社長ひとりの会社で役員報酬を決めた議事録|出席者が1人でも作る

丸山 桃子
丸山 桃子
社長ひとりの会社で役員報酬を決めた議事録|出席者が1人でも作る

この記事のポイント

  • 役員報酬変更議事録を1人の会社でどう作るかを整理
  • 出席者が自分だけでも株主総会は成立します
  • 決議を省略する形との違い

株主も取締役も自分ひとり。その会社で役員報酬を変えるのに、なぜ株主総会の議事録が要るのか。役員報酬変更議事録を1人の会社で作ろうとして、この違和感で手が止まる方は多いはずです。会議の相手がいないのに議事録を書くというのは、たしかに奇妙に見えます。

結論を書きます。出席者が1人でも株主総会は成立し、議事録を作る義務も生じます。会社法は株主の人数で扱いを変えていません。100人の会社も、1人の会社も、報酬を決める権限は株主総会にあり、決議したら議事録を作る、という構造は同じです。

この記事では、ひとりの会社に特化して、議事録の書き方を組み立てます。議決権の数をどう書くか、議長と議事録作成者を誰にするか、集まらずに決める形を使うべきか、そして変更できる時期と、変更後にやるべき手続き。必要なのはA4で1枚の紙と、年に1回か2回の作業です。

出席者が1人でも、株主総会は成立する

株式会社の株主総会は、株主が集まって議決権を行使する場です。株主が1人しかいなければ、その1人が出席すれば全員が出席したことになります。定足数という考え方がありますが、これは議決権の数で判断するものなので、人数が1人でも議決権の全部が出席していれば要件を満たします。

役員報酬を株主総会で決める根拠は会社法第361条第1項です。取締役の報酬等について、額が確定しているものはその額を、定款に定めていないときは株主総会の決議によって定める、と書かれています。定款に金額を書いている会社はほとんどないので、実務上は毎回、株主総会の決議で決まります。

そして会社法第318条第1項が、株主総会の議事については法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければならない、と定めています。人数の条件は付いていません。

ひとりの会社でよくある誤解が、「自分が決めたのだから、通帳の振込額を変えれば済む」というものです。会社と社長は法律上は別の人格です。会社のお金を社長個人に移す行為である以上、いくら移すのかを会社の意思として決めた記録が要ります。この記録が無いと、税務署から見れば、会社の口座から社長の口座へお金が動いているだけの状態になります。

もうひとつ、ひとりの会社だからこそ議事録が効く場面があります。銀行の融資審査、補助金の申請、会社を誰かに譲るとき、そして相続が起きたとき。いずれも、会社の意思決定の記録を外部の人が読む場面です。そのとき、議事録が無い会社は「管理されていない会社」に見えます。

議事録に書く項目は、法務省令で決まっている

書く内容は会社法施行規則で決められています。

3 株主総会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。 一 株主総会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。第四号において同じ。)、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。) 二 株主総会の議事の経過の要領及びその結果 出典: laws.e-gov.go.jp

このあとに、一定の場面での意見や発言の概要、出席した取締役などの氏名、議長がいるときは議長の氏名、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名が続きます。

ひとりの会社に置き換えると、こうなります。日時と場所は、自宅兼事務所なら「当会社本店」で足ります。議事の経過の要領と結果は、何を提案してどう決まったかを数行で書きます。出席した取締役の氏名は自分の名前ひとつ。議長の氏名も自分。議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名も自分です。同じ名前が3回出てくることになりますが、それで正しい形です。

「議長 代表取締役 ◯◯◯◯(議事録作成者)」のようにまとめて書けば、1行で済みます。実際、ひとりの会社の議事録はこの書き方が広く使われています。

議事の経過の要領という言葉は堅く見えますが、要するに「何を提案し、どう決めたか」の要約です。発言をそのまま書き起こす必要はありません。ひとりの会社なら、提案と決議の2文で十分です。

そのまま使える文例

臨時株主総会議事録

開催日時 令和◯年◯月◯日 午前10時00分 開催場所 当会社本店 出席状況 発行済株式の総数 100株      議決権を行使することができる株主の数 1名      議決権を行使することができる株主の議決権の数 100個      出席株主数 1名      出席株主の議決権の数 100個

出席役員 取締役 ◯◯◯◯

上記のとおり株主の出席があったので、取締役◯◯◯◯が議長となり、本総会は適法に成立した旨を述べ、午前10時00分開会を宣言し、議案の審議に入った。

第1号議案 取締役の報酬の額の変更の件

議長は、当会社の当期の業績見込みおよび資金繰りの状況を説明し、取締役の報酬を次のとおり変更したい旨を提案した。

 取締役 ◯◯◯◯ 月額40万円 を 月額55万円 に変更する  適用開始 令和◯年◯月支給分から

議長がその可否を議場に諮ったところ、出席株主の議決権の全部の賛成をもって、原案のとおり承認可決された。

以上をもって本総会の議案の審議を終了したので、議長は午前10時10分閉会を宣言した。

上記の決議を明確にするため、この議事録を作成する。

令和◯年◯月◯日  株式会社◯◯◯◯ 臨時株主総会   議長兼議事録作成者 代表取締役 ◯◯◯◯ 印

ひとりの会社の議事録で迷いやすいのが出席状況の欄です。発行済株式の総数と議決権の数が違う会社もありますが、普通の中小企業は1株につき1個の議決権なので、株数と議決権の数は同じ数字になります。自社の株数は登記事項証明書か定款で確認してください。

金額は変更前と変更後の両方を書きます。変更後だけだと、いくら動いたのかが議事録から読み取れません。適用開始も必ず書いてください。「令和◯年◯月支給分から」という書き方にすると、給与計算の変更月が一意に決まります。

押印について、株主総会の議事録には会社法上の署名義務がありません。それでも代表者印を押しておくのが一般的です。銀行や役所に提出を求められる場面があり、その都度押し直すより最初から押しておくほうが手間が少なくて済みます。

集まらずに決める形を使うべきか

ひとりの会社では、そもそも集まるという行為が存在しません。そこで、会社法第319条の決議の省略を使うべきか、という疑問が出てきます。

第319条は、取締役または株主が提案をして、議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する決議があったものとみなす、という規定です。株主が1人なら、その1人の同意書があれば決議が成立します。

この形を使う場合、議事録に書く項目が変わります。会社法施行規則第72条第4項は、決議があったものとみなされた事項の内容、その提案をした者の氏名、決議があったものとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を書くとしています。開催日時、場所、議長の氏名は出てきません。

どちらを使ってもかまいません。実務では、通常の株主総会の形で書くほうが多く見られます。理由は単純で、銀行や取引先が読んだときに、見慣れた形のほうが説明が要らないからです。決議の省略の形は、同意書という別の書面も保管する必要があり、書類が1枚増えます。

注意したいのは、様式を混ぜないことです。「決議があったものとみなされた日」と「開催日時」を両方書いた議事録は、どちらの形で決議したのかが読み取れません。どちらかに決めて、その様式で通してください。

なお、決議の省略で決議があったものとみなされた場合、会社法第319条第2項は、その日から10年間、同意の書面または電磁的記録を本店に備え置くことを求めています。議事録だけでなく同意書も保管対象になります。

変更できる時期に制約がある

ここからが、議事録の書き方より重要かもしれない部分です。役員報酬は、いつでも自由に変えられるわけではありません。正確には、変えること自体はできますが、変えた結果が経費として認められるかが時期で決まります。

役員に毎月同じ額を払う給与を定期同額給与と呼びます。定期同額給与とは、支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、各支給時期の金額が同じ給与のことです。この形から外れた部分は、経費として認められない可能性があります。

国税庁の整理では、事業年度が始まった会計期間の開始日から3か月を経過する日までにされた改定であれば、定期同額給与として扱われます。3月決算なら4月から6月まで、12月決算なら1月から3月までが改定できる窓です。この期間の改定は、上げる方向でも下げる方向でも使えます。

窓を過ぎたあとに変えられるのは、限られた場面だけです。役員の地位や職務の内容が大きく変わった場合の臨時改定事由。経営状況が著しく悪化した場合の業績悪化改定事由。業績悪化のほうは、減らす方向にしか使えません。そして国税庁は、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことはこれに含まれないと明記しています。

ひとりの会社でありがちなのが、期の途中で売上が伸びたので報酬を上げる、というパターンです。これは原則として上乗せ部分が経費になりません。翌期の期首を待つのが筋道です。制度の詳細は国税庁の役員給与の説明で確認できます。

逆に言えば、期首から3か月の窓さえ押さえておけば、1年に1回の決議で足ります。決算期の翌月にカレンダーへ予定を入れておく。それだけで、時期の制約に引っかかる事故はほぼ防げます。

金額をいくらにするかの考え方

ひとりの会社では、役員報酬の額がそのまま「会社に残す金額」と「個人が受け取る金額」の配分になります。法人税と所得税と社会保険料の合計が変わるため、額の決め方に関心が集まりやすい領域です。

ただし、ここで断定できることは多くありません。法人税の税率、所得税の累進、社会保険料の等級、扶養している家族の有無、住んでいる自治体の国民健康保険料の計算方法。変数が多く、同じ利益でも最適な額は会社ごとに変わります。ひとつの金額を「正解」として示す記事を見かけますが、その数字は前提条件の集合でしかありません。

実務的に押さえておきたいのは3点です。

1つ目、報酬を上げれば会社の利益は減りますが、個人の所得税と社会保険料は増えます。合計で見ないと判断できません。

2つ目、社会保険料は会社と個人が半分ずつ負担します。会社負担分は経費になりますが、支出であることに変わりはありません。報酬を上げたときのコストは、額面の増加分だけではありません。

3つ目、報酬を低くしすぎると、個人の手取りが生活費を下回り、会社から生活費を引き出す形になります。この引き出しは役員貸付金として残り、銀行の審査で見られる項目になります。

金額の妥当性は事情によって変わるので、決議の前に税務署か税理士に自社の数字を見せて確認してください。決議してから相談すると、期首の窓が閉じていて動かせないという事態になりかねません。

変更したあとにやること

議事録を作って終わりではありません。3つの作業が続きます。

給与計算の変更です。適用開始として書いた支給月から、実際の振込額を変えます。議事録の金額と実際の振込額がずれていると、定期同額給与の要件を満たさない状態になります。ある月だけ資金が足りないから減らす、という調整をしないでください。

源泉徴収税額の見直しです。報酬が変われば、毎月天引きする所得税の額も変わります。源泉徴収税額表を見て、新しい金額に対応する額に変更します。

社会保険の随時改定です。報酬が大きく変わったときは、標準報酬月額を見直す手続きがあります。月額変更届を提出します。条件は3つで、固定的賃金に変動があったこと、変動した月から3か月の報酬の平均から計算した標準報酬月額が従来と2等級以上離れていること、その3か月とも支払基礎日数が17日以上あることです。3つすべてを満たすと、4か月目から新しい等級になります。手続きの案内は日本年金機構にあります。

この3つを、議事録を作った日に作業リストとして書き出しておくと漏れません。ひとりの会社では、思い出させてくれる人がいないので、仕組みで防ぐしかありません。

ひとりの会社でよくあるつまずき

決議より前に金額を変えていたケース。8月支給分から金額が変わっているのに、議事録の日付が9月になっている。この前後関係の矛盾は、通帳を見れば一目で分かります。決議の日は、適用開始の支給日より前でなければ筋が通りません。

議事録が毎年同じ日付になっているケース。定時株主総会を開いた日ではなく、テンプレートの日付をそのまま使い回している状態です。決算書の作成日や申告書の日付と突き合わせると不自然さが出ます。日付は必ず実際の日で書いてください。

金額が端数だらけになっているケース。社会保険料や所得税を逆算して、月額48万7,300円のような額にする例があります。間違いではありませんが、議事録と給与計算と届出の3か所で同じ数字を扱うため、転記ミスが起きやすくなります。管理の手間を考えると、きりのよい額にするほうが事故が減ります。

紙をどこに置くか決めていないケース。会社法第318条第2項は、株主総会の日から10年間、議事録を本店に備え置くことを求めています。年度別のファイルを1冊作り、株主総会の議事録をそこに綴じる。これだけで足ります。電子で作る場合も、変更履歴が残らない形式で保存し、別の場所にバックアップを取ってください。

定時株主総会で決めるか、臨時株主総会で決めるか

議事録の表題を「定時株主総会議事録」にするか「臨時株主総会議事録」にするかで迷う方がいます。使い分けは決まっています。

定時株主総会は、毎事業年度の終了後、一定の時期に開く総会です。決算の内容を承認する場でもあります。多くの会社は定款で「毎事業年度の終了後3か月以内に招集する」と定めています。自社の定款を見れば書いてあります。

臨時株主総会は、それ以外のタイミングで必要が生じたときに開く総会です。

役員報酬の改定は、定時株主総会で決めるのが最も自然な形です。決算が固まり、次の期の見通しが立つ時期と、報酬を改定できる期首からの窓が重なるからです。3月決算の会社なら、5月か6月に定時株主総会を開いて、決算の承認と次期の報酬決定を同じ日に行う。議事録も1枚で済みます。

臨時株主総会が必要になるのは、期の途中で役員の地位が変わった場合や、経営状況が著しく悪化して減額する場合です。これらは予定できないので、その都度開くことになります。

表題を間違えても決議が無効になるわけではありませんが、決算承認と同じ日付で「臨時株主総会議事録」が出てくると、読む側は一度立ち止まります。定時なのか臨時なのかは、開いた時期と目的で判断して、正しいほうを選んでください。

定時株主総会の議事録には、決算の承認に関する議案も書きます。報酬の決定だけを別の紙にしても問題ありませんが、同じ日の同じ総会で決めたのなら、1枚にまとめるほうが後から探しやすくなります。

定款に報酬の額が書いてある会社は、扱いが変わる

会社法第361条第1項は、報酬等の額について「定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める」としています。裏を返せば、定款に額が定めてあれば、株主総会で決める必要はありません。

ただし、定款に金額を書いている中小企業はほとんどありません。理由は単純で、定款を変えるには株主総会の特別決議が必要になり、報酬を変えるたびに定款変更の手続きを踏むことになるからです。手間が増えるだけなので、実務では定款に金額を書かず、株主総会の決議に委ねる形が選ばれます。

自社の定款を確認してください。「取締役の報酬は株主総会の決議によって定める」とだけ書いてあれば、通常どおり株主総会で決めます。金額や上限が書いてあれば、その範囲内で決めるか、定款そのものを変更するかの判断が必要になります。

定款が手元に無い場合、設立時に作った原始定款が公証役場や設立を頼んだ専門家の手元に残っていることがあります。株式会社の定款は設立時に公証人の認証を受けているので、写しを取れる可能性があります。会社の基本設計が書いてある書類なので、無いまま運営するのは避けてください。

合同会社の場合は根拠が変わる

株式会社を前提に書いてきましたが、ひとりで作る法人には合同会社という選択肢もあります。設立費用が安く、決算公告の義務も無いため、ひとり法人では一定の割合を占めています。

合同会社に株主総会はありません。社員が出資者であり、原則として業務執行も担います。役員報酬に当たる業務執行社員の報酬は、定款の定めか、社員の同意で決めるのが基本です。定款に「業務執行社員の報酬は社員の過半数の同意をもって定める」と書いてある会社が多く、その場合は同意書を作って残します。

書類の名前は「同意書」や「決定書」になり、「株主総会議事録」にはなりません。様式が違うだけで、やることは同じです。いつ、誰が、いくらに決めたかを記録して保管する。税務上の定期同額給与の扱いは、株式会社でも合同会社でも変わりません。改定できる時期の制約も同じです。

合同会社なのに株主総会議事録という表題の書類を作っている例を見かけますが、会社の機関構成と合っていない書類になります。自社がどちらの形態かを確認して、様式を合わせてください。

作った議事録が使われる場面を想像しておく

ひとりの会社で議事録を作る動機が湧かないのは、読む相手が見えないからです。実際に誰が読むのかを書いておきます。

まず税務署です。法人税の調査では、役員報酬が定期同額給与に当たるかを確認するために、決議の記録を見られます。通帳の振込額、総勘定元帳、源泉徴収の記録、そして議事録。この4つが揃って同じ話をしているかが見られます。どれか1つだけ違うと、そこから質問が広がります。

次に銀行です。融資を申し込むと、決算書と一緒に会社の内部資料を求められることがあります。役員報酬の水準が利益に対して適切かは、審査で見られる項目です。議事録があれば、報酬がどういう経緯で決まったかを説明できます。無ければ、社長が思いつきで決めている会社に見えます。

3つ目が、会社を手放すときです。事業を誰かに譲る、株式を売る、後継者に引き継ぐ。いずれの場面でも、買う側は会社の過去の意思決定を確認します。議事録が欠けている年があると、その期間に何が起きたかを説明する資料を別に探すことになります。価格の交渉にも影響します。

4つ目が、相続です。ひとりの会社の社長に万一のことがあったとき、残された家族は会社の中身を知りません。議事録が年度別に綴じてあれば、何がどう決まってきたかを追えます。無ければ、通帳と決算書から推測するしかありません。

この4つの場面に共通するのは、どれも「あとから」やってくるということです。作る時点では必要性を感じず、必要になったときには作れない。だから、決議の日に作るのがいちばん安上がりです。

年に一度の作業として組み立て直す

最後に、ひとりの会社が無理なく続けられる形を組み立てておきます。

決算期の翌月に、1日だけ予定を空けます。3月決算なら4月、12月決算なら1月です。その日にやるのは3つ。前期の数字を見て次の期の報酬額を決めること。定時株主総会の議事録を作ること。給与計算と社会保険の変更予定を書き出すことです。

報酬額を決めるときに見る数字は多くありません。前期の売上と利益、今期の受注見込み、個人の生活費、借入の返済予定。この4つが揃えば、だいたいの幅は決まります。細かい税額の最適化は、顧問がいるなら相談し、いないなら無理に詰めなくてかまいません。期の途中で動かせない以上、余裕を残した額にしておくほうが安全です。

議事録は、前年のものをコピーして日付と金額を変えるだけです。型さえできていれば、この作業は10分で終わります。終わったら印刷して押印し、年度別のファイルに綴じます。電子で保管するなら、決まったフォルダに決まった名前で保存します。

変更予定の書き出しは、付箋1枚で足ります。何月支給分から金額を変えるか。源泉徴収の額はいくらになるか。社会保険の月額変更届を出す必要があるか。出すなら何月に出すか。この4行を書いて、給与計算のときに見返せば漏れません。

ひとりで会社を回していると、こうした事務は「あとでやる」に流れます。あとでやると決めた瞬間に、たいていやらなくなります。年に1日、決算期の翌月に固定してしまうのが、いちばん確実な仕組みです。

帳簿にはどう書くか

議事録で決めた金額は、毎月の仕訳として帳簿に載ります。ここが議事録と食い違うと、決議の記録があっても意味を失います。

仮に月額の役員報酬を50万円、天引きする所得税を2万円、社会保険料の本人負担分を7万5,000円とします。このときの仕訳は、借方に役員報酬50万円、貸方に預り金として源泉所得税2万円と社会保険料7万5,000円、そして普通預金40万5,000円という形になります。金額はあくまで説明のための仮の数字で、実際に天引きする額は報酬の額と社会保険の等級で変わります。

見るべき点は3つです。借方の役員報酬が、議事録に書いた額と一致していること。預り金として分けた分が、あとで国や年金事務所に納める金額の元になること。普通預金から出る額が、通帳の振込額と一円単位で合っていること。

会社が負担する社会保険料の分は、役員報酬とは別に法定福利費として計上します。役員報酬の欄に混ぜてしまうと、議事録の金額と帳簿の金額がずれて、説明が要る状態になります。

天引きした所得税の納付期限は法律で決まっています。

第百八十三条 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。 出典: laws.e-gov.go.jp

給与を受け取る人が常時10人未満の会社は、半年分をまとめて納める特例を選べます。特例を使っているなら、その納期に従います。どちらにしても、納める額の元は毎月の仕訳にある預り金なので、報酬を変えた月から金額が変わります。

3月決算の会社の1年を、日付順に並べる

やることを日付順に並べると、抜けが見えます。3月決算の会社を例にします。

4月。新しい事業年度が始まります。この月から6月末までが、役員報酬を改定しても定期同額給与として扱われる窓です。

5月。前期の決算を固めます。法人税の申告と納付の期限は、事業年度終了の日の翌日から2か月以内と法人税法第74条に定められているので、3月決算なら5月末です。

5月から6月。定時株主総会を開きます。決算の承認と、次の期の役員報酬の決定を同じ日に行い、議事録を1枚作ります。定款で事業年度終了後3か月以内と定めている会社なら、6月末が上限です。

7月から翌年3月。毎月の給与計算で、議事録に書いた額を振り込みます。天引きした所得税は翌月10日までに納めます。報酬を大きく動かした場合は、変動した月から3か月の平均で標準報酬月額を見直す時期が来ます。

翌年3月。事業年度が終わります。作った議事録は年度別のファイルに綴じて、株主総会の日から10年間保管します。

12月決算の会社なら、この並びを3か月前にずらします。1月から3月末までが改定の窓、2月末が申告と納付の期限、2月から3月に定時株主総会という形です。自社の決算月に合わせて4つの日付を書き出し、カレンダーに入れてしまえば、あとは毎年同じ作業になります。

議事録に書く自社の数字は、どこで確かめるか

議事録の出席状況の欄には、発行済株式の総数と議決権の数を書きます。設立から何年も経つと、この数字を覚えていないことがあります。

確かめる先は登記事項証明書です。会社の商号、本店の所在地、代表取締役の氏名と住所、発行済株式の総数が載っています。議事録の冒頭に書く本店の表記も、ここに合わせるのが確実です。定款に書いた所在地と、登記した本店の表記が微妙に違う会社は珍しくありません。

手数料は法務省が公表しています。令和7年4月1日からの額です。

登記事項証明書(謄抄本) 書面請求 600円 / オンライン請求・送付 520円 / オンライン請求・窓口交付 490円 出典: moj.go.jp

印鑑証明書は書面請求が500円、オンラインで請求して郵送なら450円、窓口で受け取るなら420円です。1通600円を惜しんで記憶で書くより、取り寄せて写すほうが確実です。

1通取っておけば、議事録の雛形を作るのに必要な情報はすべて埋まります。次からは取り直す必要がありません。株数を変えたときや本店を移したときだけ、新しい証明書を取って雛形を直します。

議決権の数は、定款に別の定めがなければ1株につき1個です。種類株式を発行していない会社なら、発行済株式の総数と議決権の数は同じ数になります。自社の定款に議決権を制限する定めがあるかどうかは、決議の前に一度確認してください。

書類の型を作る時間を、どこから捻出するか

運営者として20年この市場を見てきた限りでは、ひとりで法人を回している人がいちばん時間を取られているのは、売上を生む仕事ではなく、この種の定型書類です。年に1回か2回しか作らないので手順を覚えられず、そのたびに調べ直す。1回あたり2時間から3時間が消えます。

ここは、最初の1回に時間を使って型を固めてしまうのが正解です。自社の株数、議決権の数、本店の表記、代表者名を埋めた雛形を1つ作れば、次からは日付と金額の差し替えだけになります。30分で終わる作業に変わります。

長く続いている人ほど、単発の作業を数多くこなすことより、相手が毎回同じ人に頼みたくなる状態をつくることに時間を使っています。会社の書類を整える仕事はその典型で、会社の事情を知っている相手に頼むほど、説明の手間が消えて双方の時間が浮きます。中間の手数料が乗らない直接の取引なら、同じ予算で依頼側はより多くを頼めて、受け手の手取りは厚くなります。手数料0%という条件が効いてくるのは、単発の金額よりも、こうした続く関係の中です。

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よくある質問

Q. 株主も取締役も自分ひとりですが、株主総会議事録は必要ですか?

必要です。会社法は株主の人数で扱いを変えていません。出席者が1人でも株主総会は成立し、議事録を作る義務が生じます。議長も出席取締役も議事録作成者も同じ名前になりますが、それで正しい形です。作らないと、会社から社長個人への送金の根拠が何も残らない状態になります。

Q. 出席状況の欄はどう書けばよいですか?

発行済株式の総数、議決権を行使できる株主の数、その議決権の数、出席株主数、出席株主の議決権の数を書きます。ひとりの会社なら株主数と出席株主数はどちらも1名で、1株につき1個の議決権であれば株数と議決権の数は同じになります。自社の株数は登記事項証明書か定款で確認できます。

Q. 役員報酬はいつでも変更できますか?

時期に制約があります。会計期間の開始日から3か月を経過する日までの改定であれば、定期同額給与として扱われます。この窓を過ぎてからの改定は、役員の地位や職務が変わった場合と、経営状況が著しく悪化した場合に限られ、後者は減らす方向にしか使えません。期中の増額は上乗せ部分が経費にならない可能性があります。

Q. 議事録を作ったあと、ほかにやることはありますか?

3つあります。適用開始の支給月から実際の振込額を変えること、源泉徴収する所得税の額を新しい金額に合わせること、社会保険の随時改定に当たるなら月額変更届を出すことです。随時改定は、固定的賃金の変動があり、3か月の平均で標準報酬月額が2等級以上変わり、その3か月とも支払基礎日数が17日以上あることが条件です。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月21日最終更新:2026年9月21日
丸山 桃子

この記事を書いた人

丸山 桃子@SOHO編集部

アパレルEC運営支援・SNSコンサル

アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。

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