社長個人の支払いを会社の経費にできる範囲

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
社長個人の支払いを会社の経費にできる範囲

この記事のポイント

  • 役員経費はどこまで認められるのか
  • 社長個人が払った費用を会社の経費にできる範囲を
  • 国税庁の公開資料をもとに整理した

役員経費という言葉で検索する人の多くは、すでに法人を作ったあとで、目の前の領収書を前に手が止まっている。この飲食代は落ちるのか、自宅の家賃は何割まで入れていいのか、車はどうか。結論から書くと、社長個人が払ったお金を会社の経費にできるかどうかは、金額でも勘定科目でもなく「その支払いが会社の仕事のために必要だったか」の一点で決まる。そしてこの判断を外したとき、会社は経費を否認されるだけでなく、社長個人にも税金がかかるという二重の負担を負う。この記事では、認められる支払いと認められない支払いの線引きを、国税庁が公開している基準に沿って具体的に並べていく。

役員経費の線引きは「会社の仕事のためか」の一点で決まる

まず言葉を揃えておく。ここで言う役員経費とは、社長や取締役といった役員が、自分の財布やクレジットカードで先に払い、あとから会社に請求して精算する費用のことを指す。会社名義のカードで直接払う場合も、判断の基準は同じだ。

法人が払ってよい費用は、事業のために必要な支出に限られる。個人の生活のための支出は、会社が肩代わりした時点で「会社が社長に給与を払ったのと同じ」と扱われる。国税庁はこの考え方を、役員に対する経済的利益という名前で整理している。

法人が役員および特殊関係使用人(以下「役員等」といいます。)に支給する給与には、金銭によるもののほか、債務の免除による利益その他の経済的な利益も含まれます。 出典: nta.go.jp

同じページには、経済的利益に当たるものの例として「役員等の個人的費用の負担額」がはっきり挙げられている。つまり、社長の私的な支払いを会社が負担したら、それは経費ではなく給与だ、というのが出発点になる。

ここが重要なのは、給与と扱われた瞬間に不利益が連鎖するからだ。役員に払う給与は、毎月同じ額を払う形(定期同額給与)か、事前に税務署へ届け出た形でなければ、会社の経費として認められない。期末にまとめて出てきた私的支出は、どちらにも当てはまらないので会社側では経費にならず、それでいて社長個人の給与として所得税の対象になる。会社は損金にできず、個人は課税される。この非対称さが、役員経費の判断を慎重にしなければならない理由になっている。

法人化した人がつまずきやすいのは、個人事業主だった頃との感覚の差だ。個人事業では、家事按分という考え方で自宅家賃の一部を経費にするのが当たり前だった。法人になると、会社と社長は別人格になる。別人格の間でお金が動く以上、「なぜ会社がそれを払うのか」を説明できる形にしておかないと通らない。感覚を切り替えるところから始めたほうがいい。

会社の経費として認められやすい支払い

線引きの話を抽象的に続けても使えないので、実際に多くの中小企業が処理している項目を具体的に見ていく。

出張や移動にかかったお金

取引先への訪問、現地調査、出張の宿泊費と交通費は、会社の業務のための移動である限り経費になる。ここは争いが少ない領域だ。ただし「誰と会うために」「どこへ行き」「何をしたか」が残っていないと、あとから説明できない。交通系ICカードの履歴だけでは目的が分からないので、訪問先を記録する習慣を持っておく。

出張が多い会社では出張旅費規程を作り、宿泊費や日当の金額をあらかじめ決めておく方法がよく使われる。規程に基づいて支給した日当は、実費精算と違って領収書が不要になる代わりに、金額が世間相場からかけ離れていると給与とみなされる余地が出る。同業同規模の水準に収める、という発想で決めるのが安全だ。

打ち合わせの飲食代

飲食代は、金額基準が近年変わった項目なので注意がいる。取引先との飲食で、参加人数で割った金額が1人あたり10,000円以下であれば、接待交際費から外して全額を経費にできる。この基準は令和6年3月31日以前の支出では5,000円だったので、古い記事や古い社内ルールをそのまま使っていると判断を誤る。

飲食その他これに類する行為(以下「飲食等」といいます。)のために要する費用(専らその法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除きます。)であって、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が10,000円以下である費用 出典: nta.go.jp

この扱いを受けるには、記録を残すことが条件になっている。国税庁が挙げている保存事項は、飲食した年月日、参加した取引先などの氏名や名称とその関係、参加人数、費用の額と店の名称や所在地、そのほか飲食であることを示すために必要な事項の5つだ。領収書の裏に相手の会社名と人数を書き込むだけで条件を満たせるので、習慣にしておきたい。

括弧書きに気づいた人もいると思うが、社長と役員だけ、あるいは家族だけの飲食はこの枠から外れる。身内だけの食事は、金額がいくらであっても社内飲食費として扱われ、1人1万円以下の除外規定は使えない。

なお交際費そのものも、資本金1億円以下の会社なら年800万円までは経費にできる定額控除の枠がある。設立したばかりの小さな会社で、この枠を使い切ることはまずない。正直なところ、中小企業にとって効いてくるのは金額の上限よりも「相手と目的の記録があるか」のほうだ。

自宅兼事務所の家賃、電気代、通信費

自宅で仕事をしている社長が最も悩むのがここだ。法人の場合、個人事業のような家事按分をそのまま持ち込むことはできない。取れる形は大きく2つある。

1つは、社長個人が借りている部屋の一部を会社に貸し、会社が社長へ賃料を払う形。この場合、社長側には不動産所得が立つので、確定申告が必要になる。もう1つは、会社が大家と直接契約して借り上げ、社宅として社長に貸す形。手間は増えるが、税務上の扱いは後者のほうが整理しやすい。

按分の割合は、仕事に使っている面積の比率や、仕事に使っている時間の比率で計算する。数字を決めたら、その根拠を1枚のメモに残しておく。間取り図に仕事部屋を塗って面積を書き込んだものがあれば十分だ。割合そのものより、説明できる形で残っていることが効いてくる。

電気代や通信費も同じ考え方で分ける。インターネット回線のように仕事と生活の切り分けが難しいものは、使用時間の比率でおおよその線を引く。業務専用のスマートフォンを1台分けてしまえば、通信費は全額が経費になるうえ、按分の説明もいらなくなる。手間を減らしたいなら、分けてしまうのが早い。

仕事で使う車

車は、会社名義で購入またはリースし、業務に使っている限り経費になる。ガソリン代、任意保険、自動車税、車検、駐車場代も同様だ。私用にも使うなら、走行距離などで業務使用の割合を出して按分する。

高額な車を社長専用で買うと、業務との関連を説明しにくくなる。営業で顧客を乗せる、機材を運ぶ、といった業務上の必要性が語れるかどうかが分かれ目になる。運行記録を簡単でいいので残しておくと、あとで説明の材料になる。

社宅として借りた住まい

社宅は、役員経費の中でも数字がはっきり決まっている珍しい項目だ。会社が借りた住宅を役員に貸す場合、役員から一定額以上の家賃を受け取っていれば、給与として課税されない。その一定額を賃貸料相当額と呼ぶ。

床面積が小さい住宅(法定耐用年数30年以下の建物なら132平方メートル以下、30年超なら99平方メートル以下)の場合、賃貸料相当額は次の3つの合計になる。建物の固定資産税の課税標準額の0.2%、12円に建物の総床面積を3.3平方メートルで割った数を掛けた額、敷地の固定資産税の課税標準額の0.22%。この計算をすると、実際の家賃よりかなり低い金額になることが多い。

役員に対して社宅を貸与する場合は、役員から1か月当たり一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます。)を受け取っていれば、給与として課税されません。 出典: nta.go.jp

注意点が2つある。1つは、床面積が240平方メートルを超える住宅や、プールなど一般の住宅にない設備があるものは豪華社宅とされ、この計算式が使えないこと。もう1つは、現金で住宅手当を渡す方法や、社長個人が契約している部屋の家賃を会社が払う方法は、社宅の貸与とは認められず全額が給与として課税されることだ。会社が契約者になっているかどうかで結論が変わるので、ここは形式を守る必要がある。

固定資産税の課税標準額は、市区町村で固定資産課税台帳を閲覧すれば分かる。借りている物件でも、賃借人であれば閲覧できる自治体が多い。計算に必要なのはこの数字だけなので、入居時に一度取っておけばいい。

社宅の金額を実際に計算してみる

計算式だけを並べても実感がわかないので、数字を入れてみる。

会社が床面積70平方メートルのマンションを借り、家主へ月12万円を払って社長に貸すとする。固定資産課税台帳で調べた建物の固定資産税の課税標準額が500万円、敷地の課税標準額が持分に対応する分で300万円だったとする。法定耐用年数が30年を超える鉄筋コンクリート造でも、床面積が99平方メートル以下なので小規模な住宅に当たる。

建物の課税標準額500万円に0.2パーセントを掛けて10,000円。12円に70を3.3で割った数を掛けて約254円。敷地の課税標準額300万円に0.22パーセントを掛けて6,600円。3つを足すと約16,854円になる。

つまり社長が会社へ月17,000円ほど払っていれば、給与として課税される部分は出ない。会社は家主へ12万円を払い、社長から17,000円を受け取るので、差額の約10万3,000円が会社の費用として残る。実際の家賃の1割強を負担するだけで残りを会社に付けられるのが、この制度の効き方だ。

床面積が小規模な住宅の範囲を超えると、計算式が変わる。会社が自分で持っている建物なら、建物の課税標準額に12パーセント(法定耐用年数が30年を超える建物は10パーセント)、敷地の課税標準額に6パーセントを掛けて足し、12で割った額になる。他から借りた住宅を貸す場合は、家主へ払う家賃の50パーセントと、この計算で出た額を比べて、多いほうが賃貸料相当額になる。広い家を借りると社長の負担が家賃の半分まで上がる、という理解でおおむね合っている。

受け取る家賃が足りないときの扱いもはっきりしている。無償で貸せば賃貸料相当額の全額が給与として課税され、賃貸料相当額より低い家賃しか受け取っていなければ、その差額が給与として課税される。金額を決めたら、毎月きちんと受け取るところまでやらないと意味がない。給与から控除する形にしておけば、受け取り忘れが起きない。

なお区分所有のマンションでは共用部分の扱いなど判断が分かれる部分があるので、計算に使う数字は固定資産課税台帳で確認し、迷う点は税務署か税理士に確認してほしい。

会社の経費にできない支払い

次は逆側だ。社長が「これも仕事に関係する」と考えがちで、実際には通らない支出を挙げる。

家族だけの食事、社長の自宅で使う家電や家具、日用品。これらは業務との関連を説明する手立てがない。会社のカードで払っていても、その時点で経費ではなく給与になる。

スーツ、腕時計、眼鏡。仕事で着るのだから、という言い分は理解できるが、私生活でも使えるものは原則として個人の負担になる。会社のロゴが入った作業着やユニフォームのように、業務以外で使いようがないものなら会社の費用として通る。線引きは「その服を休日に着るか」で考えると分かりやすい。

社長個人が契約している生命保険や医療保険の保険料。役員個人が受取人になっている保険料を会社が払えば、それは給与として扱われる。国税庁が経済的利益の例として明記している項目でもある。

会社の資金を社長が個人的に使った場合の処理も押さえておきたい。精算されないまま残ると、会社から社長への貸付金として扱われ、会社は社長から利息を取る必要が出てくる。無利息で貸し続ければ、本来受け取るべき利息分が給与とみなされる。役員貸付金が膨らむと、金融機関から融資を受けるときの評価にも響く。私的な支出は、その都度会社に返しておくのが結局いちばん安く済む。

経費にしすぎたときに起きる3つのこと

役員経費を広く取りすぎると、あとから何が起きるのか。順番に整理する。

1つ目は、会社の経費として認められないことだ。否認された分だけ利益が増えるので、法人税を追加で払うことになる。中小企業の法人税率は所得年800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分が23.2%なので、否認額の1割から2割強が直接の負担になる。

2つ目は、社長個人への課税だ。否認された支出は役員給与として扱われるため、社長の給与所得が増える。所得税の税率は課税所得に応じて5%から45%の7段階で、これに住民税が加わる。会社で経費にできず、個人でも課税される。同じお金に二度税金がかかる形になる。

3つ目は、源泉徴収の漏れだ。給与とみなされた分は、本来なら会社が源泉徴収して国に納めているはずのお金だ。それをしていなかったわけだから、会社が不足分を納める。加えて、期限までに納めていなかったことへの負担も生じる。

この3つが同時に来るので、「少しくらいなら」という判断が思ったより高くつく。逆に言えば、線引きを守っている限りは何も起きない。判断に迷う領収書を1枚増やすより、確実に通るものだけを積み上げるほうが、手取りの計算が立てやすい。

迷ったときに使える4つの問い

判断に迷ったら、次の4つを順に自分に聞いてみるといい。どれか1つでも答えに詰まるなら、経費にしないほうが安全だ。

1つ目、その支出がなかったら売上や業務に支障が出たか。出ないなら、それは会社のための支出ではない。

2つ目、社長以外の人が同じ立場にいたとして、会社はその人にも同じ支出を認めるか。社長だけの特別扱いは、経済的利益として指摘されやすい。

3つ目、相手と目的を第三者に1行で説明できるか。飲食なら誰と何のために、車なら誰をどこへ運んだか。説明が長くなるものほど通りにくい。

4つ目、証拠が残っているか。領収書、メール、カレンダーの予定、訪問記録。これらが揃っていれば、多少グレーでも説明の土俵に乗る。

立て替え精算を会社として回すための実務

判断の基準が決まったら、次は運用だ。社長1人の会社でも、精算の形を作っておくと後の作業が一気に軽くなる。

まず、経費精算規程を1枚作る。対象になる費用の種類、上限額、申請の期限、必要な証拠を書くだけでいい。役員だけが使う仕組みだとしても、文書にしておくことで「会社のルールに従って払った」という説明が立つ。

次に、領収書に情報を書き足す習慣をつける。飲食なら相手の会社名と人数。移動なら訪問先。これを受け取った直後に書いておけば、月末に記憶をたどる作業が消える。

3つ目に、個人のクレジットカードと会社のカードを分ける。混ざっていると、明細から業務分を拾い出す作業が毎月発生する。法人カードを1枚作って業務の支払いをそこに寄せるだけで、精算の手間は大きく減る。

4つ目に、立て替えの精算は月1回にまとめる。都度振り込むと振込手数料が積み上がるうえ、記帳が煩雑になる。月末締めで翌月まとめて振り込む形にしておけば、現金の動きも追いやすい。

これらは税務のためというより、社長の時間を守るための仕組みだ。会計ソフトを入れていても、元になる記録が曖昧なら結局は手作業になる。

帳簿にどう書くか

判断と運用が決まったら、最後は記帳だ。よく出てくる3つの形を並べる。

社長が交通費2万円を立て替えた場合。使った時点で旅費交通費2万円を計上し、相手方は未払金にしておく。あとで社長の口座へ振り込んだときに、未払金2万円を消して預金を減らす。立て替えが月に何件もあるなら、月末に精算書1枚でまとめて計上すれば仕訳が1本で済む。

社宅の場合。会社が家主へ払う12万円は地代家賃として計上し、社長から受け取る17,000円は受取家賃や雑収入として計上する。地代家賃から直接差し引く処理をしている会社もあるが、どちらでも結果は同じだ。社長の給与から控除して受け取るなら、給与計算の控除項目に社宅使用料の行を作っておく。

社長が私的な支出を会社の口座から払ってしまった場合。その金額は役員貸付金として資産に計上する。返してもらうまでは会社が社長に貸している状態なので、利息を受け取る必要が出てくる。年に一度でいいので、残高と利息の計算を確認する時間を作っておく。放置して残高が膨らむと、決算書を見る金融機関の評価に響く。

勘定科目の選び方そのものは会社の方針で決まる部分が大きい。前期の仕訳を開いて、同じ科目を使い続けるほうが比較しやすい。科目を変える必要が出たときは、変えた理由を1行メモに残しておく。

数字で見る「経費にする」ことの効果と限界

経費を増やすことが常に得とは限らない。ここは冷静に見たほうがいい。

会社の利益を減らせば法人税は減る。ただし、そのお金は社長個人には残らない。仕事に本当に必要な支出なら会社が払えばいいが、経費を増やすこと自体を目的にすると、会社から現金が出ていくだけで終わる。

社長の手元にお金を残したいなら、役員報酬を上げるほうが筋がいい。給与には給与所得控除があり、収入金額に応じて一定額が自動的に差し引かれる。令和8年分と令和9年分では、収入850万円超で控除額は195万円の上限に達する。この控除は、領収書を1枚も集めなくても受けられる。

ただし役員報酬を上げると社会保険料も増える。厚生年金保険の保険料率は18.3%で固定されており、会社と本人が半分ずつ負担する。健康保険と合わせると、報酬額の3割近くが保険料として出ていく計算になる。法人税だけを見て判断すると、この部分を見落とす。

結論を言えば、役員経費は「税金を減らす道具」ではなく「会社の支出を正しく会社に付ける作業」だ。仕事に必要だから払う、必要だから経費になる。この順番を逆にすると、どこかで無理が出る。実際の金額や事情によって有利不利は変わるので、報酬と経費のバランスを詰めるときは税務署か税理士に確認してほしい。

毎年決まった時期にやることになる手続き

役員経費は日々の判断だが、役員報酬のほうは年に一度の手続きになる。ここを外すと、経費の工夫が全部吹き飛ぶくらいの影響が出るので、合わせて押さえておきたい。

役員に毎月払う報酬は、1か月以下の一定の期間ごとに同じ額を払うもの(定期同額給与)でなければ、会社の経費として認められない。金額を変えられるのは、原則として事業年度が始まる日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までだ。3月決算の会社なら、4月から6月末までの間に決めた改定が対象になる。

この期限を過ぎてから報酬を増やすと、増やした差額部分が経費として認められない。減らす場合も同じで、期の途中の減額が認められるのは、役員の地位や職務内容が大きく変わった場合(臨時改定事由)か、会社の経営状況が著しく悪化した場合(業績悪化改定事由)に限られる。国税庁は後者について、一時的な資金繰りの都合や、単に目標に届かなかったことは含まれないと明記している。売上が思ったより伸びなかったから下げる、という理由は通らない。

つまり、社長の手取りを決める最大の変数は、期首から3か月以内に1回だけ動かせる。この1回のために、前期の実績と今期の見込みを並べて、報酬額と経費の見込みを一緒に考える時間を取っておくといい。経費の判断を積み上げるより、ここを丁寧にやるほうが手取りへの影響は大きい。

決めた金額は、株主総会の議事録に残す。1人会社でも同じで、書面に残っていなければ「決めた」ことの証明ができない。議事録は数行で足りるので、決めた日にその場で作ってしまうのが確実だ。

合同会社の場合はどこが違うか

合同会社で事業をしている人も同じ疑問を持つので、違いを整理しておく。

合同会社には取締役がいない。会社を動かすのは業務を執行する社員だ。ただし税金の話では呼び名の違いがそのまま扱いの違いになるわけではない。法人税法2条15号は役員を、取締役や執行役などに加えて「これら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるもの」と定めている。合同会社で業務を執行する社員はここに入るので、役員給与としての扱いは株式会社とほぼ同じになる。

したがって、毎月同じ額を払う形にしないと経費にならないという縛りも、期首から3か月以内でなければ金額を変えられないという縛りも、同じようにかかる。社宅の計算式も、飲食代の1人1万円の基準も、株式会社と合同会社で分かれていない。

違いが出るのは、金額を決める手続きのほうだ。株式会社では株主総会の決議で決めて議事録に残すが、合同会社では社員の同意という形になる。定款で報酬の決め方を定めている会社はその定めに従う。いずれにしても、決めた事実が書面に残っていなければ説明できないという点は変わらない。

もう1つの違いは、社員に支払う利益の配当だ。合同会社では定款で損益の分配割合を定められるが、配当として受け取る部分は経費になる報酬ではない。報酬として受け取るのか、配当として受け取るのかで税金の扱いが変わるので、ここは金額が大きくなる前に税理士に相談したほうがいい。

税務調査で聞かれやすい3つのこと

役員経費に関して、調査の場で実際に問われるのは細かい金額ではなく、判断の一貫性だ。よく出てくるのは次の3つになる。

1つ目は、飲食代の相手だ。誰と会ったのかが分からない領収書が並んでいると、私的な飲食ではないかという見方をされる。相手の名前が書いてあるものと書いていないものが混在していると、書いていないほうに目が向く。全部に書くか、書けないものは経費にしないか、どちらかに寄せておくほうがいい。

2つ目は、按分の根拠だ。自宅兼事務所の家賃を50%で入れているなら、なぜ半分なのかを説明できる必要がある。面積で測ったのか、時間で測ったのか。根拠のメモが1枚あるかないかで、話の進み方が変わる。

3つ目は、社長個人の生活費との切り分けだ。会社の口座から生活費が出ていないか、役員貸付金が増え続けていないか。ここは帳簿を見ればすぐ分かる部分なので、日常的に分けておく以外に対処のしようがない。

いずれも、あとから作れるものではない。だからこそ、最初に基準を決めて機械的に運用する形が効いてくる。

20年この市場を見てきた運営者の観察

在宅ワークと業務委託の市場を長く運営してきた立場から言うと、法人化した人のうち、経費の処理で消耗している人にはある共通点がある。判断の基準を持たないまま、案件ごとに考えているのだ。

領収書を1枚手にするたびに「これは落ちるだろうか」と考えていると、1枚あたり数分の迷いが毎日積み上がる。月に50枚あれば、それだけで数時間が消える。長く続く人ほど、最初の段階で線引きを決めて、あとは機械的に振り分けている。迷う時間を減らすために基準を作る、という順番になっている。

もう1つ気づくのは、手取りの厚さが精神的な余裕に直結していることだ。発注者と直接つながる形の仕事は、間に入る業者へのマージンが乗らないぶん、同じ予算でも受け手に残る金額が厚くなる。手数料0%の直接取引が効いてくるのはここで、依頼する側は同じ予算でより多く頼め、受ける側は同じ仕事で手取りが増える。経費で数万円を削る工夫より、取引の形を変えるほうが手取りへの影響がはるかに大きい、という場面を何度も見てきた。

法人にしたあとで経費の話ばかりが大きくなるのは、たいてい売上が伸び悩んでいるときだ。運営者として見てきた限りでは、順調な会社ほど経費の判断はシンプルで、線引きに時間を使っていない。

職種のデータから見える、経費のかかり方の違い

役員経費の構成は、会社が何を売っているかで大きく変わる。職種ごとの収入データと仕事の中身を並べると、その差がはっきり見えてくる。

開発の仕事は、費用の中心が人の時間と機材になる。パソコン、クラウドの利用料、開発ツールの年間ライセンス。どれも業務との関係を説明しやすく、按分の悩みが少ない。単価の水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場にまとまっているが、経費率が低いぶん、売上がそのまま利益に近い形で残る業種だと言える。案件の種類はアプリケーション開発のお仕事を見ると分かりやすい。

書く仕事も似た構造を持つ。取材のための移動費と資料代が中心で、設備投資がほとんどいらない。著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると単価の幅は広いが、経費が少ないぶん、役員報酬をどこに置くかの判断が手取りに直結する。

一方、コンサルティングのように人と会うことが仕事の中心にある業種は、交際費と移動費の比率が上がる。飲食の1人1万円基準や、記録の残し方が効いてくるのはこの領域だ。AIコンサル・業務活用支援のお仕事のように、クライアント先に入って進める案件が多いほど、精算の仕組みを先に整えておく価値が大きくなる。セキュリティや広告運用のように、ツールの利用料が毎月かかる領域もある。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事を見ると、業務に必要なサービスの契約が仕事の前提になっている様子が分かる。

資格取得のための費用も、業務に必要と言えるかどうかで扱いが変わる。会社の業務に直接必要な技能を身につけるための研修費や受験料は、会社の費用として処理できる余地がある。ネットワーク構築を請け負う会社にとってのCCNA(シスコ技術者認定)や、書類作成の品質が納品物に直結する会社にとってのビジネス文書検定は、業務との関連を説明しやすい例だ。逆に、事業と関係のない趣味的な資格は個人負担になる。

投資や資産形成との線引きも整理しておきたい。会社の余剰資金をどう扱うかと、社長個人の資産形成は別の話だ。個人の積み立てについては【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオで扱っているが、これは役員報酬として受け取ったあとのお金の使い方であり、会社の経費とは切り離して考える必要がある。個人事業主時代の経費感覚を振り返りたい人は確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツが参考になる。職種ごとの収入差そのものに関心があるならUI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】も見ておくといい。

役員経費の判断は、最初に基準を決めてしまえば、そのあとは作業になる。国税庁のタックスアンサーは項目ごとに基準が書かれているので、迷う項目が出たときに国税庁のページで該当項目を確認する習慣をつけておくと、判断の質が安定する。金額や事情によって結論が変わる部分は残るので、最終的な判断は税務署か税理士に確認してほしい。

よくある質問

Q. 社長が個人のカードで払った打ち合わせの飲食代は経費になりますか?

取引先との飲食で、参加人数で割った金額が1人あたり10,000円以下なら、接待交際費から外して全額を経費にできます。ただし飲食した日、相手の名称と関係、参加人数、費用の額と店の名称や所在地を記録として残すことが条件です。役員と家族だけの飲食はこの扱いを受けられません。

Q. 自宅で仕事をしている場合、家賃はどこまで経費にできますか?

法人では個人事業の家事按分をそのまま使えません。社長個人の部屋を会社に貸して賃料を受け取るか、会社が直接借りて社宅として貸す形を取ります。按分の割合は仕事に使う面積や時間の比率で決め、間取り図などの根拠を残しておくと説明しやすくなります。

Q. 経費が否認されると、どのくらいの負担になりますか?

会社では経費にならないため法人税が増え、中小企業なら所得800万円以下の部分で15%、超える部分で23.2%が追加の負担になります。さらに否認額は社長の給与として扱われ、所得税と住民税もかかります。源泉徴収の不足分も会社が納めることになります。

Q. 会社が借りた部屋に社長が住む場合、家賃はいくら払えばよいですか?

国税庁が定める賃貸料相当額以上を会社に払えば給与として課税されません。小規模な住宅なら、建物の固定資産税課税標準額の0.2%、12円×総床面積÷3.3、敷地の課税標準額の0.22%の合計額です。無償で住むと全額が給与として課税されます。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月22日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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