議事録には署名または記名押印の定めがあるが、株主総会にはその条文がない。ただし代表取締役を株主総会で定めて登記に使う場合は、議長と出席した取締役が押した印鑑の証明書を求められる場面がある。
欠席した株主は株主リストに載せない、という勘違い。載せる。株主リストの対象は議決権を行使できる株主で、実際に行使したかどうかは関係ない。逆に、自己株式のようにその事項について議決権を行使できない株式を持つ株主は除く。
書面決議なら株主リストは要らない、という勘違い。要る。法務省は、決議を省略する場合にも株主リストの添付が必要だと明記している。総会を開かなかったことと、添付書類が減ることは別の話だ。
特別決議は株主の3分の2の賛成だ、という勘違い。3分の2は出席した株主の議決権について計算する。全株主の3分の2ではない。そして出席そのものについて別に定足数があるので、賛成の数だけを見ていると足元をすくわれる。
議案書作りで実際に詰まる場所
最後に、議案書を作る段階で実務的に詰まりやすい箇所を挙げておく。
議案の数え方。1つの議案に複数の内容を詰め込むと、株主が一部だけ賛成したいときに対応できない。定款の変更が2か所に及ぶなら、関連する変更は1議案にまとめてよいが、性質の違う変更は分けたほうがいい。役員選任も、取締役と監査役は別議案にするのが通常だ。
議案の順番。計算書類の承認、剰余金の処分、役員選任、定款変更の順で並べるのが一般的な並びになる。定款変更で役員の員数を変える場合は、定款変更を先に決議しないと役員選任の前提が崩れる。順番に依存関係があるときは、議案書の段階で並べ替えておく。
表題の書き方。「取締役選任の件」ではなく「取締役2名選任の件」と人数まで書く。登記の添付書類として使うときに、何名を選んだのかが議事録から読み取れる必要があるためだ。
提案理由を書きすぎない。詳しく書くほど親切に見えるが、議事録に移すときに「議事の経過の要領」として引き写す量が増える。要領とある以上、一言一句の再現は求められていない。議案書の提案理由は3行以内を目安にすると、あとの作業が軽くなる。
日付を先に埋めない。議案書のテンプレートに前年の日付が残ったまま配ってしまう事故は、想像より多い。日付と期の数字は、作成の最後にまとめて確認する箇所として分けておく。
議案書は義務ではない。それでも作る会社が多いのは、総会の当日と総会後の作業が明らかに軽くなるからだ。年に1回しか使わない書類だからこそ、1度きちんとした形を作って自社の型にしておく価値がある。
よくある質問
Q. 株主総会の議案書は法律上作らなければいけない書類ですか?
議案書そのものに法律上の作成義務はありません。義務があるのは議事録のほうで、こちらは会社法で作成が求められ、本店に10年間の備え置きも必要です。ただし議案書を先に作っておくと、議事録に書く議案の内容や決議要件をそのまま移せるため、総会後の作業が大きく減ります。
Q. 株主が1人だけの会社でも議事録は必要ですか?
必要です。株主が1人でも株主総会の決議は成立し、議事録の作成義務はなくなりません。総会を開かずに書面で全員の同意を取る方法もありますが、その場合も決議があったものとみなされた事項の内容、提案者の氏名、みなされた日、議事録作成者の氏名を記載した議事録を作り、同意書を10年間本店に備え置く必要があります。
Q. 議事録に押印は必要ですか?
株主総会議事録そのものには、会社法上の押印義務の定めがありません。ただし代表取締役の就任による変更登記に使う場合は、商業登記規則により議長と出席取締役が議事録に押印した印鑑の市区町村長作成の証明書が必要になる場合があります。登記に使う可能性があるなら押印しておくほうが手戻りが少なくなります。
Q. 議案書のひな形はどこで手に入りますか?
議案書には法定の様式がないため、公的機関が配布している公式ひな形はありません。一方で登記に使う申請書と添付書面の記載例は、法務局の商業・法人登記の申請書様式のページで公開されています。議事録の書き方はそちらの記載例に合わせ、議案書は自社の議案に応じて組み立てるのが実務的です。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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