定款を変える手順|株主総会から登記まで

丸山 桃子
丸山 桃子
定款を変える手順|株主総会から登記まで

この記事のポイント

  • 株主総会の招集から議事録の作成
  • 登記の申請までひと続きで整理しました
  • 登記が要る変更と要らない変更の切り分け

定款を変えるのに、公証役場へ行く必要はありません。会社を作るときに公証人の認証を受けた定款も、いったん成立してしまえば、株主総会の決議だけで変えられます。

手順は3段階です。株主総会を開いて決議する。議事録を作る。登記が必要な内容なら、2週間以内に登記所へ申請する。これだけです。

つまずくのは、登記が必要な変更と不要な変更の区別がつかないときと、株主リストという添付書類の存在を知らないときです。ここでは、定款とは何かというところから、登記が終わるまでの流れを、会社法と法務局が公表している資料で確かめた内容だけで順に並べます。

定款とは、会社の決まりを書いた文書のこと

定款とは、会社の基本的な決まりを書いた文書のことです。商号、事業の目的、本店の所在地、発行できる株式の総数、事業年度、株主総会や取締役の決め方といったことが書かれています。会社を作るときに必ず作るもので、株式会社の場合は公証人の認証を受けます。

ここで押さえておきたいのが、定款と登記簿は別物だということです。定款は会社が持っている文書で、登記簿は法務局が管理している公の記録です。定款に書かれていることのうち、一部だけが登記されます。

たとえば商号と本店と事業の目的は、定款にも書かれていますし登記もされます。一方、事業年度や株主総会の招集の時期は、定款には書かれていますが登記はされません。

この違いが、あとで出てくる「登記が要る変更と要らない変更」の分かれ目になります。

変えられるのは、成立したあとならいつでも

会社法は、定款の変更について次のように定めています。

株式会社は、その成立後、株主総会の決議によって、定款を変更することができる。 出典: laws.e-gov.go.jp

1文だけの条文です(会社法第466条)。裏を返すと、成立前は変えられないということでもあります。設立の登記が済む前に定款の内容を直したい場合は、発起人の同意など別の手続きになります。

そして、変更に公証人の認証は要りません。認証が必要なのは会社を作るときの最初の1回だけです。ここを誤解して公証役場に問い合わせる人がいますが、変更の場面で公証役場が登場することはありません。

変更した結果を反映した定款は、会社が自分で作り直して保管します。表紙に「変更後」と書いて、末尾に「上記は当会社の定款に相違ありません」といった文言と日付、商号、代表取締役の記名押印を入れるのが通例です。この現在の定款を「現行定款」と呼びます。銀行や補助金の申請で定款の写しを求められたときに出すのは、この現行定款です。

手順1:株主総会を招集する

決議をするには、まず株主総会を開きます。定時株主総会の議題に加えてもよいですし、臨時株主総会を開いても構いません。

招集の通知には期限があります。会社法は、株主総会を招集するには、取締役は株主総会の日の2週間前までに株主に対して通知を発しなければならない、と定めています。ただし公開会社でない株式会社は1週間前まで、さらにその会社が取締役会を置いていない場合は、これを下回る期間を定款で定めることもできます(会社法第299条第1項)。

公開会社かどうかというのは、株式の譲渡に会社の承認が要る旨を定款で定めているかどうかで決まります。中小企業のほとんどは全部の株式に譲渡制限を付けているので、公開会社ではありません。この場合は1週間前までで足ります。

さらに短くできる道もあります。会社法は、株主の全員の同意があるときは招集の手続を経ることなく株主総会を開催できる、と定めています(第300条)。株主が代表者1人だけ、あるいは家族数人だけという会社では、この規定を使って当日に開くのが一般的です。

通知の方法にも決まりがあります。取締役会を置いている会社は書面で通知しなければなりません。書面投票や電子投票を採用する場合も書面が必要です。それ以外の会社なら口頭でも成立します。

手順2:特別決議で可決する

定款の変更は、通常の決議より重い「特別決議」で行います。会社法の定めはこうです。

前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。 出典: laws.e-gov.go.jp

条件が2つあります。1つが定足数で、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席していること。もう1つが賛成の数で、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成することです。

定款の変更がこの特別決議に当たるのは、同じ条文の第11号が「第六章から第八章までの規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会」を挙げているからです。定款の変更を定めた第466条は第六章にあります。

1人で株式を全部持っている会社なら、この要件は自動的に満たされます。複数の株主がいる会社では、3分の2という数字が効いてきます。出資比率を決めるときにこの数字を意識していない会社は、あとで定款を変えられなくなることがあります。

なお、もっと重い要件が課される変更もあります。全部の株式に譲渡制限を設ける定款変更は、議決権を行使できる株主の半数以上であって、かつ議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法第309条第3項第1号)。頭数の要件が加わる点が違います。

手順3:総会を開かずに済ませる方法もある

株主が少ない会社では、実際に集まらずに決議を成立させる方法が使えます。

会社法は、取締役または株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、その提案につき議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす、と定めています(第319条第1項)。

全員の同意が条件なので、1人でも反対や無回答があれば成立しません。その代わり、集まる手間も招集通知も不要になります。株主が代表者と配偶者だけ、といった会社では、この方法のほうが現実的です。

この場合に作るのは議事録ではなく、提案の内容と同意の意思表示を記録した書面です。会社法は、この書面または電磁的記録を、決議があったものとみなされた日から10年間、本店に備え置かなければならないと定めています。

登記の添付書類としては、この書面が議事録の代わりになります。法務省も、登記事項につき株主総会決議を省略する場合にも株主リストの添付が必要だと案内しているので、リストの用意は同じように必要です。

手順4:議事録を作る

総会を開いた場合は、議事録を作ります。会社法は、株主総会の議事については法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければならない、と定めています(第318条第1項)。

保管の期間も決まっています。株式会社は株主総会の日から10年間、議事録を本店に備え置かなければなりません。支店がある場合は、その写しを5年間、支店に備え置きます。

議事録に書く内容は、開催の日時と場所、議事の経過の要領とその結果、出席した取締役などの氏名、議長の氏名、議事録を作成した取締役の氏名です。定款変更の議案については、変更前と変更後がどう変わるのかが分かるように書きます。「第2条を次のとおり変更する」として新旧を並べる書き方が一般的です。

この議事録が、登記の申請のときに添付書類になります。登記の内容と議事録の記載が食い違っていると補正になるので、決議した日付と変更後の文言は正確に書いてください。

手順5:登記が必要かどうかを切り分ける

ここが実務でいちばん迷うところです。定款を変えたら必ず登記する、というわけではありません。

会社法は、会社において第911条第3項各号に掲げる事項に変更が生じたときは、2週間以内にその本店の所在地において変更の登記をしなければならない、と定めています(第915条第1項)。この911条3項各号というのが、株式会社の登記事項の一覧です。

登記が必要になる代表的な変更は、商号、事業の目的、本店の所在場所、発行可能株式総数、公告方法、株式の譲渡制限に関する定め、取締役会や監査役を置くかどうかの定めです。

一方、定款を変えても登記が要らない変更もあります。事業年度、株主総会の招集の時期、基準日、取締役の員数の上限、株主名簿管理人を置かない場合の定めなどです。これらは登記事項ではないので、議事録を作って現行定款を差し替えれば完了します。

逆に、定款を変えずに登記だけが必要になる場面もあります。役員が任期満了で改選されたとき、本店を定款に書いた最小行政区画の中で移したときなどです。役員の氏名は登記事項ですが定款には書かれていないため、登記だけで済みます。

この3つの組み合わせを混同すると、やるべき手続きを1つ落とします。変更したい内容が登記事項かどうかを、先に確かめてください。

手順6:株主リストを用意する

登記を申請するときの添付書類として、議事録のほかに「株主リスト」が要ります。平成28年10月1日から必要になった書類で、これを知らずに申請して補正になる例が今でもあります。

法務省は、株主リストの添付が必要となる場合を2つ挙げています。1つが登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合、もう1つが登記すべき事項につき株主全員の同意を要する場合です。定款変更は前者に当たります。

書く内容は次のとおりです。

●議決権数 上位10名 の株主 ●議決権割合が 2/3に達するまで の 株主 ・・・いずれか 少ない方 の株主について、次の事項を記載した株主リスト 出典: moj.go.jp

記載するのは、株主の氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数割合の5点です。これを代表者が証明する形をとります。2分の1に達するまでではなく3分の2に達するまで、という点に注意してください。株主が1人の会社なら、その1人だけを書きます。

様式は法務省のサイトに、簡易書式と複雑な内容のものの両方がExcelとPDFで用意されています。株主が少ない会社なら簡易書式で十分です。

手順7:登記申請書を作って提出する

法務局は、登記の種類ごとに申請書の様式と記載例を配っています。商号の変更、目的の変更、本店移転、公告方法の変更など、変更の内容ごとに別の様式があります。

申請書に書くのは、会社法人等番号、フリガナ、商号、本店、登記の事由、登記すべき事項、登録免許税の額、添付書類です。末尾に本店と商号と代表取締役の住所と氏名を書き、登記所に提出した印鑑を押します。司法書士に頼む場合は、代理人の認印を押し、代表取締役の押印は不要になります。

書き方で間違えやすい点が2つあります。

1つが、目的を変更するときの書き方です。法務局の記載例には「目的は変更部分だけでなく、変更後の全ての目的を記録してください」と注記されています。1つ追加するだけでも、全部を並べ直して書きます。

もう1つが、フリガナの扱いです。記載例には、商号のフリガナは会社の種類を表す部分を除いて片仮名で左に詰めて記載すること、間に空白がある場合は空白を削除した文字をフリガナとして登録すること、そしてこのフリガナは国税庁の法人番号公表サイトを通じて公表されることが書かれています。登記事項証明書には表示されませんが、外に出る情報である点は知っておいてください。

なお商号を変える場合は、先に商号調査をします。すでに登記されている他の会社と同一の商号で、本店の所在場所も同一である場合は登記できません(商業登記法第27条)。法務省がオンライン登記情報検索サービスを使った調べ方を案内しています。

期限は2週間。過ぎると過料の可能性がある

登記が必要な変更をしたら、2週間以内に申請します。法務局は、期間を過ぎた場合の扱いを次のように説明しています。

登記すべき期間内に登記を怠り、その後に登記申請をする場合 であっても、そのことだけをもって申請が却下されることはありませんが、会社・法人の代表者に対して、 裁判所から100万円以下の過料に処される可能性 があります。 出典: houmukyoku.moj.go.jp

申請自体は受け付けられるものの、過料のリスクが残るということです。過料は会社ではなく代表者個人に科されます。

もう1つ、期限に関して押さえておきたい点があります。登記の事由が発生する前に申請することはできません。法務局も、令和2年7月1日に「令和2年8月14日本店移転」の登記申請をすることはできないと例を挙げて説明しています。決議の日より先に手続きを進めることはできないので、逆算して予定を組んでください。

また、最後の登記から12年を経過している株式会社は、みなし解散の登記の対象になります。何年も登記をしていない会社は、この点も併せて確かめてください。

費用は登録免許税が中心になる

自分で手続きをする場合、かかるのは登録免許税だけです。法務局の記載例で金額を確かめると、次のようになっています。

商号の変更が3万円。目的の変更も3万円。本店を同じ登記所の管轄の中で移す場合も3万円です。

管轄をまたぐ本店移転だけは扱いが違います。旧所在地を管轄する登記所宛ての申請書と、新所在地を管轄する登記所宛ての申請書を2通作り、それぞれに3万円ずつ、合計6万円がかかります。2通は同時に、旧所在地の登記所へ提出します。

複数の変更を1回の申請でまとめる場合、区分が同じなら1件ぶんで済むことがあります。商号と目的はどちらも同じ区分に属するため、同時に変えるときは合計3万円で足りるのが通例です。この扱いは具体的な組み合わせで変わるので、金額を確定させたいときは管轄の登記所か司法書士に確かめてください。

納め方は収入印紙です。申請書に直接貼るのではなく、収入印紙貼付台紙に貼って申請書と一緒に綴じます。法務局は、印紙を汚したり印紙に割印をしたりするとその印紙は使用できなくなると注意しています。貼るだけにしてください。

司法書士に頼む場合は、これに報酬が加わります。相場は変更の内容と地域で開きがあるので、複数の事務所に見積もりを取るのが現実的です。

本店移転だけは、決議が要らない場合がある

本店の移転は、定款変更が要る場合と要らない場合に分かれます。

法務局の本店移転登記申請書の記載例には、定款に本店の所在地として最小行政区画までを規定している場合であって、その最小行政区画内において本店を移転するときには、株主総会の決議は必要なく取締役会の決議で足りる、という趣旨の注記が入っています。

最小行政区画というのは、市区町村のことです。定款に「当会社は、本店を東京都渋谷区に置く」とだけ書いてあれば、渋谷区の中で移る限り定款を変える必要がありません。この場合は取締役会の決議、取締役会を置いていない会社なら取締役の決定で足ります。

一方、定款に番地まで書いてある会社は、同じ区の中で移るだけでも定款変更が必要になります。会社を作るときに番地まで書き込んでしまうと、引っ越しのたびに株主総会が要ることになるわけです。

これから定款を作る人は、最小行政区画までにとどめておくことをおすすめします。すでに番地まで書いてある会社は、次に定款を変える機会に、この部分も一緒に直しておくと以後が楽になります。

登記が終わるまでの日数と、その間にできないこと

申請してから登記が完了するまでには日数がかかります。法務局は、管轄の法務局のサイトで登記完了予定日を公開しているので、そこで確かめられます。

この期間中に気をつけたいのが、証明書が出ないことです。法務局は、登記申請を行って登記手続が完了するまでの間、原則としてその会社の登記事項証明書と印鑑証明書は発行されないと案内しています。補正がある場合や管轄をまたぐ本店移転の場合はさらに時間がかかります。

商号を変えたあとに、新しい商号の登記事項証明書がすぐ要る。この状況は実際によく起きます。銀行口座の名義変更、許認可の変更届、取引先への通知。どれも証明書を求められます。申請の日程は、これらの予定から逆算して決めてください。

補正の連絡は、申請書に書いた電話番号に入ります。日中つながる番号を書いておくこと、携帯電話の番号でも構わないことを法務局が明記しています。登記完了予定日まで連絡がなければ、補正はなく手続きが完了したということになります。

手元に定款が見つからないときの進め方

定款を変えようとして、そもそも現行の定款が見当たらない。設立から何年も経った会社では珍しくありません。

定款は会社が自分で保管する文書なので、法務局で写しをもらうことはできません。登記されているのは商号や目的といった一部の事項だけで、定款そのものが登記所に置かれているわけではないからです。

探す順番は次のようになります。まず設立時の書類一式です。設立を司法書士や行政書士に頼んだ場合は、その事務所が控えを持っていることがあります。公証人の認証を受けた定款は公証役場でも保存されていますが、保存の期間には限りがあるので、設立から年数が経っていると残っていない場合があります。

税務署に提出した設立届出書には定款の写しを添付しているので、税務署に開示を求める方法も考えられます。ただし手続きと可否は税務署の判断になるため、まず電話で確かめてください。

どこにも残っていない場合は、登記されている内容をもとに定款を作り直すことになります。商号、目的、本店、発行可能株式総数、機関の設計は登記事項証明書から分かります。残りは会社法の原則どおりの内容で組み立てる、という形です。この作業は判断を伴うので、司法書士に相談するのが現実的です。

いずれにしても、定款が無い状態では銀行や補助金の申請で止まります。定款変更の機会に、現行定款を作り直して保管場所を決めておいてください。

補正になりやすい形を先に知っておく

登記の申請で差し戻されるパターンは、おおむね次のどれかです。

株主リストを添付していない。平成28年10月から必要になった書類なので、それ以前に一度自分で登記をした経験がある人ほど落としやすいです。

目的を変更するときに、追加した部分だけを書いた。変更後のすべての目的を書き直す必要があります。

議事録の記載と申請書の内容が食い違っている。決議した日付と、申請書の「原因年月日」がずれている形が多いです。

登記の事由が発生する前に申請した。本店移転の日より前に移転の登記を申請することはできません。

収入印紙に割印を押してしまった。使えなくなるので、貼るだけにしてください。

申請書が2枚以上あるのに、つづり目の契印がない。申請人またはその代表者もしくは代理人が、各用紙のつづり目に契印をする必要があります。

代表取締役の押印が、登記所に届け出ている印鑑ではなかった。認印では通りません。司法書士に委任した場合は、申請書には代理人の認印を押し、委任状に会社の実印を押します。

法務局は、申請で間違いやすいチェックポイントとして、申請書に本店と商号と代表者の住所と氏名を書いたか、登記原因が将来の日付になっていないか、連絡先の電話番号を書いたか、収入印紙を貼ったか、申請書または委任状に登記所に提出した印鑑を押したかを挙げています。出す前にこの5つを読み上げるだけでも、補正はかなり減ります。

登記のあとに残る届出を忘れない

登記が終わっても、手続きは終わりません。商号や本店や事業年度を変えた場合、関係先への届出が続きます。

税務署、都道府県税事務所、市町村には、異動届出書を出します。年金事務所と労働基準監督署、ハローワークにも、事業所の名称や所在地の変更を届け出ます。

銀行口座の名義や届出住所の変更、許認可を受けている事業ならその官庁への変更届、取引先への通知、請求書や契約書のひな型の差し替え、ウェブサイトや名刺の修正も必要になります。

このうち税務や社会保険の届出には期限が定められているものがあり、期限や必要書類は変更の内容によって変わります。個別の判断は税務署や年金事務所、あるいは税理士や社会保険労務士に確かめてください。

登記そのものより、この後始末のほうが手間がかかることのほうが多いです。定款を変えると決めた時点で、届出先の一覧を作っておくと抜けが防げます。

変更の回数を減らす設計が、いちばん安く付く

ここまでの流れを見ると、定款変更のコストは登録免許税の3万円だけではないと分かります。総会を開き、議事録を作り、株主リストを用意し、申請書を作り、届出先を回る。この一連の時間が本当のコストです。

だからこそ、会社を作るときの書き方が効いてきます。本店は最小行政区画までにとどめる。事業の目的は、いま始める事業に加えて、数年以内に手を広げそうな範囲まで書いておく。末尾に「前各号に附帯する一切の事業」という一文を入れておく。発行可能株式総数は、将来の増資を見込んで余裕を持たせる。

このあたりを設立の段階で押さえておけば、変更の回数はかなり減らせます。すでに設立済みの会社でも、次に定款を変える機会に、ついでに直せる箇所をまとめて直しておくと効率がよくなります。同じ区分の変更をまとめれば、登録免許税も1件ぶんで済むことがあります。

なお、目的を多く書きすぎると、許認可の審査や金融機関の審査で「何をしている会社か分からない」と見られることがあります。何でも書けばよいというものでもありません。数年先までを見て、必要な範囲にとどめるのが現実的です。

手続きを自分で回せることが、仕事の幅になる

ここからは、業務委託や在宅で働く人の視点で考えます。

1人で法人を回していると、定款変更のような手続きがそのまま稼働時間を食います。議事録を作る半日、登記所へ行く半日、届出を回る1日。売上を生まない時間が積み上がります。だからこそ、流れを一度覚えて、まとめてやる形にする価値があります。

フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、長く仕事が続く人ほど、こうした事務を後回しにしません。事業の幅を広げると決めた時点で目的の追加まで見通し、必要な書類をそろえてから動く。発注する側から見れば「この人に任せると止まらない」という評価になり、次の依頼につながります。腕は良いのに着手が毎回1週間遅れる人は、理由が事務の段取りにあると気づかれないまま、声がかからなくなっていきます。

もうひとつ、運営者として見てきた限りでは、手取りの厚さを決めるのは表に出る単価そのものより、間に何社入っているかです。仲介手数料が0%の直接取引なら、発注する側は同じ予算でより多くを頼めて、受ける側は同じ仕事でも手取りが厚くなります。双方が得をする代わりに、契約書や登記事項証明書のやり取りも自分の手元で発生します。事務を自分で回せることが、そのまま受けられる仕事の幅になるわけです。

どの分野で法人としての取引が動いているかは、仕事の種類ごとの解説が手がかりになります。企業の生成AI導入や業務の見直しを支援するAIコンサル・業務活用支援のお仕事は契約の単位が大きく、法人同士の取引になりやすい分野です。広告運用から情報セキュリティまでを含むAI・マーケティング・セキュリティのお仕事も継続契約が中心で、書類のやり取りが定期的に発生します。受託開発の進め方を知りたいなら、企画から実装までを説明したアプリケーション開発のお仕事が参考になります。事業の目的を書き足すときも、こうした分類が言葉を決める手がかりになります。

法人にするかどうか迷っているなら、報酬の水準から逆算するのが現実的です。地域差まで含めたソフトウェア作成者の年収・単価相場や、文章まわりの仕事をまとめた著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると、どのくらいの売上から法人化の手間に見合うかの目安が立ちます。

書類の不備そのものを減らしたいなら、書き方を体系立てて学ぶ手もあります。申請書や議事録の型を扱うビジネス文書検定は、登記所や銀行に出す書類の差し戻しを減らすのに直結します。技術側で法人として案件を受けるなら、ネットワークの基礎を示せるCCNA(シスコ技術者認定)のような資格が、初めての取引先に対する安心材料になります。

取引が始まったあとの守りも決めておいてください。報酬が支払われないときの進め方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】に、発注書や契約書で外してはいけない項目はフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストにまとまっています。会社の数字まわりをどこまで自分で見るかの線引きは、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】が参考になります。

株主総会で決議して、議事録と株主リストを作り、登記が要るなら2週間以内に申請する。まずは、変えたい内容が登記事項かどうかを確かめるところから始めてください。

よくある質問

Q. 定款を変えるのに公証人の認証は必要ですか?

不要です。公証人の認証が必要なのは、株式会社を設立するときに最初の定款を作る場面だけです。会社が成立したあとは、株主総会の決議だけで定款を変更できます。変更後の内容を反映した定款は、会社が自分で作り直して保管します。

Q. 定款を変えたら必ず登記も必要ですか?

必要な場合と不要な場合があります。商号、事業の目的、本店の所在場所、発行可能株式総数、公告方法、株式の譲渡制限の定めなどは登記事項なので、変更から2週間以内に登記します。一方、事業年度や基準日、取締役の員数の上限などは登記事項ではないため、議事録を作って定款を差し替えれば完了します。

Q. 定款変更の決議には、どれだけの賛成が必要ですか?

特別決議が必要です。議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で可決します。定款で定足数を3分の1以上に下げることや、賛成の割合を上げることはできます。全部の株式に譲渡制限を設ける変更だけは、頭数の要件も加わります。

Q. 定款変更の費用はいくらかかりますか?

自分で手続きをする場合は登録免許税だけです。商号の変更、目的の変更、同じ管轄内の本店移転はそれぞれ3万円です。管轄をまたぐ本店移転は旧所在地と新所在地にそれぞれ3万円ずつで合計6万円になります。収入印紙で納め、司法書士に依頼する場合はこれに報酬が加わります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年3月25日最終更新:2026年9月19日
丸山 桃子

この記事を書いた人

丸山 桃子@SOHO編集部

アパレルEC運営支援・SNSコンサル

アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。

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