役員報酬は経費になるのか|認められる3つの形

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
役員報酬は経費になるのか|認められる3つの形

この記事のポイント

  • 役員報酬を経費にするには
  • 国税庁が定める3つの支給の形のどれかに当てはめる必要があります
  • 当てはめても否認される2つの関門を一次資料で確かめて整理しました

役員報酬は経費になるのか。結論から書きます。なります。ただし条件があって、国税庁が定めた3つの支給の形のどれかに当てはまっているときだけです。当てはまらない払い方をすると、会社は現金を実際に払っているのに、税金の計算上はなかったものとして扱われます。

この「払ったのに経費にならない」という状態が、法人を作ったばかりの人にとっていちばん理解しづらいところです。仕入れも外注費も、払えば経費になります。役員報酬だけは違う。しかも、うっかり払い方を間違えたことに気づくのは、たいてい決算のときです。そのときにはもう直せません。

この記事では、経費として認められる3つの形を1つずつ見たあとで、その形に当てはめても否認される2つの関門を説明します。読み終えたときに、自分の会社の払い方が安全かどうかを自分で判定できる状態を目指します。

なぜ役員報酬だけが特別扱いされるのか

前提として、会計の話と税金の話は別物です。会計では、事業のために払ったお金は基本的に費用になります。ところが税金の計算では、実際に払っていても経費として認めないものが出てきます。

役員報酬がその筆頭に挙がる理由は単純です。役員報酬を決めるのは役員自身だからです。社員の給料は会社が決め、社員が受け取ります。決める人と受け取る人が違います。役員報酬は、決める人と受け取る人が同じになりえます。1人で会社を作った場合は完全に一致します。

すると、決算の直前に利益が出そうだと分かった段階で、自分の報酬を積み増して利益を消す、という調整が可能になってしまいます。これを止めるために、税法は役員報酬の払い方そのものに型をはめました。決算の状況を見てから金額を動かせないようにする、というのがすべての条件の背景にある考え方です。

このことを理解しておくと、細かい条件を丸暗記しなくても判断できるようになります。迷ったときは「この払い方は、決算の見通しを知ってから金額を動かせるか」を自問してください。動かせるなら、ほぼ認められません。

国税庁は、経費にできる3つの形を次のように示しています。

法人が役員に対して支給する給与(注)の額のうち次に掲げる定期同額給与、事前確定届出給与または一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入されません。 ただし、次に掲げる給与のいずれかに該当するものであっても、不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入されません。 出典: nta.go.jp

損金とは、税金の計算をするときに利益から差し引けるお金のことです。日常語の「経費」とほぼ同じ意味ですが、税法ではこの言葉を使います。この記事では読みやすさのために経費と書きますが、正確には損金のことだと考えてください。

引用の後半にある「ただし」の部分が、後で説明する関門です。3つの形に当てはまっても、それだけでは終わりません。

形その1:毎月同じ額を払う(定期同額給与)

いちばん多く使われているのがこれです。条件は2つだけです。支給する間隔が1か月以下であること。そして、その事業年度の各支給時期の金額が同じであること。

月給として毎月25日に50万円ずつ払う。これで条件を満たします。特別な届出は要りません。社長1人の会社でも使えます。

「同額」の判定には注意点があります。手取り額ではなく、額面が同じであれば構いません。逆に、額面から源泉所得税や社会保険料を引いた後の金額が同じ、という形でも認められます。どちらかにそろっていればよいということです。

問題になるのは金額を変えたいときです。原則として、事業年度の途中で金額を変えると、変えた分が経費になりません。ただし3つの例外があります。

1つめは、事業年度が始まってから3か月を経過する日までに変える場合です。3月決算の会社なら、4月に始まって6月末までに決めれば間に合います。この期間に定時株主総会を開いて報酬額を決め直すのが、いちばん一般的なやり方です。裏を返すと、この時期を逃すと、その事業年度はもう金額を動かせません。

2つめは、役員の地位や仕事の中身が大きく変わったときです。国税庁はこれを臨時改定事由と呼んでいます。取締役だった人が社長になった、担当する事業が大きく変わった、といった場面です。単に忙しくなったというだけでは当たりません。

3つめは、会社の経営状況が著しく悪化したときです。これを業績悪化改定事由といい、金額を下げる方向の改定に限って認められます。ここには明確な線引きがあります。国税庁は「法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれません」と書いています。今月の支払いが厳しいから下げる、目標に届かなかったから下げる、という理由では通りません。取引先が倒れて売上の大半が消えた、といった水準の話です。

実務でいちばん多い失敗が、この3つのどれにも当たらないタイミングで金額を変えてしまうことです。たとえば期の途中で月50万円から80万円に上げた場合、増やした30万円の部分が、残りの月数分だけ経費になりません。8か月残っていれば240万円が消えます。その金額に法人税がかかるうえ、受け取った本人には所得税も社会保険料もかかります。二重に損をする形です。

逆に下げた場合は、下げたあとの金額がその年度の基準になるので、下げる前に多く払っていた部分が経費から外れます。上げても下げても痛いということです。

なお、毎月おおむね一定の金額で提供される現物の利益も、この定期同額給与に含まれます。社宅の家賃を会社が負担している場合などがこれにあたります。

形その2:先に届け出てから賞与を払う(事前確定届出給与)

役員に賞与を払いたい場合の型がこれです。いつ、いくら払うかを事前に決めて税務署に届け出て、そのとおりに払う。この3点がそろって初めて経費になります。

届出の期限は複雑に見えますが、原則は次の2つのうち早いほうです。

株主総会などで支給を決めた日(その日が職務の執行を開始する日より前なら、開始する日)から1か月を経過する日。もうひとつが、会計期間が始まった日から4か月を経過する日です。新しく作った会社が、設立時に始まる職務について定めた場合は、設立の日から2か月を経過する日が期限になります。

3月決算の会社が5月の株主総会で12月の賞与を決めたなら、6月末までに届け出ます。4月開始で4か月後の7月末より、5月から1か月後の6月末のほうが早いからです。早いほうが期限になる点を取り違えると、1か月遅れて全額が経費から落ちます。

この制度の厳しさは、届け出た内容と実際の支給が1円でも1日でもずれると、その賞与の全額が経費にならないところにあります。一部だけが否認されるのではありません。100万円と届け出て90万円払ったら、90万円の全額が経費から外れます。支給日を1日ずらしても同じです。

だから使い方にはコツがあります。業績が読めないうちに大きな金額を届け出ないこと。そして、払えないと分かった時点で「払わない」という選択をすること。全額を払わなければ、その賞与についてはそもそも支給がなかったことになるので、会社の利益は減りませんが余計な否認も起きません。中途半端に減額して払うのが、いちばん損をする選択です。

届出をしたあとで内容を変えられる場面もあります。役員の地位が変わったときと、業績が著しく悪化して金額を減らすときです。どちらも変更の届出に期限があり、地位が変わった場合はその日から1か月、業績悪化の場合は変更を決議した日から1か月(その前に支給日が来るならその前日)とされています。

また、届出の期限に間に合わなかった場合でも、やむを得ない事情があると認められれば救済される仕組みが用意されています。ただしこれは例外的な扱いなので、最初から当てにするものではありません。

形その3:業績に連動させる(業績連動給与)

3つめは、利益や株価、売上といった指標に連動して金額が決まる給与です。結論を先に書くと、中小企業ではまず使えません。

条件を見れば理由が分かります。同族会社は原則として対象外です。同族会社とは、ごく少数の株主で株式の大半を持っている会社のことで、日本の中小企業のほとんどがこれにあたります。例外として認められるのは、同族会社ではない法人に完全に支配されている会社だけです。

さらに、算定の方法を報酬委員会などの適正な手続きで決めていること、その内容を有価証券報告書などで開示していることが求められます。有価証券報告書を出しているのは上場企業などに限られます。

だから実務上は「役員報酬を経費にする方法は2つある」と理解しておいて差し支えありません。毎月同額で払うか、事前に届け出て賞与を払うか。この2つです。3つめは上場企業のための制度だと割り切って構いません。

ただし、知識として知っておく価値はあります。取引先の上場企業が役員報酬をどう決めているかを理解する手がかりになりますし、自社がいずれ資本を入れる段階に進むときには関係してきます。

3つの形に当てはめても外される2つの関門

ここからが見落とされがちな部分です。定期同額給与の形をきれいに守っていても、それだけで経費が確定するわけではありません。

1つめの関門が「不相当に高額な部分」です。法人税法施行令の第70条は、相当な金額かどうかを判断する材料として、その役員の仕事の中身、会社の収益の状況、社員に対する給与の支給の状況、そして同じ業種で規模が似ている会社の役員給与の状況を挙げています。この4つを照らし合わせて、対価として相当と認められる金額を超える部分が経費から外れます。

具体的な金額の線は法律に書かれていません。売上がいくらなら報酬はいくらまで、という表は存在しないということです。実務で問題になりやすいのは、仕事の実態がほとんどない役員に高い報酬を払っている場合です。名前だけ役員にしている家族への報酬は、ここを突かれます。逆に、代表者が実際に営業も現場も回している会社で、社員の給与水準との差が説明できるなら、金額そのものが理由で否認される場面は多くありません。

もうひとつ、同じ第70条には別の基準があります。定款や株主総会の決議で役員報酬の上限を決めている会社が、その上限を超えて払った場合、超えた部分は経費になりません。こちらは金額がはっきりしているので、争う余地がありません。定款や過去の株主総会で上限を決めたかどうかを確かめておくべきなのは、この理由からです。上限を決めてあることを忘れて、その枠を超えて払っているケースが実際にあります。

2つめの関門が、事実を隠したり、帳簿を作り変えたりして払った役員給与です。この場合は、3つの形に当てはまるかどうかに関係なく、全額が経費になりません。前に触れた「不相当に高額な部分だけが外れる」という扱いですらなくなります。

「役員」に含まれる人は、肩書きだけでは決まらない

ここも実務で効くところです。登記簿に取締役として載っている人だけが役員ではありません。

法人税法施行令の第7条は、登記されていなくても役員として扱われる人を定めています。ひとつは、社員としての地位だけを持つ人以外で、会社の経営に関わっている人。もうひとつは、同族会社で一定の株式を持っていて、会社の経営に関わっている人です。

分かりやすいのが、代表者の配偶者や親が「相談役」「顧問」といった肩書きで実際の経営判断に加わっているケースです。この人に払うお金は、給料ではなく役員報酬として扱われます。つまり毎月同額でなければ経費になりません。肩書きが社員のままだからと、期の途中で金額を変えていると、そこを指摘されます。

逆方向の話もあります。役員でありながら、部長や工場長といった社員としての仕事も持っている人がいます。これを使用人兼務役員といい、社員としての職務に対する部分については、賞与を払っても経費にできる余地があります。ただし、代表取締役や、同族会社で一定以上の株式を持つ役員はこの扱いを受けられません。社長が「自分は営業部長も兼ねている」と主張しても通らないということです。

自分の会社で誰が役員にあたるのかは、報酬の払い方を決める前に確認しておく必要があります。ここを間違えると、払い方の型をいくら守っても意味がなくなります。

金額を決めるときに見るべき3つの数字

経費になるかどうかとは別に、いくらにするかという問題があります。ここで比べるべき数字は3つです。

1つめは法人税です。役員報酬を増やせば会社の利益が減り、法人税が減ります。中小企業の法人税率は、所得のうち年800万円までの部分と、それを超える部分で分かれています。さらに地方税が乗るため、実際の負担率は所得の規模で変わります。

2つめは個人の所得税と住民税です。役員報酬を増やせば、受け取る本人の税金が増えます。所得税は金額が大きくなるほど税率が上がる仕組みなので、増やしすぎると個人側の負担が重くなります。

ここで効いてくるのが給与所得控除です。役員報酬は給与として扱われるので、受け取る側は収入に応じた一定額を経費のように差し引けます。国税庁の給与所得控除の表では、令和8年分と令和9年分について、収入220万円までは74万円、220万円を超え360万円までは収入の30%に8万円を足した額、360万円を超え660万円までは収入の20%に44万円を足した額とされています。850万円を超えると195万円で頭打ちです。

この控除があるため、同じ金額を会社に残すより、役員報酬として受け取ったほうが全体の税負担が軽くなる範囲が存在します。ただし頭打ちがあるので、その範囲を超えると効果が薄れます。

3つめが社会保険料です。役員報酬を増やすと、健康保険料と厚生年金保険料が増えます。しかもこれは会社と本人で半分ずつ負担するので、会社側の負担も一緒に増えます。税金だけを見て報酬を決めると、この部分を見落として、かえって手元に残る金額が減ることがあります。

3つを合わせた最適な金額は、会社の利益の見込み、家族構成、住んでいる自治体によって変わります。だから、この記事も含めて一般的な記事の数字をそのまま当てはめるのは危険です。実際の金額は、決算の見込みが立った段階で税理士か税務署に相談して決めてください。役員報酬は一度決めると原則1年動かせないので、相談する価値がいちばん高い論点でもあります。

決めるまでの手順と、いつ決めるか

実際の流れを時間順に並べます。

設立して最初の事業年度なら、設立の日から3か月以内に役員報酬を決めます。この期間内に決めて、そこから毎月同額を払えば定期同額給与になります。設立直後は売上の見込みが立たないので、低めに設定しておいて、翌期に見直すという進め方が現実的です。設立から3か月を過ぎてしまうと、その期はもう定期同額給与として動かせません。

2期目以降は、事業年度が始まってから3か月以内に株主総会を開きます。前期の決算が固まっているので、その数字と今期の見込みを並べて金額を決めます。決めたら株主総会の議事録に残します。この議事録がないと、いくらに決めたのかを説明できません。税務調査で最初に求められる書類のひとつです。

賞与を出したい場合は、同じ株主総会で支給日と金額を決めて、期限内に税務署へ届け出ます。前に書いたとおり、決議から1か月と会計期間開始から4か月の、早いほうが期限です。

金額を決めたら、毎月の給与計算で源泉所得税を引いて、翌月10日までに納めます。社会保険の手続きも並行して進めます。役員報酬は給与なので、源泉徴収票を作り、年末調整の対象にもなります。

ここまでの作業を自分でやるか外に出すかは、会社の規模で変わります。ただ、最初の1年だけは自分で一度通してみる価値があります。どこに期限があるのかが体で分かるからです。

現金で払っていなくても報酬になるもの

役員報酬というと振込の金額だけを思い浮かべますが、税法が見ているのはお金の流れだけではありません。会社が役員に与えた利益は、現金でなくても報酬として扱われることがあります。これを経済的利益といいます。

典型が住まいです。会社が借りた部屋に役員が住んでいて、役員が家賃を払っていない場合、本来払うべき金額が報酬とみなされます。この「本来払うべき金額」は国税庁が計算式を定めていて、部屋の広さと固定資産税の課税標準額から算出します。この金額以上を役員が会社に払っていれば、給与として課税されません。

車も同じ考え方です。会社名義の車を役員が私用で使っている場合、その分の利益が報酬にあたります。会社の経費で役員個人の生命保険料や住宅ローンを払っている場合も同様です。

なぜここが定期同額給与の話につながるかというと、経済的利益も「毎月おおむね一定の金額であること」が条件になっているからです。国税庁は定期同額給与の3つめの類型として、継続的に提供される経済的利益のうち、その額が毎月おおむね一定であるものを挙げています。月ごとに金額が大きく動く形で会社が費用を負担していると、その部分が経費から外れる余地が生まれます。

見落とされやすいのは、現金の報酬と経済的利益を合計した金額が、その役員への報酬額になるという点です。定款や株主総会で報酬の上限を決めている会社の場合、現金だけで枠に収まっていても、経済的利益を足すと超えてしまうことがあります。超えた分は前に書いたとおり経費になりません。

会社の経費で払っているものの中に、役員個人が受け取っている利益が混ざっていないか。決算の前に一度、費用の明細を上から見ていく作業をしておくと、指摘される前に気づけます。

1人で作った会社で金額を置いてみる

抽象的な話が続いたので、具体的に並べます。代表者1人だけの会社で、年間の売上から役員報酬以外の経費をすべて引いた金額が800万円残る見込みだとします。この800万円を、会社に残すか、役員報酬として受け取るかという配分の問題になります。

全額を会社に残した場合、800万円に法人税と地方税がかかります。手元に残った資金は会社のものなので、個人の生活費としては使えません。使うには報酬か配当という形で出す必要があり、そこでまた課税されます。

全額を役員報酬にした場合、会社の利益はゼロに近くなるので法人税はほぼかかりません。ただし個人側で、年収800万円に対する所得税と住民税、そして社会保険料がかかります。社会保険料は会社と本人で折半なので、会社側にも負担が発生し、その分だけ会社の費用が増えます。給与所得控除は850万円を超えると195万円で頭打ちなので、800万円はその手前にあたります。

実務で多いのは、その中間に置く形です。生活に必要な金額に一定の余裕を足した水準を役員報酬にして、残りを会社に置く。会社に置いた資金は設備投資や採用、あるいは次の期の赤字に備える原資になります。

ここで注意したいのが、次の期の見通しです。役員報酬は1年動かせないので、今期の利益を基準に決めると、来期に売上が落ちたときに苦しくなります。創業から数年の会社ほど、この振れ幅が大きい。だから初年度と2期目は、利益の最大化ではなく、下振れしても払い続けられる水準で置くほうが安全です。

金額の正解はありません。会社の事業内容、家族構成、扶養している人の有無、住んでいる自治体の保険料率で変わります。決算の見込みが立った段階で、具体的な数字を持って税理士か税務署に相談してください。判断を他人に任せるのではなく、選択肢を3つ用意して意見を聞くのが、いちばん早く結論に近づく進め方です。

間違えやすい場面を5つ

編集部で実務の相談事例を見ていると、つまずく箇所はほぼ共通しています。

1つめは、利益が出たので決算前に報酬を増やすという発想です。これは制度の狙いそのものが封じている行動なので、まず通りません。利益を減らしたいなら、賞与を出すために事前の届出をしておくか、別の手段を考えることになります。

2つめは、資金繰りが苦しいので数か月だけ報酬を止めるという対応です。止めた月があると同額でなくなるので、その年度の扱いに影響します。未払いのまま計上し続けるという方法もありますが、これも実態が伴っていないと指摘の対象になります。

3つめは、役員報酬と役員貸付金を混同することです。会社から個人へ生活費を出して、それを貸付として処理し続けていると、実質は報酬だと見なされることがあります。貸付なら返済の計画と利息が必要です。

4つめは、家族への報酬です。仕事の実態がないのに役員報酬を払っていると、不相当に高額な部分として外されます。何をやっているかを記録しておくことが、そのまま防御になります。

5つめが、定款や過去の議事録で決めた上限の存在を忘れることです。上限を超えた部分は自動的に経費から外れます。設立時に作った定款を一度開いて確認してください。

議事録に何を書けば説明できる状態になるか

役員報酬が経費として認められるかどうかは、最後は書類で決まります。毎月同じ額を払っていても、いくらに決めたのかを示す書類がなければ、決めた事実そのものを証明できません。

株主総会の議事録に書く項目は決まっています。開催した日付、場所、出席した株主とその議決権の数、議長が誰か、決議した内容、そして議事録を作った人の氏名です。役員報酬については、総額の上限を決める形と、役員ごとの金額まで決める形の2通りがあります。

上限だけを決めた場合は、その枠内で誰にいくら配るかを別途決める必要があります。取締役会がある会社なら取締役会、ない会社なら取締役の話し合いで決めて、その記録を残します。つまり書類が2段階になります。この2段目を作り忘れている会社が実際にあり、上限しか決まっていない状態で個別の金額を払っていることになってしまいます。

役員ごとの金額まで株主総会で決めてしまえば、書類は1枚で済みます。役員が少ない会社ならこちらのほうが簡単です。ただし金額を変えるたびに株主総会が必要になります。

日付にも意味があります。事業年度が始まってから3か月を経過する日までに決めた、という事実を示すのが議事録の役割なので、実際に決めた日付で作ります。後から日付をさかのぼって作った書類は、他の資料との整合性が取れなくなったときに問題になります。

そして、決めた金額どおりに払われているかは、通帳と給与台帳で確かめられます。議事録で月50万円と決めたのに、通帳の振込額が月によって違うという状態は、すぐ分かります。書類と実際の動きをそろえることが、いちばん確実な備えです。

賞与について事前の届出をした場合は、届出書の控えを保管します。届け出た日付、支給日、金額が記録として残るので、支給時に見比べられます。支給日が休日に当たるときの扱いも先に決めておくと、うっかり1日ずれる事故を防げます。

書類の作成そのものは難しい作業ではありません。ただ、毎年必ず発生する作業でもあります。この種の定型文書を社内の誰かに任せられる体制にしておくと、決算期の負担がはっきり軽くなります。

会社の外に仕事を出す判断と、役員報酬の関係

在宅ワークや業務委託の市場を20年見てきた立場から言うと、役員報酬の考え方は、会社が仕事をどう外に出すかという判断と地続きです。

役員報酬は1年間動かせません。社会保険料も固定です。つまり、役員報酬を上げるという決定は、その事業年度の固定費を確定させるということです。一方、業務委託で外部に頼む費用は、仕事量に応じて動かせます。同じ100万円でも、固定費として置くか、変動費として置くかで、業績が読めない時期のリスクがまったく違います。

小さな会社が最初の数年で苦しくなるパターンには共通点があります。売上が伸びる前提で役員報酬を高めに設定し、社会保険料と税金の負担が先に来て、資金繰りが詰まる。そのときに報酬を下げようとしても、業績悪化改定事由に当たらなければ動かせません。制度が助けてくれない設計になっているわけです。

だから、立ち上がりの時期は役員報酬を抑えめに置いて、変動費で回すという選び方が理にかないます。運営者として見てきた限りでは、長く続いている小さな会社ほど、この順番を守っています。固定費を増やすのは、その仕事が毎月あると確認できてからです。

そして、変動費として仕事を外に出すときに効いてくるのが、どういう経路で人に頼むかです。仲介の手数料が乗る経路では、同じ予算でも依頼できる量が減り、受ける側の手取りも薄くなります。手数料0%の直接取引が意味を持つのは、金額の大小よりも、依頼する側と受ける側の双方が続けられる条件になりやすいという点です。単発で切って安く買い叩く関係より、続く関係のほうが結果的に安く付きます。

職種ごとの相場を見てから固定費と変動費を配分する

外に出す費用を変動費として設計するなら、職種ごとの相場を先に知っておく必要があります。相場を知らずに発注すると、安すぎて誰も受けないか、高すぎて続かないかのどちらかになります。

開発系の仕事を外に出す場合の水準は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場に職種別の数字が並んでいます。年間でいくらかかるかを概算しておけば、その分を役員報酬に回すのか外注に回すのかという比較ができます。

文章や資料の作成を任せたい場合は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場が目安になります。議事録や社内規程、取引先への説明資料といった文書は、役員が自分で書くと時間を食う割に付加価値が乗りにくい作業です。

どういう案件が実際に出ているかを見ておくと、外注できる範囲の感覚がつかめます。業務の流れを整理して自動化まで設計する領域ならAIコンサル・業務活用支援のお仕事、集客や情報管理までまとめて見てもらうならAI・マーケティング・セキュリティのお仕事、社内の仕組みを自前で作るならアプリケーション開発のお仕事が近い領域です。

経理まわりの知識を自分で持っておきたい場合は、確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツに、個人側で使える控除の考え方が整理されています。役員報酬は給与として受け取るものなので、個人の確定申告とも無関係ではありません。役員報酬として受け取った資金をどう置くかという話であれば、【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオに長期の積み立てを前提にした考え方がまとまっています。職種ごとの収入差を俯瞰したい場合は、UI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】が参考になります。社内の担当者に経理や文書の作業を任せる体制を作るなら、ビジネス文書検定のような基準を目安にする方法もあります。

役員報酬を経費にできるかどうかは、払い方の型を守るかどうかで決まります。そして金額をいくらにするかは、その会社がこの1年で固定費をどこまで持てるかという経営判断です。この2つを分けて考えると、判断はかなり軽くなります。

よくある質問

Q. 役員報酬を経費にするには何をすればいいですか?

毎月同じ額を1か月以下の間隔で払う形(定期同額給与)にするのが基本です。特別な届出は要りません。金額は事業年度が始まってから3か月を経過する日までに株主総会で決め、議事録に残します。賞与を出したい場合は、支給日と金額を事前に税務署へ届け出る事前確定届出給与を使います。この2つ以外の払い方は、原則として経費になりません。

Q. 期の途中で役員報酬を変えたらどうなりますか?

原則として、増やした部分や、減らしたことで生じた差額が経費になりません。例外は3つで、事業年度開始から3か月を経過する日までの改定、役員の地位や職務が大きく変わったときの改定、経営状況が著しく悪化したときの減額です。一時的な資金繰りの都合や、業績目標に届かなかったという理由は、この3つめには当たらないと国税庁が明記しています。

Q. 役員に賞与を払うことはできますか?

できます。ただし事前確定届出給与として、支給日と金額を事前に税務署へ届け出る必要があります。届出の期限は、株主総会などで決めた日から1か月を経過する日と、会計期間開始から4か月を経過する日の、早いほうです。届け出た金額や日付と1円でも1日でもずれると、その賞与は全額が経費になりません。払えないと分かったら、減額せず全額を払わない選択のほうが損失は小さくなります。

Q. 家族を役員にして報酬を払っても経費になりますか?

仕事の実態があれば経費にできますが、実態がないと不相当に高額な部分として否認される可能性があります。判断材料として、その人の職務の内容、会社の収益、社員への給与の状況、同業で規模が似た会社の水準が挙げられています。何をどれだけやっているかを記録に残しておくことが防御になります。金額の妥当性は個別の事情で変わるので、税務署か税理士に確認してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月14日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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