「偽装フリーランス」問題とは何か|社員を業務委託に切り替える会社の狙いと対抗策


この記事のポイント
- ✓偽装フリーランス 切り替えを打診されたら何を確認すべきか
- ✓切り替え時のチェックリスト
- ✓気づいた後の対抗策まで
「業務委託契約に切り替えませんか」。ある日突然、会社からそう持ちかけられた人は少なくありません。偽装フリーランス 切り替えという検索でこのページにたどり着いた方の多くは、今まさにその打診を受けているか、すでに切り替えた後に「これは本当に適法なのか」という違和感を抱えているはずです。結論から言うと、業務委託契約に切り替えても働き方の実態が変わらないなら、それは偽装フリーランスに該当する可能性が高く、労働者としての保護を失うリスクがあります。この記事では、なぜ企業が切り替えを進めたがるのか、切り替え時に何を確認すべきか、気づいた後にどう動くべきかを順番に整理します。
「偽装フリーランス」が急速に注目される背景
フリーランスという働き方そのものは、この数年で急速に一般化しました。内閣官房の2020年の推計では462万人、総務省の2022年の就業構造基本調査では257万人が、副業を含めてフリーランスとして働いていると推計されています。企業側から見ても、人材不足を解消する手段としてフリーランスへの業務委託は魅力的な選択肢です。
フリーランスとして働く人は、内閣官房の2020年の推計では462万人、総務省の2022年の就業構造基本調査では257万人(いずれも副業を含む)となっており、企業の人材不足を解消する切り札として注目されています。今後も、フリーランスの活躍の場がますます広がることが期待される中で、無知や理解不足による偽装フリーランス化は防がなければなりません。 出典: blog.freelance-jp.org
この追い風の裏側で問題視され始めたのが、実態は雇用に近いのに契約形式だけ業務委託に変える「偽装フリーランス」です。2024年11月1日にはフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行され、フリーランスへの発注ルールが明文化されました。この法整備の動きと連動する形で、偽装フリーランスという言葉自体の検索需要も伸びています。正直なところ、法律が整備されるほど「実態を隠したまま名目だけ整える」ケースが増えるというのは皮肉な話ですが、現場感覚としてはよくあることです。
社会保険料の会社負担分は、従業員一人あたり月額報酬のおよそ15%前後に及びます。仮に月収30万円の社員を10人業務委託化できれば、会社は年間で数百万円規模のコスト削減が可能になる計算です。この経済合理性が、偽装フリーランスという問題の根っこにあります。
偽装フリーランスとは何か:業務委託契約と雇用契約の違い
偽装フリーランスとは、契約書の上では業務委託契約(フリーランスとしての取引)を結んでいるにもかかわらず、実際の働き方は雇用契約下の労働者とほとんど変わらない状態を指します。
偽装フリーランスとは、表面上はフリーランスとして業務委託契約を結んでいるにもかかわらず、実際には企業の指示の下で働いている状態を指します。以下のような業務委託契約の利用は、偽装フリーランスの状況を生み出す一因となっています。 出典: time-r.com
業務委託契約と雇用契約の最大の違いは「指揮命令を受けるかどうか」です。雇用契約では会社が労働者に対して業務の進め方・時間・場所を指示できますが、業務委託契約では原則として発注者は成果物や業務の完成のみを求め、進め方や時間の使い方には介入しないのが建前です。ところが実務では、契約書の名称を「業務委託契約書」に変えただけで、始業時間の指定、日次の業務報告、オフィスへの出社義務などがそのまま残っているケースが後を絶ちません。これでは契約の名前が変わっただけで、労働者としての実態は何も変わっていないことになります。
労働者性を判断する3つの観点
労働基準法上の「労働者」に該当するかどうかは、契約書の文言ではなく実態で判断されます。主な判断軸は次の3つです。
第一に「指揮監督下の労働であるか」です。業務の依頼を断る自由があるか、業務の進め方について具体的な指示を受けているか、勤務場所や勤務時間が拘束されているかを見ます。第二に「報酬が労働の対償として支払われているか」です。成果物単位ではなく時間単位・日単位で報酬が計算されている場合、労働者性が強く推定されます。第三に「専属性の程度」です。他社の仕事を受けることが実質的に禁止されている、あるいは特定の1社からの収入が生活の大部分を占めている状態は、雇用に近いと判断される要素になります。これら3つが複合的に強く見られるほど、たとえ契約書が業務委託であっても、労働基準法・労働契約法上の労働者として保護される可能性が高まります。
なぜ企業は正社員を「業務委託への切り替え」に誘導するのか
会社が業務委託への切り替えを持ちかける理由は、一つではありません。表向きは「あなたの裁量を広げたい」「フリーランスとして自由に働けるようにしたい」といった前向きな説明がされることが多いのですが、実際には次のような経営上の狙いが絡んでいるケースが目立ちます。
狙い1:社会保険料の会社負担をゼロにする
正社員を雇用する場合、会社は健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・労災保険料の一部または全部を負担します。業務委託契約に切り替えれば、これらの法定福利費が発生しません。年収400万円の社員を業務委託化すれば、会社側は年間50万円〜60万円程度の社会保険料負担を削減できる試算になります。人数が増えるほどこの削減効果は積み上がるため、経営側から見た切り替えの経済合理性は非常に高いのです。
狙い2:解雇規制・雇用契約上の制約から逃れる
日本の労働契約法では、正社員の解雇には客観的合理的理由と社会通念上の相当性が求められ、簡単には解雇できません。業務委託契約であれば、契約期間満了や契約解除という形で、実質的に雇用関係の終了に近い処理を、解雇規制の枠外で行えてしまいます。契約を更新しないという方法は、労働者側から見ると解雇とほぼ同じ影響を持ちますが、法律上の保護が及びにくいという非対称性があります。
狙い3:36協定・残業代の管理コストを削減する
労働基準法が適用される労働者には、時間外労働の上限規制や割増賃金(残業代)の支払い義務が課されます。業務委託契約の受託者は労働基準法の適用対象外となるため、会社は残業代の支払いや36協定の労使協定締結といった管理コストから解放されます。長時間働かせても契約上は「成果物の納期」の問題として処理でき、労働時間管理の義務自体が発生しないという点は、企業側にとって大きなメリットになってしまいます。
「切り替え」を求められたときに確認すべきチェックリスト
実際に業務委託への切り替えを打診されたら、以下の項目を必ず確認してください。これは筆者が過去に複数の編集現場を渡り歩く中で、実際に業務委託契約への切り替えを打診された際に自分自身で作ったチェックリストを、汎用化したものです。
まず、始業・終業時刻の指定がなくなるかどうかを確認します。切り替え後も「毎日9時から18時まで稼働してください」という指示が続くなら、実態は雇用のままです。次に、他社の仕事を受けてよいかを明確にします。専属義務が残るなら、それは業務委託ではなく雇用に近い契約です。さらに、報酬の算定方法が時給・日給ベースのままか、成果物ベースに変わっているかも重要な判断材料になります。加えて、業務の進め方に対する具体的な指示(使用ツールの指定、報告の頻度、作業手順の細かい指定など)が残るかどうかもチェックすべきです。最後に、社会保険・有給休暇・交通費といった福利厚生が切り替え後にどうなるかを書面で確認しましょう。これらの多くが「切り替え前と実質的に変わらない」場合、その契約は偽装フリーランスの疑いが強いと考えるべきです。
偽装フリーランスと判断されるとどうなるか:会社側・労働者側それぞれのリスク
偽装フリーランスは、企業側にも労働者側にも重いリスクをもたらします。
企業側は、労働基準監督署の是正勧告や指導の対象となるほか、未払いだった残業代・社会保険料をさかのぼって請求される可能性があります。フリーランス法違反が認定された場合、公正取引委員会や中小企業庁からの命令に従わないと50万円以下の罰金が科される規定もあります。加えて、労働局への相談やSNSでの告発をきっかけに社名が公になれば、採用活動や取引先との関係にも悪影響が及びます。
労働者側から見たリスクも深刻です。業務委託契約に切り替わると、労働基準法・労働契約法による解雇規制や残業代規制の保護を失います。労災保険が適用されないため、業務中の事故やケガの補償は原則として自己責任になります。雇用保険にも加入できないため、契約が打ち切られても失業給付を受けられません。さらに、確定申告や消費税の扱いなど、会社員時代には不要だった事務負担も自分で背負うことになります。これらのリスクを十分に理解しないまま切り替えに同意してしまうと、後になって「こんなはずではなかった」という状況に陥りやすいのが実情です。
フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)のポイント
2024年11月1日に施行されたフリーランス法は、フリーランス(特定受託事業者)に業務を委託する事業者に対して、書面等による取引条件の明示、報酬の支払期日の設定(原則60日以内)、ハラスメント対策体制の整備などを義務づけています。
偽装フリーランスは、業務委託契約を締結してフリーランスとして働いているけれども、業務実態は労働者と同じであることを指しています。フリーランスについては、2024年11月1日にフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されたことから注目されていますが、このフリーランス法の施行とともに、偽装フリーランスの問題も注目され始めています。 出典: ylo-corporatelaw.com
フリーランス法自体は「フリーランスとして働く人を守る法律」であり、業務委託の実態そのものが雇用に近いかどうかを直接判定する法律ではありません。ただし、フリーランス法違反の調査や相談の過程で「そもそもこの人は労働者ではないか」という論点が浮上し、偽装フリーランス問題が発覚するきっかけになるケースは実際に増えています。フリーランスとして業務委託契約を結んだ後、取引条件の明示がなかったり、報酬の支払いが恣意的に遅れたりする場合は、フリーランス法上の問題として公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口に相談できる点も覚えておくとよいでしょう。関連して、下請事業者を保護する下請法(取適法)についても、発注書・契約書の必須項目を押さえておくと自衛の役に立ちます。フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストでは、発注書や契約書に最低限盛り込むべき項目を具体的にまとめています。
偽装フリーランスに気づいたときの具体的な対抗策
「これは偽装フリーランスかもしれない」と感じたら、感情的に会社と対立する前に、段階を踏んで動くことが重要です。
ステップ1:証拠を集める
まず最優先で行うべきは証拠の保全です。始業・終業時刻の指定を受けたメールやチャットのログ、業務の進め方について具体的な指示があったやり取り、出社を求められたことがわかるスケジュール表などを日付が分かる形で保存しておきます。契約書と実際の働き方に矛盾があることを示す記録は、後に労働局や弁護士に相談する際の最も重要な証拠になります。口頭でのやり取りしか残っていない場合は、メモに日時・発言内容・発言者を記録しておくだけでも証拠としての価値が生まれます。
ステップ2:労働局・労働基準監督署に相談する
証拠がある程度そろったら、都道府県労働局の総合労働相談コーナーや、管轄の労働基準監督署に相談します。相談は無料で、匿名での相談も可能です。労働者性が認められる可能性が高いと判断されれば、労働基準監督署から会社に対して是正指導が入ることもあります。会社との交渉が難航する場合は、労働審判や民事訴訟による解決も選択肢に入ってきます。弁護士に依頼する場合の費用相場は着手金10万円〜30万円程度が一般的ですが、法テラスの無料相談を活用すれば初期の見立てだけでも費用をかけずに得ることができます。
ステップ3:本当にフリーランスとして独立する場合の準備
一方で、労働者性を争うのではなく「この機会に本当のフリーランスとして独立する」という選択をする人も少なくありません。この場合は、専属契約を解消して複数の取引先を持つこと、業務の進め方を自分の裁量で決められる契約に変えること、報酬を成果物ベースに設計し直すことが最低条件になります。単価相場を把握しておくことも重要で、たとえばソフトウェア作成者の年収・単価相場や著述家,記者,編集者の年収・単価相場のようなデータベースで職種ごとの相場を確認してから交渉に臨むと、不当に低い単価で偽装フリーランス化されるリスクを減らせます。
独自データ考察:業務委託への切り替えを前向きに変える視点
ここまで偽装フリーランスのリスクを中心に見てきましたが、業務委託契約への切り替え自体が悪いわけではありません。問題は「実態を変えないまま契約形式だけ変える」ことです。逆に言えば、指揮命令からの解放、専属義務の解消、報酬の成果物ベース化という条件を実質的に満たせば、業務委託への切り替えはキャリアの選択肢を広げる好機にもなり得ます。
20年近くフリーランス・在宅ワーク市場を見てきた立場から言えば、業務委託への切り替え後にうまくいく人と、いつまでも雇用時代と変わらない働き方に縛られたままの人には、はっきりした違いがあります。うまくいく人は、切り替えのタイミングで意図的に取引先を複数に分散させ、特定の1社に依存しない収入構造を作ります。逆にうまくいかない人は、元の会社1社との関係だけを続けてしまい、結果として労働者性の高い状態がそのまま固定化されてしまいます。切り替えを打診された時点で「複数の発注元を持つ準備ができるか」を自分に問うことが、実質的な独立の分かれ目になっているというのが現場の実感です。
もう一つ運営者として見てきた実感があります。仲介手数料が上乗せされない直接契約は、同じ予算でも発注者はより多くの業務を依頼でき、受注者はその分手取りが厚くなります。クラウドソーシング大手の手数料は概ね16.5%〜20%で、年間100万円を稼ぐ人であれば16万5,000円〜20万円が中間マージンとして消える計算です。手数料0%の直接契約であれば、その分がそのまま受注者の手取りとして残ります。額面の単価だけでなく、手取りベースでどれだけ残るかという視点で取引先を選ぶことが、偽装フリーランス化を避けつつ収入を安定させるための現実的な戦略だと言えます。
独立後の専門分野選びも重要な論点です。会社員時代の業務内容によっては、AIコンサル・業務活用支援のお仕事のようにAI活用支援へ軸足を移す道もあれば、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように複数分野を掛け合わせて専門性を高める道もあります。エンジニア職からの独立であればアプリケーション開発のお仕事のような開発案件へのシフトが選択肢になりますし、実務スキルを客観的に示す手段としてビジネス文書検定やCCNA(シスコ技術者認定)のような資格を取得しておくと、専属契約に頼らず複数の取引先から仕事を得やすくなります。税務まわりの実務を副業として学びながら独立準備を進めたい場合は、税理士の副業ガイド|確定申告代行・記帳代行で稼ぐ方法【2026年版】のように、独立後に必要な確定申告の知識を体系的に補っておく方法も参考になります。契約形式が業務委託に変わったタイミングで、こうした周辺知識を並行して固めておくことが、後から「切り替えは失敗だった」と後悔しないための実務的な備えになります。
会社から契約書の名称変更だけを提示されたときに、その場で即答せず、指揮命令・専属性・報酬体系の3点を自分の頭で確認する。この一手間があるかないかで、その後のキャリアの主導権を握れるかどうかが大きく変わってきます。
よくある質問
Q. 業務委託への切り替えを断ることはできますか?
契約形態の変更は労働条件の重要な変更にあたるため、一方的な合意なき切り替えは無効になる可能性が高いです。断っても不利益な取り扱いを受けた場合は、労働局の相談窓口に記録を持って相談することをおすすめします。
Q. すでに業務委託契約に切り替えてしまった場合、後から労働者性を主張できますか?
可能です。契約書の名称よりも実態が重視されるため、指揮命令や専属性の実態を示す証拠があれば、切り替え後でも労働者性を主張し、未払い残業代や社会保険の遡及適用を求められるケースがあります。
Q. フリーランス法は偽装フリーランス問題を直接解決してくれますか?
フリーランス法は主に取引条件の明示や報酬支払いの適正化を目的とした法律で、労働者性の判定を直接行う法律ではありません。ただし相談過程で偽装フリーランスの実態が発覚するきっかけになることは多くあります。
Q. 労働局への相談は会社に知られてしまいますか?
総合労働相談コーナーへの相談自体は匿名でも可能で、相談内容が会社に伝わることはありません。是正指導など会社への働きかけを希望する段階になって初めて、必要な範囲で情報が共有されます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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