役員変更の登記を自分でやる手順|司法書士に頼まない場合


この記事のポイント
- ✓役員変更登記を自分で申請する手順を
- ✓定款の確認から書類作成
- ✓提出方法までひとつずつ整理します
役員変更の登記は、司法書士に頼まなければできない手続きではありません。法務局が申請書の様式も記載例も無料で配っているのは、自分で申請する人がいることを前提にしているからです。とはいえ、何から手を付ければよいかが分からないまま記載例のPDFを開くと、注記の多さに圧倒されます。この記事では、役員変更登記を自分でやる場合の手順を、定款を開くところから提出して完了するまで、順番どおりに並べます。あわせて、どういう場合なら自分でやってよくて、どういう場合は頼んだほうがよいのかの線引きも示します。
自分でやれるかどうかは、3つの質問で決まる
手順に入る前に、向き不向きを判定します。次の3つに答えてみてください。
1つめ。自分の会社に取締役会はあるか。2つめ。代表取締役をどう選ぶと定款に書いてあるか。3つめ。今回の変更は、重任だけか、単純な1人の入れ替わりか、それとももっと複雑か。
この3つに即答できるなら、自分で申請して問題ありません。答えがすべて定款と登記事項証明書に書いてあるので、書類を開けば分かる話です。逆に、種類株式を発行している、役員変更と同時に取締役会を廃止する、解任でもめている、株主が多くて議決権の計算が面倒、といった事情があるなら、司法書士に頼んだほうが結果的に速くて安くなります。
判断の軸は難易度ではなく、やり直しのコストです。役員変更の登記は期限が2週間と短く、補正で往復すると日数が積み上がります。1回で通せそうな場面かどうかで決めてください。
手順1 定款を開いて、3つの数字を確認する
いちばん最初にやるのは、書類を集めることではありません。定款を開くことです。
確認するのは、取締役の任期、代表取締役の選定方法、監査役を置いているかどうかの3点です。
取締役の任期は、会社法332条1項では選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで、と定められています。ただし株式の譲渡に会社の承認が要る非公開会社なら、定款で最長10年まで伸ばせます。ひとりで作った会社の多くは10年にしています。自分の会社が何年なのかで、今回が重任のタイミングなのかどうかが決まります。
代表取締役の選定方法は、取締役会で選ぶ、株主総会で選ぶ、取締役の互選で選ぶ、取締役全員が各自会社を代表する、のいずれかです。ここで使う申請書の様式と添付書類が変わります。取締役の互選で選ぶ会社だけ、添付書類に互選書と定款が加わります。
監査役を置いている会社は、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めがあるかどうかも見てください。この定めがある会社は、平成27年5月1日以降に初めて監査役の登記をするとき、その旨も登記する必要があります。
定款が見つからない場合は、会社を作ったときの書類一式か、公証役場で認証を受けた原始定款の控えを探します。どうしても見つからないなら、公証役場に保存されている謄本を請求する方法があります。
手順2 登記事項証明書を取って、いまの登記内容を確かめる
次に、現在の登記簿の内容を確認します。登記事項証明書は最寄りの法務局の窓口で取れて、手数料は1通600円です。パソコンから請求して窓口で受け取るなら490円、郵送してもらうなら520円になります。
ここで見るのは3つです。会社法人等番号、商号と本店の正確な表記、そして役員の就任年月日です。
会社法人等番号は申請書に書く12桁の番号です。商号と本店は、申請書に登記簿どおりの表記で書く必要があります。名刺や封筒の表記とは違うことがあるので、必ず証明書の表記を写してください。
役員の就任年月日がいちばん重要です。ここから任期を数えます。定款で任期を10年にしている会社なら、就任年月日から10年目に当たる事業年度の定時株主総会が期限です。数え方は暦の年数ではなく、事業年度と定時株主総会が基準になります。3月決算の会社が2018年6月の総会で選んだなら、2028年3月期の事業年度に関する定時株主総会、つまり2028年6月ごろが満了です。
登記事項証明書を見て、前回の登記から何年も経っているようなら、重任の登記を飛ばしている可能性があります。株式会社は最後の登記から12年が経つと休眠会社として整理の対象になるので、放置していた場合は気づいた時点ですぐ動いてください。
手順3 就任する人の証明書を先に取りに行く
書類作成より先に動くべきなのが、市区町村の窓口です。ここがいちばん時間を食います。
新しく役員になる人がいる場合、印鑑証明書か本人確認証明書が必要になります。どちらが必要かは立場で決まります。法務局の記載例によれば、取締役会を置いていない会社で新しく就任する取締役、および取締役会設置会社で新しく就任する代表取締役については、就任承諾書に市区町村に登録した実印を押し、その印鑑証明書を添付します。
それ以外の人、たとえば取締役会がある会社で平取締役になる人には、本人確認証明書を使います。法務省が挙げているのは、住民票記載事項証明書、戸籍の附票、住基カードのコピー、運転免許証のコピー、マイナンバーカードの表面のコピーです。
○運転免許証等のコピー(裏面もコピーし、本人が「原本と相違がない。」と記載して、記名する必要があります。) ○マイナンバーカードの表面のコピー(表面(氏名、住所、生年月日及び性別が記載されている面)のみをコピーし、本人が「原本と相違がない。」と記載して,記名する必要があります。) 出典: moj.go.jp
運転免許証を使うなら裏面もコピーし、本人が「原本と相違がない」と書いて記名します。表面だけでは受け付けられません。マイナンバーカードは逆に表面だけをコピーし、個人番号が印字された裏面はコピーしません。住民票を使う場合も、個人番号が記載されていないものを取ります。通知カードは使えません。
重任だけなら、この手順はまるごと省けます。再任の人については本人確認証明書も印鑑証明書も要らないからです。総会の前に市役所へ行く必要がない、というだけで負担はかなり軽くなります。
手順4 株主総会を開いて、議事録を作る
役員は株主総会の決議で選びます。会社法329条1項がそう定めています。定時株主総会で選ぶなら定時株主総会議事録、任期の途中で臨時に開くなら臨時株主総会議事録を作ります。
議事録に書くのは、開催した日時と場所、出席した株主の議決権の数、議長と議事録を作成した人の氏名、議案の内容と決議の結果です。誰を何に選んだのかを氏名まで書いてください。「取締役1名を選任する件」とだけ書いて名前が抜けていると、登記すべき事項と突き合わせられません。
就任承諾書を別に作らず議事録で兼ねたい場合は、被選任者がその場で就任を承諾した旨に加えて、その人の住所も議事録に書いておく必要があります。住所の記載がないときは、結局は本人が住所を書いて記名押印した就任承諾書を別に用意することになります。
記名押印は、定款で定めたとおりに行います。議長と出席取締役が押す、と書いてある会社が多いはずです。代表取締役を取締役会で選ぶ会社なら、株主総会議事録に加えて取締役会議事録も作ります。
株主が全員書面で賛成して総会を開かない、いわゆる決議の省略を使う場合でも、株主リストは必要です。集まっていないから総会ではない、と考えて外すと補正になります。
手順5 株主リストを作る
株主リストは、2016年10月1日以降に申請する登記から必要になった書類です。根拠は商業登記規則61条2項と3項で、役員の選任は株主総会の決議事項なのでほぼ必ず付きます。
書く範囲は、議決権数の上位10名の株主か、議決権割合が3分の2に達するまでの株主か、人数の少ないほうです。書く項目は、株主の氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数の割合の5点で、これを代表者が証明します。
3分の2に達するまでを数えるときは、議決権割合の多いほうから順に足していきます。自己株式のように議決権を行使できない株式を持つ株主は除きますが、総会を欠席した株主や議決権を行使しなかった株主は含めます。ここを「出席者だけ」と誤解すると数が合わなくなります。
株主が代表者1人だけの会社なら、その1人で議決権割合が100パーセントになるので、書くのは1行で済みます。行数は少なくても添付は省けません。
法務省は株主リストの書式例と記載例をExcelとPDFで無料配布しています。「株主リスト」が登記の添付書面となりましたのページから落とせるので、自分で表を作る必要はありません。
手順6 申請書を作る
ここまで来れば、あとは埋めるだけです。法務局の申請書様式のページから、自分の場面に当たる様式のWordと記載例のPDFを両方ダウンロードします。株式会社の役員変更だけで、住所移転、氏名変更、取締役会設置会社での全員重任、取締役会のない会社での全員重任、互選で代表取締役を選ぶ会社での全員重任、辞任等により新たな取締役が就任した場合、同じく監査役が就任した場合、と様式が分かれています。いずれも2026年8月14日付けで更新されたものが最新です。
つまずくのは「登記すべき事項」の欄だけです。書式は決まっていて、「役員に関する事項」、「資格」取締役、「氏名」氏名、「原因年月日」年月日と原因、という4行で1人分を書きます。代表取締役は氏名の前に住所も入れます。原因は辞任、就任、重任、退任、死亡、住所移転などから選びます。記載例の見た目をそのまま再現するのが確実です。
添付書類の欄には、実際に付けたものだけを本数まで書きます。代理人に頼まないなら委任状の行は消してください。書いてあるのに現物がない、が補正のいちばん多い原因です。
申請人の欄には、本店、商号、代表取締役の住所と氏名を書き、法務局に提出した印鑑を押します。認印ではありません。連絡先の電話番号も忘れずに書いてください。補正の連絡が電話で来るので、書き漏らすと書面のやり取りになって日数が延びます。
手順7 収入印紙を貼って、綴じる
登録免許税は、役員に関する事項の変更の登記であれば申請1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円です。登録免許税法の別表第一にそう定められています。中小企業のほとんどは1万円です。
収入印紙は申請書に直接貼らず、白紙の収入印紙貼付台紙に貼ります。記載例には「割印をしないで貼ってください」という注記があり、さらに消印作業の都合から右側に寄せて貼るよう求められています。割印を押すと差し替えになるので注意してください。
綴じ方は、申請書、収入印紙貼付台紙、添付書類の順に重ねて左側をホチキス留めするのが一般的です。申請書が複数枚になる場合や申請書と台紙の間には、綴じ目にまたがる契印を押します。押すのは申請書に押したのと同じ印鑑です。
定款のように会社に1通しかない書類を返してほしい場合は、原本還付の手続きをします。コピーに「原本と相違ありません」と書いて記名押印し、原本と一緒に出せば、審査後に原本が返ってきます。
手順8 出し方を選ぶ
提出方法は4通りあります。自分でやる人にとって、ここが最後の分かれ道です。
窓口に持参する方法がもっとも単純です。本店の所在地を管轄する法務局に、申請書と添付書類を一式まとめて出します。受付時間は平日の8時30分から17時15分までです。
郵送も使えます。ただし申請日は書類が登記所に到着した日になるので、期限ぎりぎりの投函は危険です。返信用封筒を同封しておけば、完了後の書類を送り返してもらえます。
完全なオンライン申請もできます。登記・供託オンライン申請システムを使い、申請用総合ソフトで申請書情報を作って送信します。ただし申請書情報にも添付書面情報にも電子署名が必要で、そのための電子証明書を先に取得しなければなりません。添付ファイルの合計容量は1申請あたり15MBまでです。年に1度あるかないかの手続きのために電子証明書を取るのは、正直なところ割に合わないことが多いと考えられます。
そこで現実的なのが4つめ、QRコード付き書面申請です。申請書の作成をパソコンで行い、印刷して紙で出す方式で、電子証明書は要りません。手書きより記載ミスが減り、受付番号や補正のお知らせもオンラインで受け取れます。
法務局は、この方式についても操作手引書を用意しています。操作手引書のダウンロードのページには、株式会社役員変更編として「全員が重任する場合」と「取締役の辞任及び就任の場合」の2種類が並んでいて、いずれも令和8年8月3日更新です。役員変更専用の手引書があるということは、それだけ自分で申請する人が多い手続きだということでもあります。
注意点が1つ。登記事項をオンラインで送っただけでは受付になりません。印刷した申請書を添付書類と一緒に登記所へ提出して、初めて受付されます。
手順9 完了を待ち、その後の手続きへつなぐ
提出したら待ちます。ここで多くの人が誤算するのが、待ち時間の長さです。
各法務局は登記完了予定日を公開しています。2026年9月18日時点の表では、東京法務局の本局は9月18日に申請した商業・法人登記の完了予定日が10月27日、39日後でした。同じ日の大阪法務局の本局法人登記部門は10月2日、14日後です。同じ手続きで2.8倍の差があります。東京の本局が23区すべての商業登記を引き受けているためだと考えられます。
銀行の名義変更や許認可の変更届など、登記完了を待たないと動けない手続きがあるなら、申請前に管轄の法務局のサイトで予定日を見ておいてください。東京法務局は登記完了予定日のページに申請日ごとの予定を掲示しています。
登記が終わっても、法務局から完了の証明書が自動で届くわけではありません。新しい内容を示す登記事項証明書は自分で取ります。代表取締役が変わった場合は、銀行口座の代表者変更、許認可を出している官庁への変更届、社会保険の事業所に関する届け出が残っています。登記だけ済ませてこれらを放置している会社は実際に多く、後から指摘されて慌てることになります。
自分でやる人が引っかかる5つの落とし穴
初めて自分で申請した人が補正の連絡を受ける理由は、だいたい同じところに集まります。
1つめは日付の食い違いです。株主総会議事録の日付、就任承諾書の日付、申請書の原因年月日。この3つが揃っていないと通りません。とくに就任承諾書の日付が総会より前になっているのは致命的で、選ばれる前に引き受けたことになってしまいます。書類を後からまとめて作るとこうなりやすいので、3枚を並べて日付だけ先に確認してください。
2つめは印鑑の取り違えです。申請書に押すのは法務局に提出した印鑑で、認印ではありません。一方、法務局に印鑑を届け出ている取締役が辞任する場合は、辞任届に届出印か市区町村に登録した実印を押します。実印を押したなら印鑑証明書も添え、届出印を押したなら印鑑証明書は不要です。この使い分けを知らずに認印を押して差し替えになる例がよくあります。
3つめは員数の不足です。取締役会設置会社では取締役が3人以上、監査役設置会社では監査役が1人以上必要です。3人いる取締役の1人が辞任して後任を決めていないと、法律で定めた人数を下回ります。この場合、辞任した人は後任が就任するまで役員としての権利義務を持ち続けるとされ、辞任の登記だけを先に入れられません。定款で独自の人数を定めている会社もあるので、減らす方向の変更をするときは定款の人数を先に確認してください。
4つめは株主リストの数え間違いです。議決権割合が3分の2に達するまでを数えるとき、欠席した株主を除いてしまう。上位10名と3分の2のどちらが少ないかを比べずに片方だけで作る。この2つが多いパターンです。株主が少ない会社なら全員書いてしまっても問題は起きにくいので、迷ったら多めに書くほうが安全です。
5つめは期限そのものです。変更が生じた日から2週間という期限は、土日祝日でも止まりません。市区町村の窓口が閉まる日を差し引くと、実働は10日ほどしかありません。総会の日程が決まった段階で、証明書の取得だけでも先に済ませておくのが現実的です。
合同会社なら、手順はもっと短い
会社の形が合同会社なら、ここまでの手順の多くが不要になります。
合同会社の役員にあたるのは業務執行社員と代表社員です。法務局が用意している様式も「合同会社変更登記申請書(業務執行社員の退社及び加入)」という名前で、株式会社のような重任の様式がありません。業務執行社員に任期という考え方がないからです。つまり、誰も出入りしなければ、何年経っても登記は発生しません。
株主総会がないので、株主リストも要りません。かわりに、社員の加入や退社に伴って定款を変更する必要があるかどうかで、総社員の同意書などが必要になります。代表社員を新しく決めるなら、その選定に関する書面と就任承諾書、印鑑証明書が加わります。
登録免許税は株式会社と同じ枠です。役員の変更として括られる区分には「社員」も含まれているため、資本金1億円以下であれば1万円です。手順が短い分、自分で申請するハードルはさらに低いと言えます。
何年も放置していた場合の立て直し方
自分でやろうと調べ始めたきっかけが、法務局から届いた通知書だった、という人もいます。その場合は手順が少し変わります。
会社法472条は、株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過した会社を休眠会社と呼び、法務大臣の官報公告から2か月以内に「まだ事業を廃止していない」旨の届出をしないときは、その期間の満了時に解散したものとみなす、と定めています。これは毎年秋に実際に行われている作業です。
直近で公表されている令和7年度の整理作業では、2025年10月10日に官報公告が行われ、同日付けで管轄の法務局から通知書が発送されました。期限は同年12月10日で、届出も登記申請もしなかった会社は12月11日付けで解散したものとみなされ、登記官が職権で解散の登記をしています。
「まだ事業を廃止していない」旨の届出をした場合であっても、必要な登記(役員変更等)の申請を行わない限り、翌年度も「休眠会社・休眠一般法人の整理作業」の対象となります。 出典: moj.go.jp
届出だけではその年をしのぐだけで、翌年もまた対象になります。根本的に外れるには、役員変更の登記を実際に入れる必要があります。つまり、通知書が届いた会社がやるべきことは、期限内の届出と、並行しての登記申請の2つです。
なお法務省は、届出や登記申請を行った場合でも、本来申請すべき時期に登記を怠っていた事実は解消されず、裁判所から100万円以下の過料に処せられると明記しています。届出でみなし解散は避けられても、過料からは逃げられません。それでも、放置し続けて解散扱いになるより、いま登記を入れるほうがはるかに傷は浅く済みます。
何年分も飛ばしている場合、登記すべき事項には直近の就任の事実だけを書けばよいのか、間の重任もすべて書くのかで迷います。ここは会社ごとの事情で結論が変わるので、管轄の法務局に事前相談してから作るのが確実です。登記所は書き方の相談に応じてくれます。
代表取締役が変わる回だけ増える手続き
重任だけの回と、代表取締役が交代する回では、必要な書類が1枚変わります。それが印鑑届書です。登記所に提出する会社の印鑑は、会社に対してではなく「印鑑を提出した人」に紐づいているため、代表者が入れ替わったら、たとえ会社の実印そのものを変えなくても届け出直すことになります。
法務局の記載例には、そのまま使える注記が並んでいます。まず印鑑の大きさは、辺の長さが1センチを超え、3センチ以内の正方形に収まるものでなければなりません。次に、届出人の欄には本人の住所と氏名を書き、市区町村に登録した実印を押します。会社の実印ではありません。そして添付するのは、市区町村長が作成した3か月以内の印鑑証明書です。
ここで費用が1通分減る仕組みがあります。届書には「市区町村長作成の印鑑証明書は、登記申請書に添付のものを援用する」というチェック欄が用意されていて、そこにレ点を入れれば、就任承諾書用に取った印鑑証明書を流用できます。知らずに2通取ってしまう人が多い部分です。
印鑑カードも引き継げます。届書には「印鑑カードを引き継ぐ」という欄があり、カード番号と前任者の氏名を書けば、同じカードを使い続けられます。カードを引き継がない場合は、新しいカードの交付を受けることになります。
もう1つ、記載例には見落としやすい注意が書かれています。届出人の住所または氏名が登記簿上の代表者の住所や氏名と一致しない場合は、代表者の住所または氏名の変更の登記が必要になります。引っ越したあと登記を放置していた代表者が新しく印鑑を届け出ようとすると、ここで止まります。住所変更の登記も役員に関する事項の変更なので、同じ申請にまとめれば税額は1件分で済みます。
場面別に、合計いくらかかるか
自分で申請する場合の総額を、3つの場面に分けて並べます。金額は登録免許税と証明書の手数料で、郵送代と印刷代は含みません。
全員が重任するだけで、代表取締役も続投する場合。登録免許税1万円に、事前確認のための登記事項証明書600円と、完了後に内容を確かめる登記事項証明書600円を足して、1万1,200円ほどです。再任の人には本人確認証明書も印鑑証明書も要らないので、市区町村の窓口に行く必要がありません。
取締役が1人入れ替わり、代表取締役は続投する場合。ここに新しく就任する人の本人確認証明書が加わります。住民票記載事項証明書を取るなら1通300円前後(自治体によって異なります)で、合計1万1,500円前後です。運転免許証やマイナンバーカードのコピーで足りる場合は、この300円もかかりません。
代表取締役が交代する場合。新しい代表者の個人の印鑑証明書が要りますが、上で触れた援用を使えば1通で足ります。合計は1万1,500円前後から、印鑑カードを新しく作るかどうかで多少動きます。
このあと、銀行や許認可の窓口に会社の印鑑証明書を出すよう求められることがあります。法人の印鑑証明書は書面請求で1通500円、パソコンから請求して郵送してもらうなら450円、窓口で受け取るなら420円です。
どの場面でも、実費の合計は1万1千円台から1万2千円台に収まります。総額を大きく動かすのは司法書士への報酬の有無だけで、書類の枚数や役員の人数ではありません。
満了年を年間予定に書き込む
自分で申請できるようになったら、次にやるべきは仕組み化です。3月決算で取締役の任期を10年にしている会社の1年を並べると、こうなります。
・5月 決算を確定させる ・6月 定時株主総会を開く。任期が満了する年は、ここで役員を選び直す ・6月中 総会の日から2週間以内に登記を申請する ・7月 完了後の登記事項証明書を取り、銀行と許認可の窓口に届ける ・満了年でない年は、役員については何もしない
問題は、この「満了年」が10年に1回しか来ないことです。人も会社も、10年前に決めた予定を覚えていられません。定款のコピーの表紙に満了年を書いておく、会計ソフトの年次の作業一覧に入れておく、カレンダーに毎年繰り返す確認予定を入れておく。方法は何でもよいので、記憶ではないところに置いてください。任期を10年にする判断と、満了年をどこに書くかを決める作業は、必ずセットにするのが安全です。
自分でやる場合と頼む場合の、本当の差
費用だけを並べれば、自分でやるほうが明らかに安く済みます。実費は登録免許税の1万円と、証明書の取得費、郵送費だけです。司法書士に頼めばここに報酬が乗ります。
ただし差は金額だけではありません。自分でやる場合、定款を読み込み、任期を数え、様式を選び、書類を揃え、印紙を貼り、綴じて出す。この一連に半日から1日はかかります。初めてなら、記載例を読む時間も含めてもっとかかるでしょう。
そのうえで、間違えたときの損失があります。補正になれば往復の日数が加わり、期限を過ぎれば会社法976条により代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性が残ります。過料は登記が遅れた事実そのものに対するものなので、後から登記しても消えません。
線引きはこうなります。重任だけ、あるいは1人の単純な入れ替わりで、定款の内容もはっきりしている。こういう場面は自分でやって構いません。一方で、機関設計を同時に変える、種類株式がある、株主が多い、解任でもめている、といった事情があるなら、最初から頼んだほうが安全です。
書類仕事を外に出すという、3つめの選択肢
自分でやるか司法書士に頼むかの二択に見えますが、実務ではもう1つの道があります。判断が必要な部分だけ自分で決めて、手を動かす部分を外に出す方法です。
運営者として20年この市場を見てきた立場から言えば、ひとり会社や少人数の会社がいちばん消耗しているのは、判断ではなく作業のほうです。どの様式を使うかを決めるのは経営者の仕事でも、議事録を体裁よく整える、株主リストの表を作る、申請書に転記する、といった作業は書式を知っている人なら短時間で片づきます。
在宅で働く人を探せるマッチングの場では、こうした書類仕事の依頼が日常的に動いています。近い職種の報酬相場は著述家,記者,編集者の年収・単価相場で確認できます。受け手側の視点でまとまっていますが、頼む側が予算を立てるときの目安としても使えます。書式を正確に扱える人かどうかを見る物差しとしては、ビジネス文書検定のような資格ガイドが参考になります。
頼むときに効いてくるのが手数料です。何割も抜かれる場より、手数料0%で直接やり取りできる場のほうが、同じ予算でより多く頼めます。受け手も手取りが厚くなるので、次も引き受けてもらいやすい。長く続いている依頼関係を見ていると、単価を削った側ではなく、相手が動きやすい形を整えた側が結局得をしています。どこまで外に出せるかを切り分ける観点では、業務の分解を扱ったAIコンサル・業務活用支援のお仕事も材料になります。
そして、誰が下書きを作るにしても、最後に照らし合わせる相手は法務局の記載例です。商業・法人登記の申請書様式のページに場面別のPDFとWordが並んでいます。ネット上の解説を何本も読むより、自分の場面に当たる記載例を1枚印刷して手元に置くほうが、速くて確実です。
よくある質問
Q. 役員変更登記を自分でやると、費用はいくらで済みますか?
実費だけで済みます。登録免許税が資本金1億円以下の会社で1万円、これに就任する人の印鑑証明書や住民票の取得費、郵送費や交通費が加わります。司法書士に頼む場合の報酬が丸ごと不要になります。ただし書類作成に半日から1日かかるので、その時間を費用と考えて判断してください。
Q. 電子証明書を持っていなくてもオンラインの仕組みは使えますか?
使えます。QRコード付き書面申請なら、申請書の作成をパソコンで行って印刷し、紙で提出します。電子証明書も電子署名も不要で、受付番号や補正のお知らせはオンラインで受け取れます。法務局は株式会社の役員変更専用の操作手引書を2種類公開しています。
Q. 自分でやらずに司法書士へ頼むべきなのはどんな場合ですか?
役員変更と同時に取締役会を廃止するなど機関設計を変える場合、種類株式を発行している場合、株主が多く議決権の計算が煩雑な場合、解任でもめている場合です。期限が2週間と短いため、補正で往復する日数を考えると、複雑な場面は最初から頼んだほうが確実です。
Q. 手順のなかで、最初にやるべきことは何ですか?
定款を開くことです。取締役の任期、代表取締役の選定方法、監査役の監査の範囲に関する定めの3点を確認すると、使う申請書の様式と必要な添付書類が自動的に決まります。書類集めから始めると、後から様式を取り違えていたと分かって作り直しになります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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