使用人兼務役員の給与の決め方|賞与を経費にできる役員

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
使用人兼務役員の給与の決め方|賞与を経費にできる役員

この記事のポイント

  • ✓使用人兼務役員の給与決め方を
  • ✓役員分と使用人分の分け方から整理
  • ✓使用人分の賞与は事前の届出なしで経費にできるが

結論から書く。使用人兼務役員に該当する人であれば、その人に払う給与のうち使用人としての職務に対応する部分は、役員給与のきびしい制約から外れる。賞与についても、事前に税務署へ届け出なくても経費にできる道がある。ただし、該当できる人の範囲はかなり狭い。社長も、副社長も、専務も、会社の株式を多く持つ役員も、この枠には入れない。この記事では、誰が該当するのかを国税庁の資料で確かめたうえで、給与を役員分と使用人分にどう分けるか、それぞれの金額をどう決めるかを順番に整理していく。

使用人兼務役員が特別扱いされる理由

まず、なぜこの区分が存在するのかを押さえておく。

役員に払う給与は、会社の経費にできるものが3つの型に限定されている。毎月同じ額を払う定期同額給与、事前に届け出た内容どおりに払う事前確定届出給与、そして上場企業向けの業績連動給与だ。この3つのどれにも当てはまらない役員給与は、会社の経費にならない。役員が自分の報酬を自由に決めて利益を圧縮するのを防ぐためのルールだ。

ところが、この制約には除外される部分がある。

(注) 上記の給与からは、(1)退職給与で業績連動給与に該当しないもの、(2)使用人兼務役員に対して支給する使用人としての職務に対するものおよび(3)法人が事実を隠蔽し、または仮装して経理することによりその役員に対して支給するものは除かれます。 出典: nta.go.jp

使用人兼務役員に払う給与のうち、使用人としての職務に対する部分は、役員給与の3つの型から外れている。つまり、その部分については従業員への給与と同じ扱いになる。賞与を出すときに事前確定届出給与の届出をしなくてよいのは、この除外があるからだ。

役員としての立場と、部長や工場長のような現場の立場を両方持っている人は、中小企業では珍しくない。その現場の仕事に対する対価まで役員給与の制約に縛られるのは実態に合わない。そういう考え方で作られた区分だと理解しておくと、後の要件も飲み込みやすい。

そもそも税務上の「役員」はどこまでを指すのか

該当するかどうかを判定する前に、役員の範囲そのものを確認しておく。登記されている取締役だけが役員ではない。

国税庁の整理では、取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人がまず役員にあたる。そしてもう1つ、登記されていなくても役員として扱われる人がいる。会長や相談役、顧問といった肩書きで、その会社での地位や職務から見て実質的に経営に従事していると認められる人だ。定款などで役員として定めている人も含まれる。

さらに、同族会社には独特の基準がある。職制上は使用人でも、株式の持ち方について3つの要件をすべて満たし、その会社の経営に従事している人は、税務上の役員として扱われる。要件は、株主のグループを持ち株の割合が大きい順に並べたときに上位のグループに属していること、その人が属するグループの持ち株割合が10%を超えていること、その人自身(配偶者などを含む)の持ち株割合が5%を超えていることの3つだ。

この基準に当てはまる人は、いわゆるみなし役員と呼ばれる。そしてここが重要なのだが、みなし役員は使用人兼務役員になれない。役員として登記していない家族社員であっても、株式を持っていて経営に関わっていれば、賞与の扱いが従業員とは変わる可能性がある。

自社が同族会社かどうかは、株主の構成で決まる。中小企業の多くは同族会社に該当するので、家族に給与を払っている会社は、この判定を一度やっておいたほうがいい。判定の結果によって、賞与の出し方がまるごと変わる。

使用人兼務役員になれない人の範囲

ここが本題になる。国税庁は、使用人兼務役員の定義と、そこから外れる役員を明確に示している。

使用人兼務役員とは、役員のうち部長、課長、その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事する者をいいますが、次のような役員は、使用人兼務役員となりません。なお、同族会社の使用人のうち税務上みなし役員とされる者も使用人兼務役員となりません。 出典: nta.go.jp

なれない人として挙げられているのは、次の5つの区分だ。

1つ目は、代表取締役、代表執行役、代表理事、清算人。社長がここに入る。2つ目は、副社長、専務、常務、その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員。3つ目は、合名会社、合資会社、合同会社の業務執行社員。合同会社の代表社員や業務執行社員は該当しない、ということになる。4つ目は、指名委員会等設置会社の取締役と監査等委員である取締役、会計参与、監査役、監事。

5つ目が、同族会社の役員のうち持ち株の割合で判定されるものだ。条件は、みなし役員の判定と同じ3つ。上位の株主グループに属していること、属するグループの持ち株割合が10%を超えていること、その役員自身の持ち株割合が5%を超えていること。この3つをすべて満たすと、使用人兼務役員になれない。

この5つ目が実務でいちばん効いてくる。1人で株式を持つ社長の会社は、社長本人が1つ目と5つ目の両方に当たる。配偶者を取締役にしている場合も、その配偶者が株式を5%超持っていて、かつ上位のグループに属していれば外れる。

逆に言えば、株式をまったく持っていない取締役で、部長などの肩書きを持って現場の仕事に常時従事している人は、該当する可能性がある。外部から招いた取締役や、社員から昇格して株式を持っていない取締役が典型だ。

肩書きを付ければ該当するわけではない

制度の形は分かった。ここからが実務の話になる。

該当するかどうかは、肩書きだけでは決まらない。定義にあるとおり、使用人としての職制上の地位を有していることと、常時使用人としての職務に従事していることの両方が必要になる。

職制上の地位というのは、部長、課長、支店長、工場長のように、組織図の中で位置づけられた役職のことだ。取締役営業部長のように、登記上の役職と使用人としての役職が両方ある形になる。ここで「取締役管理本部担当」のような担当を示すだけの呼び方では、職制上の地位があるとは言いにくい。組織図と職務分掌の規程に、その役職が他の従業員と同じ並びで載っていることが根拠になる。

常時従事というのは、その使用人としての仕事を日常的にやっているかどうかだ。月に数回だけ現場に顔を出すような働き方では、常時とは言えない。出退勤の記録、担当している業務の内容、部下の有無といった実態で見られる。

正直なところ、この判定を自社だけで決め切るのは難しい。組織図、職務分掌規程、給与規程、出退勤の記録をそろえて、税理士に見てもらってから運用に入るほうが安全だ。該当すると思って使用人分の賞与を出したあとに否認されると、事前確定届出給与の届出をしていない役員賞与と同じ結果になり、その全額が経費にならない。

給与を役員分と使用人分に分ける

該当する人がいるとして、次は金額の話だ。使用人兼務役員に払う給与は、役員としての職務に対する部分と、使用人としての職務に対する部分に分けて考える。

役員分は、毎月同じ額を払う定期同額給与として扱う。事業年度が始まってから原則3か月以内に金額を決め、その後1年間は同じ額を払い続ける。途中で増やした分は経費にならない。

使用人分は、他の従業員への給与と同じ扱いになる。金額を決める基準も、他の従業員と同じ物差しを使う。基本給、役職手当、通勤手当といった内訳を、社内の給与規程に当てはめて計算する。

分け方の実務としては、次の3つをそろえておきたい。1つ目は、給与規程の中で、その役職の給与水準が定められていること。2つ目は、給与明細や賃金台帳で、役員分と使用人分が区別して記録されていること。3つ目は、株主総会や取締役会で役員報酬の限度額を決めるときに、使用人分を含めるのか含めないのかをはっきりさせておくことだ。

3つ目は見落とされやすい。役員報酬の限度額に使用人分を含めないで定めている会社については、使用人分として払った金額のうち、他の従業員への給与の支給状況などに照らして相当と認められる金額は、限度額の判定から除かれる。逆に言えば、相当と認められない金額は除かれない。議事録に「使用人分を除く」と書いてあるかどうかで、判定の土俵が変わる。

使用人分の金額はいくらが妥当か

具体的な金額に、法律で決められた基準はない。判断の物差しは「他の従業員への給与の支給状況などに照らして相当かどうか」になる。

現実的な決め方は2つある。1つは、社内に同じ職位の従業員がいる場合だ。その人の給与水準に合わせる。取締役営業部長の使用人分を決めるなら、営業部長として他の従業員がいればその水準、いなければ課長の水準から役職の差を積む形になる。

もう1つは、社内に比較できる人がいない場合だ。この場合は、同じ業種で同じくらいの規模の会社の賃金水準を参考にする。職種別の賃金統計や求人の相場が根拠になる。決めた根拠は、給与規程の改定の記録や、参考にした資料と一緒に残しておく。

やってはいけないのは、役員報酬の総額を先に決めて、そこから逆算して使用人分の金額を置くことだ。使用人分を大きくすれば役員分が小さくなり、定期同額給与の制約を受ける部分が減る。その動機で金額を作ると、他の従業員の水準から明らかに浮いた数字になる。浮いた部分は相当な金額と認められず、結局は役員給与として扱われる。

使用人分が他の従業員と比べて高すぎないか、という確認は毎年やっておきたい。従業員の給与を改定したのに、使用人兼務役員の使用人分だけ据え置き、あるいは逆に大きく上げている、という状態は説明しにくい。

使用人分の賞与は「他の従業員と同じ時期」が条件

ここが、この制度でいちばん事故が多いところだ。

使用人分の賞与は、事前確定届出給与の届出なしで経費にできる。ただし、支給する時期に条件が付いている。法人税法施行令は、使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与で、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したものの額を、過大な役員給与として経費から外すと定めている。

つまり、従業員に夏と冬の年2回の賞与を出している会社であれば、使用人兼務役員の使用人分も、その同じ時期に出す必要がある。従業員には7月に出して、使用人兼務役員には9月に出す、という形にすると、その賞与は経費にならない。

もうひとつ。決算の日までに払っていない賞与を、その事業年度の経費にするには条件がある。

(1) その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知をしていること。 (2) (1)の通知をした金額を通知したすべての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。 (3) その支給額につき(1)の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。 出典: nta.go.jp

この3つをすべて満たせば、通知をした日が属する事業年度の経費になる。使用人に対して支給する賞与の額には、使用人兼務役員に支給する賞与のうち使用人としての職務に対応する部分の金額が含まれるので、この取り扱いは使用人兼務役員の使用人分にも及ぶ。

注意点として、支給日に在籍している従業員だけに払う取り決めにしている場合、その通知はここでいう通知にあたらない。就業規則や賞与の規程に在籍要件を書いている会社は、決算日の翌日から1か月以内に払っても、実際に支払った日が属する事業年度の経費になる。

実際の数字で分け方をなぞる

言葉だけでは分かりにくいので、具体的な形で置いてみる。社員が8人いる会社で、株式をまったく持っていない取締役営業部長に月60万円を払う場合を考える。

まず使用人分を決める。給与規程の営業部長の等級に当てはめると、基本給42万円、役職手当5万円、通勤手当1万円で合計48万円になったとする。この48万円が使用人分だ。根拠は給与規程そのものなので、他の従業員に同じ規程を当てはめた結果と並べて説明できる。

残りの12万円が役員分になる。この12万円が定期同額給与として扱われるので、事業年度が始まってから原則3か月以内に決めて、その後1年間は同じ額を払い続ける。使用人分の48万円は、他の従業員と同じ基準で改定してよい。昇給の時期に営業部長の等級が上がれば、その分は動く。

賞与はどうなるか。この会社が従業員に7月と12月の年2回、基本給の1.5か月分を出しているとする。使用人兼務役員の使用人分についても、同じ7月と12月に、同じ計算式で出す。基本給42万円の1.5か月分なら63万円だ。この賞与には事前確定届出給与の届出がいらない。

役員分として別に賞与を出したい場合は、その部分だけが事前確定届出給与の対象になる。株主総会で決議して、期限内に税務署へ届け出て、届け出た日に届け出た額を払う。役員分と使用人分で手続きがまったく違うので、社内の担当者にはこの2本立てを最初に共有しておきたい。

支給したあとの社会保険の届出は、使用人分と役員分を合算した金額で行う。7月に使用人分63万円だけを出したなら63万円、同じ月に役員分も出したならその合計で標準賞与額を計算する。税務の書類と社会保険の書類で数字の単位が違う点は、間違えやすいので毎回確認したい。

社会保険の側では、役員分と使用人分の区別がない

税務上は分けて考えるが、社会保険の扱いは別だ。

健康保険と厚生年金では、賞与の定義が名称によらない形で決められている。

「被保険者賞与支払届」の対象となる賞与は、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち、年3回以下の支給のものです。 出典: nenkin.go.jp

名称を問わないので、役員分と使用人分を分けて処理していても、社会保険の計算では合わせた金額が対象になる。標準賞与額は、実際に支払った総額から1,000円未満を切り捨てて決める。厚生年金の標準賞与額は1か月あたり150万円が上限、健康保険は年度の累計で573万円が上限だ。

もうひとつ、年4回以上支給されるものは賞与ではなく標準報酬月額の対象になる。使用人分の賞与を従業員と同じ年2回、役員分の賞与を別に年2回、というように回数を積み上げると、合計で年4回になって扱いが変わる可能性がある。回数は合計で数える。

支給したあとの手続きも忘れやすい。被保険者賞与支払届は、支給日から5日以内に提出する。税務の要件を満たすことに気を取られて、この期限を落とす会社は多い。

帳簿と給与明細で、分けた事実を残す

制度の要件を満たしていても、分けた事実が書類に残っていなければ説明ができない。実務では次の3か所に痕跡を残す。

1か所目は、賃金台帳と給与明細だ。使用人分の基本給、役職手当、通勤手当、時間外手当といった内訳が、他の従業員と同じ様式で記録されている状態にする。支給額の合計だけが1行で載っている形だと、どこまでが使用人分なのかを後から示せない。

2か所目は、帳簿の勘定科目だ。役員分は役員報酬、使用人分は給料手当というように、科目を分けて計上している会社が多い。科目を分けること自体が税務上の要件というわけではないが、総勘定元帳を見た人がすぐに区別できる状態にしておくと、説明の手間が減る。

3か所目は、議事録だ。株主総会で役員報酬の限度額を決議するとき、その限度額に使用人分を含めるのか含めないのかを書いておく。含めないで定めている場合、使用人分として払った金額のうち、他の従業員への給与の支給状況などに照らして相当と認められる金額は、限度額の判定から外れる。議事録に一文あるかどうかで、後の判定の土俵が変わる。

この3つは、どれも運用を始めるときに一度整えれば、あとは毎月の事務の中で自然に積み上がる。逆に、後からまとめて作り直すのは難しい。使用人兼務役員の扱いを始める月を決めて、その月の給与計算から様式を変えるのが現実的だ。

途中で該当しなくなったとき、該当するようになったとき

判定は固定されたものではない。人事や株式の異動で、該当する側と該当しない側を行き来する。

該当しなくなる典型は3つある。1つ目は、昇格だ。取締役営業部長だった人が専務取締役になると、専務は使用人兼務役員になれない役員に当たるので、その時点から使用人分という考え方が使えなくなる。2つ目は、株式の取得だ。持ち株の割合が要件を満たすと、肩書きが部長のままでも外れる。3つ目は、職務の変更だ。現場の担当を外れて経営に専念する形になれば、常時使用人としての職務に従事しているとは言えなくなる。

期の途中でこの変化が起きた場合、毎月の報酬の扱いが問題になる。役員給与を期の途中で増やすと、原則としてその増えた分は経費にならない。ただし、役員の職制上の地位の変更や職務内容の重大な変更といった、やむを得ない事情による改定は、臨時改定事由として定期同額給与の範囲に含まれる。昇格や職務変更に伴う改定は、この枠で処理できる余地がある。

ここで大事なのは、変更の事実を決議と議事録で残しておくことだ。いつからどう変わったのか、その結果として報酬をどう改定したのかを書いておかないと、単なる期中の増額と区別がつかない。

逆に、該当するようになる場合もある。株式を手放した、現場の部長に就いた、といった変化だ。この場合も、いつから使用人分の扱いを始めるのかを決議で定めて、給与明細の様式もその月から変える。賞与の支給時期は、その時点ですでに他の従業員の支給日が決まっているはずなので、そこに合わせる。

運用に入る前に確認する6項目

最後に、走り出す前の確認事項を並べておく。どれも書類を見れば済む。

1つ目は、株主名簿だ。対象になる人と、その配偶者などの持ち株の割合を確かめる。3つの要件をすべて満たすなら、この時点で該当しないと分かる。

2つ目は、登記事項証明書と組織図だ。登記上の役職と、組織図の中の役職の両方があるかを確かめる。組織図にその役職がないなら、先に組織図を整える。

3つ目は、職務分掌の規程だ。その役職が担当する業務の範囲が書かれているかを確かめる。書かれていなければ、他の役職と同じ様式で追記する。

4つ目は、給与規程だ。その役職の給与水準が規程に当てはめて計算できるかを確かめる。使用人分の金額の根拠がここから出てくる。

5つ目は、賞与の支給日だ。従業員の賞与の支給日がいつなのかを確かめ、使用人分も同じ日にそろえる。

6つ目は、出退勤の記録だ。常時使用人としての職務に従事していることを示す材料になる。役員だから記録を付けていない、という状態だと実態の説明が弱くなる。

この6つがそろっていれば、判定の材料としては十分だ。そのうえで、最終的な該当の可否は個別の事情で変わるので、税理士に資料を渡して確認してから運用に入ってほしい。

この制度でつまずく4つのパターン

実際に相談が多い型を挙げておく。

1つ目は、株式を持っている役員に使用人兼務役員の扱いを当ててしまうこと。同族会社の役員で、上位の株主グループに属し、グループの持ち株割合が10%超、本人の持ち株割合が5%超という3つを満たすと、肩書きが部長でも該当しない。判定は株主名簿を見れば済むので、最初に確認する。

2つ目は、支給時期のずれだ。従業員の賞与と別の月に使用人分を出すと、その賞与は経費にならない。賞与の支給日は、全員まとめて決める。

3つ目は、使用人分の金額が他の従業員から浮いていること。相当と認められない部分は役員給与として扱われる。給与規程に当てはめて計算し、根拠を残す。

4つ目は、職制上の地位の裏づけがないこと。名刺に部長と書いてあっても、組織図や職務分掌規程にその役職がなく、実際の勤務の実態も薄ければ、判定を通すのは難しい。肩書きを先に作るのではなく、実態に合わせて整理する。

この4つは、いずれも運用を始める前に確認できる。株主名簿、組織図、給与規程、賞与の支給日の4点を先にそろえてから走り出せば、大きく外すことはない。税務の判断は個別の事情で変わるので、運用に入る前に税理士に確認してほしい。

20年この市場を見てきた運営者の観察

フリーランスと業務委託の市場を長く運営してきた立場から見ると、この制度を使える会社と使えない会社は、かなりはっきり分かれる。

使えるのは、社員を雇っていて、組織図があり、給与規程がある会社だ。他の従業員との比較という物差しが機能するのは、比較できる従業員がいる場合に限られる。1人会社や、社長と配偶者だけの会社では、そもそも判定の土俵に乗らないことが多い。

運営者として見てきた限りでは、法人化したばかりの人がこの制度の名前を知って調べ始めるケースが目立つ。ただ、実際に該当するのは、社員が数人以上いて、外部から取締役を招いているような段階の会社だ。そこに至る前の段階では、役員報酬の組み方を工夫するより、売上の基盤を厚くするほうが効く。

基盤の部分では、間に入る業者へのマージンが乗らない取引がじわじわ効いてくる。手数料0%の直接取引は、依頼する側が同じ予算でより多く頼めて、受ける側は同じ仕事で手取りが厚くなる。1件では小さな差でも、年間で積み上がると、そもそも人を雇えるかどうかの水準が変わる。制度の使い分けは、雇う段階に入ってから考えれば間に合う。

職種データから見える、この制度が効く会社の形

使用人兼務役員の制度が機能するのは、現場の仕事と経営の仕事が同じ人の中で分かれている会社だ。職種別のデータと案件の性質を並べると、どんな会社で起きやすいかが見えてくる。

開発の会社では、技術部長を務める取締役という形がよくある。設計や実装を自分で担当しながら、経営会議にも出る。この形なら、使用人としての職務の実態を説明しやすい。単価の水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場にまとまっており、案件の中身はアプリケーション開発のお仕事を見ると具体的につかめる。

コンサルティングの会社では、線引きが難しくなる。AIコンサル・業務活用支援のお仕事のような仕事は、顧客への提案そのものが経営判断と近く、どこからが使用人としての職務なのかを分けにくい。職務分掌の規程を先に整えてからでないと、説明が苦しくなる。

運用や保守の比率が高い会社は、分けやすいほうに入る。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように、定常的な作業と担当範囲がはっきりしている仕事が多いと、使用人としての職務の内容を書き出せる。

制作や編集の会社でも、編集長を兼ねる取締役という形が成り立つ。著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると職位による幅があり、社内に同じ職位の従業員がいれば、使用人分の金額の根拠に使える。

使用人としての職務を裏づける材料として、担当業務に直結する資格を整理しておくのも有効だ。ネットワーク構築を請け負う会社にとってのCCNA(シスコ技術者認定)や、書類の正確さが納品物の品質を左右する会社にとってのビジネス文書検定は、その人が現場の仕事を担っていることの説明材料になる。

受け取った側のお金の扱いも触れておく。賞与でまとまった現金が入ったときの置き場所については【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオが参考になる。個人事業のときの税負担の感覚を振り返るなら確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツを、職種ごとの収入差そのものを見るならUI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】を見ておくとよい。

使用人兼務役員の制度は、当てはまれば手続きが軽くなる一方、当てはまらないのに使うと事故が大きい。判定に使う材料は株主名簿と組織図と給与規程の3つで足りるので、運用を始める前にそろえて、税理士に一度見てもらってから走り出すのが確実だ。

よくある質問

Q. 社長は使用人兼務役員になれますか?

なれません。代表取締役は使用人兼務役員になれない役員として明示されています。副社長、専務、常務、これらに準ずる職制上の地位を持つ役員も同じです。加えて、同族会社で持ち株の割合が一定の要件を満たす役員も外れるため、1人で株式を持つ社長の会社では使えないと考えてください。

Q. 使用人分の賞与に事前の届出は必要ですか?

必要ありません。使用人としての職務に対する部分は役員給与の3つの型から除かれており、従業員の賞与と同じ扱いになります。ただし、他の従業員への賞与と異なる時期に支給すると、その額は経費になりません。支給日は全員まとめて決めてください。

Q. 使用人分の給与はいくらにすればよいですか?

法律上の金額基準はなく、他の従業員への給与の支給状況などに照らして相当かどうかで判断されます。社内に同じ職位の従業員がいればその水準に合わせ、いなければ同業同規模の賃金水準を参考にします。役員分から逆算して決めると、浮いた部分は役員給与として扱われます。

Q. 株式を少しだけ持っている取締役はどうなりますか?

判定は3つの要件をすべて満たすかどうかで決まります。上位の株主グループに属していること、そのグループの持ち株割合が10%を超えていること、本人と配偶者などの持ち株割合が5%を超えていることです。1つでも欠ければ、この理由では除外されません。株主名簿で確認してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年2月23日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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