取締役の登記とは|選んでから登記が終わるまでの順番


この記事のポイント
- ✓2週間以内に法務局へ申請して完了するまでが一続きの流れです
- ✓費用の目安を法務局の資料に沿って整理しました
取締役登記という言葉で検索する人の状況は、だいたい2つに分かれます。会社を作る段階で全体像を知りたい人と、すでにある会社で役員が動くことになって手順を確かめたい人です。どちらにも共通して必要なのは、「誰が何を決めたら、いつまでに、どこへ、何を出すのか」という順番です。この記事では、株主総会で選ぶところから法務局の手続きが終わるところまでを、時系列で並べていきます。
取締役の登記とは、何を記録する手続きか
取締役の登記は、会社の登記簿に「この人が取締役です」という事実を記録する手続きです。記録される内容は、会社法911条3項が具体的に列挙しています。13号が取締役の氏名、14号が代表取締役の氏名と住所です。つまり、取締役については氏名だけ、代表取締役については氏名に加えて住所までが載ります。
なぜ公開するのかという理由は、会社法908条1項にあります。登記すべき事項は、登記の後でなければ善意の第三者に対抗することができない、と定められています。噛み砕くと、登記していない事実は「相手が知らなかった」と言われたときに押し通せないということです。反対に、登記しておけば、取引の相手に対して「これは登記されている事実です」と示せます。
だからこそ、新しく代表取締役になった人が最初にする仕事のひとつが、登記が完了した登記事項証明書を取ることになります。銀行口座の名義変更も、賃貸借契約の締結も、補助金の申請も、たいていはこの証明書を求められます。登記は社内の事務ではなく、会社が外と取引するための入場券のようなものです。
全体の流れは7段階に分かれる
順番を先に並べます。この7つを頭に入れておけば、途中で何をしているのか見失いません。
段階1 定款と登記簿を確認する
いきなり総会を開いてはいけません。まず自社の定款を開きます。確認するのは3点です。
取締役の員数の定めがあるか。「3名以内」のように上限が書かれている会社は珍しくありません。上限を超える人数を選任すると、定款に反する決議になります。
取締役会を設置しているか。設置している会社では取締役は3人以上必要です。設置していない会社では1人でも構いません。この違いが、代表取締役を誰がどう選ぶのかを決めます。
代表取締役の選び方はどう定めてあるか。取締役会で選ぶのか、取締役の互選で選ぶのか、株主総会で選ぶのか。定款の定めによって、後で用意する書類がまるごと変わります。
あわせて、登記簿の現状も確認します。登記事項証明書を1通取れば、現在の役員、資本金の額、取締役会設置の有無がまとめて分かります。資本金の額は登録免許税の金額に直結するので、ここで見ておきます。
段階2 株主総会を招集する
取締役は株主総会の決議で選任します。会社法329条1項がそう定めています。定時株主総会を待てないのであれば、臨時株主総会を招集します。
招集の通知は、公開会社でない株式会社では原則として総会の日の1週間前までに発します。定款でこれより短く定めている会社もあるので、自社の規定を確認してください。株主全員の同意があれば、招集の手続きそのものを省略して総会を開くこともできます。株主が代表者とその家族だけという会社では、この方法が現実的です。
段階3 選任を決議する
決議の要件は会社法341条です。議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で決めます。定足数は定款で3分の1以上まで下げられますが、それ以下にはできません。
議事録には、日時と場所、出席した株主の議決権の数、議案の内容、賛成した議決権の数、議長と出席した役員の氏名を書きます。登記所が確認するのは、この記載から決議の要件を満たしていると読み取れるかどうかです。
段階4 本人が就任を承諾する
選任は会社側の意思決定にすぎません。本人が引き受けて初めて取締役になります。会社法330条は、会社と役員の関係は委任に関する規定に従うと定めています。委任は双方の合意で成り立つものなので、一方的に就任させることはできません。
就任承諾書には、会社名、就任する役職、承諾する旨、日付、本人の住所と氏名を書きます。住所は住民票のとおりに正確に書きます。ここが後で照合されます。
段階5 書類をそろえる
取締役会を設置していない会社で取締役が新しく就任する場合の基本は、株主総会議事録、株主リスト、就任承諾書、印鑑証明書または本人確認証明書、そして代理人に頼むなら委任状です。
株主リストは、議決権数の上位10名か、議決権割合が3分の2に達するまでの株主か、どちらか少ないほうについて、氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数の割合を記載し、代表者が証明します。法務省が書式例と記載例を公開しています。
段階6 2週間以内に申請する
会社法915条1項は、登記されている事項に変更が生じたときは2週間以内に本店の所在地で変更の登記をしなければならないと定めています。起算点は、選任され、本人が承諾して取締役になった日です。
法務局も申請書様式のページで、株式会社の役員変更登記は登記の事由が発生した時から本店の所在地において2週間以内にしなければならないと案内しています。
段階7 完了を確認する
申請を出しても、法務局から完了の通知は届きません。補正がなければ、登記完了予定日を過ぎた時点で静かに完了しています。登記事項証明書を取るか、登記情報提供サービスで画面上の記載を確認します。
2週間を日付に置き換えてみる
「2週間以内」と言われても、何をいつまでに終わらせればよいのかは見えてきません。株主総会を4月1日に開いた場合を例に、日付で並べます。期限は4月15日です。期間の計算では総会の日そのものは数えず、その翌日から数えます。
4月1日。総会を開いて選任を決議し、その場で本人から就任承諾書をもらいます。この日が起算の基準になります。議事録に書く日付もこの日です。
4月2日から4日。議事録と株主リストを作ります。株主リストには議決権数の割合まで書くので、株主名簿を見ながら計算します。あわせて本人に、印鑑証明書か本人確認証明書の手配を頼みます。本人が遠方にいて郵送でやり取りするなら、ここで3日から5日はかかると見ておきます。
4月7日から8日。申請書を作ります。法務局の記載例を横に置いて、登記すべき事項の欄を写します。登録免許税の収入印紙も、このあいだに郵便局か法務局で買っておきます。
4月9日。申請します。窓口に持ち込むか、郵送するか、オンラインで送信します。郵送の場合は、登記所に届いて受け付けられた日が申請日になります。期限の2日前に投函するのは危ない、という判断になるのはこのためです。
4月15日。ここが期限です。4月9日に出していれば6日分の余裕が残り、途中で書類の不足が見つかっても出し直せます。
こうして並べてみると、実際に自由に使える時間は1週間ほどしかないことが分かります。読めないのは印鑑証明書の取り寄せにかかる日数なので、総会の日が決まった時点で本人に声をかけておくのが安全です。
設立のときと、途中で変えるときは別の手続き
同じ「取締役の登記」でも、会社を作るときと、できている会社の役員が変わるときでは、申請の中身が違います。
設立のときは、設立の登記のなかに取締役の氏名が含まれます。会社法911条1項は、設立の登記を、定められた調査が終了した日か発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内にしなければならないと定めています。そして、会社は設立の登記をすることによって成立します。法務局は、会社の設立年月日は登記所が設立登記の申請を受け付けた日になる、と明記しています。つまり、申請日がそのまま会社の誕生日になります。
すでにある会社で取締役が入れ替わるときは、変更の登記です。こちらは会社法915条1項が根拠で、変更が生じてから2週間以内です。
書類の面でも違いがあります。設立のときは、設立時取締役が就任を承諾したことを証する書面に押した印鑑について、市区町村長が作成した印鑑証明書を添付します。商業登記規則61条4項がそう定めています。取締役会を設置する会社では、この規定が設立時代表取締役や設立時代表執行役について読み替えられます。
代表取締役を誰がどう選ぶかで、書類が変わる
同じ「取締役の登記」でも、代表取締役が絡むかどうかで必要な書類の量が変わります。法務局が公開している記載例も、この点で3つに分かれています。
取締役会を設置している会社では、取締役会で代表取締役を選定します。したがって、株主総会議事録と株主リストに加えて、取締役会議事録が必要になります。新しく就任する代表取締役については、就任承諾書に押した印鑑の証明書を添付します。
取締役会を設置していない会社で、取締役全員が各自会社を代表する定款になっているか、株主総会で代表取締役を選ぶ定款になっている場合は、取締役会議事録は出てきません。株主総会議事録と株主リストと就任承諾書が中心になります。
取締役会を設置していない会社で、取締役の互選によって代表取締役を選ぶ定款になっているなら、互選を証する書面が加わります。
新しく就任する取締役や監査役については、本人確認証明書の提出が求められます。
設立の登記又は取締役、監査役若しくは執行役の就任に関する登記の申請書には、株主総会の議事録又は就任承諾書に記載された取締役等の氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている市区町村長その他の公務員が職務上作成した証明書を添付する必要があります。ただし、登記の申請書に当該取締役等の印鑑証明書(市区町村長が作成したもの)を添付する場合は、除きます。 出典: moj.go.jp
本人確認証明書として使えるのは、個人番号が記載されていない住民票記載事項証明書、戸籍の附票、運転免許証のコピーなどです。運転免許証を使う場合は裏面もコピーして、本人が原本と相違がない旨を記載して記名します。個人番号の通知カードは使えません。
なお、この本人確認証明書は再任の場合には不要です。任期が満了して同じ人が続けて就任する場面では、この一手間が省けます。
申請書には何を書くか
申請書の構成は法務局の記載例で統一されています。上から順に埋めていきます。
会社法人等番号を書きます。分かる場合に記載する欄なので、登記事項証明書で確認して書き写します。
商号のフリガナと商号、本店を書きます。フリガナは株式会社という部分を除いて片仮名で左に詰めて書きます。このフリガナは国税庁の法人番号公表サイトを通じて公表されますが、登記事項証明書には表示されません。
「登記の事由」に、何が起きたのかを書きます。取締役が変わったのであれば「取締役の変更」です。代表取締役も同時に変わるなら、その旨も並べます。
「登記すべき事項」が中心です。ここは登記簿にそのまま刻まれるので、書式が細かく決まっています。役員に関する事項として、資格、氏名、代表取締役なら住所、そして原因年月日を書きます。原因年月日には日付と、就任なのか退任なのかを記載します。
「登録免許税」に金額を書きます。「添付書類」の欄に、実際に添える書類の名称と通数を並べます。
末尾には会社の本店と商号、代表取締役の住所と氏名を書き、登記所に届け出た印鑑を押します。代理人が申請する場合は代理人の住所と氏名を書いて認印を押し、この場合は代表取締役の押印は不要です。連絡先の電話番号は必ず書いてください。補正の連絡先になります。
費用は登録免許税。資本金で2通り
登録免許税は、役員に関する事項の変更の登記として、申請1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社は1万円です。登録免許税法の別表にそう書かれています。中小企業の多くは1万円のほうに当たります。
納め方は収入印紙か領収証書です。収入印紙は申請書に付けた貼付台紙に貼り、自分では消印しません。消印は法務局の職員が行います。
「1件につき」という数え方が効くのはここです。同じ総会で取締役を3人選んでも、まとめて1件で申請すれば登録免許税は1件分です。辞任と就任が同時に起きる場合も、法務局の記載例には、役員の辞任や死亡と就任の登記は合わせて1件として申請できると注記されています。
設立の登記の登録免許税は、役員変更とは別の区分で計算されます。設立を検討している段階なら、そちらの金額を別途確認してください。
1件の登記にいくらかかるか、足してみる
出ていくお金は登録免許税だけではありません。取締役会を設置していない会社で、資本金が1,000万円、新しい取締役を1人増やす場面を例に、順に足していきます。
まず登録免許税が1万円です。資本金の額が1億円以下なので、3万円ではなくこちらに当たります。収入印紙を買って、申請書に付けた貼付台紙に貼ります。
新しく就任する取締役の本人確認証明書として住民票記載事項証明書を使うなら、本人が住んでいる市区町村の窓口で交付を受けます。この手数料は自治体が条例で決めているので、金額は本人の市区町村の案内で確認してください。運転免許証のコピーで足りる場面であれば、ここは0円で済みます。
登記が終わったら、登記事項証明書を取ります。窓口で請求すれば1通600円、オンラインで請求して送ってもらうなら520円、オンラインで請求して窓口で受け取るなら490円です。銀行と取引先の2か所に出すなら、2通で1,200円になります。
登記所に届け出た印鑑の証明書が必要なら、書面で請求して1通500円です。オンラインで請求して送付を求めるなら450円、窓口で受け取るなら420円です。
ここまでを合計すると、証明書を2通ずつ取っても1万円台の前半で収まります。自社で作れる範囲の登記であれば、現金の負担はこの程度だということです。司法書士に依頼する場合の報酬はこれとは別にかかり、金額は事務所ごとに違うので見積もりを取ってください。
出し方は3通り。どれを選ぶか
登記の申請方法には、オンライン申請と書面申請の2つがあります。このうち、書面申請には、通常の書面申請のほかに、「QRコード(二次元バーコード)付き書面申請」の方法があります。この方法は、電子証明書をお持ちでない場合でも、オンライン申請と同様のメリットがありますので、ぜひご利用ください。 出典: houmukyoku.moj.go.jp
選び方の目安はこうです。電子証明書をすでに持っていて、今後も登記の機会が多いなら、オンライン申請がいちばん手数が少なくなります。電子証明書を持っていないなら、QRコード付き書面申請が現実的です。申請用総合ソフトで申請書を作って印刷し、窓口か郵送で出す方式で、入力の段階でソフトが形式を確認してくれるぶん、手書きより補正が出にくくなります。
法務局は場面ごとに操作の手引きを公開していて、役員変更については全員重任の場合と辞任就任の場合が別々に用意されています。自社の状況に近いほうを開いてから作業を始めると迷いません。
通常の書面申請も、もちろん使えます。記載例をそのまま下敷きにすれば、1人の増員程度であれば自社でも十分に作れます。
完了までにかかる日数の見方
「登記は何日で終わりますか」という質問には、一律の答えがありません。登記所ごとに、その時期の混み具合で変わるからです。
目安になるのが、各法務局が公開している登記完了予定日です。申請した日を基準に、いつ完了する見込みかが示されます。補正がある場合や、管轄の法務局が変わる本店移転の場合などは、この予定どおりにはいきません。
郵送で申請するなら、往復の日数も足して考えます。書類を郵便局に出した日が申請日になるわけではなく、登記所に届いて受け付けられた日が申請日です。2週間の期限は申請日で判断されるので、期限ぎりぎりの郵送は避けてください。
オンライン申請であれば、送信した時点で受け付けられます。期限が迫っているときに強いのはこの方式です。ただし電子証明書の取得そのものに時間がかかるので、今日明日の話には使えません。登記の機会が定期的にある会社ほど、先に電子証明書を用意しておく価値があります。
登記中は証明書が出ない
見落とされがちな注意点があります。法務局は、会社の登記申請を行って手続が完了するまでの間、原則としてその会社の登記事項証明書と印鑑証明書が発行されないと案内しています。再び発行できるようになるのは、登記手続が完了したときです。
この空白期間が問題になるのは、ほかの手続きと重なったときです。融資の実行、入札の参加、補助金の申請、賃貸借契約の締結。どれも登記事項証明書や印鑑証明書を求められます。役員の登記を出した数日後にそれらの期限が来るなら、証明書を先に取っておくか、申請のタイミングをずらすかの判断が必要になります。
登記完了予定日は各法務局が公開しています。申請の前に確認して、前後の予定と突き合わせておいてください。
遅れたときに起きること
2週間を過ぎてから申請しても、そのことだけで却下されるわけではありません。ただし、会社の代表者に対して裁判所から100万円以下の過料が科される可能性があります。法務局が申請書様式のページで明記している内容です。金額は法律上100万円以下と幅があり、実際にいくらになるかは裁判所が事情を見て決めます。一般には遅れた期間が長いほど重くなる傾向があるとされますが、算定の基準は公表されていないため断定はできません。
さらに、登記を長く放置した場合の扱いも決まっています。最後の登記から12年が経過した株式会社は、休眠会社として整理作業の対象になります。会社法472条1項は、法務大臣が官報で公告し、2か月以内に事業を廃止していない旨の届出がされないときは、その期間の満了時に解散したものとみなすと定めています。直近では令和7年10月10日に公告が行われ、同日付で管轄の登記所から通知書が発送されました。
役員の登記を期限どおりに出していれば、それ自体が最後の登記の日付を更新するので、この危険から自動的に遠ざかります。
補正が出たときはどう動くか
書類に不備があると、登記所から補正の連絡が入ります。手続きに慣れていない会社が自社で申請すれば、一定の確率で起こることなので、失敗と考える必要はありません。
補正の多くはその場で直せる程度のものです。記載の誤り、通数の食い違い、押印の漏れ。連絡を受けたら登記所に出向いて訂正するか、不足分を追加で提出します。
補正では直しきれない誤りだった場合は、申請を取り下げることになります。取り下げたときの収入印紙の扱いは登記所の指示に従ってください。補正や取下げがあると完了の日が後ろにずれるので、証明書の提出期限が決まっているなら、そのぶんの余裕を見て申請します。
補正を減らす方法は2つです。ひとつは、法務局の記載例を添付書類の欄の書き方まで含めてそのまま真似ること。もうひとつは、QRコード付き書面申請を使って、入力の段階でソフトに形式を確認させることです。
就任の日は、次の期限の起点になる
登記が終わったところで気を抜きたくなりますが、就任の日付にはもうひとつの意味があります。任期の起点です。
会社法332条1項は、取締役の任期を、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと定めています。公開会社でない株式会社は、定款によってこれを選任後10年以内まで伸ばせます。中小企業の多くは、手続きの回数を減らすために10年で定めています。
問題は、10年というのが人間の記憶が持たない長さだという点です。任期が満了しているのに登記をしないまま数年が過ぎ、気づいたときには登記簿上の役員と実態が食い違っている、という状態は実際によくあります。
これを避けるには、登記が完了した時点で次の満了予定を記録しておくことです。役員ごとに、就任日、任期の年数、満了予定の定時株主総会がいつになるかを一覧にします。決算期が分かっていれば、満了する総会の年は計算できます。登記事項証明書の控えと同じ場所にこの一覧を置いておけば、次に担当者が代わっても引き継げます。
登記が終わったあとにやること
登記の完了は終わりではなく、社内外の手続きの入口です。
まず、登記事項証明書を必要な通数だけ取得します。窓口での交付は1通600円、オンラインで請求して窓口で受け取る場合は490円、送付を求める場合は520円と、登記手数料令で決まっています。銀行、許認可の窓口、取引先の与信の確認など、提出先が複数あるならまとめて取っておくほうが効率的です。
次に、新しい代表取締役が会社の印鑑を登記所に届け出るなら、印鑑届書を出します。法務局は様式と記載例を公開しています。
そして、書類をひとまとめに保管します。株主総会議事録の原本、株主リストの控え、就任承諾書の原本、申請書の控え、完了後の登記事項証明書。この5点が、次に役員が動くときの出発点になります。散らかしたまま数年が過ぎると、誰がいつ就任したのかが社内の誰にも分からなくなります。
会社の形が違えば、登記される名前も違う
株式会社以外の形も見ておきます。
合同会社では、会社法914条6号が業務を執行する社員の氏名または名称を、7号が会社を代表する社員の氏名または名称と住所を、登記事項として挙げています。「取締役」という役職そのものが存在しないので、取締役の登記という手続きもありません。社員の加入や業務執行権の変更に応じた登記になります。
特例有限会社は、かつての有限会社がそのまま残っている会社です。取締役と代表取締役の氏名が登記されていて、手続きの考え方は株式会社に近いのですが、法務局は特例有限会社向けの役員変更登記申請書の様式を別に用意しています。株式会社の様式を流用しないでください。
NPO法人や一般社団法人でも理事の氏名が登記事項です。ただし、一般社団法人と一般財団法人の休眠整理は、株式会社の12年ではなく最後の登記から5年が基準になります。株式会社の感覚で放置すると、想定より早く対象に入ります。
支払いを帳簿に載せるとき
登記でお金を使ったら、経理の処理が残ります。
登録免許税は、税金を払った記録として残します。1万円を収入印紙で納めたのであれば、租税公課として1万円、相手方は現金または預金です。収入印紙をまとめて買っておく会社では、買った時点で貯蔵品に載せ、申請に使った時点で租税公課へ振り替える形もあります。どちらで処理するかは会社の方針の問題なので、前年までの仕訳に合わせてください。
登記事項証明書や印鑑証明書の交付手数料は、税金ではなく手数料です。支払手数料で処理する会社と、租税公課にまとめる会社があります。ここも社内の扱いをそろえておくほうが、後で見返したときに分かりやすくなります。
司法書士に依頼した場合は、もうひとつ手順が増えます。司法書士の業務に関する報酬を払う会社は、支払いのときに所得税を差し引いて国に納める立場になります。所得税法205条2号は、同一人に1回で支払われる金額から政令で定める金額を控除した残額に10パーセントを掛けると定めていて、控除する金額は所得税法施行令322条で1万円とされています。ここに復興特別所得税が上乗せされるため、実務では10.21パーセントで計算することになります。差し引いた所得税は、原則として支払った月の翌月10日までに納めます。
気をつけたいのは、請求書に含まれている登録免許税や証明書の手数料の扱いです。国税庁は、会社が本来納付すべき登録免許税や手数料に充てるものとして支払われたことが明らかなものについては、源泉徴収をする必要がないと案内しています。報酬の額と実費の額が請求書で分けて書かれているかどうかで、計算の対象が変わります。請求書を受け取った時点で内訳を確かめてください。
なお、金額の計算や勘定科目の選び方は会社の事情で変わる部分があります。判断に迷うときは税務署か税理士に確認してください。
勘違いされやすい5つ
順番どおりに進めていても、思い込みで足をすくわれる箇所があります。相談の場でよく出てくる5つを並べます。
登記されるまでは取締役ではない、という勘違い。取締役になるのは、選任の決議があって本人が承諾した時点です。登記はその事実を外に示す手続きなので、登記が終わる前でも取締役として会社の意思決定に加わります。
郵便に出した日が申請日になる、という勘違い。申請日は、登記所に書類が届いて受け付けられた日です。期限の当日に投函しても間に合いません。
同じ人が続けるだけなら登記は要らない、という勘違い。任期が満了すれば、いったん退任になります。同じ人が引き続き就任するなら重任の登記が必要で、期限も同じく2週間です。
取締役の住所が登記簿に出る、という勘違い。登記されるのは取締役の氏名だけです。住所まで載るのは代表取締役です。自宅の住所を公開したくないという相談は、代表取締役かどうかで答えが変わります。
人数分の登録免許税がかかる、という勘違い。登録免許税は申請1件についての金額です。同じ総会で3人を選任してまとめて申請すれば、1万円または3万円が1回分で済みます。
自社で出すか、司法書士に頼むか
判断の材料は3つに絞れます。
第一に、同時に動く登記がいくつあるかです。取締役を1人増やすだけ、あるいは氏名が変わっただけなら、記載例を見ながら自社で作れる範囲です。ところが、代表取締役の交代、本店の移転、目的の変更、募集株式の発行が重なると、判断の分岐が一気に増えます。この段階なら最初から専門家に渡したほうが、総コストは下がります。
第二に、期限までの余裕です。2週間という期間は、書式を調べて、本人から印鑑証明書を取り寄せて、印紙を買って出すまでを含むと、思っているほど長くありません。残りが数日という段階で気づいたのであれば、依頼する判断も合理的です。
第三に、社内に前回の記録が残っているかどうかです。前の申請書の控えがあれば、それを下敷きにできるので負担は軽くなります。何も残っていない会社は、今回を機に控えを残す運用を始めてください。次からが楽になります。
なお、登記や税務の個別の判断は、会社の状況によって結論が変わります。ここで説明しているのは一般的な扱いなので、自社に当てはまるかどうかは管轄の法務局か、司法書士や税理士に確認してください。
順番を守るだけで、ほとんどの失敗は消える
登記でつまずく会社に共通しているのは、順番を飛ばしていることです。定款を見ないまま総会を開いて員数の上限に引っかかる。代表取締役の選び方を確認しないまま議事録を作って、必要な書類がそろわない。就任承諾書の住所を省略して書いて、本人確認証明書と照合できない。どれも、前の段階で確認していれば起きません。
この市場を20年にわたって運営してきた立場から見ると、同じ構図は会社の外の取引でも起きています。運営者として見てきた限り、長く続いている受発注ほど、最初に順番を決めています。誰が何を決めるのか、決まったら何を書面にするのか、いつまでに出すのか。この3つを最初に握っている関係は、途中で人が入れ替わっても崩れません。逆に、口頭の合意を積み上げてきた関係は、担当者が変わった瞬間に何も残っていないことが分かります。
中間に手数料が乗らない直接の取引では、依頼する側は同じ予算でより多くを頼め、受け手は手取りが厚くなります。ただしその構造が機能するのは、約束が書面として残っている場合だけです。契約の書式そのものを点検したい会社は、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストで発注書と契約書に何を書くべきかを確認してください。
社内の管理や書類づくりを外部の担い手に任せる流れも続いています。どんな業務が外に出ているかはアプリケーション開発のお仕事やAIコンサル・業務活用支援のお仕事に整理があり、相場観はソフトウェア作成者の年収・単価相場で公的統計に基づく水準が確認できます。書類の型を体系的に押さえたいならビジネス文書検定が学習の順番の目安になります。
取締役登記は、定款を見て、総会を開いて、承諾をもらって、2週間以内に出す。この順番を守るだけで、大半のやり直しは消えます。
よくある質問
Q. 取締役の登記はいつまでに申請しますか?
変更が生じた日から2週間以内です。株主総会で選任され、本人が就任を承諾した日が起算点になります。設立の場合は、定められた調査が終了した日か発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内です。期限を過ぎても申請は受け付けられますが、代表者に100万円以下の過料が科される可能性があります。
Q. 登記簿には取締役の住所も載りますか?
取締役は氏名だけが登記され、住所は登記されません。住所まで登記されるのは代表取締役です。会社法911条3項の13号が取締役の氏名、14号が代表取締役の氏名と住所を登記事項として定めています。登記事項証明書は誰でも取得できるため、代表取締役の住所は第三者が確認できる状態になります。
Q. 登記にかかる費用はいくらですか?
役員に関する事項の変更の登記は、申請1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社は1万円です。同じ株主総会で複数の役員を選任しても、まとめて申請すれば1件分で済みます。収入印紙か領収証書で納付し、印紙の消印は法務局の職員が行うので自分では押しません。
Q. 申請してから登記が終わるまで、会社の証明書は取れますか?
原則として取れません。法務局は、登記の申請から手続が完了するまでの間、その会社の登記事項証明書と印鑑証明書は発行されないと案内しています。融資や入札、契約の締結でこれらの書類が必要になる予定があるなら、申請前に取得しておくか、登記完了予定日を確認して日程を調整してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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