定款を変えても登記が要らない場面

前田 壮一
前田 壮一
定款を変えても登記が要らない場面

この記事のポイント

  • ✓定款変更は登記不要のケースが意外と多くあります
  • ✓決算期や役員の員数など登記簿に載らない項目の一覧
  • ✓逆に登記が必要になる項目

定款を変えると、必ず法務局に行かなければいけない。そう思い込んで、決算期を変えるだけの話で司法書士に見積もりを取ってしまう方が少なくありません。まず、安心してください。定款を変えても登記が要らない場面は、実際にはかなり広く存在します。

分かれ目はひとつだけです。変えた内容が「登記簿に載っている項目かどうか」。これだけで決まります。会社の決まりごとを書いた文書である定款と、法務局が管理して誰でも取り寄せられる登記簿は、重なってはいますが同じものではありません。定款にしか書かれていない事項をいくら書き換えても、登記簿には変化が起きないので、変更登記という手続きは発生しません。

この記事では、登記が要らない具体的な項目、逆に登記が必要になる項目、そして「登記は要らないが別のところに届け出が要る」という落とし穴を、法務省や国税庁が公開している資料の記載に沿って整理します。読み終わったときに、自分の会社の変更がどちらに当たるか、自分で判断できる状態を目指します。

定款と登記簿は、重なっているが同じではない

最初にここを分けておかないと、この先の話がすべてぼやけます。

定款とは、会社の決まりを書いた文書のことです。商号や事業の目的といった基本情報のほか、株主総会をどう開くか、取締役は何人置くか、事業年度をいつからいつまでにするか、といった社内のルールが書かれています。会社を作るときに作成し、以後は会社の中で保管します。外部の人が勝手に見ることはできません。

一方の登記簿は、法務局が管理している公の帳簿です。正式には商業登記簿といい、その写しが登記事項証明書(昔の呼び方では登記簿謄本)です。手数料さえ払えば誰でも取り寄せられます。取引先が相手の会社を調べるとき、銀行が融資の審査をするとき、この登記簿を見ます。

つまり定款は社内文書、登記簿は公示情報です。公示されるということは、載せる項目が法律で決まっているということでもあります。会社が好き勝手に「うちはこれも載せたい」と言えるものではありません。

法務省は商業登記制度の目的を次のように説明しています。

商業登記制度は、商号、会社等に関する一定の事項 を登記簿に 記載して広く一般に公示し、会社等に係る信用の維持を図るとともに、取引の安全と円滑に資することを目的とする制度です(商業登記法第1条)。 会社等の設立に当たって登記した事項に変更が生じたときは、2週間以内に、その本店又は主たる事務所の所在地において 、変更の登記をしなければなりません(会社法第915条第1項、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」といいます。)第303条)。 出典: www.moj.go.jp

注目してほしいのは「一定の事項」という言葉です。会社に関するすべての事柄ではなく、一定の事項だけが登記簿に載ります。そして、変更登記の義務が生じるのは「登記した事項に変更が生じたとき」です。登記していない事項をいくら変えても、この条文は動きません。ここが、登記不要の判断をする土台になります。

もうひとつ押さえておきたいのは、定款変更そのものの効力です。定款は、株主総会で決議した時点で変わります。法務局に届け出て初めて有効になるわけではありません。会社設立のときに作る最初の定款は公証人の認証を受けないと効力を生じませんが(会社法第30条第1項)、会社ができたあとの定款変更に公証人の認証は要りません。認証手数料の心配をする必要がない、という点も覚えておくと安心できます。

登記される事項は、会社法が並べた一覧だけ

では、登記簿には何が載るのか。会社法第911条第3項が、株式会社について登記すべき事項を第1号から第29号まで並べています。ここに挙がっていないものは、定款にどれだけ詳しく書いてあっても登記簿には現れません。

主なものを挙げると、次のとおりです。

・目的(第1号) ・商号(第2号) ・本店および支店の所在場所(第3号) ・存続期間または解散の事由についての定款の定めがあるときは、その定め(第4号) ・資本金の額(第5号) ・発行可能株式総数(第6号) ・発行する株式の内容(第7号) ・単元株式数についての定款の定めがあるときは、その単元株式数(第8号) ・発行済株式の総数(第9号) ・株券発行会社であるときは、その旨(第10号) ・株主名簿管理人を置いたときは、その氏名または名称および住所ならびに営業所(第11号) ・取締役の氏名(第13号) ・代表取締役の氏名および住所(第14号) ・取締役会設置会社であるときは、その旨(第15号) ・会計参与設置会社であるときは、その旨(第16号) ・監査役設置会社であるときは、その旨および監査役の氏名(第17号) ・会計監査人設置会社であるときは、その旨および会計監査人の氏名または名称(第19号) ・公告方法についての定款の定めがあるときは、その定め(第27号)

この一覧を眺めて気づくことがあります。「その定めがあるときは、その定め」という言い回しが何度も出てきます。つまり、定款に書いたことがそのまま登記簿に流れ込む項目が確かに存在するわけです。存続期間、単元株式数、公告方法などがこれにあたります。

逆に言えば、この29個の号に当てはまらない定款の定めは、変えても登記簿は1文字も動きません。取締役の員数を何人にするか、株主総会の議長を誰にするか、事業年度をいつにするか。これらは第911条第3項のどこにも出てきません。

なお、合同会社の場合は会社法第914条に登記事項が並んでいて、株式会社より項目数がずっと少なくなっています。目的、商号、本店および支店の所在場所、存続期間または解散事由の定め、資本金の額、業務執行社員の氏名または名称、代表社員の氏名または名称および住所、公告方法などです。合同会社は登記される情報が少ない分、定款を変えても登記が要らない場面が株式会社よりさらに多くなります。

定款を変えても登記が要らない代表的な項目

実務でよく出てくるものを、具体的に並べます。いずれも第911条第3項に挙がっていないため、変更登記は不要です。

事業年度(決算期)の変更。3月決算を9月決算に変えたい、繁忙期と決算作業が重なるので動かしたい。こうした相談は非常に多いのですが、事業年度は登記事項ではありません。株主総会の決議で定款を変えれば、それで完了します。ただし税務署への届出は別途必要です。この点は後述します。

取締役や監査役の員数の定め。「取締役は3名以内とする」を「5名以内とする」に変える。この員数の定め自体は登記されません。登記されるのは実際に就任している取締役の氏名(第13号)だけです。ただし、員数を増やして実際に新しい取締役を選任すれば、その就任は登記事項になります。定めの変更と、実際の人事は分けて考えてください。

役員の任期。取締役の任期は原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までですが、株式の譲渡に会社の承認が必要な会社(非公開会社)であれば、定款で最長10年まで伸ばせます(会社法第332条第2項)。監査役は原則4年、非公開会社は定款で10年までです(同第336条)。この任期の年数は登記簿に載りません。任期を2年から10年に延ばしても、変更登記は不要です。

株主総会に関する社内ルール。議長を誰にするか、招集通知を何日前に出すか、定足数をどう定めるか。いずれも登記事項ではありません。

基準日の定め。配当や議決権行使の基準日をいつにするかも登記されません。

取締役会の招集手続。招集通知の期間を短縮する定めなども登記事項ではありません。

株式の譲渡承認機関の変更については注意が必要です。株式の譲渡に承認が必要だという定め自体は、発行する株式の内容として登記されます(第7号)。承認する機関を株主総会から取締役会に変える場合、登記簿の記載に影響するため、登記が必要になるケースがあります。ここは自己判断せず、管轄の法務局に確認してください。

判断に迷ったときの一番確実な方法は、手元に登記事項証明書を1通取り寄せて、変更したい項目がそこに印刷されているかを目で見ることです。印刷されていなければ登記は不要、印刷されていれば必要。これ以上シンプルな判定方法はありません。登記事項証明書の取り寄せ方と費用は後の節で触れます。

同じ「変更」でも、登記が必要になる側

ここまでの裏返しですが、間違えると期限違反になるので、必要になる側も整理しておきます。

商号の変更。会社名を変えれば当然に登記が必要です。登記簿の第2号そのものです。

事業の目的の変更。新規事業を始めるので目的を追加する、使っていない目的を削る。いずれも第1号にあたり、登記が必要です。許認可が絡む事業では、目的欄の書き方まで指定されることがあるので、事前に許認可の窓口に文言を確認してから決議するのが安全です。

本店の移転。第3号です。同じ市内の引っ越しでも登記は必要です。なお、定款に本店を最小行政区画(市区町村)までしか書いていない場合、同じ市区町村内での移転であれば定款変更そのものは不要で、取締役会または取締役の決定だけで足ります。それでも登記は必要です。定款変更が不要でも登記は必要という、逆パターンの代表例です。

公告方法の変更。官報から電子公告に変える場合などです。第27号にあたり、登記が必要になります。電子公告にするときは、公告を掲載するウェブページのURLも登記事項になります。

発行可能株式総数の変更。第6号です。増資に向けて枠を広げる場面でよく出てきます。

機関設計の変更。取締役会を置く、あるいは廃止する。監査役を置く、あるいは廃止する。いずれも第15号、第17号にあたり登記が必要です。しかも機関設計を変えると役員の任期が切れることがあります。会社法第332条第7項や第336条第4項には、一定の定款変更をした場合に任期が満了する旨が定められています。定款変更の登記と役員変更の登記が同時に必要になる、いわば連鎖が起きるケースです。

株式の譲渡制限に関する定めの設定や廃止。第7号です。なお、全部の株式に譲渡制限を設ける定款変更は、通常の特別決議よりさらに重い決議が求められます。会社法第309条第3項により、議決権を行使できる株主の半数以上であって、その株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。頭数と議決権の両方で数えるため、株主が多い会社では段取りに時間がかかります。

存続期間や解散事由の定め。第4号です。あまり出てきませんが、定めている会社が変更すれば登記が必要です。

登記が要らなくても、やることがゼロになるわけではない

ここが一番の落とし穴です。「登記不要」と分かった瞬間に、何もしなくていいと考えてしまう方がいます。実際には、次の4つは残ります。

1つ目、株主総会の決議と議事録。定款を変更するには株主総会の決議が必要です(会社法第466条)。しかも普通の決議ではありません。会社法第309条第2項により、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。これを特別決議と呼びます。登記が不要だからといって、決議を省略してよいわけではありません。

議事録の作成も法律上の義務です(会社法第318条第1項)。作成した議事録は、株主総会の日から10年間、本店に備え置かなければなりません(同第2項)。支店があれば写しを5年間備え置きます(同第3項)。登記に使わないから作らない、という判断は通りません。

2つ目、定款そのものの書き換え。決議しただけで、会社の金庫にある定款の紙が自動的に書き換わるわけではありません。変更後の内容を反映した定款を用意し、議事録とセットで保管します。何年も定款変更を重ねると「今の正しい定款はどれか」が分からなくなる会社が本当に多いので、変更のたびに現行定款を1本化しておくことを強くおすすめします。

3つ目、税務署などへの届出。事業年度を変えた場合が典型です。国税庁は異動届出書の手続きについて、次のように案内しています。

事業年度等の変更、納税地の異動、資本金の額等の異動、商号又は名称の変更、代表者の変更、事業目的の変更、法人の合併、法人の分割による事業の譲渡若しくは譲受け、法人区分の変更、法人の解散(信託の終了を含みます。)・清算結了、支店・工場等の異動等をした場合の手続です。 出典: www.nta.go.jp

事業年度の変更がはっきり挙がっています。提出時期は「異動等後速やかに」、提出先は「異動前の納税地の所轄税務署長」です。添付書類は原則なしですが、異動事項の内容確認のため定款等の写しを求められる場合があると国税庁は注記しています。つまり、登記が不要なケースこそ定款と議事録が唯一の証拠になるので、きちんと作っておく意味が大きいわけです。

税務署だけでなく、都道府県税事務所と市町村にも同様の届出が要ります。自治体ごとに様式と提出期限が違うので、管轄の窓口で確認してください。

4つ目、許認可官庁や取引先への連絡。建設業や運送業など許認可を受けている事業では、定款の変更を監督官庁に届け出る決まりがあることがあります。金融機関との取引でも、定款の写しの差し替えを求められることがあります。

株主が集まらなくても決議はできる

株主が全国に散っている、あるいは家族経営で全員の予定を合わせるのが面倒だ。そういう場合に使えるのが、会社法第319条第1項の決議の省略です。取締役または株主が提案をして、その提案について議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示をすれば、提案を可決する株主総会の決議があったものとみなされます。実務では書面決議やみなし決議と呼ばれます。

この方法を使うときも議事録は作ります。会社法施行規則第72条第4項第1号が、みなし決議の場合に議事録へ書く内容を定めています。決議があったものとみなされた事項の内容、その提案をした者の氏名または名称、決議があったものとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名の4点です。通常の議事録とは書く項目が違うので、様式を流用すると項目が抜けます。

なお、同意書は株主総会の日から10年間、本店に備え置く義務があります(会社法第319条第2項)。議事録と同じ扱いだと思って保管してください。

費用の実額を、一次資料で押さえる

登記が必要になるか不要になるかで、かかるお金は大きく変わります。数字を正確に押さえておきましょう。

登記が不要な場合、国に払う税金はゼロ円です。かかるのは議事録を作る手間と、必要に応じて専門家に払う報酬だけです。

登記が必要な場合は、登録免許税がかかります。国税庁が公開している税額表から、会社の商業登記に関する主なものを抜き出すと次のとおりです。

登記の内容 登録免許税
登記事項の変更、消滅または廃止の登記(商号変更・目的変更など) 申請件数1件につき3万円
本店または支店の移転の登記 本店または支店の数1箇所につき3万円
取締役または代表取締役もしくは監査役等に関する事項の変更の登記 1件につき3万円(資本金の額が1億円以下の会社については1万円)
支店の設置の登記 支店の数1箇所につき6万円
株式会社または合同会社の資本金の増加の登記 増加した資本金の額の1,000分の7(3万円に満たないときは1件につき3万円)
登記の更正または抹消登記 1件につき2万円

中小企業の多くは資本金が1億円以下ですから、役員変更の登記は1万円で済みます。一方、商号や目的の変更は資本金に関係なく3万円です。

本店移転で注意が必要なのは、移転先が別の法務局の管轄になる場合です。税額表は「本店または支店の数1箇所につき3万円」と定めていますが、管轄が変わると移転前の法務局と移転後の法務局の両方に登記が必要になるため、結果として6万円かかります。同じ管轄内の引っ越しなら3万円です。引っ越し先を決める段階で、管轄が変わるかどうかを法務局に確認しておくと、予算の読み違いを防げます。

登記が済んだあと、あるいは変更前の内容を確認するために登記事項証明書を取る費用も見ておきます。法務局は手数料を次のように案内しています。

例えば⇒ 登記所の窓口で登記事項証明書の交付を請求する場合の手数料は 600円 のところ,オンライン請求をご利用いただくと、 証明書を郵送で受け取る場合の手数料は 520円 、 最寄りの登記所や法務局証明サービスセンターで受け取る場合の手数料は 490円 となります。 出典: houmukyoku.moj.go.jp

窓口なら600円、オンラインで請求して郵送で受け取れば520円、オンラインで請求して窓口で受け取れば490円です。同じ法務局は平日の午前8時30分から午後5時15分までですが、オンライン請求なら平日の午後9時まで受け付けています。日中に窓口へ行けない方にとっては、この時間差のほうが金額差より効いてきます。

専門家に依頼する場合の報酬は、事務所ごとに自由に決められるため一律の公定価格はありません。見積もりを取るときは、報酬と登録免許税を分けて記載してもらうと比較しやすくなります。

期限と、破ったときに起きること

登記が必要なケースでは、期限があります。会社法第915条第1項は「二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない」と定めています。起算点は変更が生じたときです。定款変更であれば、株主総会で決議した日が起算点になるのが通常です。

この期限を破るとどうなるか。会社法第976条第1号は、登記をすることを怠ったときは100万円以下の過料に処すると定めています。過料は刑罰ではなく行政上の制裁金ですが、裁判所から代表者個人あてに通知が来ます。会社の経費ではなく、代表者が自分の財布から払うことになります。

実際に多いのは、役員の任期が切れているのに何年も再任の登記をしていないケースです。非公開会社は任期を10年まで伸ばせるので、10年に1度しか登記が発生しません。そのため次のタイミングを忘れやすく、気づいたときには数年が過ぎていた、という事態が起こります。

さらに放置が続くと、みなし解散という制度が待っています。法務局は毎年、休眠会社の整理作業を行っており、最後の登記から一定期間が経過した会社に対して官報公告と通知書の送付を行います。公告から2か月以内に必要な登記または「まだ事業を廃止していない」旨の届出がされないと、実際には事業を続けていても解散したものとして登記されてしまいます。

もうひとつ、登記を怠ることには実務上の不利益もあります。会社法第908条第1項は、登記すべき事項は登記の後でなければ善意の第三者に対抗できないと定めています。たとえば代表取締役を交代したのに登記していなければ、その事実を知らない相手に対して「あの人はもう代表ではない」と主張しにくくなる、ということです。

登記が不要なケースには、こうした期限も過料もありません。だからこそ、自分の変更がどちらに当たるかを最初に切り分けることに意味があります。

つまずきやすい3つのポイント

法人の書類仕事を長く見てきた立場から、特に多いつまずきを挙げておきます。

手元の定款が現状と合っていない。設立時に作った定款のまま、その後の変更が反映されていない会社が本当に多くあります。変更の決議はしたが、定款の本文を書き直さず議事録だけが残っている、という状態です。この状態で新しい変更をかけると、どこを基準に条文番号を振ればよいか分からなくなります。金融機関や許認可の窓口に定款の写しを求められたときにも困ります。年に1度、定時株主総会の準備をするタイミングで現行定款を確認する習慣をつけると、この問題は起きません。

登記簿の記載と実態がずれている。代表取締役の住所が引っ越し前のままになっている、取締役が退任したのに登記が残っている。こうしたずれは、登記事項証明書を1通取れば数分で発見できます。取引先の与信審査で相手が最初に見るのがこの書類ですから、ずれたまま放置するのは印象面でも損をします。

登記が不要だと分かったあとの届出を忘れる。事業年度を変えたのに税務署に異動届出書を出していなかった、というケースです。登記のほうは期限と過料がはっきりしているので意識されやすいのですが、届出のほうは「速やかに」という表現のため、つい後回しになります。決議した日にその場で届出書を作ってしまうのが、いちばん確実です。

判断に迷ったら法務局に聞くのが早道です。商業・法人登記の申請手続については法務局が申請書の様式と記載例を公開しており、株式会社の商号変更・目的変更・本店移転などは様式が揃っています。自分で申請する前提で様式を眺めてみると、どの書類が必要かが具体的に見えてきます。

書類仕事を「誰がやるか」という視点で考える

ここまで手続きの中身を見てきましたが、最後に別の角度から考えてみます。

定款変更にまつわる作業を分解すると、法律判断が必要な部分と、そうでない部分に分かれます。登記が必要かどうかの切り分け、決議要件の確認、条文の書き方。ここは知識が要ります。一方で、議事録の清書、株主リストの表作成、定款の改訂版を作って版管理する、税務署と自治体の届出書を並行して用意する。この後半は、様式さえ分かれば手が動く作業です。

会社の規模が小さいうちは、この後半を代表者が自分でやっています。しかし従業員が増え、年に何度も変更が発生するようになると、代表者の時間が書類仕事で埋まっていきます。20年この市場を見てきた立場から言えば、このタイミングで外部の書き手に定型書類の作成を任せ始める会社が確実に増えます。法律判断は専門家に、書類の整形と管理は外部の実務担当者に、という分け方です。

こうした文書作成の仕事は、在宅ワークの案件としても着実に存在します。実務に近い文書を扱う力は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で示されているような文章の仕事全般の中でも、代替が効きにくい領域です。単価の分布を見ておくと、自分がどの層の仕事を狙うのかを決めやすくなります。

文書作成の基礎を形にしておきたい方には、ビジネス文書検定が参考になります。社外文書の型、敬語、数字の書き方といった、議事録や届出書でそのまま効いてくる範囲を扱う検定です。資格そのものが案件を呼ぶというより、発注側に「型を外さない人だ」と伝わる材料になります。

ネットワークや情報システムの知識を持っていると、文書管理の仕組みづくりごと引き受けられるようになります。CCNA(シスコ技術者認定)のような技術系の認定と、文書作成の実務を組み合わせられる人は、実際のところ多くありません。

運営者として見てきた、発注側と受け手の両方の話

この手の書類仕事は、発注する側から見ると「頼みたいが、誰に頼めばいいか分からない」典型です。弁護士や司法書士に頼むほどではない、しかし社内でやると代表者の時間が溶ける。この中間に落ちる仕事が、法人の運営には驚くほどたくさんあります。

運営者として見てきた限りでは、この中間領域を継続して受け取れる人は、単発で議事録を1本書く人ではありません。その会社の定款の版がどうなっているか、去年どの決議をしたか、次の任期満了がいつかを把握していて、「そろそろ役員の再任の時期です」と先に声をかけられる人です。作業の単価そのものより、この関係の継続が受け手の収入を安定させています。

そしてもうひとつ、間に立つ会社が取る手数料の話があります。同じ予算を発注側が出したとき、中間マージンが乗る経路と乗らない経路では、受け手の手元に残る額が変わります。手数料0%の直接取引では、発注側は同じ予算でより多くの量を頼めるようになり、受け手は同じ作業量でも手取りが厚くなります。額面の金額ではなく手取りの厚みで見たときに、続けられる仕事かどうかが決まる。長く続いている人ほど、この構造を早い段階で理解しています。

法務や契約まわりの実務を扱える人材は、隣接する分野にも広がりを持っています。たとえばAIコンサル・業務活用支援のお仕事では、社内文書の整理と業務フローの棚卸しが最初の工程になることが多く、書類の構造を読める人が重宝されます。社内規程や契約書のひな型を整える作業は、まさにこの延長線上にあります。

契約と支払いの知識をもう一段深めたい方には、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが具体的です。発注書に何を書いてもらうべきか、支払期日をどう決めるかといった、自分の身を守るための要点が整理されています。定款や議事録の話と同じで、書面の型を知っているかどうかで結果が変わる領域です。

会計や税務の周辺で仕事の幅を広げたい方は、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】も参考になります。決算期の変更ひとつを取っても、税務の側から見た論点があり、そこを説明できる人は発注側から見て価値が高くなります。

定款変更に登記が要るかどうかという問いは、突き詰めれば「会社の情報のうち、どこまでが公のものか」という問いです。この線引きを一度理解しておくと、商号を変えるときも、役員を入れ替えるときも、本店を移すときも、同じ物差しで判断できるようになります。手元の登記事項証明書を1通開いて、そこに何が書かれているかを確かめるところから始めてください。判断のほとんどは、その1枚で片がつきます。

よくある質問

Q. 決算期を変えるだけなら、法務局に行かなくてよいですか?

事業年度は会社法第911条第3項の登記事項に含まれないため、変更登記は不要です。ただし株主総会の特別決議と議事録の作成は必要で、さらに税務署への異動届出書の提出が求められます。国税庁は異動届出書の対象に事業年度等の変更を明記しており、提出時期は異動後速やかに、提出先は異動前の納税地の所轄税務署長です。

Q. 登記が必要かどうかを、自分で確かめる方法はありますか?

登記事項証明書を1通取り寄せて、変更したい項目がそこに印刷されているかを見るのが最も確実です。印刷されていれば登記が必要、されていなければ不要と判断できます。手数料は窓口で600円、オンライン請求で郵送受け取りなら520円、オンライン請求で窓口受け取りなら490円です。

Q. 定款変更に公証人の認証は必要ですか?

会社を設立するときに作る最初の定款は公証人の認証を受けなければ効力を生じませんが(会社法第30条第1項)、会社が成立したあとの定款変更に認証は不要です。株主総会の特別決議で効力が生じます。認証手数料を見込んでおく必要はありません。

Q. 登記の期限を過ぎてしまった場合、どうなりますか?

登記事項に変更が生じたときは2週間以内に変更登記をする義務があり(会社法第915条第1項)、怠ると代表者等が裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります(同第976条第1号)。期限を過ぎても登記自体はできるので、気づいた時点ですぐ申請してください。放置を続けると、休眠会社の整理作業でみなし解散の登記がされることもあります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年2月16日最終更新:2026年9月19日
前田 壮一

この記事を書いた人

前田 壮一@SOHO編集部

元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身

大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。

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