取締役の就任承諾書の書き方|住所と印鑑をどう書くか


この記事のポイント
- ✓取締役就任承諾書で差し戻される原因のほとんどは住所の表記と印鑑です
- ✓住民票どおりに書くとはどういうことか
- ✓印鑑証明書と本人確認証明書の添え方
取締役就任承諾書そのものは、五行ほどで書き終わる短い書類です。それなのに法務局から補正の連絡が来る件数が多いのは、中身ではなく住所の書き方と押した印鑑が原因だからです。住所を一文字省略しただけで差し戻される。認印でよい会社なのに実印を用意して時間を使う。逆に実印が必要なのに認印で出して出し直しになる。どちらも、決まりを一度確認すれば避けられます。この記事では、住所をどう書くか、どの印鑑を押すか、何を添えるかの三点に絞って、法令の条文を確認しながら整理します。
取締役の就任承諾書が要る三つの場面
最初に、どの場面でこの書類を用意するのかを整理します。
一つ目は会社を新しく作るときです。設立の登記では、設立時取締役が就任を承諾したことを証する書面が必要になります。まだ会社が存在していない段階なので、株主総会ではなく発起人が役員を決めます。文面も「貴社株主総会において」ではなく「設立時取締役に選任されましたので」という書き方になります。
二つ目は、既存の会社に新しく取締役が加わるときです。株主総会で選任の決議をし、本人が承諾して就任します。増員でも、前任者の辞任にともなう補充でも同じ扱いです。
三つ目が、任期満了による再任です。取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと会社法に定められています。株式の譲渡に会社の承認が必要な会社であれば、定款で最長10年まで延ばせます。任期が来れば、同じ人が続ける場合でも選任決議をやり直し、承諾書も新たに作ります。
この三つのうち、添付する証明書が軽くなるのが三つ目の再任です。後で詳しく書きますが、印鑑証明書の添付を求める規定が「就任(再任を除く)」という書き方になっているためです。
なお、登記簿に載る情報も役職で違います。取締役は氏名だけ、代表取締役は氏名と住所が登記されます。平取締役の住所は登記簿に出ません。それでも就任承諾書には住所を書きます。理由は次の節で説明する証明書との照合にあります。
設立のときと、就任変更のときで文面が変わる
住所と印鑑の確認に入る前に、本文の書き方を整理しておきます。場面によって書き出しが変わるためです。
既存の会社に取締役が就任する場合の見本です。記号の部分は実際の内容に置き換えてください。
就任承諾書
私は、令和〇年〇月〇日開催の貴社株主総会において
取締役に選任されましたので、その就任を承諾します。
令和〇年〇月〇日
住所 〇〇県〇〇市〇〇一丁目1番1号
氏名 〇〇〇〇 印
株式会社〇〇〇〇 御中
会社を新しく作る場合は、まだ株主総会が存在しないので次のようになります。
就任承諾書
私は、令和〇年〇月〇日、貴社の設立時取締役に選任されましたので、
その就任を承諾します。
取締役と代表取締役を兼ねる場合は、両方への承諾を本文に書きます。
私は、令和〇年〇月〇日開催の貴社株主総会において取締役に選任され、
同日開催の取締役会において代表取締役に選定されましたので、
取締役および代表取締役への就任をいずれも承諾します。
三つ目の形式は特に注意してください。取締役への就任だけを書いた承諾書で代表取締役の登記を申請すると、代表取締役としての承諾が証明できないとして補正になります。別々に二枚作っても問題ありません。
住所欄を省いたひな形が出回っていますが、次の節で説明する証明書との照合があるため、住所は必ず書いてください。氏名だけの承諾書では登記が通らない場面が出ます。
日付の書き方でつまずく場面
住所と印鑑に次いで多いのが、日付の食い違いです。承諾書には二種類の日付が出てくるので、混ざりやすくなっています。
一つは、承諾した日です。書類の末尾に書く日付がこれに当たります。もう一つは、本文に出てくる選任の決議の日です。この二つの前後関係を逆にしてはいけません。選任されていない段階で就任を承諾することはできないので、承諾の日は決議の日と同じ日か、それより後の日になります。総会の場で書いてもらえば、両方が同じ日になって迷いません。
就任の日を将来に置く場合があります。前任者の任期満了日に合わせて交代する、期首から新体制に切り替える、といった事情があるときです。この場合は、本文に「令和〇年〇月〇日から就任することを承諾します」と就任日を明記します。決議の日、承諾の日、就任の日の三つが登場することになるので、それぞれが議事録の記載と合っているかを申請前に突き合わせてください。
登記を申請する期限の起算点になるのは、就任の日です。決議の日ではありません。承諾が後日になった場合や、就任日を将来に置いた場合は、そちらの日から二週間を数えます。逆に言えば、就任日を先に置けば、書類をそろえる時間を作れます。
郵送でやり取りをすると、日付が空欄のまま返ってくることがよくあります。登記所が空欄を埋めることはできないので、返送してもう一度書いてもらうしかありません。郵送する前に、日付を記入する箇所に付箋を貼っておくと防げます。
取締役になれない人と、支援が必要な人
書類の前提として、そもそも取締役になれるかどうかも確認しておく必要があります。
会社法は、取締役になれない者として次を挙げています。法人であること。会社法や一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の規定に違反したり、金融商品取引法や倒産関係の法律の一定の罪を犯したりして刑に処せられ、その執行を終わった日などから2年を経過しない者。そして、これら以外の法令の規定に違反して拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでの者などです。刑の執行猶予中の人は、この最後の類型からは除かれています。
法人が取締役になれないという点は、合同会社との大きな違いです。合同会社は法人が業務執行社員になれますが、株式会社の取締役は自然人に限られます。
かつては成年被後見人や被保佐人も取締役になれないとされていましたが、現在の会社法はこれを欠格事由としていません。そのかわり、就任の仕方に手順が定められています。成年被後見人が取締役に就任するには、その成年後見人が、本人の同意(後見監督人がいる場合は本人と後見監督人の同意)を得たうえで、本人に代わって就任の承諾をしなければなりません。被保佐人が就任するには、保佐人の同意が必要です。
この場合、就任承諾書は成年後見人が本人に代わって作成し、記名押印します。添付する印鑑証明書や本人確認証明書も、本人ではなく成年後見人のものになります。商業登記規則が、成年後見人または保佐人が本人に代わって承諾する場合を明記しているためです。通常の手続とは書類の名義が変わるので、該当する場合は必ず管轄の法務局に確認してから進めてください。
なお、取締役が株主でなければならないという定款の定めは、株式の譲渡に会社の承認が必要な会社を除いて置けません。出資していない人を取締役に迎えること自体は問題ありません。
住所は住民票の表記をそのまま写す
補正でもっとも多い原因がここです。
商業登記規則は、取締役の就任(再任を除く)による変更の登記などの申請書には、就任を承諾したことを証する書面に記載した氏名および住所と同一の氏名および住所が記載されている、市区町村長その他の公務員が職務上作成した証明書を添付しなければならないと定めています。
ここで押さえてほしいのが「同一の氏名及び住所が記載されている」という部分です。似ている、ではなく同一です。証明書の住所表記と就任承諾書の住所表記が一字でも違うと、同一と判断されず補正になります。
具体的に、間違いやすいパターンを挙げます。
| 住民票の表記 | やりがちな誤り | 理由 |
|---|---|---|
| 〇〇市〇〇一丁目1番1号 | 〇〇市〇〇1-1-1 | 丁目と番地をハイフンで省略している |
| 〇〇市〇〇一丁目1番1号 | 〇〇市〇〇1丁目1番1号 | 漢数字が算用数字に変わっている |
| 〇〇マンション101号 | (記載なし) | 建物名と部屋番号を省いている |
| 〇〇郡〇〇町大字〇〇 | 〇〇町〇〇 | 郡と大字を省いている |
| 東京都〇〇区〇〇 | 〇〇区〇〇 | 都道府県から書いていない |
対策は単純です。住民票の写しを先に取得し、それを見ながら就任承諾書の住所欄を書く。記憶や名刺、年賀状の住所から書かないでください。
もう一点、住民票に建物名が記載されていない場合があります。自治体の運用や本人の届出によって、マンション名を省いて登録されていることがあるのです。この場合、就任承諾書にも建物名を書かないほうが照合しやすくなります。実際に届く郵便物の住所と登録上の住所が違うことがあるので、必ず住民票の現物で確認してください。
引っ越したばかりの人も要注意です。転入届を出す前に書類を作ると、新住所で書いたのに証明書が旧住所のまま、という食い違いが起きます。転入届を先に済ませ、新住所の住民票が取れる状態にしてから書類に取りかかるのが安全です。
代表取締役の住所を登記簿に出さないという選択
住所の話を進めるうえで、知っておく価値のある仕組みがあります。代表取締役の住所を登記事項証明書に出さないようにする措置です。自宅を本店にしている会社の代表者からよく質問が出る部分です。
商業登記規則31条の3は、株式会社の設立の登記、管轄の違う場所への本店移転にともなう新所在地での登記、代表取締役や代表執行役の就任または住所の変更による登記などを申請する人が、登記事項証明書と登記事項要約書に住所のうち行政区画以外を記載しない措置を求められると定めています。措置が講じられると、証明書には市区町村までしか出ません。町名や番地は表示されません。
注意したいのは、申出ができるのが上に挙げた登記を申請するときだけだという点です。単独で申し出る仕組みではないので、代表取締役の就任登記を出すこのタイミングが、数年に一度の機会になります。
上場していない会社が申し出る場合、添付する書面は三種類です。一つ目は、本店がその場所に実在することを示す書面で、会社を受取人とする書面が本店宛に配達証明郵便で送られたことを証する書面でも足ります。二つ目は、代表取締役の氏名と住所が同一の表記で載っている市区町村長などの証明書です。就任承諾書のために印鑑証明書や住民票を添付するなら、それで兼ねられます。三つ目は、会社の実質的支配者が誰かを示す書面です。
三つ目は自社で申請する場合の関門になります。条文は、資格者代理人が犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づいて確認した内容を記載した書面を挙げており、それ以外の道としては、商業登記所に実質的支配者情報一覧の保管を申し出ている場合が除外規定に置かれています。自社で出すつもりなら、この一覧の申出を先に済ませておく必要があります。
住所が出なくなるのは証明書と要約書の表示の話で、登記簿そのものに住所が記録されない仕組みではありません。また、金融機関が融資の審査で代表者の住所確認を求める場面は残るので、非表示にしたことで別の手続が増える可能性はあります。使うかどうかは、そこまで含めて判断してください。
なお、配偶者からの暴力などで住所を知られること自体に危険がある場合は、別の条文に住所を記載しない措置が置かれています。事情がある人は、申請の前に管轄の法務局へ相談してください。
氏名の書き方と押印の形式
氏名についても、証明書の記載と同一である必要があります。
旧字体と新字体の違いが問題になることがあります。渡辺の辺、高橋の高、斎藤の斎など、戸籍や住民票で旧字体が使われている場合は、就任承諾書にも同じ字を使ってください。パソコンで入力できない字は、その部分だけ手書きにする方法が使われています。
旧姓を併記したい場合、住民票に旧姓が併記されていれば、登記簿にも旧姓を併記できます。この場合、就任承諾書の氏名欄も住民票の併記に合わせます。併記を希望するかどうかは本人の選択なので、申請前に意思を確認してください。
外国籍の人が取締役になる場合、氏名はカタカナ表記か、住民票に記載されたアルファベット表記かを住民票に合わせます。通称名が住民票に記載されている場合は通称名も使えますが、証明書との整合を必ず確認してください。
署名か記名かについては、法律上の決まりはありません。氏名を印字して押印するだけでも有効です。ただし、本人が確かに関与したことを後から示したいなら、氏名を自筆にしておくほうが説得力があります。特に、役員の間で意見が割れている状況で就任する場合は、自筆にしておく価値があります。
押印の位置は氏名の右横が一般的です。訂正印や捨印を押す必要はありません。書き損じた場合は、訂正して訂正印を押すより、新しく書き直すほうが確実です。
取締役会を置いているかどうかで印鑑が変わる
ここが二つ目に多い間違いです。
商業登記規則は、設立の登記の申請書には、設立時取締役が就任を承諾したことを証する書面に押印した印鑑について、市区町村長が作成した証明書を添付しなければならないと定めています。取締役の就任(再任を除く)による変更の登記も同じです。市区町村長が作成する印鑑の証明書、つまり印鑑証明書が取れるのは登録した実印だけなので、実質的に実印を押すことになります。
ところが、この規定には読み替えがあります。
取締役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「設立時取締役」とあるのは「設立時代表取締役又は設立時代表執行役」と、同項後段中「取締役」とあるのは「代表取締役又は代表執行役」とする。 出典: laws.e-gov.go.jp
つまり、取締役会を置いている会社では、実印と印鑑証明書が必要なのは代表取締役だけです。平取締役は認印で足ります。取締役会を置いていない会社では、取締役全員が実印を押し、印鑑証明書を添えます。
表にすると次のようになります。
| 会社の形 | 平取締役 | 代表取締役 |
|---|---|---|
| 取締役会を置いていない会社 | 実印+印鑑証明書 | 実印+印鑑証明書 |
| 取締役会を置いている会社 | 認印+本人確認証明書 | 実印+印鑑証明書 |
自社が取締役会設置会社かどうかは、登記簿を見ればすぐ分かります。「取締役会設置会社に関する事項」の欄に「取締役会設置会社」と記録されていれば設置会社です。会社法は、取締役会を置く場合は取締役が3人以上でなければならないと定めているので、取締役が1人か2人の会社は取締役会を置いていません。
代表取締役の就任登記では、承諾書とは別に、選定の手続を証明する書類の印鑑についても証明書が求められます。株主総会で代表取締役を定めたなら議長と出席取締役が議事録に押した印鑑、取締役の互選で定めたなら互選書に押した印鑑、取締役会で選定したなら出席取締役と監査役が議事録に押した印鑑です。ただし、その印鑑が、変更前の代表取締役が法務局に提出している印鑑と同じであるときは、証明書の添付が不要になります。前の代表者が在任のまま自分の届出印で押しているなら、その分は省けます。
印鑑証明書を添えるときに確かめること
実印を押す場合、添えるのは市区町村が発行する印鑑登録証明書です。
まず、実印の登録が済んでいるかを確認してください。登録していない印鑑は実印になりません。登録の手続は住所地の市区町村役場で行い、本人が窓口に行くのが原則です。登録してから証明書を取れるようになるまで、自治体によっては日数がかかります。設立や役員交代の予定が決まった時点で、全員分の登録状況を確認しておくと安心です。
取得の方法は、窓口のほかにコンビニ交付を使える自治体が増えています。個人番号カードがあれば、店舗の複合機から取得できます。窓口が開いていない時間でも取れるので、急ぐときに役立ちます。手数料は自治体によりますが数百円程度です。
有効期間についてよく質問が出ます。就任承諾書に添える印鑑証明書について、商業登記規則は作成からの期間を定めていません。一方、会社の印鑑を法務局に届け出る際に添える市区町村長作成の証明書は、作成後3か月以内のものと定められています。両者で扱いが違うため、まとめて手続をするなら3か月以内のものをそろえておくのが実務上は確実です。
提出した印鑑証明書は、原本を返してもらうことができます。商業登記規則は、登記の申請人が申請書に添付した書類の還付を請求できると定めており、請求するには原本と相違がない旨を記載した謄本、つまりコピーを一緒に出します。別の手続でも使いたい証明書は、この原本還付の手続を使えば一通で済みます。ただし、印鑑証明書については還付を認めない運用をしている場合があるので、管轄の法務局に確認してください。
押印は、朱肉を使ってはっきり押してください。かすれていたり、一部が欠けていたりすると、照合できないとして補正になることがあります。押し直す場合は、元の印影の上に重ねず、書類を作り直すほうが確実です。
認印でよいときに添える本人確認証明書
取締役会設置会社の平取締役のように、印鑑証明書を添えない場合は、かわりに本人確認証明書が必要です。
使える書類は、市区町村長その他の公務員が職務上作成した証明書で、就任承諾書に記載した氏名と住所が同一の表記で載っているものです。具体的には次のようなものが使われます。
住民票の写し。もっとも確実です。氏名と住所が正確に記載されており、旧姓併記も反映されます。
戸籍の附票。住所の履歴が載る書類で、住民票が取れない事情があるときに使います。
運転免許証の写し。表と裏の両面をコピーし、本人が「原本と相違ありません」と記載して記名押印します。住所変更の記載が裏面にある場合は裏面が必須です。
個人番号カードの写し。表面のコピーに同じく原本証明を付けます。個人番号が記載された裏面はコピーしません。
健康保険証は、住所欄が手書きであったり住所の記載がなかったりするため、使えないと案内される場合があります。使えるかどうかは管轄の法務局で確認してください。
本人確認証明書が必要になるのは、取締役、監査役、執行役の就任(再任を除く)による変更の登記と、設立の登記です。印鑑証明書を添付する場合は不要になるので、取締役会を置いていない会社では実質的に出番がありません。
証明書のコピーに付ける原本証明の文言は、「この写しは原本と相違ありません」と書き、日付、氏名を記載して押印する形が一般的です。押印する印鑑は認印で足ります。
再任のときに軽くなるもの
任期満了で同じ人が続けて取締役になる場合、添付書類が減ります。
印鑑証明書の添付を定めた規定も、本人確認証明書の添付を定めた規定も、どちらも「就任(再任を除く)」という書き方になっています。つまり再任であれば、印鑑証明書も本人確認証明書も要りません。就任承諾書だけを作ればよいことになります。押す印鑑も認印で足ります。
ただし、代表取締役については別途の考慮が必要です。代表取締役の選定を証明する書面の印鑑について証明書を求める規定は、再任を除くという限定を置いていません。前の代表取締役が法務局に届け出ている印鑑と同一であれば省略できますが、代表者が交代する場面では証明書が要ります。
また、再任にあたるかどうかの判断にも注意が必要です。任期満了と同時に再度選任される場合は再任です。一方、いったん辞任して期間が空いてから改めて選任された場合は、新任として扱われることがあります。判断に迷うときは、法務局に事情を伝えて確認してください。
再任の場面でもう一つ気をつけたいのが、登記そのものを忘れることです。同じ人が続けるので会社の中では何も変わった気がしませんが、任期満了と再任は登記事項の変更です。変更が生じてから2週間以内に申請しなければならず、怠ると100万円以下の過料の対象になると会社法に定められています。任期を10年に延ばしている会社ほど、次の期限を忘れがちです。
費用は、国税庁の税額表によれば、取締役や代表取締役、監査役などに関する事項の変更の登記が申請1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円です。中小の会社ならほとんどが1万円で済みます。金額の一覧は登録免許税の税額表で確認できます。
辞任するときは何が必要か
就任の裏返しとして、辞任の場面も押さえておくと全体が見えます。
商業登記規則は、登記所に印鑑を提出している代表取締役や代表執行役、取締役、執行役が辞任する場合、その変更の登記の申請書に、辞任を証する書面に押した印鑑について市区町村長が作成した証明書を添付しなければならないと定めています。ただし、その書面に押した印鑑が、本人が登記所に提出している印鑑と同じであるときは添付が不要です。
つまり、届出印を押して辞任届を出すなら印鑑証明書は要らず、個人の実印を押すなら印鑑証明書が必要になります。会社に届出印が残っている状況なら前者が簡単ですが、辞任する本人が会社と対立している場合は、本人が実印を押して印鑑証明書を添える形になります。
印鑑を登記所に提出していない平取締役の辞任は、辞任届だけで足ります。押す印鑑も認印で構いません。同じ「辞任」でも、届出印を出しているかどうかで必要な書類が変わる点を覚えておいてください。
合同会社では規定の当てはまり方が違う
合同会社で同じ書類を用意しようとして、株式会社の様式を流用してしまう例があります。ここは注意が必要です。
合同会社に取締役という役職はありません。会社を動かすのは業務を執行する社員です。そして商業登記規則は、合同会社について準用する規定の範囲を条文で限定しており、これまで見てきた印鑑証明書の規定と本人確認証明書の規定は、その範囲に入っていません。株式会社と同じ添付書類を用意する前提で動くと、要らないものを取りに行くことになります。
合同会社で書面が必要になる場面や、その組み合わせは株式会社と別に整理されています。法務局は合同会社向けの申請書様式と記載例を用意しているので、自社の形に合ったものを開いてから作業を始めてください。
そろえる書類と費用を並べてみる
最後に、実際に出ていくお金と日数を並べます。取締役会を置いていない会社に、新しい取締役が一人加わる場面を例にします。
本人が用意するのは、実印を押した就任承諾書と、印鑑登録証明書です。印鑑登録証明書の手数料は市区町村が条例で定めているので、金額は本人の自治体の案内で確認してください。個人番号カードがあればコンビニの複合機で取れる自治体が増えているため、窓口の営業時間に縛られずに済みます。
会社が用意するのは、株主総会議事録、株主リスト、そして申請書です。登録免許税は申請一件につき一万円で、資本金の額が一億円を超える会社は三万円になります。収入印紙を買って貼付台紙に貼ります。
登記が終わったら、登記事項証明書を取ります。窓口で請求すると一通六百円、オンラインで請求して送付を受けるなら五百二十円、オンラインで請求して窓口で受け取るなら四百九十円です。銀行と取引先に出すなら二通で足りることが多いです。
ここまでを合計すると、一万円台の前半で収まります。読めない部分は日数のほうです。実印の登録をしていない人がいると、登録してから証明書が取れるまでに自治体によって日数がかかります。選任の予定が決まった時点で、本人に登録の有無を確認しておくのが安全です。
提出する前に見直す順番
書き上げてから提出するまでに、次の順で確認すると漏れが減ります。
第一に、住民票の写しを手元に置き、就任承諾書の住所と一字ずつ突き合わせる。都道府県から書いているか、丁目が漢数字か、建物名と部屋番号の扱いが合っているか。
第二に、氏名の字体を確認する。旧字体が使われていないか、旧姓併記の有無が住民票と合っているか。
第三に、日付を確認する。選任の決議より前の日付になっていないか。将来の日付で就任する形にしているなら、その日付が本文と一致しているか。
第四に、押した印鑑が正しいかを確認する。取締役会を置いていない会社なら実印、置いている会社の平取締役なら認印です。実印を押したなら印鑑証明書を、認印なら本人確認証明書を添えます。
第五に、代表取締役を兼ねる場合、本文に取締役と代表取締役の両方への就任を承諾する旨が書かれているかを確認する。取締役への承諾しか書かれていない書類では、代表取締役の登記が通りません。
書式や添付書面の案内は法務局のサイトにまとまっています。申請書の様式も公開されているので、初めての場合は一度目を通しておくと全体像がつかめます。条文そのものはe-Gov法令検索で読めます。
判断に迷う場面、たとえば再任にあたるかどうか、この証明書で足りるかどうかは、管轄の法務局に電話で聞くのが一番早い解決方法です。登記の相談は無料で受け付けており、申請前に確認しておけば往復を一回減らせます。
書類作成を仕事として請ける立場から
在宅で仕事を受けている人にとって、こうした登記まわりの書類整備は、単価は控えめでも繰り返し発生する領域です。役員の任期は必ず来ますし、会社の側はまず忘れています。
請け負える範囲には線があります。登記申請の代理は司法書士の業務で、報酬を得て他人の登記申請書類を作成することも制限されています。請けられるのは、会社自身が作る書類の書式整備、過去の書類の体裁統一、役員の任期と期限を並べた管理表づくり、添付書類のチェックリスト作成といった作業です。この範囲を最初に伝えておくと、依頼する側も安心しますし、越境した依頼を断る根拠にもなります。
文書作成の力を客観的に示したいなら、ビジネス文書検定のような資格が判断材料になります。文部科学省後援の検定で、正確で効率的なビジネス文書を作る力を測るものです。法律知識そのものの証明にはなりませんが、表記の正確さが結果を左右するこの分野では評価されます。書類の整備を仕組み化する方向に広げるなら、AIコンサル・業務活用支援のお仕事のように、生成AIの活用戦略から業務プロセスへの組み込み、社内研修までを支援する案件も視野に入ります。住所の表記ゆれの検出や、添付書類のチェックは自動化と相性がよく、一枚を作る作業より仕組みを作る作業のほうが単価が付きます。
報酬の目安を知っておくと交渉の基準になります。文書作成を主軸にするなら著述家,記者,編集者の年収・単価相場、書類作成と社内システムの構築をセットで請けるならソフトウェア作成者の年収・単価相場が参考になります。全国平均と都道府県別の数字が確認できるので、居住地や取引先の所在地に合わせて読み替えてください。
フリーランス・在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、この分野で長く続いている人は、書類を作る技術ではなく、期限に気づく仕組みを持っていることで選ばれています。役員の任期は2年や10年という単位で来るので、日々の業務に埋もれて忘れられます。任期の一覧を作って、満了の数か月前に声をかける。それだけで過料の事故が防げるうえ、翌期の依頼が自然に戻ってきます。
もう一つ、運営者として見てきた限りでは、報酬を額面ではなく手取りで捉えている人のほうが息が長い。同じ10万円の仕事でも、仲介手数料が引かれる経路と引かれない経路では、年間で見ると差がはっきり積み上がります。仲介手数料が差し引かれない手数料0%の形で直接やり取りできる経路を一つ持っておくと、依頼する側も同じ予算でより多く頼めるようになり、結果として仕事が続きやすくなります。
取引の条件面も整えておいてください。発注書や契約書の段階で確認すべき項目はフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに整理されています。報酬が支払われない事態になったときの進め方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】で費用と手順が確認できます。会計や税務の素養がある人がこの領域に広げる道もあり、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】には本業との両立の考え方が書かれています。
取締役の就任承諾書で押さえる点は三つです。住所は住民票の表記をそのまま写すこと。押す印鑑は取締役会を置いているかどうかで変わること。実印なら印鑑証明書、認印なら本人確認証明書を添えること。この三つを確認してから提出すれば、補正の連絡はほとんど来なくなります。
よくある質問
Q. 取締役就任承諾書の住所は、どこまで詳しく書きますか?
住民票の写しに記載された表記をそのまま写します。都道府県から書き、丁目は漢数字、番地は「1番1号」の形式というように、証明書と一字一句そろえてください。商業登記規則が、就任承諾書に記載した氏名と住所が、添付する証明書の記載と同一であることを求めているためです。ハイフンでの省略や建物名の省略は補正の原因になります。
Q. 実印と認印のどちらを押せばよいですか?
取締役会を置いていない会社では、取締役全員が実印を押し、印鑑証明書を添付します。取締役会を置いている会社では、平取締役は認印でよく、かわりに本人確認証明書が必要です。代表取締役はどちらの会社でも実印と印鑑証明書が要ります。自社が取締役会設置会社かどうかは登記簿の該当欄で確認できます。
Q. 再任の場合も印鑑証明書は必要ですか?
必要ありません。印鑑証明書の添付を定めた規定も、本人確認証明書の添付を定めた規定も「就任(再任を除く)」という書き方になっているためです。再任であれば就任承諾書だけを作ればよく、押す印鑑も認印で足ります。ただし代表取締役が交代する場面では、選定を証明する書面の印鑑について証明書が必要になることがあります。
Q. 添付した印鑑証明書は返してもらえますか?
商業登記規則は、申請人が申請書に添付した書類の還付を請求できると定めており、請求するには原本と相違がない旨を記載した写しを一緒に提出します。別の手続でも使いたい証明書は、この原本還付で一通を使い回せます。ただし印鑑証明書については還付を認めない運用の登記所があるため、事前に管轄の法務局へ確認してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
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