役員が亡くなったときの登記|出す書類と期限

前田 壮一
前田 壮一
役員が亡くなったときの登記|出す書類と期限

この記事のポイント

  • ✓役員死亡登記に必要な書類は
  • ✓法務局の記載例では死亡届または法定相続情報一覧図の写しと定められています
  • ✓後任が決まらないときの対処

役員が亡くなったとき、会社には葬儀とは別の実務が発生します。役員死亡登記もそのひとつです。悲しみの整理がつかないうちに書類の話をするのは気が重いものですが、期限が決まっている手続きなので、先に全体像を知っておくほうが結果的に負担は軽くなります。

先に結論を書きます。役員が亡くなった場合に法務局へ出す書類は、変更登記申請書と、死亡の事実を証明する書面の2つが基本です。証明する書面としては、会社宛に出された死亡の届出書か、法定相続情報一覧図の写しが使えます。辞任のときに必要な辞任届も印鑑証明書も要りません。期限は亡くなった日から2週間です。

そしてもうひとつ、多くの解説が触れていない重要な点があります。役員が亡くなって人数が足りなくなった場合、辞任や任期満了のときと違って、亡くなった方が役員の立場に留まることはできません。この違いが、後任選びの緊急度を大きく左右します。

法務局が示している添付書類は2つのどちらか

法務局は役員変更の登記について、申請書のひな形と記載例を公開しています。辞任や死亡によって新しい役員が就任する場合の記載例には、添付書類が次のように書かれています。

(辞任の場合)辞任届 ○通 (死亡の場合)死亡届又は法定相続情報一覧図の写し ○通 出典: houmukyoku.moj.go.jp

ここでいう死亡届は、市区町村に提出する戸籍の死亡届のことではありません。役員が亡くなったことを、ご遺族や同居の方が会社に対して知らせる書面のことです。書式は決まっていません。会社の商号を宛先にして、誰がいつ亡くなったかを書き、届け出た方の住所と氏名を記載すれば足ります。押印も認印で構いません。

実務では、この届出書に戸籍謄本や住民票の除票、死亡診断書の写しといった公的な書類を添えて出すことが多くなっています。法務局によっては、死亡の事実を客観的に確認できる書面を求める場合があるためです。ご遺族に何度も書類を頼むのは心苦しいので、はじめに管轄の法務局へ電話で確認してから依頼すると、手戻りが減ります。

もうひとつの選択肢である法定相続情報一覧図の写しは、相続関係を一枚の図にまとめたもので、法務局が内容を確認して認証文を付けてくれる書面です。相続手続きのために作るものですが、役員死亡登記の証明にも使えます。

本制度は、相続人から相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)とともに、戸除籍謄本等の束を登記所に提出していただき、一覧図の内容が民法に定められた相続関係と合致していることを登記官が確認した上で、その一覧図に認証文を付した写しを無料で交付するというものです。 出典: houmukyoku.moj.go.jp

交付は無料で、必要な枚数だけ受け取れます。銀行の預金の払い戻しや不動産の名義変更、年金の手続きにも同じ写しが使えるので、相続の手続きが並行して動いているご家庭では、これを一度作っておくと全体の手間が大きく減ります。ただし作成には戸籍謄本などを集める必要があり、日数がかかります。登記の期限は2週間なので、先に会社宛の死亡の届出書で登記を済ませ、相続手続きのために一覧図を別途作るという順番のほうが現実的です。

辞任のときに必要な書類は、ここでは要らない

役員死亡登記が辞任の登記と違う点を整理しておきます。

辞任届は不要です。辞任届は本人が自分の意思で辞めると表明する書面なので、亡くなった方について作ることはできません。ご遺族が代わりに書くこともできません。

印鑑証明書も不要です。会社の実印を法務局に預けている代表取締役が辞任する場合には、辞任届に押した印鑑についての印鑑証明書が求められますが、これは辞任のときのルールです。死亡による退任には適用されません。

株主総会議事録も、死亡の登記だけを見れば不要です。亡くなったという事実は決議で決めるものではないからです。ただし、後任を選ぶなら、その決議の議事録と株主リストが必要になります。

登記の申請書に書く原因年月日は、亡くなった日です。会社が知った日でも、届出書を受け取った日でもありません。ご遺族から知らせを受けたのが1週間後だったとしても、起算点は亡くなった日に戻ります。

会社宛の死亡の届出書は、何を書けば足りるか

書式が決まっていないぶん、何を書けばよいか迷う方が多い書面です。最小限の型を挙げておきます。

死亡届

株式会社〇〇〇〇 御中

下記のとおり、貴社取締役〇〇 〇〇が死亡いたしましたので、
お届けいたします。

 死亡者 〇〇 〇〇
 死亡年月日 令和〇年〇月〇日

令和〇年〇月〇日

住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
氏名 〇〇 〇〇  印
(続柄 長男)

書く内容は、誰がいつ亡くなったかと、届け出る方の住所氏名だけです。押印は認印で構いません。続柄を書いておくと、法務局側で関係が分かりやすくなります。

この書面に、死亡の事実を裏づける公的な書類を添えるのが一般的です。戸籍謄本や除籍謄本、住民票の除票、死亡診断書の写しなどが該当します。どれを求めるかは法務局によって運用が異なるため、書類をご遺族に依頼する前に管轄の法務局へ電話で確認しておくと、二度手間になりません。

原本を手元に残したい場合は、コピーに原本と相違ない旨を記載して代表者が記名押印し、原本還付を求めることができます。戸籍謄本は他の相続手続きでも使うので、原本還付は忘れずに申し出てください。

監査役や会計参与が亡くなった場合

亡くなったのが取締役ではなく監査役だった場合も、登記の考え方は同じです。死亡の事実を証明する書面を添えて、退任の登記を申請します。辞任届も印鑑証明書も要りません。

違いが出るのは、後任の扱いです。監査役を置く旨が登記されている会社で、監査役が1人しかいない状態でその方が亡くなると、監査役が不在になります。取締役と同じく、死亡の場合は権利義務の仕組みが働かないため、席は空いたままになります。後任の監査役を選ぶか、株主総会で監査役を置く旨の定款の定めそのものを廃止するかを決める必要があります。定めを廃止する場合は定款変更の決議になり、登記すべき事項も増えます。

会計参与を置いている会社で会計参与が亡くなった場合も、流れは同じです。会計参与は税理士や公認会計士などの資格を持つ人が就くため、後任を探すには外部の専門家に当たることになります。

なお、監査役や会計参与が亡くなったからといって、取締役の登記まで一緒に触る必要はありません。登記すべき事項は、実際に変わった部分だけです。

合同会社で社員が亡くなったときは、仕組みがまるごと違う

株式会社ではなく合同会社の場合、亡くなった方の立場の扱いが根本から変わります。株式会社では、お金を出す株主と、経営を担う役員が別の立場です。合同会社では出資した人がそのまま社員という立場になり、経営に関わる権限もそこに付いてきます。そのため、社員が亡くなったときに動く歯車が株式会社とは違います。

会社法では、社員が亡くなることは退社の事由のひとつとして並べられています。

社員は、前条、第六百九条第一項、第六百四十二条第二項及び第八百四十五条の場合のほか、次に掲げる事由によって退社する。 三 死亡 出典: laws.e-gov.go.jp

定款に何も書いていなければ、亡くなった方の持分はご遺族に引き継がれません。その方は退社したことになり、相続人は持分の払戻しを請求する立場になります。株式をそのまま相続できる株式会社とは、ここが大きく違います。会社を続けるつもりでいたのに、手元の資金から払戻しを求められる形になるので、資金の面でも影響が出ます。

相続人が持分を引き継いで社員になれるようにしておくには、あらかじめ定款に定めを置く必要があります。

持分会社は、その社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる。 出典: laws.e-gov.go.jp

この定めを置いておけば、相続人は持分を承継した時点で社員になります。会社法は、その時点で定款を変更したものとみなすとも定めているので、社員を迎え入れるための決議をあらためて取る必要はありません。ただし相続人が複数いる場合は、その持分について権利を行使する人を1人決めなければ、会社に対して権利を主張できない仕組みになっています。

社員が1人だけの合同会社では、この定めの有無が会社の存続そのものに関わります。社員がいなくなったことは、会社法が挙げる解散の事由に含まれているためです。一人で合同会社を回している方は、定款にこの一文があるかを一度確かめておく価値があります。見つからなければ、生前に総社員の同意で定款を変えれば足ります。費用はかかりません。

登記が必要になるのは、亡くなった方が業務執行社員や代表社員として登記簿に載っていた場合です。出資だけをしていて登記簿に名前が出ていない社員なら、登記簿を直す必要はありません。期限は株式会社と同じで、亡くなった日から2週間です。

申請書の書き方と、出し方の選択肢

申請書に書く内容は決まっています。会社法人等番号、商号のフリガナ、商号、本店、登記の事由、登記すべき事項、登録免許税、添付書類、申請の日付、申請人と代表者の住所氏名です。

登記の事由の欄には「取締役の変更」のように、何が変わったのかを書きます。登記すべき事項の欄には、亡くなった方について「資格」「氏名」「原因年月日」を並べ、原因年月日は「令和〇年〇月〇日死亡」と書きます。後任を同時に登記するなら、その方の分を続けて書きます。

申請人の欄に押すのは、法務局に提出している会社の印鑑です。代表取締役が亡くなって新しい代表取締役がまだ印鑑を届け出ていない場合は、印鑑届書を同時に提出することになります。代理人に頼む場合は、委任状を添えたうえで代理人の認印を押します。

提出の方法は3つあります。本店を管轄する法務局の窓口に持参する、郵送する、オンラインで申請する。郵送の場合は書留や簡易書留を使い、返送用の封筒を同封しておくと補正書類のやり取りがしやすくなります。オンライン申請なら電子納付が使えるため、収入印紙を買いに行く手間がなくなります。

書類を出したあと、内容に不備があると法務局から補正の連絡が入ります。連絡先の電話番号を申請書に書いておくと、早く連絡が取れて修正も早く終わります。

後任が決まらないと、役員の席が空いたままになる

ここが役員死亡登記の最も実務的な難所です。

会社法には、役員が欠けた場合や、法律や定款で定めた人数を下回った場合、退任した役員が新しい役員の就任まで引き続き役員としての権利義務を持つ、という仕組みがあります。ところがこの仕組みの対象は、任期満了または辞任によって退任した役員に限られています。死亡による退任は含まれていません。

つまり、辞任であれば後任が決まるまで席を埋めておいてもらえるのに対し、死亡の場合はその日から席が空きます。取締役会を置いている会社は取締役が3人以上必要なので、3人のうち1人が亡くなると、その瞬間に法律上の要件を満たさない状態になります。取締役1人の会社で、その方が亡くなった場合は、会社を代表する人が誰もいない状態になります。

この状態を放置すると、取引先との契約も、銀行口座の手続きも、税務の届出も進められなくなります。会社として何かを決める権限を持つ人がいないからです。

対処の道は2つあります。1つは、速やかに株主総会を開いて後任を選ぶこと。これが基本です。もう1つは、株主総会をすぐに開けない事情がある場合に、裁判所に対して一時的に役員の職務を行うべき人の選任を申し立てることです。会社法には、役員が欠けた場合に必要があると認めるときは、利害関係人の申立てによって裁判所が一時役員の職務を行うべき者を選任できると定められています。

どちらを選ぶかは、株式を誰がどれだけ持っているかによって変わります。亡くなった方が株式の大半を持っていた場合、その株式は相続人に引き継がれますが、遺産分割が終わるまでは相続人が共同で持っている状態になり、誰が議決権を行使するかを決めて会社に通知する必要があります。ここが決まらないと株主総会そのものが開けません。相続が絡むと会社の意思決定が止まるのは、このためです。

一人で会社を回している経営者ほど、この構造を知らないまま過ごしています。後継者を決めておく、株式の承継について書き残しておく、役員をもう1人置いておく。どれも生前にしかできない準備です。

代表取締役が亡くなった場合に追加で必要になること

亡くなったのが代表取締役だった場合、登記以外にもやることが増えます。

まず、会社の実印の扱いです。法務局に届け出ている印鑑は、代表取締役個人に紐づいて登録されています。代表者が替われば、新しい代表取締役が改めて印鑑を届け出る必要があります。印鑑届書には、届け出る本人の市区町村に登録済みの印鑑を押し、作成から3か月以内の印鑑証明書を添えます。前任者の印鑑カードを引き継ぐこともできます。

この届出が済むまで、会社の印鑑証明書は発行できません。契約や融資の場面で会社の印鑑証明書を求められることは多いので、後任の代表取締役を決める登記と同時に印鑑の届出も済ませておくのが実務です。

次に、銀行口座です。代表者が亡くなったことを銀行が把握すると、確認のため取引が一時的に止まることがあります。新しい登記事項証明書と印鑑証明書を持参して名義や届出印を変更するまで、振込や手形の処理に支障が出る場合があるので、資金の動きが多い会社は早めに銀行に相談してください。

さらに、代表者が会社の連帯保証人になっている借入がある場合、その保証債務は相続の対象になります。会社の話とご家族の相続の話が重なる部分なので、金融機関と税理士の双方に状況を伝えて確認する必要があります。ここは個別の事情で扱いが変わるため、断定的な判断は避け、専門家に会社と家族の両方の状況を説明したうえで進めてください。

期限は2週間。ただし現実には遅れやすい

登記の期限は、亡くなった日から2週間です。会社法では、登記すべき事項に変更が生じたときは2週間以内に変更の登記をしなければならないと定められています。

正直に言うと、この期限を守れる会社は多くありません。実務の感覚として、次のように説明されています。

なお、原則、相続開始の日から2週間以内に変更登記をしなければなりませんが、実際に期限内に登記を申請できている会社は多くありません(相続開始の日から1か月前後で登記を変更しているケースが多い印象です)。 出典: sougouhoumu.com

葬儀と相続の手続きが重なる時期に、株主総会を開いて後任を選び、書類を揃えて法務局へ出すというのは、現実には簡単ではありません。それでも、期限を過ぎれば登記を怠ったことになり、代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性があります。実際の金額は裁判所が判断しますが、放置期間が長いほど高くなる傾向があります。

まず、安心していただきたいことが1つあります。数日から数週間の遅れで即座に高額の過料が科された例は、ほとんど報告されていません。半年、1年と放置した場合に問題になるというのが実務の相場観です。ですから、慌てて不正確な書類を出すより、事実関係を固めてから正しく申請するほうが結果的に安全です。

ただし、放置してよいという意味ではありません。会社に関する登記が最後にあった日から12年が経過すると、休眠会社として解散したものとみなされる仕組みがあります。役員が亡くなったまま登記を止めていると、会社そのものが登記簿の上で消える方向に進みます。

亡くなった日から登記が終わるまでを、日付で並べる

やることが多く見えるので、順番を日付に置き換えてみます。1月10日に取締役が亡くなり、後任を選ぶ必要がある会社を例にします。実際の日数は、法務局の混み具合や書類の集まり方で前後します。

1月10日が起算日です。登記の期限は1月24日になります。

1月11日から13日のあたりで、ご遺族に会社宛の死亡の届出書をお願いします。同時に定款を開いて役員の員数の定めを確認し、残っている役員で足りるのかどうかを見ます。足りないなら後任を選ぶ準備に入ります。

1月14日から16日は、株主総会の招集です。公開会社でない会社なら通知は1週間前までで足り、株主全員の同意があれば招集の手続きそのものを省くこともできます。株主が家族だけの会社なら、集まった日にそのまま開けます。

1月17日ごろに株主総会を開いて後任を選び、議事録と株主リストを作ります。就任承諾書も同じ日付でもらっておきます。

1月18日から20日で、申請書を作り、登録免許税の分の収入印紙を貼って法務局に出します。亡くなった方の退任と後任の就任を1枚にまとめれば1件分で済みます。

提出から完了までは、法務局によって1週間から10日前後かかります。完了したら登記事項証明書を取り、そこで初めて銀行や取引先への届出に進めます。つまり、亡くなった日から数えて1か月弱は、対外的な手続きが動かない期間になります。

代表取締役が亡くなっていた場合は、この流れに印鑑の届出が乗ります。印鑑届書は登記の申請と一緒に出せるので、別の日にもう一度窓口へ行く必要はありません。

費用は1件につき1万円か3万円

役員死亡登記にかかる登録免許税は、国税庁の税額表で決まっています。取締役や代表取締役、監査役に関する事項の変更の登記は、申請1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円です。中小企業の大半は1万円に該当します。基準は資本金の額だけで、売上も従業員数も関係ありません。

法務局の記載例には、役員の死亡と就任の登記は合わせて1件として申請できると明記されています。つまり、亡くなった方の退任と、後任の就任を1枚の申請書にまとめれば、登録免許税は1件分で済みます。別々の日に分けて出すと、その都度かかることになります。

これに、実費が少し加わります。手続きの前後で登記内容を確認する登記事項証明書は、窓口や郵送で紙の請求をすると1通600円、オンラインで請求して郵送なら520円、オンラインで請求して窓口受け取りなら490円です。新しい代表取締役の印鑑証明書は市区町村で取得し、手数料は自治体によって異なります。

司法書士に依頼した場合の報酬は事務所ごとに違いますが、役員変更の登記であれば2万円から3万円程度を提示する事務所が多いとされています。登録免許税と実費を合わせると総額で3万円から6万円前後が目安です。相続が絡んでいて株主総会を開けるかどうかから整理が必要な場合は、この範囲に収まらないこともあります。見積もりを取るときは、報酬だけの金額なのか登録免許税を含む総額なのかを必ず確認してください。

実際の負担額を並べると判断しやすくなります。資本金500万円の会社で、亡くなった取締役の退任と後任の就任を同時に登記するケースなら、自分で書類を作って提出する場合の合計は、登録免許税1万円に登記事項証明書600円と後任の方の印鑑証明書の発行手数料を足した1万1,000円前後です。司法書士にすべて任せるなら3万円から6万円になります。

この差額をどう見るかは、会社の状況で変わります。株主総会を問題なく開ける状態で、後任も決まっているなら、法務局の記載例に沿って自分で進める難易度は高くありません。一方、相続人の間で株式の扱いが決まっていない、代表取締役が亡くなって印鑑も届け出直す必要がある、といった状況が重なっているときは、順番を間違えると手続き全体が止まります。こうした場面では、報酬は時間と確実さを買う費用として意味を持ちます。

会社と家族で、進める手続きが分かれる

役員が亡くなったときに発生する手続きは、会社としてやるものと、ご家族が相続人としてやるものに分かれます。混ざると混乱するので、整理しておきます。

会社として進めるのは、役員死亡登記、代表者が替わった場合の印鑑の届出、社会保険の資格喪失の届出、銀行への届出、税務署への異動届出、許認可が必要な事業であれば監督官庁への変更届です。社会保険の手続きは期限が短いので、登記と並行して動かします。様式や期限は日本年金機構の案内で確認できます。

ご家族が相続人として進めるのは、戸籍の死亡届、相続人の確定、遺産分割の協議、預金や不動産の名義変更、相続税の申告です。亡くなった方が会社の株式を持っていた場合、その株式も相続財産に含まれます。

この2つが交差するのが株式です。株式の行方が決まらないと株主総会が開けず、後任の役員を選べません。会社としての手続きが、家族の相続の進み具合に引っ張られる構造になっています。役員が亡くなった会社で登記が遅れる原因の多くは、書類の準備ではなくここにあります。

事業を続けるつもりなら、株式の扱いを先に決めることが最優先です。相続人全員が同意して誰が引き継ぐかを決められるなら話は早く進みます。意見がまとまらない場合は、会社の側だけで解決できる問題ではないため、税理士と弁護士に家族の状況も含めて相談する必要があります。

死亡退職金と弔慰金は、登記とは別の判断になる

役員が亡くなったとき、会社からご遺族にお金を渡す場面が出てきます。死亡退職金と弔慰金です。登記とは別の話ですが、同じ時期に判断することになるので、枠組みだけ押さえておきます。

死亡退職金は、亡くなった方に支給されるはずだった退職金をご遺族が受け取るものです。国税庁は次のように説明しています。

被相続人の死亡によって、被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(これらを「退職手当金等」といいます。)を受け取る場合で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続または遺贈により取得したものとみなされて、相続税の課税対象となります。 出典: nta.go.jp

相続人が受け取る分には非課税の枠があります。500万円に法定相続人の数を掛けた額までは、相続税がかかりません。法定相続人が3人なら1,500万円です。この枠は相続人が受け取った場合のもので、相続人でない方が受け取ると使えません。

弔慰金は、葬儀に際して会社がご遺族に渡すお見舞いの性質のお金です。こちらは通常、相続税の対象になりません。ただし、名目が弔慰金でも金額が大きいと、超えた部分が退職金として扱われます。国税庁が示している境目は、業務上の死亡なら亡くなった当時の普通給与の3年分、業務上の死亡でなければ半年分です。月額の役員報酬が60万円で業務上の死亡ではない場合、360万円までが弔慰金の枠という計算になります。

会社の側では、死亡退職金の金額を株主総会で決めるのが通常の流れです。定款に退職金の定めがない会社で、決議をしないまま払ってしまうと、後から金額の根拠を示せなくなります。金額が在任期間や職務の内容に対して高すぎると、法人税の計算上、費用として認められない部分が出ます。

帳簿への書き方も先に決めておくと迷いません。株主総会で金額が確定した時点で、役員退職金という費用の科目に金額を立て、相手方を未払金にしておきます。実際に振り込んだ日に、その未払金を消して預金を減らします。弔慰金は退職金とは別の科目にして、金額と支給の根拠を残しておくと、あとで説明が付きます。源泉徴収の扱いは死亡退職金と弔慰金で違うので、支払う前に確認が必要です。

ここは金額と会社の事情で結論が変わる領域です。非課税の枠に収まるのか、費用として認められるのかは、税務署か税理士に会社の数字を見せて確認してください。

20年見てきて思う、一人会社の備え

在宅ワークと業務委託の仲介を20年見てきた立場から言えば、法人を作って一人で回している方は年々増えています。取引の信用を得やすく、税務上の扱いも選びやすくなるからです。その判断自体は合理的です。

一方で、一人会社は、その一人がいなくなった瞬間に何も決められなくなります。役員が自分だけなら、亡くなった時点で会社を代表する人がいなくなり、口座も契約も止まります。家族が会社の中身を知らなければ、何が資産で何が負債かを把握するところから始めることになります。この状態を解くには裁判所への申立てや相続の整理が必要で、数か月単位の時間がかかります。

準備は難しいことではありません。定款と登記事項証明書、取引先の一覧、口座の情報、顧問税理士の連絡先を1つのファイルにまとめて、家族が場所を知っている状態にしておく。それだけで、残された側の負担はまったく違ったものになります。

仕事の取り方についても同じことが言えます。案件を単発で拾い続ける形だと、本人がいなくなった時点で収入の道も切れます。長く続けている方ほど、直接やり取りできる相手を少しずつ増やし、関係そのものを資産にしています。手数料0%の直接取引が効いてくるのは、金額の大きさよりも手元に残る額の厚みで、依頼する側も中間マージンが乗らないぶん同じ予算でより多く頼めます。双方に利がある関係は、担当者が替わっても続きやすいものです。

勘違いしやすい5つ

同じ場面で繰り返し出てくる思い違いを並べます。

1つめは、期限の起算日です。会社が亡くなったことを知った日ではなく、亡くなった日から2週間です。知らせが遅れても期限は延びません。

2つめは、死亡届という言葉です。市区町村に出す戸籍の届出と、法務局に添える会社宛の届出書は別物です。戸籍の死亡届は提出すると手元に残らないので、そのまま法務局へ持っていくことはできません。

3つめは、辞任届です。亡くなった方について辞任届を作ることはできません。ご遺族が代わりに署名しても、辞任の書面としては使えません。

4つめは、役員の人数です。辞任や任期満了なら、後任が決まるまで辞めた方が役員の権利義務を持ったままになります。亡くなった場合はこの仕組みが働きません。定款で定めた員数を割ったなら、その状態を早く解く必要があります。

5つめは、登記が終わればすべて済むという思い込みです。社会保険の資格喪失、税務署への異動の届出、許認可がある事業なら監督官庁への届出、銀行の名義と届出印の変更が後ろに残ります。登記事項証明書が出ないと動かせない手続きが多いので、登記を先に片づける順番になります。

手続きの負担をどこに置くかを決める材料

登記を自分で進めるか、専門家に任せるかを判断するときは、その時間で本業からいくら生み出せるかと比べると決めやすくなります。開発系の仕事の相場はソフトウェア作成者の年収・単価相場に、文章まわりの仕事の水準は著述家,記者,編集者の年収・単価相場にまとまっています。相続が絡む局面では、時間そのものが足りなくなるので、外に出す判断が働きやすくなります。

事業の引き継ぎを考えるなら、どの領域なら人を入れて続けられるかも判断材料になります。企業のAI導入を支援する仕事の実像はAIコンサル・業務活用支援のお仕事に、セキュリティやマーケティングを含む広い範囲はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事に、受託開発の体制づくりはアプリケーション開発のお仕事に整理されています。

社内で書類を正確に作れる人を育てたいならビジネス文書検定で扱う内容が実務に直結します。技術寄りの仕事を法人として受け続けるならCCNA(シスコ技術者認定)のような資格が、担当者が替わっても仕事を受けられる裏付けになります。

役員の交代は、契約や債権の整理と同時に起きることが多い出来事です。取引条件を書面でどこまで固めておくべきかはフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに、支払いが止まったときの回収の流れと費用は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】に、会計の専門家が資格を事業に使う考え方は会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】にまとまっています。

役員死亡登記そのものは、書類の数で見れば重い手続きではありません。難しいのは、後任を選べる状態を作るところです。株式の行方と役員の人数、この2つを先に確認してから動けば、限られた時間のなかでも順番を間違えずに進められます。

よくある質問

Q. 役員が亡くなったとき、登記に出す書類は何ですか?

法務局の記載例では、死亡届または法定相続情報一覧図の写しとされています。ここでいう死亡届は市区町村に出す戸籍の届出ではなく、ご遺族などが会社宛に亡くなったことを知らせる書面です。辞任届や印鑑証明書は不要です。後任を選ぶ場合は株主総会議事録と株主リスト、就任承諾書が加わります。

Q. 期限はいつまでですか?

亡くなった日から2週間以内です。会社が知った日ではなく、亡くなった日が起算点になります。遅れると代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性があります。実務では1か月前後になる例が多いとされていますが、放置期間が長いほど金額が上がる傾向があるため、早めの申請が安全です。

Q. 後任がすぐに決まらない場合はどうなりますか?

辞任や任期満了と違い、亡くなった役員が引き続き権利義務を持つ仕組みは適用されません。役員の席がその日から空くため、人数が法律や定款の下限を割る場合は会社の意思決定が止まります。株主総会で後任を選ぶか、裁判所に一時役員の職務を行うべき者の選任を申し立てることになります。

Q. 登記にかかる費用はいくらですか?

登録免許税は申請1件につき3万円、資本金1億円以下の会社は1万円です。退任と後任の就任は1件にまとめて申請できるため、税額も1件分で済みます。登記事項証明書は書面請求で1通600円です。司法書士に依頼した場合は、報酬と実費を合わせて総額3万円から6万円前後が目安になります。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年1月22日最終更新:2026年9月19日
前田 壮一

この記事を書いた人

前田 壮一@SOHO編集部

元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身

大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。

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