動画編集を専属で頼まれたら拘束される時間ぶんの報酬が出るか見る

丸山 桃子
丸山 桃子
動画編集を専属で頼まれたら拘束される時間ぶんの報酬が出るか見る

この記事のポイント

  • 動画編集者が在宅で専属条項を提示されたときの判断基準をまとめました
  • 契約書で確認すべき7項目
  • 断り方と条件変更の交渉文例まで

在宅で動画編集を請けていると、ある日いきなりこう言われることがあります。「うちの案件を専属でやってほしい」。悪い話には聞こえません。継続が確約されるように見えるし、営業しなくてよくなるようにも思える。けれど、動画編集者が在宅で受ける専属条項は、契約書の書きぶり次第で「収入の天井を自分で下げる合意」に化けます。結論から書きます。専属を受けるかどうかは、気持ちや義理ではなく、制限の範囲・期間・対価の3つを数字に落として判断してください。この記事では、専属条項の3類型、契約書で必ず見るべき7項目、断らずに条件だけ変える交渉の言い方まで、順番に整理していきます。

在宅の動画編集で「専属」の話が出てくる構造的な理由

まず、なぜ発注者側が専属を持ち出すのかを理解しておくと、交渉が驚くほど楽になります。感情の問題ではなく、発注者側にも合理的な事情があるからです。

動画編集の在宅案件は、この数年で発注者の層が大きく変わりました。かつては映像制作会社やテレビ関連の下請けが中心でしたが、いまはYouTubeチャンネル運営者、企業のマーケティング部門、SNS運用代行会社、スクール事業者といった非映像業種が主要な発注元になっています。求人検索サービスの掲載内容を見ても、その傾向は明確です。

YouTube動画編集者を募集しており、面談なしでフルリモート・完全在宅で業務委託として対応いただけます。ディレクターの指示に基づいたカット、テロップ、効果音、BGM挿入などの動画編集業務に加え、モザイク処理や調整作業も担当いただきます。Adobe Premiere Proでの3年以上の実務経験とAdobe After Effectsでの編集スキルが必須で、Photoshopの基本操作や長尺動画の編集経験があれば歓迎されます。 出典: 求人ボックス

この募集要項の書きぶりが、専属の話が出る土壌をそのまま説明しています。ディレクターの指示に沿って編集する、つまり編集者は制作フローの一部として組み込まれる前提です。発注者は毎週決まった本数を決まった曜日に公開したい。編集者が他社の繁忙期に巻き込まれて納品が遅れると、公開スケジュールが崩れます。だから「うちを優先してほしい」という要求が生まれる。ここまでは、発注者の立場としては筋が通っています。

問題は、その「優先してほしい」を契約書に落とす段階で、必要以上に強い制限が書き込まれることです。稼働を優先してほしいだけなら「週20時間を当社案件に確保する」で足ります。それなのに「契約期間中および終了後1年間、動画編集業務を第三者に提供しない」と書かれていることがある。この2つは、拘束の重さがまったく違います。

発注者が本当に守りたいものは3つしかない

現場で相談を受けていて分かったのは、専属を求める発注者が守りたいものは、突き詰めると次の3つに集約されるということです。1つ目は納期の安定、2つ目は編集スタイルやテンプレートの流出防止、3つ目は競合チャンネルへのノウハウ移転の防止。逆に言えば、この3つが担保できるなら、専属という形にこだわる必然性はありません。

たとえば納期の安定が目的なら、専属ではなく「毎週水曜と金曜の納品を確約する」という履行の約束で足ります。テンプレートの流出が心配なら、NDA(エヌディーエー)と成果物の二次利用制限で対応できます。競合への移転が心配なら、対象を「同一ジャンルの登録者10万人以上のチャンネル」のように具体的に絞り込めばいい。交渉の第一手は、相手が守りたいものを言語化して、それを満たす別の手段を提示することです。頭ごなしに「専属は無理です」と言うより、圧倒的に通ります。

専属条項の3類型。契約書のどれに当たるかを最初に見分ける

「専属」という言葉は法律用語ではありません。契約書の中で実際に何が制限されるかで、負担はまったく変わります。実務で見かけるものは、大きく3つに分けられます。

稼働確保型:時間だけを約束するタイプ

もっとも軽い形です。「月80時間以上を当社案件に充てる」「週3本の納品を確約する」といった書き方をします。他社の仕事を受けること自体は禁止されていません。約束した稼働さえ守れば自由です。

このタイプは、基本的に受けて問題ありません。ただし2点だけ確認します。1つは、その稼働量が実際に埋まるかどうか。「月80時間を確保せよ」と言いながら、実際の発注が月30時間分しか来なければ、あなたは埋まらない50時間を他社に売れず、ただ空けて待っただけになります。もう1つは、繁忙期の上振れです。確保時間を超える依頼が来たときの扱い、つまり超過分の単価や、断ってよいかどうかを書面にしておきます。

同業排他型:競合だけを制限するタイプ

「当社と競合する事業者からの動画編集業務を受託しない」というタイプです。中間的な重さで、実務でもっとも多く見かけます。

ここでの争点は「競合」の定義が曖昧なことに尽きます。ビジネス系YouTubeチャンネルの編集を請けていて、相手が「うちと同じ情報発信系はNG」と言った場合、あなたが受けられるものはどこまでか。料理チャンネルは同じ情報発信系でしょうか。企業のサービス紹介動画はどうでしょうか。定義が曖昧なまま契約すると、後から「それはうちの競合だ」と言われて紛争になります。契約書には、競合を判定する客観的な基準を書き込んでください。業種で切るのか、チャンネルのジャンルで切るのか、名指しの企業リストにするのか。もっとも安全なのは、対象企業を別紙で列挙する方式です。列挙されていない相手は自由に受けられます。

完全専属型:他社案件を全面的に止めるタイプ

「契約期間中、第三者に対して動画編集その他の映像制作業務を提供してはならない」というタイプです。これがもっとも重い。フリーランスにとっては収入源の一本化を意味し、その発注が止まった瞬間に収入がゼロになります。

このタイプを提示されたときは、対価が業務委託の相場ではなく、拘束の対価として上乗せされているかを必ず確認します。動画編集の在宅案件の単価は、短尺のSNS向けで1本3,000円〜1万円、YouTubeの長尺で1本5,000円〜3万円程度が実務上の目安です。完全専属を求めながら、この相場と同じ単価しか出さないという提案は、拘束をタダで取ろうとしているのと同じです。専属の対価が乗っていないなら、条件を変えてもらうか、断る判断になります。

契約書で必ず確認する7項目のチェックリスト

専属の話が出たら、口頭で了承する前に、書面で次の7項目を確認します。順番も大事なので、この順で見てください。

1. 制限される業務の範囲

「動画編集業務」なのか「映像制作全般」なのか。後者だと、撮影、サムネイル制作、企画構成、場合によっては写真のレタッチまで巻き込まれる可能性があります。制限は狭ければ狭いほど良い。「本契約と同種のYouTube長尺動画の編集業務」のように、具体的に絞り込んだ書き方を提案します。

2. 制限の対象となる相手方

全世界のすべての第三者なのか、競合他社なのか、特定の名指し企業なのか。ここも狭いほど良い。「別紙記載の企業」方式にできれば、実務上の不安はほぼ消えます。

3. 制限期間と契約終了後の扱い

契約期間中だけなのか、終了後も一定期間続くのか。終了後の制限、いわゆる競業避止に近い定めは、フリーランスにとってはとりわけ重い負担です。終了後1年間も同種の仕事を受けられないなら、その1年間の生活はどうするのか。終了後の制限は、原則として削除を求めます。どうしても外せないなら、期間を3か月程度に短縮し、その期間の補償金を設定してもらうのが筋です。

4. 対価の構造

基本単価に専属の対価が含まれているのか、別建てで「専属手当」として支払われるのか。別建てのほうが健全です。理由は単純で、発注量が減ったときに手当だけは残るからです。単価に溶け込ませてしまうと、発注が細ったときに拘束だけが残ります。

5. 最低発注量の保証

これが7項目の中でもっとも重要です。専属を受けるなら、月あたりの最低発注本数または最低支払額を契約書に書いてもらってください。「月8本を下回った場合は、下回った分について1本あたり5,000円の待機補償を支払う」といった形です。これが無い専属契約は、拘束だけがあって収入の保証が無い、完全に一方的な合意になります。

6. 違約金・損害賠償の定め

「本条に違反した場合、委託者は受託者に対し金100万円の違約金を請求できる」といった条項が入っていることがあります。金額が業務の規模に対して過大なら、削除または減額を求めます。実際の損害額を立証したうえで請求する、という一般原則に戻してもらうのがもっとも公平です。

7. 実態が雇用になっていないか

始業終業時刻の指定、日報の提出義務、他社案件の全面禁止、作業場所の指定、業務用PCの貸与。これらが揃ってくると、契約書の表題が業務委託であっても、実態は雇用に近づきます。実態が雇用なのに業務委託の形をとると、労働法上の保護を受けられないまま拘束だけを受ける状態になります。労働者性の判断基準については、厚生労働省が公表している資料が参考になります(厚生労働省)。

専属を受けるか断るかを金額に換算する方法

感覚で決めると、たいてい後悔します。次の手順で数字にしてください。

ステップ1:現在の月間稼働と収入を分解する

まず直近3か月の実績を、クライアント別に「月の稼働時間」と「月の売上」に分けて書き出します。動画編集は1本あたりの作業時間のブレが大きいので、必ず時間ベースで出してください。長尺のYouTube動画1本で4時間かかる人と8時間かかる人では、同じ単価でも時給が倍違います。

ステップ2:専属を受けた場合に失う売上を計算する

専属条項によって受けられなくなる案件の売上を合計します。ここで見落としがちなのが、「今は受けていないが今後受けられたはずの案件」です。過去半年で新規の引き合いが何件あり、そのうち何件が成約したか。成約率が30%で、月に3件の引き合いがあるなら、月に約1件の新規が失われる計算になります。この機会損失も足してください。

ステップ3:専属で得られる収入の下限を見る

最低発注量の保証がある場合、その保証額が専属側の確定収入です。保証が無い場合、確定収入はゼロとして計算します。これは厳しすぎる見積もりに思えるかもしれませんが、実務上は正しい。契約書に書かれていない発注量は、いつでも減らせるからです。

ステップ4:差額と、リスクの重みを比べる

保証額が現在の総売上を上回るなら、受ける価値があります。同程度なら、収入源が1本になるリスクの分だけ不利です。下回るなら、条件を変えない限り受けるべきではありません。1社依存の状態は、その1社の予算削減、担当者の異動、チャンネルの方針転換のどれか1つで崩れます。動画編集はとくにチャンネルの浮沈に左右されやすい領域なので、この点は保守的に見積もってください。

断らずに条件だけ変える。実務で通る交渉の言い方

専属を断ると関係が壊れると思い込んでいる人が多いのですが、実際にはそうなりません。発注者が本当に欲しいのは「安定した納品」であって「あなたの人生の拘束」ではないからです。次のような伝え方をします。

まず、相手の目的を確認します。「専属というご相談の背景として、納期の安定を優先されたいのか、競合への情報流出を防ぎたいのか、どちらの比重が高いでしょうか」。この一文で、相手は自分の要求を整理せざるを得なくなります。多くの場合、返ってくる答えは納期の安定です。

次に、代替案を出します。「他社案件の全面停止という形ですと、こちらの事業リスクが大きく、お受けするのが難しいです。代わりに、御社案件を最優先で処理する優先権と、週3本の納品確約という形ではいかがでしょうか。緊急の差し込みも、前日までのご連絡であれば対応します」。

最後に、完全専属をどうしても求められた場合の条件を示します。「完全専属という形をご希望でしたら、月間の最低発注量の保証と、専属分の対価上乗せをセットでご検討いただけますでしょうか。こちらとしては、他の収入源を止める判断になりますので、その分の担保が必要になります」。この言い方は、相手を責めていません。ただ、対価と拘束が釣り合っていないという事実を示しているだけです。

私自身、駆け出しのころにSNS運用の案件で「他のアパレルブランドは受けないでほしい」と言われて、深く考えずに了承したことがあります。そのときは月に数本の依頼が続く前提の話でした。ところが半年後、先方の予算が縮小して依頼が月1本まで減った。それでも競合の定義が広く書かれていたので、新しい引き合いを断り続けるはめになりました。あのとき最低発注量の保証を1行入れてもらっていれば、まったく違う半年になっていたはずです。制限を受け入れるなら、必ず対になる保証を取る。この順番を崩さないでください。

在宅動画編集者の一日から見た、専属の実務的な影響

専属の是非は、一日の稼働の組み立て方とも直結します。在宅の動画編集は、まとまった集中時間が必要な仕事です。長尺のカット編集は途中で中断すると効率が落ちるため、多くの人が午前に3時間、午後に4時間といったブロックで組んでいます。

複数社を受けている場合、この時間ブロックをクライアント別に割り振ることになります。月曜と火曜はA社、水曜と木曜はB社、金曜は修正対応とサムネイル、といった形です。この組み方の利点は、片方の発注が途切れても、もう片方の枠に別の案件を入れれば穴が埋まることです。

一方、専属になると全時間が1社に紐づきます。発注が潤沢なうちは効率的です。修正の往復も1社分だけなので、コミュニケーションコストは確実に下がります。学習も1つのフォーマットに集中でき、テンプレート化が進んで1本あたりの作業時間が短縮されます。実際、同じチャンネルを3か月編集し続けると、初回の半分程度の時間で仕上がるようになることは珍しくありません。

問題は、その効率化の果実が誰のものになるかです。1本4時間かかっていた作業が2時間で終わるようになったとき、単価が据え置きなら実質時給は倍になります。ここは専属の大きなメリットです。ところが、発注者が「作業が早くなったから単価を下げたい」と言い出すケースもある。契約時に「単価は本数に対して固定であり、作業時間の増減によって改定しない」と明記しておくと、この揉め事は防げます。

繁閑の波についても触れておきます。動画編集の在宅案件は、企業の予算執行期と広告シーズンに連動します。年度末の2月から3月、新商品が動く9月から10月は依頼が増え、逆に8月と1月は落ち込む傾向があります。専属で1社に依存していると、この波がそのまま収入の波になります。複数社を持っていれば、波の位相が違う相手を組み合わせて平準化できる。この点も判断材料に入れてください。

トラブルが起きたときに効く、法律面の押さえどころ

専属条項をめぐるトラブルは、大きく2つのパターンに分かれます。

1つ目は、専属を約束させておきながら発注をしないパターンです。これは実質的な買いたたきや、優越的地位の濫用に近い問題を含みます。取引上の力関係を利用して不当な不利益を与える行為については、公正取引委員会が独占禁止法や下請法の観点から考え方を示しています(公正取引委員会)。フリーランスと発注事業者の取引については、取引条件の明示義務や報酬の支払期日についてのルールも整備が進みました。書面で条件を明示させることは、単なる自衛ではなく、発注者側の義務でもあると理解しておいてください。この領域の実務的な整理は、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストで、発注書に入れるべき項目まで踏み込んでまとめられています。契約前に一度目を通しておくと、抜けに気づけます。

2つ目は、契約終了後に「あの条項に違反している」と主張されるパターンです。終了後の制限が有効かどうかは、制限の期間、地理的範囲、対象業務の広さ、代償措置の有無を総合して判断されます。無制限に有効になるわけではありません。ただし、争いになった時点で時間と気力を大量に消耗します。最善は、契約前に終了後条項を削るか短縮しておくことです。

海外のクライアントから専属を求められるケースも増えています。この場合、準拠法と紛争解決の場所が海外に設定されていると、日本から争うのは現実的でありません。英文契約で押さえるべき条項の考え方は、海外クライアントとの英文契約書テンプレート|必須条項と注意点が具体的です。準拠法条項の位置づけを理解してから署名してください。

なお、専属になって収入源が1社になると、税務上の扱いにも影響が出ることがあります。取引先が1社に限られる状態が続くと、事業としての独立性をどう説明するかという論点が生じます。確定申告の実務や、税務面で専門家に相談する判断の目安については、税理士資格でフリーランス副業|確定申告代行で稼ぐ方法と注意点が制度面から整理しています。

契約書を読む力そのものが、単価を守る技術になる

専属条項の話をしていると、必ず行き着くのが「契約書を読めるかどうか」という一点です。動画編集のスキルを磨くことと同じくらい、契約書の条項を読み解く力が収入を左右します。

読む順番にはコツがあります。最初に見るのは、契約期間、報酬、支払期日、解除条件の4つ。次に、成果物の権利の帰属と二次利用の範囲。そして最後に、専属や競業避止のような制限条項です。制限条項は文末に近い位置に置かれることが多く、読み飛ばしやすい。意識して最後まで読んでください。

文書の作法そのものを体系的に学びたいなら、ビジネス文書検定のような資格の学習範囲が実用的です。契約書の読解に直結するわけではありませんが、条件を過不足なく書面化する訓練になります。発注者と条件を詰めるメールを書くときにも効きます。

技術系の案件と絡めて動くなら、扱う領域の全体像を知っておくのも有効です。AIを使った映像処理や自動字幕の案件が増えていることを踏まえると、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のカテゴリで扱われている業務の種類を眺めておくと、自分のスキルの隣接領域が見えてきます。同様に、AI導入の相談に乗る立場に回る道もあります。AIコンサル・業務活用支援のお仕事は、ツールを使えることそのものより、業務フローに落とす設計力が問われる領域です。編集の現場で自動化のノウハウを溜めた人は、この方向への展開がしやすい。開発寄りに進むならアプリケーション開発のお仕事の内容も参考になります。

単価の相場感を持っておくことも交渉力になります。職種別の年収データを整理した著述家,記者,編集者の年収・単価相場ソフトウェア作成者の年収・単価相場を見ると、制作系と開発系で単価構造がどう違うかが分かります。専属の対価を求めるときに、根拠のある数字を出せるかどうかで結果は変わります。技術系の資格に触れておきたい場合はCCNA(シスコ技術者認定)のような認定の位置づけも知っておいて損はありません。

専属を受けた場合に、実際に起きる7つの変化

契約書の話だけだと実感が湧きにくいので、専属になった後に日々の仕事がどう変わるかを、実務の順に並べておきます。良い変化と悪い変化の両方があります。

1つ目は、案件探しの時間がゼロになります。在宅の動画編集者は、月に5時間から15時間程度を営業や応募、見積もり作成に使っているケースが多い。専属になるとこの時間が丸ごと編集に回せます。単純に稼働効率は上がります。

2つ目は、覚えることが減ります。クライアントごとにテロップの色、フォント、効果音の使い方、書き出し設定、納品先のフォルダ構成が違います。3社を並行していると、この差分を頭に置きながら作業することになり、確認漏れが起きやすい。専属なら1つの仕様に習熟でき、ミスの発生率が下がります。

3つ目は、修正指示の解像度が上がります。同じディレクターと長く組むと「もう少しテンポを速く」という抽象的な指示が、具体的に何秒詰めることかを予測できるようになります。往復回数が減り、1本あたりの拘束時間が短くなる。

4つ目は、単価改定の交渉相手が1人になります。これは良し悪しがあります。その1人が首を縦に振らなければ、収入は上がりません。複数社を持っていれば、単価の高い相手に稼働を寄せることで実質的な値上げができますが、専属ではその手が使えなくなります。

5つ目は、スキルの偏りが生まれます。YouTubeの長尺編集だけを2年続けると、短尺のSNS向け編集やモーショングラフィックスの勘が鈍ります。契約が終わったときに、他社が求める技術と自分の手札がずれている状態になりかねません。対策として、月に数時間でいいので専属外の練習時間を確保しておくことをおすすめします。

6つ目は、精神的な負荷の構造が変わります。複数社を持っているときのストレスは「同時進行の管理」に由来しますが、専属のストレスは「この1社が切れたら終わる」という不安に変わります。前者は仕組みで解決できますが、後者は貯蓄や別の収入の柱でしか解消できません。専属を受けるなら、生活費の6か月分を目安に手元資金を厚くしておくと、判断が落ち着きます。

7つ目は、契約終了時の再スタートが重くなります。1社としか取引していない期間が長いと、他社に提示できる実績が偏り、営業の勘も鈍ります。専属期間中も、四半期に一度は自分のポートフォリオを更新し、実績を言語化しておいてください。これは辞める準備ではなく、いつでも辞められる状態を保つための備えです。いつでも辞められる人だけが、対等に交渉できます。

提示された契約書に赤を入れるときの具体的な書き方

条件変更を求めるとき、口頭やチャットだけで伝えると、相手の担当者が社内で通しにくくなります。修正案を文章の形で渡すと、そのまま法務や上長に回してもらえるので、通る確率が上がります。実務で使いやすい形を挙げておきます。

制限範囲を絞る場合は、「第三者に対して動画編集業務を提供してはならない」を「別紙1記載の企業に対して、本件と同種のYouTube長尺動画の編集業務を提供してはならない」に置き換えます。別紙に相手が挙げた具体的な社名を並べてもらえば、それ以外は自由に受けられます。

終了後の制限を削る場合は、「本契約終了後1年間も同様とする」の一文をそのまま削除する案を出し、削除が難しいと言われたら「本契約終了後3か月間とし、当該期間について委託者は受託者に対し月額10万円の補償金を支払う」という代案を添えます。補償金の額は、直近3か月の平均月額報酬の50%程度を目安にすると、根拠を説明しやすい。

最低発注量を入れる場合は、「委託者は、毎月8本以上の編集業務を発注するものとする。発注本数がこれを下回った場合、委託者は不足本数について1本あたり5,000円の待機補償を支払う」という条項を新設します。発注者が本数を約束できないと言う場合は、金額ベースで「毎月15万円を最低報酬額とする」という書き方でも構いません。

違約金を減らす場合は、「金100万円の違約金を支払う」を「委託者に現実に生じた損害を賠償する」に置き換えます。これは一般原則に戻すだけの修正なので、法務からの抵抗も比較的少ない。

送るときの文面は簡潔にします。「ご提示いただいた契約書について、3点だけ修正のご相談です。修正案を反映した文書を添付しますので、ご確認をお願いいたします」で十分です。理由を長々と書くと、かえって交渉の余地があるように見えてしまいます。修正案そのものが理由になっている状態が理想です。

市場データと運営者の視点から見た、専属という選択

在宅の動画編集案件の募集要項を横断して見ていくと、専属を明示している案件は全体の一部にとどまります。多くは稼働時間の下限を示すだけで、他社案件を禁じてはいません。継続案件の実例を見ても、拘束より稼働の確保に重点が置かれていることが分かります。

動画編集スキルを活かせる完全在宅の長期継続案件です。実務経験1年以上で基本的なビジネスマナーが身についている方を募集しており、広告動画編集や集客用動画作成、YouTubeチャンネル構築サポートなどを行います。週15時間以上の稼働でフルフレックス制のため、家事や育児との両立も可能です。学歴、年齢、資格は不問で、転勤族のご家庭や海外在住の方も歓迎されます。 出典: 求人ボックス

週15時間以上という書き方に注目してください。上限を設けず、下限だけを示しています。これは発注者が納期の安定を求めつつ、編集者の他の活動を否定していない設計です。健全な条件の一例と言えます。専属を提示されたとき、この水準を基準に「一般的にはこういう形が多いのですが」と切り出せると、交渉のスタート地点が有利になります。

20年この市場を運営してきた立場から言えば、長く仕事が途切れない人ほど、契約の入口で条件をきちんと詰めています。逆説的に聞こえるかもしれませんが、条件を詰める人のほうが、相手からの信頼が厚い。曖昧なまま引き受けて後から揉めるより、最初に「ここまでは対応します、ここからは別料金です」と線を引いたほうが、発注側も安心して任せられるからです。専属を断ることが、関係を切ることとイコールではないという事実は、現場を長く見ていると何度も確認できます。

もう1つ、運営者として見てきた限りでは、中間マージンの有無が専属の判断そのものを変えます。仲介手数料が20%差し引かれる経路で仕事を受けている人は、同じ手取りを得るために稼働量を増やす必要があり、結果として拘束の強い条件でも飲まざるを得ない状況に追い込まれやすい。一方、手数料0%の直接取引が中心の人は、同じ本数でも手取りが厚くなる分、条件の悪い専属を断る余力を持てます。発注者側から見ても、中間マージンが乗らなければ同じ予算でより多く依頼できます。この構造は、単に金額の話ではなく、交渉の自由度そのものに効いてくる。断れる状態を作っておくことが、いちばん強い交渉カードになります。

最後に、判断の順序を確認しておきます。専属の話が出たら、まず契約書の文言を取り寄せる。3類型のどれに当たるか見分ける。7項目のチェックリストで穴を洗い出す。金額に換算して差額を見る。そのうえで、代替案を提示して交渉する。この5段階を踏めば、感情に流された判断にはなりません。制限を受け入れるなら、必ず対になる保証を取る。この一点だけを覚えておいてください。

よくある質問

Q. 専属条項を提示されたら、まず何を確認すればいいですか?

制限の範囲、期間、対価の3点を最初に確認します。具体的には、制限される業務が動画編集だけなのか映像制作全般なのか、契約終了後も制限が続くのか、専属分の対価が別建てで支払われるのかを書面で確かめてください。口頭で了承する前に、必ず契約書の文言を取り寄せることが重要です。

Q. 専属を受けても収入が落ちないか、どう判断できますか?

最低発注量の保証が契約書にあるかどうかで判断します。保証がある場合はその金額が確定収入、無い場合は確定収入ゼロとして、現在の月間売上と比べてください。あわせて、今後受けられたはずの新規案件の機会損失も計算に入れます。保証額が現在の売上を下回るなら、条件変更なしで受けるべきではありません。

Q. 専属を断ると関係が悪くなりませんか?

断り方次第です。発注者が本当に求めているのは納期の安定であることが多く、他社案件の禁止は手段にすぎません。「御社案件を最優先で処理する優先権と、週3本の納品確約でいかがでしょうか」と代替案を出せば、多くの場合は受け入れられます。相手の目的を先に確認してから代案を出すのが交渉の基本です。

Q. 契約終了後も他社の仕事を受けられない条項は有効ですか?

期間、範囲、対象業務の広さ、代償措置の有無を総合して判断されるため、無条件に有効とは限りません。ただし争いになれば時間と気力を消耗します。契約前に終了後の制限は削除を求め、どうしても外せない場合は期間を3か月程度に短縮し、その間の補償金を設定してもらうのが現実的な着地点です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年1月16日最終更新:2026年8月9日
丸山 桃子

この記事を書いた人

丸山 桃子@SOHO編集部

アパレルEC運営支援・SNSコンサル

アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。

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