役員報酬をゼロにするときの議事録|無報酬でも決議が要る理由


この記事のポイント
- ✓役員報酬0円議事録雛形を探している方へ
- ✓無報酬でも株主総会の決議と議事録が必要な理由
- ✓ゼロにしたあとに再び支払い始めるときの時期の制約まで整理しました
結論から書きます。役員報酬をゼロにする場合でも、株主総会の決議と議事録は必要です。払わないのだから何もしなくていい、という判断がいちばん危ない。ゼロも金額のひとつであり、金額を決める権限は株主総会にあるからです。
役員報酬0円議事録雛形を探してこのページに来た方は、おそらく次のどれかの状況にあります。会社を作ったばかりで売上が立つまで報酬を出さないことにした。別の会社から報酬を受けているので、こちらは無報酬にしたい。事業を縮小して、しばらく動かさないことにした。あるいは、税理士や銀行から「議事録はありますか」と聞かれて、そこで初めて無いことに気づいた。
この記事では、なぜゼロでも決議が要るのかという理由、そのまま埋められる文例、社会保険の扱い、ゼロにしたあとで再び払い始めるときの制約までを順に並べます。ゼロにすること自体は珍しくありませんが、手続きを飛ばしたときの後始末は面倒です。
ゼロでも決議が要るのは、権限の置き場所が決まっているから
会社法は、取締役の報酬を誰が決めるかをはっきり定めています。
(取締役の報酬等) 第三百六十一条 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。 一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額 出典: laws.e-gov.go.jp
定款で額を定めていない会社では、株主総会が決めることになっています。ほとんどの中小企業は定款に金額を書いていないので、報酬の額は毎回、株主総会の決議で決まります。ゼロ円という額を決めることも、この「額を定める」に含まれます。
なぜここにこだわるのか。取締役は会社と委任の関係にあり、自分の報酬を自分で決められると、会社の財産を自由に自分へ移せてしまうからです。だから金額の決定権は株主の側に置かれています。ゼロにするときも同じ理屈が働きます。あとから「あのときは無報酬だと決めていた」「いや聞いていない」という争いが起きたとき、決議と議事録だけが判断の材料になります。
株主がひとりで、その株主が社長本人であっても、この構造は変わりません。ひとり会社なら争いは起きないと思うかもしれませんが、相手は株主だけではありません。税務署、銀行、将来の買い手、相続人。会社の外にいる誰かに対して、いつから無報酬にしたのかを示す必要が出てきます。
議事録を作る義務は、会社法第318条第1項が定めています。株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければならない、という条文です。決議をしたのに議事録を作らない状態は、法律上の義務を果たしていないことになります。
役員報酬をゼロにする場面は、大きく4つ
無報酬を選ぶ理由によって、議事録に書く内容も、その後の手続きも変わります。自社がどれに当たるかを先に決めてください。
1つ目は、設立直後です。会社を作ってから売上が入るまで、報酬を出すと現金が持ちません。設立から数か月を無報酬にして、資金の見通しが立った時点で金額を決める会社は多くあります。この場合は「当面の間、報酬を支給しない」ではなく、「設立から令和◯年◯月まで無報酬とする」と期間を区切って書くほうが、後の改定がしやすくなります。
2つ目は、他社から報酬を受けている場合です。本業の会社で給与を受け取っていて、副業として作った法人からは報酬を取らない形です。この形では、社会保険はすでに本業の側で加入しているので、新しく作った法人で報酬を取らなければ、そちらでの加入は生じないのが基本的な扱いになります。ただし複数の会社から報酬を受けると、二以上事業所勤務の届出が必要になります。無報酬のうちは発生しませんが、払い始めたら手続きが増えることを覚えておいてください。
3つ目は、事業を縮小して動かしていない場合です。取引はほぼ止まっているが、会社は残しておきたい。この状態で報酬を払い続けると、赤字と資金流出が同時に進みます。ゼロにして、法人住民税の均等割だけを払いながら維持する選択です。
4つ目は、経営責任を取る形での無報酬です。業績が大きく悪化し、銀行への返済条件を見直す局面で、経営改善計画に「代表者の報酬をゼロとする」と盛り込むケース。この場合は理由を具体的に書く必要があり、他の3つとは議事録の書き方が変わります。
どの場面でも共通するのは、ゼロにした日付と、いつまでゼロなのかが後から読み取れる状態にしておくことです。
そのまま埋められる、ゼロ円決議の文例
臨時株主総会議事録
開催日時 令和◯年◯月◯日 午前9時30分 開催場所 当会社本店 出席状況 発行済株式の総数 100株 議決権を行使することができる株主の数 1名 議決権を行使することができる株主の議決権の数 100個 出席株主数 1名 出席株主の議決権の数 100個 出席役員 取締役 ◯◯◯◯(議長兼議事録作成者)
議長は定刻に開会を宣言し、上記のとおり本総会は適法に成立した旨を述べ、議案の審議に入った。
第1号議案 取締役の報酬の額の決定の件
議長は、当会社が令和◯年◯月◯日に設立され、現時点では営業収入の計上に至っていないことから、当面の資金を事業活動に充てるため、取締役の報酬を次のとおり定めたい旨を提案した。
取締役 ◯◯◯◯ 月額0円 適用期間 令和◯年◯月分から令和◯年◯月分まで
なお、上記期間経過後の報酬の額については、あらためて株主総会において決定するものとする。
議長がその可否を議場に諮ったところ、出席株主の議決権の全部の賛成をもって、原案のとおり承認可決された。
以上をもって本総会の議案の審議を終了したので、議長は午前9時45分閉会を宣言した。
上記の決議を明確にするため、この議事録を作成する。
令和◯年◯月◯日 株式会社◯◯◯◯ 臨時株主総会 議長 代表取締役 ◯◯◯◯ 印
この文例で押さえているのは3つです。金額を「0円」と明示していること。適用期間に始まりと終わりがあること。期間が終わったあとの扱いをどうするかを書いていること。
「支給しない」という書き方でも意味は通りますが、「月額0円」と数字で書くほうが、他の決議と並べたときに読みやすくなります。給与計算のソフトに入力する担当者にとっても、金額欄に入る値がそのまま書いてあるほうが迷いません。
文例を埋めるときに迷いやすい3点
期間の終わりをどう書くか。設立直後なら、最初の事業年度の末日までとするのが分かりやすい形です。ただし、途中で売上が立って報酬を払い始めたくなった場合、期の途中での増額には制約があります。この点は後述します。
理由をどこまで書くか。無報酬の場合、理由は短くてかまいません。設立直後で収入がない、他社から報酬を受けている、といった事実を1行書けば足ります。減額の場合と違って、税務上の要件を満たすために理由を組み立てる必要がないからです。むしろ、実態と合わない理由を長く書くほうがリスクになります。
押印をどうするか。株主総会の議事録について、会社法は署名や押印を義務づけていません。それでも押印するのが一般的な運用です。銀行や法務局に提出する場面では押印を求められることがあり、後から押すより最初から押しておくほうが手間が少なくて済みます。取締役会を置いている会社の取締役会議事録は扱いが違い、会社法第369条第3項が、出席した取締役と監査役の署名または記名押印を求めています。
保管も忘れないでください。会社法第318条第2項は、株主総会の日から10年間、議事録を本店に備え置くことを求めています。ゼロ円の議事録こそ、後から「その期間は本当に無報酬だったのか」を問われたときの唯一の証拠になります。
社会保険はどうなるか
報酬がゼロになると、健康保険と厚生年金保険の扱いが変わります。ここが無報酬のいちばん大きな影響です。
役員が社会保険の被保険者になるかどうかは、法人から労務の対償として報酬を受けているかで判断されます。報酬がまったく支払われない状態では、この条件を満たさないため、被保険者の資格を失う扱いになるのが原則です。資格を失うと、その後は国民健康保険と国民年金に自分で加入することになります。
ただし、金額が低いというだけで一律に資格を失わせるのは適切ではない、という整理もされています。
2.については、昭和 24 年 7 月 28 日保発第 74 号通知で「役員であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者とする」とされていますが、一方、「役員については、ご照会の事例のように経営状況に応じて、給料を下げる例は多く、このような場合は今後支払われる見込みがあり、一時的であると考えられるため、低報酬金額をもって資格喪失させることは妥当でない」ことから、総合的な判断が必要であり、最低金額を設定し、その金額を下回る場合は、被保険者資格がないとするのは妥当ではありません。 出典: nenkin.go.jp
低い額と、ゼロは違います。少額でも報酬が出ていれば、労務の対償としての報酬があるという説明ができます。まったく出ていなければ、その説明ができません。健康保険を会社の側で維持したい事情がある場合、無報酬ではなく月額数万円を残すという選択を取る会社があるのは、この差があるからです。
どちらが有利かは、家族構成、扶養に入れる人がいるか、国民健康保険料がいくらになるかで変わります。市区町村ごとに国民健康保険料の計算方法が違うため、金額の比較は自分の住んでいる自治体の基準で行ってください。手続きの窓口や様式は日本年金機構で確認できます。判断に迷う場合は、資格喪失の届出を出す前に年金事務所に事情を伝えて相談するのが確実です。
ゼロ円にすると起きる不便
正直なところ、無報酬には見落とされがちな不便がいくつかあります。
住宅ローンや自動車ローンの審査で、収入を証明できません。会社の決算書は出せても、個人の源泉徴収票が出ない状態になります。法人の代表者は個人の所得で審査されることが多いため、借入を予定しているなら、無報酬の期間を作るタイミングを考えたほうがいい場面があります。
保育園の入園審査でも、就労の証明が必要になります。無報酬でも役員として働いている事実は証明できますが、自治体によって書類の求め方が違います。
個人の生活費を会社から出そうとして、役員貸付金が膨らむことがあります。報酬がないのに生活費が要るので、会社の口座から引き出す。その分は会社から役員への貸付として処理されます。貸付金は銀行の審査でよく見られる項目で、金額が大きくなると印象が悪くなります。無報酬にする前に、当面の生活費の出どころを別に用意しておくのが実務的な順番です。
小規模企業共済や個人型の確定拠出年金など、収入を前提とした制度の掛金にも影響します。制度ごとに扱いが違うため、加入しているものがあれば、無報酬にする前に条件を確認してください。
これらは無報酬をやめる理由にはなりませんが、知らずに進めると後から困る種類の話です。
ゼロから払い始めるときは、時期の制約がある
無報酬から報酬を出し始めるのは増額に当たります。ここに時期の制約がかかります。
役員報酬は、原則として事業年度の途中で増やせません。国税庁の整理では、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までにされた改定であれば、定期同額給与として扱われます。定期同額給与とは、支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、各支給時期の金額が同じ給与のことです。この期間を過ぎてから増やすと、上乗せした部分が経費にならない可能性が出てきます。
つまり、設立から半年を無報酬で走り、7か月目から報酬を出したいという場合、その7か月目が期首から3か月以内に収まっているかで扱いが変わります。設立1期目については、設立の日から3か月を経過する日までの改定が対象になるという整理がされています。設立から半年後に払い始めると、この期間を過ぎてしまう計算です。
対処の方向はいくつかあります。無報酬の期間をあらかじめ短く区切って、期首から3か月以内に金額を決め直す。1期目の事業年度を短く設定して、早く2期目を迎える。あるいは、その期は無報酬のまま通し、翌期の期首から払い始める。どれを選ぶかで税額が変わるので、設立の段階で決算期と報酬の開始時期をセットで設計しておくのが無駄がありません。
例外として、役員の地位や職務の内容が大きく変わった場合の臨時改定事由があります。無報酬だった取締役が代表取締役に就任したといった場面です。ただし当てはまるかどうかは事情によるので、断定せずに税務署か税理士に確認してください。
なお、役員給与は経費になる形に当てはまっていても、不相当に高額な部分は経費になりません。法人税法施行令第70条は、職務の内容、会社の収益、従業員への給与の支給状況、同種の事業で規模の似た会社の支給状況などに照らして判断するとしています。無報酬から一気に高い額へ戻すときは、この観点も頭に入れておいてください。制度の全体像は国税庁の役員給与の説明にまとまっています。
会社を休ませる場合との違い
報酬をゼロにすることと、会社を休眠させることは別の話です。混同している相談をよく見かけます。
無報酬は、会社は動いていて、役員が報酬を受け取らない状態です。取引も申告も続きます。休眠は、事業活動そのものを止めて、税務署や都道府県に異動届を出す手続きです。休眠させると法人住民税の均等割が免除される自治体がありますが、扱いは自治体ごとに違います。
無報酬にしただけでは休眠にはなりません。決算と申告は毎年必要ですし、法人住民税の均等割もかかります。逆に、休眠させたのに役員報酬を払い続けていると、休眠の実態を疑われます。どちらを選ぶかは、この先その会社を使う予定があるかで決まります。
いずれにしても、無報酬の期間があったことは議事録でしか示せません。会社を再開するとき、売却するとき、相続が起きたとき。そのときに議事録の束が整っているかどうかで、話の進み方が変わります。
議事録を作らないままゼロにしていた場合、どう立て直すか
すでに何期も無報酬で来ていて、議事録が1枚もない。この相談は珍しくありません。正直なところ、この状態は珍しくないどころか、ひとり会社ではかなり多数派です。立て直す手順を書いておきます。
最初にやるのは、事実の確定です。法人の預金通帳と総勘定元帳を開いて、役員報酬として出金した記録がいつからいつまで無いかを確認します。無報酬の期間がどこからどこまでかを、会社の帳簿の側から特定する作業です。決算書の役員報酬の欄がゼロになっている事業年度を並べれば、だいたい見えてきます。
次に、その期間について、いまの日付で議事録を作り直すのか、過去の日付で作るのかを決めます。ここは慎重に扱ってください。過去の日付をさかのぼって書いた議事録は、他の資料と食い違えばすぐに分かります。決算書、申告書、預金の動きはすでに外部に出ているので、議事録だけを都合よく合わせることはできません。
現実的なのは、これからの期について正しい形で決議と議事録を残し、過去については決算書と申告書で無報酬だった事実が確認できる状態を保つ、という整理です。過去分の扱いで税額が変わる可能性がある場合は、自己判断で書類を作る前に税務署か税理士に事情を説明して確認してください。
そのうえで、これから毎期続けるための最低限の型を作ります。定時株主総会を開く月を決める。その総会で、次の期の役員報酬を決議する。決議した内容を議事録にして、年度別のファイルに綴じる。この3つを繰り返すだけで、翌年からは30分程度の作業になります。最初の1回だけが重いという種類の仕事です。
株主や取締役が複数いる場合の進め方
ひとり会社を前提に書いてきましたが、株主や取締役が複数いる場合は注意点が増えます。
株主が複数いて、全員が同じ場所に集まれない場合。会社法第319条は、取締役または株主が提案をして、議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する決議があったものとみなすと定めています。全員の同意が取れるなら、集まらずに決議を成立させられます。
この形を使ったときの議事録は、通常の議事録と書く項目が変わります。会社法施行規則第72条第4項は、決議があったものとみなされた事項の内容、その提案をした者の氏名、決議があったものとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を書くとしています。開催日時や場所、議長の氏名は登場しません。通常の様式にこれらを混ぜると、どちらの形で決議したのかが読み取れない書類になります。
取締役が複数いる場合は、誰の報酬をゼロにするのかを個別に書いてください。代表取締役だけが無報酬で、他の取締役には報酬を払うという形は普通にあります。この場合、議事録には全員分の金額を並べて書くほうが分かりやすくなります。ゼロの人だけを書くと、他の取締役の報酬がいつ決まったのかが別の議事録を探さないと分からなくなります。
取締役会を置いている会社では、株主総会で報酬の総額の上限を決め、各人への配分を取締役会で決めるという二段構えを取ることができます。この場合、ゼロ円にする決議は取締役会の側で行うことになります。取締役会議事録については、会社法第369条第3項が出席した取締役と監査役の署名または記名押印を求めているので、株主総会議事録より形式の要求が厳しくなります。自社が取締役会設置会社かどうかは、登記事項証明書を見れば分かります。
ゼロ円の決議とあわせて整えておく書類
議事録だけを作っても、他の書類と食い違うと意味が薄れます。無報酬にするときは、次の3つを同時に確認してください。
源泉所得税の納付関係です。役員報酬を払わなくなると、源泉徴収して納付する税額がゼロになります。納期の特例を使っている会社は半年に一度の納付になりますが、税額がゼロでも納付書の提出が求められる扱いがあります。納めるお金が無いから何も出さなくていい、とは限りません。税務署に確認しておいてください。
給与支払報告書と法定調書です。年末調整の対象になる給与の支払いが無ければ、提出する内容も変わります。ここも、ゼロだから何もしないのではなく、ゼロであることを示す形が要る場合があります。
社会保険の届出です。資格喪失の届出を出すのか、出さずに続けるのか。前の節で書いたとおり、報酬がまったく無い状態では資格を失う扱いになるのが原則です。届出を出さずに放置すると、保険料の請求だけが続いて未納が積み上がります。無報酬にすると決めた日に、届出をどうするかまで決めてください。
この3つを議事録とセットで確認する習慣を作ると、あとから穴が見つかる事故が減ります。決議の日に作業リストを1枚書いて、終わったものから消していくだけで十分です。
ゼロにすると会社にいくら残るのか
金額で見ておきます。月20万円の役員報酬を払っている会社が、それをゼロにした場合の1年間の動きです。
払う場合、会社から出ていく現金は報酬の240万円だけではありません。社会保険に加入していれば、会社が負担する保険料も出ていきます。会社負担分を仮に報酬の15%として計算すると36万円で、合計276万円の現金が会社から出ます。健康保険の料率は都道府県と年度で変わるので、正確な金額は年金事務所の料額表で確かめてください。
ゼロにすると、この276万円が会社に残ります。ただし、そのぶん会社の利益が増えるので、法人にかかる税金も増えます。税率を仮に25%として、報酬として引けなくなった240万円に対して60万円ほどと見ておきます。差し引きで、手元に残るのはおおむね216万円です。
一方で本人の側では、240万円の給与を受け取らないので、その分の所得税と住民税と社会保険料の本人負担が発生しません。ただし、給与収入がゼロになると国民健康保険と国民年金に自分で入ることになり、そちらの保険料は本人が払います。家族の扶養に入れるなら、その負担も消えます。
つまり、会社に現金を残す効果は確かにありますが、本人の生活費をどこから出すのかという問題が同時に発生します。役員が会社に貸し付けた資金で生活を回す形にすると、会社の借入が積み上がっていきます。ゼロにする判断は、会社に残る金額ではなく、本人の生活費を何か月分持っているかで決まります。実際の税率や保険料は会社の状況で変わるので、金額を決める前に税務署か税理士に確認してください。
無報酬の期間、帳簿はどう見えるか
報酬を払っていない期間でも、帳簿は空になりません。何が並ぶのかを押さえておくと、決算のときに迷いません。
役員報酬の科目は、その事業年度を通じてゼロのままです。社会保険の資格を失っていれば、法定福利費もゼロになります。それでも動くものが2つあります。
1つは法人住民税の均等割です。赤字でも、報酬がゼロでもかかります。金額は資本金と従業員数、事務所の所在地で決まります。
もう1つが、社長が立て替えた経費です。無報酬の期間は会社に現金が少ないので、通信費や交通費を社長が自分の財布から出すことになります。この立て替えを精算せずに置く場合の書き方が次の形です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 通信費 | 8,000 | 役員借入金 | 8,000 |
役員借入金は、会社が社長から借りているという意味の科目です。短期借入金や役員短期借入金という名前でもかまいませんが、金融機関からの借入とは別の科目にしておいてください。決算書を見る側は、この科目があると「社長が身銭を切って回している会社」と読みます。無報酬の期間があったことの裏づけにもなります。
気をつけたいのは、この立て替えを役員報酬として処理してしまう誤りです。立て替えの精算は経費の支払いであって報酬ではありません。報酬として計上すると、ゼロと決議した内容と帳簿が食い違います。領収書を保管して、立て替えた事実を残してください。
1年の流れを日付順に並べる
3月決算の会社が無報酬を続ける場合、1年の作業はこうなります。
・3月31日 決算日 ・5月31日 法人税の申告と納付の期限。事業年度が終わった日の翌日から2か月以内です ・6月下旬 定時株主総会。次の期も無報酬で続けるのか、金額を決めるのかをここで決議する ・6月30日 ゼロから払い始めるなら、この日までに決めて改定する。会計期間の開始の日である4月1日から3か月を経過する日にあたります ・7月支給分から 新しい金額にする場合の初回。ゼロを続けるなら何も動きません ・以後10年間 会社法第318条第2項により、株主総会の日から10年間、議事録を本店に備え置きます。支店には写しを5年間置きます
いちばん落ちやすいのが6月下旬です。無報酬を続けるだけなので、何もしなくてよいと感じてしまいます。しかし「続ける」ことも決議です。総会を開いた記録が毎年1枚あるかどうかで、何年か経ったときの説明のしやすさが変わります。
12月決算なら、期限は2月末と3月31日にそれぞれ移ります。自社の決算日に2か月と3か月を足した日をカレンダーに入れておくだけで、毎年の抜けが止まります。
無報酬でも、役員としての責任は軽くならない
見落とされやすい点を書いておきます。報酬をゼロにしても、取締役としての義務と責任はそのまま残ります。
取締役は会社に対して善良な管理者としての注意をもって職務を行う義務を負い、法令や定款、株主総会の決議を守る義務を負います。報酬を受け取っていないから軽い判断でよい、という理屈は通りません。会社が第三者に損害を与えた場面で、役員個人の責任が問われることもあります。
税金や社会保険料の滞納が生じた場合も同じです。法人の滞納について、一定の要件のもとで役員個人が責任を問われる制度があります。無報酬であることは、その判断で有利に働く要素にはなりません。
だからこそ、会社を使う予定がないなら、無報酬で持ち続けるより解散を検討するほうが筋が通る場面があります。役員として名前が残っている限り、義務は続きます。逆に、これから伸ばす会社なら、無報酬は一時的な資金対策であって、いつ終わらせるかを決めてから始めるものです。期限のない無報酬は、たいてい放置につながります。
議事録に適用期間を書くよう勧めているのは、この理由からでもあります。終わりの日付が書いてあれば、その月が来たときに次をどうするか考える機会が必ず訪れます。期限を書かない議事録は、作った瞬間から忘れられます。
書類を整える手間を、どこに置くか
運営者として20年この市場を見てきた限りでは、法人を持つ人がいちばん後回しにするのが、こうした社内の決議書類です。売上に直接つながらず、締切もないので、決算前にまとめて作ろうとして結局正確さを失う。無報酬の期間があった年ほど、この傾向が強く出ます。報酬が動いていないので、作る必要を感じにくいからです。
この種の作業は、年間の予定として先に置いてしまうのが確実です。決算期の3か月前と、期首の月に、それぞれ議事録を作る日を決めておく。議事録の様式を一度整えておけば、あとは日付と金額の差し替えだけになります。
長く続いている人ほど、単発の作業を数多くこなすことより、相手が毎回同じ人に頼みたくなる状態をつくることに時間を使っています。書類の整備はその典型で、会社の事情を知っている相手に頼むほど、説明の手間が消えて双方の時間が浮きます。中間の手数料が乗らない直接の取引なら、同じ予算で依頼側はより多くを頼めて、受け手の手取りは厚くなります。手数料0%という条件が効いてくるのは、単発の金額よりも、こうした継続する関係の中です。
文章や書式を仕事にする方向を考えているなら、報酬の水準は著述家,記者,編集者の年収・単価相場が目安になります。ビジネス文書の型を体系的に押さえたい場合はビジネス文書検定の出題範囲が、そのまま学習の地図として使えます。会計や決算の周辺で働く道は会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】に形が整理されています。
無報酬の期間は、会社の資金が細っている時期と重なることが多くなります。取引先からの入金が滞ったときの進め方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】に手順がまとまっています。取引条件そのものを守る話はフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが参考になります。社内の手続きを見直して仕組みに落とす仕事に関心があるならAIコンサル・業務活用支援のお仕事に該当する案件の形が並んでいます。技術の側から支える方向ならアプリケーション開発のお仕事が近く、その分野の水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場で確認できます。
よくある質問
Q. 役員報酬が0円でも議事録は必要ですか?
必要です。会社法は、定款に額を定めていない場合、取締役の報酬の額は株主総会の決議で定めるとしています。ゼロも金額のひとつなので決議の対象になり、決議をしたら議事録を作る義務が生じます。株主が社長ひとりだけの会社でも同じで、後から無報酬だった期間を示す資料は議事録しかありません。
Q. 議事録には「支給しない」と書けばよいですか?
意味は通りますが、「月額0円」と数字で書くほうが読み違いが起きません。あわせて、いつの支給分からいつまでを無報酬とするかの期間と、期間が終わったあとの扱いを決める旨を書いておくと、次の改定がしやすくなります。理由は設立直後で収入がない、といった事実を1行で足りるのが普通です。
Q. 報酬をゼロにすると社会保険はどうなりますか?
役員が被保険者になるかどうかは、法人から労務の対償として報酬を受けているかで判断されます。報酬がまったく支払われない状態ではこの条件を満たさず、資格を失う扱いになるのが原則です。健康保険を会社側で続けたい事情がある場合は、無報酬ではなく少額を残す選択もあるため、年金事務所に事情を伝えて確認してください。
Q. 無報酬から報酬を払い始めるとき、時期の制限はありますか?
あります。増額は原則として事業年度の途中ではできず、会計期間の開始日から3か月を経過する日までの改定であれば定期同額給与として扱われます。この期間を過ぎてから払い始めると、上乗せ部分が経費にならない可能性があります。無報酬の期間は、決算期と合わせてあらかじめ区切っておくのが安全です。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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