民生委員の仕事に報酬はあるのか、活動の内容と費用の扱い

山口 彩花
山口 彩花
民生委員の仕事に報酬はあるのか、活動の内容と費用の扱い

この記事のポイント

  • ✓民生委員の仕事に報酬はあるのかを
  • ✓民生委員法の条文と自治体の公表情報から整理します
  • ✓活動費は実費相当として支払われること

町内会の役員や近所の人から「民生委員を引き受けてもらえないか」と声をかけられて、まず気になるのが「お金は出るのか」「どれくらい時間を取られるのか」ではないでしょうか。結論から書くと、民生委員の仕事に給与としての報酬はありません。民生委員法という法律で、民生委員には給与を支給しないと決められています。そのかわり、多くの自治体では、活動にかかる交通費や電話代などの実費に充てるお金として「活動費」が支給されています。つまり、民生委員はお金を稼ぐ仕事ではなく、かかった費用の一部を補ってもらいながら地域の相談役を務めるボランティアです。この記事では、民生委員の仕事と報酬の関係、活動の中身、活動費の性格、仕事や副業との両立、推薦から委嘱までの流れを、法律の条文と自治体の公表情報をもとに整理します。

民生委員とはどんな立場の人か

民生委員とは、地域の住民の相談に乗り、必要な支援につなぐ役割を持つ人のこと。根拠になっているのは、昭和23年にできた民生委員法です。法律の第1条では、民生委員は社会奉仕の精神をもって、常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行い、社会福祉の増進に努めるものとされています。

民生委員は、自分で名乗り出てなるものではありません。市区町村に置かれた「民生委員推薦会」が候補者を選び、都道府県知事が推薦し、厚生労働大臣が委嘱します。委嘱とは、特定の仕事を任せることを正式にお願いすることです。東京都東村山市の説明では、推薦会の委員が地域から候補者を選び、推薦会で審議したうえで、都知事を経て厚生労働大臣が決定する流れになっています。

民生委員は、児童委員も兼ねます。児童福祉法の第16条で、民生委員法による民生委員は児童委員に充てられたものとすると決められているからです。児童委員とは、地域の子どもたちを見守り、子育ての不安や妊娠中の心配ごとの相談に乗る人のこと。民生委員を引き受けると、自動的に児童委員としての役割もついてきます。さらに、児童委員の中から、子どもに関することを専門に担当する「主任児童委員」が厚生労働大臣によって指名されます。

任期は3年です。任期が終わるときに全国で一斉に改選が行われ、再任もできます。途中で欠員が出たときに補欠として選ばれた人の任期は、前の人の残りの期間になります。

民生委員制度の歴史は長く、厚生労働省によると、1917年に岡山県で生まれた「済世顧問制度」が始まりとされています。100年以上、地域の相談役として続いてきた仕組みです。

報酬がない理由と、法律の決まり

民生委員の報酬について、法律ははっきり書いています。民生委員法の第10条は「民生委員には、給与を支給しないものとし、その任期は、三年とする」としています。

給与を出さない理由は、民生委員が「社会奉仕の精神」で活動する人と位置づけられているからです。地域の住民と同じ立場に立って相談に乗る人が、給与をもらう立場になると、住民との関係が変わってしまう。行政の下請けではなく、住民の側に立つ相談役であることを保つための仕組みと理解するとよいでしょう。東村山市も、民生委員を「厚生労働大臣の委嘱を受けて地域で活動している相談・支援のボランティア」と説明しています。

ここで誤解されやすいのが、「報酬がない」ことと「お金がまったく出ない」ことの違いです。給与は支給されませんが、活動にかかった費用を補うお金は支給されることがあります。次の節で、この「活動費」の中身を見ていきます。

なお、民生委員がその立場を利用して利益を得ることも想定されていません。民生委員法の第16条では、職務上の地位を政党や政治的な目的のために使ってはならないとされ、違反した場合は解嘱、つまり委嘱を取り消されることになっています。地域の信頼の上に成り立つ役割なので、その信頼を自分の利益のために使うことは許されない、という考え方です。

活動費は報酬ではなく実費に充てるお金

多くの自治体では、民生委員に「活動費」が支給されています。東京都東村山市は、この活動費について次のように説明しています。

民生委員・児童委員活動を推進するにあたり、活動費が民生委員・児童委員個人に支給されています。これは報酬にあたるものではなく、活動する上での実費相当にあたるものとして月額10,000円をお支払いしています。 出典: city.higashimurayama.tokyo.jp

ポイントは「報酬にあたるものではなく」「実費相当」という部分です。実費相当とは、活動のために実際にかかる費用に見合う額という意味。担当する家を訪ねるときの交通費、相談者との電話代、記録を書くための文房具代などに充てることが想定されています。つまり、働いた時間に応じた対価ではなく、活動でかかる持ち出しを埋めるためのお金です。

金額は自治体によって違います。東村山市は1か月あたり10,000円ですが、ほかの自治体では額も支給の方法も異なります。個人に支給する自治体もあれば、地区の民生委員の集まりである「民生委員児童委員協議会」にまとめて支給し、そこから研修費や交通費を出す形をとっている地域もあります。自分の地域でいくら出て、何に使う前提なのかは、市区町村の福祉の担当課か、地区の協議会に確かめるのが確実です。

時間で割り戻してみると、活動費の性格がよく分かります。担当区域の訪問、定例会、研修、行事への参加を合わせると、活動に充てる時間は月に数日から十数日になることもあります。仮に1か月あたり10,000円の活動費を、月に20時間の活動で割ると、時間あたり500円です。これは最低賃金を大きく下回る水準で、そもそも労働の対価として設計されていないことが分かります。

活動費が税金の上でどう扱われるかは、支給の形や金額によって変わる場合があります。気になる場合は、市区町村の担当課か税務署に確認してください。

報酬について誤解されやすい3つの点

民生委員のお金の話は、うわさや思い込みで語られることが多い分野です。よく聞く誤解を3つ取り上げます。

1つめは「活動費は給料のようなものだから、自由に使ってよい」という誤解です。活動費は活動の実費に充てる前提で支給されるお金で、労働の対価ではありません。使い道を細かく報告させる自治体ばかりではありませんが、性格としては交通費や通信費の補てんだと理解しておくのが正確です。

2つめは「民生委員になると、行政から仕事を回してもらえて副収入になる」という誤解です。行政の調査に協力することはありますが、それも民生委員の職務の一部として行うもので、別に報酬が出るわけではありません。

3つめは「報酬がないのだから、頼まれたことは断ってよい、引き受けた以上は何でもやるべき」という両極端の考え方です。民生委員の職務は法律で決まっていて、その範囲の活動は責任を持って行う必要があります。一方で、職務の範囲を超える頼みごとは、適切な窓口につなぐのが正しい対応です。報酬の有無ではなく、法律が定める役割の範囲で判断する、と考えると迷いが減ります。

民生委員の仕事の中身

民生委員法の第14条は、民生委員の職務を5つ挙げています。条文をかみ砕いて並べると、次のとおりです。

・住民の生活の状態を必要に応じて把握しておくこと ・支援が必要な人の生活の相談に乗り、助言などの援助をすること ・支援が必要な人が福祉サービスをうまく使えるよう、情報を提供すること ・社会福祉の事業をする人や、福祉の活動をする人と連携し、支えること ・福祉事務所など行政の仕事に協力すること

東村山市は、民生委員の役割を「市民と行政とのパイプ役」と表現しています。担当する区域を持ち、子育ての相談を受けたり、高齢者が安心して暮らせるよう見守りや声かけをしたりします。

実際の活動を、もう少し具体的に分けてみます。

見守りと訪問

担当する区域に住む一人暮らしの高齢者や、支援が必要な家庭を訪ね、困りごとがないかを確かめます。玄関先で数分話すだけのこともあれば、長く話を聞くこともあります。新聞や郵便物がたまっていないか、雨戸が閉まったままになっていないかといった、日々の様子の変化に気づくことも大切な役割です。

相談と、窓口へのつなぎ

住民から「介護保険の申請はどうすればいいのか」「子育てのことで誰に相談すればいいのか」といった相談を受けたとき、民生委員が自分で解決する必要はありません。役割は、適切な窓口や制度を紹介し、必要なら一緒に相談に行くことです。地域包括支援センター、福祉事務所、子ども家庭支援センターなど、つなぎ先を知っていることが一番の力になります。

行政への協力と調査

市区町村から依頼を受けて、高齢者の実態調査に協力したり、災害のときに支援が必要な人の名簿づくりに関わったりすることがあります。

定例会と研修

多くの地域では、月に1回ほど地区の民生委員児童委員協議会の定例会があり、情報の共有や事例の検討をします。新しく委嘱された人向けの研修や、テーマ別の研修もあります。

すべてを一人で背負う必要はなく、地区の協議会の仲間や行政の担当者と分担しながら進める仕事です。

1か月の活動を例で見る

民生委員の活動量は、担当する区域の世帯の数や、地域の高齢化の度合いによって大きく変わります。ここでは、住宅地で数百世帯を担当する民生委員の1か月を、ひとつの例として並べてみます。実際の活動は地域ごとに違うので、目安として読んでください。

・月初:地区の民生委員児童委員協議会の定例会に出る(2時間ほど)。行政からの連絡事項の共有と、地区内で気になっている世帯についての情報交換 ・第1週〜第2週:一人暮らしの高齢者の家を中心に、見守りの訪問をする。1軒あたり10分から30分ほど ・随時:住民から電話や訪問で相談を受け、地域包括支援センターや福祉事務所の窓口を紹介する。必要に応じて一緒に窓口へ行く ・第3週:市区町村から依頼された調査に協力する。たとえば高齢者の実態調査の聞き取りなど ・月末:活動の記録をまとめ、協議会に報告する

このほか、地域によっては学校の行事への参加、子育てサロンの手伝い、敬老会の準備といった活動が入ることもあります。相談が少ない月は数時間で済み、大きな相談が入った月は何日も動くことになる。活動量の波が大きいことが、民生委員の仕事の特徴です。

引き受ける前に、前任の人に「多い月と少ない月で、どれくらいの時間を使っていたか」を聞いておくと、自分の生活に合うかを判断しやすくなります。

民生委員と似た役割との違い

地域で住民を支える役割は、民生委員のほかにもいくつかあります。報酬の有無も含めて、違いを整理しておきます。

児童委員と主任児童委員

先に書いたとおり、民生委員は児童委員を兼ねます。主任児童委員は、児童委員の中から指名され、子どもや子育てに関することを専門に担当する人です。担当の区域を持たず、地区全体の子どもに関わる相談を受け、区域を担当する児童委員と連携します。いずれも民生委員と同じく、給与は支給されません。

保護司

保護司は、罪を犯した人や非行をした少年の立ち直りを地域で支える人です。法務大臣から委嘱されます。保護司法の第11条では、保護司には給与を支給しないとしたうえで、職務に必要な費用の全部または一部の支給を受けることができると定めています。任期は2年で、再任もできます。給与がなく、実費を補うお金が出るという構造は、民生委員とよく似ています。

社会福祉協議会の職員

社会福祉協議会は、地域の福祉を進めるための民間の団体で、各市区町村に置かれています。ここで働く職員は雇われた職員なので、給与が支払われます。民生委員が相談を受けたときのつなぎ先のひとつで、日常的に連携する相手です。

地域包括支援センターの職員

地域包括支援センターは、高齢者の介護や暮らしの相談を受ける窓口です。保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーといった専門職が働いていて、給与が支払われる仕事です。民生委員は、見守りの中で気になる高齢者がいたとき、このセンターにつなぎます。

このように整理すると、民生委員は「専門職の手前で、住民に一番近いところにいる相談役」と位置づけられます。報酬が出る専門職と、報酬の出ない地域の相談役が組み合わさって、地域の支援の網ができているわけです。

住民の側から民生委員に相談するとき

この記事を読んでいる人の中には、自分が民生委員を引き受けるのではなく、家族や自分のことで民生委員に相談したいと考えている人もいるかもしれません。

民生委員への相談に費用はかかりません。相談の内容は、民生委員法の第15条で守秘義務がかけられているので、本人の同意なく周りに話されることはないのが原則です。

自分の地域の担当の民生委員が誰かは、市区町村の福祉の担当課に問い合わせると教えてもらえます。東村山市のように、民生委員・児童委員の名簿をホームページで公開している自治体もあります。

相談するときは、困っていることをうまく説明できなくても大丈夫です。民生委員の役割は、話を聞いて、どの窓口や制度につなげばよいかを一緒に考えることなので、「何に困っているのか自分でもよく分からない」という状態でも相談できます。ただし、民生委員は医療や法律の専門家ではないので、病気の判断やお金のトラブルの解決そのものを頼むことはできません。その場合は、専門の窓口を紹介してもらう形になります。

お金に関わる頼みごとへの向き合い方

民生委員の活動で特に気をつけたいのが、お金に関わる頼みごとです。報酬のない立場だからこそ、お金の扱いがあいまいになると、住民との信頼関係が崩れてしまいます。

よくあるのが、担当している高齢者から「お礼に」と現金や品物を渡されそうになる場面です。民生委員は給与を受け取らない立場で活動しているので、個別のお礼を受け取らないのが一般的な対応です。地区の協議会で受け取りについての申し合わせを決めていることもあるので、新しく引き受けたら確認しておきます。

次に、お金を貸してほしい、預かってほしいと頼まれる場面です。生活に困っている人の相談に乗るのは民生委員の役割ですが、自分のお金を貸したり、預金通帳を預かったりするのは役割の外です。お金に困っている人には、社会福祉協議会の貸付制度や、福祉事務所の生活の相談窓口を紹介します。金銭の管理に不安がある高齢者には、社会福祉協議会が行っている日常生活の支援の事業を紹介するのが適切です。

もうひとつは、活動費の使い方です。活動費は実費に充てるお金なので、交通費や電話代などの領収書やメモを残しておくと、実際にどれくらい持ち出しが出ているかが分かります。活動費を超える持ち出しが続く場合は、地区の協議会や市区町村の担当課に相談してください。

守秘義務と、気をつけたいこと

民生委員は、住民の家庭の事情や健康のこと、お金のことなど、とても個人的な話を聞く立場にあります。そのため、民生委員法の第15条で、個人の人格を尊重し、身の上に関する秘密を守ることが求められています。人種や信条、性別、社会的な身分などによって差別したり、特別扱いしたりしてはいけないことも、同じ条文に書かれています。

守秘義務は、任期中だけの話ではありません。民生委員を辞めたあとも、活動の中で知った秘密を話してよいことにはなりません。家族との会話や、地域の集まりでの雑談でうっかり話してしまうことが一番起きやすいので、活動の記録の扱いも含めて注意が要ります。

また、民生委員法の第11条では、職務の遂行に支障がある場合や、職務を怠った場合、民生委員にふさわしくない行いがあった場合に、厚生労働大臣が委嘱を取り消すことができると定めています。重い言葉に聞こえますが、裏を返せば、それだけ地域の信頼が前提になっている役割だということです。

もうひとつ知っておきたいのは、民生委員は何でも引き受ける便利屋ではないという点です。買い物の代行や金銭の管理、病院への付き添いを日常的に頼まれることがありますが、これらは民生委員の役割ではなく、介護保険のサービスや社会福祉協議会の事業など、別の仕組みにつなぐべきものです。断りにくい場面では、地区の協議会や行政の担当者に相談し、一人で抱え込まないことが大切です。

仕事や副業と両立できるのか

民生委員になるのに、仕事を辞める必要はありません。民生委員法の第6条では、推薦される人の条件として、その市区町村の議会の議員の選挙権を持っていること、人格や見識が高く、地域の実情に通じ、社会福祉に熱意があること、児童委員としても適当であることが挙げられています。働いているかどうかは条件に入っていません。

とはいえ、現実には平日の日中に活動が入ることが多く、会社員がフルタイムで働きながら引き受けるのは負担が大きいのも事実です。定例会や研修が平日の昼間に設定されている地域では、有給休暇を使って参加する人もいます。

会社員の場合は、勤め先の就業規則も確かめておきます。民生委員は給与の出ない活動なので、多くの会社で禁止される副業とは性格が違いますが、平日に活動で抜けることがあるなら、上司や人事に事前に伝えておくほうが安心です。

在宅で働く人や、業務委託で時間の融通がきく働き方をしている人は、民生委員の活動と両立しやすい立場にあります。日中に訪問や定例会の時間を確保しやすく、地域に目を配れるからです。たとえば文章を書く仕事をしている人なら、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で業務委託の相場を確かめながら、仕事量を調整して地域の活動の時間を確保する、という働き方も考えられます。

一方で、民生委員の活動費を副業の収入のように考えるのはおすすめできません。前の節で計算したように、時間あたりに直すと最低賃金を大きく下回る水準で、そもそも収入を得るための仕組みではないからです。お金を目的にするなら、民生委員ではなく、ほかの働き方を探すほうが合っています。

推薦から委嘱までの流れと、断り方

民生委員になるまでの流れを、時間の順に整理します。

・地域の町内会や自治会、前任の民生委員などから声がかかる ・市区町村の民生委員推薦会が候補者として審議し、推薦する ・都道府県知事が厚生労働大臣に推薦する ・厚生労働大臣が委嘱し、委嘱状が交付される ・地区の民生委員児童委員協議会に入り、研修を受けて活動を始める

声をかけられたからといって、必ず引き受けなければならないわけではありません。民生委員は、なり手が少なく欠員が出ている地域もあるため、熱心に頼まれることがありますが、無理に引き受けて活動が続かないほうが、地域にとっても本人にとっても負担になります。

断るときは、理由を具体的に伝えるのが角が立ちにくい方法です。「平日の日中は仕事で動けない」「家族の介護があって時間を取れない」といった事情を伝え、そのうえで「任期の途中からでも手伝える時期が来たら声をかけてほしい」と添えておくと、関係を壊さずに済みます。

引き受ける場合は、事前に聞いておきたいことがあります。担当する区域の広さと世帯の数、定例会の曜日と時間、活動費の額と支給の方法、前任の人からの引き継ぎがあるか。この4つを確かめておくと、引き受けたあとで「思っていたのと違う」となることを防げます。

任期の途中で事情が変わり、続けられなくなった場合は、地区の協議会の会長や市区町村の担当課に相談します。後任の人を探す時間が必要になるので、早めに伝えることが大切です。

引き受けることで得られるものと、負担になるもの

報酬がないと聞くと、引き受けるメリットはないように思えるかもしれません。お金以外の面で、得られるものと負担になるものを並べておきます。

得られるものの1つめは、地域の福祉の仕組みに詳しくなることです。介護保険、子育ての支援、生活に困ったときの相談先など、ふだんの暮らしでは調べる機会の少ない制度を、研修や実際の相談を通じて身につけられます。この知識は、自分の家族が介護や子育てで困ったときにもそのまま役立ちます。

2つめは、地域の人とのつながりです。担当の区域を歩き、住民と顔を合わせる中で、近所の人の顔と名前が一致するようになります。災害のときに誰が一人暮らしで、誰に声をかけるべきかを知っていることは、地域にとっても自分にとっても安心につながります。

3つめは、人の話を聞く力です。相談に来る人の多くは、何に困っているのかを最初からうまく説明できるわけではありません。話を整理しながら聞き、必要な窓口につなぐ経験は、仕事の場面でも生きる力になります。

一方、負担になるものもはっきりしています。時間の拘束、相談の内容による精神的な負担、そして活動費で賄いきれない持ち出しです。とくに、深刻な相談を一人で抱え込んでしまうと、心身の負担が大きくなります。地区の協議会の仲間や行政の担当者に相談できる関係を、引き受けた最初の時期に作っておくことが、長く続けるための鍵になります。

家族が民生委員を引き受けるとき

自分ではなく、親や配偶者が民生委員を頼まれた、という人もいるでしょう。家族として知っておきたいことを整理します。

まず、民生委員の活動には守秘義務があるので、家族であっても相談の内容を聞くことはできません。家にかかってくる電話や、訪ねてくる住民への対応で、家族が内容を耳にしてしまうこともありますが、聞いたことを外で話さない配慮が求められます。

次に、時間の使い方です。相談は予定どおりに来るとは限らず、夕方や休日に電話が入ることもあります。家族の予定と重なったときにどうするか、あらかじめ話し合っておくと、家庭の中での摩擦を減らせます。

そして、家族が高齢の場合は、体力の面にも気を配ります。担当区域の訪問は、歩く距離が長くなることもあります。無理をしていないか、負担が大きくなっていないかを見て、続けるのが難しそうなら、任期の途中でも地区の協議会に相談するよう勧めることも、家族ができる支えのひとつです。

活動に役立つ知識と、身につけ方

民生委員になるのに、資格や特別な知識は求められません。それでも、活動を始めてから「これを知っておけばよかった」と感じやすい知識があります。

ひとつは、地域の相談窓口の一覧です。高齢者のことなら地域包括支援センター、子育てのことなら子ども家庭支援センターや保健センター、生活に困ったときは福祉事務所や社会福祉協議会。どの窓口が何を扱っているのか、電話番号と場所を一覧にして手元に持っておくと、相談を受けたときにすぐ案内できます。

ふたつめは、制度の大まかな仕組みです。介護保険の申請の流れ、生活保護の相談の窓口、児童虐待が疑われるときの通告先など、細かい計算や条件まで覚える必要はありませんが、「どこに相談すれば何が始まるか」を知っておくことが大切です。新しく委嘱された人向けの研修では、こうした内容を学ぶ機会があります。

みっつめは、話の聞き方です。相手の話をさえぎらずに聞く、自分の意見を押しつけない、すぐに結論を出そうとしない。福祉の専門職が身につけている「傾聴」の考え方は、民生委員の活動でもそのまま使えます。地区の協議会や社会福祉協議会が開く研修で学べることが多いので、機会があれば参加してみてください。

活動の記録と文章の書き方

民生委員の活動で意外に時間を取られるのが、記録の作成です。誰を訪ねて、どんな話を聞き、どこにつないだのか。活動の記録は、後任への引き継ぎや、行政との連携のために必要になります。

記録を書くときのコツは、事実と自分の感想を分けることです。「顔色が悪かった」は感想に近く、「前回の訪問時より食事の量が減ったと本人が話していた」は事実です。行政の担当者や専門職に情報を渡すときは、事実だけを、日付とともに簡潔に書くほうが伝わります。

また、記録には個人の秘密が含まれるので、保管の方法にも注意が要ります。紙の記録は鍵のかかる場所に保管し、パソコンやスマートフォンで記録する場合は、家族と共有している端末を使わない、パスワードをかけるといった配慮が必要です。

こうした記録や報告の文章は、民生委員に限らず、地域の活動や仕事のあらゆる場面で求められます。文書の基本を体系的に身につけたい場合は、ビジネス文書検定のような資格で書き方の型を学んでおくと、記録の作成にかかる時間を短くできます。

民生委員という役割をどう考えるか

ここまで見てきたように、民生委員は報酬のある仕事ではありません。法律で給与は支給しないと決められ、支給される活動費は実費に充てるお金です。それでも、地域で困っている人と支援をつなぐ役割は、行政だけでは担いきれないもので、民生委員がいることで救われている人は確かにいます。

フリーランスや在宅ワークの市場を長く見てきた立場から言えば、時間の使い方を自分で決められる働き方をしている人ほど、地域の活動に関わる余地を持っています。会社に通勤していた頃には見えなかった、昼間の住宅街の様子や、近所の高齢者の暮らしが見えるようになる。在宅で働く人が地域の担い手として期待される場面は、これから増えていくはずです。

一方で、引き受けるなら、活動の時間を確保できる働き方であることが前提になります。仲介の手数料が乗らない直接の取引で仕事を受け、手数料0%で手取りが厚くなれば、受ける仕事の量を抑えても生活が成り立ちやすくなり、地域の活動に回す時間を作れます。働き方の選択肢を広げたい人は、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように在宅で完結しやすい仕事の分野を一度眺めてみると、地域の活動と両立できる働き方のヒントが見つかるかもしれません。

民生委員を引き受けるかどうかは、お金ではなく、時間と気持ちに余裕があるかで決めるのが自然です。声をかけられたら、まずは活動の中身と時間の目安を確かめ、自分の暮らしと仕事に無理がないかを考えてから返事をしてください。

よくある質問

Q. 民生委員には給料や報酬が出ますか?

給与としての報酬は出ません。民生委員法の第10条で、民生委員には給与を支給しないと決められています。そのかわり、多くの自治体では活動にかかる交通費や電話代などの実費に充てる活動費が支給されています。たとえば東京都東村山市は、報酬ではなく実費相当として1か月あたり10,000円を支給していると説明しています。

Q. 民生委員の活動費の額は全国で同じですか?

同じではありません。活動費の額や支給の方法は自治体によって違います。個人に支給する自治体もあれば、地区の民生委員児童委員協議会にまとめて支給し、そこから研修費や交通費を出す地域もあります。自分の地域の額と使い道は、市区町村の福祉の担当課か地区の協議会で確認してください。

Q. 会社員でも民生委員になれますか?

なれます。民生委員法で推薦の条件とされているのは、その市区町村の議会の議員の選挙権を持ち、人格や見識が高く、社会福祉に熱意があることなどで、働いているかどうかは条件に入っていません。ただし、平日の日中に訪問や定例会が入ることが多いので、勤め先の理解と時間の確保ができるかを事前に考えておく必要があります。

Q. 民生委員の任期はどれくらいで、途中で辞められますか?

任期は3年で、任期が終わるときに一斉に改選が行われ、再任もできます。途中で家族の事情や仕事の都合で続けられなくなった場合は、地区の協議会の会長や市区町村の担当課に相談します。後任を探す時間が必要になるため、続けられないと分かった時点で早めに伝えるのが望ましい対応です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年9月30日最終更新:2026年10月5日
山口 彩花

この記事を書いた人

山口 彩花@SOHO編集部

デザイナー兼イラストレーター

美大卒業後、広告代理店でグラフィックデザイナーとして6年間勤務。色彩検定1級、DTP検定を取得。現在はフリーランスとしてブランディングデザインとイラスト制作を手がけています。

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