役員報酬を決めた株主総会の議事録|税務調査で見られる書き方

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
役員報酬を決めた株主総会の議事録|税務調査で見られる書き方

この記事のポイント

  • ✓役員報酬を決めた株主総会議事録に何を書けばよいかを
  • ✓会社法と法人税法の両方の要求から整理しました
  • ✓総額で決めるか個別に決めるか

役員報酬を決めた株主総会議事録が要る理由は、2つあります。1つは会社法が株主総会で決めろと言っているから。もう1つは、その報酬を経費として落とすために、税務上の要件を満たした証拠が要るから。この2つは別の法律の要求で、求めている中身も少し違います。結論から書くと、会社法だけを見て作った議事録は、税務調査で弱い。この記事では、両方の要求を1枚の議事録で満たすための書き方を整理します。

役員報酬は、取締役が自分で決められない

前提から確認します。会社法は、取締役の報酬について次のように定めています。

取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。 一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額 二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法 出典: laws.e-gov.go.jp

なぜ株主総会なのか。理由は単純です。取締役が自分の報酬を自分で決められるなら、いくらでも引き上げられてしまう。会社の持ち主である株主が歯止めをかける、という構造になっています。

社長が全株式を持っている会社では、この構造が形式的に見えます。決める人と受け取る人が同じ人だからです。それでも手続きは必要です。会社という仕組みを使っている以上、機関の決め方は守らなければなりません。そして、この形式を守っていないことが、後で税務上の不利益として返ってきます。

定款に報酬額を定める方法もありますが、中小企業では現実的ではありません。金額を変えるたびに定款を変更することになり、定款変更は出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な重い決議です。株主総会の決議で決めるほうがはるかに動かしやすいので、ほとんどの会社が決議の形をとっています。

総額で決めるか、1人ずつ決めるか

議事録を書く前に、決め方を選びます。選択肢は2つです。

1つ目は、取締役全員の報酬の総額の上限だけを株主総会で決めて、個々の取締役にいくら払うかは取締役の話し合い、または取締役会の決議に委ねる方法です。「取締役の報酬総額は年額5,000万円以内とする」といった決め方になります。

2つ目は、株主総会で1人ずつの金額まで決める方法です。「取締役○○○○の報酬を月額80万円とする」と、氏名と金額を並べます。

どちらが良いかは会社の形で変わります。取締役が複数いて、誰がいくらもらっているかを株主に知られたくない場合は、総額方式が向いています。上場していない会社では、この事情が大きいことがあります。

一方、取締役が社長1人だけの会社では、総額方式にする意味がほとんどありません。総額が1人分と同じになるからです。むしろ、個別に決めてしまったほうが、後で説明が要らなくなります。税務調査で「総額は決まっているが、個々の金額をどこで決めたのか」と聞かれたときに、取締役の決定書を別に出す手間が省けます。

総額方式を選ぶ場合は、総額の枠内で誰にいくら配分したかを示す書面を別に作って保管してください。株主総会議事録だけでは、社長個人の報酬額の根拠になりません。この2枚セットで初めて根拠になります。

税務が見ているのは、会社法とは別のところ

ここからが本題です。会社法の手続きを守っただけでは、報酬を経費として落とせる保証にはなりません。法人税法は、役員に払う給与のうち、決められた型に当てはまらないものは経費として認めない、という作りになっています。

型は3つあります。

1つ目は定期同額給与です。支給の時期が1か月以下の一定の期間ごとで、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの。中小企業の役員報酬は、ほぼこれに当たります。毎月同じ額を払う形です。

2つ目は事前確定届出給与です。あらかじめ決めた時期に決めた額を払うと税務署に届け出ておいて、そのとおりに払うもの。役員に賞与を出したい場合に使います。

3つ目は業績連動給与です。利益や株価の指標に連動させる形で、有価証券報告書を出しているような会社が対象になるので、中小企業ではまず使いません。

このいずれにも当たらない支払いは、経費として認められません。たとえば、期の途中で好調だからと社長の月額報酬を引き上げると、引き上げた差額部分が経費として認められないことがあります。会社法上は総会で決議していても、税務では別の話になります。

議事録に、税務が求める要素を入れる

会社法の要求は「額」または「算定方法」までです。しかし税務の要求を満たすには、それだけでは足りません。次の4つを入れてください。

1つ目は、決議した日付です。議事録の冒頭にある開催日が、そのまま決議した日になります。この日付が、後で述べる期限の起算点になります。

2つ目は、支給を開始する月です。「令和○年○月支給分から」と明記します。ここが抜けると、いつから新しい金額になったのかが議事録から読めません。給与の帳簿と突き合わせたときに、どの月から変わるべきだったのかが確定しないので、調査で説明に手間がかかります。

3つ目は、金額の単位です。月額なのか年額なのかを書き分けます。「取締役の報酬総額を年額○○万円以内とする」と「取締役の報酬を月額○○万円とする」では意味が違います。

4つ目は、対象となる人の範囲です。取締役だけなのか、監査役も含むのか。後で述べるとおり、監査役の報酬は取締役と分けて決める必要があります。

この4つを入れると、議事録は税務調査で「いつ、誰が、いくらを、いつから」を一読で示せる書類になります。

定期同額給与は、期首から3か月以内に決める

定期同額給与の型を守るうえで最も重要な期限があります。

事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までにされた定期給与の額の改定であれば、改定の前後でそれぞれ同額が保たれていれば定期同額給与として扱われます。3月決算の会社なら、4月1日から数えて3か月後、つまり6月末日までです。

だから、定時株主総会で役員報酬を決める会社が多いのです。3月決算なら6月に定時株主総会を開き、そこで報酬を決めて7月支給分から新しい金額にする。この流れが期限の中に収まります。

新しく会社を作った場合は、設立日が起算点になります。設立から3か月以内に最初の報酬額を決めて、その後は毎月同額を払う。ここを外すと、初年度の役員報酬が丸ごと経費として認められない、という事態になりかねません。

期限を過ぎてから引き上げた場合はどうなるか。増額した部分が経費として認められない扱いになります。減額した場合の扱いは少し複雑で、事情によって変わります。金額や事情で結論が動く領域なので、実際に動かす前に税務署か税理士に確認してください。

期の途中で変えられる2つの例外

3か月の期限を過ぎても報酬を変えられる場合が2つあります。どちらも議事録に理由を書く必要があります。

1つ目は臨時改定事由です。その事業年度において役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情によって報酬を改定する場合を指します。取締役が社長に昇格した、常務が専務になった、病気で職務の範囲が大きく変わった、といった場面です。

議事録には「取締役○○○○が令和○年○月○日付けで代表取締役に就任したことに伴い」のように、地位や職務がどう変わったのかを具体的に書きます。「事情があったため」では理由になりません。

2つ目は業績悪化改定事由です。経営の状況が著しく悪化したこと、その他これに類する理由によって報酬を減額する場合に限られます。増額には使えません。

この事由については、国税庁が明確に線を引いています。

(注) 法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれません。 出典: nta.go.jp

今月の入金が遅れているから一時的に減らす、目標の売上に届かなかったから減らす。これらは該当しません。取引先の倒産で売上の柱を失った、金融機関との協議で経営改善計画を出すことになった、といった水準の事情が想定されています。

議事録には、何が起きて、その結果どういう判断に至ったのかを書きます。第三者が読んで、やむを得ない減額だと納得できる内容かどうかが分かれ目です。

役員賞与を出すなら、届出の期限がある

毎月の報酬とは別に、役員に賞与を出したい場合があります。このときは事前確定届出給与の型を使います。

やることは2つです。株主総会で、誰にいついくら払うかを決めて議事録に残す。そして、税務署に届出書を出す。

届出には期限があります。原則として、次の2つのうちいずれか早い日までです。

・株主総会等の決議によりその定めをした場合における、その決議をした日から1か月を経過する日 ・その会計期間開始の日から4か月を経過する日

新しく設立した法人が、その役員の設立時に開始する職務について定めをした場合は、設立の日以後2か月を経過する日が期限になります。

期限に遅れると、届出が無かったものとして扱われます。そして、届け出た額と実際に払った額がずれた場合も問題になります。10万円と届け出て9万円しか払わなかった、という場合、差額だけでなく全額が経費として認められない扱いになることがあります。少なく払えば安全、ではありません。

議事録には、支給する日と金額を1円単位まで書きます。「賞与を支給する」だけでは届出の内容と一致させられません。「令和○年12月10日に、取締役○○○○に対し金○○万円を支給する」と、日付と氏名と金額を並べます。

監査役がいる会社は、報酬を分けて決める

監査役を置いている会社では、報酬の決め方が1段増えます。会社法は、監査役の報酬等は定款にその額を定めていないときは株主総会の決議によって定める、と定めています。

ここで大事なのは、取締役の報酬と一緒くたにできないことです。監査役は取締役を監査する立場なので、取締役が監査役の報酬を握っていると監査が機能しません。だから、株主総会で取締役分と監査役分を分けて決議します。

議事録には、議案を分けて書くのが確実です。第1号議案で取締役の報酬、第2号議案で監査役の報酬、という並びにします。1つの議案の中に両方を混ぜると、どちらの枠がいくらなのかが読めなくなります。

監査役が2人以上いて、各監査役の報酬について定款の定めも株主総会の決議もないときは、総会で決めた枠の範囲内で監査役どうしの協議によって決めます。取締役会が決めるのではありません。ここも取り違えやすい箇所です。

会計参与を置いている会社も同じ構造です。会計参与の報酬等は、定款に定めがないときは株主総会の決議で定めます。

税務調査で実際に見られる箇所

役員報酬まわりの調査で確認されるのは、おおむね次の順です。

最初に、議事録が存在するかどうか。無ければ、そもそも決議があったのかが確認できません。

次に、決議した日付が期限の中に収まっているか。定期同額給与なら、会計期間開始の日から3か月を経過する日までに改定しているか。この照合は決算書と議事録を並べれば数分で終わります。

その次に、議事録に書いた金額と、実際に払った金額が一致しているか。給与台帳、源泉徴収簿、総勘定元帳と突き合わせます。議事録では月額50万円なのに、月によって40万円や60万円になっている。この状態は説明が難しくなります。

そして、支給の開始時期です。議事録に「○月支給分から」と書いてあれば、その月から変わっているかを見ます。書いていない場合は、どの月から変わるべきだったのかを説明することになります。

最後に、期の途中で変えている場合は、その理由が議事録から読めるか。臨時改定事由や業績悪化改定事由に当たる事情が、具体的に書かれているかどうかです。

これらはすべて、議事録を丁寧に作っておけば準備の要らない項目ばかりです。調査の直前に慌てて作ると、作成日と内容の整合が取れず、かえって印象が悪くなります。

議事録の保存と、ほかの書類との関係

作った議事録は、株主総会の日から10年間、本店に備え置きます。支店がある場合は写しを5年間、支店に置きます。備置きを怠ると過料の対象に挙げられています。

税務の観点では、帳簿書類の保存期間は法人税法上7年間が基本で、欠損金が生じた事業年度については10年間になります。会社法の10年と合わせておけば、どちらの要求も満たせます。

総額方式を選んだ会社は、配分を決めた書面もセットで保管します。取締役会を置いているなら取締役会議事録、置いていないなら取締役の決定書です。株主総会議事録だけがあって配分の書面が無い状態は、調査で必ず指摘されます。

役員報酬を変更したら、社会保険の手続きも連動します。報酬月額が大きく変われば、健康保険と厚生年金保険の標準報酬月額の随時改定の対象になります。議事録を作ったら、そのまま社会保険の届出までを1つの流れとして段取りに入れておくと漏れません。

議事録の文例と、埋める場所

実際の書き方を2パターン並べます。骨組みは通常の株主総会議事録と同じで、議案の部分だけが入れ替わります。

総額の上限を決める場合の議案は、こう書きます。

「第○号議案 取締役の報酬額決定の件 議長は、取締役の報酬額について、令和○年○月支給分より年額金○○万円以内としたい旨を述べ、その可否を諮ったところ、満場異議なくこれを承認可決した。なお、各取締役への配分については、取締役の協議に一任することとした。」

ここで書いている要素は4つです。対象が取締役であること。いつの支給分から適用するか。年額の上限がいくらか。配分を誰に委ねるか。この4点が揃っていれば、後から読んで意味が確定します。

個別に決める場合の議案は、こうなります。

「第○号議案 取締役の報酬額決定の件 議長は、令和○年○月支給分より、各取締役の報酬額を下記のとおりとしたい旨を述べ、その可否を諮ったところ、満場異議なくこれを承認可決した。 代表取締役○○○○ 月額金○○万円 取締役○○○○ 月額金○○万円」

氏名と金額を1対1で並べます。この形にしておくと、給与台帳との突き合わせが1行ずつ対応するので、調査の準備が要りません。

どちらの形でも、金額は算用数字と漢数字のどちらでも構いませんが、改ざんを防ぐ意味では「金○○万円」のように「金」を付けて書く慣行があります。法務局の記載例も、金額の前に「金」を付ける書き方で統一されています。

配分を取締役の協議に一任した場合は、その協議の結果を書いた決定書を別に作ります。日付、対象となる取締役の氏名、それぞれの金額、取締役全員の記名押印。この4点があれば足ります。株主総会議事録と一緒にファイルしておいてください。

使用人を兼ねている役員がいる場合

取締役でありながら、部長や工場長としての仕事もしている人がいます。法人税法はこれを使用人としての職務を有する役員と呼び、扱いを分けています。

この場合、報酬のうち使用人としての職務に対する部分は、役員給与の損金不算入の対象から外れます。つまり、部長としての給与部分は通常の従業員の給与と同じ扱いになります。ただし、不相当に高額な部分は認められません。

注意したいのは、誰でも使用人兼務役員になれるわけではないことです。社長、理事長など政令で定める者は除かれます。部長、課長その他の使用人としての職制上の地位を持ち、かつ常時使用人としての職務に従事している者が対象です。肩書きだけ部長を兼ねていて、実際には役員の仕事しかしていない、という形では認められません。

株主総会で決める報酬の枠は、役員としての部分だけです。使用人としての給与は、その枠の外で支払います。議事録にこの区別を書いておかないと、総額の枠を超えて支払っているように見えてしまいます。「取締役の報酬額(使用人兼務役員の使用人分給与を除く)は年額金○○万円以内とする」のように、かっこ書きで除外を明示しておくと安全です。

この区分は判断が分かれやすい領域です。誰を使用人兼務役員として扱うかは、実態と金額によって結論が変わるので、決める前に税務署か税理士に確認してください。

定款に報酬の定めがある会社はどうするか

会社法は「定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める」という書き方をしています。裏を返せば、定款に定めがあるなら株主総会の決議は不要です。

ただし、金額そのものを定款に書いている会社はほとんどありません。金額を変えるたびに定款変更の決議が必要になり、それは出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を要する重い決議だからです。手続きの負担が逆に増えます。

古い会社の定款を見ると、「取締役の報酬は株主総会の決議をもって定める」という条文が入っていることがあります。これは金額を定めたものではなく、会社法の原則をそのまま書き写したものなので、毎年の決議は必要です。定款にこの一文があるから決議は要らない、と読み違えないでください。

手元の定款を開いて、報酬に関する条文がどう書いてあるかを一度確かめておくと、毎年の段取りが固まります。確認は5分で終わります。

同族会社でよく起きる3つの失敗

最後に、実務で繰り返し見かける失敗を並べます。どれも、知っていれば避けられるものばかりです。

1つ目は、議事録を作っていないケースです。社長1人の会社で、金額は口座の動きで分かるから書類は要らないと考えてしまう。調査で決議の存在を示せず、経費として認められるかどうかの議論から始まることになります。作る手間は30分もかかりません。

2つ目は、金額を年の途中で動かしてしまうケースです。売上が伸びたので数か月だけ増やした、資金繰りが厳しいので一時的に下げた。どちらも定期同額給与の型から外れます。会社法上は総会で決議していても、税務では別の判断になります。

3つ目は、議事録の日付を後から書き換えるケースです。期限を過ぎていたことに気づいて、3か月以内の日付に直してしまう。これは事実と違う記載であり、会社法上も過料の対象に挙がっています。ほかの書類との整合が取れないので、調査では容易に分かります。期限を外したなら、外したことを前提に対応を組むほうが結果的に軽く済みます。

4つ目は、監査役の報酬を取締役の枠に含めてしまうケースです。「役員報酬の総額を年額○○万円以内とする」と一本で決議してしまうと、取締役と監査役の区分が読めません。監査役の報酬は取締役と分けて決めることが会社法で求められているので、議案を分けて書き直す必要があります。

5つ目は、非常勤の役員や親族役員の扱いです。名前だけ役員になっていて実際の職務がない人に報酬を払っていると、不相当に高額な部分として経費に認められない可能性があります。法人税法は、役員に支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入しないと定めています。何をもって不相当とするかは、その人の職務の内容、会社の収益、従業員への給与の支給状況、同種同規模の会社の水準などから判断されます。金額の妥当性は個別事情で変わるので、迷ったら税理士に確認してください。

これら5つに共通しているのは、金額そのものより、書き方と時期でつまずいているという点です。決めた内容は正しいのに、記録が追いついていない。議事録を丁寧に作るだけで、5つのうち4つは起きなくなります。

決算月から逆算して、年間の段取りを組む

期限を外さない最も確実な方法は、決算月を起点に年間の予定を先に引いてしまうことです。

3月決算の会社を例にします。会計期間が始まるのは4月1日。定期同額給与の改定が認められるのは、そこから3か月を経過する日、つまり6月末日までです。決算の数字が固まるのは5月の半ばから下旬。その数字を見て来期の報酬額を決め、6月中に定時株主総会を開いて決議し、7月支給分から新しい金額にする。この並びなら、どの段階でも余裕があります。

12月決算の会社なら、期限は3月末日です。決算の数字が固まるのが2月、総会が3月、4月支給分から反映。同じ形が1か月ずつずれるだけです。

段取りに入れておきたい作業は5つあります。決算の数字を確認する。来期の報酬額を税理士と相談して決める。株主総会を開いて決議する。議事録を作って保管する。社会保険の随時改定に該当するかを確認して届出を出す。この5つを、決算月の翌月から3か月の中に配置します。

役員賞与を出す予定がある会社は、もう1本の期限が加わります。決議した日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日までに、税務署へ届出書を出す。定時株主総会で賞与も一緒に決めるなら、総会の日から1か月以内が実質的な期限になります。総会が終わったらすぐ届出、という順番を段取りに書き込んでおいてください。

カレンダーに入れるのは、総会の日ではなく期限の日です。総会の日は動かせますが、期限は動きません。期限の2週間前にもう1つ通知を置いておくと、決算が遅れたときにも手が打てます。

年に1回の作業なので、手順書を1枚作っておく価値があります。決算月、期限の日、必要な書類、担当者。この4項目を書いた紙が1枚あるだけで、翌年の負荷がまるで違います。

経費として認められなかったときに、いくら損をするか

型から外れるとどうなるのかを、金額で見ておきます。3月決算の会社で、社長の報酬を月額50万円と決めていたところ、10月から月額80万円に引き上げたとします。臨時改定事由にも業績悪化改定事由にも当たらない、単に売上が伸びたからという理由だったとします。

増額した差額は月30万円です。10月から3月までの6か月分で180万円。この180万円が経費として認められません。会社の利益は180万円多い扱いになり、その分の法人税と地方税が増えます。

痛いのは、この180万円が社長の手元に渡っていることです。受け取った側では給与として所得税と住民税がかかり、社会保険料の計算の対象にもなります。会社から出ていったお金は同じなのに、会社では経費にならず、個人では課税される。同じ180万円に二重に税金がかかる形になります。

増える税額がいくらになるかは、その年の所得の水準や自治体によって変わるので、ここで断定はできません。金額を動かす前に、税務署か税理士に確認してください。確認にかかる時間は数十分で、失う金額はこの例のように百万円単位です。

逆に言えば、期限の中で決めておけば、同じ80万円を払っても全額が経費になります。差は金額ではなく、決めた時期と、それを示す議事録があるかどうかだけです。

決算が固まらず、期限に間に合わないとき

3か月の期限は動きません。ところが決算の数字が遅れることはあります。税理士が繁忙期で試算表が出てこない、売掛金の確定が遅れている、といった事情です。

このときに取れる手は1つあります。前期と同じ金額で据え置く決議を、期限の中で先に済ませることです。

定期同額給与は、毎月同額であることが要件です。金額を変えなければ改定ではないので、3か月の期限そのものが問題になりません。前期と同額のまま新しい期を始めておけば、型は保たれます。そのうえで、決算の数字が固まってから、翌期の改定に向けた検討をすればよい形になります。

据え置く場合も、議事録は作ってください。「取締役の報酬額を前期と同額の月額金○○万円とし、令和○年○月支給分より据え置く」と書いておけば、決議があったことと金額が確定します。何も決議しないまま前期の金額を払い続けると、いつ誰が決めたのかを示す書類が無い状態になります。

据え置きを選べない場合、たとえば役員が交代して金額を決め直さざるを得ない場合は、期限の中で暫定の金額を決める形になります。どこまで暫定として扱えるかは事情によって変わるので、決議の前に税理士に相談してください。

役員報酬まわりの書類を、誰が回すか

ここからは体制の話です。

役員報酬の議事録は、年に1回、決まった時期に作る書類です。作るのは難しくありませんが、期限を外すと税金の負担が直接増えます。にもかかわらず、社内の誰が担当するかが決まっていない会社は少なくありません。社長が自分の報酬を自分で決める会社ほど、書類だけ後回しになりがちです。

判断を伴う部分、つまり金額をいくらにするか、期の途中で変えてよい事情に当たるかは、税理士と相談して決めます。一方で、議事録の体裁を整える、給与台帳と突き合わせる、社会保険の届出書を準備する、といった作業は、手順が決まっていれば事務の経験がある人がこなせます。

文書の型を扱う力は、資格の形でも測れます。ビジネス文書検定は、社内外でやりとりする文書の構成や表現を扱う試験で、議事録や届出書類の基礎を固める入口になります。

外部に頼むときの費用感は、職種別の単価データから掴めます。著述家,記者,編集者の年収・単価相場には、文書を扱う職種の報酬水準がまとまっていて、見積もりの目安になります。社内の担当者が調べ直す時間の人件費と比べてみると、判断がしやすくなります。

業務の流れごと見直したい場合は、棚卸しから入る支援の形もあります。AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、社内の定型業務をどこまで仕組みに落とし、どこから人に任せるかを整理する仕事の内容が紹介されています。年に1回の定型書類は、一度テンプレートとチェックリストを作れば翌年からの負荷が大きく下がる種類の仕事です。

フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、この手の期限付きの年次業務を外に出せている会社ほど、社長が数字を決めることに集中できています。逆に、仲介を何段も挟んだ形で外注していると、頼む側は同じ予算で任せられる範囲が狭まり、受ける側の手取りも薄くなる。手数料0%の直接取引が効くのはここで、金額よりも、毎年同じ人に頼み続けられるかどうかに差が出ます。去年の議事録を知っている人が今年も作る。この継続が、期限の見落としをいちばん減らします。

役員報酬の決議は、会社法が求める手続きであると同時に、税負担を左右する書類です。作る労力は1時間かかりません。外すと戻せないのは、期限のほうです。

よくある質問

Q. 役員報酬は必ず株主総会で決める必要がありますか?

定款に額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めると会社法が規定しています。取締役が自分の報酬を自分で決められない仕組みです。社長が全株式を持つ会社でも手続きは必要で、省略すると税務上の説明が難しくなります。定款に金額を書く方法もありますが、変更のたびに定款変更が必要になるため現実的ではありません。

Q. 役員報酬を決める議事録には何を書けばよいですか?

決議した日付、支給を開始する月、金額とその単位(月額か年額か)、対象となる人の範囲の4点が欠かせません。総額の上限だけを決める場合は、個々の配分を決めた取締役会議事録や取締役の決定書を別に作って一緒に保管します。監査役がいる会社は、取締役分と監査役分を議案ごとに分けて書きます。

Q. 役員報酬はいつまでに決めれば経費として認められますか?

定期同額給与として扱われるためには、会計期間開始の日から3か月を経過する日までに改定する必要があります。3月決算なら6月末日までです。新設法人は設立日が起算点になります。期の途中で変える場合は、職務内容の重大な変更などの臨時改定事由か、経営状況が著しく悪化した場合の業績悪化改定事由に限られます。

Q. 役員に賞与を出す場合も議事録が必要ですか?

必要です。事前確定届出給与の型を使うため、株主総会で支給する日と金額を決めて議事録に残し、税務署へ届出書を提出します。届出期限は決議した日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日です。届け出た額と実際の支給額がずれると全額が経費として認められないことがあります。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年5月16日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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