代表取締役を交代するときの登記|出す書類と印鑑の届け直し


この記事のポイント
- ✓代表取締役の変更登記は
- ✓選び方で添付書類が変わり
- ✓印鑑の届け直しを忘れると次の手続きが止まります
社長が交代することになった。創業者が退いて息子が継ぐ、共同経営の相手が抜ける、外から招いた人に任せる。どの形でも、法務局への登記を出さないと交代は完了しません。
結論を先に書きます。代表取締役の変更登記でつまずくのは、申請書の書き方ではありません。つまずくのは3か所です。新しい代表取締役をどの機関で選ぶのか、就任承諾書にどの印鑑を押して何の証明書を添えるのか、そして法務局に届け出ている印鑑を誰の名前で出し直すのか。この3つを先に決めておけば、あとは様式に書き写す作業です。
期限は交代の日から2週間。過ぎても申請自体は受け付けてもらえますが、代表者個人に過料が科される可能性があります。ここでは法務局が公開している記載例に沿って、書類の中身と印鑑の扱いを順に見ていきます。
代表取締役の交代は、登記を出して初めて外から見える
会社の代表者が誰かは、登記事項証明書に載っています。銀行も取引先も役所も、この証明書を見て相手が誰かを確認します。だから社内で交代を決めただけでは、外から見れば何も変わっていません。契約書に新しい代表者の名前で署名しても、登記が古いままだと相手方の与信審査で止まります。
登記には期限があります。法務局の案内はこう書いています。
会社・法人の登記においては、登記すべき期間が法令で定められています。例えば、株式会社の役員変更登記の場合、登記の事由が発生した時から、本店の所在地において、2週間以内にしなければならないとされています(会社法第911条)。 登記すべき期間内に登記を怠り、その後に登記申請をする場合であっても、そのことだけをもって申請が却下されることはありませんが、会社・法人の代表者に対して、裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります。 出典: houmukyoku.moj.go.jp
過料は会社ではなく代表者個人に科されます。しかも通知は裁判所から直接届くので、会社の経費で処理して終わりという話にもなりません。
放置がもっと深刻になる場合もあります。同じ案内には、最後の登記から12年を経過している株式会社はみなし解散の登記の対象になると書かれています。役員の任期は最長でも10年なので、12年間1件も登記がないということは、少なくとも1回は役員変更の登記を飛ばしている計算になります。法務局は定期的にこの整理作業を行っていて、対象になると職権で解散の登記がされます。
正直なところ、2週間という期限は実務では短すぎます。株主総会や取締役会を開き、議事録を作り、本人から印鑑証明書を取り寄せる。ここまでで1週間は溶けます。だから交代が見えた時点で、書類の準備を並行して始めるのが現実的な進め方です。
まず決めるのは、新しい代表取締役をどの機関で選ぶか
添付書類が変わる最初の分岐がここです。会社の形によって、代表取締役を選ぶ場所が違います。
取締役会がある会社
取締役会設置会社では、取締役会の決議で代表取締役を選びます。このとき作るのは取締役会議事録です。新しい代表取締役が現在の取締役の中から選ばれるなら、株主総会は開かなくても手続きが成立します。
取締役会がない会社
取締役会を設置していない会社は、定款の定め方によって3通りに分かれます。
・取締役全員がそれぞれ会社を代表する形にしている場合 ・株主総会で代表取締役を選ぶと定めている場合 ・取締役の互選で代表取締役を選ぶと定めている場合
自分の会社がどれに当たるかは、定款を開いて確かめてください。ここを勘違いすると、開くべき会議が違い、作る議事録も違い、法務局で補正になります。法務局も記載例を3種類に分けて公開していて、取締役会設置会社の場合、取締役全員が各自会社を代表する場合または株主総会で代表取締役を選定する場合、取締役の互選により代表取締役を選定する場合、のそれぞれに様式が用意されています。
新しい代表が取締役でないときは、順番が1つ増える
外部から人を招いて社長にする場合、その人はまだ取締役ではありません。代表取締役は取締役の中から選ぶので、先に株主総会で取締役として選任する必要があります。順番は、株主総会で取締役に選任、次に取締役会または互選で代表取締役に選定、という2段構えです。
この場合、議事録が2通になります。臨時株主総会議事録と取締役会議事録です。そして株主総会の決議があるので、次に説明する株主リストも必要になります。
交代の型は3つあり、それぞれ必要な書類が変わる
代表取締役が変わるといっても、実務では3つの型があります。
1つ目は、前の代表取締役が取締役としては残り、代表の肩書だけを別の取締役に渡す型です。この場合、登記するのは代表取締役の変更だけで、取締役の顔ぶれは変わりません。
2つ目は、前の代表取締役が辞任して会社を離れ、新しい人が就任する型です。いちばん多い形で、辞任届と就任承諾書の両方が必要になります。法務局の記載例には、役員の辞任または死亡と就任の登記は合わせて1件として申請できると書かれています。2回に分けて申請する必要はありません。
3つ目は、代表取締役が亡くなった場合です。辞任届の代わりに死亡届、または法定相続情報一覧図の写しを添付します。この型は時間的な余裕がないうえに、残った取締役だけで取締役会が成立するかという別の問題も出てきます。取締役が2人だけの会社で1人が亡くなると、取締役会の定足数を満たせなくなるので、先に取締役を補充する必要が出ます。
添付書類の一覧と、それぞれの注意点
法務局の記載例に沿って、必要になる書類を並べます。
| 書類 | 必要になる場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 辞任届 | 前の代表取締役が辞任する場合 | 押す印鑑に決まりがある(後述) |
| 死亡届または法定相続情報一覧図の写し | 死亡による交代の場合 | 相続人からの届出になる |
| 株主総会議事録 | 株主総会で取締役や代表取締役を選ぶ場合 | 株主リストとセットになる |
| 取締役会議事録 | 取締役会で代表取締役を選定する場合 | 出席者の押印に決まりがある |
| 株主リスト | 株主総会の決議を要する場合 | 商業登記規則61条2項・3項 |
| 就任承諾書 | 新しく就任する人がいる場合 | 押す印鑑に決まりがある |
| 印鑑証明書 | 就任承諾書などに添える | 市区町村長が作成したもの |
| 本人確認証明書 | 印鑑証明書を添えない場合 | 住民票記載事項証明書や運転免許証の写し |
| 委任状 | 司法書士などに依頼する場合 | 代理人が申請する場合に必要 |
| 印鑑届書 | 新しい代表取締役が印鑑を提出する場合 | 市区町村の印鑑証明書を添付 |
就任承諾書に押す印鑑を間違えない
ここが最も補正になりやすい箇所です。法務局の記載例には、こう書かれています。
※取締役会を設置していない会社において新たに就任する取締役については、就任承諾書に、市町村に登録した印鑑を押し、当該印鑑について市町村長が作成した印鑑証明書を添付する必要があります。取締役会設置会社において新たに就任する代表取締役についても、同様です。 出典: houmukyoku.moj.go.jp
つまり、新しく代表取締役になる人は、認印ではなく実印を押し、市区町村が発行した印鑑証明書を添えます。会社の実印ではなく、本人個人の実印です。ここを認印で済ませると受け付けてもらえません。
実印を登録していない人が代表取締役になるケースは珍しくありません。その場合、まず市区町村役場で印鑑登録をするところから始まります。登録には本人確認書類が要り、即日発行できる自治体とできない自治体があります。2週間の期限を考えると、ここは早めに確認しておくべき工程です。
辞任届に押す印鑑にも決まりがある
辞める側にも決まりがあります。同じ記載例の注記はこうです。
※また、登記所に印鑑を届け出ている取締役が辞任する場合には、辞任届に、登記所届出印又は市町村に登録した印鑑を押す必要があります。市町村に登録した印鑑を押した場合には、当該印鑑について市町村長が作成した印鑑証明書を添付する必要があります(登記所届出印を押した場合には、印鑑証明書は不要です。)。
法務局に届け出ている会社の実印を辞任届に押すなら、印鑑証明書は要りません。個人の実印を押すなら印鑑証明書が要ります。辞任する本人が会社の実印を持っているうちに押してもらうほうが、書類が1枚減ります。関係がこじれてからでは実印を借りられなくなるので、交代が決まった段階で先に押印をもらっておくのが実務の知恵です。
本人確認証明書は、印鑑証明書を出さないときの代わり
新しく取締役になる人について、市区町村の印鑑証明書を添えない場合は、本人確認証明書を添付します。法務省が公開している添付書面としての本人確認証明書の説明では、住民票記載事項証明書や運転免許証のコピー(裏面もコピーし、本人が原本と相違ない旨を記載して記名したもの)などが該当します。対象になるのは設立の登記と、取締役、監査役、執行役の就任による変更登記で、再任は除かれます。
整理すると、新しく代表取締役になる人は印鑑証明書を出すので本人確認証明書は不要、代表ではない取締役として新しく入る人は印鑑証明書か本人確認証明書のどちらかを出す、という形になります。
株主リストは平成28年から必要になった書類
株主リストは、株主の氏名または名称、住所、議決権数などを証明する書面です。法務省の案内によれば、平成28年10月1日以降の株式会社の登記申請では、登記すべき事項について株主総会の決議を要する場合と、株主全員の同意を要する場合に添付が必要です。株主総会の決議を省略する場合(会社法319条1項)にも必要とされています。
取締役会の決議だけで代表取締役を選ぶなら、株主総会の決議はないので株主リストは要りません。逆に、株主総会で取締役を選任してから代表取締役を選ぶ場合には必要です。自分の会社がどちらかで判断してください。作成するのは会社で、代表者が証明する形式になります。様式と記載例は法務省の「株主リスト」が登記の添付書面となりましたのページから取得できます。
議事録には、後から読んで再現できるだけの事実を書く
議事録は形式が決まっているわけではありませんが、登記官が読んで「この決議は有効に成立している」と判断できる内容が要ります。裏返せば、判断に必要な事実が抜けていると補正になります。
取締役会議事録なら、開催の日時と場所、出席した取締役と監査役、議長が誰か、議題、決議の内容、可決の状況を書きます。代表取締役の選定であれば、誰を選んだのか、いつから就任するのかを明確にします。就任の日を書き落とすと、登記すべき事項の「原因年月日」が決まらず、申請が止まります。
株主総会議事録なら、これに加えて議決権の数の扱いが問題になります。出席した株主の議決権の数、決議に必要な数を満たしていること。定足数を満たしているかどうかが読み取れる書き方にしてください。
もう1つ、議事録に押す印鑑にも決まりがあります。取締役会設置会社で代表取締役を選定した取締役会議事録には、出席した取締役と監査役が個人の実印を押し、それぞれの印鑑証明書を添えるのが原則です。ただし、変更前の代表取締役が法務局に届け出ている会社の印鑑を議事録に押している場合は、この原則が緩和されます。どちらの扱いになるかで集めるべき印鑑証明書の枚数が大きく変わるので、議事録を作る前に管轄の法務局へ確認しておくと無駄がありません。
議事録の原本は会社で保管します。法務局には原本還付の手続きで返してもらえるので、コピーに「原本に相違ありません。」と記載して記名したものを原本と一緒に提出してください。会社法上、取締役会議事録は本店に10年間備え置く義務があります。提出して戻ってこなかった、では済みません。
株式会社以外は扱いが変わる
ここまでは株式会社の話です。会社の種類によって、代表者の変え方も登記の中身も変わります。
特例有限会社は、旧商法時代の有限会社がそのまま残っている形です。取締役の任期がなく、定期的な重任登記が不要な代わりに、代表取締役の定め方が株式会社とは違います。法務局も特例有限会社の役員変更については別の記載例を用意しているので、株式会社の様式をそのまま流用しないでください。
合同会社は、そもそも代表取締役という役職がありません。業務を執行する社員の中から代表社員を定める形になります。使う書類も「業務執行社員の互選書」や「代表社員の就任承諾書」といった名称になり、株式会社とは並びが違います。合同会社の代表社員の変更にかかる登録免許税も、役員に関する事項の変更として1件あたりの定額で計算します。
NPO法人、一般社団法人、一般財団法人も、それぞれ根拠法が違うので手続きが別です。法務局の申請書様式のページは、これらの法人種別ごとに記載例を分けて公開しています。自分の法人の種類の欄を開いてから作業を始めてください。
補正になりやすいところを先につぶす
実務で連絡が来る理由は、だいたい決まっています。
1つ目は、就任承諾書に押した印鑑と印鑑証明書が合っていないケースです。実印だと思って押した印鑑が、登録していないものだった。本人が自分の印鑑登録の状況を把握していないことは珍しくありません。印鑑証明書を先に取ってもらい、そこに印影がある印鑑で押してもらうのが確実です。
2つ目は、印鑑証明書の期限切れです。印鑑届書に添える印鑑証明書は作成後3か月以内のものが必要です。交代の準備を早く始めた会社ほど、申請の段階で期限が来ていることがあります。
3つ目は、登記の原因の日付が将来になっているケースです。法務局は、登記の事由が発生する前に申請することはできないと明示しています。4月1日付で就任すると決めても、3月中に申請はできません。
4つ目は、住所の書き方です。議事録や就任承諾書に書いた住所と、印鑑証明書に記載された住所が1文字でも違うと止まります。「1丁目2番3号」と「一丁目2-3」のような表記のゆれも対象です。印鑑証明書の記載をそのまま書き写すのがいちばん安全です。
5つ目は、申請書の契印と押印の漏れです。申請書が2枚以上になるときはつづり目に契印が要り、その契印は申請書に押した印鑑と同一でなければなりません。自分で申請するなら、提出前にこの5点を並べて確認してください。
印鑑の届け直しが、いちばん忘れられる
代表取締役が変わると、法務局に届け出ている会社の印鑑も出し直すのが原則です。印鑑は「誰が届け出たか」で管理されているので、届出人が代わればそのままにはできません。
届け出は印鑑届書という様式で行います。法務局の案内には、印鑑届書には市区町村長が作成した3か月以内の印鑑証明書等の書類を添付する必要があると書かれています。ここでも新しい代表取締役個人の印鑑証明書が要ります。就任承諾書用と印鑑届書用で、同じ印鑑証明書を使い回せる場合もありますが、通数が足りるかは事前に数えておいてください。
なお、印鑑の提出そのものは令和3年2月15日から任意になっています。法務省の案内はこうです。
令和3年2月15日から、登記の申請をオンラインで行う場合は、印鑑の提出が任意になりますが、代表者の印鑑証明書が必要などの理由で印鑑を提出される場合には、オンラインによる登記の申請と同時に行う場合に限り、オンラインにより行うことができるようになりました。 出典: moj.go.jp
任意になったとはいえ、実務で印鑑を出さない選択をする会社はまだ少数です。会社の印鑑証明書は、不動産の契約、金融機関の手続き、許認可の申請などで求められる場面が残っているからです。印鑑を提出していないと会社の印鑑証明書は発行されません。取引先から求められる可能性があるなら、提出しておくほうが安全です。
もう1つ、登記中の扱いにも注意が要ります。法務局の案内によれば、登記申請を行ってから手続が完了するまでの間、原則としてその会社の登記事項証明書と印鑑証明書は発行されません。つまり、申請してから完了するまでの数日から1週間ほど、会社の証明書が取れない空白期間ができます。融資の実行日や契約の締結日が決まっているなら、その前後にこの空白が来ないよう、申請日を調整してください。
費用は登録免許税が中心
かかるお金を整理します。登録免許税は国税庁が公開している登録免許税の税額表で次のように定められています。
| 登記の種類 | 課税標準 | 税額 |
|---|---|---|
| 取締役または代表取締役もしくは監査役等に関する事項の変更の登記 | 申請件数 | 1件につき3万円(資本金の額が1億円以下の会社については1万円) |
| 登記事項の変更、消滅または廃止の登記 | 申請件数 | 1件につき3万円 |
| 登記の更正または抹消登記 | 申請件数 | 1件につき2万円 |
中小企業のほとんどは資本金1億円以下なので、実際には1万円で済みます。法務局の記載例にも、資本金の額が1億円を超える場合は3万円、1億円以下の場合は1万円になると明記されています。収入印紙または領収証書で納めます。
これに加わるのは証明書の実費です。新しい代表取締役の印鑑証明書、住民票記載事項証明書、登記完了後に取る登記事項証明書。いずれも1通あたり数百円程度で、合計しても数千円の範囲です。
司法書士に依頼する場合は報酬が乗ります。金額は事務所と案件の複雑さで差が大きいので、複数の事務所から見積もりを取って比べてください。辞任と就任と印鑑の届け直しをまとめて頼むのか、書類の作成だけを頼むのかでも変わります。
自分で申請するときの手順
司法書士に頼まずに進めることもできます。法務局は申請書の様式と記載例を無料で公開しているので、それをそのまま使えば形式で落ちることはほとんどありません。
申請の方法は3つあります。通常の書面申請、QRコード付き書面申請、オンライン申請です。法務局はQRコード付き書面申請を勧めていて、電子証明書を持っていなくてもオンライン申請と同じ利点があると案内しています。申請用総合ソフトで申請書を作り、印刷して提出する形です。処理状況をパソコンで確認できるのも書面申請にはない利点です。
書面で出すときに落としやすい点が、法務局の注意事項として並んでいます。
・申請書に本店の所在地、商号、代表者の住所、代表者の氏名を書いたか ・登記の原因が将来の日付になっていないか(事由が起きる前には申請できない) ・日中つながる電話番号を書いたか(補正の連絡先になる) ・収入印紙を貼ったか。印紙を汚したり割印をしたりしていないか ・申請書または委任状に、登記所に提出した印鑑を押したか ・申請書が2枚以上になるとき、つづり目に契印をしたか ・原本を返してほしい書類について、原本と原本証明をしたコピーの両方を出したか ・訂正を修正液や塗りつぶしで行っていないか
原本の還付は特に覚えておく価値があります。議事録や許可書のように会社で保管しておくべき書類は、コピーに「原本に相違ありません。」と記載して記名したものを原本と一緒に出せば、原本を返してもらえます。これを知らずに原本を出し切ってしまい、後から取り直すことになる会社がよくあります。
申請後に不備があれば、法務局から連絡が来ます。これが補正です。連絡がないまま登記完了予定日を過ぎれば、不備なく完了したということになります。完了予定日は各法務局のサイトで公開されています。
登記が終わったあとに残る届け出
法務局の登記が済めば終わり、ではありません。代表者が変わったことを、ほかの役所と取引先にも伝える必要があります。
税務署には異動届出書を出します。都道府県税事務所と市町村にも同じように異動の届出が要ります。社会保険を使っているなら年金事務所へ、労働保険なら労働基準監督署とハローワークへ、それぞれ事業主の変更を届け出ます。
許認可を持っている業種は、ここが最も重い作業になります。建設業、宅地建物取引業、古物商、人材派遣、飲食業。許可の種類ごとに変更届の様式と期限が違い、期限が登記より短いものもあります。自分の業種の所管窓口に、登記が終わる前に問い合わせておくのが安全です。
金融機関にも届けます。法人口座の代表者情報を変更しないと、新しい代表者の名前では出金や手続きができません。必要な書類は銀行ごとに違いますが、登記事項証明書と新しい代表者の印鑑証明書はほぼ共通で求められます。
取引先への通知も忘れがちです。継続的な取引がある相手には、代表者変更の案内を出しておきます。請求書や契約書の名義が変わるので、先に伝えておかないと経理で止まることがあります。継続契約の条項に代表者変更の通知義務が入っていることもあるので、主要な契約書は一度見直してください。契約書の条項の押さえ方はフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが参考になります。発注側の会社にとっても、確認すべき項目は共通です。
登記の先にある、会社の形の話
ここからは、在宅ワークと業務委託の市場を20年見てきた運営者の視点で、代表者交代の周辺にある話に触れます。
運営者として見てきた限りでは、代表取締役の交代が本当に難しいのは登記ではなく、その後の取引の引き継ぎです。会社と会社の契約に見えていても、実際には前の代表者個人の信用で続いていた取引が必ず混ざっています。代表が変わった途端に、条件の見直しや取引の縮小を言い出す相手が出てきます。
長く続いている会社ほど、この属人性を早い段階で薄めています。担当者を複数にする、業務の手順を文書にする、外部の専門家との関係を会社名義で作り直す。代表者が誰であっても仕事が回る形にしておくと、交代のときに揺れません。
もう1つ、交代の前後で外部への発注を見直す会社が多いのも共通しています。社内の体制が変わるタイミングは、どの仕事を内製し、どれを外に出すかを引き直す機会だからです。ここで見落とされがちなのが、間に立つ会社が何割か抜く仕組みを通しているかどうかです。中間マージンが乗らない直接取引なら、発注する側は同じ予算でより多く頼め、受ける側は手数料0%で手取りが厚くなります。同じ相手と長く続けている会社ほど、この構造を理解して取引の形を選んでいます。
外部に頼むときの相場を知っておくと、内製と外注を同じ物差しで比べられます。システムや開発の仕事ならソフトウェア作成者の年収・単価相場に全国平均と都道府県別の水準が並んでいます。社内文書や広報の仕事が中心なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場のほうが近い数字です。
体制の組み替えで外部の力を借りるなら、予算が付きやすい領域から見ると早いです。社内の業務を生成AIで組み直すならAIコンサル・業務活用支援のお仕事が扱う範囲が参考になりますし、技術と事業の両方に手が届く人を探すならAI・マーケティング・セキュリティのお仕事が近い領域です。基幹システムの作り替えならアプリケーション開発のお仕事が直接の受け皿になります。
交代に伴って社内の書類が一気に増えるのも実情です。議事録、通知文、契約書の差し替え。型を身につけておきたいならビジネス文書検定が実務に直結しますし、システムまわりの担当者の基礎を客観的に確かめたいならCCNA(シスコ技術者認定)のような資格が判断材料になります。会社の数字まわりを外部の目で整理したいなら会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】に、どういう人が副業で関わっているかの手がかりがあります。代表者交代の前後で未収金が残っているなら、回収の手順を確かめておくと動きやすくなります。未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】に、どの段階で誰に頼むかの目安がまとまっています。
最後に1つ。この記事の内容は公開時点の公式の記載に基づいています。会社の機関設計や定款の定めによって必要な書類は変わりますし、登記が絡む個別の判断は事情で結論が変わります。実際に申請する前に、管轄の法務局の相談窓口か司法書士に確認してください。法務局は登記相談を無料で受け付けています。
よくある質問
Q. 代表取締役の変更登記はいつまでに出せばよいですか?
法務局の案内では、登記の事由が発生した時から本店の所在地において2週間以内とされています。期限を過ぎても申請自体は受け付けてもらえますが、代表者個人が裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります。印鑑登録や印鑑証明書の取得に時間がかかるので、交代が決まった時点で書類の準備を始めるのが現実的です。
Q. 費用はいくらかかりますか?
登録免許税は、資本金の額が1億円を超える会社で1件3万円、1億円以下の会社で1件1万円です。中小企業のほとんどは1万円です。これに印鑑証明書や登記事項証明書の交付手数料が実費として加わります。司法書士に依頼する場合の報酬は事務所ごとに差が大きいので、複数から見積もりを取って比べてください。
Q. 就任承諾書には会社の実印を押せばよいですか?
違います。新しく就任する代表取締役は、本人個人が市区町村に登録した実印を押し、市区町村長が作成した印鑑証明書を添付します。会社の実印でも認印でもありません。実印を登録していない人が就任する場合は、先に市区町村役場で印鑑登録をする必要があるので、期限から逆算して早めに動いてください。
Q. 法務局に届けている印鑑も出し直す必要がありますか?
代表取締役が変わるなら、印鑑届書で出し直すのが原則です。印鑑届書には市区町村長が作成した3か月以内の印鑑証明書等を添付します。令和3年2月15日からオンライン申請では印鑑の提出が任意になりましたが、印鑑を提出していないと会社の印鑑証明書が発行されないため、取引で求められる可能性があるなら提出しておくほうが安全です。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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