定款と登記はどう違うのか|片方だけ直すと食い違う

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
定款と登記はどう違うのか|片方だけ直すと食い違う

この記事のポイント

  • ✓定款登記という言葉で検索したときに知りたいのは
  • ✓会社の中のルールと国の記録がどう違い
  • ✓どちらをいつ直すのかという一点です

会社を作った直後、あるいは事業の中身を変えようとしたときに、「定款」と「登記」という2つの言葉が同時に出てきて、どちらが何なのか分からなくなる人は多いです。検索すると、定款を変えたら登記が必要だと書いてあるページと、登記は要らないと書いてあるページの両方が出てきます。矛盾しているように見えますが、どちらも正しい。変える項目によって答えが違うだけです。

結論から書きます。定款は会社が自分のために持っているルールの文書で、登記は国が管理している会社の公的な記録です。この2つは重なる項目もありますが、一致していません。だから「定款を変えたから登記も」とは限らないし、「定款に書いていないから登記も関係ない」とも限りません。

この記事では、2つの文書の性格の違いを整理したうえで、設立のときの順番、変更のときにどちらを直すのか、費用と期限、そして片方だけ直して食い違ったときに何が起きるのかまでを順に見ていきます。法人化したばかりで社内に法務の担当がいない会社を想定して書いています。

定款は会社が作る文書、登記は国が持つ記録

まず、2つの性格を分けて捉えてください。

定款とは、会社の決まりを書いた文書のことです。会社の目的、名前、本店をどこに置くか、株主総会をどう開くか、役員を何人置くか、決算をいつ締めるか。こうした運営の根っこにあたる取り決めが並んでいます。法務省は定款を「法人の組織活動の根本規則」と説明しています。この文書は会社が自分で保管するもので、作ったあとに毎回どこかへ提出する仕組みにはなっていません。

登記とは、会社の情報を国が記録として公開する制度のことです。法務局が管理していて、手数料を払えば誰でもその会社の登記事項証明書を取れます。取引の相手が「この会社は本当に存在するのか」「代表者は誰か」を確かめられるようにするための仕組みなので、載せる項目は会社が自由に決められません。会社法が列挙した項目だけが載ります。

つまり、定款は中身を会社が決められる私的な文書、登記は法律が決めた項目だけを外に見せる公的な記録です。目的が違うので、載っている情報の範囲も違います。

定款の保管と閲覧についても決まりがあります。会社は定款を本店と支店に備え置かなければならず、株主と債権者は営業時間内ならいつでも閲覧や謄本の交付を請求できます。つまり定款は「社内の秘密文書」ではありません。一方で、取引先や求人の応募者が勝手に見られるものでもない。この中間的な位置づけが、登記との一番大きな違いです。

登記のほうは完全に公開です。会社名と本店の所在地さえ分かれば、誰でもオンラインで登記情報を取得できます。だから、登記に載っている内容が実態とずれていると、外から見て「この会社は管理が雑だ」と分かってしまいます。

会社を作るときは定款が先、登記が後

設立の場面では、この2つは必ず定款が先、登記が後の順番で登場します。

株式会社を作る場合、発起人(会社を立ち上げる人)が定款を作り、全員が署名または記名押印します。次に、その定款を公証人に確認してもらいます。会社法第30条第1項は、株式会社の定款は公証人の認証を受けなければ効力を生じないと定めています。認証を受ける公証役場は、本店の所在地を管轄する区域内にあるところです。

そのあと出資金を払い込み、設立時の取締役を決め、調査が終わってから法務局に設立の登記を申請します。この登記が終わった時点で、会社は法律上成立します。定款を作った段階ではまだ会社は存在していません。

期限にも注意が必要です。設立の登記は、設立時取締役の調査が終わった日か発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内に申請しなければなりません。定款の認証を受けたまま放置すると、この期限の起算点がずれるだけでなく、認証の内容が古くなって作り直しになることもあります。

合同会社の場合は事情が違います。法務省は合同会社について、定款は公証人の認証を要しないと明示しています。定款は自分たちで作って保管し、登記申請のときに添付すれば足ります。

合同会社の定款については、公証人の認証を受ける必要はありません。 出典: moj.go.jp

株式会社を選ぶか合同会社を選ぶかで、設立の入口にかかる手間と費用が変わるのはこの一点が大きい。認証の手数料と紙の定款に貼る印紙代が丸ごと不要になるからです。

定款にあって登記にないもの、登記にあって定款にないもの

ここが理解の山場です。2つの文書は、重なる部分とずれる部分があります。

両方に載る項目は、目的、商号、本店の所在場所、発行可能株式総数、公告の方法、取締役会や監査役を置くかどうか、会社の存続期間や解散の事由などです。会社の骨格にあたる部分は、定款にも書くし登記にも載ります。

定款にはあるが登記に載らない項目もあります。代表的なのが事業年度です。決算をいつ締めるかは定款の任意的記載事項に入りますが、会社法が列挙した登記事項の中に事業年度はありません。ほかに、取締役の員数、取締役の任期、株主総会の議長を誰にするか、定時株主総会をいつ招集するか。こうした社内の運営ルールは定款にだけ書きます。

逆に、登記に載るが定款には書かない項目もあります。取締役の氏名、代表取締役の氏名と住所、資本金の額、発行済株式の総数。これらは実際の状況に応じて動くもので、定款に書いてしまうと変わるたびに定款も直さなければならなくなります。だから通常は定款に人名を書きません。

この3つの区分を頭に入れておくと、「自分の変更はどちらの手続きになるか」が判断できるようになります。手順としては、まず手元の定款を開いてその項目が書いてあるかを確かめ、次に登記事項証明書を取ってその項目が載っているかを確かめる。この2つの答えの組み合わせが、そのまま必要な作業になります。

本店の所在地は、この判定でいちばん間違いが起きる項目です。定款には「当会社は、本店を東京都渋谷区に置く」のように最小行政区画までしか書いていないことが多い。この書き方なら渋谷区内での引っ越しは定款に触れずに済み、登記だけを直します。区をまたぐと、定款の書き換えと登記の両方が必要になります。定款に番地まで書いてある会社は、同じビルの階を移るだけでも定款の変更が発生します。設立時の書き方が、何年もあとの手間を左右する典型例です。

定款を直したら登記も直すのか

変更の場面を、4つの組み合わせで整理します。

1つ目は、定款の変更も登記も必要な場合です。商号、目的、区をまたぐ本店移転、公告の方法、発行可能株式総数、株式の譲渡制限の定め、取締役会や監査役を置く置かないの変更。これらは決議をして定款を書き換え、そのうえで法務局に登記を申請します。

2つ目は、定款の変更だけが必要で、登記は不要な場合です。事業年度、取締役の員数、取締役の任期、株主総会の招集に関する定め。決議をして定款を書き換えれば終わりです。法務局に出すものはありません。事業年度を変えたときは、代わりに税務署と自治体に届け出ます。

3つ目は、定款の変更は不要で、登記だけが必要な場合です。役員の就任と退任、代表取締役の交代、資本金の増減、同じ市区町村内での本店移転、支店の設置。定款には触れません。

4つ目は、どちらも不要な場合です。就業規則や社内規程の変更、業務の進め方の見直し。会社のルールではあっても、定款にも登記にも入っていないものです。

定款を変えるときの決め方も押さえておきます。会社法第466条は、会社の成立後は株主総会の決議によって定款を変更できると定めています。この決議は通常より重い要件で、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。一人株主の会社なら形式的な手続きですが、それでも議事録は作って残してください。登記が必要な変更では、その議事録が法務局に出す添付書類になります。

登記が必要な変更には期限があります。会社法第915条第1項は、登記事項に変更が生じたときは2週間以内に変更の登記をしなければならないと定めています。この期限を過ぎても登記自体は受け付けてもらえますが、登記を怠った場合は100万円以下の過料に処するという規定があります。過料は会社ではなく代表者個人に対して裁判所から通知が届きます。

登記の費用は何にいくらかかるのか

登記にかかる主な費用は、登録免許税です。国税庁の税額表で金額が決まっています。

株式会社の設立は、資本金の額の1000分の7で、この計算が15万円に満たないときは1件につき15万円です。資本金が2,143万円くらいまでは一律15万円になる計算です。合同会社の設立は同じく1000分の7で、下限が6万円。ここで9万円の差がつきます。

設立後の変更では、商号や目的のように「登記事項の変更」にあたるものが1件につき3万円です。本店または支店の移転は1箇所につき3万円。役員の変更は1件につき3万円ですが、資本金の額が1億円以下の会社については1万円に軽減されます。中小企業のほとんどはこの軽減が効きます。増資は増加した資本金の額の1000分の7で、下限が3万円です。

取締役または代表取締役もしくは監査役等に関する事項の変更の登記 申請件数 1件につき3万円(資本金の額が1億円以下の会社については1万円) 出典: nta.go.jp

同じ登記申請書で複数の変更をまとめて出す場合、区分が同じなら1件分で済むことがあります。たとえば商号と目的を同時に変えるときは、どちらも「登記事項の変更」なので合わせて3万円です。一方、目的の変更と役員の変更は区分が違うので、3万円と1万円で合計4万円になります。この積み上げ方は申請の内容によって変わるので、金額が大きくなりそうなときは申請前に管轄の法務局に確認してください。

設立のときは定款まわりの費用も乗ります。株式会社の定款認証の手数料は、資本金の額が100万円未満なら3万円、100万円以上300万円未満なら4万円、それ以外は5万円です。さらに2024年12月1日から、発起人が全員自然人で3人以下、発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける旨の記載がある、取締役会を置く旨の記載がない、という3つをすべて満たす資本金100万円未満の会社については1万5,000円に下がりました。小規模な一人会社はこの区分に入ることが多いので、条件を満たすかどうかを先に確かめる価値があります。

定款の謄本代が1枚250円で、登記申請に使う分は8枚程度になることが多く、およそ2,000円です。紙の定款には収入印紙4万円を貼りますが、電子定款なら不要です。この4万円の差があるため、設立を代行する事務所を使っても総額がほとんど変わらないという逆転が起きます。

登記のときに定款を添えることがある

定款と登記は別物ですが、手続きの場面では接点があります。登記を申請するときに、定款を添付書類として出す場合があるからです。

設立の登記では、公証人の認証を受けた定款が添付書類の筆頭に挙がっています。そのほか、発起人全員の同意があったことを証する書面、設立時取締役の就任承諾書、金銭の払込みがあったことを証する書面、印鑑証明書などが並びます。

設立後の変更登記でも、定款の添付を求められる場面があります。たとえば、定款で取締役の任期を短くしている会社が役員変更の登記をする場合や、定款に取締役の員数の上限を定めている会社が役員を増やす場合です。法務局は「その変更が定款に違反していないか」を確かめたいので、定款の写しを見せてほしいと言ってくる。

ここで困るのが、定款を一度も更新していない会社です。設立から何度か変更の決議をしているのに、原始定款(設立のときに作った最初の定款)しか手元にないというケースは珍しくありません。決議の議事録は残っているが、定款の本文が書き換えられていない状態です。

この状態でも法律上は定款が変更されたものとして扱われますが、現在の定款はどれかと聞かれたときに一式を並べて説明しなければならず、手間がかかります。銀行の融資審査や許認可の申請で「現行定款」の提出を求められたときにも同じことが起きます。変更の決議をしたら、議事録を残すだけでなく定款の本文も書き換えて、いつ時点のものかが分かる形で保管してください。

なお、定款には法務局や公証役場が控えを持っているという誤解がありますが、これは正しくありません。公証役場が保存しているのは設立時に認証した原始定款だけで、そのあとの変更は反映されません。会社が自分で管理するしかない文書です。

株式会社と合同会社で、定款と登記の関係はどう違うか

同じ「会社」でも、株式会社と合同会社では定款の扱いがかなり違います。法人化を検討している段階なら、ここを押さえてから形を選ぶべきです。

株式会社の定款は、公証人の認証を受けなければ効力が生じません。設立のときに一度だけ、外部の専門家が内容を確認する工程が入るということです。そのぶん手数料と時間がかかりますが、記載の不備を作りっぱなしにしにくいという副作用もあります。合同会社の定款には、この工程がありません。自分たちで作って自分たちで保管し、登記申請のときに添えるだけです。

設立後の変更手続きも違います。株式会社では定款の変更は株主総会の決議で行い、議決権の3分の2以上の賛成が要ります。合同会社では、原則として社員(出資者のこと。従業員という意味ではありません)全員の同意が必要です。人数が少ないうちは合同会社のほうが手軽ですが、社員が増えると全員の同意を集める難度が上がるという逆転が起きます。

登記に載る項目も違います。株式会社では発行可能株式総数、発行済株式の総数、取締役の氏名、代表取締役の氏名と住所が載ります。合同会社には株式という概念がないので、これらは載りません。代わりに、業務を執行する社員の氏名と、代表社員の氏名と住所が載ります。

費用の差も整理しておきます。設立時にかかる登録免許税は、株式会社が最低15万円、合同会社が最低6万円。定款の認証手数料は株式会社で1万5,000円から5万円、合同会社は不要。この2つを足すと、入口で10万円前後の差がつきます。一方、設立後の変更登記の登録免許税は、登記事項の変更が1件3万円という点で両者とも同じです。差がつくのは入口だけで、維持にかかる手間は大きくは変わりません。

紙で出すか、オンラインで出すか

登記の申請は、書面を持参または郵送する方法と、オンラインで送る方法のどちらでもできます。商業登記法と商業登記規則がどちらも認めています。

書面で申請する場合は、申請書を作って添付書類をそろえ、本店の所在地を管轄する登記所に出します。登録免許税は収入印紙を申請書の余白に貼って納めます。収入印紙は郵便局などで買えます。管轄がどこかは法務局のサイトで調べられます。

オンラインで申請する場合は、登記・供託オンライン申請システムを使います。電子署名が必要になるので、代表者の電子証明書かマイナンバーカードを用意します。添付書類の一部は別途郵送になることが多く、完全にオンラインだけで終わるわけではありません。ただ、法務局の窓口の受付時間に縛られずに送れる点と、補正の連絡が早い点は実務上のメリットです。

設立のときに限っては、法人設立ワンストップサービスという仕組みもあります。定款の認証、設立登記、税務や社会保険の届出をまとめて出せる枠組みで、マイナンバーカードを使ってオンラインで手続きします。個別に窓口を回る必要がなくなるので、一人で設立する場合は検討する価値があります。

どの方法を選ぶにしても、定款そのものは提出して終わりではありません。登記が完了したあとも、会社は定款を本店に備え置く義務を負い続けます。オンラインで申請したからといって、法務局が定款を保管してくれるわけではない。この点は紙でもオンラインでも同じです。

片方だけ直すと、どこで食い違いが表に出るか

定款と登記の内容がずれたまま放置すると、いくつかの場面で表に出ます。

いちばん多いのが、許認可の申請です。建設業、人材派遣、古物商、旅行業、産業廃棄物の収集運搬。こうした許可を取るときは、登記事項証明書と定款の両方を出します。目的の欄に必要な文言が入っていないと、そこで止まります。役所は「事業の目的に入っていないのだから、その事業を営む意思がないものとして扱う」という考え方を取るためです。目的を追加してから出し直すことになり、決議、定款の書き換え、登記申請、証明書の取得で2週間から3週間は余分にかかります。

次が金融機関です。融資の審査でも口座の開設でも、登記事項証明書は必ず見られます。役員の変更が何年も登記されていない、本店が実際の事務所と違う、といった状態は、その場で指摘されます。審査そのものが落ちるとは限りませんが、追加の説明を求められて時間を取られます。

取引先との契約でも起きます。契約書に書いた本店の所在地が登記と違う、代表者の氏名が登記と違う。相手方の法務部門が登記情報を照合したときに差し戻され、契約の締結が遅れます。

登記の懈怠そのものへの制裁もあります。役員の任期が満了しているのに再任の登記をしていない会社は、期限から何年も経ってから過料の通知を受け取ることがあります。金額は事案によって決まりますが、期間が長いほど重くなる傾向があります。しかも通知は会社ではなく代表者個人宛てに届くので、個人の口座から払うことになります。

さらに深刻なのが、12年間登記がないまま放置された株式会社が「休眠会社」として整理の対象になる制度です。法務大臣の公告と通知を受けても届出も登記もしない場合、解散したものとみなされて登記官が職権で解散の登記を入れます。活動している会社でも、登記を放置していればこの対象になり得ます。

食い違いを自分で点検する手順

年に1回、決算のタイミングで点検することを勧めます。手順は4つです。

1つ目は、登記事項証明書を取ることです。法務局の窓口でも取れますし、オンラインでも請求できます。登記情報提供サービスを使えば画面で確認するだけなら数百円で済みます。取得したら、載っている項目を1つずつ読んでください。

2つ目は、現在の定款を出してくることです。原始定款しかない場合は、これまでの株主総会議事録をすべて集めて、どの条文がいつ変わったかを時系列で並べます。この作業を一度やっておけば、次からは差分だけで済みます。

3つ目は、両方を突き合わせることです。目的、商号、本店の所在地、発行可能株式総数、公告の方法、機関の設計。この6項目は両方に載るので、文言が完全に一致しているかを見ます。句読点や表記のゆれは問題になりませんが、内容の違いは直す必要があります。

4つ目は、登記だけに載る項目が実態と合っているかの確認です。取締役の氏名、代表取締役の住所、資本金の額。特に代表取締役の住所は、引っ越したときに登記の変更を忘れがちな項目です。個人の住民票が動いても登記は自動では動きません。

ずれが見つかったら、直す順番は決まっています。まず定款の変更が必要なものは株主総会の決議を取り、議事録を作る。次に登記が必要なものを申請する。登記の添付書類にその議事録を使うので、決議が先です。

任期の管理も同時にやってください。取締役の任期は原則2年ですが、株式の譲渡制限を設けている会社では定款で最長10年まで延ばせます。任期を10年にしている会社は、10年後の再任登記を忘れる確率が高い。定款に何年と書いてあるかを確かめ、次の改選期をカレンダーに入れておくのが確実です。

法人化した個人が最初につまずく場所

フリーランスや個人事業主から法人に切り替えた人の相談を見ていると、つまずく場所がほぼ決まっています。設立のときは代行サービスや税理士が全部やってくれるので問題が起きません。問題は1年目が終わったあと、誰も何も言ってこなくなってから始まります。

20年この市場を見てきた立場から言えば、法人にした人の多くは「設立が終わればあとは事業に集中できる」と考えています。実際には、事業年度ごとに決算と申告があり、役員の任期が来れば登記があり、住所が変われば届出がある。これらは誰かが催促してくれるものではなく、自分でカレンダーに入れておかないと通り過ぎます。

法人化の動機として多いのは、取引先の条件です。一定の規模以上の発注元は、業務委託の相手を法人に限っていることがあります。継続して仕事を受けるために法人格を取る。この流れで作った会社は、実態としては一人で仕事をしている個人と変わらないのに、株式会社としての義務だけが上乗せされます。定款と登記の管理は、その上乗せ分の一部です。

ここで見落とされがちなのが、法人にしたことで受けられる仕事の幅がどう変わるかという点です。発注側から見ると、法人相手の契約は与信の確認がしやすく、継続的な委託に踏み切りやすい。技術系の分野ではこの差がはっきり出ます。たとえばアプリケーション開発のお仕事のような案件では、開発の規模が大きくなるほど契約の相手に法人を求められる割合が上がります。

単価の水準と、手取りで考える発想

法人にするかどうかを判断するときは、売上の額面だけでなく、そこから何が引かれるかまでを並べて考える必要があります。

職種ごとの単価の水準を知っておくと、判断の足場ができます。ソフトウェア作成者の年収・単価相場では、開発の職種について公的な統計をもとにした年収と単価の分布を見られます。文章を扱う仕事なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場が参考になります。どちらも、法人化を検討する規模に届いているかどうかを判断する材料になります。

そのうえで、額面と手取りの差を見てください。仲介を挟む取引では、報酬から仲介の手数料が引かれます。多くのクラウドソーシングでは報酬額の16.5%から20%程度です。年間の受注が500万円あれば、それだけで82万円から100万円が手数料に消える計算になります。法人の維持にかかる費用と同じくらいの金額が、毎年仲介に流れている。

運営者として見てきた限りでは、長く続いている人ほど、この構造に早い段階で気づいて直接取引の割合を増やしています。手数料0%で直接つながる仕組みでは、同じ予算で発注側はより多くを頼めて、受け手は手取りが厚くなる。この差は1件では小さく見えますが、継続する取引では毎月効いてきます。法人にして固定費が増えた人ほど、この部分の設計が効きます。

契約まわりの知識も、法人になると重みが変わります。個人事業のときは口頭で受けていた仕事でも、法人同士では書面が前提になります。フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストでは、発注書と契約書に入れておくべき項目を一覧にしています。報酬が支払われないときの回収の流れは未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】にまとめてあります。

書類を作る力そのものを底上げしたいなら、ビジネス文書検定のような資格の学習範囲が実務に直結します。議事録、通知文、社外向けの案内。定款の変更にともなって作る文書は、どれもこの範囲に入ります。技術系で法人として受注の幅を広げたいなら、CCNA(シスコ技術者認定)のようにベンダーが認定する資格が、発注側から見た判断材料になります。

会計と法務をどこまで自分でやるか

最後に、外注の線引きについて整理します。

登記の申請は、自分でやることも代理人に頼むこともできます。法務局は申請書の様式を公開していて、記載例も用意されています。商号の変更や目的の追加のように内容が単純なものは、自分で申請する人も少なくありません。費用は登録免許税だけで済みます。

一方、司法書士に頼むと、報酬が加わります。相場は変更の内容によりますが、簡単な変更登記で3万円から5万円程度、複数の変更をまとめる場合や本店の管轄が変わる移転では10万円を超えることもあります。書類の不備で法務局に何度も足を運ぶ手間と比べて、どちらが安いかという判断になります。

判断の基準は、その手続きが一度きりか繰り返すかです。役員の再任のように何年かおきに必ず来るものは、一度自分でやり方を覚えれば次から早い。一方、組織を変えるような登記は頻度が低く、間違えたときの影響が大きいので、専門家に任せたほうが結果的に安くつきます。

税務のほうは、線引きが違います。事業年度を変えたときの届出のように書式が決まっているものは自分で出せますが、その変更が税額にどう跳ね返るかの判断は個別事情で変わります。決算期をずらすと、その期間が短い事業年度になり、減価償却の計算や消費税の判定に影響が出ることがあります。このあたりは金額や事情によって扱いが変わるので、税務署か税理士に確認してください。

会計の実務に明るい人材を外部から入れる選択肢もあります。監査法人や事業会社の経理を経験した人が、法人向けの決算支援を業務委託で請けているケースは増えています。会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】では、この分野の働き方と受注の仕方をまとめています。自社で抱えるほどの量がない会社にとっては、必要なときだけ頼める相手を確保しておくのが現実的です。

定款と登記の管理は、それ自体が利益を生む作業ではありません。ただし、放置したときに止まるのは事業のほうです。許認可が下りない、融資が遅れる、契約が締結できない。どれも、数千円から数万円の手続きを先に済ませておけば起きなかったことです。年に1回、決算と一緒に点検する習慣をつけるだけで、この種の事故はほとんど防げます。

よくある質問

Q. 定款を変更したら必ず登記も必要ですか?

必要とは限りません。商号、目的、区をまたぐ本店移転、発行可能株式総数などは定款と登記の両方を直します。一方、事業年度、取締役の員数、取締役の任期といった項目は定款だけを直せば足り、法務局への申請はありません。自社の変更項目が登記事項証明書に載っているかどうかで判断してください。

Q. 定款変更の登記にはいくらかかりますか?

商号や目的のように登記事項の変更にあたるものは、登録免許税が1件につき3万円です。本店または支店の移転は1箇所につき3万円、役員の変更は1件につき3万円ですが資本金1億円以下の会社は1万円に軽減されます。司法書士に依頼する場合はこれに報酬が加わります。

Q. 変更の登記に期限はありますか?

あります。会社法は、登記事項に変更が生じたときは2週間以内に変更の登記をしなければならないと定めています。期限を過ぎても申請自体は受け付けられますが、登記を怠った場合は100万円以下の過料に処するという規定があり、通知は会社ではなく代表者個人に届きます。

Q. 定款をなくしてしまった場合はどうすればよいですか?

株式会社であれば、設立時に認証した公証役場が原始定款を保存しているため、謄本の交付を請求できる場合があります。ただし保存期間には限りがあり、設立後の変更は反映されていません。原始定款と過去の株主総会議事録を突き合わせて現行の定款を作り直し、以後は本文を更新して保管してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年2月15日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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