代表取締役の辞任届|実印と印鑑証明書が要る条件


この記事のポイント
- ✓代表取締役の辞任届について
- ✓実印と印鑑証明書が要る条件を法務局の記載例と商業登記規則から整理しました
- ✓会社の届出印を押せば印鑑証明書は不要です
代表取締役をやめる。この手続きでいちばん多くの人がつまずくのが、辞任届に押す印鑑です。実印がいるのか、会社の印鑑でいいのか、印鑑証明書は添えるのか。調べるほど説明が分かれていて、結局どれが正しいのか分からなくなります。
まず、安心してください。判断の基準は1つだけです。「押した印鑑が、会社が法務局に届け出ている印鑑と同じかどうか」。これだけで印鑑証明書がいるかどうかが決まります。この記事では、代表取締役の辞任届について、印鑑のルールを中心に、書き方から登記が終わるまでを順番に整理します。専門的な言葉はその場で普通の言葉に置き換えて進めます。
代表取締役の辞任には2通りある
最初に決めておくことがあります。代表取締役をやめると言っても、実は2つの意味があるからです。
1つ目は、代表取締役という立場だけをやめて、取締役としては会社に残る形です。会社を代表して契約する権限を手放すけれど、経営の意思決定には引き続き加わります。世代交代の場面でよく使われます。
2つ目は、代表取締役も取締役も両方やめて、会社から完全に抜ける形です。
この2つは、辞任届の文面も、登記される内容も、その後の手続きも変わります。だから最初に決めておかないと、書き直しになります。
代表権だけを手放す場合、会社に残るのは取締役の立場です。取締役会を置いている会社なら、後任の代表取締役は取締役会で選びます。取締役会を置いていない会社なら、定款の定め、取締役どうしの互選、または株主総会の決議のいずれかで選びます。どの方法を使うかは定款に書いてあります。定款とは、会社の決まりごとを書いた基本の文書のことです。
両方やめる場合は、取締役の人数が足りるかどうかを先に確かめてください。株式会社には取締役が最低1人必要です。取締役会を置いている会社なら3人以上必要です。定款で人数を決めている会社もあります。ここを割り込む辞め方をすると、辞任届を出しても登記ができない状態になります。詳しくは後の章で触れます。
辞任届の文面は次のように変わります。代表権だけ手放すなら「貴社の代表取締役を辞任いたします」。両方やめるなら「貴社の代表取締役及び取締役を辞任いたします」。この1行の違いで、登記簿に残る内容が変わります。曖昧な書き方をすると、法務局から会社に確認が入り、手続きが止まります。
実印と印鑑証明書が要る条件
ここが本題です。代表取締役の辞任届には、原則として印鑑証明書を添えることになっています。ただし例外があり、その例外に当てはまる会社のほうが実際には多数です。
判断の手順は2段階です。
第1段階。会社が法務局に印鑑を届け出ているか。多くの会社は設立のときに会社の実印を法務局に届け出ています。この届け出た印鑑が、いわゆる会社の届出印です。
第2段階。辞任する代表取締役が、その届出印を押せる立場にあるか。自分が届け出た本人であれば押せます。
そのうえで、押した印鑑によって扱いが分かれます。法務局が公開している申請書の記載例には、こう書かれています。
また、登記所に印鑑を届け出ている取締役が辞任する場合には、辞任届に、登記所届出印又は市町村に登録した印鑑を押す必要があります。市町村に登録した印鑑を押した場合には、当該印鑑について市町村長が作成した印鑑証明書を添付する必要があります(登記所届出印を押した場合には、印鑑証明書は不要です。)。 出典: houmukyoku.moj.go.jp
整理すると次のようになります。
・会社の届出印を押した場合。印鑑証明書は要りません。法務局には届出印の見本が登録されているので、照合すれば本人だと分かるからです。 ・自分の実印(市区町村に登録した印鑑)を押した場合。市区町村が発行した印鑑証明書を添えます。 ・どちらでもない認印を押した場合。代表取締役の辞任では受け付けられません。会社の登記申請が止まります。
このルールの根っこにあるのが、商業登記規則という法務省令の第61条第8項です。ここには、登記所に印鑑を出した人が辞任する場合には、辞任を示す書面に押した印鑑について市区町村長が作った証明書を添えなければならない、ただし押した印鑑が登記所に出している印鑑と同じときはその必要がない、という趣旨が書かれています。分かりにくい条文ですが、言っていることは「本人が辞めると言っているのか、誰かが勝手に書いたのかを確かめたい」という一点です。
なぜこんな仕組みになっているのか。背景を知ると腑に落ちます。代表取締役が勝手に辞めさせられる、つまり本人の知らないところで偽の辞任届が出され、登記簿から名前が消される。そういう事件を防ぐための仕組みです。だから本人しか押せない印鑑が求められます。
いくつか実務で迷いやすい点を補足します。
会社が法務局に印鑑を届け出ていない場合はどうなるか。オンラインで申請している会社では、印鑑の提出が任意になっています。印鑑を出している人が誰もいない会社では、会社の代表者が対象になります。自分の実印を押して印鑑証明書を添える形になるのが基本です。この場合は事前に管轄の法務局に確認しておくと確実です。
印鑑証明書の有効期間はどうか。就任の登記に添える印鑑証明書には「作成後3か月以内」という制限がありますが、辞任届に添える印鑑証明書については、条文に期間の定めが置かれていません。ただし運用は法務局ごとに違うことがあるので、古いものを使うつもりなら事前に電話で確かめてください。取得費用は市区町村によって違い、おおむね1通200円から400円程度です。マイナンバーカードを使ってコンビニで取ると安くなる自治体もあります。
代表権だけをやめて取締役として残る場合はどうか。この場合も、届出印を出している本人であれば同じルールが当てはまります。代表権を手放す以上、登記簿の代表取締役欄が変わるからです。
判断に迷う場面はどうしても出てきます。実務の現場でも、次のような助言がされています。
実際には登記を申請する法務局の判断となるため、提出先の法務局に事前に確認するか、可能であれば辞任届を作成しておくとよいでしょう。 出典: legal-script.com
管轄の法務局に電話で聞くのは無料です。会社の商号と本店を伝えて、「代表取締役が辞任する場合の辞任届の押印と添付書類を教えてほしい」と言えば答えてくれます。往復のやり直しを1回減らせるなら、電話1本の価値は十分にあります。
辞任届のひな形
決まった様式はありません。次の中身が入っていれば、手書きでもパソコンでも通ります。
代表取締役の立場だけをやめる場合は次のようになります。
辞任届
株式会社〇〇 御中
私は、一身上の都合により、令和〇年〇月〇日をもって
貴社の代表取締役を辞任いたします。
なお、取締役の地位は引き続き継続いたします。
令和〇年〇月〇日
住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
氏名 〇〇 〇〇 印
代表取締役も取締役もやめる場合は、本文を「貴社の代表取締役及び取締役を辞任いたします」に変え、取締役を続ける旨の一文を外します。
宛先について補足します。ほかに代表取締役がいる会社なら、その人の名前を宛先に入れます。自分しか代表取締役がいない会社では、宛先を会社名だけにして「御中」で止めるのが実務では通ります。自分から自分に宛てて出す形になるためです。
日付は2か所あります。書いた日と、辞任する日です。辞任する日を空欄で渡すと、会社側が都合のよい日を書き込む余地が生まれます。引き継ぎのために先の日付にしたいなら、その日をはっきり書いてください。
理由は「一身上の都合により」で足ります。詳しく書く義務はありませんし、会社との関係がこじれている場面では、書いた文章がそのまま交渉材料になります。事情を残したいなら、辞任届とは別の書面にします。
原本は会社に渡します。辞任届は登記の添付書類になるので、コピーでは手続きが進みません。自分の控えとしては、同じものをもう1通作って受領のサインをもらうか、渡す前にコピーを取っておきます。
代表取締役がゼロになると会社が止まる
代表取締役がいなくなる辞め方をすると、会社は実務の面で動かなくなります。しかも、辞めた本人も抜けられません。
会社法には、代表取締役がいなくなった場合や、定款で決めた人数を下回った場合には、任期満了か辞任でやめた代表取締役は、新しい代表取締役が就任するまで代表取締役としての権利と義務を持ち続ける、という決まりがあります。実務ではこれを権利義務代表取締役と呼びます。
この状態になると、3つのことが起きます。
1つ目。辞任の登記ができません。登記簿には代表取締役としてあなたの名前が残ります。法務局は後任が決まるまで受け付けません。
2つ目。責任も残ります。会社が税金や社会保険を滞納した場合、取引先に損害を与えた場合、登記を怠った場合の過料。これらは代表者に向かいます。報酬を受け取っていなくても、立場が残っている以上は対象です。
3つ目。自分では解消できません。後任を選ぶのは取締役会か株主総会です。辞めた本人が決められるものではありません。
現実の困りごとも起きます。会社の銀行口座は代表者名義で管理されているため、代表者が不在の状態では新しい手続きができなくなります。取引先との契約更新、役所への届出、助成金の申請。どれも代表者の記名押印が要ります。
解決の方法は2つです。1つは、後任を決めてもらうこと。これが一番早い。もう1つは、裁判所に一時的に代表取締役の職務を行う人を選んでもらう申し立てです。会社法には、必要があると認めるときは、利害関係のある人の申し立てによって裁判所が一時的に職務を行う人を選べる、と書かれています。ただし申し立てには手数料と予納金がかかり、選ばれた人への報酬も裁判所が決めます。金額は事案によって変わるので、動く前に弁護士に見積もりを取ってください。
一番いいのは、この状態にしないことです。やめる意思を伝える段階で、後任の選定と自分の辞任を同じ日に片付ける段取りを作る。取締役会設置会社なら、取締役会で後任を選び、その場で辞任届を出す。この形なら、登記も1回の申請で済みます。
一人会社の代表取締役が辞めるとき
取締役が自分1人だけの会社で、その自分が辞めたい。相談として最も多いのがこの形です。
この場合、辞任届を出しても取締役がゼロになるので、権利義務の状態に入ります。登記もできません。つまり、辞任届を書くだけでは何も解決しません。
取れる道は3つです。
1つ目は、後任を選ぶことです。株主総会を開いて新しい取締役を選び、その人が代表取締役になります。株主が自分だけなら、書面で決議を残す形で足ります。引き受けてくれる人がいるかどうかが分かれ目です。
2つ目は、会社を他人に譲ることです。株式を譲渡して、新しい株主が新しい取締役を選びます。この場合、登記としては役員の変更だけで済みますが、株式の譲渡そのものには定款の制限がかかっていることが多いので、手順の確認が要ります。
3つ目は、会社をたたむことです。解散の決議をして清算の手続きに入ります。解散と清算人選任の登記、官報での公告、税務の申告、清算結了の登記まで進むと、会社そのものが消えます。この場合、解散の登記にかかる登録免許税は3万円、清算人の登記に9千円、清算結了の登記に2千円がかかり、官報の公告費用も別に必要です。時間は、債権者に申し出てもらう期間として最低2か月を置くため、早くても3か月程度はかかります。
どれを選ぶかは、会社に資産や負債が残っているか、取引先との契約がどうなっているかで変わります。税金の扱いも変わるので、税理士に相談してから動いてください。放置して休眠のままにしておくと、最後の登記から12年が過ぎた株式会社は、法務省の整理作業によって解散したものとみなされることがあります。放置は選択肢に入れないほうがよいです。
会社の届出印と印鑑カードをどうするか
代表取締役が交代すると、会社の印鑑まわりも動きます。ここを忘れると、後任が会社の印鑑証明書を取れなくなります。
会社の届出印は、代表者個人に紐づいて登録されています。だから代表者が変わると、新しい代表者が改めて印鑑を届け出ることになります。使う印鑑そのものは同じ会社実印で構いませんが、届出は出し直しです。
手続きは印鑑届書という書類で行います。この書類には、新しい代表者の個人の実印を押し、その実印について市区町村が発行した印鑑証明書(作成後3か月以内のもの)を添えます。役員変更の登記と同時に出すのが普通です。様式は法務局のサイトから無料でダウンロードできます。
印鑑カードも整理が要ります。印鑑カードは会社の印鑑証明書を取るためのカードです。前の代表者が持っていたカードは、引き継ぐこともできますし、廃止して新しく発行してもらうこともできます。関係がこじれている場合は、廃止して作り直すほうが安全です。
電子証明書を使っている会社は、こちらも切り替えが要ります。法務局が発行する電子証明書は代表者に紐づいているので、代表者が変われば取り直しです。電子証明書を使うと登記や税の申告をオンラインで済ませられるので、引き継ぎの段取りに入れておいてください。
辞める側として確かめておきたいのは、自分の名前で届け出た印鑑が残っていないかどうかです。届出印の廃止届を出さずに会社を離れると、形のうえでは自分の届出印が生きたままになります。後任の印鑑届書が出されれば自然に切り替わりますが、会社が手続きをしない可能性があるなら、廃止の届出を自分で出しておく判断もあります。
会社が辞任届を受け取ってくれないとき
ほかに代表取締役がいる会社で、その人が辞任届を受け取ってくれない。あるいは連絡そのものが取れない。この場合でも、打つ手はあります。
辞任の意思表示は、相手に届いた時点で効き目を持ちます。だから確実なのは、届いたことを記録に残せる方法で送ることです。内容証明郵便に配達証明を付けて、会社の本店として登記されている住所に送ります。内容証明郵便とは、いつ誰にどんな文面を送ったかを郵便局が証明してくれる仕組みのことです。基本の郵便料金に、内容証明の加算料金、書留の加算料金、配達証明の加算料金が積み上がる形になります。合計額は枚数によって変わるので、出す前に郵便局の窓口で確かめてください。取り扱っている郵便局が限られるので、近くの局が対応しているかも先に調べておくと二度手間になりません。
受け取りを拒まれたり、保管期間が過ぎて戻ってきたりすることもあります。正当な理由なく受け取りを妨げた場合には届いたものとして扱われる余地がありますが、この判断は個別の事情に左右されます。戻ってきた封筒は開けずに保管し、弁護士か司法書士に相談してください。
送る先も確かめておきます。登記簿の本店の住所に実態がないケースは珍しくありません。実際に事業を行っている場所が別にあるなら、両方に送っておくと確実です。ほかの代表取締役の自宅住所は登記簿に載っているので、そちらにも送る判断もあります。
そして忘れがちなのが、辞任届とは別に、自分の記録を残すことです。いつ、どの住所に、どんな文面で送ったか。配達証明の控え。会社の登記事項証明書を取って、自分の名前がいつまで残っていたかを確かめた記録。これらは、あとで「あなたはまだ代表者だった」と言われたときに、事実上の反論材料になります。
登記の流れ、費用、期限
辞任届が会社に届いた日から2週間以内に、会社は法務局へ変更の登記を申請しなければなりません。代表取締役の氏名と住所は登記される事項なので、辞任もこの期限に入ります。
期限を過ぎても申請そのものは受け付けられますが、代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性があります。過料が来るのは会社ではなく代表者個人です。
費用は次のとおりです。役員の変更登記にかかる登録免許税は、資本金の額が1億円を超える会社で3万円、1億円以下の会社で1万円です。中小企業のほとんどは1万円に当たります。司法書士に頼む場合の報酬は、おおむね2万円から5万円程度が相場です。
添付する書類は、辞任だけなら辞任届と、押印によっては印鑑証明書。後任を選ぶなら、株主総会の議事録または取締役会の議事録、株主の一覧を示す書面、就任を承諾した書面、就任する人の印鑑証明書または本人確認書類が加わります。就任する代表取締役については印鑑証明書が要るので、ここでも印鑑証明書の取得が発生します。
登記が終わったかどうかは、会社の登記事項証明書を取れば確かめられます。窓口や郵送での請求は1通600円、オンラインで請求して窓口で受け取ると490円、郵送してもらうと520円です。他社の分でも誰でも取れるので、会社が手続きをしたかどうかを自分で確かめられます。
申請から登記が終わるまでは、法務局の混み具合にもよりますが1週間前後が目安です。辞任から1か月以上たっても名前が残っているなら、会社が申請していないと考えてよいでしょう。
辞任しても残るもの
登記簿から名前が消えても、消えないものがあります。代表取締役をやめる前に、必ず確かめてください。
1つ目は、連帯保証です。会社の借入に個人で保証をしている場合、代表を降りても契約は残ります。金融機関と個別に交渉して外してもらう必要があります。事業を引き継ぐ場面での保証の扱いについては国が指針を示していますが、実際に外せるかどうかは金融機関の判断です。辞任の話を進める前に、自分が何に判を押しているかを一覧にしてください。
2つ目は、在任中の行為についての責任です。辞任は将来に向かって効くものなので、在任中に会社に損害を与えた行為があれば、辞めたあとでも責任を問われることがあります。
3つ目は、登記簿に残る住所です。代表取締役は氏名だけでなく住所も登記されます。辞任の登記をしても、過去の記録として登記簿に残ります。なお、代表者の住所について、登記事項証明書に市区町村までしか記載しない仕組みが用意されていますが、これは設立や就任、住所変更の登記を申請するときに申し出るものです。辞任の登記のときに新しく申し出られるものではありません。住所を知られたくない事情があるなら、在任中に申し出ておく必要があります。
4つ目は、税と社会保険です。役員報酬を受け取っていた場合、辞任した年の分の所得税と住民税は残ります。厚生年金と健康保険に入っていたなら、資格の喪失手続きが必要です。手続きの窓口や必要書類は日本年金機構のサイトで確認できます。
辞任する側の動きを日付で追う
登記をするのは会社です。辞める側の作業は、渡すところで終わります。ただし渡したあとに会社が動かないことがあるので、確かめる日まで先に決めておきます。6月末で降りる場合を例に並べます。
6月上旬。後任を誰にするかを会社側と固めます。ここが決まらないまま辞任届を出すと、代表取締役がゼロになって登記ができません。同時に、自分の名前で押している書類の棚卸しを始めます。
6月中旬。自分の実印を押すなら、市区町村で印鑑証明書を取ります。会社の届出印を押すなら、この取得は不要です。どちらの印鑑を押すかを先に決めておけば、無駄な取得を避けられます。
6月30日。取締役会または株主総会で後任を選び、その場で辞任届を渡します。同じ日に片付けると、登記の申請が1回で済みます。渡すときは、控えに受領の日付とサインをもらいます。相手が応じないなら、配達証明を付けた内容証明郵便に切り替えます。
7月中旬まで。会社が法務局へ申請します。辞任届が届いた日から2週間が期限です。自分では申請できないので、ここは会社の作業になります。
7月下旬。会社の登記事項証明書を1通取って、代表取締役の欄から自分の名前が消えたかを確かめます。他社の分でも誰でも取れるので、会社に頼まなくても確認できます。
8月以降も名前が残っていたら、会社が申請していません。文書で申請を求め、その控えを残します。登記を怠った責任は、その時点で代表者として登記されている人に向かいます。放っておくほど不利になるのは辞めた側です。
辞任の前に一覧にしておくもの
登記簿から名前が消えても、自分の名義で走っている契約は自動では切れません。渡す前に紙1枚で棚卸しをします。
・会社の借入に付けた個人の連帯保証。金融機関ごとに、残高と保証の範囲を書き出します ・会社が借りている事務所や駐車場の賃貸借契約。連帯保証人になっていることがあります ・リース契約と分割払いの契約。複合機、社用車、通信機器が典型です ・会社名義のクレジットカードと、その保証人の欄 ・会社の携帯電話と回線の契約者 ・法務局に届け出た会社の印鑑と、印鑑カード ・法務局が発行する電子証明書 ・許認可や登録の申請書に書いた代表者の氏名 ・社会保険と厚生年金の資格 ・役員報酬に対する源泉徴収と、辞任した年の住民税
このうち自分の意思で外せるのは、ほとんどありません。相手方の同意が要ります。だから辞任の話を進める段階で、同時に交渉を始める必要があります。登記が終わってから連絡すると、相手は動く理由がなくなります。
許認可を持っている会社では、代表者が変わったこと自体を所管の官庁に届け出る必要がある業種があります。届出の期限と様式は業種ごとに違うので、会社の許認可の一覧を見て、それぞれの窓口に確かめてください。登記が終わったことを示す書類を求められることが多いので、登記の完了と届出の順番も合わせて聞いておくと二度手間になりません。
費用をいくら見ておくか
辞任にともなう登記の費用を、実際の内訳で並べます。資本金1億円以下の会社で、代表取締役が1人交代する場合です。
・登録免許税 1万円。役員に関する事項の変更の登記は、登録免許税法の別表で1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円と定められています ・辞める側の個人の印鑑証明書 0円から400円程度。会社の届出印を押すなら不要です。市区町村ごとに額が違います ・就任する側の個人の印鑑証明書 数百円。代表取締役の就任には印鑑証明書が要ります ・会社の印鑑証明書 1件500円。オンラインで請求すると420円、郵送を求めると450円です ・登記事項証明書 1通600円。オンラインで請求して窓口で受け取ると490円、郵送してもらうと520円です
自分で申請するなら、ここまでで1万2,000円前後に収まります。司法書士に頼む場合の報酬は事務所が自由に決めるので一律ではありません。後任の選定と辞任を同時に処理する、印鑑の届出も一緒に出す、という場面では、書類の点数が増えるぶん頼む価値が上がります。
金額そのものより効くのは、やり直しの回数です。押す印鑑を取り違えて法務局から連絡が来ると、直して出すまでに数日かかります。その間は会社の登記事項証明書と印鑑証明書が発行されないので、融資や入札の予定が入っているとそこにも響きます。
合同会社の代表社員がやめる場合
合同会社では、呼び方も手続きも変わります。代表取締役ではなく代表社員で、辞任届1枚では終わりません。
合同会社の社員の氏名と住所は定款に書く事項です。だから社員をやめるには定款を変えることになり、株式会社のように会社側が受け取って終わり、という形にはなりません。業務を執行する社員の地位だけを降りて社員としては残るのか、出資も引き上げて退社するのかで、必要な書類が変わります。
退社そのものについては、会社法606条が、存続期間を定款で定めなかった場合には各社員は事業年度の終了の時において退社することができるとし、その場合は6か月前までに予告しなければならないと定めています。ただし、やむを得ない事由があるときはいつでも退社できるとも書かれています。定款で別の定めを置くこともできます。
登記の扱いも押さえておきます。合同会社で登記されるのは、業務を執行する社員の氏名または名称と、会社を代表する社員の氏名または名称および住所です。登録免許税は、社員に関する事項の変更として株式会社の役員変更と同じ枠に入り、1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円です。
そしてやめたあとに残るものがあります。会社法612条により、退社した社員は、退社の登記をする前に生じた会社の債務について従前の責任の範囲内で弁済する責任を負います。この責任は、登記後2年以内に請求または請求の予告がなければ、2年を経過した時に消滅します。つまり退社の登記を先に済ませておくほど、責任が切れるまでの時計が早く回り始めます。放置は損になります。
代表を降りたあとの働き方をどう組み立てるか
代表取締役を降りたあと、次をどうするか。ここで立ち止まる方が多いです。
選択肢は3つに分かれます。別の会社で働く、自分で新しい事業を始める、業務委託として関わる。3つ目を選ぶ人が増えています。会社の代表という重い立場は外すけれど、持っている知識と人脈は仕事として提供する形です。責任の重さと報酬のバランスを自分で決められるのが利点です。
この道を選ぶなら、自分の経験がいくらの仕事になるかを先に把握しておくと判断が早くなります。開発や技術の現場を見てきた方はソフトウェア作成者の年収・単価相場で単価の幅を確かめられます。文章や編集で仕事を作るなら著述家,記者,編集者の年収・単価相場が目安になります。どちらも職種ごとの相場を並べたデータです。
仕事の中身を知りたいときは職種別の案内が早道です。経営や業務の改善を見てきた経験はAIコンサル・業務活用支援のお仕事につながりますし、技術寄りならアプリケーション開発のお仕事やAI・マーケティング・セキュリティのお仕事で、いまどんな依頼が出ているかが分かります。
代表という肩書きが外れると、書類も自分の名前で作ることになります。見積書や請求書の基本を整えたいならビジネス文書検定が扱う範囲が参考になります。技術の裏付けを示したい方にはCCNA(シスコ技術者認定)のような資格が名刺代わりになります。
立場が変わると、契約での力関係も変わります。代表だったときは発注する側でしたが、業務委託では受ける側です。取引条件を書面で残す重要性についてはフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに、発注書に何を書いてもらうべきかがまとまっています。報酬が支払われないときの動き方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】が具体的です。会計や監査の経験がある方なら会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】に、資格を活かした関わり方の例があります。
運営者として見てきたこと
在宅ワークと業務委託の市場を20年見てきた立場から言えば、代表を降りた人がその後うまくいくかどうかは、在任中に社外との個人的な関係をどれだけ作っていたかでほぼ決まります。会社の看板で付き合っていた相手は、看板が外れると連絡が止まります。逆に、個人として信頼されていた相手からは、辞任の翌月から相談が来ます。
もう1つ、長く続く人に共通しているのは、作業を安く早く出すことではなく、依頼する側が「この人に任せると楽だ」と感じる関係を作ることに時間を使っている点です。代表を務めた人は、全体を見て段取りを組む力を持っています。その力は、作業の速さより高く評価されます。
お金の面でも見落としやすい差があります。仕事を仲介する会社を経由すると、報酬から中間の取り分が引かれます。直接やり取りできる関係があれば、同じ予算で依頼する側はより多くを頼めますし、受ける側の手取りも厚くなります。金額の大小ではなく、同じ仕事でも手元に残る額が変わるという構造の話です。代表として人脈を築いてきた方は、この構造を使いやすい位置にいます。
最後に、辞任届を出す前に確かめる項目を並べておきます。後任が決まっているか。押す印鑑はどれか。印鑑証明書が要るか。連帯保証が残っていないか。会社の届出印と印鑑カードの引き継ぎはどうするか。この5つが片付いていれば、辞任届はA4用紙1枚を書くだけの作業で終わります。会社法の条文を確かめたいときはe-Gov法令検索で全文が読めます。
よくある質問
Q. 代表取締役の辞任届に印鑑証明書は必ず必要ですか?
会社の届出印(法務局に登録している会社実印)を押した場合は不要です。市区町村に登録した個人の実印を押した場合は、その印鑑証明書を添えます。認印では受け付けられません。会社が法務局に印鑑を届け出ていない場合は扱いが変わるので、管轄の法務局に事前に確認してください。
Q. 代表取締役だけやめて取締役として残ることはできますか?
できます。辞任届に「代表取締役を辞任し、取締役は継続する」旨を明記します。後任の代表取締役は、取締役会設置会社なら取締役会、そうでなければ定款の定めや取締役の互選、株主総会の決議で選びます。登記は代表取締役の変更として申請します。
Q. 後任が決まらないまま代表取締役を辞任するとどうなりますか?
代表取締役がゼロになる場合、辞任しても新しい代表取締役が就任するまで代表取締役としての権利と義務が残ります。辞任の登記もできません。責任だけが残る形になるため、後任の選定と辞任を同じ日に片付ける段取りを作るのが確実です。
Q. 代表取締役の辞任登記にかかる費用はいくらですか?
登録免許税は、資本金の額が1億円を超える会社で3万円、1億円以下の会社で1万円です。これに印鑑証明書の取得費用が1通200円から400円程度、司法書士に依頼する場合は報酬が2万円から5万円程度加わります。自分で申請すれば登録免許税と証明書代だけで済みます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
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