医療通訳学習ハンドブックで学ぶ順番と、在宅の通訳や翻訳の仕事への生かし方


この記事のポイント
- ✓医療通訳学習ハンドブックはどんな本で
- ✓どの順番で学べばよいのか
- ✓前巻の医療通訳学習テキストとの違い
医療通訳を学びたいと考えて「医療通訳学習ハンドブック」を調べている方は、この本で何が学べるのか、どの順番で読めばよいのか、学んだあとにどんな仕事につながるのかを知りたいはずです。
結論から書きます。医療通訳学習ハンドブックは、身体のしくみと主な病気の知識を、8つの言語の訳例とあわせて学ぶための本です。通訳の倫理や技術を扱う前巻『医療通訳学習テキスト』と組み合わせ、厚生労働省が無料で公開している教材も使うと、独学でも土台を固めやすくなります。この記事では、本の中身、学ぶ順番、求められる語学力の目安、そして在宅でできる通訳や翻訳の仕事への生かし方を順に整理します。
医療通訳学習ハンドブックとはどんな本か
医療通訳学習ハンドブックは、医療通訳や学校通訳の支援に取り組む一般社団法人日本公共通訳支援協会(Cots)の関係者が執筆した本です。協会の案内ページによると、著者はG.アビー・ニコラス・フリュー、一枝あゆみ、岩本弥生、西村明夫、三木紅虹の5人で、明石書店から2020年6月30日に出版されました。判型はA5判、価格は3,600円+税です。
対応している言語は8つです。大学図書館の蔵書を検索できるCiNiiの書誌情報では、英語、韓国・朝鮮語、中国語、スペイン語、ポルトガル語、インドネシア語に、ニーズが急速に高まっているベトナム語とタイ語を加えた計8か国語に対応していると紹介されています。書誌の詳しい情報や、どの大学図書館が所蔵しているかはCiNii Booksの書誌ページで確かめられます。購入する前に、近くの大学図書館や公共図書館で中身を確かめてみるのも1つの方法です。
本の構成は、協会の案内ページに次のように示されています。
| 章 | 内容 |
|---|---|
| 序章 | 本書の趣旨・目的、医学的信頼性、番号・記号の説明 |
| 第1章 | 医療通訳のアウトライン(意義、特徴、学習) |
| 第2章 | 身体組織の知識(呼吸器系、循環器系、消化器系など13項目) |
| 第3章 | 主な病気のアウトライン(診療科ごとの病気など17項目) |
| 第4章 | タイ語・ベトナム語訳例(身体、病気、症状、治療、検査、薬など) |
特徴は、身体のしくみから病気へと順に学べる作りになっていることです。呼吸器、循環器、血液と免疫、消化器、泌尿器、生殖器、運動器、脳神経、内分泌、感覚器、皮膚、歯という身体の組織を先に学び、そのうえで呼吸器の病気、循環器の病気、子どもの病気、出産と女性の病気、精神やこころの病気などへ進みます。単語を丸暗記するのではなく、身体のどこで何が起きているかを理解しながら用語を覚えられる構成です。
本書に記載された医療関係用語の英語の音声例は、本の中に記載されたダウンロードキーを使って、協会のサイトからダウンロードできます。
学ぶ前に知っておきたいのが、正誤表が出ていることです。協会の案内ページには、次のように書かれています。
『医療通訳学習ハンドブック』の中に一部誤りが見つかりました。次の表に基づき修正をお願いします。たいへん申し訳ありませんでした。 出典: rasc-cots.jp
正誤表は2023年2月付けで、同じページからPDFで確かめられます。医療の用語は1語の誤りが大きな誤解につながる分野です。本を手に入れたら、最初に正誤表の内容を書き込んでおきましょう。
前巻『医療通訳学習テキスト』との違いと、読む順番
医療通訳学習ハンドブックは、協会の案内ページで「医療通訳学習テキスト」の続編と位置づけられています。2冊は扱う範囲が違うので、違いを知ってから読む順番を決めると効率よく学べます。
前巻の『医療通訳学習テキスト』は、2015年6月に初版、2017年2月に第二版が出た本で、A5判434ページ、価格は3,500円(税別)です。医学監修は内科医の沢田貴志氏、編集は西村明夫氏です。構成は15章で、倫理と心得、対人援助の技術と心構え、身体の組織とその機能、病気の知識、症状や治療や検査や薬の用語、予防接種、医療機関のしくみ、医療費、母子保健、通訳技術の基礎、模擬通訳トレーニング、多文化に関する知識まで、医療通訳の全体を幅広く扱っています。対応言語は英語、韓国語、中国語、スペイン語、ポルトガル語、インドネシア語の6つです。
2冊の違いを整理すると次のようになります。
| 項目 | 医療通訳学習テキスト | 医療通訳学習ハンドブック |
|---|---|---|
| 位置づけ | 全体を広く学ぶ本 | 身体と病気の知識を深める続編 |
| 倫理・通訳技術 | 章を立てて扱う | アウトラインのみ |
| 身体と病気 | 基本の用語を扱う | 身体の組織ごとに詳しく解説 |
| 対応言語 | 6言語 | 8言語(ベトナム語、タイ語を加える) |
読む順番としては、前巻のテキストで医療通訳の役割と倫理、通訳技術の基礎を押さえてから、ハンドブックで身体と病気の知識を深めるのが自然です。協会が開く医療通訳教室の基礎課程でも、教科書として2冊の両方を使うと案内されています。
ベトナム語やタイ語を対象にする方は、ハンドブックの第4章が特に役立ちます。前巻のテキストには訳例のない言語なので、身体と病気の用語を対象言語で確かめられる貴重な資料になります。
第4章の訳例は、身体の組織、覚えたい病気の知識、症状や病状の用語と言い回し、治療とその過程で使われる用語、検査で使われる用語、薬に関する用語、医療機関のしくみと受診時の注意事項、医療費に関する知識、プラスアルファの用語という9つの項目に分かれています。受付から会計までの流れに沿って用語がそろっているので、実際の受診の場面を思い浮かべながら学べます。
2冊を買うかどうか迷う場合は、まず厚生労働省の無料のテキストで全体を学び、身体と病気の知識をさらに深めたくなった時点でハンドブックを、通訳の技術や医療制度まで幅広く学びたくなった時点で前巻のテキストを、という順で買い足す方法もあります。どちらの本も、書店での注文などで購入できると協会の案内ページに書かれています。
無料で使える公的な教材と資料
医療通訳の学習には、無料で使える教材もそろっています。書籍と組み合わせると、学びの抜けを減らせます。
いちばん大きいのが、厚生労働省が公開しているテキスト「医療通訳」です。厚生労働省の「医療通訳に関する資料 一覧」のページでは、平成28年度補正予算で一般財団法人日本医療教育財団が実施した事業の成果として、医療通訳育成カリキュラム基準、テキスト「医療通訳」、指導要項がPDFで公開されています。テキストは、人体の器官図、通訳理論と技術、倫理とコミュニケーション、通訳実技、単語集で構成されており、全ページ版をまとめてダウンロードすることもできます。資料は厚生労働省の医療通訳に関する資料のページから確かめられます。
協会のサイトでも、学習に使える資料が無料で公開されています。前巻のテキストに訳例が載っている医療関係用語を、あいうえお順に並べたExcelのファイルがあり、自分で訳例を書き込みながら暗記や単語帳づくりに使えるよう案内されています。タガログ語とフィリピン語の訳例のリストや、地域の国際交流協会が作った英語版と中国語版の訳語集も公開されています。
無料の教材を使うときのポイントは、書籍と役割を分けることです。厚生労働省のテキストは、医療通訳者の役割や倫理、通訳の技術を体系立てて学ぶのに向いています。協会の書籍は、身体と病気の知識を多言語の訳例とあわせて学ぶのに向いています。用語集のExcelは、自分専用の単語帳を作る土台になります。この3つを組み合わせると、お金をかけずに始めて、必要に応じて書籍を買い足すという進め方ができます。
医療通訳が、ほかの通訳や翻訳と違うところ
医療通訳の学習を始める前に、ほかの通訳や翻訳と何が違うのかを押さえておくと、学ぶ内容の優先順位がつけやすくなります。
1つ目の違いは、通訳の形です。会議や講演の通訳では、話を聞きながらほぼ同時に訳す同時通訳が使われることがあります。一方、医療通訳の中心は、医師と患者の対話を区切りごとに訳す対話型の逐次通訳です。厚生労働省のカリキュラム基準でも、医療通訳者に必要な技能として、対話型の逐次通訳についての十分な知識と技能が挙げられています。
2つ目の違いは、相手が専門家と一般の人の両方であることです。医師や看護師は専門用語で話し、患者は日常の言葉で症状を伝えます。医療通訳者は、その両方を正確に理解し、それぞれの相手に忠実に伝える必要があります。専門用語を知らなければ医師の説明を訳せず、日常の言葉での症状の言い表し方を知らなければ患者の訴えを医師に伝えられません。ハンドブックが身体と病気の知識に多くのページを割いているのは、このためです。
3つ目の違いは、文化の違いへの配慮です。病気や身体についての考え方、家族の関わり方、宗教上の決まりなどは、国や地域によって違います。カリキュラム基準では、言語的、文化的、社会的に異なる医療従事者と患者の間に入り、必要に応じて文化的な橋渡しを行うことも、医療通訳者の役割に含めています。ただし、その橋渡しは、通訳を使う人の合意のもとで行うこととされています。通訳者が自分の判断で話の中身を変えてよいという意味ではありません。
4つ目の違いは、結果の重さです。医療の場面での誤訳は、診断や治療の誤りにつながるおそれがあります。分からない用語をあいまいなまま訳さず、その場で確かめる姿勢が、ほかの分野以上に求められます。
翻訳との違いも確かめておきましょう。医療文書の翻訳は、時間をかけて調べながら訳せるのが通訳との大きな違いです。その代わり、訳文は文書として残り、多くの人に読まれます。用語の統一や、読み手に合わせた言葉の選び方など、通訳とは別の注意が要ります。
医療通訳者に求められる役割と語学力の目安
学ぶ順番を決める前に、医療通訳者に何が求められるのかを確かめておきましょう。厚生労働省の医療通訳育成カリキュラム基準(平成29年9月版、令和3年11月一部改訂)は、医療通訳者の役割を次のように定めています。
医療、保健分野における必要な関連知識や語彙、能力と技能を持ち、診療等の場面において、言葉の媒介者として、話し手の意図を正確に理解して、聞き手にその内容を忠実に伝え、対話者間の効果的なコミュニケーションを可能にする 出典: mhlw.go.jp
つまり、医療通訳者は、医師と患者の間で話し手の意図を正確に理解し、聞き手に忠実に伝える役割を担います。自分の判断で説明を加えたり、診断や治療について助言したりする立場ではありません。カリキュラム基準でも、倫理として、中立・公平な態度、職務上知り得た秘密の保持、自身の専門的・言語的能力の限界を自覚して適切に判断することが挙げられています。
語学力の目安も示されています。カリキュラム基準では、育成カリキュラムを受講する条件として、原則20歳以上であること、母語で大学入学相当の語学力と高校卒業程度の知識があること、対象言語で高度な会話や議論ができることなどを挙げています。対象言語の目安は、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)のB2以上です。日本語は日本語能力試験のN1、中国語はHSK5級・中国語検定2級以上とされています。
研修の時間数も決められています。研修は50単位以上(1単位は90分)で、通訳理論と技術が20単位(30時間)以上、倫理とコミュニケーションが10単位以上、医療通訳に必要な知識が20単位以上です。通訳理論と技術のうち、通訳実技は10単位以上を少人数で行うこととされています。修了の条件には、8割以上の履修、用語集やレポートの提出、筆記試験と模擬通訳試験で評価基準を7割程度満たすことが含まれます。
独学で学ぶ場合も、この基準を学習の地図として使うと、何をどこまで学べばよいかが見えてきます。
医療通訳学習ハンドブックで学ぶ順番
ここまでを踏まえて、医療通訳学習ハンドブックを中心にした学ぶ順番を、6つのステップで整理します。
ステップ1は、医療通訳の全体像をつかむことです。ハンドブックの第1章「医療通訳のアウトライン」と、厚生労働省のテキストの通訳理論の部分を読み、医療通訳者の役割と、ほかの通訳との違いを理解します。
ステップ2は、倫理とコミュニケーションを学ぶことです。前巻のテキストの第1章と第2章、厚生労働省のテキストの第2部を使います。守秘義務、中立性、能力の限界を自覚することなど、医療通訳者として守るべきことを先に身につけておくと、あとの学習で迷いにくくなります。
ステップ3は、身体のしくみを学ぶことです。ハンドブックの第2章で、呼吸器、循環器、消化器など13の身体の組織を順に学びます。厚生労働省のテキストの人体器官図を横に置いて、器官の位置と名前を日本語と対象言語の両方で確かめながら進めると、記憶に残りやすくなります。
ステップ4は、主な病気の知識を学ぶことです。ハンドブックの第3章で、診療科ごとの病気を学びます。ステップ3で学んだ身体の組織と結びつけて、どこでどんな異常が起きる病気なのかを理解しながら用語を覚えます。
ステップ5は、自分専用の用語集を作ることです。協会のExcelファイルや厚生労働省のテキストの単語集を土台に、学んだ用語を日本語と対象言語で併記して書き込んでいきます。カリキュラム基準でも、修了の条件に対象言語と母語を併記した用語集の提出が含まれています。用語集は、学習の記録であると同時に、仕事を始めてからも使い続ける道具になります。
ステップ6は、通訳の技術を練習することです。前巻のテキストの通訳技術の基礎と模擬通訳トレーニング、厚生労働省のテキストの通訳実技を使い、話を聞きながら要点を書き留めるノートテイキングと、話の区切りごとに訳す逐次通訳を練習します。音声例を使って、聞き取った用語をすぐに対象言語で言えるかを確かめる練習も効果があります。このステップは、知識の学習が一通り終わってから始めるのではなく、ステップ3やステップ4と並行して少しずつ進めるのが理想です。
独学で使える練習方法
知識を覚えるだけでなく、口から訳が出てくるようにするには、練習の工夫が要ります。独学でも取り組める練習方法を紹介します。
1つ目は、音声を使った聞き取りと口慣らしです。協会が公開している医療関係用語の英語の音声例のように、用語の発音を確かめられる教材を使い、聞いた用語をすぐに声に出して繰り返します。耳で覚えた用語は、実際の会話の中でも聞き取りやすくなります。
2つ目は、文書を見ながら声に出して訳す練習です。問診票や医療機関の案内文のような短い文書を、見ながらその場で対象言語に訳して声に出します。通訳の現場では、紙の書類を読み上げて訳す場面もあるため、実際に近い練習になります。
3つ目は、対話の場面を想定した練習です。受付、問診、診察、検査の説明、薬の受け取りといった場面ごとに、医師と患者のやりとりを書き出し、医師の役と患者の役の両方の台詞を訳します。家族や学習仲間に台詞を読んでもらい、聞いてから訳す練習ができると、逐次通訳に近い形になります。
4つ目は、自分の訳を録音して聞き直すことです。録音すると、言いよどみや訳し漏れ、用語の誤りに気づけます。カリキュラム基準でも、自身の通訳を振り返り、常に能力の維持と向上を図ることが、医療通訳者に必要な能力として挙げられています。
5つ目は、ノートテイキングの練習です。話の要点を記号や略語で素早く書き留める技術で、長い説明を正確に訳すために欠かせません。数字、薬の名前、日付、回数など、聞き漏らすと影響の大きい情報を確実に書き留める練習から始めると効果的です。
どの練習も、短い時間でよいので毎日続けることが大切です。身体と病気の知識の学習と、口を動かす練習を組み合わせると、知識が使える力に変わっていきます。
独学の限界と、研修の選び方
書籍と無料の教材で、知識の土台は独学でも固められます。ただ、通訳の技術、特に実際のやりとりの中で正確に訳す力は、独学だけでは身につきにくい部分です。カリキュラム基準が、通訳実技を少人数で行うことを求めているのも、そのためです。
研修を選ぶときは、次の点を確かめましょう。
・対象言語のコースがあるか
・模擬通訳など、実技の練習が含まれているか
・講師が医療通訳の現場経験を持っているか
・オンラインで受けられるか、通う必要があるか
・修了の条件と、修了証の有無
・受講料と、録画や資料の提供の有無
たとえば、協会が開く2026年度の医療通訳教室の基礎課程は、全日程をZoomで行う3.5日間・計21時間の講座で、英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語のコースが設けられ、受講料は全日程で20,000円と案内されていました。教科書として、前巻のテキストとハンドブックの両方を使います。8割以上受講した人には修了証が交付されます。なお、2026年度の基礎課程は、すでにすべてのコースの受付を終えています。翌年度以降の募集は、協会のサイトで確かめてください。
国の事業として行われる講座もあります。厚生労働省は、観光から医療まで一貫して通訳できる人材の育成を目的とした通訳養成講座の受講者を募集しており、申し込みの締め切りは2026年10月9日(金)と案内されています。オンライン講座と実地研修を通じて、医療通訳と観光通訳の連携や役割分担を学ぶ内容です。こうした募集は年度ごとに変わるため、厚生労働省の医療の国際展開のページを定期的に確かめておくと、機会を逃しません。
学びから仕事を受けるまでの道のり
医療通訳の学習を終えても、すぐに仕事の依頼が来るわけではありません。学びから仕事までの道のりを、段階ごとに整理しておきます。
最初の段階は、研修を修了して、学んだことを形にすることです。研修の修了証、作った用語集、受講した講座の内容は、仕事を探すときに自分の力を示す材料になります。カリキュラム基準に沿った研修を修了していることは、依頼する側にとっても判断の目安になります。
次の段階は、経験を積むことです。地域の国際交流協会や支援団体では、外国人住民の生活相談や行政の窓口などで通訳の協力者を募ることがあります。医療の場面に限らず、通訳の場数を踏むことは、逐次通訳の技術を磨く機会になります。参加する場合は、守秘義務や役割の範囲について、団体の決まりを必ず確かめてください。
その次が、通訳や翻訳の事業者への登録です。医療機関と契約して通訳を提供する事業者や、医療文書の翻訳を手がける会社では、登録の際に語学力や医療の知識を確かめる試験や、訳文の試し(トライアル)を行うことがあります。ここで、ハンドブックや厚生労働省のテキストで学んだ知識が問われます。遠隔通訳を在宅で受けたい場合は、自宅の通信環境や作業の環境についても確認されることがあります。
在宅ワークの仲介サイトで、医療関係の翻訳や、患者向けの案内文の作成といった案件を探す方法もあります。最初は短い文書の翻訳など、範囲の小さい案件から始め、依頼主の評価を積み重ねていくと、専門性の高い案件にもつながりやすくなります。
どの段階でも大切なのは、自分の力の範囲を正直に伝えることです。対応できる言語と分野、経験の量を偽らずに示し、自信のない分野の依頼は受けない。この姿勢が、医療の分野では何よりの信用になります。
在宅でできる通訳や翻訳の仕事への生かし方
医療通訳の学びは、在宅でできる仕事にもつながります。ここでは、代表的な形を整理します。
1つ目は、電話やビデオを使った遠隔通訳です。医療機関と通訳者をつなぎ、離れた場所から通訳する形で、自宅から対応できる場合があります。厚生労働省も、使われる数の少ない言語、いわゆる希少言語について、医療機関向けの遠隔通訳サービスを委託事業として実施しています。厚生労働省の案内では、希少言語は費用対効果の面から医療機関が通訳サービスの事業者と常時契約するのが難しく、通訳者の確保にも課題があると説明されています。対象言語によっては、遠隔通訳の担い手が求められている分野だと言えます。
2つ目は、医療に関する文書の翻訳です。患者向けの案内文、問診票、病院の掲示物、医療機関のWebサイトなど、外国人の患者に向けた文書を翻訳する仕事は、在宅で受けやすい形です。身体と病気の用語を正確に理解していることは、翻訳の品質に直結します。
3つ目は、用語集や多言語の資料づくりです。医療機関や自治体、支援団体が、外国人の患者向けの資料や用語集を作る際に、訳語の確認や作成を手伝う仕事があります。学習の中で作った用語集の経験が、そのまま生きる分野です。
在宅の仕事を受けるときに忘れてはいけないのが、医療通訳者の役割の範囲です。遠隔通訳でも翻訳でも、自分の判断で医学的な説明を加えたり、患者に助言したりしてはいけません。分からない用語や、確信の持てない訳があれば、その場で確認する姿勢が求められます。カリキュラム基準が倫理として挙げる、能力の限界を自覚して適切に判断することは、在宅の仕事でも変わりません。
在宅で遠隔通訳をするときに整えておきたい環境
在宅で遠隔通訳をする場合、通訳の力と同じくらい大事なのが、作業の環境です。医療の場面では、患者の病状や個人の事情など、とても慎重に扱うべき情報を耳にします。
まず、声が外に漏れない部屋を用意します。家族が出入りする部屋や、窓を開けたままの部屋では、患者の情報が第三者に聞こえるおそれがあります。通訳中は、家族にも部屋に入らないよう伝えておきましょう。
次に、機材です。相手の声をはっきり聞き取れ、自分の声を正確に届けられるヘッドセット、安定したインターネットの回線、予備の通信手段を用意します。聞き取れないまま訳すことは、誤訳の原因になります。音声が途切れたときに、どう確認し直すかを、依頼元と事前に決めておくと安心です。
メモの扱いにも注意が要ります。通訳中にとったメモには、患者の情報が含まれます。依頼元の決まりに従って、通訳が終わったら確実に処分しましょう。パソコンでメモをとる場合も、保存先とファイルの削除の方法を決めておきます。
最後に、心の負担への備えです。医療の通訳では、重い病気の告知や、つらい場面に立ち会うことがあります。カリキュラム基準でも、万全な体調で業務にあたれるよう、感染予防と体調、メンタルの管理を行うことが能力の1つとして挙げられています。1日に受ける件数を決める、終わったあとに気持ちを切り替える時間をとるなど、続けられる働き方を考えておきましょう。
学習を続けるための計画の立て方
医療通訳の学習は、範囲が広く、短期間で終わるものではありません。続けるためには、無理のない計画を立てることが大切です。
計画を立てるときは、カリキュラム基準の構成を目安にします。基準では、通訳理論と技術、倫理とコミュニケーション、医療通訳に必要な知識の3つを合わせて75時間以上としています。独学の場合も、この3つの領域に時間を配分すると、学びが偏りません。
たとえば、平日に30分、週末に2時間を学習にあてるとすると、1週間で4時間半ほどになります。この場合、身体の組織を1週間に2項目ずつ進めれば、ハンドブックの第2章の13項目は7週間ほどで1周できます。病気の知識も同じように、診療科ごとに区切って進めます。
学習の記録をつけることもおすすめです。その日に学んだ項目と時間、覚えにくかった用語を書き残しておくと、進み具合が目に見え、苦手な分野も分かります。
1周目で完璧を目指す必要はありません。まず全体を通して読み、用語集を作りながら2周目、3周目と深めていくほうが、結果として定着します。分からない部分に印をつけておき、研修や講座で質問できるようにしておくのも効果があります。
語学力の目安に届いていない場合は、医療通訳の学習と並行して、対象言語そのものの力を伸ばす時間も確保しましょう。カリキュラム基準でも、目安に達していない受講者には語学力を伸ばすための支援を行い、その研修はカリキュラムの時間数に含めないとしています。医療の知識と語学力は、車の両輪として伸ばしていくものです。
運営者の視点から見た、医療通訳の学びと在宅ワーク
在宅ワークの市場を長く見てきた立場から言えば、通訳や翻訳の仕事で長く信頼される人は、語学力そのものより、専門分野の知識と、分からないことを分からないと言える誠実さで評価されています。医療のように、1語の誤りが人の健康にかかわる分野では、その傾向がとりわけ強く表れます。
運営者として見てきた限りでは、専門分野の翻訳で継続の依頼を受けている人ほど、自分の用語集を丁寧に育てています。依頼主ごとの言い回しの好み、過去に確認した訳語、迷った用語の調べ方。こうした積み重ねが、品質の安定と納期の確かさにつながります。中間の手数料が乗らない直接の取引なら、依頼する側は同じ予算でより多くを頼め、受ける側は手取りが厚くなります。専門性を磨いた人ほど、その恩恵を受けやすくなります。
翻訳や文章の仕事全体の収入の目安は、公的な統計をもとにした著述家,記者,編集者の年収・単価相場で確かめられます。患者向けの案内文や、医療機関の掲示物のように、分かりやすく正確な文章が求められる仕事では、日本語の文書を整える力も問われます。その力を確かめる資格として、ビジネス文書検定があります。
また、機械翻訳や生成AIを使った翻訳の支援も広がっています。ただし、医療の分野では、機械の訳をそのまま使うことはできず、専門知識を持つ人の確認が欠かせません。AIの使い方を業務に合わせて提案する仕事の全体像はAIコンサル・業務活用支援のお仕事で、患者の情報のような慎重に扱うべき情報を守る仕事はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事で紹介しています。医療通訳の学びを土台に、自分に合う在宅の働き方を考えてみてください。
よくある質問
Q. 医療通訳学習ハンドブックは、どんな人に向いている本ですか?
身体のしくみと主な病気の知識を、多言語の訳例とあわせて学びたい人に向いています。英語、韓国・朝鮮語、中国語、スペイン語、ポルトガル語、インドネシア語に加え、ベトナム語とタイ語を含む8か国語に対応しています。通訳の倫理や技術を広く学びたい場合は、前巻の『医療通訳学習テキスト』と組み合わせて使うのがおすすめです。
Q. 医療通訳を無料で学べる教材はありますか?
厚生労働省が、医療通訳育成カリキュラム基準、テキスト「医療通訳」、指導要項をPDFで無料公開しています。テキストには人体器官図、通訳理論と技術、倫理とコミュニケーション、通訳実技、単語集が含まれています。日本公共通訳支援協会のサイトでも、医療関係用語の索引のExcelファイルなどが無料でダウンロードできます。
Q. 医療通訳者には、どのくらいの語学力が必要ですか?
厚生労働省の医療通訳育成カリキュラム基準では、対象言語の目安をヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)のB2以上としています。日本語は日本語能力試験のN1、中国語はHSK5級・中国語検定2級以上が目安です。あわせて、母語で大学入学相当の語学力と、高校卒業程度の知識があることも受講の条件に挙げられています。
Q. 医療通訳の学びを生かして、在宅で働くことはできますか?
電話やビデオを使った遠隔通訳、患者向けの案内文や問診票などの医療文書の翻訳、多言語の用語集づくりといった形があります。どの形でも、自分の判断で医学的な説明や助言を加えてはいけません。遠隔通訳では、声が外に漏れない部屋や安定した回線を用意し、患者の情報を慎重に扱う環境を整えることが欠かせません。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを運営。生成AIで作成した下書きを、一次情報と照らし合わせて確認したうえで公開しています。

この記事を書いた人
@SOHO編集部
フリーランス・在宅ワークの専門メディア
@SOHOは2004年から続く、日本のフリーランス・在宅ワーク向け案件サイトです。記事は生成AIで下書きを作り、数値・固有名・出典を一次情報と照らし合わせる確認の手順を経て公開しています。
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