役員報酬をいくらにするか|会社と個人の合計で比べる


この記事のポイント
- ✓役員報酬の金額決め方を
- ✓会社と個人の負担を合計して比べる考え方で整理
- ✓事業年度の開始から3か月という期限
役員報酬をいくらにすればよいのか。この問いに悩む人の多くは、会社の税金と個人の税金を別々に考えてしまっている。まず、安心してほしい。判断の物差しは1つでよい。会社が払う法人税と、個人が払う所得税と住民税、それに会社と本人が折半する社会保険料を、全部足した金額で比べる。この合計がいちばん小さくなるところを探すのが、役員報酬を決めるという作業の中身だ。この記事では、その合計をどう見るか、いつまでに決めるのか、決めたあとに変えられる場面はどこかを、順番に整理していく。
役員報酬は1年間動かせない。だから決め方が重要になる
最初に、この判断の重さを押さえておく。役員報酬は、いったん決めたら原則としてその事業年度の間は変えられない。
会社の経費にできる役員給与は3つの型に限られている。毎月同じ額を払う定期同額給与、事前に届け出た内容どおりに払う事前確定届出給与、そして上場企業向けの業績連動給与だ。中小企業の社長が毎月受け取る報酬は、1つ目の定期同額給与にあたる。
定期同額給与として認められるには、支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であることが必要になる。そして、金額を変えられる時期が限られている。
(1) その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月(確定申告書の提出期限の特例に係る税務署長の指定を受けた場合にはその指定に係る月数に2を加えた月数)を経過する日(以下「3月経過日等」といいます。)まで(継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定で、その改訂が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にはその改訂の時期まで)にされる定期給与の額の改定 出典: nta.go.jp
事業年度が始まってから3か月以内に決めて、その後は同じ額を払い続ける。3月決算の会社なら6月末まで、12月決算の会社なら3月末までだ。この期限を過ぎてから増額すると、増えた分は会社の経費にならない。
つまり、期首の時点で1年分の見込みを立てて金額を固定することになる。売上の着地が見えてから調整する、ということができない。この制約があるからこそ、決め方の手順を持っておく価値がある。
なお、支給額そのものではなく、支給額から源泉徴収される所得税や社会保険料などを差し引いた金額が同額であるものも、定期同額給与に含まれる。手取りを一定にする形でも要件を満たす余地がある、ということになる。どちらの形にするかは、経理の処理のしやすさで選べばよい。
「会社と個人の合計」で比べるとはどういうことか
役員報酬を上げると、会社の利益が減る。利益が減れば法人税が減る。一方で、個人の所得が増えるので所得税と住民税が増え、社会保険料も増える。
逆に役員報酬を下げると、会社に利益が残って法人税が増え、個人の税と社会保険料は減る。どちらに振っても、片方が減れば片方が増える。だから、片側だけを見て「報酬を上げれば節税になる」と考えると必ず外す。
見るべきは、次の4つを足した金額だ。
1つ目は、会社が払う法人税とその関連の税金。2つ目は、会社が負担する社会保険料。3つ目は、個人が払う所得税と住民税。4つ目は、個人が負担する社会保険料。
このうち2つ目を忘れる人が多い。社会保険料は会社と本人が半分ずつ負担するので、役員報酬を上げると会社の支出も同じだけ増える。報酬の額面だけで原資を計算していると、期の後半で資金が足りなくなる。
区切りの位置も押さえておきたい。法人税は、資本金1億円以下の中小法人であれば年800万円以下の所得の部分が15%、それを超える部分が23.20%になる。ただし前3年の所得の年平均額が15億円を超える法人などは、800万円以下の部分も19%だ。税額表は国税庁のページで確認できる。
個人の側は、課税される所得の金額で税率が変わる階段になっていて、5%から45%までの7段階ある。これに住民税が原則として一律10%乗る。
この2つを並べると、会社に残すほうが軽く見える帯と、個人で受け取るほうが軽く見える帯があることが分かる。ただし、会社に残したお金を後で個人に移すときに、また課税される点は忘れないでほしい。最終的にどちらが有利かは、その会社が利益をどう使うつもりかで変わる。
金額を決める手順を5つに分ける
考える順番を固定すると、迷う時間が短くなる。次の順で進める。
手順1 年間の利益の見込みを立てる
役員報酬を引く前の利益を見積もる。すでに決まっている継続契約の売上と、例年の実績から見た新規の見込みを分けて出し、そこから報酬以外の経費を引く。
このとき、決まっている売上だけで計算した数字と、見込みを含めた数字の2つを作っておく。報酬は、決まっている売上だけで払える範囲に収めるのが安全だ。見込みが外れても払い続けられる。
手順2 個人の生活に必要な金額を出す
毎月の生活費、住宅ローンや家賃、教育費、保険料を積み上げる。そこに、個人が払う所得税と住民税、社会保険料の本人負担分を足す。さらに予備費を乗せる。
法人化した翌年は、住民税に注意が要る。住民税は前の年の所得に対してかかるので、個人事業だった年の所得に基づく金額が来る。報酬を低く置きすぎると、この支払いで詰まる。
手順3 社会保険料の等級を確認する
毎月の報酬は、一定の幅で区切った標準報酬月額に当てはめて保険料が計算される。
現在の標準報酬月額は、1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれています。 出典: nenkin.go.jp
厚生年金の標準報酬月額は65万円で頭打ちになる。等級には幅があるので、境目のすぐ上に金額を置くと、わずかな差で保険料が1段上がる。手順2で出した金額の前後で等級表を見て、境目をまたいでいないかを確かめる。
保険料率は、厚生年金が18.3%で固定されている。健康保険は加入している保険者や都道府県で違うので、協会けんぽの料率表か健康保険組合の資料で確認する。
手順4 会社に残す利益とのバランスを見る
手順1の利益から、手順2で出した報酬の年額と、会社が負担する社会保険料を引く。残りが会社に残る利益になる。
ここで、残る利益が800万円を大きく超えるなら、報酬をもう少し上げる余地がある。逆に残りがマイナスになるなら、報酬を下げるか、経費の見直しが要る。翌期の設備投資や採用の予定があるなら、その分を先に取り分けておく。
手順5 株主総会で決議して議事録を残す
金額が決まったら、手続きを踏む。役員の報酬は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決める。1人株主の会社でも省略はできない。
議事録には、決議した日、対象の役員、金額、いつから払うのかを書く。書式に決まりはないが、この議事録が金額の決定時期を示す唯一の材料になる。決議したその日に作ってしまうのが確実だ。
3つの配分を、動く数字だけで並べてみる
言葉だけでは感覚がつかみにくいので、部品ごとに数字を出してみる。役員報酬を引く前の年間の利益が1,200万円の会社で、報酬を月30万円、月60万円、月90万円の3通りにした場合を比べる。ここで出すのは厚生年金保険料と法人税の国税分だけで、健康保険料、住民税、法人事業税、所得税は含めていない。あくまで動きの向きを見るための数字だと考えてほしい。
まず厚生年金保険料から。保険料率は18.3%で、会社と本人が半分ずつ負担する。実際には報酬を等級表に当てはめるので端数は変わるが、おおよその水準はこうなる。月30万円なら年間でおよそ65万9,000円、月60万円ならおよそ131万8,000円。月90万円の場合は標準報酬月額の上限である65万円で頭打ちになるので、およそ142万7,000円で止まる。報酬を月60万円から月90万円に上げても、厚生年金の保険料は1.5倍にはならない。
次に法人税の国税分。年間の利益1,200万円から、報酬の年額と会社が負担する保険料を引いた残りが会社の利益になる。月30万円なら会社に残るのはおよそ807万円で、800万円以下の部分に15%、超える部分に23.20%がかかる。月60万円ならおよそ414万円、月90万円ならおよそ49万円が残り、いずれも15%の帯に収まる。報酬を上げるほど法人税は小さくなる。
ここに個人の所得税と住民税が乗る。月90万円の場合、給与の年間収入は1,080万円になり、給与所得控除は195万円の上限に達している。課税される所得が大きくなるので、税率の高い帯に入っていく。つまり、報酬を上げると法人税と厚生年金保険料の伸びは途中で鈍るが、個人の所得税と住民税は伸び続ける。
この3つの動き方が違うので、合計がいちばん小さくなる点は真ん中のどこかにある。どこなのかは、その人の扶養家族の数、生命保険料控除や住宅ローン控除の有無、健康保険の料率によって動く。正確な金額は、この4つの部品をすべて入れた試算でしか出ない。税理士に依頼するときは、報酬の候補を3つ出して、それぞれの合計を出してもらう形にすると比べやすい。
毎年の見直しで確認する3つのこと
役員報酬は、一度決めて終わりではない。期首ごとに見直す作業として組み込んでおく。確認するのは3つだ。
1つ目は、前期の着地と今期の見込みの差だ。前期に立てた見込みが、実際の決算とどれだけずれたかを見る。読みが大きく外れていたなら、今期の見込みも同じ方向に外れる可能性がある。ずれの理由が一時的なものか、構造的なものかを分けて考える。
2つ目は、個人の支出の変化だ。子どもの進学、住まいの変更、家族の増減で必要な生活費は変わる。報酬を決めるときの土台が動いているのに、金額だけ据え置きにしている会社は多い。
3つ目は、社会保険の等級だ。報酬を少し上げたつもりが等級の境目をまたいで、保険料が1段上がっていることがある。逆に、境目のすぐ下に収まるように調整できる場面もある。等級表は毎年確認する。
この3つを見たうえで、金額を据え置くのか、上げるのか、下げるのかを決める。据え置くと決めた場合でも、その決議を行って議事録に残す。何も手続きをしなかった年があると、その年の金額の根拠が説明できなくなる。
見直しの作業は、期首の1日を充てれば終わる。決算書と通帳と家計の支出を並べて、3つを確認し、決議して議事録を作る。これを毎年同じ時期にやると決めてしまうと、迷う時間そのものがなくなる。
退職金という受け取り方も視野に入れておく
毎月の報酬だけがお金の受け取り方ではない。会社に利益を残して、将来まとまった金額を退職金として受け取る道もある。
退職金は退職所得として、給与とは別の方法で税額が計算される。退職所得の金額は、収入金額から退職所得控除額を引いた残りに2分の1を掛けて求める。控除額は勤続年数で決まり、20年以下なら1年につき40万円、20年を超える部分は1年につき70万円が積み上がる。勤続30年なら800万円に70万円の10年分を足して1,500万円になる。
(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額 出典: nta.go.jp
ただし注意点がある。役員として勤務した期間が5年以下の人が受け取る退職金については、この2分の1の計算が使えない。法人を作ってすぐに退職金を出すような設計は成り立たない、ということになる。
また、会社が払う退職金が経費になるかどうかは、その役員が業務に従事した期間、退職の事情、同じ業種で同じくらいの規模の会社の支給状況などから見て相当な金額かどうかで判断される。いくらでも出せるわけではない。
それでも、長く続ける前提の会社であれば、毎月の報酬を抑えて会社に利益を残し、将来の退職金として受け取る設計には意味がある。毎月の報酬に寄せるか、退職金に寄せるかは、何年その会社を続けるつもりかで変わる。10年以上の時間軸で考える話になるので、会社を作った時点で一度、税理士と方針を話しておくとよい。
役員報酬をゼロにするとどうなるか
創業直後で売上がまだ立っていない会社では、報酬をゼロにする選択もある。ただ、ゼロには副作用がある。
1つ目は、社会保険だ。報酬がゼロだと、健康保険と厚生年金の被保険者になれない。国民健康保険と国民年金に自分で加入することになる。将来の年金額にも影響する。
2つ目は、個人の信用だ。住宅ローンや賃貸の審査では、給与としての収入が見られる。会社に利益が出ていても、個人の収入がゼロだと審査は通りにくい。
3つ目は、その年に決めた金額を後から増やせないことだ。期首にゼロと決めて、期の途中で売上が立ったから報酬を払い始める、という形は定期同額給与の要件から外れる。増やした分は会社の経費にならない。
逆に、報酬を低く置いて会社に利益を残す設計には利点もある。法人税を払ったあとの現金が会社に貯まるので、次の投資に回せる。個人に移したいときは、将来の退職金という形で受け取る道もある。
創業期は判断の材料が少ないので、生活費をまかなえる最低限の金額を置いて、翌期の期首に見直すのが現実的だ。1年待てば実績という材料が手に入る。
期の途中で変えられる3つの場面
原則は1年間固定だが、例外がある。3つの場面を押さえておく。
1つ目は、通常改定だ。事業年度の開始から3か月以内の改定であれば、増額でも減額でも認められる。毎年この時期に見直すのが基本の運用になる。
2つ目は、臨時改定事由だ。役員の職制上の地位の変更や、職務内容の重大な変更といったやむを得ない事情による改定は、期の途中でも認められる。取締役が代表取締役になった、担当していた部門が大きく変わった、といった場面が当てはまる。
3つ目は、業績悪化改定事由だ。会社の経営状況が著しく悪化した場合の減額は、期の途中でも認められる。ただし国税庁は、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことはこれに含まれないと明記している。思ったより売れなかった、という理由では使えない。
この3つ以外の理由で期の途中に増額すると、増えた分は会社の経費にならない。減額した場合は、減額後の金額を超える部分が経費にならないという扱いになり得る。いずれにしても、期の途中の変更は決議と議事録で理由を残しておく。変更した理由が書かれていないと、後から説明ができない。
家族に払う給与にも役員のルールが及ぶことがある
配偶者や親に給与を払っている会社は、ここを確認しておいてほしい。登記していないから従業員だ、とは限らない。
国税庁の整理では、同族会社の使用人のうち、株式の持ち方について3つの要件をすべて満たし、その会社の経営に従事している人は、税務上の役員として扱われる。要件は、株主のグループを持ち株の割合が大きい順に並べたときに上位のグループに属していること、その人が属するグループの持ち株割合が10%を超えていること、その人自身(配偶者などを含む)の持ち株割合が5%を超えていることの3つだ。
この3つを満たすと、いわゆるみなし役員になる。みなし役員に払う給与は、役員給与のルールに従うことになる。つまり、期の途中で増やせないし、賞与を出すには事前確定届出給与の届出が要る。
中小企業の多くは同族会社に該当する。配偶者に株式を持たせていて、経理や営業の意思決定にも関わっている、という状態はよくある形だ。従業員のつもりで期の途中に昇給させたり、賞与を出したりすると、その分が会社の経費にならない可能性が出てくる。
判定は株主名簿を見れば済む。持ち株の割合と、その人が実際に経営にどこまで関わっているかを整理して、判断に迷うなら税務署か税理士に確認してから給与を決める。
決めたあとに続く毎月と毎年の事務
金額を決めて議事録を作れば終わり、ではない。払い始めたあとに続く事務がある。ここを最初に把握しておくと、あとで慌てずに済む。
毎月やるのは、源泉徴収と社会保険料の控除、そして納付だ。役員報酬も給与所得なので、源泉徴収税額表に当てはめて所得税を計算し、報酬から差し引く。差し引いた所得税は原則として翌月10日までに納める。給与の支払を受ける人が常時10人未満の事業所であれば、申請して承認を受けることで年2回にまとめる方法もある。
住民税は、前の年の所得に基づいて市区町村から会社へ通知が来る。会社が毎月の報酬から差し引いて納める形が特別徴収だ。法人を作った最初の年は、個人事業のときの住民税を自分で納めている状態から、この形へ切り替わる時期が来る。
毎年やるのは3つある。1つ目は、7月の算定基礎届だ。4月から6月に受けた報酬をもとに標準報酬月額を決め直す作業で、この結果が9月からの保険料に反映される。役員報酬は毎月同額なので大きくは動かないが、通勤手当などを含めた金額で判定される点は押さえておきたい。
2つ目は、年末調整だ。給与の年間収入が2,000万円以下であれば、会社が年末調整で所得税を精算する。生命保険料控除や扶養の状況は、この手続きで反映される。
3つ目は、翌期の報酬の決議だ。事業年度の開始から3か月以内という期限があるので、決算の作業と並行して進めることになる。決算の数字が固まる前に期限が来る会社もあるので、前期の試算表をもとに早めに見込みを立てておく。
この流れを1枚の年間予定表にしておくと、毎年同じ手順でなぞるだけになる。顧問の税理士がいるなら、どの作業を会社側でやり、どこから任せるのかを最初に決めておくと抜けが出ない。
役員報酬を受け取る人の確定申告
役員報酬は給与所得なので、通常は会社の年末調整で所得税が確定する。ただし、確定申告が必要になる場面がいくつかある。
1 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人 2 給与を1か所から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円を超える人 出典: nta.go.jp
給与の年間収入が2,000万円を超えると年末調整の対象から外れるので、自分で確定申告をすることになる。役員報酬を高く設定する場合は、この境目を意識しておきたい。
もうひとつ、同族会社の役員に特有の項目がある。同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている人は、金額の大小にかかわらず確定申告が必要になる。自宅の一部を会社の事務所として貸して賃料を受け取っている社長や、会社にお金を貸して利息を受け取っている社長が該当する。この2つは中小企業では珍しくない形なので、心当たりがあれば確認しておく。
医療費控除や住宅ローン控除の初年度、ふるさと納税をワンストップ特例なしで行った場合なども確定申告が必要になる。役員報酬を決めるときに、こうした控除の見込みも合わせて考えておくと、手取りの見積もりが正確になる。
金額決めでつまずく5つのパターン
相談の場でよく出てくる型を挙げておく。
1つ目は、期限の見落としだ。事業年度の開始から3か月以内という期限を知らず、決算の直前に「利益が出たから報酬を上げる」と考えてしまう。期首にカレンダーへ印を付ける。
2つ目は、議事録を作らないこと。1人会社だから不要だと考えて省略する例は多い。金額をいつ決めたのかを示せないと、期限内に決めたことを説明できない。
3つ目は、会社が負担する社会保険料を原資の計算に入れ忘れること。報酬の額面だけで組むと、実際の支出はそれより大きくなる。
4つ目は、手取りから逆算して額面を決めること。手取りを先に決めて振り込むと、額面が毎月わずかに動く。定期同額給与の判定は額面か、源泉徴収などを引いたあとの金額のどちらかで一定である必要があるので、中途半端な計算をすると要件から外れる。
5つ目は、翌期に見直さないこと。一度決めた金額をそのまま何年も続けている会社は多い。事業の規模が変われば適正な水準も変わる。期首の見直しを年間の行事として組み込んでおく。
取材した中では、3期目まで同じ金額を据え置いていた会社が、売上が倍になっても報酬を変えていなかったため、会社に現金が貯まる一方で社長個人の生活は苦しいまま、という状態になっていた例があった。見直しは毎年やる作業だと考えておきたい。
20年この市場を見てきた運営者の観察
フリーランスと業務委託の市場を長く運営してきた立場から見ると、役員報酬の金額に悩む時間は、事業の段階によって価値が変わる。
売上が大きくなってきた会社では、配分を工夫することで動く金額が年間で数十万円になることがある。これは取り組む価値のある差だ。一方、法人化したばかりで売上がまだ小さい段階では、どう配分しても動く金額は限られる。その時間を、売上そのものを厚くするほうに使ったほうが効く。
運営者として見てきた限りでは、長く続いている人ほど、単発の作業を積み上げるのではなく、この人に任せると楽だという関係をつくることに時間を使っている。そして基盤の部分では、間に入る業者へのマージンが乗らない取引がじわじわ効いてくる。手数料0%の直接取引は、依頼する側が同じ予算でより多く頼めて、受ける側は同じ仕事で手取りが厚くなる。1件では小さな差でも、年間の売上に積み上がると、そもそも報酬として取り出せる原資の大きさが変わる。
報酬の金額は、原資の中でしか決められない。配分の最適化に何日もかけるより、原資を増やす側に手を入れたほうが、結果として受け取れる金額は大きくなる。
職種データから見える、報酬を高く置ける事業の違い
役員報酬をどこに置けるかは、事業の収益の出方で決まる。期首から3か月以内に金額を固定する仕組みなので、その時点で年間の売上をどれだけ読めるかが分かれ目になる。
受託開発のように、年単位の契約で売上の下限が読める事業は、報酬を高めに置きやすい。単価の水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場にまとまっており、継続契約が多いほど期首でも着地を見積もれる。案件の中身はアプリケーション開発のお仕事を見ると具体的につかめる。
コンサルティングのように案件ごとに動く事業は、読みが難しい。AIコンサル・業務活用支援のお仕事のような案件は単価が高い反面、本数の変動が大きい。報酬を高く置きすぎると、業績が届かなかったときに減額できず、会社の現金が細る。単価の高さと読みやすさは別の話だ。
月額で続く契約が積み上がる事業は、その中間にある。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように毎月の入金が見える仕事が多いと、年間の最低ラインを引けるので、その範囲で報酬を置ける。
制作や編集のように単価が小さく件数で積み上げる事業では、月ごとの変動が大きい。著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると収入の幅が広く、期首の読みが外れやすい。報酬は低めに置いて、利益は会社に残す形のほうが安全だ。
報酬とは別の枠で考えられる支出も押さえておきたい。会社の業務に必要な技能を身につけるための研修費は、会社の費用として扱える余地がある。ネットワーク構築を請け負う会社にとってのCCNA(シスコ技術者認定)や、書類の正確さが納品物の品質を左右する会社にとってのビジネス文書検定は、業務との関連を説明しやすい。報酬を無理に伸ばすより、こうした支出を先に整えるほうが筋が通る場面もある。
受け取ったあとのお金の置き場所も、金額を決めるときに一緒に考えておきたい。手取りが増えても使い道を決めないまま口座に置いたままになりやすい。個人としての積み立てについては【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオが参考になる。個人事業のときの税負担の感覚を振り返るなら確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツを、職種ごとの収入差そのものを見るならUI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】を見ておくとよい。
役員報酬の金額は、会社と個人の負担を合計して比べ、生活費と原資の範囲に収め、期限内に決めて議事録に残す。この流れを毎年なぞれば大きく外すことはない。どの水準が有利かは会社の利益、家族の状況、年齢で入れ替わるので、最後の数字は税務署か税理士に、年金のことは年金事務所に確認してから固めてほしい。
よくある質問
Q. 役員報酬はいつまでに決める必要がありますか?
事業年度が始まってから3か月以内です。3月決算の会社なら6月末、12月決算の会社なら3月末が期限になります。この期限を過ぎてから増額すると、増えた分は会社の経費になりません。決めたら株主総会の決議として議事録に残し、決議した日と金額、いつから払うのかを書いてください。
Q. 役員報酬を上げれば節税になりますか?
片側だけを見ると誤ります。報酬を上げれば会社の利益が減って法人税は減りますが、個人の所得税と住民税、それに会社と本人が折半する社会保険料が増えます。会社と個人の負担を合計した金額で比べてください。どこで合計が小さくなるかは利益の水準や家族構成で変わります。
Q. 期の途中で役員報酬を変えられますか?
3つの場面に限られます。事業年度の開始から3か月以内の改定、役員の地位や職務内容が大きく変わったときの改定、会社の経営状況が著しく悪化したときの減額です。一時的な資金繰りの都合や、業績目標に届かなかったという理由は認められません。変更した理由は議事録に残してください。
Q. 役員は確定申告が必要ですか?
給与の年間収入が2,000万円を超える人は年末調整の対象から外れるため、確定申告が必要です。また、同族会社の役員などで、その会社から貸付金の利子や資産の賃貸料を受け取っている人も、金額にかかわらず申告が必要になります。自宅を会社に貸している場合は該当するので確認してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
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