要件定義書がないままWeb制作を発注すると起きること|手戻りを防ぐ最低限の準備 2026


この記事のポイント
- ✓要件定義書なしでWeb制作を発注すると
- ✓見積もりのズレや追加費用
- ✓公開後の手戻りが起きやすくなります
「とりあえず見積もりだけ取ってみよう」。Web制作を発注しようとしたとき、多くの担当者がまずここから動き始めます。ですが、要件定義書を用意しないまま発注に進むと、見積もりの前提がずれたまま契約してしまい、公開直前になって「思っていたものと違う」という手戻りが起きやすくなります。この記事では、要件定義書がないと何が起きるのか、そして発注者が最低限用意すべき準備を、費用相場や進め方とあわせて具体的に解説します。
私自身、フリーランスとして独立した直後にオンライン相談サービスのサイトを外注した経験があります。そのとき、要件定義書どころか「こんな感じで」という口頭の依頼だけで発注してしまい、見積もりを2社から取ったのに比較のしようがありませんでした。片方は5ページ構成、もう片方は10ページ構成を前提に金額を出していたのです。同じ土俵で比較できていなかったことに、契約後になって気づきました。この経験から、要件定義の重要性を痛感しています。
要件定義書とは何か、なぜ発注者にも必要なのか
要件定義書とは、Webサイトに何を実装するか、どんな機能・ページ構成・デザインの方向性を持たせるかを明文化した資料です。制作会社やフリーランスのエンジニア・デザイナーが「何を作るべきか」の指針として使う文書ですが、実はこれを発注者側が理解し、関与することが重要です。
多くの発注者は「要件定義は制作会社が作るもの」と考えがちです。実際、要件定義書自体をドラフトするのは受注側であることが一般的です。しかし、要件定義の元になる情報、つまり「何のためにサイトを作るのか」「誰に何を伝えたいのか」「どんな機能が必要か」を持っているのは発注者自身です。この情報を発注者が整理せずに丸投げすると、受注側は推測で要件を組み立てるしかなく、その推測がズレていた場合に手戻りが発生します。
RFPは依頼側が制作会社選定のために作成し、要件定義書は主に制作会社が実際の制作指針として作成するという違いがあります。RFP(提案依頼書)は最適な提案を受けるために課題や要望をまとめたものであるのに対し、要件定義書は要件確定後に作成され、実際の制作や運用において具体的な「正解」を示すドキュメントとなります。 出典: hnavi.co.jp
つまり、発注者が用意すべきなのは要件定義書そのものではなく、その手前にある「提案依頼書(RFP)」や「発注時の要望整理メモ」です。ここが曖昧なまま発注してしまうと、受注側が作る要件定義書自体の精度も下がります。結果として、公開直前になって「思っていたページ数と違う」「この機能が入っていない」といった認識のズレが表面化するのです。
要件定義書がないまま発注するとどうなるか
要件定義書、あるいはその元になる要望整理がないまま発注すると、具体的に次のような問題が起きます。
見積もりの前提がバラバラになり比較できない
複数の制作会社やフリーランスに相見積もりを取る際、要望が整理されていないと、各社が異なる前提で見積もりを出してきます。あるところは「トップページ+下層5ページ」を想定し、別のところは「トップページ+下層10ページ+問い合わせフォームの自動返信機能」まで含めて見積もる、といった具合です。これでは金額だけを比較しても意味がありません。実際、Web制作の相場は20万円程度のシンプルなコーポレートサイトから、機能を盛り込んだ100万円を超える案件まで幅広く、前提条件次第で数倍の差が出ます。
追加費用が発生しやすくなる
要件が固まっていない状態で制作が進むと、途中で「やっぱりこの機能も欲しい」という追加要望が出やすくなります。制作会社側からすると、当初の見積もりに含まれていない作業のため、当然追加費用を請求することになります。発注者からすると「言った覚えがない」「当然含まれていると思っていた」という認識のズレが、トラブルの火種になります。
公開直前の手戻りで納期が延びる
デザインカンプの段階では気づかず、実装がほぼ終わった段階になって「このページの構成では困る」と気づくケースは少なくありません。要件定義がしっかりしていれば、デザイン着手前の段階で構成の合意ができているため、このような後戻りは起きにくくなります。逆に要件が曖昧なまま進むと、修正のたびに手戻りが発生し、当初の納期が1ヶ月以上延びることも珍しくありません。
契約トラブルに発展するケースもある
最悪の場合、成果物の範囲を巡って発注者と受注者の間で見解の相違が生じ、支払いを巡るトラブルに発展することもあります。契約書に業務範囲が明記されていれば防げたはずのトラブルが、要件が曖昧なまま契約書だけ形式的に交わされたことで起きてしまうのです。
マクロ視点で見るWeb制作発注の市場動向
中小企業庁の調査でも、中小企業のIT投資における課題として「何を発注すればよいか整理できていない」という声が繰り返し指摘されています。Web制作に限らず、システム開発全般で「発注者側の要件整理不足」がプロジェクトの遅延や予算超過の主要因になっていることは、業界内でも広く認識されている課題です。
近年はノーコードツールやテンプレート型のWebサイト作成サービスが普及し、以前より安価にサイトを持てるようになりました。一方で、機能面での要望が複雑化しており、単なる「名刺代わりのサイト」ではなく、予約機能・決済機能・会員機能などを求める発注が増えています。機能が複雑になるほど、要件定義の重要性は増します。シンプルな静的サイトであれば口頭の要望だけでもなんとかなることがありますが、機能を伴うサイトになると、要件定義なしでの発注はほぼ確実にトラブルの種になります。
また、フリーランスへの直接発注が増えている背景もあります。制作会社(代理店)を通すと、ディレクション費用や仲介手数料が上乗せされ、実際の制作費に対して20%から30%程度の中間マージンが発生することがあります。フリーランスへ直接依頼すれば、この中間マージンがかからず、同じ予算でより多くの機能や工数を依頼できる可能性があります。ただし、フリーランスへの直接発注では、代理店が担っていた「要件の整理」「進行管理」の役割を発注者自身が一部担う必要が出てきます。だからこそ、要件定義の準備がより重要になるのです。
要件定義書に記載すべき最低限の項目
発注者が用意すべき要件定義(あるいはその元になる要望整理)には、最低限次の項目を含めるべきです。
サイトの目的とゴール
「何のためにサイトを作るのか」を明確にします。問い合わせ獲得のためなのか、採用のためなのか、ECとして売上を作るためなのか。目的によって必要な機能もデザインの方向性も変わってきます。
ターゲットユーザー像
誰に見てほしいサイトなのかを整理します。年齢層、業種、検索してたどり着くのか、SNSから流入するのかなど、想定する導線によってサイト設計は変わります。
ページ構成とコンテンツ
トップページ、会社概要、サービス紹介、実績、問い合わせフォームなど、必要なページを洗い出します。各ページにどんな情報を載せるかも簡単にメモしておくと、見積もりの精度が上がります。
必要な機能
問い合わせフォーム、予約システム、決済機能、会員登録機能、ブログ機能など、静的なページ以外に必要な機能があれば明記します。機能の有無で見積もり金額は大きく変わるため、ここが曖昧だと相見積もりの比較ができません。
デザインの方向性
参考にしたい既存サイトのURLを2〜3件挙げるだけでも、デザインの方向性を伝える助けになります。色味の希望、既存のロゴやブランドカラーがあれば共有します。
予算感と納期
正確な予算を決めきれていなくても、おおよその上限額と、いつまでに公開したいかの希望納期は伝えるべきです。予算のレンジが分かれば、受注側も現実的な提案をしやすくなります。
運用体制
公開後、誰がコンテンツを更新するのか、更新頻度はどの程度かも伝えておくと、CMS(コンテンツ管理システム)の必要性など、実装方針の判断材料になります。
サイトリニューアルで実際に使われている要件定義書をベースにテンプレートを作成しました。また、サイトマップやWBSなども付属でついているため、サイトリニューアルの進捗管理をこれ一つで実施できます。 出典: be-marke.jp
このように、要件定義には進捗管理の役割も含まれます。単に「何を作るか」だけでなく、「いつまでに何を確定させるか」というスケジュール面の整理も、発注者が意識しておくべきポイントです。
要件定義から発注までの流れ
実際に発注へ進む際は、次のようなステップで進めると手戻りが起きにくくなります。
ステップ1:社内で目的とゴールを整理する
まず社内(あるいは自分自身)で、サイトを作る目的を言語化します。この段階では制作会社を巻き込まず、自分たちの頭の中を整理する作業です。
ステップ2:ページ構成と必要機能を洗い出す
目的が固まったら、それを実現するために必要なページと機能を洗い出します。完璧である必要はなく、思いつく限りリストアップする程度で構いません。
ステップ3:予算感と希望納期を決める
社内での承認が必要な場合は、この段階で大まかな予算枠を確保しておきます。
ステップ4:複数の発注先に要望を伝えて見積もりを取る
ステップ1〜3で整理した内容を、複数の制作会社やフリーランスに同じ条件で伝え、見積もりを依頼します。同じ前提条件で比較することで、価格だけでなく提案内容の質も比較できます。
ステップ5:要件定義書の内容を受注側とすり合わせる
発注先が決まったら、受注側が要件定義書を作成するプロセスに入ります。ここで発注者側が「言った通りになっているか」を確認する作業が発生します。曖昧な点があれば、この段階で質問し、認識をすり合わせておくことが後の手戻り防止につながります。
ステップ6:要件定義書に合意してから制作開始
要件定義書の内容に双方が合意した時点で、初めてデザイン・実装のフェーズに進みます。この合意なしに制作を進めてしまうと、後になって「話が違う」というトラブルの原因になります。
Web制作を発注する際に注意すべきポイント
要件定義を進める中で、発注者が特に注意すべき点をまとめます。
曖昧な表現を避ける
「おしゃれな感じ」「今どきのデザイン」といった曖昧な表現だけでは、受注側は具体的なイメージを掴めません。参考サイトのURLを示す、色味の好みを伝えるなど、できるだけ具体的に伝える工夫が必要です。
追加費用が発生する条件を事前に確認する
見積もりの範囲外の作業が発生した場合、どのような条件で追加費用が発生するのかを、契約前に確認しておきます。「1回までの修正は無料、2回目以降は有料」といったルールが設定されていることが多いため、事前に把握しておくと安心です。
著作権・データの帰属を確認する
完成したサイトのデザインデータやソースコードの著作権が、発注者に帰属するのか、受注者に残るのかを契約書で確認します。将来的に別の業者へ運用を引き継ぐ可能性がある場合、この点は特に重要です。
業務委託契約書を必ず交わす
口約束だけで進めず、業務範囲・納期・金額・修正回数・著作権の帰属などを明記した契約書を交わすことをお勧めします。個人のフリーランスへ直接発注する場合も、簡易な契約書のひな形を使えば十分対応できます。
コミュニケーション手段と頻度を決めておく
制作期間中、どのくらいの頻度で進捗報告を受けるか、質問があった場合の連絡手段(チャットツール、メールなど)を事前に決めておくと、進行中のすれ違いを防げます。
よくある失敗パターンと対策
要件定義が不十分なまま発注して起きる失敗には、いくつかの典型パターンがあります。
失敗パターン1:ページ数の認識違い
「5ページくらいで」という曖昧な依頼が、発注者の想定では「トップ+4ページ」、受注者の想定では「トップ+会社概要+サービス+実績+お問い合わせの5ページ構成で各ページに複数セクション」という具合にズレることがあります。対策として、簡単なサイトマップ(ページの一覧図)を作成し、双方で共有しておくことが有効です。
失敗パターン2:レスポンシブ対応の有無
スマートフォン表示への対応(レスポンシブデザイン)が見積もりに含まれているかどうかで、金額が大きく変わることがあります。近年はスマートフォンからのアクセスが大半を占めるため、レスポンシブ対応は基本的に必須と考えるべきですが、見積書に明記されているかは必ず確認しましょう。
失敗パターン3:SEO対策の範囲
「SEO対策込み」という表現だけでは、単に技術的なSEO設定(メタタグの設定など)を指すのか、コンテンツ制作を含むSEO施策全般を指すのか曖昧です。SEOという言葉が指す作業範囲は会社によって異なるため、具体的に何を含むのか確認が必要です。
失敗パターン4:写真・素材の準備担当
サイトに使う写真や文章素材を、発注者が用意するのか、受注者が撮影・執筆するのかも曖昧になりやすいポイントです。素材の準備担当が決まっていないと、制作が途中でストップしてしまうことがあります。
Web制作の費用相場と発注先による違い
Web制作の費用は、依頼先や機能によって大きく変わります。参考として、一般的な相場感を紹介します。
| サイトの種類 | 費用相場の目安 |
|---|---|
| 名刺代わりの簡易サイト(1〜3ページ) | 5万円〜20万円 |
| コーポレートサイト(5〜10ページ程度) | 20万円〜80万円 |
| 予約・会員機能付きサイト | 50万円〜150万円以上 |
| ECサイト(決済機能込み) | 80万円〜300万円以上 |
これらはあくまで目安であり、要件が固まっていない段階での見積もりは、この範囲を大きく外れることもあります。逆に言えば、要件定義がしっかりしているほど、この相場感の中で正確な見積もりを取りやすくなります。
制作会社(代理店)に依頼する場合、ディレクション費用や複数人の人件費が上乗せされるため、同じ規模のサイトでもフリーランスへの直接発注より割高になる傾向があります。フリーランスへ直接依頼すれば中間マージンがかからない分、同じ予算でより手厚い提案を受けられる可能性があります。ただし、フリーランス個人に依頼する場合は、要件定義や進行管理を発注者側がより主体的に担う必要があることは念頭に置いておくべきです。
発注先を探す際の内部リンク活用
Web制作を発注する際、実際にどんな職種のフリーランスに依頼すればよいか迷う方も多いでしょう。関連する分野の依頼先を探す参考として、アプリケーション開発のお仕事では、Webサイトやシステム開発を担うエンジニアへの発注に関する情報がまとめられています。予約機能や会員機能など、動的な要素を含むサイトを検討している場合は参考になります。
また、サイト公開後の運用フェーズでAIを活用した業務改善を検討する場合は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事も参考になります。サイト運用と並行して、問い合わせ対応の自動化やデータ分析といった業務効率化を進めたい発注者にとって、関連する依頼先の選択肢を知っておくことは有用です。
Web制作を担当するエンジニアやデザイナーの報酬水準を把握しておきたい場合は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場で市場全体の相場感を確認できます。見積もり金額が市場相場からかけ離れていないかを判断する材料になります。
独自データの考察
発注者から寄せられる相談の傾向を見ていると、Web制作に関するトラブル相談の多くは「発注前の要件整理不足」に起因しています。特に多いのが、口頭やチャットでのやり取りだけで発注を決めてしまい、後になって「言った・言わない」の水掛け論になるケースです。
20年この市場を見てきた立場から言えば、うまくいく発注ほど、発注者自身が「自分は何を実現したいのか」を制作前にきちんと言語化できています。逆に、要件を丸投げして「プロに任せればいい感じにやってくれる」という姿勢で進めると、出来上がったものが期待と違うという結果になりやすい傾向があります。要件定義は受注側の仕事だと思われがちですが、実際には発注者自身が最初の材料を用意しなければ、良い要件定義は生まれません。
また、代理店を介した発注と、フリーランスへの直接発注を比較していると、興味深い構造が見えてきます。代理店経由では中間マージンが発生する分、発注者が払う金額に対して実際の制作者に渡る金額は目減りします。一方、フリーランスへの直接発注では、同じ予算でもより多くの部分が制作者本人の手取りになり、発注者側も浮いた予算を追加機能や修正回数に回せる余地が生まれます。これは双方にとって得な構造であり、手数料0%で直接つながれる環境が広がることは、発注者・受注者の両方にメリットをもたらします。ただし、この構造を活かすには、発注者側が要件定義や進行管理により主体的に関わる姿勢が前提になることも、合わせて理解しておく必要があります。
見積もり比較の相談を受ける中でも、要件を整理してから複数社に声をかけた発注者ほど、契約後の満足度が高い傾向が見られます。逆に、要件が曖昧なまま「とりあえず一番安いところに」と決めてしまうと、後になって機能不足や認識違いが表面化し、結果的に追加費用や時間がかかってしまうケースが多く見られます。要件定義書という言葉に身構える必要はありません。まずは自分の頭の中にある「作りたいもの」を紙に書き出すことから始めれば、それが立派な要件定義の第一歩になります。
よくある質問
Q. 要件定義書は発注者が自分で作らないといけませんか?
要件定義書そのものは受注側が作成することが一般的です。ただし、その元になる目的・ページ構成・必要機能の整理は発注者が用意する必要があります。簡単なメモ程度でも見積もりの精度は大きく上がります。
Q. 要件が固まっていない段階でも見積もりは依頼できますか?
依頼自体は可能ですが、要件が曖昧なほど見積もりの前提が発注先ごとにバラバラになり、比較が難しくなります。おおまかなページ数と必要機能だけでも整理してから依頼することをお勧めします。
Q. 要件定義にかかる期間はどのくらいですか?
サイトの規模によりますが、簡易なコーポレートサイトであれば1〜2週間程度、機能が複雑なサイトでは1ヶ月以上かかることもあります。発注者側の社内調整に時間がかかるケースも多いため、余裕を持ったスケジュールを組むことが大切です。
Q. 要件定義書がないまま契約してしまった場合はどうすればよいですか?
制作着手前であれば、改めて要件を整理し、受注側とすり合わせる時間を設けることをお勧めします。すでに制作が進んでいる場合は、現状の認識をお互いに確認し、追加費用や納期への影響を早めに話し合うことが手戻りの拡大を防ぎます。
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この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
中西 直美@SOHO編集部
産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。
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