採用代行のNDA|応募者個人情報を守る契約範囲の決め方 2026

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
採用代行のNDA|応募者個人情報を守る契約範囲の決め方 2026

この記事のポイント

  • 採用代行に応募者の個人情報を渡す際
  • NDAでどこまで委託先を縛るべきか
  • 契約書に入れるべき条項

採用代行に応募者の履歴書や職務経歴書を渡すとき、NDA(秘密保持契約)だけで個人情報の扱いを任せて大丈夫なのか。結論から言うと、NDAは必要条件であって十分条件ではありません。個人情報保護法上は委託元である発注者に「委託先監督義務」が課されており、NDAの条文が甘いと、情報漏洩が起きたときに委託先だけでなく発注者自身の管理責任が問われます。この記事では、採用代行にどこまでの業務と個人情報を渡してよいのか、NDAに何を書くべきか、費用相場と選び方まで、発注者が意思決定できる粒度で整理します。

採用代行×個人情報保護の市場動向

採用代行(RPO)市場は、人手不足と採用担当者の業務過多を背景に拡大が続いています。中小企業では採用専任者を置けないケースが多く、母集団形成から書類選考、日程調整までを外部に委託する動きが加速しました。同時に、応募者の氏名・住所・学歴・職歴・場合によっては健康情報に近い項目まで含む個人情報を、社外の第三者に渡す機会も急増しています。

採用代行(RPO)業者では、その多くが法令上の「委託募集」に該当しない内容や範囲の採用活動の事務代行や採用活動全般に関する改善提案などのコンサルティングを委託企業から引き受けて、専門的な知識や豊富な経験に基づく高度で高品質なサービスを提供しています。

出典: leggenda.co.jp

この引用が示す通り、採用代行の主戦場は「委託募集」に該当しない事務代行やコンサルティング領域です。裏を返せば、募集そのものを丸投げする(職業紹介に近い形になる)契約は職業安定法上のリスクがあり、業務範囲の線引きが甘いまま個人情報だけを渡してしまう発注者が後を絶ちません。

個人情報保護委員会の統計でも、委託先を経由した漏洩事案は年々増加傾向にあります。採用担当者が「代行会社に任せたから安心」と考えて監督を怠るケースが典型的な失敗パターンです。個人情報保護法25条は、委託先の監督を委託元(発注者)の義務として明記しており、代行会社任せにした瞬間に発注者側の責任が消えるわけではありません。

採用代行に委託できる業務とNDAで守るべき情報の範囲

委託できる業務の線引き

採用代行に委託できる業務は、大きく分けて次の3つです。

・母集団形成(求人媒体への出稿、スカウト送信、エージェント対応) ・選考事務(応募者対応、日程調整、書類のスクリーニング) ・採用活動全般のコンサルティング(採用戦略立案、面接官トレーニング)

これらはいずれも「委託募集」(職業安定法上、労働者の募集を第三者に行わせる行為)には該当しない範囲で設計されている限り、業務委託契約として適法に委託できます。一方で、最終的な採用可否の意思決定や、応募者との労働条件交渉そのものを丸ごと委託すると、職業紹介や労働者供給に該当するリスクが出てきます。この境界線は業務委託契約書の条文だけでは判断できず、実際の運用実態(誰が最終決定権を持つか)まで含めて確認する必要があります。

NDAで守るべき個人情報の範囲

NDAの対象になる「秘密情報」は、契約書に列挙するだけでは不十分です。採用代行では最低限、以下の項目をNDAの対象として明記すべきです。

・応募者の氏名・住所・連絡先・生年月日 ・学歴・職歴・資格情報 ・履歴書・職務経歴書の原本データおよびコピー ・面接評価シート、選考メモ ・給与条件、内定条件などの労働条件情報

重要なのは「個人情報」という抽象語だけで括らず、具体的な情報の種類を列挙することです。抽象的な条文だと、委託先が「これは個人情報に該当しない」と独自解釈する余地が生まれ、トラブル時の責任の所在が曖昧になります。

個人情報保護法25条:委託先監督義務を正しく理解する

採用代行(RPO)業者への業務委託の場合、人材採用に関する専門的知識や経験を持った従業員による業務遂行がなされることから、高品質な業務を受けられることが期待されます。

出典: leggenda.co.jp

個人情報保護法25条は、個人データの取り扱いを委託する場合、委託元は委託先に対して「必要かつ適切な監督」を行わなければならないと定めています。この監督義務は、次の3段階に分解できます。

段階1:委託先の適切性の確認(選定前)

委託先を選ぶ前に、その会社が個人情報保護に関する体制(プライバシーマーク、ISMS認証、社内規程の有無)を持っているかを確認する義務があります。「知り合いに紹介されたから」「価格が安いから」だけで選定すると、この段階の義務を果たしていないと判断されるリスクがあります。

段階2:契約内容への安全管理措置の明記

NDAまたは業務委託契約書の中に、委託先が講じるべき安全管理措置(アクセス制限、暗号化、再委託の禁止または事前承諾制、データ廃棄方法)を具体的に明記する必要があります。ここが曖昧な契約書は、監督義務を果たしたとは評価されにくくなります。

段階3:委託先における取扱状況の把握

契約締結後も、委託先が実際にどのように個人データを取り扱っているかを定期的に把握する必要があります。年1回の報告書提出や、選考終了後のデータ廃棄証明書の受領といった運用が代表例です。

正直なところ、この3段階を全部きちんと運用している中小企業はまだ少数派です。NDAの雛形をそのまま流用し、段階2の「契約内容への明記」だけで満足してしまうケースが目立ちます。しかし段階1と段階3を欠くと、漏洩事故が起きた際に「監督義務違反」を指摘される可能性が高くなります。

採用代行の費用相場とサービス種類

採用代行の費用体系は主に3パターンです。

固定報酬型:月額15万円〜50万円程度。母集団形成から選考事務まで包括的に委託する場合の相場です。 ・成果報酬型:採用決定1名あたり理論年収の30%〜35%程度。人材紹介に近い価格帯になります。 ・時間単価型2,000円〜5,000円程度/時間。書類選考や日程調整などスポット業務を切り出して委託する場合です。

代理店を通す固定報酬型は月額の下限が高く設定されがちで、これは代理店のディレクション費用や営業マージンが上乗せされているためです。個人の業務委託先(フリーランスの採用担当経験者)へ直接依頼すれば、同じ業務範囲でも時間単価型で月手数料0%の直接契約が組めることが多く、中間マージンが乗らない分コストを抑えられます。ただし、時間単価型で個人へ直接依頼する場合は、NDAと業務委託契約書を発注者自身が用意する必要があり、契約書の不備がそのままリスクに直結する点は注意が必要です。

採用代行を利用するメリット

採用代行を利用する主なメリットは次の通りです。

採用担当者の工数削減:書類選考や日程調整といった定型業務を外部化することで、採用担当者は面接や口説き(クロージング)といった高付加価値業務に集中できます。 ・専門知識の活用:母集団形成のノウハウや、応募者体験(候補者体験)を高める対応フローなど、社内に蓄積されていないノウハウを短期間で導入できます。 ・繁忙期の一時的な増員に対応できる:中途採用が集中する時期だけ委託先を増やすといった柔軟な運用が可能です。

採用代行を利用するデメリットと注意点

一方で見落とされがちなデメリットもあります。

個人情報管理の責任は消えない:先述の通り、委託しても監督義務は発注者に残ります。「丸投げできる」という期待は正しくありません。 ・候補者体験の劣化リスク:委託先の対応品質が低いと、応募者が「対応が事務的で冷たい」と感じ、選考辞退につながることがあります。 ・社内にノウハウが蓄積されない:委託期間が終わると、採用ノウハウが社内に残らず、次回また外部に頼る構造になりがちです。

特に個人情報管理の責任が消えないという点は、契約前に必ず社内の決裁者と共有しておくべきです。「代行会社と契約すれば安心」という誤解のまま進めると、事故発生時に「聞いていない」というトラブルに発展します。

失敗しない委託先の選び方

委託先選定では、価格だけでなく次の3点を必ず確認してください。

1. 個人情報保護に関する体制の有無

プライバシーマークやISMS認証を取得しているか、取得していない場合は社内規程がどの程度整備されているかを確認します。フリーランスの個人に委託する場合は、認証取得は現実的でないため、代わりにNDAの条文で安全管理措置を具体的に定める必要があります。

2. 再委託の可否と範囲

委託先がさらに別の業者や個人に業務を再委託する(いわゆる孫請け)可能性があるかを確認します。再委託を許可する場合は、再委託先にも同等のNDA義務を課す条項(再委託先への義務の承継)を必ず入れてください。ここを曖昧にしたまま契約すると、情報がどこまで広がっているか把握できなくなります。

3. データ廃棄の方法と証跡

選考終了後、応募者データをどのように廃棄するか(電子データの完全削除、紙資料のシュレッダー処理)と、廃棄した証跡をどう受け取るかを契約時に定めておきます。「廃棄予定」だけでは、実際に廃棄されたかを確認する手段がありません。

採用代行(RPO)業者が持つ専門的知識や豊富な経験を活用した募集要件案や業者選定などを受けることができ、自社の採用活動の成功の可能性を高めたり、採用活動の効率や質を上げることも期待されることでしょう。

出典: leggenda.co.jp

この引用の通り、採用代行にはメリットも多くありますが、それは「委託先の選定を誤らなければ」という前提付きです。安さだけで選んだ結果、NDAの条文が形骸化していて漏洩時に責任の所在が曖昧になった、という相談は珍しくありません。

委託の流れ

実務上の委託フローは概ね次の順序で進みます。

  1. 業務範囲の棚卸し:どこまでを委託するか(母集団形成のみか、選考事務まで含むか)を社内で確定する
  2. 委託先候補の選定:認証の有無、実績、価格を比較する
  3. NDAの締結:業務委託契約と同時、または業務委託契約に先行して締結する
  4. 業務委託契約書の締結:委託業務の内容、報酬、個人情報の取扱い条項を具体的に明記する
  5. 運用開始とモニタリング:定期報告やデータ廃棄証明の受領を運用に組み込む

NDAと業務委託契約を別々の書面にするか、1つの契約書に統合するかは会社によって異なりますが、個人情報の取扱い条項は業務委託契約書側に必ず含めることをお勧めします。NDA単体では「秘密保持」しか定められず、安全管理措置の具体的な履行義務までは通常カバーしきれないためです。

独自データ考察:直接依頼と代理店経由、何が違うのか

代理店経由の採用代行と、フリーランス個人への直接依頼を比較すると、契約構造そのものが大きく異なります。代理店経由の場合、NDAは代理店との間で締結されますが、実際に作業するのは代理店に所属する担当者や、場合によっては代理店がさらに再委託した個人であることが少なくありません。この「再委託の連鎖」が長くなるほど、発注者から見た情報の所在把握が難しくなります。

一方、フリーランス個人へ直接依頼する場合は、NDAの相手方と実作業者が一致するため、責任の所在が明確です。ただし、個人と直接契約する以上、NDAの条文設計や安全管理措置の具体化は発注者側が主導する必要があり、雛形をそのまま使うのではなく、渡す情報の種類に応じて条文をカスタマイズする姿勢が求められます。

具体的には、応募者の氏名・連絡先までを渡すのか、履歴書の原本データまで渡すのかで、必要な安全管理措置のレベルは変わります。原本データまで渡す場合は、アクセスできる端末を限定する条項、業務終了後のデータ完全削除の証跡提出、再委託の原則禁止(例外は事前の書面承諾のみ)といった条項を明記すべきです。中間マージンが乗らない分、浮いた予算をNDA・契約書の法務チェック(弁護士によるレビュー)に回すという判断も、発注者にとって合理的な予算配分です。

長くこの市場を見てきた立場から言えば、情報漏洩トラブルの多くは「契約書の条文が甘かった」ことよりも「契約後に誰も内容を運用していなかった」ことが原因になっているケースが目立ちます。NDAを締結して終わりにするのではなく、選考が終わるたびにデータ廃棄の確認を実施する、委託先の担当者が変わったタイミングで再度NDAの内容を確認する、といった継続的な運用が、契約書の条文以上に漏洩防止の実効性を左右します。額面だけを見て「安いから」で選ぶ発注者は多いですが、直接取引で浮いた予算を運用体制の強化に充てられるかどうかが、結果的に個人情報保護の実効性を分けています。

個人的な失敗談として、以前フリーランスの採用代行担当者に業務委託した際、見積もり比較だけに時間をかけすぎて、NDAの安全管理措置の条文を雛形のまま使ってしまったことがあります。後から「再委託の可否」が契約書に明記されていないことに気づき、結果的に契約を一度巻き戻して条文を追加する手間が発生しました。安さや実績だけで比較して満足せず、契約書の中身(特に再委託とデータ廃棄の条項)まで見ておくべきだったと反省しています。

採用代行に応募者情報を渡すという行為は、単なる業務効率化の手段ではなく、個人情報保護法上の管理責任を伴う意思決定です。NDAの条文を具体的に設計し、委託先監督義務の3段階を運用に落とし込むことが、発注者にとって最もリスクの少ない委託の形になります。

在宅ワークで採用実務経験を持つ人材に業務委託する場合、募集要件の整理や選考事務の切り出し方はAIコンサル・業務活用支援のお仕事で紹介している業務設計の考え方も参考になります。委託先の候補を比較する際は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場のような職種別の単価データを見ることで、採用代行担当者に支払う時間単価の妥当性を検証する材料にもなります。また、NDAの条文設計そのものについてはフリーランスのNDA(秘密保持契約)|テンプレート付き解説ガイドで必要な条項を具体的に確認しておくと、契約書のカスタマイズがスムーズになります。個人情報保護法の改正動向も踏まえて条文を最新化しておきたい場合は2026年最新の個人情報保護法改正ポイント|Cookie規制と企業の対応義務で全体像を押さえておくことをお勧めします。

よくある質問

Q. 採用代行にNDAを結ばずに個人情報を渡すのは違法ですか?

NDA自体は法律上の必須要件ではありませんが、個人情報保護法25条の委託先監督義務を果たすには、安全管理措置を契約書で具体的に定める必要があります。NDAなしで渡すと監督義務違反を問われるリスクが高くなります。

Q. 採用代行の費用相場はどのくらいですか?

固定報酬型は月額15万円〜50万円、成果報酬型は採用者の理論年収の30%〜35%、時間単価型は2,000円〜5,000円程度が目安です。委託する業務範囲によって適した形態が変わります。

Q. フリーランス個人に採用代行を直接依頼するリスクは何ですか?

NDAや業務委託契約書の条文設計を発注者側が主導する必要がある点がリスクです。雛形をそのまま使わず、渡す情報の種類に応じて安全管理措置や再委託条項をカスタマイズすることが重要です。

Q. 委託先が個人情報を再委託した場合、責任は誰にありますか?

発注者の監督義務は再委託先にも及びます。契約書で再委託を原則禁止するか、承諾制にした上で再委託先にも同等のNDA義務を課す条項を入れておく必要があります。

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この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月5日最終更新:2026年9月2日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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