第三者割当増資の進め方|外から出資を受けるとき

前田 壮一
前田 壮一
第三者割当増資の進め方|外から出資を受けるとき

この記事のポイント

  • 第三者割当増資手続きを
  • 相手を決めるところから登記が終わるまで8つの段階に分けて整理します
  • 株価の決め方と有利発行

まず、安心してください。第三者割当増資という言葉は難しく聞こえますが、やっていることは単純です。誰に株を持ってもらうかを会社が指名して、その人からお金を入れてもらう。それだけです。

手続きの流れも決まっています。相手と条件を決め、株主総会で決議し、申し込んでもらい、割り当て、払い込んでもらい、登記する。この順番を飛ばさなければ、書類は法務局の記載例で足ります。

ただし、この手続きには1つだけ神経を使うところがあります。株を出すと、既存の株主の持ち分の割合が必ず下がります。会社の支配権が動くということです。ここを軽く見て進めると、あとから争いになります。値段の決め方と、誰に何株渡すかの設計。この2つに時間をかけてください。

この記事では、非上場の中小企業が外部から出資を受ける場面を中心に、手続きを順番どおりに並べます。法務局が公開している申請書の記載例と、国税庁の登録免許税の税額表で確かめた内容だけを載せます。

第三者割当増資とは、相手を指名して株を出すこと

会社が新しく株式を発行して、その株を引き受けてもらう。この手続きを会社法では募集株式の発行と呼びます。誰に引き受けてもらうかで、呼び名が3つに分かれます。

今いる株主に、持っている株数の割合どおりに引き受ける権利を与えるのが株主割当です。広く一般から引受人を募るのが公募です。そして、相手を特定して「この人に、この株数を」と指定するのが第三者割当です。

第三者という言葉が付いていますが、相手が社外の人でなければならないという意味ではありません。今いる株主に対して、持ち分の割合とは違う数を割り当てる場合も第三者割当です。代表者本人が出資する場合も、形としてはこれにあたります。中小企業で行われる増資のほとんどが、この第三者割当です。

会社にとっての意味は2つあります。1つは、返さなくてよいお金が入ることです。借入と違って返済の期限も利息もありません。もう1つは、株主が増えることです。新しい株主は議決権を持ち、会社の意思決定に加わります。

この2つ目が、借入との決定的な違いです。銀行から1,000万円借りても、銀行は会社の議決権を持ちません。1,000万円の出資を受けると、出資した人は持ち株の割合に応じて発言権を持ちます。お金の性質がまったく違うということです。

比較のために、3つのやり方を並べます。

やり方 誰に株を渡すか 持ち分の比率 よく使われる場面
株主割当 今の株主に割合どおり 変わらない 比率を動かしたくない増資
第三者割当 指名した相手 変わる 外部からの調達、役員の出資、資本提携
公募 広く一般から 大きく変わる 上場会社の資金調達

使われる場面は大きく4つある

第三者割当増資が選ばれる理由は、資金を集めるためだけではありません。実務でよく見るのは次の4つです。

1つ目は、事業に使う資金を集める場面です。設備を買う、人を採る、広告を打つ。借入では条件が合わないときや、返済の負担を避けたいときに使われます。創業から間もない会社が投資家から出資を受けるのも、この形です。

2つ目は、自己資本を厚くする場面です。金融機関が融資を判断するとき、総資産に占める自己資本の割合を見ます。ここが薄いと借りにくくなります。増資はこの割合を直接押し上げるので、借入の前に資本を厚くしておくという使い方があります。

3つ目は、事業の引き継ぎです。後継者に株式を渡したいとき、今の株主から買い取ってもらう方法のほかに、会社が新しく株を出して後継者に引き受けてもらう方法があります。後継者側は会社にお金を払うので、会社の資金も増えます。ただし、既存の株主の持ち分は薄まるので、全員の理解が前提になります。

4つ目は、取引先や事業の相手との関係を強くする場面です。互いに株を持ち合う、あるいは一方が他方の株を持つことで、協業の関係を形にします。この延長線上に、会社の買収があります。買う側が過半数を超える株を引き受けると、経営権が移ります。

どの場面でも共通するのは、お金の話と支配権の話が同時に動くという点です。資金だけを見て条件を決めると、あとで議決権の構成が思っていたのと違うことに気づきます。

全体の流れを8つの段階に分けて見る

言葉で説明されるより、順番を並べたほうが分かります。払込期日を11月10日に設定した例で並べます。

段階 やること 例の日付
1 相手と金額、株数、株価を決める 10月上旬
2 定款と登記事項証明書で発行可能株式総数を確認する 10月上旬
3 株主総会で募集事項を決議する 10月20日
4 引き受けてもらう相手に条件を通知する 10月21日
5 申込書を受け取る 10月25日まで
6 割当てを決議し、割り当てる株数を通知する 11月9日まで
7 会社の口座に払い込んでもらう 11月10日
8 法務局に変更の登記を申請する 11月24日まで

段階5と6は、総数引受契約を使うとまとめて省けます。引き受ける人が最初から全員決まっていて、その全員が出す株の全部を引き受ける契約を1本結ぶ形です。中小企業の増資ではこちらを選ぶほうが書類が減ります。

見落としやすいのは段階2です。定款には、発行できる株式の上限を定めた発行可能株式総数という数字が入っています。今の発行済株式の数に、新しく出す株数を足した結果がこの上限を超えると、増資の前に定款を変えて上限を引き上げる必要があります。定款の変更は株主総会の特別決議で、発行可能株式総数は登記事項でもあるので、登記の内容も1つ増えます。これに気づくのが払込みの直前だと、日程が丸ごとずれます。

もうひとつ、段階6と7の間には最低でも1日が要ります。割り当てる株数は払込期日の前日までに相手に通知しなければならないと会社法で決まっているからです。法務局の記載例にも、割当ての決議をした総会の当日を払込期日にすることはできない、という趣旨の注意書きが入っています。

株価をどう決めるか。有利発行という落とし穴

第三者割当増資でいちばん時間をかけるべきなのが、1株をいくらで引き受けてもらうかです。

上場していない会社の株には市場価格がありません。だから値段は当事者が決めることになります。よく使われるのは、会社の純資産を発行済株式数で割る方法、同じような会社の取引事例から推し量る方法、将来の収益の見込みから逆算する方法です。どれを使うかで金額は変わります。

ここで問題になるのが、会社の実態に比べて明らかに安い値段で株を出す場合です。会社法はこれを、引き受ける人にとって特に有利な金額での発行と位置づけ、取締役が株主総会でその値段にする理由を説明しなければならないと定めています。実務では有利発行と呼ばれます。

なぜ問題になるのか。安い値段で新株を出すと、既存の株主が持っている株の1株あたりの価値が下がるからです。出資する側は安く多くの株を手に入れ、既存の株主はその分だけ損をします。会社の中で価値の移転が起きるということです。

この希薄化は、利益の面でも起きます。

例えば、5億円の利益があり、株式総数が5,000株だった場合、1株あたりの利益は10万円となります。しかし、新株5,000株を新たに発行した場合、1株あたりの利益は5万円となるため利益は下がってしまうのです。 出典: biz.moneyforward.com

株数が2倍になれば、同じ利益でも1株に対応する利益は半分になります。値段が妥当であれば、出資された資金が利益を押し上げることで埋め合わされますが、値段が安すぎると埋め合わせが効きません。

株主が代表者1人だけの会社では、この話は実害を生みません。損をするのも得をするのも同じ人だからです。ただし、税務の面では別の論点が出てきます。時価より著しく低い値段で株を引き受けると、その差額が贈与とみなされることがあります。とくに親から子へ株を移す目的で増資を使う場合は、株価の算定を税理士に確認してから進めてください。

株主が複数いる会社では、有利発行にあたるかどうかを慎重に見ます。あたる場合は株主総会の特別決議で理由を説明し、その説明を議事録に残します。法務局の記載例には、説明を記録する議案の文例まで載っています。

募集事項の決議。誰が決めるかは会社の作りで変わる

募集事項として決めるのは5つの項目です。発行する株式の数、1株あたりの払込金額、お金以外の財産を出資してもらう場合はその内容と価額、払込みの期日または期間、そして増える資本金と資本準備金の額。これを株主総会の議事録に並べて書きます。

誰が決めるかは、会社の作りで分かれます。

株式に譲渡制限が付いている会社、つまり株を売るときに会社の承認が要ると定款に書いてある会社では、株主総会の特別決議で決めます。特別決議とは、議決権の過半数を持つ株主が出席して、出席した議決権の3分の2以上の賛成で成立する決議のことです。日本の中小企業のほとんどがこれにあたります。

譲渡制限が付いていない会社、いわゆる公開会社では、取締役会の決議で決められます。ただし2つの例外があります。有利発行にあたる場合は株主総会の特別決議が必要です。そして、払込期日の2週間前までに、株主に対して募集事項を通知するか公告しなければなりません。この通知を飛ばすと、増資そのものの効力が争われます。

株主が代表者1人だけの会社では、株主総会を実際に開かずに書面で済ませる方法もあります。議決権を持つ全員が書面で同意すれば、決議があったものとみなす扱いです。この場合も、同意があったことを示す書面は作ります。

議事録に書き落としやすいのが、増える資本金と資本準備金の額です。払い込まれた額の2分の1を超えない額は、資本金にせず資本準備金にできます。全額を資本金にするなら「増加する資本金の額は払込金額の全額とする」と書きます。ここが空欄だと、登記の段階で法務局から連絡が来ます。

申込みと割当て、または総数引受契約

募集事項が決まったら、引き受けてもらう相手に条件を伝えます。会社の名前、募集事項の内容、払込みを取り扱う金融機関の名前などです。

そのあとの流れは2通りあります。

1つ目は、申込みと割当てを分けて行う型です。引き受ける人が申込書を出し、会社が誰に何株を割り当てるかを決議します。法務局の記載例では、この申込書は募集株式申込証という名前の1枚で、申し込む株数、日付、申込人の住所と氏名を書きます。譲渡制限が付いている株式の場合、割当ての決定は株主総会か取締役会の決議で行います。決めたら、払込期日の前日までに何株割り当てたかを相手に通知します。

2つ目は、総数引受契約を結ぶ型です。出す株の全部を引き受ける人が最初から決まっているとき、会社とその人との間で契約を1本結べば、申込みと割当ての手続きを省けます。譲渡制限が付いている場合は、この契約を株主総会か取締役会で承認します。

どちらを選んだかで、登記のときに付ける書類が変わります。

進め方 登記に付ける書類
申込みと割当てを分ける 募集株式申込証+割当てを決めた議事録または決定書
総数引受契約を使う 総数引受契約書+契約を承認した議事録

相手が1人か2人で、出資する意思が固まっているなら、2つ目を選ぶほうが早く終わります。逆に、複数の候補に声をかけて集まった中から選ぶ場面では、1つ目の形になります。

なお、割当てを決める決議を、募集事項を決めた株主総会と同じ日にまとめることもできます。法務局の記載例には、割り当てるべき相手がすでに決まっている場合には、その相手からの申込みがあることを条件として、同じ株主総会で割当ての事項を決議できる、という注意書きがあります。株主総会を2回開かずに済みます。

払い込みと登記。期限は払込期日から2週間

払い込みは、会社の口座に振り込んでもらいます。設立のときと違って、金融機関に保管証明書を出してもらう必要はありません。代表者が「たしかに払い込まれました」と証明する書面に、通帳の写しを添えれば足ります。

法務局の記載例では、この証明書の本文はごく短いものです。払込みがあった募集株式の数と、払い込まれた金額を書き、日付と会社名、代表取締役の氏名を入れる。それだけです。そのうえで、取引明細書か預金通帳の写しを合わせて綴じ、入金の行にマーカーか下線を引いて、どの入金が該当するかを分かるようにします。口座の名義人が分かる部分も一緒にコピーします。

つまずきやすいのは、引受人以外の名義で振り込まれている場合です。通帳を見ても誰がいくら払ったのかが読み取れません。引受人それぞれの名義で、それぞれの金額を振り込んでもらってください。複数人分を1回にまとめるのも同じ理由で避けます。振込手数料を差し引いた額が着金すると払込金額に届かないので、手数料は振り込む側が負担する形にします。

払込みが終わると、出資した人は株主になります。払込期日を決めた場合はその日、期間を決めた場合は入金した日です。この日から2週間以内に、法務局へ変更の登記を申請します。払込期間を決めた場合は、その期間の末日から2週間です。

登録免許税は、増えた資本金の額に1000分の7を掛けた額です。国税庁の税額表には、下限もあわせて書かれています。

株式会社または合同会社の資本金の増加の登記(一定の登記を除く。) 増加した資本金の額 1,000分の7(3万円に満たないときは、申請件数1件につき3万円) 出典: www.nta.go.jp

増加額がおよそ429万円を超えたところから、0.7%の計算結果が3万円を上回ります。それより小さい増資では、いくら増やしても税額は3万円で変わりません。

申請書に書く原因年月日は、払込期日または払込期間の末日です。株主総会を開いた日ではありません。ここを間違える例が多いので、書き上げたら日付だけ見直してください。申請書の様式と記載例は法務局のサイトから無料で入手できます。

法人名のフリガナの記載についてはこちら「株主リスト」の記載例・申請書様式はこちら 出典: houmukyoku.moj.go.jp

支配権が動く。議決権の割合を先に計算しておく

第三者割当増資で最も大事なのは、実は金額ではなく比率です。増資が終わったあと、誰が何パーセントの議決権を持つことになるのか。これを先に計算してください。

会社法には、重要な決定ごとに必要な賛成の割合が定められています。代表者が単独で意思決定を通せるかどうかは、この割合で決まります。

議決権の割合 できること
3分の2以上 定款の変更、増資、合併などの重い決議を通せる
過半数 取締役の選任や解任、決算の承認などを通せる
3分の1超 重い決議を単独で止められる
10分の1以上 一定の場合に株主総会の招集などを求められる

たとえば、発行済株式が100株で代表者が100株すべてを持っている会社が、50株を新しく出して外部の人に引き受けてもらうとします。増資後の総数は150株で、代表者の持ち分は100株、割合にすると約67%です。3分の2をかろうじて保った形になります。ここで60株出すと代表者は約63%となり、3分の2を割ります。定款の変更も次の増資も、単独では通せなくなります。

譲渡制限が付いていない公開会社には、さらに特別なルールがあります。1人の引受人が議決権の2分の1を超えて持つことになる場合、払込期日の2週間前までにその人の名前や引き受ける議決権の数を株主に通知する必要があります。そして、議決権の10分の1以上を持つ株主が2週間以内に反対を通知したときは、払込期日の前日までに株主総会の決議で承認を受けなければなりません。会社の支配権が静かに移ることを防ぐ仕組みです。

この論点は、上場していない会社でも本質は同じです。

第三者割当増資では、既存株主の株式が残留するため100%の議決権を獲得できません。割当先(引受先)が一定割合の株式を保有することで、株主構成や議決権バランスが変化します。その結果、重要議案の可決要件(普通決議・特別決議)に影響が出たり、特定株主の影響力が強まったりする可能性があります。実施にあたっては、発行目的・割当先との関係・想定される議決権比率を踏まえ、株主への説明やガバナンス面の整理が重要です。 出典: biz.moneyforward.com

よい面を4つ、そうでない面を5つ

判断の材料になるように、両方を並べます。

よい面の1つ目は、返済が要らないことです。借入と違って期限も利息もありません。毎月の資金繰りに与える影響が違います。

2つ目は、自己資本が厚くなることです。総資産に占める自己資本の割合が上がり、金融機関の評価が変わります。増資のあとに融資が通りやすくなる、という順番で使われることもあります。

3つ目は、相手を選べることです。公募と違い、誰に株を持ってもらうかを会社が指定できます。事業で組みたい相手、技術を持っている相手、販路を持っている相手。お金以外のものを一緒に持ち込んでもらえるのが、この方法の強みです。

4つ目は、手続きが公募より軽いことです。上場していない会社が特定の相手から出資を受ける場合、証券会社を挟む必要も、金融商品取引法に基づく届出も通常は要りません。株主総会と登記で完結します。

そうでない面の1つ目は、持ち分の希薄化です。既存の株主の議決権の割合は必ず下がります。

2つ目は、1株あたりの利益が薄まることです。株数が増えるぶん、同じ利益でも1株に対応する利益は小さくなります。

3つ目は、税の区分が変わることです。資本金が1,000万円以上になると消費税の納税義務の扱いが変わり、1億円を超えると中小企業向けの法人税の軽減税率から外れます。増資の額を決める前に、この線を越えるかどうかを確かめてください。越えそうなら、払込額の半分を資本準備金に回して資本金を抑える方法があります。

4つ目は、株主が増えることによる手間です。株主総会の招集、議決権の集計、配当の検討。株主が1人のときには考えなくてよかった作業が発生します。将来、株主が亡くなって相続で株が分散すると、連絡を取ること自体が難しくなる場合もあります。

5つ目は、株価の算定と税務の判断が難しいことです。値段が実態とかけ離れていると、贈与税や法人税の問題が生じることがあります。一般的にはこう扱われるという説明はできますが、金額や事情によって結論が変わるので、実行の前に税務署か税理士に確認してください。

進める前に決めておく5つのこと

最後に、着手の前に決めておくと後戻りしないことを挙げます。

1つ目、増資後の議決権の割合です。金額から株数を決めるのではなく、保ちたい割合から逆算して株数を決める。この順番にすると、あとで後悔しません。

2つ目、資本金にいくら載せるかです。払い込まれた額の全額を資本金にするか、半分を資本準備金に回すか。税の区分と登録免許税の両方に効いてきます。

3つ目、発行可能株式総数の余裕です。定款で定めた上限に収まるかを、最初に確かめます。収まらないなら定款の変更を同じ株主総会で行います。

4つ目、相手との合意の形です。総数引受契約を使うのか、申込みと割当てに分けるのか。前者なら契約書の文案を先に作っておきます。出資のあとに議決権をどう扱うか、役員を送るのか、配当をどうするのかといった取り決めがあるなら、株主間の合意として別に文書にしておくと後の争いを防げます。

5つ目、日程です。割当ての決議から払込期日までに最低1日、払込みから登記まで2週間。決算期をまたぐかどうかも確認してください。事業年度の終了の日の資本金の額で決まる税の扱いがあるためです。

なお、手続きに必要な申請書の様式と記載例は法務局のサイトで無料で公開されており、議事録の文例もそこに含まれています。書類を作るところまでを助けるオンラインのサービスもありますが、法務局への提出と登記後の税務署や自治体への届出は自社でやることになります。どこまで任せるかの線を先に引いておくと、あとで慌てません。

事業の引き継ぎと会社の売買に使うとき、見るところが変わる

第三者割当増資は、資金を集める道具としてだけでなく、会社を誰の手に渡すかを設計する道具としても使われます。この使い方をするときは、見るところが変わります。

事業を子や従業員に引き継ぐ場面から見ます。今の株主から株を買い取ってもらう方法は、後継者に多額の資金が要り、しかも払ったお金は会社ではなく前の株主に渡ります。これに対して、会社が新しく株を出して後継者に引き受けてもらうと、払われたお金は会社に入ります。後継者は株主になり、会社は資金を得る。この二重の効果があるので、引き継ぎの場面で選ばれます。

ただし、既存の株主の持ち分は薄まります。引き継ぐ側の割合を高めるということは、今の株主の割合を下げるということです。株主が創業者1人だけなら話は単純ですが、親族や古参の従業員に株が分散している会社では、全員の理解を得てから進めないと後で揉めます。

株価の決め方も、この場面では特に慎重さが要ります。後継者に安く株を持たせたいという動機が働きやすく、結果として実態とかけ離れた値段になりがちだからです。時価より著しく低い値段で引き受けると、その差額が贈与とみなされて課税される場合があります。一般にはこう扱われるという説明はできますが、金額と事情で結論が変わるので、実行の前に必ず税理士に確認してください。

会社の買収に使う場面も考え方は同じです。買う側が過半数を超える株を引き受ければ、経営権が移ります。既存の株主から株を買い取る方法と違い、払われた資金が会社に入るので、買収のあとに事業へ投じられるという利点があります。一方で、既存の株主は株を手放していないので、会社の外へ現金を持ち出すことはできません。株主に現金を渡したいのか、会社に資金を入れたいのか。この目的の違いで、どちらの方法を選ぶかが決まります。

どの使い方をするにせよ、無料で手に入る資料から始めるのが現実的です。申請書の様式と記載例、議事録の文例、株主リストの様式は、法務省と法務局のサイトで公開されています。定款の見直しが要るかどうかも、手元の定款と登記事項証明書を並べれば判断できます。有料の相談に入るのは、この確認を済ませてからで遅くありません。

20年この市場を見てきた立場からの観察と、独自データが示すもの

在宅と業務委託の案件を長く見てきた運営者の立場から言うと、外部から出資を受けた直後の会社には、ある共通した動き方があります。人を採るより先に、業務委託を増やすのです。人を雇うと固定費になりますが、委託なら量を調整できるからです。

そして半年ほど経つと、はっきり二手に分かれます。委託先の中から「この人に任せると楽だ」と感じた相手に仕事が集まり、関係が続いていく会社。もう一方は、単発の作業を安く広く配り続けて、半年後に同じ人が1人も残っていない会社です。前者の会社は、出資を受けた資金が組織の力に変わっています。後者は、同じ金額を使って何も残っていません。

長く続いている関係を見ていると、共通しているのは金額の高さではありません。やり取りの回数が少なくて済むことと、支払いが確実なことです。仲介の手数料が乗らない直接の取引では、同じ予算で依頼する側はより多く頼めて、受ける側の手取りは厚くなります。手数料0%が効くのは、金額そのものより手取りが厚いという質の部分で、その差が積み上がると相手は他所へ移りません。出資で得た資金の使い道として、この違いは小さくないと考えています。

調達した資金を何に投じるかを考えるとき、職種ごとの単価の相場を知っておくと計画が立てやすくなります。開発を内製するか外に出すかを決めるなら、ソフトウェア作成者の年収・単価相場に報酬の幅がまとまっています。広報やコンテンツに投じるなら、著述家,記者,編集者の年収・単価相場が目安になります。

実際にどんな案件が動いているかは、職種別の案内を見るのが早道です。生成AIを社内の業務に定着させる仕事はAIコンサル・業務活用支援のお仕事に、システムの実装はアプリケーション開発のお仕事に、広告やデータ分析、情報セキュリティまわりはAI・マーケティング・セキュリティのお仕事に、それぞれ仕事の中身が整理されています。

出資を受けると、社外に出す文書の量が一気に増えます。株主への報告、契約書、議事録。文書の型をどこまで押さえている人かを見極める目安として使えるのがビジネス文書検定で、社外文書の作法を測る試験の範囲がまとまっています。情報システムの担当を外から入れるなら、CCNA(シスコ技術者認定)の範囲を知っておくと話が早く進みます。

資金が入って取引の件数が増えると、契約と支払いの管理が追いつかなくなる場面が出てきます。発注書や契約書に何を書くべきかは、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに項目ごとに整理されています。支払いが滞ったときの動き方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】に費用の相場とあわせて書かれており、会計や税務の専門家をどう使うかは会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】の内容が参考になります。

ここに書いた税務や法務の扱いは一般的なものです。株価の算定、贈与とみなされるかどうか、資本金の額が各種の制度にどう響くかは、金額や事情によって結論が変わります。実行の前に、所轄の税務署か顧問の税理士、登記については司法書士に確認してください。

よくある質問

Q. 第三者割当増資に株主総会は必ず必要ですか?

株式に譲渡制限が付いている会社では、募集事項を決めるのに株主総会の特別決議が必要です。譲渡制限が付いていない公開会社では取締役会で決められますが、明らかに安い値段で出す場合は株主総会の特別決議が要ります。株主が代表者1人の会社でも議事録は作ります。

Q. 株価はどうやって決めればよいですか?

上場していない会社の株には市場価格がないため、純資産を株数で割る方法や、将来の収益から逆算する方法などで算定します。実態より著しく安いと有利発行として理由の説明が必要になり、税務上も贈与とみなされる場合があります。金額の決定前に税理士に確認してください。

Q. 割当ての決議をした当日に払い込んでもらえますか?

できません。割り当てる株式数は払込期日の前日までに相手へ通知する必要があるため、決議の当日を払込期日にすることはできません。最低でも1日は空けてください。総数引受契約を使う場合も、契約の承認と払込みの日程には余裕を持たせます。

Q. 登記の費用はいくらかかりますか?

増えた資本金の額の0.7%で、3万円に満たないときは3万円です。増加額がおよそ429万円を超えるまでは、いくら増やしても3万円で変わりません。払い込まれた額の半分を資本準備金に回すと資本金の増加額が減り、登録免許税も下がります。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年8月15日最終更新:2026年9月21日
前田 壮一

この記事を書いた人

前田 壮一@SOHO編集部

元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身

大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。

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