廃業のときに出す書類の期限|1か月以内のものとそうでないもの

前田 壮一
前田 壮一
廃業のときに出す書類の期限|1か月以内のものとそうでないもの

この記事のポイント

  • 廃業届期限を調べている人向けに
  • 廃業と法人成りのときに出す書類を期限の早い順に整理しました
  • 確定申告期限まで延びたもの

まず、安心してほしい。廃業届期限で検索して「1か月以内と書いてある、もう過ぎている」と焦っている人がいるなら、その情報は古い。税務署に出す廃業届の期限は2026年1月1日から法律が変わり、廃業した年分の確定申告期限までに延びた。ただし、延びていない書類もある。むしろ、法人成りの場面でいちばん先に期限が来るのは廃業届ではなく、社会保険の届出と、都道府県に出す個人事業税の申告のほうだ。皆さんが本当に急ぐべき書類と、落ち着いて片付けてよい書類は別物になっている。ここでは、廃業と法人成りのときに出す書類を期限の早い順に並べ直して、それぞれの根拠と、遅れたときにどうなるかを整理する。

2026年1月に何が変わったのか

最初に、変更点を押さえておく。個人事業の廃業を税務署に伝える書類は「個人事業の開業・廃業等届出書」という。根拠は所得税法第229条で、この条文の文言が2026年1月1日から書き換わった。

2025年12月31日までは「その事実があつた日から一月以内に」と書かれていた。これが現在は、次のようになっている。

居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し、若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない。 出典: laws.e-gov.go.jp

国税庁の手続案内も同じ内容に更新されていて、提出時期の欄は「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください」となっている。2026年中に廃業した人なら、2027年3月15日までに出せば期限内という計算になる。

同じ改正は、所得税の青色申告の取りやめ届出書の根拠である所得税法第151条にも入った。こちらは「その年の翌年三月十五日までに」から「その年分の所得税に係る確定申告期限までに」に変わっている。日付そのものは同じだが、基準が確定申告期限にそろえられた。

つまり、税務署に出す2枚の書類が、確定申告の作業と同じタイミングにまとめられたことになる。ここまでは朗報だ。問題は、これ以外の書類の期限が変わっていないことにある。

期限の早い順に並べた一覧

まず全体を見てほしい。法人成りをする個人事業主が出す主な書類を、期限の早い順に並べると次のようになる。

書類 出す先 期限 根拠
健康保険・厚生年金保険 新規適用届 年金事務所または事務センター 事実発生から5日以内 日本年金機構の案内
健康保険・厚生年金保険 適用事業所全喪届 年金事務所または事務センター 事実発生から5日以内 日本年金機構の案内
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 税務署 事実があった日から1か月以内 所得税法230条
事業開始(廃止)等申告書(個人事業税) 都道府県税事務所 廃止の日から1か月以内 地方税法72条の55
法人設立届出書 税務署 設立登記の日以後2か月以内 法人税法148条
青色申告書の承認の申請(法人) 税務署 設立の日以後3か月を経過した日と事業年度終了の日のうち早い日の前日まで 法人税法
個人事業の開業・廃業等届出書 税務署 廃業した年分の確定申告期限まで 所得税法229条
所得税の青色申告の取りやめ届出書 税務署 取りやめる年分の確定申告期限まで 所得税法151条
事業廃止届出書(消費税) 税務署 速やかに 消費税法57条1項3号

法人成りの手続きというと、まず法務局での登記を思い浮かべる人が多い。しかし登記が完了した時点で、いちばん短い期限の時計はもう動き始めている。登記の完了を待ってから書類の勉強を始めると、5日の期限はほぼ確実に過ぎる。順番を先に知っておくことの価値は、ここにある。

5日以内に出すもの

いちばん短いのが、社会保険の届出だ。日本年金機構の案内では、提出時期が「事実発生から5日以内」とされている。

対象になるのは2種類ある。1つは、新しく作った会社で健康保険と厚生年金保険の適用を受けるための「新規適用届」。法人事業所は、従業員がいなくても、つまり事業主1人だけの会社であっても加入が法律で義務づけられている。会社を作った以上、避けて通れない。

もう1つが、個人事業のときに社会保険に入っていた場合の「適用事業所全喪届」だ。こちらは事業を廃止したときなどに出す書類で、やはり5日以内とされている。常時5人以上の従業員がいる個人事業所は強制適用事業所になるので、この規模で法人成りする人は両方の書類が必要になる。

新規適用届には添付書類が必要で、法人事業所の場合は法人(商業)登記簿謄本を付ける。コピーではなく原本が求められ、しかも提出日からさかのぼって90日以内に発行されたものという条件が付く。登記が完了したらすぐ謄本を取りに行く、という順番になる。登記事項証明書は法務局のサイトからオンラインで交付請求もできる。

全喪届のほうの添付書類は選択肢が広い。解散登記の記載がある法人登記簿謄本のコピー、または雇用保険適用事業所廃止届の事業主控のコピーが原則で、これらが用意できない場合は、給与支払事務所等の廃止届のコピーや、法人税・消費税の異動届のコピーなどでも代替できる。

5日という期限を落としたらどうなるか。受け付けてもらえないわけではない。ただし、社会保険の資格の開始日がずれると、その間の医療費の扱いや保険料の計算に影響が出る。従業員がいる場合は、本人の保険証の発行が遅れることになる。登記が終わったら真っ先に着手する。これが安全な進め方になる。

1か月以内に出すもの

次に短いのが1か月のグループだ。2種類ある。

1つ目が「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」。給与を払う事務所を開いたり、移したり、閉じたりしたときに出す書類で、国税庁の案内では提出時期が「開設、移転又は廃止の事実があった日から1か月以内」とされている。根拠は所得税法230条と施行規則99条だ。

法人成りの場合、この書類は2枚必要になることが多い。個人事業のほうで従業員や専従者に給与を払っていたなら廃止として1枚、新しい会社で役員報酬や給与を払うなら開設として1枚。会社は社長1人でも役員報酬を払うなら給与の支払者になるので、開設の届出は必要になる。

2つ目が、都道府県に出す個人事業税の申告だ。東京都なら「事業開始(廃止)等申告書」という名前になる。根拠は地方税法第72条の55で、年の中途で事業を廃止した場合は廃止の日から1か月以内(死亡による廃止なら4か月以内)と定められている。地方税法は全国共通なので、都道府県によって期限が変わることはない。

この書類がいちばん忘れられやすい。理由は、通常の年は個人事業税のために何も出さなくてよいからだ。東京都主税局の案内でも、所得税の確定申告や住民税の申告をした人は個人事業税の申告をする必要がないとされている。毎年これで済んでいるので、廃業のときだけ別扱いになることに気づかない。

出さないとどうなるか。都道府県は廃業を知らないまま事業が続いていると扱うので、納税通知書が届き続ける。また、廃業の年の事業主控除は営業した月数に応じた月割になるが、廃止の日が伝わっていなければ月数が確定せず、本来より多い税額が通知されることがある。

2か月以内、3か月以内に出すもの

法人側の書類が、ここから登場する。

「法人設立届出書」は、国税庁の案内で提出時期が「法人設立の日(設立登記の日)以後2月以内」とされている。根拠は法人税法第148条と施行規則第63条で、添付書類として定款、寄付行為、規則または規約の写しが必要になる。

会社を作ったことを税務署に伝える基本の1枚だが、実はもう1つ大事な書類が同じ時期に来る。法人の「青色申告書の承認の申請」だ。国税庁の案内では、設立の日の属する事業年度については、設立の日以後3か月を経過した日と、その事業年度終了の日のうち、いずれか早い日の前日までに出すこととされている。

ここは落とすと痛い。法人の青色申告には、欠損金を繰り越せる、少額減価償却資産の特例が使えるといった特典が付く。設立1期目は赤字になりやすいので、繰り越せるかどうかで数年先の税額が変わってくる。しかも期限が「3か月を経過した日」と「事業年度終了の日」の早いほうなので、決算月を設立直後に設定した会社は期限が前倒しになる。設立から決算までが短い会社ほど注意が必要になる。

なお、法人を作ると都道府県と市町村にも設立の届出を出すことになる。こちらの期限は自治体の条例で決まっていて、地域によって日数が違う。管轄の都道府県税事務所と市区町村の窓口で確認してほしい。

確定申告期限までに出せばよいもの

2026年の改正で、ここのグループが生まれた。税務署に出す「個人事業の開業・廃業等届出書」と「所得税の青色申告の取りやめ届出書」の2枚だ。どちらも、その年分の確定申告期限までに出せばよい。

期限が土曜日、日曜日、祝日に当たるときは、その翌日が期限になる。これも国税庁の案内に明記されている。

期限が延びたことで、進め方が変わる。以前は「廃業したら1か月以内」という時計が動いていたので、登記と並行して税務署の書類も片付ける必要があった。いまは、確定申告の準備を始めるタイミングでまとめて出せる。廃業の年は個人の確定申告を必ず1回出すことになるので、そのときに一緒に出す。これがいちばん忘れにくい。

ただし、青色申告の取りやめ届出書については、そもそも出すべきかどうかを先に考えてほしい。所得税法第151条には、事業の全部を譲渡または廃止した場合には、その日の属する年の翌年分以後について青色申告の承認が効力を失うと定められている。法人成りで個人の事業を全部たたむなら、出さなくても承認は消える。逆に、個人に不動産所得などが残る場合は、出すと青色の特典を失う。出す前に、自分がどちらなのかを確認しておきたい。

期限が決まっていないもの

消費税の「事業廃止届出書」だけは、提出時期が「事由が生じた場合、速やかに」とされていて、何月何日までという定めがない。根拠は消費税法第57条第1項第3号だ。

対象は課税事業者だけになる。免税事業者のまま事業をしていた人は、この書類の対象外だ。インボイス発行事業者として登録している人は、売上の大小にかかわらず課税事業者なので対象になる。

罰則がないからといって、放置してよい書類ではない。出さないと課税事業者としての扱いが残り、消費税の申告書の案内が届き続ける。直前の課税期間の消費税の年税額が48万円を超えていれば、中間申告の通知も来る。過去に出した課税事業者選択届出書や簡易課税制度選択届出書も、やめると言わない限り効力が残る。

期限が決まっていない書類こそ、自分で期日を決めておきたい。廃業届と同じ日に出す。この1つのルールを決めておけば、後回しにならない。

年に2回しか窓が開かないもの

もう1つ、期限の形が特殊な手続きがある。予定納税の減額申請だ。

予定納税は、その年の5月15日時点で確定している前年分の所得や税額をもとに計算した予定納税基準額が15万円以上になる人が対象で、税務署から6月15日までに通知が届く。納める時期は第1期分が7月1日から7月31日まで、第2期分が11月1日から11月30日までになる。

廃業すると、その年の所得は前年より大きく減ることが多い。その場合は減額申請ができる。国税庁の手続案内では、対象になる例の1つとして「廃業や休業、失業をした場合」が挙げられている。そして提出時期はこうなっている。

[提出時期] 第1期分及び第2期分の減額申請については、その年の7月1日から7月15日までに提出してください。 第2期分のみの減額申請及び特別農業所得者の減額申請については、その年の11月1日から11月15日までに提出してください。 出典: nta.go.jp

7月1日から7月15日までの15日間、そして11月1日から11月15日までの15日間。窓が開いているのはこの2回だけになる。ほかの書類のように「◯日以内」ではなく、日付が固定されている点が特殊だ。

ここを逃すと、事業をやめたのに前年並みの所得税を先払いすることになる。払い過ぎた分は翌年の確定申告で精算されて戻ってくるが、その間は資金が寝る。法人成りをした年の資金繰りは楽ではないので、6月に通知が届いたら、その場で7月の予定に入れておきたい。申請には、申告納税見積額の計算の基礎となる事実を記載した書類を添える。

申告そのものの期限も確認しておく

書類の提出とは別に、申告そのものの期限がある。ここも2つの税で日付が違うので並べておく。

所得税の確定申告は、廃業した年の分を翌年3月15日までに出す。1月1日から廃業の日までの事業所得を計算する。廃業した年はまだ青色申告者なので、青色申告特別控除も使える。

消費税の確定申告は、翌年3月31日までになる。個人事業者の課税期間は年の中途で廃業しても1月1日から12月31日までのままなので、廃業後の期間も同じ課税期間に含まれる。所得税より半月ほど後ろにずれる点に注意したい。

法人側では、最初の事業年度が終わったあとに法人税と消費税、地方税の申告が来る。決算月をいつにするかで、この最初の申告の時期が決まる。設立の時期と決算月の組み合わせは、青色申告の承認申請の期限にも影響するので、登記の前に決めておきたい。

従業員を雇っていた場合に増えるもの

個人事業で人を雇っていた場合は、税務署と都道府県だけでは終わらない。労働保険と雇用保険の手続きが加わる。労働基準監督署とハローワークが窓口になり、それぞれ提出する書類と期限が決まっている。日数は書類ごとに違うので、管轄の窓口で確認してほしい。

順番としては、社会保険と同じく早い段階で着手するグループに入る。日本年金機構の全喪届の添付書類の一覧に、雇用保険適用事業所廃止届の事業主控のコピーが挙げられているとおり、これらの手続きは互いに紐づいている。片方の控えがもう片方の添付書類になるので、どちらから着手するかで手間が変わる。

給与を払っていた人には、もう1つ年末の作業がある。廃業した年の源泉徴収票を従業員に交付し、法定調書を提出する手続きだ。事業をやめても、その年の給与の支払いはあったので、この作業は残る。

添付書類が用意できるかで、実際の日数は変わる

期限の日数だけを見ていると見落とすのが、添付書類の準備にかかる時間だ。5日以内の書類に、取得に数日かかる添付書類が必要なら、実質の猶予はもっと短い。

新規適用届が典型になる。日本年金機構の案内には、添付書類について次のように書かれている。

なお、添付書類のうち、法人(商業)登記簿謄本および住民票(コピー不可・個人番号の記載がないもの)は、直近の状態を確認するため、提出日からさかのぼって90日以内に発行されたものをご提出いただくこととなりますのでご注意願います。 出典: nenkin.go.jp

法人事業所の場合は法人(商業)登記簿謄本がコピー不可、つまり原本が要る。事業主が法人である場合は法人番号指定通知書のコピーも必要で、これが添付できないときは国税庁の法人番号公表サイトで確認した法人情報の画面を印刷して代えることもできる。強制適用となる個人事業所の場合は、事業主の世帯全員の住民票が原本で必要になる。さらに、法人事業所の所在地が登記上の所在地と違う場合や、個人事業所の所在地が住民票の住所と違う場合は、賃貸借契約書のコピーなど所在地を確認できるものを別途添付する。

登記が完了してから登記簿謄本が取れるようになるまでには、登記の申請から完了までの日数がある。法務局の窓口や、法務局のサイトからのオンライン交付請求を使うことになるが、いずれにしても当日中にすべてが揃うわけではない。5日という期限に対して、実際に動ける日数は3日程度と考えておくのが現実的だ。

法人設立届出書も同じ構造で、定款の写しを添える必要がある。定款は公証役場での認証を経て手元にあるはずなので、こちらは慌てずに済む。ただし、株式会社と合同会社で必要な書類が違うので、設立した会社の形に合わせて確認しておきたい。

窓口が4つに分かれているという前提

もう1つ、手続きが重く感じられる理由を整理しておく。廃業と法人成りの書類は、出す先が4種類に分かれている。

1つ目が税務署だ。国税を扱う役所で、廃業届、青色申告の取りやめ届出書、消費税の事業廃止届出書、給与支払事務所等の届出、法人設立届出書、法人の青色申告承認申請がここに集まる。書類の枚数としてはいちばん多い。

2つ目が都道府県と市町村だ。地方税を扱う窓口で、個人事業税の廃止の申告と、法人設立の届出がここになる。都道府県税事務所と市区町村の税務課は別の窓口なので、法人の設立では2か所に出すことになる。

3つ目が年金事務所または事務センターだ。健康保険と厚生年金保険の届出がここに来る。期限がいちばん短いグループがこの窓口になる。

4つ目が労働基準監督署とハローワークで、従業員を雇っていた場合だけ関係する。労働保険と雇用保険の手続きが入る。

国民健康保険に入っていた人は、これに加えて市区町村の国民健康保険の窓口での手続きも出てくる。法人成りして会社で健康保険に入ると、国民健康保険のほうは資格を失うので、その届出が必要になる。期限は市区町村の案内で確認してほしい。

窓口ごとに用語も様式も違うので、どこに何を出したかを自分で管理する必要がある。おすすめは、提出した書類の控えを1つのフォルダにまとめておくことだ。年金機構の全喪届の添付書類に給与支払事務所等の廃止届のコピーが使えるように、ある窓口に出した控えが別の窓口の添付書類になることがある。控えを取らずに出してしまうと、同じ書類をもう一度作ることになる。

電子で出せるもの、紙が要るもの

手続きを早く進めたいなら、電子申請が使えるかどうかも確認しておきたい。

税務署の書類は、ほぼすべてe-Taxソフトで作成して電子で提出できる。国税庁の各手続案内には、e-Taxソフトで作成のうえ提出してくださいという案内が最初に来ている。紙で作って持参や郵送でも出せるが、電子で出せば本人確認書類の提示や写しの添付が不要になるという利点がある。個人番号を紙に書いて出す場合は、その都度本人確認書類が必要になるためだ。

社会保険の書類は、事業所向けのオンラインサービスや電子申請、電子媒体申請が使える。ただし添付書類の原本が求められるものがあるので、完全に電子だけで完結するとは限らない。全喪届については、電子申請で提出する場合、添付書類を画像ファイル(JPEG形式またはPDF形式)の添付データとして出せるとされている。

都道府県の書類も、電子申請の窓口が用意されていることが増えてきた。東京都の場合、個人事業税の事業開始(廃止)等申告書はLoGoフォームという窓口から提出できる。パソコンでもスマートフォンでも手続きできるので、窓口に行く時間が取れない人には現実的な選択肢になる。

郵送で出す場合に共通する工夫が1つある。控えに受付印をもらうために、返信用封筒と切手を同封しておくことだ。前の節で書いたとおり、控えが別の窓口の添付書類になることがある。受付印のある控えは、あとで効いてくる。

期限を過ぎてしまったときの考え方

ここまで期限を並べてきたが、過ぎてしまった人向けにも書いておく。

まず、今回紹介した書類のほとんどに、遅れたこと自体への罰金のような定めはない。気づいた時点で出せば受け付けてもらえる。放置するほうが確実に不利になるので、日付を偽らず、実際の廃業日を書いて出してほしい。

次に、遅れによる実害が出るものを優先する。社会保険の資格の開始日がずれている、個人事業税の納税通知書が届き続けている、消費税の申告書の案内が来ている。こうした具体的な不都合が起きているものから片付ける。

3つ目に、法人の青色申告の承認申請だけは、期限を過ぎると取り返しがつきにくい。設立1期目に間に合わなかった場合、青色申告は次の事業年度からになる。1期目の赤字を繰り越せなくなる可能性があるので、設立直後の人は、ほかの何より先にこの期限を確認してほしい。

実際の進め方を1か月のスケジュールに落とす

最後に、登記が完了した日を起点に、順番を並べておく。

登記完了の当日から3日以内。法務局で登記事項証明書を取る。新規適用届の添付書類になるので、これがないと社会保険の手続きが進まない。同時に、会社の印鑑証明書も取っておくと後で使える。

5日以内。年金事務所または事務センターに新規適用届を出す。個人事業のときに社会保険に入っていたなら、全喪届も一緒に出す。電子申請、郵送、窓口持参のいずれでも受け付けている。

2週間以内。取引先に法人成りを伝える。請求書の宛名、振込先、登録番号の変更を案内する。書類の期限ではないが、ここが遅れると入金が翌月にずれるので、実は資金繰りへの影響がいちばん大きい。

1か月以内。税務署に給与支払事務所等の届出(廃止と開設)を出す。都道府県税事務所に個人事業税の廃止の申告を出す。この2つで、短い期限のグループは終わる。

2か月以内。税務署に法人設立届出書を出す。定款の写しを添える。都道府県と市町村への設立の届出も、このタイミングで確認する。

3か月以内、または最初の事業年度終了の日の前日まで。法人の青色申告の承認申請を出す。決算月によってはこちらが先に来る。

翌年2月から3月。個人の確定申告を作りながら、廃業届と、必要なら青色申告の取りやめ届出書、消費税の事業廃止届出書を出す。所得税の申告は3月15日、消費税は3月31日が期限になる。

独自データから見た、期限より大事なこと

在宅ワーク求人サイトを20年運営してきた立場から見ると、法人成りの前後で売上を落とす人と落とさない人の差は、書類を早く出したかどうかではありません。取引先に切り替えを伝えた時期で決まっています。

運営者として見てきた限りでは、請求書の宛名と振込先が変わるというのは、相手の経理にとっては登録のやり直しが必要な変更です。伝えるのが遅いほど、相手側の支払いサイクルから外れて、入金が1か月後ろにずれる。書類の期限は過ぎても取り返せますが、止まった入金は取り返せません。廃業届の期限が2026年から確定申告期限まで延びたことの本当の価値は、ここにあります。書類に使っていた気力を、取引先との巻き直しに回せるようになった。皆さんには、その順番で動いてほしいと思います。

仕事の内容によって、切り替えの重さも変わります。相談から入る仕事ほど、法人名義のほうが話が進みやすい傾向があります。たとえばAIコンサル・業務活用支援のお仕事は、業務の棚卸しから導入の設計まで含む長期の関わりになりやすく、契約書を交わす場面も多い。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事も、社内の体制づくりまで踏み込む案件では相手が法人との契約を求めてきます。開発を軸にするならアプリケーション開発のお仕事に、受託の形と規模の幅がまとまっています。

金額の見通しを立てておくと、書類の判断も早くなります。ソフトウェア作成者の年収・単価相場には開発職の収入の分布が、著述家,記者,編集者の年収・単価相場には書く仕事の水準がまとめてあります。個人に残す仕事の売上がどのくらいになりそうかが見えれば、青色を残すかどうか、消費税の課税事業者をどう扱うかの判断が具体的になります。

法人になったばかりの時期は、取引先が判断材料を探しています。ビジネス文書検定のように書類のやり取りの型を示せるものや、CCNA(シスコ技術者認定)のような技術の裏付けは、会社名がまだ知られていない時期に効きます。お金の置き場所も変わるので、【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオで長期の積み上げ方を確認しておくと、役員報酬の額を決めるときの下敷きになります。廃業年の個人の申告そのものに不安があるなら、確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツに、控除と還付の論点がまとまっています。デザイン系の仕事を法人で続けるなら、UI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】で職種ごとの収入差を見ておくと、単価を決める材料が増えます。

最後に、20年この市場を見てきた立場から1つだけ。中間に手数料が乗らない直接の取引は、同じ予算でも依頼する側はより多く頼めて、受ける側は手取りが厚くなります。法人成りをすると、この差がそのまま会社の利益率に出ます。長く続く人ほど、単発の作業を追いかけるのではなく、この人に任せておけば楽だという関係を作ることに時間を使っている。書類の期限は、5日、1か月、2か月、確定申告期限、そして期限なし。この5つに分けて頭に入れておけば、あとは順番に片付くだけの作業です。空いた時間を、関係づくりに回してください。

よくある質問

Q. 廃業届を1か月以内に出していません。罰則はありますか?

2026年1月1日以降は、そもそも期限が1か月以内ではありません。所得税法第229条が改正され、廃業した事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出すればよいことになりました。2026年中に廃業したなら2027年3月15日までが期限です。まだ出していないなら、確定申告の準備と合わせて提出してください。

Q. 廃業のときに出す書類で、いちばん期限が短いものはどれですか?

健康保険・厚生年金保険の届出です。日本年金機構の案内では、新規適用届も適用事業所全喪届も、提出時期は事実発生から5日以内とされています。次に短いのが、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書と、都道府県に出す個人事業税の廃止の申告で、どちらも1か月以内です。

Q. 期限が決まっていない書類はありますか?

消費税の事業廃止届出書は、提出時期が「事由が生じた場合、速やかに」とされていて、日付の定めがありません。ただし出さないと課税事業者の扱いが残り、申告書の案内や中間申告の通知が届き続けます。対象は課税事業者だけなので、免税事業者だった人は提出不要です。

Q. 法人側の書類で、落とすと影響が大きいものはどれですか?

法人の青色申告書の承認の申請です。設立の日の属する事業年度については、設立の日以後3か月を経過した日と事業年度終了の日のうち早い日の前日までが期限で、落とすと1期目の赤字を繰り越せなくなる可能性があります。決算月を設立直後に置いた会社ほど期限が前倒しになるので注意してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月15日最終更新:2026年9月19日
前田 壮一

この記事を書いた人

前田 壮一@SOHO編集部

元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身

大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。

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