辞任届に押す印鑑はどれか|実印と認印の使い分け

前田 壮一
前田 壮一
辞任届に押す印鑑はどれか|実印と認印の使い分け

この記事のポイント

  • 誰が辞めるかで変わる押印ルールを早見表で整理しました
  • 会社の届出印を押せば印鑑証明書は不要
  • 監査役なら認印で足ります

辞任届を書き終えて、最後に手が止まる。押す印鑑はどれなのか。実印でないとだめなのか。会社の印鑑でいいのか。そもそも押さなくても通るのか。調べるほど説明が分かれていて、どれが自分の場合に当てはまるのか分からなくなります。

まず、安心してください。判断の順番は決まっています。「誰が辞めるのか」と「その人が法務局に印鑑を届け出ているか」。この2つが決まれば、押す印鑑も、印鑑証明書が要るかどうかも自動的に決まります。この記事では、辞任届の印鑑について、役職ごとの早見表から始めて、実印と認印の違い、印鑑証明書が要る場面、電子署名で出す方法までを順番に整理します。専門的な言葉はその場で普通の言葉に置き換えて進めます。

辞任届の押印には、別々の2つの話が混ざっている

印鑑の説明が混乱しやすいのには理由があります。実は、まったく別の2つの話が同じ場所で語られているからです。

1つ目は、登記の手続き上、押印が必要かという話です。これは商業登記規則という法務省令が決めています。会社が法務局に変更の登記を申請するとき、辞任届は添える書類の1つになります。その書類が受け付けられるかどうかという、機械的な基準の話です。

2つ目は、会社との関係で押しておくべきかという話です。こちらは法律の問題ではなく、証拠の問題です。押印があれば本人が作った書面だという印象が残ります。あとで「そんな書面は知らない」と言われたときの備えになります。

この2つは基準が違います。登記の手続き上は押印が要らない場面でも、実務では押しておくのが普通です。逆に、登記の手続き上は特定の印鑑しか認められない場面では、実務の慣習では足りません。

現場でも、この食い違いは繰り返し指摘されています。

今日は役員の辞任登記のルールについてご紹介しました。 今回のように、登記のルールと現場の取り扱いが異なるため、 疑問に感じられることはよくあります。 出典: fukuoka-shihousyoshi.jp

だから、調べるときは「登記を通すために何が必要か」と「会社との間で揉めないために何をしておくか」を分けて考えてください。この記事も、まず前者を確定させてから後者に進みます。

そもそも、この場面で悩むこと自体が普通です。役員の辞任届を書く機会は、多くの人にとって一生に一度か二度です。

取締役や監査役など会社の役員の辞任届を提出する機会は、一般的なビジネスパーソンにとっては頻度も少なく、経験豊富という方はほぼいません。それだけに株式会社の役員(取締役)の辞任のため辞任届を準備する際には「そもそも印鑑の押印が必要なのか」「必要だとしたらどの印鑑が必要なのか?」「実印なのか?認印でもいいのか?」「代表取締役の場合は会社実印は必要なのか?」など疑問に思われる方は多いかもしれません。 出典: corporate.ai-con.lawyer

誰が辞めるかで変わる押印の早見表

まず、登記を通すために何が必要かを確定させます。法務局が公開している申請書の記載例に、判断の基準がはっきり書かれています。

また、登記所に印鑑を届け出ている取締役が辞任する場合には、辞任届に、登記所届出印又は市町村に登録した印鑑を押す必要があります。市町村に登録した印鑑を押した場合には、当該印鑑について市町村長が作成した印鑑証明書を添付する必要があります(登記所届出印を押した場合には、印鑑証明書は不要です。)。 出典: houmukyoku.moj.go.jp

この基準を役職ごとに整理すると、次の表になります。

辞める人 押す印鑑 印鑑証明書
代表取締役(会社の届出印を出している本人) 会社の届出印 不要
代表取締役(個人の実印を押す場合) 市区町村に登録した実印 必要
取締役(法務局に印鑑を届け出ている人) 会社の届出印または個人の実印 実印のときだけ必要
取締役(印鑑を届け出ていない人) 認印で足りる 不要
監査役 認印で足りる 不要
会計参与 認印で足りる 不要

この表の背景にあるのが、商業登記規則の第61条第8項です。登記所に印鑑を出した人が辞任する場合には、辞任を示す書面に押した印鑑について市区町村長が作った証明書を添えなければならない、ただし押した印鑑が登記所に出している印鑑と同じときはその必要がない。そういう趣旨が書かれています。

なぜこんな仕組みになっているのか。代表者のなりすましを防ぐためです。本人の知らないところで偽の辞任届が出され、登記簿から名前が消される。そういう事件を防ぐために、本人しか押せない印鑑が求められます。

逆に言えば、なりすまされても影響が限られる立場では、そこまで求められません。監査役や会計参与、印鑑を届け出ていない取締役が認印で足りるのは、そういう理由です。

表を見るときの注意点を2つ挙げます。

1つ目は、「法務局に印鑑を届け出ている取締役」というのが誰かです。多くの会社では、届け出ているのは代表取締役だけです。ただし、取締役会を置いていない会社で取締役全員が会社を代表する形になっている場合は、複数の取締役が届け出ていることがあります。自分が届け出ているかどうかは、会社の担当者か司法書士に聞けば分かります。

2つ目は、代表取締役の立場だけをやめて取締役として残る場合も、このルールが当てはまることです。代表権を手放す以上、登記簿の代表取締役欄が変わるからです。

会社の届出印とは何か

表に出てくる「会社の届出印」という言葉を、ここで整理しておきます。

会社の届出印は、会社が法務局に登録している印鑑のことです。実務では会社実印、代表者印、丸印などと呼ばれます。直径18ミリ程度の丸い印鑑で、外側に会社名、内側に「代表取締役之印」と彫られているものが典型です。

この印鑑は、会社を作るときに印鑑届書という書類で法務局に登録します。登録は代表者個人に紐づくので、代表者が変わると新しい代表者が改めて届け出ます。使う印鑑そのものは同じでも、届出は出し直しです。

印鑑を登録すると、印鑑カードが発行されます。これは会社の印鑑証明書を取るためのカードです。会社の印鑑証明書は、契約や融資の場面で求められます。法務局で取ると1件500円、オンラインで請求して窓口で受け取ると420円、郵送してもらうと450円です。

ここで知っておきたい変化があります。以前は会社の登記を申請する代表者は必ず印鑑を届け出る義務がありましたが、その義務はなくなりました。いまはオンラインで申請する場合、印鑑の提出は任意です。つまり、会社の届出印が存在しない会社が出てきています。

届出印が存在しない会社では、辞任届の扱いが変わります。押せる届出印がないので、個人の実印を押して印鑑証明書を添える形になるのが基本です。ただしこの場面は会社ごとに事情が違うので、管轄の法務局に事前に確認してください。電話で会社の商号と本店を伝えて、「代表取締役が辞任する場合の辞任届の押印と添付書類を教えてほしい」と言えば答えてくれます。無料ですし、往復のやり直しを1回減らせます。

もう1つ、辞める側として確かめておきたいことがあります。自分の名前で届け出た印鑑が残っていないかどうかです。届出印の廃止届を出さずに会社を離れると、形のうえでは自分の届出印が生きたままになります。後任が印鑑届書を出せば自然に切り替わりますが、会社が手続きをしない可能性があるなら、廃止の届出を自分で出しておく判断もあります。

実印と認印は何が違うのか

個人の印鑑についても整理しておきます。

実印とは、住んでいる市区町村に登録した印鑑のことです。登録すると印鑑登録証(カード)がもらえて、印鑑証明書を取れるようになります。印鑑証明書には登録した印影が印刷されているので、押された印が本人のものだという裏が取れます。

認印とは、登録していない印鑑のことです。文房具店で売っている三文判も、彫ってもらった印鑑も、登録していなければ認印です。法律上は認印にも効力がありますが、押した人が本人だと証明する手段がありません。

銀行印は、金融機関に届け出ている印鑑です。実印を銀行印として使っている人もいれば、別の印鑑を使っている人もいます。辞任届の場面では、銀行印という区分は関係ありません。市区町村に登録してあるかどうかだけが問題です。

シャチハタは、朱肉を使わずにインクが内蔵されている印鑑です。ゴム製なので押すたびに形がわずかに変わり、時間がたつとインクが薄れます。市区町村の印鑑登録も受け付けられないのが普通です。辞任届では避けてください。

実印を持っていない方は、印鑑登録から始めることになります。手順は、印鑑と本人確認書類を持って市区町村の窓口へ行き、登録を申請します。即日で登録できる自治体が多いですが、郵送で確認を取る自治体もあるので数日かかることがあります。印鑑証明書の取得費用は自治体によって違い、おおむね1通200円から400円程度です。マイナンバーカードがあればコンビニでも取れて、安くなる自治体もあります。

登録できる印鑑には条件があります。大きさ、素材、彫ってある文字。自治体によって細かい決まりが違うので、買う前に窓口のページを確かめてください。ゴム印や、変形しやすい素材は登録できません。

印鑑証明書が要るのはどの場面か

役員の交代では、印鑑証明書が何枚も必要になることがあります。誰の分がどこで要るのかを整理します。

辞める側で必要になるのは、代表取締役などが個人の実印を押した辞任届に添える1通だけです。会社の届出印を押せば要りません。監査役や、印鑑を届け出ていない取締役なら、そもそも要りません。

就任する側では、場面が分かれます。取締役会を置いていない会社で新しく取締役になる人は、就任を承諾した書面に実印を押して印鑑証明書を添えます。取締役会を置いている会社では、新しく代表取締役になる人が同じ扱いになります。それ以外の取締役や監査役は、印鑑証明書の代わりに本人確認証明書を添えます。住民票の記載事項証明書や、運転免許証のコピーに本人が原本と相違ない旨を書いて記名したものなどです。

新しい代表者が会社の印鑑を届け出る場面でも要ります。印鑑届書には代表者個人の実印を押し、その印鑑証明書を添えます。このときだけは「作成後3か月以内のもの」という期限が付いています。

辞任届に添える印鑑証明書はどうか。規則の条文には期間の定めが置かれていません。ただし運用は法務局ごとに違うことがあるので、古いものを使うつもりなら事前に電話で確かめてください。

まとめると、1人の代表者が交代する場面では、辞める側で最大1通、就任する側で就任承諾書用と印鑑届書用に最大2通、という数え方になります。1回の窓口で必要枚数をまとめて取っておくと、往復せずに済みます。

押印がなくても登記は通るのか

「辞任届に押印は要らない」という説明を見かけたことがあるかもしれません。これは半分正しく、半分誤解を招きます。

正しいのは、商業登記規則が押印を求めているのが限られた場面だけだ、という点です。登記所に印鑑を届け出ている取締役や代表取締役が辞任する場合には、押す印鑑まで指定されています。それ以外の役員については、規則に押印の指定がありません。だから理屈のうえでは、監査役の辞任届に押印がなくても登記は通る余地があります。

誤解を招くのは、「だから押さなくていい」と読んでしまうことです。実際には次の3つの理由で、押しておくほうが確実です。

1つ目は、会社が受け付けてくれない可能性があることです。会社の担当者や依頼された司法書士は、押印のある書式を前提に動いています。押印がないと「これでいいのか」と確認が入り、結局やり直しになります。

2つ目は、本人が作ったという証拠が薄くなることです。辞任は届いた時点で効き目を持ちますが、あとで「そんな書面は出していない」と会社側が言い出す場面や、逆に「勝手に作られた」と本人が主張する場面では、押印の有無が判断材料になります。

3つ目は、法務局の判断が一律ではないことです。押印のない書面について確認を求められることがあります。確かめるのに時間がかかるなら、最初から押しておくほうが早いです。

実務としては、次のように考えてください。登記を通すために必ず要る印鑑がある役職なら、その印鑑を押す。それ以外の役職なら、認印でいいので押しておく。押さない選択をするのは、印鑑がどうしても用意できない事情があるときだけ。この順番なら迷いません。

押印でつまずく典型5つ

実際に多い失敗を5つ挙げます。どれも、知っていれば避けられるものです。

1つ目は、代表取締役なのに認印を押してしまうことです。会社の届出印でも実印でもない印鑑を押した辞任届は、登記の添付書類として通りません。会社から「押し直してほしい」と連絡が来て、往復で時間を失います。

2つ目は、シャチハタを押すことです。朱肉を使う印鑑に押し直してください。実印として登録することもできません。

3つ目は、実印を作り直したのに登録を変えていないことです。印鑑証明書に印刷されている印影と、押した印影が違うと照合できません。印鑑を新調したら、市区町村で改印の手続きをしてから印鑑証明書を取ります。

4つ目は、印鑑登録をしていないまま「実印を押した」と思い込むことです。彫ってもらった立派な印鑑でも、登録していなければ認印です。自分が印鑑登録をしているかどうかは、印鑑登録証(カード)があるかで確かめられます。手元にないなら、登録していない可能性が高いです。

5つ目は、氏名の表記が印鑑証明書と一致しないことです。結婚や離婚で姓が変わった、旧姓で登記されている、といった場合に起きます。登記簿の氏名、辞任届に書く氏名、印鑑証明書の氏名。この3つが一致しないと、同一人物だと確かめられません。姓が変わっているなら、先に氏名の変更登記が必要になることもあります。会社の担当者に事情を伝えて、司法書士に確かめてもらってください。

もう1つ、細かい点を添えておきます。辞任届が複数ページになる場合は、つづり目に契印を押します。契印とは、ページがすり替えられていないことを示すために、ページのつなぎ目にまたがって押す印のことです。使うのは辞任届に押したのと同じ印鑑です。とはいえ、辞任届は1枚に収まるのが普通なので、この場面はあまり起きません。

電子署名で出す場合

紙に印鑑を押す代わりに、電子ファイルに電子署名を付ける方法もあります。会社がオンラインで登記を申請する場合に使えます。

オンライン申請では、申請書だけでなく、添える書類も電子ファイルで送れます。辞任届を電子ファイルにして、辞任する本人が電子署名を付ける形です。この場合、紙の辞任届も印鑑も要りません。

使える電子証明書は決まっています。商業登記規則は、登記所が発行する電子証明書、マイナンバーカードの署名用電子証明書、そのほか法務大臣が指定する電子証明書を挙げています。民間のサービスによる電子署名が使えるかどうかは、そのサービスが発行する証明書がこの指定に入っているかで変わります。使う前に管轄の法務局に確認してください。

マイナンバーカードの署名用電子証明書は、個人が無料で持てる仕組みです。カードを作るときに設定した暗証番号で使えます。パソコンにカードリーダーを付けるか、対応するスマートフォンをかざして署名します。有効期限があり、更新しないと使えなくなるので、使う前に有効かどうかを確かめてください。

実務では、会社がオンライン申請に対応していないと、この方法は使えません。司法書士に依頼している会社なら対応できることが多いので、自分が遠方にいる、印鑑証明書を取りに行く時間がない、といった事情があるなら、会社に相談してみる価値はあります。

なお、電子署名を使う場合でも、辞任の効き目が生じるのは辞任の意思が会社に届いた時です。ここは紙と変わりません。電子ファイルを送ったなら、送信の記録を残しておいてください。

印鑑を準備する段取りと費用

押す印鑑が決まったら、手配の段取りを立てます。ここを先に済ませておくと、辞任の話が決まってから書面を渡すまでが早くなります。

会社の届出印を押す場合は、印鑑が会社にあるので、押す機会を作るだけです。関係がこじれている場面では、印鑑を渡してもらえないことがあります。その場合は個人の実印に切り替えて、印鑑証明書を用意します。

個人の実印を押す場合は、印鑑登録があるかを確かめます。登録がなければ、印鑑を用意して市区町村の窓口へ行きます。即日で登録できる自治体が多いですが、本人確認の方法によっては郵送でのやり取りが入って数日かかります。登録が済めば、その場で印鑑証明書を取れます。

費用を並べると次のようになります。個人の印鑑証明書が1通200円から400円程度。会社の登記事項証明書が窓口や郵送で1通600円、オンライン請求で窓口受け取りなら490円。会社の印鑑証明書が窓口で1件500円。これに、会社が払う役員変更の登録免許税が、資本金の額が1億円を超える会社で3万円、1億円以下の会社で1万円です。司法書士に頼む場合の報酬は、日本司法書士会連合会が2024年3月に実施した報酬アンケートによると、取締役3名・代表取締役1名・監査役1名の取締役会設置会社で役員全員が任期満了により改選した場合の変更登記で、有効回答1,009件の平均が33,009円でした。回答の分布は3万円台が398件、2万円台が302件で、この2つの帯に7割が集まっています。1人だけ辞任する場面なら、書類の枚数が減るぶん軽くなるのが通常です。

辞める側が負担するのは、自分の印鑑証明書の代くらいです。登記の費用は会社が払います。ここを会社に請求されたら、役員の変更登記は会社の義務であることを伝えてください。会社法では、登記されている事項が変わったときは2週間以内に申請しなければならないとされていて、怠ると代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性があります。

辞任届そのものに書く5つのこと

印鑑の話に入る前に、押す紙のほうを整えておきます。法務局が公開している辞任届の見本は、驚くほど短いものです。書く要素は5つしかありません。

・表題として「辞任届」と書く ・一身上の都合により、貴社の取締役を辞任したい旨を1文で書く。理由を細かく説明する必要はなく、一身上の都合という言い方で足ります ・作成した日付を書く ・差出人として自分の住所と氏名を書き、その横に印鑑を押す ・宛先として会社の商号を書き、御中を付ける

住所の書き方には注意点があります。個人の実印を押して印鑑証明書を添える場合は、辞任届に書く住所と氏名を、印鑑証明書の表記に合わせてください。番地の書き方が違うだけでも、同じ人だと確かめる作業が増えます。

宛先は会社です。代表取締役個人ではありません。辞任は会社に対する意思表示なので、宛先も会社の商号にします。代表者に渡す場合でも、紙の上の宛先は会社のままで構いません。

そして、渡し方を記録に残してください。辞任は会社に届いた時点で効き目を持ちます。手渡しなら、渡した相手と日付を自分の手帳に書き、できれば受け取りの一言をメールで残します。郵送なら、書留や配達記録が付く方法を選び、控えのコピーを取ってから出します。関係がこじれている場面では、内容証明郵便を使う判断もあります。ここを省くと、あとで辞任した日そのものが争いの種になります。

辞任の日から登記が終わるまでを、日付で並べる

自分が動く場面と、会社が動く場面が入れ替わるので、順に並べて見ておきます。取締役が1人辞めて、後任を1人選ぶ会社を想定します。

・9月1日 辞任届を会社に渡す。この日に辞任の効き目が生じる。控えを保管する ・9月3日 会社が株主総会を開いて後任の取締役を選ぶ。選ばれた人がその場で就任を承諾する ・9月4日 辞める側が個人の実印を押すことにしたので、市区町村で印鑑証明書を取る。会社の届出印を押したのであれば、この日の作業は要らない ・9月8日 会社が登記を申請する。辞任と就任は合わせて1件にできるので、申請書は1枚になる ・9月15日 登記の期限。変更が生じた日から2週間なので、この日までに申請が出ていればよい ・9月下旬から10月 登記が完了する。完了までの日数は登記所によって差があり、同じ日に申請しても2週間で終わる所と1か月を超える所があります

辞める側がやることは、9月1日と9月4日の2つだけです。あとは会社の仕事になります。それでも期限を意識しておく価値があります。会社が申請を忘れると、登記簿に自分の名前が残り続けるからです。

1人しかいない取締役が辞めるときだけ、話が変わる

ここだけは例外的に難しくなります。取締役が1人しかいない会社で、その取締役が辞めた場合です。

会社法には、役員が欠けた場合、または法律や定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了または辞任によって退任した役員が、新しく選ばれた役員が就任するまで役員としての権利と義務を持ち続けるという定めがあります。つまり、辞任届を出しても、後任が決まるまでは役員としての立場から完全には抜けられません。この状態の人を実務では権利義務取締役と呼びます。

この場合、辞任の登記だけを先に申請することはできません。会社に取締役が1人もいない登記簿は作れないからです。後任が就任してから、辞任と就任をまとめて登記します。定款で「取締役は3名以上」と定めている会社で、3人のうち1人が辞めた場合も同じことが起きます。

辞める側として取れる手は2つあります。1つは、辞任届を出す前に後任の目処を会社と詰めておくことです。もう1つは、会社が動かない場合に、裁判所に一時役員の職務を行うべき者の選任を申し立てる道があることを知っておくことです。後者は利害関係人が申し立てる仕組みで、実際に使うなら弁護士に相談する話になります。

自分が辞めたあとに登記簿から名前が消えたかどうかは、自分で確かめられます。会社の登記事項証明書は誰でも取得できるので、完了予定日を過ぎたころに1通取って、役員の欄を見てください。窓口や郵送で1通600円、オンラインで請求して窓口で受け取るなら490円です。名前が残っていたら、会社に申請の状況を尋ねます。登記は会社の義務であり、怠れば代表者が過料の対象になる、という事実を添えて頼むのが現実的です。

役員をやめたあとの働き方を組み立てる

印鑑の準備が終われば、辞任の手続き自体はほぼ片付きます。そのあとをどうするかに目を向けてください。

役員を降りたあとの選択肢は3つに分かれます。別の会社で働く、自分で事業を始める、業務委託として関わる。3つ目を選ぶ人が増えています。会社の役員という重い立場は外すけれど、持っている知識と人脈は仕事として提供する形です。

この道を選ぶなら、自分の経験がいくらの仕事になるかを先に把握しておくと判断が早くなります。開発や技術の現場を見てきた方はソフトウェア作成者の年収・単価相場で単価の幅を確かめられます。文章や編集で仕事を作るなら著述家,記者,編集者の年収・単価相場が目安になります。どちらも職種ごとの相場を並べたデータです。

仕事の中身を知りたいときは職種別の案内が早道です。経営や業務の改善を見てきた経験はAIコンサル・業務活用支援のお仕事につながります。技術寄りならアプリケーション開発のお仕事AI・マーケティング・セキュリティのお仕事で、いまどんな依頼が出ているかが分かります。

肩書きが外れると、書類も自分の名前で作ることになります。会社の届出印の代わりに、自分の印鑑で見積書や請求書に押すことになります。書式の基本を整えたいならビジネス文書検定が扱う範囲が参考になりますし、技術の裏付けを示したい方にはCCNA(シスコ技術者認定)のような資格が名刺代わりになります。

契約での力関係も変わります。取引条件を書面で残す重要性についてはフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに、発注書に何を書いてもらうべきかがまとまっています。報酬が支払われないときの動き方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】が具体的です。会計や監査の経験がある方なら会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】に、資格を活かした関わり方の例が出ています。

運営者として見てきたこと

在宅ワークと業務委託の市場を20年見てきた立場から言えば、印鑑をめぐる悩みは、独立したあとも形を変えて続きます。契約書に押すのは実印か認印か。電子契約に切り替えるべきか。取引先から印鑑証明書を求められたらどうするか。役員をやめる場面でこのルールを一度整理しておくと、そのあとの判断がずっと楽になります。

現場を見ていて感じるのは、書類の作法を押さえている人は、それだけで信頼されやすいということです。押す印鑑を間違えない、期限のある証明書を切らさない、控えを残す。地味な作業ですが、頼む側から見ると「この人に任せると楽だ」という印象につながります。作業の速さより、こうした確かさのほうが長く評価されます。

お金の面でも見落としやすい差があります。仕事を仲介する会社を経由すると、報酬から中間の取り分が引かれます。直接やり取りできる関係があれば、同じ予算で依頼する側はより多くを頼めますし、受ける側の手取りも厚くなります。金額の大小ではなく、同じ仕事でも手元に残る額が変わるという構造の話です。

最後に、辞任届に印鑑を押す前の確認項目を並べておきます。自分が辞めるのはどの立場か。法務局に印鑑を届け出ているか。押すのは会社の届出印か個人の実印か認印か。印鑑証明書が要るなら取れているか。氏名の表記が登記簿と印鑑証明書で一致しているか。この5つが確かめられていれば、押し直しになることはありません。会社法の条文を確かめたいときはe-Gov法令検索で全文が読めます。

よくある質問

Q. 辞任届に押すのは実印と認印のどちらですか?

辞める立場で変わります。代表取締役や、法務局に印鑑を届け出ている取締役なら、会社の届出印か市区町村に登録した実印を押します。それ以外の取締役、監査役、会計参与は認印で足ります。シャチハタのような朱肉を使わない印は、にじんで照合に向かないので避けてください。

Q. 会社の届出印を押せば印鑑証明書はいりませんか?

いりません。法務局には届出印の印影が登録されているので、照合すれば本人が押したと確かめられるためです。個人の実印を押した場合は、市区町村が発行した印鑑証明書を添えます。会社が法務局に印鑑を届け出ていない場合は扱いが変わるので、管轄の法務局に確認してください。

Q. 印鑑証明書に有効期間はありますか?

新しい代表者が会社の印鑑を届け出るときに添える印鑑証明書には、作成後3か月以内という期限が付いています。一方、辞任届に添える印鑑証明書については、規則の条文に期間の定めが置かれていません。ただし運用は法務局ごとに違うことがあるので、古いものを使うなら事前に確かめてください。

Q. 辞任届に押印がないと登記は通りませんか?

押印が指定されているのは、法務局に印鑑を届け出ている取締役や代表取締役が辞任する場合です。監査役などについては規則に押印の指定がなく、押印がなくても受け付けられる余地があります。ただし会社側が押印のある書式を前提にしていることが多いため、認印でよいので押しておくほうが確実です。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月26日最終更新:2026年9月19日
前田 壮一

この記事を書いた人

前田 壮一@SOHO編集部

元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身

大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。

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