取締役が辞めるときの手続きの流れ


この記事のポイント
- ✓辞任届の書き方と押印の決まり
- ✓後任がいないときの裁判所への申立て
- ✓代表取締役が辞める場合の順番
取締役を辞めたい。そう決めたとき、何から手をつければいいのか。辞表を書けば終わりなのか、会社の許可が要るのか、いつから辞めたことになるのか。調べ始めると分からないことばかり出てきます。
先に結論を書きます。取締役は原則としていつでも辞任できます。会社の承諾も、株主総会の決議も要りません。辞任届が会社に届いた時点で効力が生じます。ただし、大きな例外が1つあります。自分が抜けると役員の人数が足りなくなる場合は、後任が決まるまで役員としての立場が続いてしまいます。これを知らずに辞任届だけ出すと、辞めたつもりで責任だけが残ることになります。
この記事では、辞任の効力がいつ生じるのか、辞任届をどう書くのか、押印にどんな決まりがあるのか、後任がいないときはどうするのか、そして会社が登記を出してくれないときに何ができるのかまで、流れに沿って整理します。専門用語はその場で言い換えます。
辞任の効力は、辞任届が会社に届いた時点で生じる
まず、いつから辞めたことになるのかをはっきりさせます。ここを誤解している方が多い部分です。
会社と取締役の関係は、雇用ではなく委任という契約の形をとっています。委任とは、ある人に仕事を任せる約束のことです。民法は、委任は各当事者がいつでも解除できると定めています。つまり、任された側である取締役は、いつでもその関係を終わらせられます。
その結果として、辞任には会社の承諾が要りません。社長が「認めない」と言っても、辞任の効力は生じます。株主総会の決議も要りません。決議が必要なのは、会社側から辞めさせる解任の場合です。
効力が生じるのは、辞任の意思表示が会社に届いた時点です。辞任届を代表取締役に手渡した、あるいは会社あてに送った書面が届いた、というときです。辞任届に「令和○年○月○日をもって辞任する」と将来の日を書いた場合は、その日から効力が生じます。
1つだけ注意点があります。民法は、相手に不利な時期に委任を解除した場合、損害を賠償しなければならないと定めています。ただし、やむを得ない事情があったときはこの限りではありません。取締役の辞任でこれが問題になる場面は多くありませんが、繁忙期に予告なく抜けて会社に具体的な損害が出た、といった事情があれば争いになる余地はあります。可能なら、辞める1か月前くらいに会社へ伝えておくのが無難です。
辞任届は控えを必ず手元に残してください。日付、宛先、提出した相手の名前も記録します。後で「受け取っていない」と言われたときに、効力が生じた日を示せる材料になります。書面ではなくメールで送る場合も、送信記録を保存しておきます。
抜けると人数が足りなくなるときは、辞任しても地位が続く
ここが最大の落とし穴です。
会社法は、役員が欠けた場合や、法律や定款で決めた役員の人数が足りなくなった場合について、辞任で退任した役員は新しい役員が就任するまで役員としての権利と義務を持ち続けると定めています。実務ではこの状態の人を、権利義務を持つ取締役と呼びます。
具体的にどういう場面か。取締役が1人しかいない会社で、その人が辞任する場合です。株式会社は取締役を1人以上置かなければならないので、その人が抜けると人数がゼロになります。このときは、辞任届を出しても地位が終わりません。
取締役が3人いる会社でも起こります。定款に「取締役は3名以上とする」と書いてある会社で1人が辞めれば、2人になって定款の人数を下回ります。定款を確認せずに辞任届を出して、後で抜けられないと分かるケースはここです。
この状態の何が問題か。3つあります。1つは、退任の登記ができないことです。登記簿には名前が載ったままになります。2つ目は、役員としての責任が続くことです。会社が何か問題を起こせば、責任を問われる立場のままです。3つ目は、会社からの報酬が止まっていることが多いことです。責任だけが残って報酬はない、という状態になりえます。
代表取締役についても同じ仕組みがあります。代表取締役が欠けた場合、辞任で退任した代表取締役は、新しい代表取締役が就任するまで代表取締役としての権利義務を持ち続けます。
だから、辞任を決めたらまず定款を開いてください。取締役の人数について何と書いてあるか。そして今、自分を含めて何人いるか。この2つを確かめるのが最初の作業です。抜けても人数が足りるなら、辞任届を出せば話は終わります。足りなくなるなら、次の節の準備が必要です。
後任が決まらないときは、裁判所に申し立てられる
抜けると人数が足りなくなる。でも会社が後任を決めてくれない。この状態から抜け出す方法があります。
会社法は、役員が欠けた場合について、裁判所が必要と認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時的に役員の職務を行うべき人を選任できると定めています。この人を、実務では一時取締役と呼びます。仮の取締役を裁判所に決めてもらうということです。
申立てができる利害関係人には、辞任した本人も含まれます。つまり、会社が動かなくても、自分から裁判所に申し立てられます。一時取締役が就任すれば、権利義務を持つ状態が終わり、退任の登記ができるようになります。
ただし、この手続きには費用と時間がかかります。申立てには裁判所に納める費用が必要で、選任された一時取締役の報酬も会社が払うことになります。裁判所がその報酬額を決める仕組みです。申立てから選任まで何か月かかかることもあります。
現実的には、先に会社と話し合うほうが早いです。後任を1人立ててもらえば解決します。取締役が1人の会社なら、家族でも知人でも、引き受けてくれる人がいれば足ります。会社としても、取締役が不在のままでは登記も銀行の手続きも進まないので、話し合いに応じる動機はあります。
それでも動かない、あるいは会社と連絡が取れないという状況であれば、申立てを検討してください。具体的な進め方は事案によって変わるので、弁護士か司法書士に相談するのが確実です。
辞任届は、短い定型文で足りる
辞任届の書き方を見ます。難しく考える必要はありません。法務局が公開している登記申請書の記載例に、そのまま使える文例が載っています。
私は、このたび一身上の都合により、貴社の取締役を辞任いたしたく、お届けいたします。 出典: houmukyoku.moj.go.jp
これが本文です。この1文の前に「辞任届」という表題を置き、本文の後に日付、自分の住所、氏名と押印を書き、いちばん下に会社名と御中を入れる。記載例はこの形です。
入れるべき項目を並べると、次のとおりです。
・表題(辞任届) ・辞任する旨の本文(辞める役職をはっきり書く) ・辞任する日付 ・自分の住所 ・自分の氏名と押印 ・宛先となる会社名
理由は「一身上の都合により」で足ります。詳しく書く必要はありませんし、書けば書くほど後で解釈の余地が生まれます。会社と対立している場合でも、辞任届には事情を書かないほうが安全です。
辞める役職は正確に書いてください。取締役を辞めるのか、代表取締役だけを辞めて取締役としては残るのか。この2つは別の話です。書き方が曖昧だと、登記の内容が意図と違ってしまいます。取締役を辞めれば代表取締役の地位も当然に終わりますが、代表取締役だけを辞めても取締役としては残ります。
日付は2種類あります。辞任届を書いた日と、辞任の効力が生じる日です。同じ日でよければ日付は1つで済みます。将来の日を辞任日にしたいなら、本文の中に「令和○年○月○日をもって」と入れて区別します。
会社に渡すときは、受け取った証拠が残る方法にしてください。手渡しなら控えに受領のサインをもらう。郵送なら特定記録や簡易書留を使う。会社が受け取りを認めないと、効力が生じた日を証明できなくなります。
押印の決まりは、自分の立場によって変わる
辞任届のうち、実務でいちばん間違えやすいのが押印です。法務局の記載例には、立場ごとの決まりが注記されています。
法務局に印鑑を届け出ている取締役が辞任する場合、辞任届には法務局の届出印を押すか、市区町村に登録している印鑑を押す必要があります。市区町村の印鑑を押した場合は、その印鑑について市区町村長が作成した印鑑証明書を添えます。法務局の届出印を押したのであれば、印鑑証明書は要りません。
さらに、法務局に印鑑を提出している人が会社にいない場合において、代表取締役が取締役を辞任するときは、市区町村に登録している印鑑を押し、その印鑑証明書を添える必要があるとされています。
法務局に印鑑を届け出ていない取締役、つまり代表権を持たない普通の取締役であれば、これらの決まりは当てはまりません。認印を押した辞任届で登記は通ります。
なぜこんな決まりがあるのか。理由は本人確認です。取締役を勝手に登記簿から外されると本人が困るので、会社の印鑑を預かっていた人が辞めるときは、本人の意思であることを確かめる仕組みが置かれています。
自分がどれに当たるか分からない場合は、登記事項証明書と、会社が法務局に出している印鑑カードの状況を確認してください。判断がつかなければ、管轄の法務局に電話して聞くのが早いです。多くの法務局が登記の相談窓口を設けています。
代表取締役が辞める場合は、順番が決まっている
代表取締役が辞める場合は、手順が1つ増えます。
代表取締役は取締役の中から選ばれる立場です。そのため、代表取締役を辞めるときには、取締役としても辞めるのか、取締役としては残るのかを決めることが先になります。
取締役としても辞める場合、後任の代表取締役が決まっていないと、代表取締役としての権利義務が続きます。会社に代表者がいない状態は登記上も作れないので、実質的に後任を決めずには抜けられません。
後任が決まったら、順番はこうなります。まず株主総会で新しい取締役を選びます。取締役会がある会社なら、取締役会で新しい代表取締役を選びます。取締役会がない会社なら、定款の定めに従って、取締役の互選か株主総会で選びます。そのうえで、辞任と就任をまとめて1件の登記として申請します。
登記が終わったら、新しい代表取締役が自分の印鑑を法務局に届け出ます。これを忘れると、その後の登記や印鑑証明書の取得で止まります。会社の実務が丸ごと止まるので、登記と同時に進めてください。
代表者が変わると、会社の外側にある登録もすべて変わります。銀行口座、取引先との契約、許認可、社会保険の事業主の情報。どれも登記事項証明書が新しくなっていないと手続きできないことが多いので、登記を先に終わらせるのが全体を早める鍵になります。
会社が登記を出してくれないとき
辞任届は受け取ってもらえた。でも何か月経っても登記簿から名前が消えない。この相談は少なくありません。
まず押さえておきたいのは、退任の登記を申請するのは会社だということです。辞任した本人が自分で登記を出すことは、原則としてできません。会社が動かなければ、登記簿には名前が残り続けます。
最初にやるのは、書面での申し入れです。口頭で言っても記録に残りません。辞任した日と、登記を出してほしい旨を書いた書面を、記録が残る方法で会社に送ります。会社側には、変更が生じたときは2週間以内に登記をする義務があり、怠れば過料の対象になります。この点を伝えるだけで動く会社もあります。
それでも動かない場合は、裁判所の手続きを通じて登記を求める方法があります。進め方や見込みは事情によって変わるので、弁護士か司法書士に相談してください。費用と時間がかかる手続きなので、先に相談して見通しを立ててから判断するのが現実的です。
放置した場合のリスクも知っておいてください。登記簿に名前が残っている間は、外から見れば取締役のままです。会社がその状態で取引をして相手に損害が出た場合、説明を求められる可能性があります。自分は関係ないと思っていても、相手はそう見ません。
だからこそ、辞任したら数週間後に登記事項証明書を自分で取って、名前が消えているかを確かめてください。1通あたりの手数料は数百円です。この確認を省くと、何年も気づかないままになります。
辞任の日をいつにするか
辞める日をいつに設定するか。実務では、ここで判断が分かれます。
1つの考え方は、定時株主総会の日に合わせることです。任期が切れるタイミングと重ねれば、後任を選ぶ手続きを同じ総会でまとめて行えます。登記も1件で済みます。会社側の手間がいちばん軽い形です。
もう1つは、事業年度の区切りに合わせることです。役員報酬は毎回同じ額を払うことで会社の経費として認められる仕組みになっており、途中で辞めるとその月の扱いを決める必要が出てきます。年度末に合わせれば、この整理が簡単になります。
一方で、関係がこじれている場合は、早く抜けることを優先すべき場面もあります。会社の状況が悪く、責任を問われるリスクが高まっているなら、次の総会を待たずに辞任届を出す判断もあります。在任中の行為についての責任は退任後も残りますが、辞任が遅れればその分だけ在任期間が伸びます。
どの日にするにしても、決めたら会社に早めに伝えてください。後任探しには時間がかかります。1人しかいない取締役が突然辞めると、会社の手続きが全部止まります。伝えるのが早いほど、話し合いで片付く可能性が高くなります。
辞任する前に片付けておく4つのこと
登記の話だけに気を取られると、もっと重いものを見落とします。
1つ目は、会社の借入の連帯保証です。中小企業では、代表取締役が会社の借入の連帯保証人になっていることがよくあります。取締役を辞めても、この保証契約は自動的には終わりません。金融機関と話し合って外してもらう必要があります。辞任の条件を詰める段階で必ず確認してください。これを見落とすと、会社との関係は切れたのに借金の保証だけが残ります。
2つ目は、会社との貸し借りです。会社にお金を貸している、逆に会社から借りている。役員と会社のあいだでお金の行き来があることは珍しくありません。辞めた後で請求する話になると、回収は一気に難しくなります。帳簿を見て、残高がある項目を洗い出して精算してください。
3つ目は、引き継ぎの記録です。会社の印鑑、通帳、カード、契約書の原本、システムの管理者権限。自分が持っているものを一覧にして、誰に渡したかを記録に残します。受領のサインをもらっておくと、後で紛失や持ち出しを疑われたときに説明できます。
4つ目は、退職慰労金の扱いです。役員が辞めるときに受け取るお金は、職務の対価として会社から受け取る財産上の利益に当たるため、報酬と同じ扱いになります。定款に定めがなければ、株主総会の決議で決めるのが原則です。口約束だけでは法律上の根拠がありません。受け取る予定があるなら、辞める前に議題に載せてもらってください。金額が適正かどうかは会社の規模や事情で判断が変わるので、税務署か税理士に確認してください。
社会保険についても触れておきます。役員に報酬を払っていた場合、辞めればその人は健康保険と厚生年金の資格を失います。会社は被保険者資格喪失届を提出することになっており、日本年金機構は退職者等があったときの届出を5日以内に提出すると案内しています。辞めた後の健康保険をどうするかは自分で決める必要があるので、手続きの流れは日本年金機構の適用事業所と被保険者のページで確認しておくと動きが早くなります。
任期満了で辞める場合との違い
辞任のつもりでいたけれど、実は任期満了だった。この取り違えはよく起こります。違いを整理しておきます。
取締役には任期があります。原則として選任後およそ2年で、株式の譲渡に会社の承認が必要だと定款で決めている会社なら、定款で最長10年まで伸ばせます。この期間が終わる事業年度の定時株主総会が終わった時点で、任期は自動的に切れます。辞任届は要りません。
つまり、任期が切れるタイミングと辞めたい時期が近いなら、辞任届を出さずに「次の総会では再任を辞退します」と伝えるだけで足ります。登記の原因は辞任ではなく退任になり、辞任届の押印や印鑑証明書の話も出てきません。手続きとしてはこちらのほうが軽いです。
ここで知っておきたいのが重任という言葉です。任期が切れた取締役を、同じ株主総会で改めて選び直し、本人が引き受けることを重任と呼びます。人は変わりませんが、法律上は一度任期が終わって新しく選ばれ直したことになるので、登記が必要です。「メンバーが変わっていないから登記も要らない」と考えて放置した会社が、10年後に困るのはこのためです。
自分の任期がいつまでかを知るには、定款と登記事項証明書の両方が要ります。定款で任期が何年と決められているかを見て、登記事項証明書で自分の就任年月日を確認します。就任年月日から任期の年数を足した年の、定時株主総会が区切りです。
任期が残っているのに辞めたいなら辞任です。任期がもうすぐ切れるなら、総会を待つほうが会社にとっても自分にとっても楽です。どちらを選ぶかは、辞めたい時期と任期の残りを比べて決めてください。
なお、任期の途中で会社から辞めさせられる解任の場合は、話が変わります。会社法は、解任について正当な理由がない場合、解任された人が会社に損害の賠償を請求できると定めています。残りの任期分の報酬相当額が争点になりやすく、任期が長いほど金額も大きくなります。会社から辞めてほしいと言われている状況なら、辞任届を出す前に条件を話し合う価値があります。
辞めたあとも残るもの、終わるもの
辞任の登記が終われば全部終わり、ではありません。何が終わって何が残るのかを整理します。
終わるのは、これから先の職務と責任です。辞任の効力が生じた後の会社の行為について、責任を負うことはありません。取締役会に呼ばれることもなくなります。
残るのは、在任中の行為についての責任です。取締役は、任務を怠って会社に損害を与えた場合、その責任を負います。さらに、職務を行うにあたって悪意や重大な過失があったときは、取引先など第三者に対しても責任を負う可能性があります。これらは辞任によって消えません。在任中に承認した取引が後で問題になれば、辞めた後でも責任を問われる場面はあります。
同じく残るのが、個人で結んだ契約です。会社の借入の連帯保証、会社が借りている事務所の保証人、リース契約の保証。これらは取締役の地位とは別の契約なので、辞めても自動的には終わりません。1つずつ相手方と話をして外してもらう必要があります。
競業避止や秘密保持の約束も、契約の内容によっては辞任後も一定期間続きます。在任中に署名した書面を見直して、自分が何を約束したかを確認してください。同業の仕事を始めるつもりなら、ここは必ず先に確かめる部分です。
そして、登記が残っている間は外から見れば取締役のままだという点も忘れないでください。登記が出るまでは、形式的には役員として扱われます。取引先が登記事項証明書を取れば名前が見えます。だからこそ、辞任の効力が生じた後も、登記が済むまでは自分ごととして追いかける必要があります。
もう1つ、辞めた後の健康保険と年金の手続きも自分の宿題です。会社の健康保険を任意で続ける方法、国民健康保険に切り替える方法、家族の扶養に入る方法があり、どれを選ぶかで負担が変わります。期限が短い手続きもあるので、辞める日が決まった段階で調べておいてください。
手続きの全体を時系列で並べる
流れをまとめます。
辞めると決めたら、まず定款を開いて取締役の人数の定めを確認します。自分が抜けても足りるかどうかを判断します。
足りなくなるなら、会社に後任を立ててもらう相談をします。同時に、連帯保証や貸し借りの有無を洗い出します。
辞める日を決めたら、辞任届を作ります。法務局の記載例にある短い定型文で足ります。押印は自分の立場に応じて、法務局の届出印か市区町村に登録した印鑑を使い分けます。
辞任届を会社に渡します。記録が残る方法で渡し、控えを手元に置きます。ここで辞任の効力が生じます。
会社は退任の日から2週間以内に法務局へ変更の登記を出します。登録免許税は、資本金の額が1億円を超える会社で3万円、1億円以下の会社で1万円です。申請書の様式と記載例は法務局の商業・法人登記の申請書様式のページから無料で入手できます。
数週間後、自分で登記事項証明書を取り、名前が退任として記録されているかを確認します。残っていたら会社に書面で申し入れます。
この流れで見ると、本人がやることは多くありません。定款を確認する。辞任届を作って渡す。登記を確認する。この3つが中心です。重いのはむしろ、保証や貸し借りの整理のほうです。
抜けたあとの働き方は、辞める前の準備で決まる
制度の話が続いたので、実務の感覚も書いておきます。
20年にわたって在宅ワークと業務委託の市場を運営してきた立場から言えば、取締役を辞めた方がその後どう動くかは、辞める前の準備でほぼ決まります。引き継ぎの資料を作る過程で、自分が何をやってきた人なのかが整理されるからです。逆に、引き継ぎを曖昧にしたまま抜けた方は、次の場面で自分の実績を言葉にできず苦労しています。
運営者として見てきた限りでは、経営の側にいた経験は、外から仕事を受ける立場になったときに強く効きます。予算がどう組まれるか、どこで判断が止まるか、決裁が誰を通るか。これを知っている人は、依頼する側の事情を先回りして読めます。長く現場を見てきて、何度も確かめてきたことです。
お金の流れについても触れておきます。仕事を受けるとき、仲介が入ると報酬から中間の取り分が引かれます。直接やり取りできる関係があれば、同じ予算で依頼する側はより多くを頼めますし、受ける側の手取りも厚くなります。金額の大小ではなく、同じ仕事でも手元に残る額が変わるという構造の話です。会社を離れて個人で動き始めるとき、この違いは毎月効いてきます。
次を考えるなら、相場を先に知っておくと判断が早くなります。文章や資料を作る仕事の水準は著述家,記者,編集者の年収・単価相場に、技術側の水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場にまとまっています。実際にどういう依頼が出ているかは、AIコンサル・業務活用支援のお仕事やアプリケーション開発のお仕事、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事を見ると具体的につかめます。
書類を整える力は、そのまま次の仕事で使えます。議事録や通知文の基本を押さえ直すならビジネス文書検定が扱う範囲が実務に直結しますし、情報の管理や社内システムの側に回るならCCNA(シスコ技術者認定)が土台になります。会計や税務の専門家とどう組むかを考えている方は、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】に専門家側の働き方がまとまっています。報酬の未払いが絡んでしまった場合は、未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】に回収の手順と費用の目安が整理されています。
辞任そのものは、手続きとしては軽いものです。届けを出せば効力が生じます。重いのは、抜けたあとに何が残るかを先に確かめる作業です。定款の人数、連帯保証、貸し借り、引き継ぎ。この4つを押さえてから辞任届を出せば、後から戻ってくる話はほとんどなくなります。
よくある質問
Q. 取締役の辞任に会社の承諾は必要ですか?
必要ありません。会社と取締役の関係は委任なので、原則としていつでも辞任できます。株主総会の決議も要りません。効力は辞任届が会社に届いた時点で生じます。ただし、相手に不利な時期に辞める場合は損害賠償の問題が生じる余地があるため、可能なら1か月ほど前に伝えておくほうが無難です。
Q. 取締役が自分1人の会社でも辞任できますか?
辞任の意思表示はできますが、抜けると取締役がいなくなるため、新しい取締役が就任するまで役員としての権利と義務が続きます。退任の登記もできません。後任を立ててもらうか、裁判所に一時的に取締役の職務を行う人の選任を申し立てるかのどちらかになります。申立ては辞任した本人からもできます。
Q. 辞任届にはどんな印鑑を押せばよいですか?
法務局に印鑑を届け出ている取締役が辞任する場合は、法務局の届出印か、市区町村に登録した印鑑を押します。市区町村の印鑑を押したときは印鑑証明書も添えます。届出印なら印鑑証明書は不要です。代表権を持たない取締役であればこの決まりは当てはまらず、認印で登記は通ります。
Q. 会社が退任の登記をしてくれないときはどうすればよいですか?
退任の登記を申請するのは会社であり、辞任した本人が自分で出すことは原則としてできません。まず記録が残る方法で会社に書面を送り、登記を求めます。会社には変更から2週間以内に登記をする義務があり、怠れば過料の対象です。動かない場合は裁判所の手続きを通じて登記を求める方法があるので、弁護士か司法書士に相談してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
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