役員報酬を変えるときの議事録|いつまでに作れば経費として通るか


この記事のポイント
- ✓役員報酬を変更するときの議事録について
- ✓いつまでに決議すれば経費として認められるかを整理しました
- ✓期首から3か月という期限
役員報酬を変えたい。そう思ったときに最初に確かめるべきは、金額ではなく時期です。役員報酬の変更には期限があり、そこを外すと変更した分が経費として認められないことがあります。そして、期限の中で決めたことを示す唯一の証拠が議事録です。この記事では、いつまでに議事録を作ればよいのか、何を書けば理由が通るのかを、条文と国税庁の説明に沿って整理します。
役員報酬は、決めた金額を1年間動かさないのが原則
まず、なぜ期限があるのかを押さえます。
従業員の給与と違って、役員報酬は会社が自由に動かせてしまいます。利益が出そうな月に社長の報酬を引き上げれば、その分だけ会社の利益が減り、法人税も減る。これを認めると、税額を後から調整できることになります。
そこで法人税法は、役員に支給する給与のうち、決められた型に当てはまらないものは経費として認めないという作りをとっています。型の1つが定期同額給与で、支給の時期が1か月以下の一定の期間ごとであり、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものを指します。中小企業の役員報酬は、ほぼこの型で運用されています。
毎月同じ額、というのが原則です。では変更はできないのか。できます。ただし、決められた時期に決められた手順で行う必要があります。
変えてよいのは、事業年度が始まってから3か月以内
期限の根拠は、法人税法施行令にあります。
イ 当該事業年度開始の日の属する会計期間(法第十三条第一項(事業年度の意義)に規定する会計期間をいう。以下この条において同じ。)開始の日から三月(次に掲げる法人にあつては、それぞれ次に定める月数)を経過する日(イにおいて「三月経過日等」という。)まで(定期給与の額の改定(継続して毎年所定の時期にされるものに限る。)が三月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあつては、当該改定の時期)にされた定期給与の額の改定 出典: laws.e-gov.go.jp
条文は読みにくいですが、中心は1点です。会計期間が始まった日から3か月を経過する日までに改定したのであれば、改定の前と後でそれぞれ同額が保たれている限り、定期同額給与として扱われます。
大事なのは、期限が決算日ではなく、事業年度の開始日を起点にしていることです。決算の作業が終わってから考え始めると、間に合わないことがあります。
決算月ごとに、期限はこう動く
自分の会社の期限を確かめてください。
3月決算の会社は、会計期間が4月1日に始まります。3か月を経過する日は6月30日。したがって、6月中に総会を開いて決議し、7月支給分から新しい金額にするのが標準的な形になります。
12月決算の会社は、会計期間が1月1日に始まります。期限は3月31日。2月に決算の数字を固め、3月に総会、4月支給分から反映、という流れです。
9月決算の会社は、会計期間が10月1日に始まります。期限は12月31日。年末の繁忙期と重なるので、段取りを早めに組んでおかないと押し出されます。
設立したばかりの会社は、設立日が起点になります。設立から3か月以内に最初の報酬額を決めて、そこから毎月同額を払う。ここを外すと、初年度の役員報酬が丸ごと問題になりかねません。会社を作ったら、登記が終わった直後に報酬を決める総会を開いてください。
支給月の考え方にも注意が要ります。6月30日までに決議していても、実際に新しい金額を払い始めるのが8月分からだと、6月と7月の扱いを説明する必要が出ます。決議した月の翌月支給分から、という形に揃えておくのが素直です。
期限内に決めていても、議事録が無ければ示せない
期限の話をすると、日付さえ守れば大丈夫だと受け取られがちです。実際には、守ったことを示す書類が無ければ意味がありません。
役員報酬は、定款に額を定めていないときは株主総会の決議によって定めると会社法が規定しています。決議をしたという事実は、議事録でしか示せません。口座の履歴を見れば金額は分かりますが、いつ誰が決めたのかは分かりません。
税務調査でまず確認されるのが、この議事録の有無と日付です。議事録が無ければ、決議があったのかどうかの議論から始まります。あっても日付が期限の外なら、その時点で扱いが変わります。
作る手間は大きくありません。総会を開いて、議案を1つ書いて、出席者の名前を並べる。30分もかかりません。それで数十万円単位の税負担が動くことがあるので、費用対効果としては群を抜いています。
増額するときの議事録に書くこと
増額の場合、書くべき要素は4つです。
1つ目は決議した日付。議事録の冒頭にある開催日がそのまま決議日になります。期限の中に収まっているかを、書いた直後に確かめてください。
2つ目は、支給を開始する月です。「令和○年○月支給分より」と書きます。これが無いと、どの月から新しい金額になるのかが議事録から読めません。給与台帳と突き合わせたときに、変更の起点が確定しないので説明に手間がかかります。
3つ目は、変更後の金額と単位です。月額なのか年額なのかを明記します。総額の上限を決める方式をとっている会社は、上限を変えるのか、上限はそのままで配分を変えるのかによって、決める場所が変わります。上限を変えるなら株主総会、上限の枠内での配分変更なら取締役の協議や取締役会です。
4つ目は、対象となる人です。全員を一律に上げるのか、特定の取締役だけを上げるのか。氏名と金額を1対1で並べておくと、後から読んで迷いません。
増額の場合、理由を書く必要は必ずしもありません。期首から3か月以内であれば、理由を問われずに改定できるからです。ただし、書いておいて損はありません。「前期の業績を踏まえ」といった一文があるだけで、議事録としての説得力が上がります。
減額するときは、理由の書き方が結果を分ける
減額は少し事情が違います。期首から3か月以内であれば、理由に関係なく改定できる点は増額と同じです。問題は、期限を過ぎてから減らしたい場合です。
期限後の減額が認められるのは、業績悪化改定事由に当たるときだけです。経営の状況が著しく悪化したこと、その他これに類する理由により、定期給与の額を減額した改定に限る、と定められています。増額には使えません。
そして、何が該当するかについては国税庁が明確に線を引いています。
(注) 法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれません。 出典: nta.go.jp
今月の入金が遅れているから一時的に下げる。目標の売上に届かなかったから下げる。どちらも該当しません。想定されているのは、もっと構造的な変化です。主要な取引先が倒産して売上の柱を失った、金融機関との協議のなかで経営改善計画を出すことになった、株主や債権者との関係で経営責任を明確にする必要が生じた。こうした水準の事情です。
議事録には、何が起きたのかと、その結果どういう判断に至ったのかを具体的に書きます。「業績が厳しいため」では理由になりません。いつ、どの取引先との取引が、どの程度減ったのか。その結果、資金繰りや損益がどうなる見通しなのか。第三者が読んで納得できる記述にしてください。
期の途中で変えられる、もう1つの例外
業績悪化のほかに、期の途中で報酬を変えられる場合があります。臨時改定事由です。
当該事業年度において役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情によりされた定期給与の額の改定、と定められています。
典型は、地位が変わった場面です。取締役だった人が代表取締役になった。常務が専務に上がった。逆に、代表取締役を退いて平取締役になった。こうした変化があれば、期の途中でも報酬を改定できます。
職務の内容が大きく変わった場合も対象になります。担当していた事業部門が変わって責任の範囲が大幅に広がった、病気や事故で職務の範囲を縮小せざるを得なくなった、といった事情です。
臨時改定事由は、増額にも減額にも使えます。ここが業績悪化改定事由との違いです。
議事録には、地位や職務がどう変わったのかを具体的に書きます。「取締役○○○○が令和○年○月○日付けで代表取締役に就任したことに伴い、同人の報酬を令和○年○月支給分より月額金○○万円に改定する」といった形です。変更の事実と、それに伴う改定であることが1文でつながるように書いてください。
なお、地位の変更が登記事項であれば、登記の内容と議事録の日付が一致している必要があります。代表取締役への就任は登記事項です。報酬の議事録だけ日付がずれている、という状態は避けてください。
変更の議事録の文例
実際の書き方を示します。骨組みは通常の株主総会議事録と同じで、議案の部分が入れ替わります。
期首の定時株主総会で改定する場合。
「第○号議案 取締役の報酬額改定の件 議長は、取締役の報酬額を令和○年○月支給分より下記のとおり改定したい旨を述べ、その可否を諮ったところ、満場異議なくこれを承認可決した。 代表取締役○○○○ 月額金○○万円(改定前 月額金○○万円) 取締役○○○○ 月額金○○万円(改定前 月額金○○万円)」
改定前の金額をかっこ書きで併記しておくと、いくらからいくらに変わったのかが1行で分かります。給与台帳との照合がすぐ終わるので、この書き方を勧めます。
臨時改定事由による改定の場合。
「第○号議案 取締役○○○○の報酬額改定の件 議長は、取締役○○○○が令和○年○月○日付けをもって代表取締役に就任し、職務の内容に重大な変更が生じたことから、同人の報酬額を令和○年○月支給分より月額金○○万円(改定前 月額金○○万円)に改定したい旨を述べ、その可否を諮ったところ、満場異議なくこれを承認可決した。」
理由と改定内容が1つの文の中に収まっています。後から読む人が、理由の書かれた別紙を探さずに済みます。
業績悪化改定事由による減額の場合は、理由の記述を厚くします。議案の前に、議長が経営状況を説明した段落を置く形が読みやすいです。「議長より、主要取引先である○○株式会社の取引停止により、当期の売上が前期比で大幅に減少する見込みであること、および取引金融機関との協議により経営改善計画を提出することとなった旨の報告があった。」と状況を書いてから、改定の議案に入ります。
変更の総会は、どんな形で開けばよいか
期限を守るうえで、総会の開き方も確認しておきます。
原則は、招集通知を出して株主に集まってもらう形です。公開会社でない会社であれば、総会の日の1週間前までに通知を発することになっていて、取締役会を置いていない会社はさらに短い期間を定款で定めることもできます。
ただし、株主全員の同意があれば、招集の手続きを経ることなく開催できます。株主が家族だけ、あるいは社長1人という会社では、この省略を使うのが現実的です。省略した場合は、議事録に「株主全員の同意があったので招集手続を省略して開催した」と書き添えておくと、後から経緯が追えます。
集まることすら難しい場合は、会議を開かずに決める方法もあります。取締役または株主が提案をした事項について、議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する決議があったものとみなされます。
この方法を使うときは、議事録に書く中身が入れ替わります。書くのは、決議があったものとみなされた事項の内容、その提案をした者の氏名または名称、決議があったものとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名の4つです。開催した日時も場所も議長も出てきません。会議を開いていないのに「当会社の本店において開催した」と書いてしまうと、事実と違う記録になります。
税務の観点で重要なのは、決議があったものとみなされた日が期限の中に入っているかどうかです。同意書に署名した日付がばらついていると、いつ決議があったことになるのかが曖昧になります。同意書は同じ日付で揃えるか、全員が揃った日を明記してください。同意書そのものも、10年間の備置きが必要です。
役員賞与を足したいときは、報酬の変更とは別の手続き
毎月の報酬を上げる代わりに、一時金を出したいという相談があります。この場合、定期同額給与の変更ではなく、事前確定届出給与という別の型を使います。
やることは2つです。株主総会で、誰にいついくら払うかを決めて議事録に残す。そして、税務署に届出書を出す。
届出には期限があります。原則として、株主総会等の決議によりその定めをした場合におけるその決議をした日から1か月を経過する日と、その会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日までです。新しく設立した法人が、役員の設立時に開始する職務についてその定めをした場合は、設立の日以後2か月を経過する日が期限になります。
議事録には、支給する日と金額を1円単位まで書きます。「賞与を支給する」だけでは、届出の内容と一致させられません。「令和○年12月10日に、取締役○○○○に対し金○○万円を支給する」と、日付と氏名と金額を並べます。
注意したいのは、届け出た額と実際に払った額がずれた場合です。少なく払えば安全、ということにはなりません。届出と違う支給をすると、その給与の全額が経費として認められない扱いになることがあります。資金繰りが読めない時期に大きな額を届け出るのは避けたほうが無難です。
毎月の報酬を上げるか、賞与で出すか。どちらが有利かは、社会保険料の負担や個人の所得税の累進を含めて計算しないと決まりません。金額と家族構成で結論が変わるので、決める前に税理士に相談してください。
会社を作った直後は、特に期限が近い
設立して間もない会社ほど、この期限に引っかかります。
設立の登記が終わり、銀行口座を作り、取引が始まる。やることが多い時期に、役員報酬を決める総会を開くという作業が後回しになります。気づくと設立から4か月が経っていた、という流れです。
設立から3か月以内に最初の報酬額を決める必要があります。最初の決定は「変更」ではありませんが、その後に動かすなら同じ3か月の枠の中で行うことになります。
金額をゼロにしておいて後から決める、という考え方もありますが、これも慎重に扱ってください。途中からゼロを超える金額を払い始めるのは、期の途中の増額と同じ問題に当たる可能性があります。売上の見通しが立たない段階でも、払える水準の金額を先に決めて、毎月同額で払い続けるほうが型としては安定します。
設立初年度は事業年度の長さも会社ごとに違います。設立日から最初の決算日までが12か月未満になることが多く、期限の計算を月数でざっくり見積もると外れます。設立日を起点に、カレンダーで3か月後の日付を確かめてください。
変更したあとに連動する手続き
議事録を作って終わりではありません。報酬額を動かすと、ほかの手続きが連動します。
1つ目は社会保険です。報酬月額が大きく変わると、健康保険と厚生年金保険の標準報酬月額を見直すことになります。
実施機関は、被保険者が現に使用される事業所において継続した三月間(各月とも、報酬支払の基礎となつた日数が、十七日以上でなければならない。)に受けた報酬の総額を三で除して得た額が、その者の標準報酬月額の基礎となつた報酬月額に比べて、著しく高低を生じた場合において、必要があると認めるときは、その額を報酬月額として、その著しく高低を生じた月の翌月から、標準報酬月額を改定することができる。 出典: laws.e-gov.go.jp
読み取れるのは3点です。見るのは変更した月から数えて3か月の平均であること。各月とも報酬支払の基礎となった日数が17日以上必要であること。そして、改定が効くのは著しい高低が生じた月の翌月からであること。
該当するかどうかの具体的な判定基準や届出の様式は、日本年金機構が案内しています。届出が遅れると保険料の追納が発生するので、報酬を変えたらカレンダーに3か月後の確認日を入れておいてください。
2つ目は源泉徴収です。報酬額が変われば、毎月天引きする所得税の額も変わります。源泉徴収税額表を見直して、給与計算のマスタを更新します。
3つ目は資金繰りの見直しです。役員報酬は固定費なので、増やせば毎月のキャッシュアウトが増えます。1年間動かせないことを前提に、払い続けられる水準かどうかを決める前に確かめてください。
4つ目は住民税です。こちらは前年の所得に基づいて翌年度に課されるので、その年ではなく翌年に効いてきます。増額した翌年に住民税が上がることを忘れていると、手取りの感覚がずれます。
期限を過ぎて変えてしまったときはどうなるか
順番が逆になりましたが、すでに動かしてしまった場合の話をします。
期限を過ぎてから増額した場合、増額した差額の部分が経費として認められない扱いになる可能性があります。全額ではなく、増やした分の差額部分です。年度の途中から増やしたなら、その月数分の差額が対象になります。
期限を過ぎてから減額した場合の扱いは、増額より複雑です。業績悪化改定事由や臨時改定事由に当たらない減額をすると、定期同額給与の型から外れます。その場合、どの部分が経費として認められないかは、減額の時期や金額によって変わります。
いずれも、金額と事情によって結論が動く領域です。一般にはこう扱われるとしか言えないので、実際に動かしてしまった場合は税務署か税理士に確認してください。自己判断で修正申告まで進めると、かえって手戻りが増えます。
やってはいけないのは、議事録の日付を後から書き換えることです。期限を過ぎていたことに気づいて、3か月以内の日付に直す。これは事実と違う記載であり、会社法上も過料の対象に挙げられています。給与の支払い記録や振込の履歴と整合が取れないので、調査では容易に分かります。
期限を外すと、税額はどれだけ動くか
金額で見ると、期限を守る価値がはっきりします。
3月決算の会社が、社長の報酬を月額50万円から70万円に上げたいとします。期限は6月30日です。6月中に総会を開き、7月支給分から70万円にすれば、増やした20万円は1年を通して経費になります。
同じ会社が段取りを忘れ、8月支給分から70万円にしたとします。増やした分は月20万円、8月から翌年3月までの8か月で160万円です。期限を過ぎた増額なので、この160万円が経費として認められない可能性が出てきます。
いくら効くのか。国税庁の案内(コード5759「法人税の税率」)では、資本金1億円以下の普通法人の法人税の税率は、年800万円以下の部分が15パーセント、800万円を超える部分が23.2パーセントとされています。令和7年4月1日以後に開始する事業年度が対象で、所得が年10億円を超える事業年度は800万円以下の部分が17パーセントになります。所得が800万円を超える水準の会社であれば、160万円に対する法人税はおよそ37万円です。これに法人住民税と事業税が乗るので、実際の負担はもう少し増えます。
痛いのは、受け取った側では160万円が給与として課税されていることです。会社では経費にならず、個人では所得税と住民税がかかる。同じお金に二重の負担が出る形になります。
差を生んだのは、6月に総会を開くか8月に開くかだけです。総会そのものは30分で終わります。
税率は会社の区分と所得の水準で変わり、地方税の計算は自治体でも違います。自社の数字を出すときは、決算の数字を持っている税理士に計算してもらってください。
帳簿にはどう書くか
議事録で決めた金額は、毎月の仕訳に落ちていきます。ここがずれていると、書類だけ整っていても説明になりません。
月額70万円、源泉所得税が5万円、社会保険料の本人負担が10万円だとします。振込額は55万円です。仕訳は、借方に役員報酬70万円、貸方に預り金(源泉所得税)5万円と預り金(社会保険料)10万円、普通預金55万円という形になります。
勘定は「役員報酬」で立てて、従業員の「給料手当」とは分けてください。同じ勘定に混ぜると、毎月同額が保たれているかを確かめるために1件ずつ拾い直すことになります。分けておけば、総勘定元帳を12行見るだけで済みます。
支給日が月末で、振込が翌月の頭になる場合は、未払費用として立てます。決算月にこれを忘れると、その年度に12か月分ではなく11か月分しか計上されません。毎月同額という形が、帳簿の上だけ崩れて見えます。
改定した月の扱いにも注意してください。議事録に「○月支給分より」と書いたなら、その月はまるごと新しい金額にします。月の途中で決議したからといって日割りにすると、その月だけ金額が違うことになり、同額の要件から外れて見えます。
会計ソフトの給与のマスタを更新した日も、1行メモに残しておいてください。議事録に書いた開始月と、実際に切り替えた月が合っているかを、後から数秒で確認できます。
合同会社では、決める場所と書類の名前が変わる
ここまで株式会社を前提に書いてきましたが、合同会社でも役員報酬の期限は同じです。違うのは、決める場所と書類の名前です。
合同会社に株主総会はありません。業務を執行する社員の報酬は、定款に定めるか、社員の同意によって決めるのが一般的な形です。残す書類は株主総会議事録ではなく、総社員の同意書や業務執行社員の決定書といった名前になります。
法人税の側は変わりません。合同会社で業務を執行する社員も役員として扱われるので、事業年度の開始から3か月という枠、毎月同額という要件、期の途中で変えられる2つの例外は、そのまま当てはまります。
気をつけたいのは、定款に報酬の額そのものを書いてしまっている場合です。額を書いていると、変えるたびに定款の変更が必要になります。定款には「社員の同意により定める」とだけ書いて、額は同意書の側に置くほうが、毎年の改定が軽く済みます。
なお、業務を執行する社員と代表社員は登記事項です。報酬の額は登記事項ではないので変更しても登記は要りませんが、担当する人が入れ替わるなら登記の手続きが別に発生します。
勘違いしやすい5つ
同じ思い違いが毎年出てきます。
1つ目、期限の起点は決算日ではありません。事業年度が始まった日です。3月決算の会社が「決算書を出してから3か月」と考えると、期限を2か月ほど後ろにずらして計算してしまいます。
2つ目、毎月同額なのは支給する総額です。手取りではありません。社会保険料の料率が変わって振込額が動くのは、支給額が同額であれば問題になりません。
3つ目、払わない月を作るのは危険です。資金が無いから今月は払わない、という運用をすると、実際の支給が同額でないと見られることがあります。払い続けられる水準を最初に決めてください。
4つ目、報酬の額は登記事項ではありません。変更しても登記は要りません。ただし、地位が変わったことを理由に改定したのであれば、その地位の変更のほうは登記が必要です。
5つ目、議事録は税務署に提出する書類ではありません。求められたときに見せる書類で、原則は会社に備え置きます。提出しないから作らなくてよい、という話ではありません。
変更を決める前に確かめる4点
最後に、動かす前のチェックです。
1つ目、事業年度の開始日から3か月を経過する日がいつかを計算する。今日がその日より前かどうかを確かめます。
2つ目、定款に役員報酬に関する条文があるかを確認する。金額そのものが書かれている場合は定款変更が必要になり、手続きが重くなります。ほとんどの会社は「株主総会の決議をもって定める」という原則を書いているだけですが、一度は目で見てください。
3つ目、監査役がいるかを確認する。監査役の報酬は取締役と分けて決める必要があります。議案を分けて書きます。
4つ目、総額の上限を決める方式か、個別に決める方式かを確認する。総額方式で上限の枠内に収まる変更なら、株主総会ではなく取締役の協議で足ります。逆に上限を超えるなら、株主総会で上限そのものを改定します。どちらの書類を作るかが変わるので、最初に決めてください。
この4点は、どれも5分で確認できます。確認せずに総会を開いて、後から書類を作り直すほうが時間を取られます。
変更のたびに残す記録を、1つのファイルにまとめる
役員報酬は毎年動かす可能性のある数字です。変更の記録が散らばっていると、数年後に「いつからこの金額になったのか」が追えなくなります。
年ごとに1つのファイルを作って、次の4点を綴じておく運用を勧めます。
1つ目は株主総会議事録です。原本を綴じます。総会の日から10年間、本店に備え置く義務がある書類なので、年度ごとに並べておけば備置きの要件も自然に満たせます。
2つ目は、総額の上限だけを株主総会で決めた場合の配分を示す書類です。取締役会を置いているなら取締役会議事録、置いていないなら取締役の決定書。株主総会議事録だけでは個人の報酬額の根拠になりません。この2枚がセットで初めて根拠になります。
3つ目は、社会保険の届出の控えです。報酬を動かして標準報酬月額の改定に該当した場合、届出を出したことを示す控えを一緒にしておきます。数か月後に保険料が変わったときに、原因をすぐ確認できます。
4つ目は、給与計算のマスタを更新した記録です。いつの支給分から金額を切り替えたかを1行メモしておくだけで十分です。議事録に書いた開始月と、実際に切り替えた月が一致しているかを後から確認できます。
この4点が1つのファイルにまとまっていれば、税務調査の準備は書類を出すだけで終わります。逆に、議事録は経理の棚、届出の控えは社会保険労務士のところ、給与のデータは会計ソフトの中、と散らばっていると、揃えるだけで半日かかります。
ファイル名の付け方も決めておいてください。年度と内容が分かる形、たとえば「2026年度_役員報酬」のようにしておけば、年度順に並びます。電子で保管する場合も同じです。年に1回しか触らないファイルなので、探し方を決めておかないと3年後に見つかりません。
年に1回の段取りを、誰が持つか
ここからは体制の話です。
役員報酬の変更は、年に1回、決算月から数えて3か月以内という決まった枠の中で行う作業です。期限は動きません。それでも、社内の誰が段取りを持つかを決めていない会社が多く、気づいたら期限が過ぎていた、という相談が毎年同じ時期に出ます。
金額をいくらにするかは、税理士と相談して決めます。一方で、期限を管理する、総会の日程を押さえる、議事録の体裁を整える、給与計算のマスタを更新する、社会保険の届出を準備する。この一連の作業は、手順が決まっていれば事務の経験がある人がこなせます。
文書の型を扱う基礎は、資格の形でも測れます。ビジネス文書検定は、社内外でやりとりする文書の構成や表現を扱う試験で、議事録や届出書類を整える力の土台になります。
外部に頼む場合の費用感は、職種別の単価データから掴めます。著述家,記者,編集者の年収・単価相場には、文書を扱う職種の報酬水準がまとまっていて、見積もりの目安として使えます。社内の担当者が毎年調べ直す時間と比べて、どちらが合理的かを一度計算してみる価値はあります。
期限の管理や社内の情報の扱いまで含めて仕組みを整えるなら、業務設計とセキュリティの両方を見られる人が必要になります。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事では、こうした領域に在宅や業務委託の形で関わる仕事の内容が紹介されています。役員報酬は社内でも機微な情報なので、誰が触れるかの設計は最初に決めておきたいところです。
フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、期限のある年次業務ほど、同じ人に続けて頼めている会社が強いです。去年の期限を覚えている。去年どの書類でつまずいたかを知っている。この記憶が、確認の往復をいちばん減らします。そして、仲介の手数料を何段も挟まない直接のやりとりであれば、頼む側は同じ予算でより広い範囲を任せられ、受ける側の手取りも厚くなる。手数料0%の取引が効いてくるのは、金額の派手さではなく、この続けやすさのほうです。
役員報酬の変更で難しいのは、金額の判断そのものではありません。3か月という枠を忘れないことと、決めた内容を議事録という形で残すこと。この2つだけです。
よくある質問
Q. 役員報酬はいつまでに変更を決議すればよいですか?
会計期間が始まった日から3か月を経過する日までです。3月決算の会社なら6月30日、12月決算の会社なら3月31日が期限になります。この期限内に改定し、改定の前後でそれぞれ同額が保たれていれば定期同額給与として扱われます。新しく設立した会社は、設立日が起算点になります。
Q. 期の途中で役員報酬を変えることはできますか?
2つの例外があります。1つは臨時改定事由で、役員の地位の変更や職務内容の重大な変更などやむを得ない事情がある場合です。増額にも減額にも使えます。もう1つは業績悪化改定事由で、経営状況が著しく悪化した場合の減額に限られます。どちらも議事録に具体的な理由を書く必要があります。
Q. 資金繰りが苦しいという理由で減額できますか?
国税庁は、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことは業績悪化改定事由に含まれないと明記しています。想定されているのは、主要取引先の倒産や、金融機関との協議による経営改善計画の提出といった構造的な事情です。議事録には何が起きたのかを具体的に書いてください。
Q. 議事録の日付を後から書き換えてもよいですか?
してはいけません。事実と違う記載は会社法上の過料の対象に挙げられており、給与の支払い記録や振込の履歴と整合が取れないため調査でも分かります。期限を過ぎてしまった場合は、過ぎたことを前提にどう処理するかを税務署か税理士に確認するほうが、結果として負担が軽く済みます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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