役員登記とは|自分の名前と住所がどこまで公開されるか


この記事のポイント
- ✓法務省と法務局の公式情報をもとに整理します
- ✓代表取締役は氏名と住所が登記簿に載ります
- ✓誰がいくらで見られるのか
会社を作ろうとして「役員登記」という言葉に出会い、手が止まっている人は多いはずです。まず、安心してください。役員登記そのものは、難しい判断を迫られる手続きではありません。ただし、一点だけ先に知っておいたほうがいいことがあります。それは、登記した内容の一部が誰でも見られる状態になる、ということです。
この記事では、役員登記とは何かを法務省と法務局の公式情報にあたって整理し、そのうえで「自分の名前と住所がどこまで公開されるのか」を具体的に書きます。取締役と代表取締役では、載る情報の量が違います。そして2026年現在、住所の一部を伏せる制度も用意されています。順番に見ていきます。
役員登記とは、会社の「人」の情報を国の帳簿に載せること
役員登記とは、取締役や監査役といった会社の役員について、その氏名などを登記簿に記録する手続きのことです。登記簿とは、会社の基本情報を国が管理している公式の帳簿のこと。商号、本店の場所、資本金、目的、そして役員が記録されています。
なぜそんな帳簿があるのか。理由ははっきりしています。取引をする相手にとって、その会社が本当に存在するのか、誰が代表して契約できるのかは、お金を払う前に確かめたいことだからです。法務省は、商業登記制度の目的をこう説明しています。
商業登記制度は、商号、会社等に関する一定の事項を登記簿に記載して広く一般に公示し、会社等に係る信用の維持を図るとともに、取引の安全と円滑に資することを目的とする制度です(商業登記法第1条)。 出典: moj.go.jp
つまり、役員の情報が公開されるのは制度の副作用ではなく、制度の目的そのものです。「広く一般に公示する」と書いてあるとおり、見せるために作られた帳簿なのです。ここを理解しておくと、後で出てくる住所の扱いも納得しやすくなります。
役員登記という言葉は、会社を作るときの「設立の登記」の一部として出てくる場合と、すでにある会社で役員が入れ替わったときの「役員変更の登記」として出てくる場合があります。手続きの場所はどちらも法務局で、扱いも似ていますが、必要な書類と費用は違います。以下では両方を扱います。
登記簿に載る役員の情報は、立場によって中身が違う
ここが最も誤解されやすいところです。「役員になると住所が公開される」と聞いて不安になる人がいますが、正確ではありません。会社法第911条第3項は、設立の登記で記録すべき事項を号ごとに定めていて、役員については次のように書き分けています。
| 立場 | 登記簿に記録される情報 | 根拠 |
|---|---|---|
| 取締役 | 氏名のみ | 会社法911条3項13号 |
| 代表取締役 | 氏名および住所 | 会社法911条3項14号 |
| 監査役 | 氏名のみ | 会社法911条3項17号ロ |
| 会計参与 | 氏名または名称と、書類等備置場所 | 会社法911条3項16号 |
| 会計監査人 | 氏名または名称 | 会社法911条3項19号 |
読み方はこうです。取締役になっただけなら、登記簿に載るのは氏名だけ。住所は載りません。住所まで載るのは、代表取締役(および代表執行役、代表清算人)だけです。会社を1人で作る場合、その人はたいてい代表取締役になるので、結果として自宅住所が登記簿に載ることになります。逆に、配偶者や親を取締役として登記に入れる場合、その人の住所は登記簿には出ません。
法務局が公開している役員変更登記の記載例を見ると、この書き分けがそのまま反映されています。取締役の欄は「資格」「氏名」「原因年月日」の3項目で、代表取締役の欄だけ「資格」「住所」「氏名」「原因年月日」の4項目になっています。申請書の書き方からして、住所を書くのは代表取締役の行だけなのです。
ただし注意が必要な点があります。登記簿に載らないからといって、住所を法務局に出さなくてよいわけではありません。取締役や監査役が新しく就任するときは、就任承諾書に記載した氏名と住所が同じである証明書、いわゆる本人確認証明書を申請書に添付します。住民票記載事項証明書、戸籍の附票、運転免許証のコピー(裏面もコピーして、本人が原本と相違ない旨を記載して記名したもの)、マイナンバーカードの表面のコピーなどが該当します。個人番号の通知カードは使えません。
つまり、住所は法務局に提出するが、登記簿という公開の帳簿には載らない、という二段構えになっています。提出した書類(登記簿の附属書類といいます)を見られるかどうかについては、商業登記法第11条の2が「閲覧について利害関係を有する者」に限ると定めています。誰でも見られる登記事項証明書とは、扱いがはっきり分かれています。
誰が、いくらで、その情報を見られるのか
登記簿の内容は、商業登記法第10条で「何人も、手数料を納付して」交付を請求できると定められています。何人もというのは、取引先でも、競合会社でも、まったく無関係の個人でも、という意味です。会社との関係を説明する必要はなく、理由も聞かれません。
手数料は法務省が公表しています。2026年時点で適用されている金額は次のとおりです。
| 取得方法 | 手数料 |
|---|---|
| 登記事項証明書(窓口や郵送の書面請求) | 600円 |
| 登記事項証明書(オンライン請求・郵送で受取) | 520円 |
| 登記事項証明書(オンライン請求・窓口で受取) | 490円 |
| 会社代表者の印鑑証明書(書面請求) | 500円 |
さらに、登記情報提供サービスというインターネット経由の仕組みを使えば、証明書としての効力はないものの、登記記録の全部の情報を1件330円で画面に表示できます。この金額は令和8年4月1日からのもので、内訳は登記手数料320円に指定法人の手数料10円を加えたものです。個人の登録費用は300円です。
正直に書いておきます。数百円で、会社名さえ分かれば代表者の氏名と住所が読める。これが役員登記の現実です。取引先が与信調査のために見るのが本来の使われ方ですが、制度上は誰が見てもかまわない設計になっています。自宅を本店にして1人で会社を作る場合、住所は本店としても代表取締役の住所としても登記簿に載るので、二重に出ることになります。
この点を過度に怖がる必要はありません。会社という形を選ぶということは、個人で仕事を請けるときには負わなかった公開義務を引き受けるということでもあります。ただ、知らずに登記してから驚くのと、知ったうえで対策を選ぶのとでは、まったく話が違います。次の節で、その対策を説明します。
代表取締役の住所を市区町村までにする制度がある
令和6年10月1日から、代表取締役等住所非表示措置という制度が始まりました。商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)で創設されたもので、一定の要件を満たすと、代表取締役、代表執行役、代表清算人の住所の一部を登記事項証明書などに表示しないようにできます。
表示されなくなるのは番地から先です。法務省の説明では、措置が講じられた場合、住所は最小行政区画までしか記載されません。市区町村まで(東京都では特別区まで、政令指定都市では区まで)が出て、その先が消える形です。
使うには条件が3つあります。
1つめは、登記の申請と同時に申し出ること。単独では申し出られません。設立の登記、代表取締役の就任の登記、住所移転による変更の登記など、住所が登記されることになる申請と一緒に出す必要があります。すでに登記されている住所から変更がない重任の登記に合わせて申し出ることもできます。
2つめは、本店が実在することを示す書面。上場会社以外の場合、会社が受取人として記載された書面が本店宛に配達証明郵便で届いたことを証する書面(配達証明書と郵便物受領証)か、登記を受任した資格者代理人が本店の実在性を確認した書面が必要です。配達証明書に書かれた商号や本店所在場所が登記記録と一致しないと、措置は受けられません。
3つめは、代表取締役の氏名と住所が書かれた市町村長等の証明書(住民票の写し、戸籍の附票の写し、印鑑証明書など)と、会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面です。実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は、後者は不要になります。
利用は広がっています。法務省が公表している月報によれば、令和6年10月から令和8年8月までの実施件数は累計26,181件(暫定値)。うち設立登記と併せて申し出たものが5,735件、設立以外の登記と併せて申し出たものが20,446件です。すでに動いている会社が後から申し出ているケースのほうが、件数としては3倍以上多いことが分かります。
ただし、法務省自身が慎重な検討を求めている点は見逃せません。
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の影響が生じることが想定されます。 出典: moj.go.jp
住所を証明する手段として登記事項証明書を使っている場面は、思ったより多くあります。融資、不動産の賃貸借、大きな取引の与信審査などです。そこで別の書類を求められるようになると、手続きが1回増えます。創業して間もない時期に融資を受ける予定があるなら、その影響を先に想像しておいたほうが現実的です。
もう1つ、勘違いされやすい点があります。住所が表示されなくなっても、住所を登記する義務そのものは消えません。引っ越したら、やはり住所変更の登記が必要です。しかも申請書には実際の住所を書くので、登記されている住所を忘れないようにしておく必要があります。また、住所に変更がある登記を申請するときは、改めて非表示措置の申出をしないと、新しい住所には措置が及びません。
旧姓のまま登記したい場合の扱い
結婚などで姓が変わったが、仕事では旧姓を使い続けている。この場合、役員の氏名を旧姓だけで登記することはできませんが、戸籍上の氏名と旧姓を併記することはできます。商業登記規則第81条の2に基づく旧氏の記録の申出という手続きです。
令和4年9月1日から、併記できる旧氏の範囲が広がり、登記の申請と同時でなくても単独で申し出られるようになりました。申し出られるのは取締役、監査役、執行役、会計参与、会計監査人、清算人です。申出書には、会社の商号と本店、代表者の資格と氏名と住所と連絡先、旧氏を記録する役員の氏名、記録すべき旧氏、申出の年月日を書きます。
旧氏を証する書面としては、併記しようとする旧氏が載っている除籍抄本から現在の氏が載っている戸籍に至るまでの戸除籍謄抄本などを使います。住民票やマイナンバーカード、運転免許証にすでに旧氏が併記されている場合は、その写しでも構いません。後から旧氏の記録をやめたくなったときは、希望しない旨の申出書を出せば記録されなくなります。
対外的な名刺と登記簿の名前が食い違っていると、契約書の署名で相手を迷わせることがあります。旧姓で仕事を続けるつもりなら、設立のタイミングで併記しておくと後の説明が減ります。
役員登記が必要になるのは、こういう場面
役員に関する登記が必要になる場面は、大きく6つです。
就任は、これまで役員でなかった人が新しく取締役や監査役になる場合。退任は、任期満了などで役員でなくなる場合。重任は、任期が満了した人が間を置かずに同じ役職に選ばれ直す場合です。辞任は本人の意思で辞める場合、死亡は文字どおり亡くなった場合。そして住所移転と氏名変更は、代表取締役が引っ越したときや、役員の姓が変わったときです。
このうち、最も忘れられやすいのが重任です。人が入れ替わっていないので、変更がないと思い込んでしまうためです。法務省ははっきり注意を出しています。
役員の任期が満了した後、間を置かずに同じ人が役員に選任(再任)された場合、役員は変更していないので、役員変更の登記は必要ないと思っていませんか。このような場合も、任期満了により退任した役員が再び就任するということになり、役員の登記事項に変更が生じていますので、忘れずに役員変更の登記を申請してください(登記上は「重任」といいます。)。 出典: moj.go.jp
1人で会社をやっていて、自分が唯一の取締役で代表取締役でもある、という状態でも同じです。自分が自分を選び直しただけであっても、退任と就任が起きたものとして扱われ、登記が必要になります。
代表取締役の地位は取締役の地位に基づくものなので、取締役としての任期が満了すれば、代表取締役の任期も同時に満了して退任することになります。取締役と代表取締役の両方について、重任の登記が必要になるという意味です。
期限は2週間。数え方と、遅れたときに起きること
会社法第915条第1項は、登記した事項に変更が生じたときは、2週間以内に本店の所在地で変更の登記をしなければならないと定めています。
数え始める日は、何が起きたかによって変わります。株主総会で選任や解任を決議したなら決議の日から、辞任なら辞任の意思表示が会社に届いた日から、死亡なら死亡の日から、住所移転なら住民票に記載された移転の日からです。重任の場合は、任期が満了した定時株主総会の日が起点になります。
2週間を過ぎたらどうなるか。まず、登記自体はできます。期限を過ぎたから受け付けてもらえない、ということはありません。ただし、会社法第976条第1号により、登記を怠った取締役などは100万円以下の過料に処される可能性があります。
ここで重要なのは、過料が科されるのは会社ではなく代表者などの個人だという点です。裁判所から代表取締役個人宛に過料の通知が届き、個人の財布から払うことになります。経費にもなりません。金額は遅れの長さや事情によって決まり、数万円という例がよく語られますが、法律が定めているのは上限だけです。
さらに長く放置すると、別の問題が出てきます。会社法第472条は、最後の登記があった日から12年を経過した株式会社を休眠会社と呼び、法務大臣が官報で公告したあと2か月以内に「まだ事業を廃止していない」旨の届出も必要な登記もしない場合、その期間の満了時に解散したものとみなすと定めています。
これは机上の話ではありません。法務省が公表している整理作業の実績によれば、第17回(令和7年)では25,195社の株式会社が解散したものとみなされました。第16回(令和6年)は26,885社、第15回(令和5年)は27,887社です。毎年2万社台後半が、登記を放置したことで登記官の職権により解散の登記をされています。
なお、みなし解散の登記がされた後でも、3年以内であれば株主総会の特別決議によって会社を継続できます。継続したときは、決議から2週間以内に継続の登記が必要です。ただし、放置していた期間の登記懈怠そのものは消えないので、過料の可能性は残ります。
役員登記にかかるお金
費用は3つに分かれます。国に払う税金、証明書などの実費、そして専門家に頼む場合の報酬です。
国に払うのは登録免許税です。法務局が公開している役員変更登記の申請書記載例には、資本金の額が1億円を超える場合は3万円、1億円以下の場合は1万円と明記されています。ほとんどの小さな会社は1億円以下なので、1万円と考えておけば大きく外れません。就任も退任も重任も住所移転も氏名変更も、役員に関する変更であれば同じ枠で扱われ、同じ申請で複数人分をまとめて登記しても金額は変わりません。納付は収入印紙または領収証書で行い、申請書に付けた収入印紙貼付台紙に貼ります。
実費は、必要になった書類の取得費です。新任の取締役がいる場合の印鑑証明書や住民票記載事項証明書が1通あたり数百円。登記が終わった後に登記事項証明書を取るなら600円(オンライン請求なら520円か490円)。郵送で申請するなら郵便代もかかります。
専門家に頼む場合は司法書士の報酬が加わります。登記の代理を業として行えるのは司法書士と弁護士です。役員変更登記の報酬は、内容や地域によって幅がありますが、1万円台から5万円前後という案内をしている事務所が多く見られます。就任する人数が多い、印鑑証明書の取り寄せから頼む、定款の変更も伴う、といった場合は上振れします。
まとめると、資本金1億円以下の会社が自分で重任の登記をするなら、かかるのは登録免許税1万円と郵送費程度。司法書士に頼むなら、それに数万円が乗る、という構図です。
必要な書類は、何が起きたかで変わる
書類の組み合わせは場面ごとに違います。法務局の記載例をもとに、よくある3つの場合を整理します。
役員全員が重任する場合(取締役会設置会社)は、株主総会議事録、株主の氏名または名称・住所・議決権数等を証する書面(株主リスト)、取締役会議事録、就任承諾書。監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する定款の定めがある会社では、それを証する書面として定款、株主総会議事録、または代表取締役が作成した証明書のいずれかも添えます。代理人に頼む場合は委任状が加わります。
辞任した人の後任として新しい取締役が就任する場合は、辞任届(死亡なら死亡届または法定相続情報一覧図の写し)、臨時株主総会議事録、株主リスト、就任承諾書、印鑑証明書、本人確認証明書、委任状です。取締役会を置いていない会社で新しく就任する取締役については、就任承諾書に市町村に登録した印鑑を押し、その印鑑証明書を添付します。取締役会設置会社で新しく就任する代表取締役も同じ扱いです。印鑑証明書を付けない場合は、代わりに本人確認証明書を出します。
代表取締役の住所移転や氏名の変更だけなら、添付書類は委任状だけです。法務局の記載例には「なお、申請書に住民票を添付する必要はありません」とはっきり書かれています。ここは意外と知られていません。引っ越しただけなら、用意するものは申請書と収入印紙、それに代理人を使うなら委任状。それで足ります。
なお、登記所に印鑑を届け出ている取締役が辞任する場合は、辞任届に登記所届出印か市町村に登録した印鑑を押す必要があります。市町村の印鑑を押したときは、その印鑑証明書も添付します。登記所届出印を押したなら印鑑証明書は不要です。
株主リストは平成28年10月1日から必要になった書類で、登記すべき事項について株主総会の決議を要する場合と、株主全員の同意を要する場合に付けます。議決権数の上位10名の株主か、議決権割合が3分の2に達するまでの株主か、人数の少ないほうについて、氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数割合を書き、代表者が証明します。
会社の形が違うと、載る情報も手間も変わる
ここまでは株式会社を前提に書いてきました。会社の形が違うと、登記される役員の情報も、登記が必要になる頻度も変わります。法人化を検討している段階なら、ここを比べてから決めたほうがいいところです。
合同会社の場合、会社法第914条が登記すべき事項を定めています。業務を執行する社員については氏名または名称だけ、会社を代表する社員については氏名または名称および住所が登記されます。株式会社の取締役と代表取締役の関係とよく似た構造です。代表社員が法人であるときは、その職務を行うべき者の氏名と住所も登記されます。
大きく違うのは任期です。合同会社の社員には、株式会社の取締役のような任期の定めがありません。したがって、人の入れ替わりがなければ、役員に関する登記を定期的にやり直す必要がありません。設立費用が安いという話ばかりが取り上げられがちですが、数年に一度の重任登記とその手間が発生しないことも、実務では効いてきます。
特例有限会社も同じ性質を持ちます。特例有限会社とは、2006年の会社法施行前からあった有限会社が、そのまま存続している形態のことです。会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第18条は、特例有限会社について会社法第332条(取締役の任期)、第336条(監査役の任期)、第343条の規定を適用しないと定めています。つまり、取締役に任期がないので、重任の登記も発生しません。
もっとも、特例有限会社は新しく作ることができません。すでに持っている人だけの話です。これから法人を作る人にとっての選択肢は、株式会社か合同会社か、というところに絞られます。数年ごとの重任登記が負担だと感じるなら、合同会社という選択肢が現実的な意味を持ちます。一方で、株式会社という表記が取引の入口で求められる業界もあるので、単純にどちらが有利とは言えません。
なお、任期がない形態を選んでも、住所が変わった、代表者が変わった、商号を変えた、といった変更があれば、2週間以内の登記義務は同じようにかかります。「任期がない」は「登記を忘れてよい」ではありません。
自分でやるか、司法書士に頼むか
役員変更の登記は、自分で申請することもできます。法務局のサイトには申請書の様式(WordとPDF)と記載例が公開されていて、登記の事由、登記すべき事項、登録免許税、添付書類の書き方が具体的に示されています。1人会社の重任のように登場人物が少ない場合は、記載例をなぞれば作れる水準です。
窓口に持参するほか、郵送、オンライン申請、QRコード付き書面申請という方法があります。法務局はQRコード付き書面申請を勧めていて、役員変更(全員重任)と役員変更(辞任・就任)について操作手引書の該当箇所を案内しています。オンライン申請の場合、平日17時15分以降や休日に送信したものは、翌営業日の受付になります。
自分でやるか任せるかを分ける基準は、金額よりも「間違えたときに何が起きるか」で考えるのが現実的です。重任の登記のように毎回同じ形で繰り返すものは、一度自分でやり方を覚えれば次から早くなります。一方、役員構成を大きく変える、種類株式が絡む、定款の変更も同時に行う、といった場合は、添付書類の組み合わせが一気に複雑になります。補正で何度も呼び出されて時間を失うくらいなら、最初から司法書士に頼んだほうが安く付くこともあります。
窓口で相談することもできます。ただし、法務局と地方法務局の各登記所では、一部を除いて登記手続案内が事前予約制になっています。予約せずに行くと、案内できない場合や長く待つ場合があります。行く前に、管轄の法務局のサイトで予約方法を確かめておいてください。
20年市場を見てきた立場から、役員登記をどう位置づけるか
在宅ワークと業務委託の市場を20年にわたって運営してきた立場から見ると、個人で仕事を請けていた人が法人を作る動機は、ここ数年で少し変わってきました。以前は節税の話が中心でしたが、最近は「法人でないと取引口座を開けない」「請求書の発行元が個人だと稟議が通らない」という、相手側の事情が理由になっていることが増えています。
その流れで見ると、役員登記は税金の話ではなく信用の話です。登記簿に誰が代表かが書いてあるから、相手は安心して発注できる。公開されるのは負担ですが、その負担と引き換えに、これまで通らなかった発注が通るようになる。この交換条件を理解して選ぶかどうかで、法人化してからの伸び方が変わるように見えます。
運営者として見てきた限りでは、長く続く人ほど、単発の案件を取りにいくのではなく「この人に任せると楽だ」という関係を作ることに時間を使っています。会社の形を整えるのも、その一部です。間に入る事業者が減り、手数料が抜かれない形で直接取引ができると、同じ予算でも依頼者はより多くを頼めて、受け手の手取りが厚くなる。額面ではなく手取りで見たときに、この差は毎月効いてきます。法人化はそのうえで、取引できる相手の幅を広げる手段です。
一方で、法人を作ったこと自体が仕事を連れてくるわけではないことも書いておくべきです。登記が終わっても、案件を取る力は変わりません。実際に発注が動いている分野を見ておくと、法人化の前後で何に力を入れるべきかが見えてきます。企業の生成AI導入を設計から手伝う仕事の広がりについてはAIコンサル・業務活用支援のお仕事に、要件定義から実装までを請ける開発案件の内容はアプリケーション開発のお仕事にまとめてあります。どちらも法人としての受注が増えている領域です。
報酬の水準を先に知っておくことも、役員報酬をいくらに設定するかの材料になります。開発職の単価の分布はソフトウェア作成者の年収・単価相場に、文章を書く仕事の相場は著述家,記者,編集者の年収・単価相場に整理しています。役員報酬は期の途中で自由に変えられないため、登記が済んだ直後の判断が1年間続くことになります。相場を踏まえて決めるだけで、後の資金繰りがだいぶ楽になります。
取引の土台になる文書の作り方を押さえておくのも有効です。見積書や発注書の型を整える基礎はビジネス文書検定で体系的に学べますし、受託側として守られるべき条件を確かめるにはフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが実務的です。万一支払いが止まったときの回収手段は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】にまとめています。会計まわりを誰に任せるかを考えているなら、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】に、監査法人に勤めながら外部の仕事を請けている人の動き方が書かれていて、どういう人に頼めるのかの見当がつきます。
最後に、実務として一番効く習慣を挙げておきます。登記が終わったら、次に登記が必要になる日をその場でカレンダーに入れることです。取締役の任期が2年なら2年後の定時株主総会の直後、10年なら10年後。12年放置すれば会社は消えかねないのですから、予定表に1行足す手間とは釣り合いません。設立時に司法書士に頼んだ人ほど、2年後に自分で気づけずに期限を過ぎる例をよく見ます。頼んだ相手が次も教えてくれるとは限らない、と考えておくのが安全です。
なお、税務や登記の個別の判断は、会社の事情によって変わります。役員構成をどう組むか、役員報酬をいくらにするか、住所非表示措置を使うべきかといった判断は、管轄の法務局や司法書士、税理士に具体的な事情を伝えて確かめてください。この記事で挙げた金額や期限は、法務省と法務局が公表している一般的な基準です。
よくある質問
Q. 取締役になると自宅の住所は公開されますか?
取締役の登記事項は氏名だけで、住所は登記簿に載りません。住所まで登記されるのは代表取締役、代表執行役、代表清算人です。ただし新しく就任するときは、住所が記載された本人確認証明書を法務局に提出します。提出した書類の閲覧は、利害関係がある人に限られます。
Q. 役員登記にかかる費用はいくらですか?
国に払う登録免許税は、資本金の額が1億円を超える場合は3万円、1億円以下の場合は1万円です。複数の役員分をまとめて1件で申請しても金額は変わりません。これに印鑑証明書などの実費が数百円ずつ、司法書士に頼む場合は報酬として1万円台から5万円前後が加わります。
Q. 代表取締役の住所を登記簿に出さない方法はありますか?
令和6年10月1日から始まった代表取締役等住所非表示措置を使うと、住所が市区町村までの表示になります。登記の申請と同時に申し出ること、本店の実在を示す書面、住所が記載された市町村長等の証明書などが必要です。融資や不動産取引で住所の証明ができなくなる影響があるため、事前の検討が必要です。
Q. 役員が変わっていなくても登記は必要ですか?
必要です。任期が満了した役員が同じ人として選び直された場合も、登記上は退任と就任が起きた扱いになり「重任」として登記します。1人会社で自分が自分を選び直した場合も同じです。任期満了から2週間以内に申請しないと、100万円以下の過料の対象になります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
関連記事
カテゴリから探す

クラウドソーシング入門
クラウドソーシングの基礎知識・始め方・サイト比較

職種別ガイド
職種・スキル別の案件獲得方法と単価相場

副業・在宅ワーク
副業・在宅ワークの始め方と対象者別ガイド

フリーランス
フリーランスの独立・営業・実務ノウハウ

お金・税金
確定申告・節税・経費・ローンなどお金の知識

スキルアップ
プロフィール・提案文・単価交渉などのテクニック

比較・ランキング
サービス比較・おすすめランキング

AI活用
職種別にChatGPT・生成AIを活用して業務効率化・収益化するノウハウ

最新トレンド
市場動向・法改正・AIなど最新情報

発注者向けガイド
クラウドソーシングで外注・人材探しをする企業・個人向け

転職・キャリア
転職エージェント・転職サイト比較・キャリアチェンジ

看護師の転職・求人
看護師の転職・派遣・単発バイト・副業など働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

薬剤師の転職・求人
薬剤師・登録販売者の転職・派遣・パートなど働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

介護職の転職・求人
介護職・介護福祉士・ケアマネジャー・訪問介護員の転職・派遣・夜勤など働き方のガイド

保育士の転職・求人
保育士・保育補助・幼稚園教諭の転職・派遣・パートなど働き方のガイド

医療職の転職・求人
医師・産業医・リハビリ職・歯科衛生士・管理栄養士・医療事務の転職や働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

保険
生命保険・医療保険・フリーランスの保険設計

採用・求人
無料求人掲載・採用コスト削減・人材募集の方法

オフィス・ワークスペース
バーチャルオフィス・コワーキング・レンタルオフィス

シニア・50代
シニア世代のキャリアチェンジ・副業・年金

セキュリティ
サイバーセキュリティ・脆弱性対策・情報保護

金融・フィンテック
暗号資産・決済・ブロックチェーン・金融テクノロジー

経営・ビジネス
経営戦略・ガバナンス・事業承継・知財

ガジェット・機材
フリーランスに役立つPC・デバイス・周辺機器

子育て×働き方
子育てと在宅ワークの両立・保育園・時間管理

補助金・助成金
個人事業主・フリーランスが使える公的補助金・助成金・給付金の申請ガイド

アウトソーシング・外注ガイド
SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方







