電子定款を自分で作る手順|要る道具とソフト


この記事のポイント
- ✓電子定款を自分で作るとき
- ✓実際に何を用意すればよいのかを法務省と公証人連合会の記載で確認しながら整理しました
- ✓使える電子証明書の種類
電子定款を自分で作れば印紙代の4万円が浮く。そこまでは、調べ始めてすぐに分かります。分からないのは、そのために何を買って、どのソフトを入れて、どういう順番で進めるのかという具体の部分です。
この記事は、電子定款を自分で作ると決めた人が、必要なものを一通りそろえて申請までたどり着けるように、道具と手順を順番に並べたものです。金額と仕様は法務省の登記・供託オンライン申請システムと日本公証人連合会の記載で確認しています。
自分でやると、何が浮いて何が増えるのか
先に損得の輪郭をはっきりさせます。
浮くのは印紙代の4万円です。紙で定款を作ると収入印紙4万円を貼る必要がありますが、電子データで作ればこれが不要になります。この4万円だけが、自分でやることの金銭的な取り分です。
増えるのは3つです。1つ目が電子証明書の費用、2つ目が署名ソフトの費用、3つ目が時間です。マイナンバーカードを持っていればカード自体は無料ですが、それを読み取るICカードリーダーが要ります。Adobe Acrobatは有料のソフトで、買い切りではなく年額の契約が主流です。時間については、初めて通る人なら準備だけで数日を見ておくのが現実的です。
注意しておきたいのは、認証手数料は電子にしても変わらないという点です。株式会社の定款認証は、資本金の額等が100万円未満で3万円、100万円以上300万円未満で4万円、それ以外で5万円です。登記のときの登録免許税も変わりません。自分でやることで消えるのは、印紙代の4万円ひとつだけです。
ここを踏まえたうえで、必要なものを見ていきます。
用意するもの1 パソコンの環境
意外と最初につまずくのがここです。
法務省の登記・供託オンライン申請システムは、専用アプリである申請用総合ソフトを使う方式と、ブラウザで進めるかんたん登記・供託申請の2つの入口を持っています。電子公証の申請では申請用総合ソフトを使います。
このソフトの推奨環境として法務省が挙げているのは、OSがWindows 11、ブラウザがMicrosoft EdgeまたはGoogle Chrome、フレームワークが.NET Framework 4.8.1、PDF閲覧ソフトがAdobe Acrobat Reader DCです。ハードディスクには300メガバイト以上の空き容量が必須とされています。
ここで重要なのは、推奨環境にMacが挙がっていないことです。普段の仕事をMacで回している人は、この1点で計画が変わります。Windowsのパソコンを別に用意するか、仮想環境でWindowsを動かすか、あるいは自分でやること自体を見直すか。先に決めておかないと、ソフトをダウンロードする段階で止まります。
推奨環境というのは、法務省が動作を確認した環境という意味です。書かれていない環境で動く可能性が無いわけではありませんが、うまくいかなかったときに問い合わせても支援は受けられません。会社設立という一度きりの手続きで環境の切り分けに時間を使うのは、割に合わない選択です。
用意するもの2 電子証明書とカードリーダー
電子署名は、電子証明書という身分証明書にあたるデータを使って行います。何でもよいわけではなく、使える発行元が決まっています。
法務省は、電子公証関係手続でオンライン申請に使える電子証明書として、次の4つの認証機関のものを挙げています。商業登記に基づく電子認証制度を運営する電子認証登記所、地方公共団体情報システム機構による公的個人認証サービスに係る認証局、セコムパスポート for G-IDに係る認証局、電子認証サービス(e-Probatio PS2)に係る認証局です。一覧は電子公証関係手続で利用できる電子証明書の案内で確認できます。
これから会社を作る個人にとって、現実的な選択肢は2番目です。公的個人認証サービスの電子証明書というのは、マイナンバーカードに入っている署名用電子証明書のことを指します。すでに持っている人が多く、追加の費用がかかりません。
1番目の商業登記電子証明書は、すでに登記されている法人が代表者として使うものなので、これから作る会社の設立手続きには使えません。法人が発起人になる場合は選択肢に入ります。3番目と4番目は民間の認証局が発行するもので、年単位の費用がかかります。
マイナンバーカードを使う場合、カードを読むためのICカードリーダーが必要です。数千円で手に入る機器ですが、対応機種の確認は忘れないでください。あわせて、署名用電子証明書のパスワード、つまり市区町村の窓口で設定した英数字6文字から16文字のものが必要になります。カードを受け取ってから一度も使っていない人は、ここで思い出せずに止まることがあります。市区町村の窓口で再設定できますが、日数がかかるので早めに確認しておきましょう。
用意するもの3 署名するためのソフト
PDFに署名を付ける方法は、大きく3つに分かれます。
1つ目が、法務省が提供するPDF署名プラグインを使う方法です。法務省は、Adobe Acrobatを利用していて、かつ公的個人認証サービス発行の電子証明書、政府認証基盤の政府共用認証局発行の電子証明書、地方公共団体組織認証基盤の組織認証局発行の電子証明書、ファイルタイプの電子証明書のいずれかを使う場合には、このプラグインでPDFに電子署名を付けられると案内しています。
ここで見落とされやすいのが、プラグイン自体は無料でも、Adobe Acrobatを別途用意する必要があり、そちらは有料だという点です。PDF署名プラグインの案内ページにも、Adobe Acrobatを別途用意(有料)してパソコンにインストールすると明記されています。無料で済む方法を探していた人は、ここで方針を決め直すことになります。
2つ目が、Adobe Acrobat自体の電子署名機能を使う方法です。この場合、Adobeデフォルトセキュリティ方式でPDFに電子署名を行う必要があると案内されています。設定を間違えると形式が合わず、送った先で検証できません。また、一部のICカードタイプの電子証明書ではAcrobatの署名機能が使えない場合があるとされているので、手持ちのカードで通るかは事前に確認が要ります。
3つ目が、SkyPDFなど対応が確認されている他のソフトを使う方法です。こちらも、ICカードタイプの電子証明書との相性の問題は同じように起こり得ます。
なお、商業登記リモート署名に対応した商業登記電子証明書であれば、商業登記リモート署名ドライバソフトを入れることでカードを読み取らずに署名できる仕組みも用意されています。ただし前述のとおり、設立前の個人が使える証明書ではないので、設立時の定款では基本的に出番がありません。
XML形式で署名する道もあり、その場合は申請用総合ソフトに組み込まれた機能を使います。定款はPDFで作るのが一般的なので、まずはPDFの経路で考えてください。
手順1 定款の中身を固める
道具がそろったら、中身を作ります。ここを急ぐと後戻りが発生するので、先に固めきってください。
株式会社の定款に必ず書く事項は、会社法第27条で5つ決まっています。目的、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所です。これらを欠いた定款は無効になります。
書き方で費用が変わる箇所があるので、そこだけ注意しておきます。定款に資本金の額等が書かれていない場合、手数料は設立に際して出資される財産の価額を基準に決まります。ところが「設立に際して出資される財産の最低額」という書き方をすると、100万円未満の区分にも100万円以上300万円未満の区分にも当てはまらないと扱われ、手数料は5万円になります。少額で作るつもりだったのに2万円多く払う結果になるので、金額の書き方は作成の段階で公証役場に相談してください。
小規模な会社には、手数料が下がる区分もあります。資本金の額等が100万円未満で、発起人の全員が自然人かつ3人以下、定款に発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける旨の記載があり、取締役会を置く旨の記載が無い。この3つすべてに当てはまる場合、手数料は1万5,000円になります。1人で小さな株式会社を作るなら、この条件に入るように書くだけで手数料が半額になります。
日本公証人連合会は定款の記載例を公開しているほか、小規模でシンプルな株式会社向けの定款作成支援ツールも提供しています。ゼロから条文を書き起こす必要はありません。
手順2 PDFに変換する
中身が固まったら、PDFにします。ここには具体的な制限があります。
認証の対象となる電子文書は、PDF形式に限られます。電子確定日付の付与は、テキスト形式、PDF形式またはXML形式が使用できます。電子文書は、10メガバイト以下のものに限られます。ファイル名(件名)は、全角の場合には15文字以内、半角の場合には31文字以内に納めてください。 出典: koshonin.gr.jp
定款の本文だけなら、10メガバイトを超えることはまずありません。実務で引っかかるのはファイル名のほうです。「株式会社〇〇定款(最終版)2026年9月」のような名前を付けると全角15文字を軽く超えます。「〇〇定款」程度の短い名前にしておいてください。使える文字は全角と半角の英数字と記号の一部、カタカナ、ひらがな、JIS第1水準と第2水準の漢字とされているので、旧字体の商号を扱う場合は文字が通るかも確認が要ります。
変換の方法は、Wordの書き出し機能でもAdobe Acrobatでもかまいません。ただし、パスワードで保護をかけたり、編集を制限する設定を入れたりすると署名や検証で問題が起きることがあるので、保護は付けずに出力してください。
紙の定款で必要だった作業のうち、電子では要らなくなるものもあります。紙の場合はA4の用紙に片面横書きで印刷し、表紙、本文、裏表紙の順に綴じて袋とじにするか、ホチキスで留めます。そのうえで発起人が署名または記名押印し、各ページの間に契印を押します。電子定款では、この綴じ方と契印の作業がまるごと不要です。ページ数が多い定款ほど、この差は大きく出ます。
作成日付は書いておくのが通例です。その日付は、認証を受ける日より前の日になります。署名と送信のスケジュールを先に決めてから日付を入れると、前後が逆になる事故を防げます。定款に使う言語は日本語です。英語などを併記しても、正式な定款は日本語の部分で、外国語の部分は翻訳として扱われます。
手順3 電子署名を付ける
ここが最も慎重さを求められる工程です。理由は1つで、署名した後は文字を直せないからです。
日本公証人連合会も、ひとたび電子署名をした電子文書は字句の訂正や変更ができず、送った後に直す必要が生じた場合は、元の文書を直して改めて電子署名を行い、もう一度送らなければならないため手間と時間を要すると注意しています。誤字1文字でも、同じ工程をやり直すことになります。
だから、署名の前に必ず公証人の事前確認を通します。順番としては、PDFを作る、公証役場に内容を見てもらう、指摘を直す、そこで初めて署名する、という流れです。この順番を守るだけで、やり直しの大半は避けられます。
署名は、カードリーダーにマイナンバーカードを挿し、署名用電子証明書のパスワードを入力して行います。発起人が複数いる場合は、全員の電子署名が必要です。全員がマイナンバーカードと環境を持っているとは限らないので、その場合は1人を定款作成代理人として、その人だけが署名する形をとることもできます。ただし代理人が署名する場合、発起人から代理人への委任状が別途必要になります。電子署名付きの電子委任状をオンラインで送るか、印鑑登録証明書を付けた紙の委任状を郵送することになります。
手順4 システムに登録して送信する
電子公証は法務省の登記・供託オンライン申請システムを通じて行われます。利用には申請者情報登録、つまりユーザー登録と、申請用総合ソフトのダウンロードが必要です。
登録には氏名、住所、連絡先などを入力します。ここで設定したIDとパスワードは、以後の申請と処理状況の確認に使うので、必ず控えておいてください。
申請書には、嘱託人の氏名のほか、実質的支配者となるべき者の氏名と読み(カナ)を入力します。実質的支配者というのは、その会社を実際に支配している個人のことです。マネーロンダリング対策として、株式会社と一般社団法人と一般財団法人について申告が求められています。1人で出資して1人で経営する会社なら、その本人が実質的支配者にあたります。
送信先には、事前に打ち合わせをした公証人を指名します。誰でもよいわけではありません。電子公証に対応できるのは、法務大臣に指定された指定公証人だけです。さらに、定款の認証は会社の本店の所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人しかできず、管轄区域外の公証人がした定款の認証は無効になります。本店を置く都道府県の中から、電子公証に対応している役場を選んでください。
手順5 認証を受けて、書類を受け取る
送信したあとは、公証人が認証を行います。方式は2つです。
テレビ電話を利用する方式なら、公証役場へ出向く必要がありません。公証人がテレビ電話で、電子署名が本人によってされたものであることを確認し、あわせて本人確認を行います。認証が済むと、システムを通じて認証済みの電子定款のデータが送られ、申告受理および認証証明書は返信用のレターパックで郵送されます。
テレビ電話を使わない方式では、公証役場へ行きます。認証済みのデータを保存するための電子媒体、つまりCD-RやUSBメモリなどを持参します。未使用のものか、ウイルス感染が無いことを確認したものを用意してください。本人確認資料として、官公署発行の顔写真付き身分証明書か、発行3か月以内の印鑑登録証明書と実印が必要です。
受け取るときに1つ判断が要ります。登記の申請には電子データのまま使えますが、日本公証人連合会は、近時は銀行等の金融機関で紙ベースの定款を求める運用もなされているとして、謄本を請求する場合は必ず書面で交付を受けるよう促しています。法人口座の開設は設立直後に必ず通る手続きなので、紙の交付もあわせて頼んでおくのが安全です。この同一の情報の提供の手数料は700円で、書面で交付を受ける場合は1枚につき20円が加算されます。
合同会社を自分で作る場合は、工程が短くなる
ここまでは株式会社を前提に書いてきました。合同会社の場合、手順が1つ丸ごと消えます。
持分会社、つまり合名会社、合資会社、合同会社の定款には、公証人の認証が要りません。日本公証人連合会は、持分会社の定款が認証を必要とせず株式会社の定款が必要としているのは、経営と責任が分離されて不特定多数の者がかかわる設計となっている株式会社について、設立後の紛争予防や不正防止の必要性が特に高いためだと説明しています。
したがって、公証役場との事前打ち合わせも、認証の予約も、テレビ電話の日程調整も不要です。認証手数料の3万円から5万円も、謄本の250円もかかりません。
では合同会社で電子定款にする意味は無いのかというと、そうではありません。印紙税の観点では残ります。国税庁の印紙税額の一覧表は、第6号文書である定款について、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社または相互会社の設立のときに作成される定款の原本に限ると注記したうえで、印紙税額を4万円としています。合同会社でも、紙で作れば4万円がかかるということです。電子データで作ればこれが不要になります。
作った電子定款は、設立登記の申請に添付します。オンラインで申請する場合はそのまま添付ファイルとして送りますが、書面で申請する場合でも、商業登記規則第35条の3は、法務大臣の指定する方式に従って電磁的記録を記録した媒体を申請書とともに提出する方法を認めています。つまり、署名済みのPDFをCD-RなどにコピーしたものをWindowsの環境で用意し、申請書と一緒に法務局へ持ち込む形が取れます。
合同会社の設立登記の登録免許税は、資本金の額の1,000分の7で、これが6万円に満たないときは6万円です。株式会社の15万円と比べると負担が軽く、認証が無いぶん工程も短い。自分でやりやすいのは、明らかに合同会社のほうです。
準備にどれくらいの日数を見ておくか
初めて通る人の時間の読みを、工程ごとに整理しておきます。
マイナンバーカードを持っていない場合、申請から受け取りまでに数週間かかります。ここが最も長い工程になるので、会社を作ると決めた日に真っ先に申請してください。すでに持っていて、署名用電子証明書のパスワードを忘れている場合も、市区町村の窓口で再設定する時間が要ります。
ICカードリーダーの購入と接続の確認に半日。Adobe Acrobatの契約とインストール、PDF署名プラグインの導入と環境設定で半日から1日。申請用総合ソフトのダウンロードと申請者情報登録で半日。ここまでが道具の準備です。
定款の中身を書く時間は、記載例をもとにするなら1日から2日。そこから公証役場に事前確認を依頼し、返事を待って修正する期間が数日です。公証役場は予約制で動いているところが多く、混み具合によっては打ち合わせの日程が先になります。
認証そのものは、書類がそろっていれば短時間で終わります。テレビ電話の方式なら、予約した時間に接続して確認を受けるだけです。ただし電子公証システムは平日17時で止まるので、当日中の処理を狙うなら午前中に動くのが安全です。
全部を足すと、カードを持っている人で1週間から10日、持っていない人で1か月前後が目安になります。設立日を特定の日にそろえたい事情があるなら、この逆算から始めてください。
つまずきやすい場所
準備が整っていても止まりやすい箇所があります。先に知っておくと、時間の読みが正確になります。
システムの動く時間が2つあります。登記・供託オンライン申請システム自体は平日8時30分から23時まで、休日も8時30分から18時まで動いています。一方で公証役場側の電子公証システムの事務取扱時間は、月曜日から金曜日の8時30分から17時までです。17時でシステムが止まるので、終業間際に送った案件は当日中に処理できない場合があると案内されています。設立日を特定の日にそろえたいなら、この差を計算に入れてください。
Adobe Acrobatの設定も落とし穴です。署名の形式が規定と合っていないと、送った先で検証が通りません。法務省は、Acrobatの電子署名機能を使う場合はAdobeデフォルトセキュリティ方式で行う必要があると明記しています。プラグインを使う場合も、環境設定を操作説明書どおりに行ってください。
パソコンのユーザー名も見落とされがちです。法務省は、パソコンのユーザー名に使用できる文字についての注意を別ページで案内しています。日本語のユーザー名や記号を含むユーザー名で不具合が出ることがあるので、ソフトが起動しないときはここを疑ってください。
受け取ったデータの保管も、その場で決めておきましょう。認証済みの電子定款は、会社が持ち続ける正本にあたります。日本公証人連合会は、認証した電子文書を20年間、電子確定日付に関するデータを50年間保存するとしていて、請求すれば同一である旨の書面の交付を受けられると案内しています。とはいえ、そのたびに手数料と時間がかかります。受け取った直後にクラウドと外付けの記録媒体の2か所へコピーし、紙で交付を受けた謄本は会社の実印と同じ場所にまとめてください。株式会社は定款を本店に備え置く義務があるので、手元に何も無いという状態は作らないことです。
そして、事前打ち合わせを飛ばさないことです。日本公証人連合会は、定款認証について、内容に不備があると設立登記ができなくなるおそれがあるため、申請前に指名する公証人と連絡を取って定款の内容等について事前審査を受けるよう求めています。手数料の支払い方法の案内もそこで受けられます。
自分でやるべき人、やめたほうがいい人
判断の基準は、浮く4万円と、増える費用と時間の比較です。
自分でやる価値が高いのは、Windowsのパソコンを持っていて、マイナンバーカードの署名用電子証明書をすでに使ったことがあり、設立後も電子契約や電子申請を日常的に使う予定がある人です。この条件がそろっていれば、追加で買うのはカードリーダーくらいで、環境は設立後も生き続けます。
見直したほうがよいのは、Macしか持っていない人、マイナンバーカードを持っていない人、設立を急いでいる人です。Windowsの環境を用意する費用、カードの発行を待つ日数、Adobe Acrobatの年額費用を足していくと、浮いた4万円は簡単に消えます。
発起人が複数いる場合も、慎重に考えたほうがよい条件です。全員が電子署名の環境を持っていないと、1人ずつ環境を整えるか、代理人に委任状を出してもらうかのどちらかになります。委任状を紙で用意するなら印鑑登録証明書も要るので、電子にしたはずなのに紙のやり取りが増えるという逆転が起こります。発起人が3人以上いる会社は、自力でやる利点が薄くなりがちです。
その中間として、電子定款に対応した会社設立サービスを使う方法があります。この場合、サービス側が自社の電子証明書で署名するため、依頼する側は機材もソフトも持たずに印紙代の4万円だけを節約できます。手数料が無料のものから数万円のものまであるので、総額で比べてください。
紙の定款を選ぶという判断も、状況によっては合理的です。4万円を払う代わりに、環境構築とソフトの契約と手順の学習が全部消えます。時間に値段を付けて考えたとき、どちらが自分にとって高いのかという問題です。
手続きに強くなることが、そのまま受注の速さになる
フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、電子定款でつまずく人とすんなり通る人の差は、知識よりも電子証明書を使ったことがあるかどうかで決まっています。確定申告をe-Taxで済ませてきた人は、カードリーダーとパスワードの扱いに慣れているので、署名の工程で止まりません。紙と押印で仕事をしてきた人は、たいていここで数日を使います。
運営者として見てきた限りでは、この差は設立のあとも続きます。電子契約に対応できる事業者は、遠方の発注者との取引が進めやすく、契約から着手までの時間が短くなります。書類のやり取りだけで1週間を失うか、その日のうちに動き出せるかは、受注の機会そのものに効いてきます。とくに開発系の案件では、契約手続きの速さが選定の材料になる場面があります。アプリケーション開発のお仕事のような長期の案件では、着手が早いほど関与できる工程が増えます。企業の生成AI導入を支援するAIコンサル・業務活用支援のお仕事や、広い領域を扱うAI・マーケティング・セキュリティのお仕事でも、稟議に乗せやすい形で見積もりと契約を出せることが強みになります。
お金の面でも同じ構造があります。仲介が層になっている仕組みでは、依頼者が払った金額と受け手に届く金額の間に差が生まれます。中間マージンが乗らない直接取引であれば、同じ予算で依頼者はより多く頼めますし、受け手の手取りは厚くなります。手数料0%の仕組みが効くのは、単価を吊り上げるからではなく、この目減りをなくすからです。設立時に浮く4万円より、毎月の取引で消える金額のほうがはるかに大きいという現実があります。
自分の仕事がどの相場帯にあるのかは、資本金の額を決めるうえでも事業計画を組むうえでも材料になります。ソフトウェア作成者の年収・単価相場や著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると、同じ制作の仕事でも領域によって単価の分布が違うことが分かります。法人化すると固定費が増えるので、どの分布で戦うかを先に決めておくと資金計画がぶれません。
法人として動き始めると、書類の質が取引の速さを左右するようになります。契約書や請求書の体裁が整っていれば経理部門での確認が早く、支払いも滞りにくくなります。文書の基本を押さえるならビジネス文書検定が参考になりますし、ネットワークまわりの提案を扱うならCCNA(シスコ技術者認定)が技術的な裏づけになります。取引が大きくなるほど支払いが止まったときの影響も大きくなるので、回収の手順を先に知っておくことにも意味があります。未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】とフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが土台になります。会計まわりまで仕事の幅を広げたい人には会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】も参考になります。
電子定款を自分で作る作業は、会社を作る工程の中では小さな山です。それでも、ここで電子証明書を一度使っておくと、その後の申請や契約が地続きになります。4万円という数字は入口にすぎません。
よくある質問
Q. 電子定款を自分で作るのに全部でいくらかかりますか?
浮くのは印紙代の4万円です。増えるのは、ICカードリーダー代が数千円、Adobe Acrobatの利用料が年額でかかります。マイナンバーカードを持っていればカード自体は無料です。認証手数料の3万円から5万円と登録免許税は、電子にしても紙と同じ金額がかかります。設立後も電子申請を使う予定があるなら、環境は無駄になりません。
Q. Macでも電子定款を自分で作れますか?
法務省が申請用総合ソフトの推奨環境として挙げているのはWindows 11で、Macは挙げられていません。推奨環境とは法務省が動作を確認した環境という意味で、書かれていない環境で問題が起きても支援は受けられません。Macしか持っていない場合は、Windows環境を別に用意するか、電子定款に対応した設立サービスを使うほうが現実的です。
Q. マイナンバーカードがあれば電子定款に署名できますか?
公的個人認証サービスの署名用電子証明書は、電子公証で使える電子証明書として法務省が挙げている4つのうちの1つです。あわせてICカードリーダーと、市区町村で設定した署名用のパスワードが要ります。署名にはAdobe Acrobatと法務省のPDF署名プラグインを使う方法が案内されていて、Acrobatは別途有料で用意する必要があります。
Q. 電子署名を付けたあとに誤字が見つかったらどうなりますか?
一度電子署名をした電子文書は、字句の訂正や変更ができません。元の文書を直して改めて電子署名を行い、もう一度送り直すことになります。手間と時間がかかるので、署名の前に必ず公証人の事前審査を受けてください。定款の内容に不備があると設立登記ができなくなるおそれもあるため、事前の確認は省かないことが大切です。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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