現行定款を出してと言われたとき|どれを渡せばよいか


この記事のポイント
- ✓現行定款を提出してくださいと言われて手が止まったときのための記事です
- ✓変更がある会社が渡すもの
- ✓渡す前に相手に確認する4点
銀行や役所から「現行定款を提出してください」と言われて、手が止まった。設立のときに司法書士から受け取った冊子は手元にあるけれど、これを渡してよいのか分からない。現行定款で検索する人の多くは、この状態にいます。結論を先に書くと、判断の分かれ目は1つだけです。会社を作ってから定款の内容を変える決議をしたことがあるか、ないか。一度もないなら、手元の定款をそのまま渡して構いません。あるなら、渡すものが変わります。この記事では、その見分け方と、渡す前に確かめておくことを順に整理します。
現行定款という言葉が指しているもの
まず言葉を押さえます。定款とは、会社の決まりごとを書いた文書のことです。会社を作るときに必ず用意します。
現行定款は、法律に出てくる用語ではありません。実務で使われている呼び名で、「いま有効な内容が書かれている定款」という意味です。
対になる言葉が原始定款です。会社を作るときに最初に作った定款を指します。株式会社の場合、この定款は公証人という公的な資格を持つ人の確認を受けます。この確認を認証と呼びます。
会社を作ったあと、目的や商号や本店を変えることがあります。そのたびに株主総会で決議をして、定款の内容が変わっていく。その積み重ねの結果、いま有効になっている内容が現行定款です。
つまり、変更を一度もしていない会社では、原始定款と現行定款が同じものになります。変更をしている会社では、この2つが別物になります。求められているのは、ほとんどの場合、後者のほうです。
誰が、どんな場面で求めてくるのか
現行定款の提出を求められる場面は、だいたい決まっています。求める側が何を確かめたいのかが分かると、渡すものの判断も早くなります。
銀行が法人口座を開くときに求めるのは、会社の実体と、誰が意思決定をする会社なのかを確かめるためです。融資の申し込みでも同じ書類が要ります。
許認可の窓口が求めるのは、事業の目的の条文がどう書かれているかを確認するためです。建設業、宅地建物取引業、労働者派遣事業、有料職業紹介事業、古物商、旅行業といった許可や登録が要る事業では、定款の目的に該当する事業が書かれていることが要件になっています。条文の言い回しそのものを見られます。
補助金や助成金の窓口が求めるのは、申請した事業が会社の目的の範囲に入っているかを見るためです。
取引先が求めるのは、新規の取引先を社内システムに登録するときの審査の一部です。大きな会社ほど、この手続きがきちんと定められています。
株主から求められることもあります。これは会社法に定められた権利です。
発起人(株式会社の成立後にあっては、その株主及び債権者)は、発起人が定めた時間(株式会社の成立後にあっては、その営業時間)内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。 出典: laws.e-gov.go.jp
会社法第31条第2項は、続けて定款の閲覧の請求と、謄本または抄本の交付の請求を挙げています。請求できるのは株主と債権者です。債権者には、取引先や金融機関のように会社に対して債権を持つ相手が含まれます。つまり、代金を後払いにしている取引先は、定款を見せてほしいと言える立場にあります。なお、写しの交付を求めるときは、会社が定めた費用を支払うこととされています。
そして、会社を作った直後には税務署に出します。
[提出時期] 法人設立の日(設立登記の日)以後2月以内 [添付書類] 定款、寄付行為、規則又は規約の写し 出典: www.nta.go.jp
国税庁は、内国普通法人等の設立の届出について、提出時期を設立登記の日以後2月以内とし、添付書類として定款の写しを求めています。都道府県税事務所と市区町村への届出でも、同じく定款の写しを添えるのが一般的です。
手元のどれが原始定款なのかを見分ける
会社の書類をまとめたファイルを開くと、定款らしきものが何部か入っていることがあります。どれが何なのかを見分ける手がかりは、末尾にあります。
原始定款には、公証人が作成した認証文が付いています。公証役場の名称、公証人の氏名、認証した年月日が書かれ、公証人の職印が押されています。この認証文が付いているものが原始定款です。
認証文が付いていない定款の写しが何部か入っていることもあります。これは、設立のときに司法書士が控えとして作った写しか、税務署などに出すために作った写しです。中身は原始定款と同じです。
電子で作った場合は、紙の冊子がありません。PDFのファイルが渡されているはずで、そこに電子署名と公証人の電子認証が付いています。ファイルを開いても見た目では分かりにくいので、ファイル名や受け取ったときのメールから判断します。
合同会社の場合は、そもそも認証がありません。ですから認証文の付いた定款は存在せず、設立のときに作った定款がそのまま原始定款です。
変更を一度もしていない会社の場合
会社を作ってから、目的も商号も本店も株式の内容も変えていない。役員の改選はしているが、定款そのものは触っていない。この状態なら、原始定款がそのまま現行定款です。
判断の材料になるのが、登記事項証明書です。設立のときの登記と、いまの登記を見比べて、商号、目的、本店、公告の方法、発行可能株式総数が変わっていなければ、定款の変更はしていない可能性が高い。役員の氏名だけが変わっているのは、改選の登記であって定款の変更ではありません。
ただし、登記に出てこない定款の変更もあります。取締役の任期を変えた、株主総会の招集の手続きを変えた、決算期を変えた、といった変更です。特に決算期の変更は登記に出ません。過去に決算月を変えたことがあるなら、そのときに定款を変更しているはずです。
心当たりがないなら、設立のときに依頼した司法書士や税理士に確認するのが早い道です。定款の変更を伴う手続きをしていれば、その事務所に記録が残っています。
原始定款をそのまま渡す場合、原本を渡すのではなく写しを渡します。原本は会社が保管し続けます。
変更をしている会社が渡すもの
定款を変更したことがある会社は、次の2つのどちらかを渡します。
1つめは、原始定款の写しと、その後の変更を決議した株主総会議事録の写しを一式にしたものです。変更が1回か2回なら、この形で問題ありません。相手は、原始定款の条文に議事録の内容を当てはめて、現在の内容を読み取ります。
2つめは、変更をすべて反映させた最新版を1つの文書として作り直したものです。変更が何度もある会社は、こちらのほうが渡す側も受け取る側も楽になります。作り直した文書の末尾に、いつの総会でどの条文を変えたのかという経緯を書き添えておくと、相手が内容を信用しやすくなります。
作り直すのに特別な手続きは要りません。公証人の確認を受け直す必要はなく、収入印紙も不要です。会社法第30条第1項が公証人の認証を求めているのは設立のときの定款だけで、成立後の変更は株主総会の決議で効力が生じます。パソコンで文書を作り、印刷して綴じ、会社の実印を押せば完成します。
どちらの形で渡しても間違いではありません。ただし、相手によっては「議事録ではなく1冊にまとめたものを出してほしい」と言われることがあります。次の節で書くとおり、渡す前に確かめておくのが確実です。
渡す前に、相手に聞いておく4つのこと
提出を求められたら、作業に入る前に次の4点を確認します。ここを聞かずに作って出すと、作り直しになります。
1つめは、原本証明が必要かどうかです。写しに「原本と相違ありません」と記して会社の実印を押すことを求められる場合があります。求められていないのに付けても害はありませんが、求められているのに付けていないと突き返されます。
2つめは、いつ時点の内容が必要かです。ほとんどの場合は現在の内容ですが、まれに設立のときの内容を求められることがあります。株式の変遷や出資の経緯を確認したい場面です。この場合は原始定款が要ります。
3つめは、提出の形です。紙の写しを郵送するのか、窓口に持参するのか、PDFをメールで送るのか、システムにアップロードするのか。PDFでよいなら、原本証明を付けた紙をスキャンして送る形になります。
4つめは、一緒に求められる書類です。定款だけで済むことは少なく、登記事項証明書、印鑑証明書、決算書などがセットになっているのが通常です。まとめて聞いておけば、登記事項証明書を取りに行く回数が1回で済みます。
この4点を、提出を求められたその場で聞いておく。電話でもメールでも構いません。1分の確認で、何日かの往復が消えます。
原本証明のつけ方
原本証明を求められたときの作り方を書いておきます。決まった様式はありませんが、実務では次の形が使われています。
定款のすべてのページを原寸大でコピーします。順番どおりに並べてまとめ、末尾に「これは原本と相違ありません。」という文言と、日付、会社の商号、代表者の肩書と氏名を記載し、会社の実印を押します。ページが複数にわたるときは、綴じ目に同じ印鑑で契印を押します。
この作法は、法務局が登記の添付書類について案内している原本還付の手順とほぼ同じです。
その場合には、原本をコピーしたもの(コピーが複数枚にわたる場合には、それらを合わせてとじたもの)に、申請書に押印した人が「原本に相違ありません。」と記載して記名したものを、必ず原本とともに提出してください。 出典: houmukyoku.moj.go.jp
提出先によっては、袋とじにしてほしい、印鑑証明書を添えてほしい、といった条件が加わります。ここも先に聞いておく項目です。
電子で保管している定款を出す場合、印刷して原本証明を付け、それをスキャンして送る形になります。電子のまま原本証明を付ける仕組みもありますが、相手が対応していないことが多いので、紙を経由するほうが確実です。
「写し」と「謄本」は違うのか
提出を求める文書には、「定款の写し」と書かれていることも、「定款の謄本」と書かれていることもあります。同じ意味なのか、という質問が出ます。
一般的な書類のやりとりでは、どちらも「原本と同じ内容の文書」を指して使われており、実務上は同じものと考えて差し支えありません。国税庁が設立の届出の添付書類として挙げているのも「定款の写し」です。会社がコピーを取って原本証明を付けたものを出せば足ります。
ただし、公証役場に請求する場面では意味が変わります。公証人が保存している定款について交付を請求するとき、その文書は謄本と呼ばれます。公証人が「これは自分が保存している定款と同じ内容である」と証明した文書だからです。会社が自分で作った写しとは、証明している主体が違います。
ですから、提出先が「公証役場発行の謄本を出してください」と指定してきた場合は、会社のコピーでは足りません。公証役場に請求することになります。この指定が付くのは、設立のときの内容そのものを確認したい特殊な場面です。多くはありませんが、指定があれば従います。
言葉の違いで迷ったときは、相手に「会社がコピーして原本証明を付けたもので足りますか」と1文で聞くのがいちばん早く終わります。
電子定款を渡すときの注意
設立のときに紙ではなくPDFで定款を作り、電子署名を付けて認証を受けた会社が増えています。この場合、渡し方に迷いが出ます。
結論から言えば、そのPDFをそのまま送っても構いません。ただし、受け取る側が電子署名を検証できるとは限らず、「印刷して原本証明を付けたものを出してほしい」と言われることが多いのが実情です。
印刷して出す場合、通常の写しと同じ扱いになります。すべてのページを印刷し、末尾に原本と相違ない旨を記して日付と商号と代表者名を書き、会社の実印を押します。それをスキャンしてPDFにして送る、という手順になります。二度手間に見えますが、相手の受け入れ体制に合わせるほうが早く終わります。
気をつけたいのは、元のPDFを編集しないことです。電子署名は署名した時点の内容と結びついているため、中身に手を入れると署名が壊れます。壊れた署名が付いたPDFは、原始定款としての価値を失います。印刷するだけなら問題ありません。
変更を反映させた現行定款を電子で作る場合は、元のPDFとは別のファイルとして新しく作ります。こちらには電子署名も認証も要りません。ファイル名に作成日を入れておくと、どの時点の内容なのかが分かりやすくなります。
定款に書いていないことを聞かれたとき
提出したあと、「この項目が見当たらないのですが」と言われることがあります。よくあるのが次の3つです。
1つめは、現在の代表者の氏名です。定款の本則に代表者の名前は書きません。附則に設立時の取締役が書かれていることはありますが、それは設立の時点の記録です。現在の代表者を確認したいなら、登記事項証明書を見てもらいます。
2つめは、資本金の額です。定款の附則には設立のときの資本金が書かれていますが、増資をしていれば現在の額と違います。現在の額は登記に載っています。
3つめは、株主の構成です。定款には株主の名前は書きません。発起人の名前は附則にありますが、その後に株式が動いていれば現在の株主とは違います。現在の株主を示すなら、株主名簿を出します。
これらを聞かれたときは、「定款には載らない項目です」と伝えたうえで、代わりになる書類を示します。相手も毎回この手続きをしているわけではないので、何を見れば分かるかを教えると話が早く進みます。
毎回作り直さないための整え方
提出を求められるたびに一から作るのは、無駄が多い作業です。一度整えておけば、次からは印刷するだけで済みます。
やることは3つです。
1つめ、現行定款を1つの文書として作っておきます。変更が複数回あるなら、すべてを反映させた最新版を作り、末尾に変更の経緯を書き添えます。ファイルはパソコンに残しておき、紙でも1部持っておきます。
2つめ、原本証明の文面をひな形にしておきます。「これは原本と相違ありません。」という文言、日付、商号、代表者の肩書と氏名。この4つを並べた1ページを用意しておけば、日付を入れ替えるだけで使い回せます。
3つめ、会社の書類を1か所にまとめます。定款、登記事項証明書、印鑑カード、印鑑証明書、過去の株主総会議事録。この5つが同じ場所にあるだけで、提出を求められたときの動きがまったく変わります。
そして、定款を変更したら、その日のうちに現行定款のファイルを更新します。後回しにすると、次に求められたときにまた議事録から復元する作業が発生します。変更の内容が頭に入っているうちに直すのが、いちばん短く済みます。
登記事項証明書は定款の代わりにならない
「商号も目的も本店も登記に載っているのだから、登記事項証明書で足りるのでは」と考える人がいます。足りません。
登記に載るのは、会社法第911条第3項が挙げている事項です。目的、商号、本店と支店の所在場所、資本金の額、発行可能株式総数、取締役や代表取締役の氏名、公告の方法など、外部の人が会社を特定して取引の可否を判断するために必要な項目が並びます。
定款には、それ以外のことが書かれています。株主総会をどう招集するか、議長は誰が務めるか、取締役の任期を何年にしているか、株式を譲渡するときに誰の承認が要るか、事業年度をいつで区切るか。これらは登記には出てきません。
銀行が定款を求めるのは、誰が意思決定できる会社なのかを知りたいからです。許認可の窓口が定款を求めるのは、目的の条文の言い回しを確かめたいからです。登記の1行だけでは、どちらも読み取れません。
逆に、定款だけでも足りません。定款には現在の代表者の氏名も資本金の額も書かれていないことがあります。ですから、この2つはセットで求められます。両方をいつでも出せる状態にしておくのが答えになります。
定款が見つからないときの探し方
いちばん困るのが、定款そのものが見当たらない場合です。順に探します。
最初に、設立のときに依頼した司法書士や行政書士の事務所に問い合わせます。控えを保管していることが多く、写しを送ってもらえる場合があります。税理士が設立から関わっているなら、そちらにもあります。
次に、過去に定款の写しを提出した先を思い出します。税務署、都道府県税事務所、市区町村、銀行、許認可の窓口。返してもらえるとは限りませんが、いつ何を出したかが分かるだけでも手がかりになります。
それでも見つからない場合、株式会社であれば公証役場が保管しています。認証を受けた公証役場に、謄本の交付を請求できます。ただし、保存の期間が決まっています。
一 公正証書、公正証書原簿、公証人の保存する私署証書又は定款、認証簿(第三号に掲げるものを除く。)… 二十年 出典: laws.e-gov.go.jp
公証人法施行規則第70条第1項第1号は、公証人が保存する定款の保存期間を20年と定めています。同条第2項により、起算は当該年度の翌年からです。設立から20年以上が経っている会社では、残っていない可能性があります。心当たりがあるなら、早めに問い合わせるほうが確実です。
請求できるのは会社の代表者などに限られ、本人確認の書類が要ります。手続きの細かい点は公証役場によって運用が違うので、行く前に電話で確認します。聞くのは、どこの公証役場で認証を受けたか分からない場合の調べ方、必要な持ち物、手数料、その場で受け取れるかどうかの4点です。
認証を受けた公証役場が分からないときは、会社を作ったときの本店の住所から見当をつけます。設立の手続きでは、本店の所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人の認証を受けることになっているためです。設立を依頼した事務所が分かっているなら、そこに聞くのが最短です。
どこからも取り寄せられなかった場合は、現在の内容を改めて株主総会で決議し直して、定款を作り直すという方法があります。過去にさかのぼって効力を生じさせることはできませんが、そこから先は根拠が揃います。判断が要る場面なので、司法書士に相談してください。
合同会社の場合は、公証役場に残っていない
合同会社をはじめとする持分会社は、設立のときに公証人の認証を受けません。株式会社より設立の費用と期間が短く済む理由の1つがこれです。
そのかわり、定款を紛失したときに公証役場から取り寄せることができません。どこにも控えが存在しない、という状態になり得ます。
合同会社の定款の管理は、株式会社より重要だと考えてください。紙で保管しているなら、写しを別の場所にも置いておく。電子で保管しているなら、複数の場所にバックアップを取っておく。手間としては数分の話です。
定款を変更するときの手続きも違います。株主総会ではなく、社員の同意で行います。会社法第637条は、持分会社は定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって定款の変更をすることができると定めています。ここで言う社員とは、従業員ではなく出資をした人のことです。ですから、現行定款を作るときに添える書類も、株主総会議事録ではなく総社員の同意書になります。
提出までにどれくらい時間がかかるか
急ぎで求められることもあるので、所要時間の目安を書いておきます。
定款が手元にあり、変更もしていない会社なら、コピーして原本証明を付けるだけです。30分もかかりません。同時に登記事項証明書を求められているなら、そちらの取得のほうが時間を要します。
定款は手元にあるが変更をしている会社で、議事録も揃っているなら、現行定款を作る作業が入ります。変更が1回か2回なら1時間ほど、回数が多ければ半日ほど見ておきます。条文の番号がずれていないか、登記事項証明書と食い違っていないかを確認する時間を含めた見積もりです。
議事録が見つからない、あるいは定款そのものが見つからない場合は、日数の単位になります。司法書士事務所への問い合わせに数日、公証役場への請求にも日数がかかります。提出期限が迫っているなら、その時点で相手に事情を伝えて期限を延ばしてもらうほうが確実です。黙って遅れるより、先に連絡するほうが印象を損ねません。
登記事項証明書のほうは、法務局の窓口で請求すれば当日受け取れます。オンラインで請求して郵送してもらう方法は窓口より安く済みますが、届くまでに日数がかかります。急ぐなら窓口、余裕があるならオンライン、と使い分けます。
渡したあとに気をつけること
定款を渡したら、それで終わりではありません。
まず、誰にいつ何を渡したかを記録しておきます。定款には会社の内部の取り決めが書かれています。渡した先が増えるほど、把握しておく必要が出てきます。
次に、そのあとに定款を変更したら、渡した先に新しい内容を知らせるかどうかを判断します。許認可を受けている事業では、定款の変更そのものが届出の対象になっている場合があります。担当官庁に確認してください。
そして、渡した写しの内容を自分でも1部残しておきます。「このときはこの内容で出した」という記録になります。後から相手と内容の食い違いが出たときに、確認が早く済みます。
定款は、会社法第31条第1項により本店と支店に備え置くことが義務づけられている文書です。自宅を本店にしている1人の会社でも、この義務は同じようにかかります。求められたときにすぐ出せる場所にまとめておく。それだけのことですが、できていない会社が実際にはかなりあります。
書類を出せる状態にしておくことの、見えにくい効果
ここまでは手続きの話でした。最後に、この手の準備をどう位置づけるかについて、市場の側から見ておきます。
運営者として在宅で働く人や小さな会社を20年見てきた限りでは、会社の書類が整っている人ほど、新しい取引が早く立ち上がります。理由は単純で、相手の社内手続きが止まらないからです。定款を求められて「探します」と答えるか、その日のうちに原本証明つきの写しを渡せるかで、初回の印象が変わります。相手の担当者も、社内で承認を取る側の人間です。書類が揃わない案件は、その人の手元で止まります。
一方で、書類の整備に時間を使いすぎるのも違います。整えても売上が直接増えるわけではありません。増えるのは、手続きで止まらずに済む分の時間だけです。一度形を作って、あとは変更のたびに短時間で回せる状態にしておくのが正解になります。
書類が問われる頻度は、受ける仕事の形によって変わります。開発の受託を軸にするなら、契約や与信の確認が入る場面が多くなります。仕事の実態と単価の考え方はソフトウェア作成者の年収・単価相場に、案件の中身はアプリケーション開発のお仕事に整理されています。文章や編集を軸にするなら、案件の形が幅広く、書類の求められ方も相手によって変わります。仕事の広がり方は著述家,記者,編集者の年収・単価相場から読み取れます。
書類が最も問われるのは、企業の相談に乗る形の仕事です。AIコンサル・業務活用支援のお仕事やAI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように、成果物ではなく判断を売る領域では、発注が法人限定になっている募集も見られます。この領域へ出るなら、定款と登記事項証明書をいつでも出せる状態にしておく価値が高くなります。
中間に人が入らない直接の取引では、同じ予算でも依頼する側はより多く頼め、受ける側は手取りが厚くなります。運営者として見てきた限り、長く続く人ほど、単発の作業を安く早くこなすことよりも、この人に任せれば楽だと思われる関係を作ることに時間を使っています。書類をすぐ出せることは、その「任せれば楽」を構成する地味な要素の1つです。
契約の受け方そのものを整えるなら、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが発注書に入れるべき項目を解説しており、代金が支払われなかったときの手順は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】にあります。定款や議事録のような文書の型を体系的に押さえたいなら、ビジネス文書検定が実務に直結します。技術職で法人を運営しているなら、CCNA(シスコ技術者認定)のように発注側が評価軸として見る資格を持っておくと、書類とは別の軸で選ばれやすくなります。どこまで自分でやってどこから専門家に頼むかの線引きは、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】に専門家側から見た業務の切り分け方が書かれており、参考になります。
最後に確認です。何を提出すれば足りるかは、提出先の運用によって変わります。また税務上の扱いは会社の事情で変わります。判断に迷う点が出たら、提出先の窓口、管轄の法務局の相談窓口、税務署、または司法書士や税理士に確認してください。
よくある質問
Q. 設立のときにもらった定款をそのまま渡してよいですか?
会社を作ってから定款の内容を変える決議を一度もしていなければ、そのまま渡して構いません。その場合は原始定款が現行定款と同じものになります。変更をしたことがあるなら、変更を反映させた内容を渡します。原本ではなく写しを渡し、原本は会社で保管し続けてください。
Q. 現行定款には公証人の認証が必要ですか?
必要ありません。公証人の認証が要るのは、会社を作るときの最初の定款だけです。成立後の変更は株主総会の決議で効力が生じます。変更を反映させて作り直した定款に、認証も収入印紙も不要です。パソコンで作り、印刷して会社の実印を押せば足ります。
Q. 定款が見つかりません。どこで取り寄せられますか?
まず設立を依頼した司法書士や税理士の事務所に問い合わせてください。株式会社であれば、認証を受けた公証役場に謄本の交付を請求できます。ただし公証人法施行規則により保存期間は20年とされているため、古い会社では残っていないことがあります。合同会社は認証を受けていないので公証役場にはありません。
Q. 登記事項証明書を出せば、定款の代わりになりますか?
なりません。登記に載るのは商号、目的、本店、資本金、役員など外部の判断に必要な項目だけで、株主総会の招集方法や取締役の任期、事業年度といった定款の内容は載りません。逆に定款には現在の代表者や資本金が書かれていないことがあります。多くの場面では両方を求められます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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