役員報酬が経費として認められない場面

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
役員報酬が経費として認められない場面

この記事のポイント

  • 役員報酬が経費にならないのは
  • 期の途中の増減額だけではありません
  • 否認につながる7つの場面と

役員報酬が経費として認められないと言われたとき、多くの人が思い浮かべるのは「期の途中で金額を上げた場合」です。たしかにそれが代表例ですが、否認される場面はそれだけではありません。現金を1円も動かしていなくても否認されることがあり、逆に、きちんと毎月同じ額を払っていても外されることがあります。

結論を先に書きます。役員報酬が経費から外れる理由は、大きく3つに分類できます。支給の形が決められた型から外れたとき、金額が相当な範囲を超えたとき、そして帳簿を作り変えて払ったときです。この3つのどれに当たるかで、外れる範囲も、追加で払う税金の重さも変わります。

この記事では、実際に起きやすい7つの場面を具体的に見ていきます。そのうえで、否認されたときに何をいくら払うことになるのか、決算の前にどこを点検すればよいのかまでをまとめます。数字は国税庁と法令の原文で確かめたものだけを載せています。

経費から外れる3通りの落ち方

まず全体の構造を押さえます。国税庁は、役員に支給する給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも当たらないものは経費にならないとしています。これが1つめの落ち方です。型から外れたパターンです。

2つめが、型に当てはまっていても金額が「不相当に高額」な場合です。この場合は、超えている部分だけが外れます。全額ではありません。

3つめが、事実を隠したり帳簿を作り変えたりして支給したものです。この場合は、型に当てはまるかどうかに関係なく全額が外れます。しかも後で説明するとおり、追加の税金がいちばん重くなります。

この3つは重なることもあります。期の途中で増額して、その増額分が金額としても過大だった、という形です。

もうひとつ、最初に確認しておきたいことがあります。「経費にならない」とは、会社が現金を払っていないという意味ではありません。お金は出ていきます。受け取った本人には所得税も住民税もかかりますし、社会保険料の計算にも入ります。それなのに、会社の税金の計算では利益から差し引けない。出ていくものは全部出ていって、差し引けるものだけが消えるという状態です。だから損失は二重になります。

場面1:事業年度の途中で金額を上げた

いちばん多い失敗です。毎月同額で払っていた役員報酬を、期の途中で増やすと、増やした部分が経費になりません。

計算の仕方は単純です。月50万円を10月から80万円に上げた場合、差額の30万円が、上げた月から期末までの月数分だけ外れます。3月決算の会社なら10月から3月までの6か月で、180万円が経費から消えます。

なぜ上げた分だけで済むかというと、その事業年度を通じて同額だった50万円の部分は、定期同額給与として成立しているからです。全額が否認されるわけではないのがこの場面の特徴です。

金額を変えてよいタイミングは3つに限られます。事業年度が始まってから3か月を経過する日まで。役員の地位や職務が大きく変わったとき。そして会社の経営状況が著しく悪化したときです。

問題は3つめの解釈です。国税庁はこう書いています。

(3) その事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(注)(以下「業績悪化改定事由」といいます。)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与の額を減額した改定に限られ、上記(1)および(2)に掲げる改定を除きます。) (注) 法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれません。 出典: nta.go.jp

注書きの部分が要点です。今月の入金が遅れて資金が足りない、売上目標に届かなかった。これらは理由として認められません。しかもこの事由で認められるのは減額だけで、増額には使えません。

上げるという判断をするなら、事業年度が始まって3か月以内に決めるしかない。ここは例外がないと考えて動くのが安全です。

場面2:資金繰りが苦しくて数か月だけ止めた

意外と多いのがこちらです。会社の口座が厳しくなったので、役員報酬を2か月だけ払わずに飛ばした。この場合、その事業年度の支給額が月によって変わるため、定期同額給与の条件から外れます。

対応としてよく使われるのが未払計上です。払っていないけれど、支払義務は発生しているものとして帳簿に計上し、資金が戻ったときにまとめて払う。この形なら毎月の計上額は同額なので、定期同額給与として成立する余地があります。

ただし条件があります。株主総会で決めた報酬額を実際に債務として負っていること、そして後日きちんと支払われていることです。未払いのまま何年も残っていたり、途中で会社が「もう払わなくていい」と決めたりすると、実態が伴っていないと見られます。未払いを免除した場合は、その分が利益として扱われる可能性もあります。

もうひとつ見落とされるのが源泉所得税です。未払計上にしても、実際に支払った時点で源泉徴収の義務が生じます。計上と支払いがずれると、納付の時期の管理が複雑になります。

そして、未払いにしても社会保険料の計算は続きます。報酬月額に応じた保険料は、実際に払ったかどうかに関係なく発生します。資金繰りのために報酬を止めても、保険料の支払いは止まらないということです。

資金が厳しいときの現実的な選択は、翌期の開始から3か月以内に金額を下げることです。期の途中で動かす方法を探すより、次の期の設計を早めに見直すほうが確実です。

場面3:届け出た賞与と実際の支給がずれた

役員に賞与を払うときは、支給日と金額を事前に税務署へ届け出ます。この届出と実際の支給が一致しないと、その賞与は全額が経費になりません。

ずれ方には3通りあります。金額がずれた場合、日付がずれた場合、そして届出そのものを忘れた場合です。

金額のずれは、減らしたときにも起きます。100万円と届け出て80万円を払った場合、差額の20万円だけが外れるのではなく、支給した80万円の全額が経費になりません。増やした場合も同じです。

日付のずれも同様に扱われます。12月10日と届け出て12月11日に振り込んだら、それだけで条件から外れます。支給日が土日や祝日に当たる場合の扱いを先に決めておかないと、実際の振込日がずれます。

いちばん損が小さい選択は、払えないと分かった時点で全額を払わないことです。支給そのものがなければ、会社は現金を出しませんし、経費にもなりませんが、余計な税負担も生じません。中途半端に減額して払うのが最悪の結果になります。

届出の期限は、株主総会などで決めた日から1か月を経過する日と、会計期間が始まった日から4か月を経過する日の、早いほうです。新しく設立した会社が設立時の職務について定めた場合は、設立の日から2か月を経過する日になります。どちらが早いかを勘違いして1か月遅れる例が実際にあります。

なお、期限に間に合わなかった場合でも、やむを得ない事情があると認められれば救済される仕組みはあります。ただしこれは例外なので、最初から当てにするものではありません。

場面4:金額が相当な範囲を超えている

型を守っていても外れるのがこの場面です。法人税法施行令の第70条は、相当な金額かどうかを判断する材料として4つを挙げています。その役員の職務の内容、会社の収益の状況、社員に対する給与の支給の状況、そして同じ業種で事業規模が似ている会社の役員給与の支給の状況です。

条文の原文は法人税法施行令で確認できます。読むと分かりますが、具体的な金額の線は書かれていません。売上がこの規模ならここまで、という表は存在しないということです。

実務で問題になりやすいのは、仕事の実態が薄い役員への報酬です。会議に出るだけの家族役員に月100万円を払っていれば、当然そこを見られます。逆に、代表者が営業も現場も管理も回している会社で、社員の給与水準との差に説明がつくなら、金額そのものを理由に否認される場面は多くありません。

もうひとつ、同じ第70条には別の基準があります。定款や株主総会の決議で役員報酬の上限を決めている会社が、その上限を超えて払った場合、超えた部分は経費になりません。こちらは金額がはっきりしているので争えません。

この上限の存在を忘れているケースが、実際にあります。設立のときに定款で「取締役の報酬は年額3,000万円以内とする」と決めていて、その後に役員を増やして総額が枠を超えている、という形です。設立から数年が経ったら、一度定款と過去の株主総会議事録を開いて確認してください。

場面5:帳簿を作り変えて払った

事実を隠したり、仮装した経理によって役員に支給した給与は、全額が経費になりません。ここには型の話も、過大かどうかの話も入りません。

そして、この場面でいちばん重いのは本税ではなく加算税です。国税通則法の第68条は、隠蔽または仮装に基づいて申告していた場合、過少申告加算税に代えて、その税額に35%を乗じた重加算税を課すと定めています。申告書そのものを出していなかった場合は40%です。条文は国税通則法で確認できます。

これに延滞税が加わります。国税庁の延滞税についてによれば、納期限の翌日から2か月を経過する日までは、令和8年1月1日から令和8年12月31日までの期間で年2.8%、2か月を経過した日以後は年9.1%です。数年前の申告をさかのぼって直すことになれば、この利息が積み上がります。

隠蔽や仮装というと大がかりな脱税を想像しますが、実際に指摘されるのは、もっと小さな作業のことが多いです。実際には働いていない家族の名前で給与台帳を作る、支払日を後から書き換える、架空の請求書を挟む。こうした行為が該当します。

場面6:役員なのに社員として払っていた

登記簿に載っていない人でも、税法上は役員として扱われることがあります。法人税法施行令の第7条は、社員としての地位だけを持つ人以外で会社の経営に関わっている人、そして同族会社で一定の株式を持ち経営に関わっている人を、役員に含めています。

具体例で言えば、代表者の配偶者が「経理部長」という肩書きで、実際には資金繰りや投資の判断に加わっている場合です。この人への支払いは給与ではなく役員報酬として扱われるので、毎月同額でなければ経費になりません。社員のつもりで賞与を出していると、その賞与が丸ごと外れます。

逆のパターンもあります。役員でありながら部長や工場長といった社員としての職務も持っている人を使用人兼務役員といい、社員としての職務に対する部分は賞与を出しても経費にできる余地があります。ただし、代表取締役はこの扱いを受けられません。同族会社で一定以上の株式を持つ役員も同様です。社長が「自分は営業部長も兼務している」という理屈で賞与を出しても通りません。

ここを間違えると、払い方の型をいくら守っても意味がなくなります。誰が役員に当たるのかを、報酬を決める前に確定させておく必要があります。

場面7:現金以外の負担が報酬になっていた

会社が役員に与えた利益は、現金でなくても報酬として扱われます。これを経済的利益といいます。

分かりやすいのが住まいです。会社が借りた部屋に役員が住んでいて、役員が家賃を払っていなければ、本来払うべき金額が報酬になります。会社名義の車を私用で使っている場合、会社が役員個人の保険料を払っている場合も同じです。

定期同額給与の型は、この経済的利益にも及びます。国税庁は、継続的に提供される経済的利益のうち、その額が毎月おおむね一定であるものを定期同額給与に含めています。裏を返せば、月によって金額が大きく動く形で会社が負担していると、そこが外れる余地が生まれるということです。

もうひとつ注意したいのが役員貸付金です。会社から役員の生活費を出して、それを貸付として処理し続けているケースがあります。返済の計画も利息の設定もないまま残高が増えていると、実質的には報酬だと見られる可能性があります。貸付として通すなら、契約書、返済のスケジュール、適正な利息という3点をそろえる必要があります。

そして、現金の報酬と経済的利益を合計した金額が、その役員への報酬額になります。前に触れた定款の上限がある会社では、現金だけで枠に収まっていても、経済的利益を足すと超えることがあります。

退職金で外れる場面もある

役員に払う退職金は、毎月の報酬とは別の扱いを受けます。定期同額給与や事前確定届出給与の型に当てはめる必要はありません。ただし、こちらにも金額の関門があります。

法人税法施行令の第70条は、退職給与についても相当な範囲を定めています。判断の材料として挙げられているのは、その役員が会社の業務に従事した期間、退職の事情、そして同じ業種で事業規模が似ている会社の退職給与の支給の状況です。これらに照らして相当と認められる金額を超える部分は、経費になりません。

実務では、最終の報酬月額と在任年数、そして役職に応じた倍率を掛け合わせる計算方法がよく使われます。ただし、この計算式そのものが法令に書かれているわけではありません。あくまで説明のための目安であって、これに従えば必ず認められるというものではない点に注意が必要です。

問題が起きやすいのは、退職金を多く出すために、直前に報酬月額を大きく上げるケースです。最終の報酬月額が計算の基礎になるため、そこを引き上げれば退職金も増えます。しかし、その増額自体が期の途中の改定として否認される可能性がありますし、退職金の金額も相当な範囲を超えていると見られやすくなります。

もうひとつ、退職の実態があるかどうかも見られます。代表取締役を退いて非常勤の取締役として残る、という形で退職金を出すことがありますが、実質的に経営への関与が続いていると、退職したとは認められない場合があります。報酬が大きく下がっていない、引き続き重要な決定に関わっている、といった事実があると指摘の対象になります。

退職金は金額が大きいぶん、否認されたときの影響も大きくなります。支給を検討する段階で、計算の根拠と退職の実態を示せる資料を用意しておくことが必要です。

税務調査で最初に求められる3つの資料

役員報酬について調査が入ったとき、まず出すことになる資料は決まっています。ここを整えておくと、説明が早く終わります。

1つめが株主総会の議事録です。いくらに決めたのか、いつ決めたのかを示す唯一の書類です。総額の上限だけを決めた場合は、個別の金額を決めた取締役会の議事録や互選の記録もあわせて求められます。この2段目を作り忘れている会社が実際にあり、上限しか決まっていない状態で個別の金額を払っていることになってしまいます。

2つめが給与台帳と源泉徴収簿です。毎月いくら支給して、いくら源泉徴収したかが並んでいます。議事録で決めた金額と一致しているかを、ここで照合されます。

3つめが預金通帳です。実際に振り込まれた日と金額が出ます。給与台帳では同額なのに、通帳では月によって振込額が違うという状態は、すぐ分かります。

この3つが一致していれば、説明はほぼ終わります。ずれている場合は、なぜずれたのかを説明することになります。未払計上しているなら、その帳簿と支払いの記録も必要です。

事前確定届出給与を使っている会社は、届出書の控えも加わります。届け出た支給日と金額、そして実際の支給が並べられます。控えを保管していないと、何を届け出たのかを自社で確認できません。

書類をそろえること自体は難しい作業ではありません。ただ、決算のたびに発生する作業でもあります。作成の担当を決めて、毎年同じ形で残す仕組みにしておくと、いざというときに慌てずに済みます。

1人で作った会社で起きやすい形

代表者1人だけの会社では、役員報酬の否認につながる状況が特有の形で現れます。

もっとも多いのが、会社の口座と個人の口座の区別が曖昧になることです。会社の口座から生活費を引き出し、それを役員貸付金として処理する。この残高が増え続けていると、実質は報酬だと見られる可能性があります。貸付として通すには、契約書、返済のスケジュール、適正な利息の3点が必要です。

次に多いのが、報酬を決めた記録がないことです。株主が自分1人なので、株主総会を開いたという感覚が持てません。しかし書類がなければ、いくらに決めたのかを示せません。1人であっても議事録は作ります。日付、決議の内容、議事録を作った人の氏名を書いた1枚があればよいので、作業としては短時間で終わります。

3つめが、設立初年度の期限です。設立の日から3か月以内に報酬を決めて、そこから毎月同額を払う必要があります。売上の見込みが立たないうちに決めることになるので、低めに置いておいて翌期に見直すのが現実的です。この3か月を過ぎると、その期はもう定期同額給与として成立させられません。

4つめが、経費と個人の支出の境目です。自宅を仕事場にしている、車を私用と仕事で兼用している、通信費が混ざっている。こうした費用のうち個人が受ける利益にあたる部分は、報酬として扱われる可能性があります。使っている割合を説明できる根拠を残しておくのが基本です。

5つめが、途中で会社の状況が変わったときの対応です。1人の会社は売上の振れ幅が大きく、期の途中で急に苦しくなることがあります。それでも報酬は動かせません。だから最初の設定を、下振れしても払い続けられる水準にしておくのが、いちばん確実な防御になります。

小さな会社ほど、税理士に頼まず自分でやっている割合が高くなります。そのぶん、期限と書類の管理は自分の作業になります。決算日の2か月前を目安に点検の時間を取る、という習慣を作っておくと、多くの事故は防げます。

否認されると実際にいくら払うことになるのか

金額の感覚をつかんでおきます。期の途中で増額して180万円が経費から外れた場合を考えます。

まず会社側です。180万円が利益に上乗せされるので、その分の法人税と地方税がかかります。負担率は所得の規模で変わりますが、中小企業の実効的な負担はおおむね所得の2割から3割台とされる水準です。仮に3割とすれば、54万円ほどの追加になります。

次に個人側です。180万円は役員本人が受け取っているので、所得税と住民税がかかります。会社側で経費にならなかったからといって、個人側で課税が取り消されるわけではありません。

さらに社会保険料です。報酬月額が上がれば保険料も上がり、会社と本人で折半して負担します。

決算のあとに税務調査で指摘された場合は、これに加算税と延滞税が乗ります。隠蔽や仮装がなければ重加算税ではなく過少申告加算税ですが、それでも本税に上乗せされます。

つまり、180万円の増額という判断が、最終的に会社と個人を合わせて100万円近い追加負担になりうるということです。増額を決める前に3か月の期限を確認する、という作業に数分しかかからないことを考えると、割に合わない失敗です。

決算の前に点検する7項目

自社の状態を確かめるための手順を並べます。決算日の2か月前を目安にやると間に合います。

1つめ、毎月の支給額が事業年度を通じて同額かどうかを、通帳と給与台帳で照合します。1円単位で見ます。

2つめ、金額を変えた月があれば、その変更が事業年度開始から3か月以内か、地位や職務の変更によるものかを確かめます。

3つめ、支給を飛ばした月がないかを確認します。未払計上しているなら、その残高と支払いの予定を確かめます。

4つめ、賞与の届出をしている場合は、届出書の控えと実際の支給日、支給額を突き合わせます。

5つめ、定款と過去の株主総会議事録を開き、役員報酬の上限が決められていないかを確認します。決めてあれば、経済的利益を含めた総額が枠内かを計算します。

6つめ、役員として扱うべき人が社員として処理されていないかを見ます。家族や親族への支払いが対象です。

7つめ、会社の経費の中に、役員個人が受け取っている利益が混ざっていないかを費用の明細で追います。住まい、車、保険、通信費あたりが出やすいところです。

この7項目を毎年同じ形で点検できるようにしておくと、年に一度の作業で済みます。

起きてしまったあとにできること

すでに期の途中で増額してしまった、届出とずれて支給してしまった。こうした場合、後からなかったことにはできません。

できるのは、その事実を前提に正しく申告することです。経費にならない部分を利益に加算して申告すれば、それ以上の問題にはなりません。隠すと重加算税の対象になり、負担が一気に重くなります。

申告した後で誤りに気づいた場合は、修正申告という手続きで直します。国税庁は、税務署から調査の事前通知が来る前に自主的に修正申告をした場合は過少申告加算税がかからないとしています。気づいた時点で早く動くほど、負担は軽くなるということです。

そして、翌期に向けて設計をやり直します。役員報酬は1年動かせないので、期の初めの3か月が唯一の調整の機会です。この期間に、今期の実績と来期の見込みを並べて金額を決めます。

判断の材料が足りないと感じたら、税理士か税務署に相談してください。役員報酬の金額の妥当性は、会社の事業内容や役員の職務の中身で変わるので、一般論の数字をそのまま当てはめるのは危険です。

社員の給与と比べると、制限の重さが分かる

なぜここまで細かい条件がつくのかは、社員の給与と並べると見えてきます。

社員の給与は、期の途中で上げても下げても経費になります。賞与も、いつ、いくら払っても構いません。届出も要りません。金額の上限もありません。実際に働いている人に払っている限り、税務上の制限はほとんどかかりません。

役員だけが違うのは、決める人と受け取る人が同じになりうるからです。決算の見通しを見てから金額を動かせる立場にあるため、動かせないように型をはめている。この一点に尽きます。

だから、条件を丸暗記しなくても判断できます。迷ったときは「この払い方は、決算の見通しを知ってから金額を動かせるか」を考えてください。動かせる余地があるなら、ほぼ認められません。期首から3か月以内という期限も、事前の届出も、決算の数字が見える前に確定させるための仕組みです。

この見方を持っておくと、新しい論点に出会ったときも見当がつきます。たとえば「決算月だけ報酬を増やしたい」という発想は、この基準に照らせば通らないと即座に分かります。逆に「期首に決めた金額を通年で払い続ける」という形は、どんな場面でも安全だと分かります。

社員としての職務も持つ役員については、社員としての部分だけは社員と同じ扱いを受ける余地があります。ただし、その区分が認められるのは限られた場合だけです。代表取締役や、同族会社で一定以上の株式を持つ役員は対象外になります。区分を使いたい場合は、社員としての職務の内容と、その対価としての金額の根拠を示せる資料が必要です。

1年の流れに沿って、いつ何を確認するか

否認を防ぐための作業を、年間の流れに並べます。3月決算の会社を例にします。

4月、事業年度が始まります。この月に、前期の決算の見込みと今期の計画を突き合わせます。役員報酬をいくらにするかの検討はここから始めます。

5月から6月、定時株主総会を開きます。決算の承認と同時に、役員報酬の金額を決議します。議事録を作り、総額の上限だけを決めた場合は個別の配分を決める書類も作ります。賞与を出すなら、この場で支給日と金額を決めます。

6月末が、事業年度開始から3か月を経過する日にあたります。ここが報酬の改定の期限です。この日を過ぎると、原則として今期はもう動かせません。

7月末までに、賞与の届出を出します。決議から1か月と、会計期間開始から4か月の、早いほうが期限になるので、5月に決議していれば6月末が期限です。日付の計算を間違えないように、決議の直後に提出するのが確実です。

7月から翌年1月まで、毎月の支給額が同額であることを確認しながら進みます。源泉所得税は原則として翌月10日までに納めます。

翌年1月、決算日の2か月前です。ここで点検の時間を取ります。通帳と給与台帳の照合、届出と実際の支給の照合、定款の上限の確認、経費の中に個人の利益が混ざっていないかの確認。前に挙げた7項目をここで通します。

3月、決算日を迎えます。問題が見つかっていれば、経費にならない部分を利益に加算して申告します。

5月末までに法人税の申告と納付を済ませます。そして同じ時期に、次の期の報酬を決める検討が始まります。

この流れを一度カレンダーに落としてしまえば、翌年からは同じ作業を繰り返すだけになります。役員報酬の否認は、知らなかったから起きるのではなく、期限を見ていなかったから起きることがほとんどです。

固定費として置く前に、その仕事が毎月あるかを確かめる

在宅ワークや業務委託の市場を20年見てきた立場から言うと、役員報酬の否認で痛い目にあう会社には、ひとつの共通点があります。業績が読めない段階で、報酬を高めに固定してしまっていることです。

役員報酬は1年動かせません。社会保険料もそれに連動して固定されます。つまり報酬を決めるという行為は、その事業年度の固定費を確定させる行為です。そして、いざ苦しくなっても、一時的な資金繰りの悪化という理由では下げられない。制度が助けてくれない設計になっています。

そこで効いてくるのが、仕事の出し方の設計です。社内で人を抱えて固定費にするのか、業務委託で変動費にするのか。同じ100万円でも、固定にするか変動にするかで、売上が落ちたときの耐久力がまったく違います。

運営者として見てきた限りでは、長く続く小さな会社ほど、この順番を守っています。仕事が毎月あると確認できてから固定費に変える。逆の順番で進めた会社は、報酬を下げられない状態で売上の谷に入り、そこで詰まります。

そして、変動費として人に頼むときの経路も結果を左右します。仲介の手数料が乗る経路では、同じ予算でも依頼できる量が減り、受ける側の手取りも薄くなります。手数料0%の直接取引が意味を持つのは、金額の大小より、双方が続けやすい条件になるという点です。安く買い叩いて1回で終わる関係より、続く関係のほうが結果として安く付きます。

相場を知ってから、固定費と変動費を割り振る

外注を変動費として設計するなら、職種ごとの相場を先に把握しておく必要があります。相場を知らないまま発注すると、安すぎて誰も受けないか、高すぎて続かないかのどちらかになります。

開発を外に出す場合の水準は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場に職種別の数字が並んでいます。年間の概算を出しておけば、その分を役員報酬に回すか外注に回すかという比較ができます。

資料や文章の作成を任せたい場合は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場が目安です。議事録や社内規程は、役員が自分で書くと時間を食う割に、付加価値が乗りにくい作業です。

実際にどういう案件が出ているかを見ておくと、外注できる範囲の感覚がつかめます。業務の流れを整理して自動化まで設計する領域ならAIコンサル・業務活用支援のお仕事、集客や情報の管理まで含めて見てもらうならAI・マーケティング・セキュリティのお仕事、社内の仕組みを自前で作るならアプリケーション開発のお仕事が近いところです。

個人側の税金の扱いを自分で押さえておきたい場合は、確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツに控除の考え方が整理されています。受け取った報酬をどう置くかという話であれば、【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオが長期の積み立てを前提にした視点を示しています。職種ごとの収入差を俯瞰したい場合はUI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】が参考になります。経理や文書の作業を社内の担当者に任せる体制を作るなら、ビジネス文書検定のような基準を目安にする方法もあります。

役員報酬が経費にならない場面は、どれも事前に防げるものばかりです。期限を確認する、書類と実際の支給を突き合わせる、定款の上限を見る。この3つを毎年やるだけで、ここに挙げた7つの場面のほとんどは避けられます。

よくある質問

Q. 期の途中で役員報酬を上げると、いくら経費から外れますか?

上げた差額に、上げた月から期末までの月数を掛けた金額が外れます。月50万円を10月から80万円にした3月決算の会社なら、差額30万円の6か月分で180万円です。もとの50万円の部分は定期同額給与として成立しているので、全額が否認されるわけではありません。金額を変えてよいのは、事業年度開始から3か月を経過する日まで、役員の地位や職務が大きく変わったとき、経営状況が著しく悪化したとき(減額のみ)の3つです。

Q. 資金繰りが苦しいので役員報酬を下げたいのですが可能ですか?

一時的な資金繰りの都合や、業績目標に届かなかったという理由では下げられません。国税庁がこの2つを業績悪化改定事由に含まれないと明記しています。認められるのは経営状況が著しく悪化した場合の減額です。現実的な対応は、未払計上で支給額を同額に保ちながら支払時期をずらすか、翌期の開始から3か月以内に金額を見直すかのどちらかになります。

Q. 届け出た役員賞与を減額して払ったらどうなりますか?

支給した全額が経費になりません。100万円と届け出て80万円を払った場合、差額の20万円ではなく、80万円の全額が外れます。支給日が1日ずれた場合も同じ扱いです。払えないと分かった時点で全額を支給しないほうが、損失は小さくなります。支給がなければ会社の現金も出ず、余計な税負担も生じません。

Q. 否認されると追加でどのくらい払うことになりますか?

会社側で外れた金額に法人税と地方税がかかり、中小企業では所得のおおむね2割から3割台とされる水準の負担になります。個人側の所得税と住民税は取り消されません。税務調査で指摘された場合は加算税と延滞税が加わり、隠蔽や仮装があると重加算税として税額の35%(無申告なら40%)が課されます。延滞税は令和8年中の期間で、納期限の翌日から2か月までが年2.8%、それ以後は年9.1%です。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月22日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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