取締役会で役員報酬の配分を決めたときの議事録


この記事のポイント
- ✓取締役会で役員報酬の配分を決めたときの議事録について
- ✓書かなければならない項目
- ✓代表取締役に一任する場合の書き方
役員の報酬を取締役会で決めたものの、議事録に何をどこまで書けばよいのか分からない。そんな状態で検索している人が多いテーマだ。結論を先に書くと、役員報酬は「全員分の総額を株主総会で決め、1人ずつの配分を取締役会で決める」という二段構えが基本形で、取締役会の議事録に書く項目は会社法施行規則で決まっている。決まっている項目を埋めて、出席した取締役と監査役が署名または記名押印すれば形は整う。この記事では、その項目の中身と記載例、署名押印の範囲、代表取締役へ一任するときの書き方、そして議事録を作ったあとに控えている税務と保管の期限までを、条文と国税庁の説明に沿って順番に整理する。
役員報酬は二段構えで決まる。総額が株主総会、配分が取締役会
最初に押さえておきたいのは、役員報酬は取締役会だけで自由に決められるものではない、という点だ。会社法は、取締役が会社から受け取る報酬について、定款(ていかん。会社の基本ルールを書いた文書のこと)に定めていないときは株主総会の決議で決める、と書いている。
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。 出典: laws.e-gov.go.jp
ここで決めるのは「額が確定しているものについては、その額」だ。ただし実務では、社長が月にいくら、専務が月にいくら、と1人ずつの金額を株主総会の議案に載せることはあまりない。金額が株主名簿を持つ人全員に見えてしまうからだ。そこで多くの会社は、株主総会では「取締役全員に支払う報酬の合計額の上限」だけを決め、その枠の中で誰にいくら配るかは取締役会に委ねる、という決め方をしている。
この「枠の中の配り方」を決めた会議の記録が、取締役会の役員報酬に関する議事録である。だから議事録を書く前に、自社が次のどれに当たるかを確認してほしい。
・株主総会で報酬の総額の上限を決めている。取締役会でその配分を決める(もっとも多い形) ・定款に報酬の額そのものを書いている(この場合、金額を変えるには定款変更が必要になる) ・株主総会で1人ずつの額まで決めている(取締役会の配分決議は不要)
株主総会で総額の上限を決めた議事録が手元に見当たらないまま、取締役会の議事録だけを作ってしまうケースは少なくない。上限を決めた株主総会の記録は、金額を増やさない限り毎年取り直す必要がないため、設立時の書類の束に紛れていることが多い。取締役会の議事録を作る前に、その「枠を決めた紙」を探し出して、枠の金額と今回の配分の合計を突き合わせておく。枠を超えていれば、先に株主総会をやり直すのが順序になる。
なお、株式会社ではなく合同会社の場合、そもそも取締役会という機関がない。合同会社は社員(出資者のこと。従業員という意味ではない)の同意で決めるので、この記事の手順はそのままは当てはまらない。自社の登記事項証明書に「取締役会設置会社」と書かれているかどうかを先に見ておくと迷わない。
取締役会の議事録に書く項目は法令で決まっている
取締役会の議事録に何を書くかは、書き手の裁量ではなく会社法施行規則第101条が定めている。細かく読むと長いが、中小企業の役員報酬の配分を決める場面で必要になるのは次の項目だ。
| 書く項目 | 中身 |
|---|---|
| 開催した日時と場所 | その場にいない取締役が参加した場合は、その参加方法も書く |
| 議事の経過の要領とその結果 | 何を話し、どう決まったか。要点でよい |
| 特別の利害関係がある取締役の氏名 | 議決に加われない人がいたときに書く |
| 出席した会計参与、監査役、会計監査人などの氏名 | 該当者がいる場合 |
| 議長の氏名 | 議長を置いたとき |
「議事の経過の要領」という言葉が固いが、要するに会議の流れの要点である。発言を一言一句書き起こす必要はない。誰が何を提案し、どんな説明があり、賛成が何人で可決したのか。この3点が読み取れれば足りる。
そのうえで、会社法は書面で作った議事録について、出席した取締役と監査役が署名または記名押印しなければならないと定めている。ここが株主総会の議事録との大きな違いだ。株主総会の議事録には、法律上の署名押印の義務はない。取締役会の議事録にはある。
さらにもうひとつ、見落とされやすい定めがある。取締役会の決議に参加した取締役のうち、議事録に異議をとどめなかった者は、その決議に賛成したものと推定される、というものだ。つまり「その場では反対だったが黙っていた」は、後から見れば賛成と扱われる。反対したのであれば、反対した旨を議事録に残しておかないと記録として残らない。役員報酬の配分は、あとから税務調査や株主とのもめごとで蒸し返されやすい論点なので、この一行の有無が効いてくる。
議事録が電子ファイルの場合は、署名または記名押印に代わる措置(電子署名など)を取ることになる。紙で作って実印を押すか、電子契約サービスで電子署名を付けるか、どちらでもよい。ただし登記の添付書類として使う場面では求められる形式が変わることがあるため、登記を伴う議案を含むときは事前に法務局へ確認しておくと安全だ。商業登記の申請書の様式や添付書類の考え方は、法務局の案内ページにまとまっている。
自分の報酬を自分で決めてよいのか
役員報酬の配分を取締役会で決めるとき、必ず出てくるのがこの疑問だ。自分の給料を自分で決める議決に加わってよいのか。
会社法は、取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができない、と定めている。そして施行規則は、そういう取締役がいたときは議事録にその氏名を書け、としている。
では役員報酬の配分は「特別の利害関係」に当たるのか。この点は、株主総会で決めた総額の枠内で各人への配分を決める決議については、一般に取締役全員が同じ立場で利害を持つため特別の利害関係には当たらないと扱われてきた経緯がある。ただしこれは個別の事情で判断が変わりうる領域で、断定はできない。たとえば特定の1人だけを対象に退職慰労金を決めるような決議では、その本人は議決に加われないと整理されるのが通例だ。自社の議案がどちらに寄るのか迷ったら、司法書士や弁護士に一度確認したほうが早い。
実務的な落としどころとしては、次のように進めておくと後々の説明がしやすい。
・全員の配分をまとめて決める議案にする(1人だけを取り出す議案にしない) ・議長は代表取締役が務め、議事録には出席者全員の氏名を書く ・特定の1人の退職慰労金や特別な手当を決めるときは、その本人を議決から外し、外した事実と氏名を議事録に書く
取締役が2人しかいない会社で、片方を議決から外すと議決に加われる取締役が1人になる。会社法は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数で決める、と定めているので、人数の計算がややこしくなる。2人体制の会社では、そもそもこうした議案を株主総会に上げてしまったほうが手続きが簡単になることがある。
配分を決めた取締役会議事録の記載例
ここまでの内容を、実際の紙の形にしてみる。会社名や氏名は自社のものに置き換えて使ってほしい。
取締役会議事録
1 開催日時 令和〇年〇月〇日 午前10時00分から午前10時30分まで
2 開催場所 当会社本店会議室(東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号)
3 取締役の総数 3名
出席取締役の数 3名
4 監査役の総数 1名
出席監査役の数 1名
定刻、代表取締役〇〇〇〇は議長席に着き、上記のとおり定足数を満たす
出席があったため本取締役会は適法に成立した旨を述べ、開会を宣した。
第1号議案 取締役の報酬の配分決定の件
議長は、令和〇年〇月〇日開催の定時株主総会において、取締役の報酬の
総額を年額〇〇〇〇万円以内と決議し、各取締役への配分は取締役会に
一任する旨の決議がなされていることを説明したうえ、本事業年度に
おける各取締役の報酬月額を次のとおりとしたい旨を提案し、その理由を
説明した。
代表取締役 〇〇〇〇 月額 〇〇万円
取締役 〇〇〇〇 月額 〇〇万円
取締役 〇〇〇〇 月額 〇〇万円
(合計 年額 〇〇〇〇万円)
議長がその賛否を議場に諮ったところ、出席取締役の全員が異議なく
これを承認可決した。
以上をもって本取締役会の全議案の審議を終了したので、議長は午前
10時30分閉会を宣した。
上記の決議を明確にするため、本議事録を作成し、出席取締役および
出席監査役がこれに記名押印する。
令和〇年〇月〇日
株式会社〇〇〇〇 取締役会
議長 代表取締役 〇〇〇〇 印
取締役 〇〇〇〇 印
取締役 〇〇〇〇 印
監査役 〇〇〇〇 印
この例で押さえておきたいのは3点ある。1つ目は、株主総会で決めた枠の金額と決議日を冒頭で引用していること。これがあると、枠の中で配分したという流れが1枚の紙で読み取れる。2つ目は、月額の合計が年額でいくらになるかを書いていること。枠を超えていないことが自分でも検算できる。3つ目は、出席した監査役も記名押印していること。監査役を置いている会社で、監査役の押印だけが抜けている議事録は実によく見かける。
日付にも注意がいる。取締役会を開いた日付と、報酬を実際に変える月がずれていると、あとで説明が必要になる。とくに事業年度の途中で日付を入れると、次の章で触れる税務の期限に引っかかる可能性が出てくる。
代表取締役に一任するときの書き方
もうひとつよくあるのが、取締役会でも1人ずつの金額を決めず、代表取締役に一任する形だ。取締役会で「各取締役の報酬の具体的な配分は代表取締役に一任する」と決議し、代表取締役が実際の金額を決める。
この形を取るときは、紙が2枚必要になる。1枚目が一任を決めた取締役会の議事録、2枚目が代表取締役が実際の金額を決めたことを示す書面だ。2枚目は「報酬決定書」「代表取締役決定書」などの名前で作られることが多い。
一任するときの議案部分は、次のような書き方になる。
第1号議案 取締役の報酬配分の一任の件
議長は、令和〇年〇月〇日開催の定時株主総会において決議された
取締役の報酬の総額年額〇〇〇〇万円の範囲内において、各取締役の
報酬額の具体的な配分を代表取締役〇〇〇〇に一任したい旨を提案し、
その理由を説明した。
議長がその賛否を議場に諮ったところ、出席取締役の全員が異議なく
これを承認可決した。
一任は手続きが軽くなる反面、2枚目を作り忘れるという事故が起きやすい。税務調査で「この金額は誰がいつ決めたのか」と聞かれたとき、一任の議事録しか出てこないと、金額の決定を裏づける書類が存在しないことになる。一任を選ぶなら、金額を決めた日付入りの書面を必ずセットで残す。
なお、一任を受けた代表取締役が自分の報酬額を決めることについては、株主総会がその枠と一任を承認している以上は有効と扱われるのが実務の通例だが、株主が複数いて意見が割れている会社では争点になりやすい。株主が社長1人という会社なら気にしなくてよいが、出資してくれた第三者がいる会社では、一任ではなく取締役会で配分まで決め切ったほうが、あとで説明しやすい記録になる。
集まらずに決めるときの記録の残し方
全員が同じ結論で一致しているのに、わざわざ集まって会議を開くのは手間だ。会社法は、取締役会についても集まらずに決める道を用意している。取締役が提案した事項について、議決に加われる取締役の全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社では監査役がその提案に異議を述べなかったとき)は、その提案を可決する取締役会の決議があったものとみなす、という内容を定款で定めることができる、というものだ。
ここで重要なのは「定款で定めることができる」という部分である。株主総会の決議の省略は定款の定めがなくても使えるが、取締役会の決議の省略は、定款にその定めがないと使えない。自社の定款を開いて、取締役会の決議の省略に関する条文があるかを確認してほしい。なければ、先に定款を変更する(株主総会の特別決議が必要になる)か、素直に会議を開くことになる。
定款に定めがあって決議の省略を使った場合、議事録に書く項目は通常の会議とは変わる。施行規則は、決議があったものとみなされた場合の議事録の内容として、決議があったものとみなされた事項の内容、その提案をした取締役の氏名、決議があったものとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名、を挙げている。開催日時や場所は存在しないので書かない。
そして、全員の同意を示した書面や電子データそのものも保存の対象になる。議事録だけを作って同意書を捨ててしまうと、要件を満たしたことを証明する材料がなくなる。提案書と同意書と議事録の3点を1セットで綴じておくのが確実だ。
議事録を作ったあとに控えている期限
議事録に押印して一安心、とはいかない。役員報酬には税務上の締切がある。ここを外すと、支払った報酬が会社の経費として認められない(損金に算入されない)という結果になり、金額次第では影響が大きい。
国税庁は、役員に対する給与のうち経費にできるものとして、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与の3つを挙げている。中小企業でふつうに使うのは前の2つだ。
定期同額給与は、毎月同じ額を払う給与のことである。金額を変えたいときの期限が決まっていて、その事業年度の開始の日が属する会計期間の開始の日から3か月を経過する日までに改定する、というのが原則だ。3月決算の会社なら、4月から始まる事業年度について6月末までに決めて改定する、という計算になる。この期限を過ぎてから増額すると、増えた部分が経費にならない扱いになりうる。
例外として、役員の地位や職務内容が大きく変わったなどのやむを得ない事情(臨時改定事由)による改定と、経営状況が著しく悪化したことによる減額(業績悪化改定事由)は、期中でも認められる。ただし国税庁は、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことはこれに含まれないと明示している。「今期は苦しいから社長の給料を下げる」という理由だけでは通らない可能性がある、ということだ。
賞与のように特定の時期にまとめて払うものは、事前確定届出給与という枠を使う。こちらは税務署への届出が必要で、届出の期限は、株主総会などの決議によりその定めをした日から1か月を経過する日と、会計期間の開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日、とされている。新しく作った会社が設立時の職務について定めた場合は、設立の日以後2か月を経過する日が期限になる。詳しい条件は国税庁のタックスアンサーの役員に対する給与の説明ページで確認できる。ここは金額や会社の事情で扱いが変わるところなので、実際に届出を出す前に税務署か税理士に確認してほしい。
保管の期限もある。取締役会設置会社は、取締役会の日(決議があったものとみなされた日を含む)から10年間、議事録などを本店に備え置かなければならない。備え置かなかった場合は100万円以下の過料に処される可能性がある、と会社法は定めている。過料は前科がつく刑罰ではないが、実際に通知が届くと支払わなければならない。紙で綴じるにせよデータで保存するにせよ、10年間取り出せる場所に置いておく。
報酬の額が大きく動いたときは、社会保険料の等級も見直しの対象になる。手続きの要否や届出の様式は会社の状況で変わるため、日本年金機構の案内で自社の該当箇所を確かめるか、年金事務所に問い合わせるのが確実だ。
会社の形ごとに、揃える紙の組み合わせが変わる
同じ「役員報酬を決める」という作業でも、会社の作りによって残すべき紙の組み合わせが変わる。自社がどの行に当たるかを先に確かめてから書き始めると、二度手間がなくなる。
| 会社の形 | 総額を決める紙 | 配分を決める紙 |
|---|---|---|
| 取締役会を置いている | 株主総会議事録(総額の上限) | 取締役会議事録(各人の月額) |
| 取締役会を置いている+一任 | 株主総会議事録(総額の上限) | 取締役会議事録(一任の決議)と代表取締役の決定書 |
| 取締役会を置いていない | 株主総会議事録(総額または各人の額) | 取締役の過半数の一致を示す書面(各人の額を株主総会で決めたときは不要) |
| 株主も役員も本人1人 | 株主総会議事録(決議の省略でも可) | 同上。実務では1枚にまとめることが多い |
取締役会を置いていない会社は、株式会社のうちかなりの数を占める。2006年に会社法が施行されてから、取締役1人でも株式会社を作れるようになったためだ。この形の会社で「取締役会議事録」という表題の紙を作ってしまうと、存在しない機関の記録という矛盾した書類になる。表題は「取締役の決定書」「取締役会に代わる決定書」などにして、取締役の過半数が一致した事実を書く。
株主も役員も本人1人という会社では、会議そのものが成立しない。それでも記録は要る。株主が自分1人なら、提案に対して自分が同意したという書面を作り、それによって決議があったものとみなされた、という形で議事録を残す。一見おかしな作業に見えるが、法人は出資者と経営者を分けて考える仕組みなので、その2つの立場の行き来を紙で示しておく必要がある、と考えると納得しやすい。
ここで作った紙は、登記の添付書類として使う場面もある。役員報酬の決定そのものは登記の対象ではないが、役員の変更や本店移転などで議事録を提出する機会は必ず来る。そのときに「議事録の作り方が社内で定まっていない」と、毎回ゼロから調べ直すことになる。1度作った雛形をファイルに残し、日付と金額と氏名だけ差し替えれば済む状態にしておくと、次からの作業時間が大きく変わる。
初めて作る人がつまずく箇所
ここまでの内容をふまえて、実際に議事録を書き始めた人がつまずきやすい箇所を並べておく。
枠を決めた株主総会の議事録が見つからない。 設立時に作ったきり更新していないことが多い。見つからない場合、過去にさかのぼって作り直すのではなく、今期の株主総会で改めて総額の上限を決議し、その記録を残すほうが筋が通る。
取締役会を設置していないのに取締役会議事録を作ろうとしている。 取締役会を置いていない会社では、報酬の配分は取締役の過半数の一致で決めるか、株主総会で1人ずつ決める。登記事項証明書を見て、取締役会設置会社かどうかを先に確認する。
押印が足りない。 出席した取締役と監査役の全員が対象だ。欠席した取締役の押印は要らない。逆に、出席したのに押印欄がない人がいる議事録は、後から見たときに出席者が誰だったのか分からなくなる。
日付と実際の支給のずれ。 議事録の日付が6月なのに、4月分から新しい金額を払っている、という状態は説明が難しい。決めた日から先の支給に適用するのが原則だと考えて、日付と支給月をそろえる。
議事録の作成者が書かれていない。 決議の省略を使った場合、施行規則は議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を書くよう求めている。通常の会議の議事録でも、誰が作ったかを末尾に残しておくと、後から問い合わせる先が分かる。
書類仕事の正確さは、こうした細かい欠落を潰す作業の積み重ねで決まる。文書の形式や敬語の使い方を体系的に学び直したい人には、ビジネス文書検定のような資格の学習範囲が実務の下敷きとして役に立つ。議事録に限らず、社内の稟議書や取引先への通知文にもそのまま応用が効く。
3月決算の会社で、1年の流れを日付順に並べる
いつ何をするのかが見えていないと、議事録の日付だけが浮いてしまう。3月決算で、取締役会を置いている会社を例に、1年の流れを日付順に並べる。
・3月31日 決算日。この日の数字で計算書類を作る ・4月から5月 試算表を締めて、貸借対照表と損益計算書を作る ・6月上旬 取締役会を開き、計算書類を承認して定時株主総会の招集を決める ・6月下旬 定時株主総会。報酬の総額の枠を変えるなら、ここで決議する。枠を据え置くなら議案に載せない ・株主総会の直後 同じ日に続けて取締役会を開き、各取締役の月額を決める。この記事の議事録を作るのはここ ・6月30日 定期同額給与の改定の期限。会計期間の開始の日である4月1日から3か月を経過する日にあたる ・7月支給分の給与から新しい金額にする ・7月31日 賞与を出すなら事前確定届出給与の届出の期限。会計期間の開始の日から4か月を経過する日と、決議の日から1か月を経過する日の、早いほうで締まる ・以後10年間 議事録を本店に置く
株主総会と取締役会を同じ日に続けて開くのは、枠を決めた紙と配分を決めた紙の日付をそろえるためだ。株主総会が6月下旬で、取締役会だけが8月になると、6月末の期限を越えてしまう。総会の招集通知を出す段階で、続けて取締役会も開くと決めておくと、日付のずれが起きない。
12月決算なら、期限は3月31日と4月30日にそれぞれ移る。自社の決算日に3か月と4か月を足した日をカレンダーに入れておくだけで、毎年迷わなくなる。
決めた報酬を帳簿にどう書くか
議事録で決めた金額は、毎月の帳簿に同じ額で並んでいなければならない。ここがずれていると、紙のほうが疑われる。
月額50万円の役員報酬を払う場合の書き方を示す。源泉所得税を2万円、社会保険料の本人負担分を7万円と仮定した例で、実際の金額は扶養の人数や標準報酬月額で変わる。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員報酬 | 500,000 | 預り金(源泉所得税) | 20,000 |
| 預り金(社会保険料) | 70,000 | ||
| 普通預金 | 410,000 |
大事なのは、借方の役員報酬が毎月同じ500,000で並ぶことだ。振込額の410,000のほうは、社会保険料の等級が変わると動く。動いてよいのは手取りで、報酬の額そのものではない。
給与の科目を「役員報酬」と「給料手当」で分けていない会社がときどきある。これは分けておいたほうがよい。役員に払ったものだけを合計して、株主総会で決めた枠と突き合わせる作業が、分けていれば一瞬で終わる。混ざっていると、毎年全部の仕訳を目で追うことになる。
払えない月に未払で計上するやり方もあるが、未払が何か月も積み上がると、毎月同じ額を払っているという形から離れていく。資金が足りない状態が続くなら、未払をためるのではなく、次の事業年度の頭で金額そのものを下げるほうが説明しやすい記録になる。
期限を1日過ぎたときに、いくら損をするのか
3か月という期限の重さを、金額にしてみる。
3月決算の会社で、社長の月額を50万円から70万円に上げたいと考えた。ところが総会の日取りが決まらず、取締役会を開いたのが10月になった。地位や職務が変わったわけでもなく、業績が著しく悪化したわけでもない。
増えたのは月20万円。10月から3月までの6か月で120万円になる。臨時改定事由にも業績悪化改定事由にも当たらないなら、この120万円が経費として認められない可能性がある。法人にかかる税率を仮に30%として計算すると、税の負担は36万円増える。
さらに、本人の側では120万円が給与として扱われるので、所得税と住民税と社会保険料はそのままかかる。会社では経費にならないのに、本人の税金は減らない。同じお金に二重に効いてくるのが、この期限を外したときの痛さだ。
6月末までに決めて7月支給分から改定していれば、増額分もそのまま経費になった。やっていることは同じで、取締役会を開く日が3か月早いだけである。実際の税率や、その事情が臨時改定事由に当たるかどうかは会社ごとに変わるので、判断に迷うなら税務署か税理士に確認してほしい。
税務調査で見られるのは、紙と現金の動きが合っているか
役員報酬について調査で確かめられるのは、議事録の書式が美しいかどうかではない。紙に書いた内容と、実際のお金の動きがそろっているかだ。見られやすい点を並べる。
・議事録の日付と、給与台帳で金額が変わった月がそろっているか ・株主総会で決めた枠の金額と、取締役会で配った月額の合計が枠に収まっているか ・一任の決議しか残っておらず、金額を決めた日付入りの書面が無くなっていないか ・毎月同じ額が同じ日に出ているか。振込が飛んでいる月や、2か月分をまとめて出した月がないか ・未払で計上したままの役員報酬が積み上がっていないか ・家族を役員にしている場合、その人が実際に何をしているかを説明できるか
最後の点は金額の大小と関係なく聞かれる。名前だけを役員にして報酬を払っている形だと、経費として認められない方向で指摘されやすい。何をしている人なのかを、日報でも作業の記録でもよいので残しておく。
どこまで指摘されるかは会社の状況で変わるため、一律には言えない。不安があるなら、調査の連絡が来る前に税理士に紙を一通り見てもらうのが早い。あとから作り直した紙は日付で分かるので、直前に慌てて整えるのはうまくいかない。
この書類が会社の手取りに効いてくる理由
ここからは、フリーランスと在宅ワークの市場を20年見てきた運営者の視点で、少し違う角度から書いておく。
ひとりで法人を作った人、あるいは数人で会社にした人の相談を受けていて気づくのは、議事録のような書類を「とりあえず後回しにする仕事」と捉えている人ほど、後で高い買い物をしているということだ。役員報酬の議事録が無い、あるいは日付と金額が噛み合っていない状態で税務調査を受けると、そこから先の説明にかかる時間と専門家への依頼料が積み上がる。最初に30分で作れた紙を作らなかった代償としては、割に合わない。
もうひとつ、長く続いている法人に共通しているのは、事務作業を自分で抱え込みすぎていない点だ。議事録の下書き、登記に必要な書類の整理、請求書の発行といった作業は、外部に切り出せる。業務委託でこうした事務を請け負う人は増えていて、仕事の中身も「言われた作業をこなす」から「この人に任せると社内の紙が回る」という関係に移ってきている。長く仕事が続く人ほど、単発の作業をこなすことより、この「任せると楽になる」という状態を作ることに時間を使っている。
そして、仲介手数料が乗らない直接取引には、同じ予算でより多くを頼めるという単純な効果がある。依頼する側は使える手数が増え、受ける側は手数料0%のぶん手取りが厚くなる。金額の大小ではなく、取り分の質が変わるという話だ。20年この市場を見てきた立場から言えば、法人を作った直後の時期こそ、この差が効いてくる。売上がまだ小さいときに、額面の1割から2割が中間で抜かれるかどうかは、事業を続けられるかどうかに直結する。
事務や法務まわりの仕事を外部に頼みたい、あるいは自分が受け手として関わりたいと考えている人は、仕事の種類ごとの内容と相場を先に見ておくと判断が早い。社内の業務をどう切り出して外に出すかを設計する仕事についてはAIコンサル・業務活用支援のお仕事に、開発や技術寄りの委託についてはアプリケーション開発のお仕事に、それぞれ仕事の中身と進め方がまとまっている。
報酬の水準を決めるときの材料として、外部の市場相場を見ておくのも有効だ。役員報酬は社内の事情だけで決まりがちだが、同じ仕事を外部に出したらいくらかかるのかを知っていると、金額の説明がしやすくなる。文書作成や編集の仕事については著述家,記者,編集者の年収・単価相場に、開発職についてはソフトウェア作成者の年収・単価相場に、職種別のデータが載っている。
契約まわりの知識を補強しておきたい人には、発注書や契約書に何を書くべきかを整理したフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが参考になる。会社として外部に発注する側に回ったとき、何を書面に残すべきかの目安になる。
議事録は、会社のできごとを未来の自分と第三者に説明するための道具だ。法令が求める項目を埋めて、日付と金額をそろえて、10年しまっておく。それだけで、後から来る面倒のかなりの部分が消える。
よくある質問
Q. 取締役会の議事録に押印は必要?
会社法は、書面で作成した取締役会議事録について、出席した取締役および監査役が署名または記名押印しなければならないと定めている。欠席者の押印は不要だが、出席者は全員が対象になる。電子ファイルで作る場合は、署名または記名押印に代わる措置として電子署名などを使う。
Q. 株主総会で総額を決めた議事録が見つからない場合はどうする?
過去にさかのぼって作り直すのではなく、直近の株主総会で改めて報酬の総額の上限を決議し、その記録を残すのが筋が通る。そのうえで取締役会の配分決議を行う。金額の枠と配分の合計が食い違っていないかも、この機会に検算しておく。
Q. 役員報酬を変更できる時期に決まりはある?
国税庁の説明では、毎月同額を支払う定期同額給与の改定は、原則としてその事業年度の開始の日が属する会計期間の開始の日から3か月を経過する日までに行うこととされている。地位や職務内容の重大な変更、経営状況の著しい悪化による減額は例外だが、単に資金繰りが苦しいという理由は含まれないとされている。
Q. 取締役会を開かずに報酬の配分を決められる?
定款に取締役会の決議の省略に関する定めがあり、議決に加われる取締役の全員が書面または電磁的記録で同意すれば、決議があったものとみなされる。監査役設置会社では監査役が異議を述べていないことも条件になる。この場合、提案書と同意書と議事録の3点を揃えて保存する。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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