株主名簿に書く項目|抜けると証明書が出せない


この記事のポイント
- ✓株主名簿記載事項は会社法第121条で4つと決まっています
- ✓株券番号の中身を条文に当たって1つずつ分解し
- ✓項目が欠けたときに株主名簿記載事項証明書が出せなくなる理由まで整理します
結論から書きます。株主名簿記載事項は会社法第121条に列挙された4つだけで、それ以外は法律上は書かなくて構いません。しかも4つ目の株券番号は株券発行会社だけの話なので、いまの中小企業のほとんどは実質3項目です。それなのに、この項目で検索する人が絶えないのは理由があります。1つは、他社の名簿を見ると議決権数や持株比率の列が並んでいて、どこまでが義務か分からなくなるから。もう1つは、項目が欠けていると会社法第122条の株主名簿記載事項証明書が出せず、株式を譲るときに止まるからです。この記事では、4つの項目を1つずつ分解し、足したほうがいい任意の項目と、足す必要のない項目を切り分けます。
条文が求めている項目は4つだけ
まず原文を確認します。
株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。 一 株主の氏名又は名称及び住所 二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数) 三 第一号の株主が株式を取得した日 四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号 出典: laws.e-gov.go.jp
注目してほしいのは、条文がこの4つを「株主名簿記載事項」という名前で定義していることです。この定義された言葉は、あとの条文でそのまま使われます。会社法第122条は「株主名簿記載事項を記載した書面の交付」を請求できるとしていますし、第133条は「株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる」と書いています。
つまり、株主名簿記載事項は単なる項目リストではなく、会社法の中で使われる用語です。ここが4つと定まっているから、証明書に何を書くかも、名義書換で何を書き換えるかも決まります。逆に言えば、この4つのどれかが記録されていない名簿は、あとの条文が前提にしている状態を満たしていないことになります。
会社法第976条第7号は、株主名簿に「記載し、若しくは記録すべき事項を記載せず、若しくは記録せず、又は虚偽の記載若しくは記録をしたとき」を100万円以下の過料の対象に挙げています。名簿そのものを作っていない場合だけでなく、作ったけれど項目が欠けている場合も、条文の文言としては対象に含まれます。
1つ目の項目 株主の氏名または名称および住所
最初の項目は、株主が誰で、どこに住んでいるかです。
個人の株主なら氏名、法人の株主なら名称、つまり商号を書きます。条文が「氏名又は名称」と並べているのは、法人も株主になれるからです。
住所の書き方で迷う人が多いので、基準を1つ示します。個人なら住民票の表記、法人なら登記簿の本店所在地の表記に合わせてください。「1丁目2番3号」をハイフンでつないだ略式の表記は、日常では通りますが、本人確認書類と突き合わせる場面で一致しないことがあります。名簿は照合のために使う書類なので、正式表記にしておくほうが確実です。
なぜ住所まで書かせるのかというと、会社法第126条第1項が理由です。会社が株主にする通知や催告は、株主名簿に記載した住所に宛てて発すれば足りるとされています。そして第2項で、その通知は通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます。株主総会の招集通知が届かなくても、名簿の住所に出していれば会社は責任を問われないということです。住所は、会社と株主をつなぐ唯一の公式な連絡先として登録されています。
実務上の注意が2つあります。
1つは、株主が引っ越したときの更新です。株主から届出がなければ会社は気づけません。定時株主総会の招集通知を出す前に、宛先不明で返ってきた封筒がないかを確認する習慣をつけておくと、実態と名簿のずれに気づけます。
もう1つは、株式が複数人の共有になっている場合です。相続が起きて遺産分割が終わっていないときは、相続人全員の共有になります。この場合、会社法第126条第3項により、共有者は通知や催告を受ける代表者を1人決めて会社に知らせる必要があります。会社側は、その届出を受けたうえで名簿の備考欄に共有である旨と代表者を記録しておきます。第4項では、共有者から通知がない場合、会社はそのうちの1人に通知すれば足りるとされています。
2つ目の項目 その株主が持っている株式の数
2つ目は株式数です。ここでよくある誤りが3つあります。
1つ目が、持株比率を書いてしまうことです。条文が求めているのは「株式の数」であって割合ではありません。比率は株式数と発行済株式総数から計算できるので、名簿に書くと二重管理になります。誰かの株数が変わったときに比率の直し忘れが起き、名簿の中で矛盾が生じます。
2つ目が、出資した金額を書いてしまうことです。金額と株数は別です。1株5万円で200株なら出資額は1,000万円ですが、名簿に書くのは200株のほうです。設立後に個人から会社にお金を入れた分は役員借入金であって出資ではないので、株数は増えません。
3つ目が、議決権数と混同することです。議決権のない種類株式を発行している場合、株式数と議決権数は一致しません。名簿に書くのは株式数で、議決権数が必要になるのは登記に添付する株主リストのほうです。
種類株式を発行している会社は、条文の括弧書きのとおり、株式の種類と種類ごとの数を書きます。「普通株式 180株」「A種優先株式 20株」のように行を分けるか、列を分けて管理します。1種類しか発行していない会社は「普通株式」と書いておけば足ります。
名簿の株式数の合計は、登記事項証明書の発行済株式総数と一致していなければなりません。ここが合わない名簿は、提出した先で必ず指摘されます。合わない原因の多くは、増資、株式の分割や併合、自己株式の取得のいずれかが反映されていないことです。自己株式は、会社が自社の株を買い取ったものなので、会社自身を株主として1行立てるのが通例です。
3つ目の項目 株式を取得した日
3つ目が取得日です。地味に見えて、間違いがいちばん多い項目です。
書くのは、その株主が株式を手に入れた日です。名簿を作った日でも、登記した日でもありません。
設立時から持っている株主の場合は、会社の成立日を書きます。会社の成立日は、設立登記を申請した日です。法務局は、登記所が株式会社の設立登記申請書を受け付けた日が会社の設立年月日になると案内しています。登記事項証明書の「会社成立の年月日」の欄に書いてある日付をそのまま写せば確実です。
増資で新しく株式を引き受けた株主なら、払込期日か、払込期間を定めた場合は出資の履行をした日になります。募集事項を決めた議事録に期日が書かれているはずなので、そこから拾います。
譲渡で取得した株主なら、譲渡の効力が生じた日です。譲渡制限株式の場合は会社の承認を経てからの譲渡になるので、承認の日と契約の日、効力発生日が別になることがあります。契約書に効力発生日を明記しておくと、あとで迷いません。
相続で取得した相続人なら、被相続人が亡くなった日です。相続は一般承継なので、その時点で株式は相続人に移ります。遺産分割の日ではありません。
なぜ取得日を記録させるのかというと、株主がいつからその地位にあったかが、権利関係の判断の起点になるからです。配当の基準日にその人が株主だったか、株主総会の基準日に間に合っていたか、といった判断は取得日から追えます。数年後に株式の評価や相続税の計算が必要になったときにも、取得日が残っているかどうかで作業量がまるで違います。
4つ目の項目 株券の番号
4つ目は株券番号ですが、条文が「株式会社が株券発行会社である場合には」と条件を付けています。株券発行会社でなければ書きません。
いまの株式会社は、株券を発行しないのが原則です。2006年に施行された会社法で原則と例外が入れ替わったため、それ以降に設立された会社のほとんどは株券不発行会社です。自社がどちらなのかは、登記事項証明書に「株券を発行する旨の定め」の記載があるかどうかで判別できます。
株券不発行会社なら、この欄は空欄のままで構いません。備考欄に「株券不発行」と1行書いておくと、あとで名簿を見た人が「書き忘れ」と「そもそも対象外」を区別できます。
株券発行会社の場合は、条文がさらに「株券が発行されているものに限る」と絞っています。定款に株券を発行する旨の定めがあっても、実際に印刷して交付していない株式については番号を書きようがありません。非公開会社では、株主から請求があるまで株券を発行しないでよいとされているので、定めはあるのに現物がない、という状態がよく起きます。
株券の現物がある会社は、管理の手間がまったく違います。誰が何番の株券を持っているかを1枚ずつ追う必要があり、紛失すれば株券喪失登録という別の手続きに入ります。実務としては、定款を変えて株券不発行会社に移行してしまうほうが以後が楽です。これは登記事項の変更になるので、株主総会の特別決議と変更登記が必要です。
法定の4項目に足したほうがいい項目
条文が求めているのは4つですが、実務ではいくつか列を足したほうが使いやすくなります。役に立つ順に3つ挙げます。
1つ目が、取得事由です。設立時出資なのか、増資による引受けなのか、誰からの譲渡なのか、相続なのか。この1列があるかないかで、数年後に名簿を読む人の理解速度が変わります。法律上は不要ですが、実務上の価値は最も高い列です。
2つ目が、株主番号です。株主が入れ替わっても番号を使い回さずに通し番号で管理すると、過去の版と突き合わせるときに追跡しやすくなります。
3つ目が、備考です。株券不発行であること、株式が共有状態にあること、質権が設定されていること、代表者の届出があることなど、定型の列に収まらない情報をここに書きます。
逆に、足さないほうがいい項目もあります。持株比率と議決権割合です。どちらも計算で出るうえ、株数が変わるたびに直す必要があり、直し忘れが矛盾を生みます。必要になった時点で別表を作ればよく、台帳そのものに持たせる理由はありません。出資金額も同様です。
もう1つ、書いてはいけないものがあります。個人番号、いわゆるマイナンバーです。配当を支払う会社は支払調書の作成のために株主のマイナンバーを取得することがありますが、その情報は法定の利用目的の範囲でしか扱えません。株主名簿は株主や債権者からの閲覧請求の対象になる書類なので、そこに混ぜると管理が破綻します。別の帳簿で分けて管理してください。
4項目のほかに、株主名簿へ記載する事項がある
会社法第121条が定める4項目とは別に、一定の場合に株主名簿へ記載することになる事項が2つあります。どちらも該当する会社だけの話ですが、該当したときに知らないと手続きが止まります。
1つ目が、質権の登録です。会社法第148条は、株式に質権を設定した者は、質権者の氏名または名称および住所と、質権の目的である株式を株主名簿に記載するよう請求できる、としています。質権とは、借入れの担保として株式を差し入れる仕組みのことです。この記載を受けた質権者を登録株式質権者と呼び、会社法第149条第1項により、その人は自分についての記載事項を記載した書面の交付を請求できます。この書面にも、第2項で代表取締役の署名または記名押印が必要とされています。
株式を担保に融資を受けるとき、貸す側は必ずこの登録を求めます。名簿に質権の記載欄がないと、その場で欄を作ることになります。株式を担保に入れる予定がある会社は、あらかじめ質権者の欄を設計に含めておいてください。
2つ目が、信託財産に属する旨の記載です。会社法第154条の2第1項は、株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載しなければ、そのことを会社その他の第三者に対抗できないとしています。第2項では、株主はその旨を記載するよう請求できるとされています。事業承継の場面で信託を使うケースが増えているので、該当する会社は備考欄ではなく独立した列として管理したほうが安全です。なお第4項により、この規定も株券発行会社には適用されません。
この2つに共通するのは、記載しなければ第三者に主張できないという構造です。質権も信託も、名簿への記録が効力の前提になっています。名簿が単なる連絡先一覧ではないことが、ここからも分かります。
株主から請求がなくても会社が記載する場面
株主名簿の書き換えというと、株主から請求されて会社が応じるものだと思われがちですが、会社が自分から記載しなければならない場面も条文に書かれています。
会社法第132条第1項は、株式を発行した場合、会社が自社の株式を取得した場合、自己株式を処分した場合の3つについて、会社はその株式の株主に係る株主名簿記載事項を記載または記録しなければならない、としています。第2項では株式の併合をした場合、第3項では株式の分割をした場合が同じように定められています。
つまり、増資をしたとき、会社が株主から株式を買い取ったとき、持っていた自己株式を誰かに譲ったとき、株式を分割や併合したとき。この5つの場面では、株主から何も言われなくても会社が名簿を直します。
ここが抜けている会社は多いです。株式の分割をしたのに名簿の株数が旧のまま、という状態がその典型で、登記簿の発行済株式総数とのずれとして表面化します。株主からの請求を待つ項目と、会社が自発的に直す項目があることを、運用のルールとして分けておいてください。
名義書換で書き換わるのは、どの項目か
株式が譲渡されたときに名簿のどこが変わるのかも、整理しておきます。
会社法第130条第1項は、株式の譲渡は、取得した者の氏名または名称および住所を株主名簿に記載しなければ、会社その他の第三者に対抗することができないとしています。条文が名指ししているのは1つ目の項目です。
実際の書き換えでは、譲渡人の行から譲渡された株数を減らし、譲受人の行を新たに立てるか既存の行に加算します。譲受人の取得日は譲渡の効力が生じた日になります。つまり、1つ目と2つ目と3つ目の項目がまとめて動きます。
書き換えの請求の仕方は会社法第133条に定められていて、第2項により、原則として名簿上の株主と取得者が共同で請求することになっています。売った人と買った人の連名で請求する形です。
そして会社法第134条により、譲渡制限株式については第133条が適用されません。適用されるのは、会社の承認を受けている場合、指定買取人である場合、相続その他の一般承継で取得した場合などの例外に限られます。中小企業の株式はほぼすべて譲渡制限株式なので、承認の手続きを飛ばして名簿だけ書き換えることはできない、という理解になります。
株主名簿記載事項と株主リストの記載事項は別物
名前が似ていて混同されるのが、登記に添付する株主リストです。記載する内容が違います。
| 項目 | 株主名簿 | 株主リスト |
|---|---|---|
| 根拠 | 会社法第121条 | 商業登記規則第61条第2項・第3項 |
| 対象 | 全株主 | 議決権上位10名か2/3に達するまでの少ないほう |
| 氏名または名称 | 書く | 書く |
| 住所 | 書く | 書く |
| 株式数 | 書く | 書く |
| 取得日 | 書く | 書かない |
| 株券番号 | 株券発行会社のみ | 書かない |
| 議決権数 | 書かない | 書く |
| 議決権数割合 | 書かない | 書く(株主全員の同意の場合を除く) |
| 提出先 | 提出しない | 法務局 |
法務省は株主リストについて次のように案内しています。
株主リストの添付は,次の2つの場合に必要となります。 1 登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合 2 登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合 出典: moj.go.jp
株主リストは特定の株主総会の時点で議決権がどう分布していたかを切り取る書類で、上位10名までしか書かないこともあります。株主を継続的に記録した台帳ではありません。株主リストを作ったから株主名簿を作ったことになる、という理解は誤りです。
逆に、株主名簿があれば株主リストは楽に作れます。名簿から議決権数を計算して割合を出し、上位から並べ直すだけだからです。名簿を持っていない会社が登記のたびに株主リストを作り直しているのは、順序が逆になっています。
項目が抜けると、株主名簿記載事項証明書が出せなくなる
株主名簿記載事項という用語が効いてくるのが、会社法第122条です。
前条第一号の株主は、株式会社に対し、当該株主についての株主名簿に記載され、若しくは記録された株主名簿記載事項を記載した書面の交付又は当該株主名簿記載事項を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。 前項の書面には、株式会社の代表取締役(指名委員会等設置会社にあっては、代表執行役。次項において同じ。)が署名し、又は記名押印しなければならない。 出典: laws.e-gov.go.jp
この書面が株主名簿記載事項証明書です。株主から請求されたら、会社は発行しなければなりません。
ここで注意したいのが、条文の書きぶりです。証明するのは「株主名簿に記載され、若しくは記録された株主名簿記載事項」です。つまり、名簿に書かれていないことは証明できません。取得日を記録していない会社は、取得日の欄が空白の証明書を出すことになります。株式数だけあって取得日がない証明書を受け取った相手が、それで納得するかどうかは別の話です。
この証明書が必要になるのは、株券不発行会社で株式を譲るときが典型です。株券がないので、自分が株主であることを外部に示す手段が他にありません。融資の担保に株式を入れるとき、第三者に株式を売るときに、買い手や金融機関がこの証明書を求めます。
そのタイミングで名簿の項目が欠けていると、証明書を出す前に名簿を作り直すことになります。過去の取得日を遡って調べる作業が、交渉の途中で発生するわけです。名簿の項目を最初から揃えておく理由は、まさにここにあります。
なお、会社法第122条第4項により、この規定は株券発行会社には適用されません。株券がある会社では株券そのものが証明になるからです。
名簿の内容は誰が見られるのか
記載事項を決めるうえで、誰に見られる可能性があるかも押さえておく必要があります。
会社法第125条第1項は、株主名簿を本店に備え置かなければならないとしています。第2項では、株主と債権者は会社の営業時間内であればいつでも、書面の閲覧または謄写を請求できるとされ、請求する側は理由を明らかにしなければなりません。
会社はこの請求を原則として拒めません。第3項に拒める場合が4つ列挙されていて、権利の確保や行使に関する調査以外の目的で請求したとき、会社の業務の遂行を妨げる目的や株主の共同の利益を害する目的で請求したとき、知り得た事実を利益を得て第三者に通報するために請求したとき、過去2年以内に同様の通報をしたことがあるとき、の4つです。いずれも会社側が立証しなければならない事情で、見せたくないという理由では拒めません。
第4項では、親会社の株主などが権利を行使するために必要なときは、裁判所の許可を得て同じ請求ができるとされています。
株主名簿には全株主の住所が載ります。閲覧請求の対象になる以上、必要のない個人情報を足すほど、開示したくない情報が増えるということです。法定の4項目と実務上必要な数列に絞るべき理由は、管理の手間だけでなく、この開示リスクの面からも説明がつきます。
記載事項を点検するチェックリスト
いま手元にある名簿が条文の要求を満たしているかを、7つの問いで点検できます。
株主全員の氏名または名称が書かれているか。住所が正式表記で書かれているか。株式数が書かれていて、その合計が登記簿の発行済株式総数と一致しているか。種類株式を発行しているなら種類ごとの数が分かれているか。全株主について取得日が書かれているか。株券発行会社なら株券番号が書かれているか。名簿がいつ時点のものかが分かる日付が入っているか。
この7つのうち1つでも「いいえ」があれば、そこが次に困る箇所です。特に多いのが、取得日の欠落と、発行済株式総数との不一致の2つです。どちらも、株式を動かす段になって初めて発覚します。
該当する会社は、さらに3つ足してください。株式に質権が設定されているなら、質権者の氏名または名称と住所、質権の目的である株式が記載されているか。株式が信託財産に属しているなら、その旨が記載されているか。株式が相続人の共有状態にあるなら、通知を受ける代表者の届出が記録されているか。
点検の頻度は、年に1回で足ります。定時株主総会の招集通知を出す前が、実務としていちばん自然なタイミングです。招集通知の宛先は名簿の住所になるので、点検と通知の準備を同じ作業にまとめられます。
記載を欠いたままにすると、過料の対象になる
項目を揃えておく理由は、証明書が出せないことだけではありません。会社法は、名簿に書くべきことを書かなかった場合について、100万円以下の過料を定めています。
会社法第976条は、取締役や監査役、清算人、株主名簿管理人などを名指しして、次のいずれかに当たるときは100万円以下の過料に処するとしています。そのうち株主名簿に関わるのは3つです。
第7号は、定款や株主名簿、議事録、会計帳簿などに記載すべき事項を記載せず、または虚偽の記載をしたときです。株主名簿がここに列挙されています。つまり、取得日を書いていない状態そのものが、条文の文言に当たりうるということです。
第8号は、第125条第1項に違反して帳簿や書類を備え置かなかったときです。名簿を作ってはいるが本店に置いていない、代表者の自宅のパソコンにしかない、という状態がここに当たります。
第4号は、正当な理由がないのに閲覧や謄写の請求を拒んだときです。株主から見せてほしいと言われて断ると、この号に当たる可能性があります。
払うのは会社ではなく役員個人です。条文が名指ししているのは取締役や監査役といった人であって、法人ではありません。ただし、名簿を作っていないことだけを理由に調べる仕組みは存在しません。表に出るのは、株主とのもめごとが裁判になったとき、株式を動かす場面で相手方から指摘されたとき、会社を売る話で買い手側が調べたときです。確率は低いが、起きたときの相手は必ず自分にとって大事な相手になっている、という性質のものです。
そのまま写して使える名簿の形
項目の話を、実際の表の形にしておきます。株券を発行していない会社で、株主が3人いる場合の例です。
| 株主番号 | 氏名または名称 | 住所 | 株式数 | 取得日 | 取得事由 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 山田太郎 | 東京都千代田区丸の内1丁目1番1号 | 800 | 2020年4月1日 | 設立時出資 | 株券不発行 |
| 2 | 山田花子 | 東京都千代田区丸の内1丁目1番1号 | 100 | 2020年4月1日 | 設立時出資 | 株券不発行 |
| 3 | 株式会社〇〇商事 | 大阪市北区梅田1丁目1番1号 | 100 | 2023年7月15日 | 山田太郎からの譲渡(〇年〇月〇日承認) | 株券不発行 |
表の下に、名簿の作成日と発行済株式総数を書いておきます。「2026年6月30日現在 発行済株式総数1,000株」という1行です。これがあると、いつ時点の名簿なのかが後から読む人にも分かります。
種類株式を出している会社は、株式数の列を種類ごとに分けます。普通株式800株と、A種優先株式200株を1つの列にまとめると、議決権の計算ができなくなります。
この表は表計算ソフトで足ります。会社法は「記載し、又は記録しなければならない」と書いているので、紙でなくても構いません。ただし、備え置く義務があるので、本店で見せられる状態にしておく必要があります。請求されたときに印刷して渡せるなら、それで足ります。
名簿の株数と登記簿が合わないときの直し方
点検でいちばん多く見つかるのが、名簿の株式数の合計と、登記簿の発行済株式総数が合わないという状態です。直し方の順番を書いておきます。
はじめに、どちらが正しいかを決めます。正しいのは登記簿ではなく、実際に起きたできごとです。増資をしたのか、株式を分割したのか、会社が自己株式を買ったのか。順に洗い出します。
次に、その根拠になる紙を集めます。増資なら株主総会の議事録と払込みの記録、分割なら決議の議事録、自己株式の取得なら取得の決議と支払いの記録です。銀行の通帳で入出金の日付を追うと、年をまたいだ記憶違いが直ります。
それから、名簿を作り直します。過去の版を捨てずに、新しい日付の版を作って並べて置いておきます。古い名簿を捨ててしまうと、どこで数字が動いたのかを説明する材料がなくなります。
最後に、登記簿のほうが実態と違っていた場合は、登記の申請が必要になります。増資をしたのに登記していないというケースは、登記を怠ったことになるので、期間を過ぎてからでも申請します。過料の可能性が出てくる場面なので、遡る範囲が広いときは司法書士に相談したほうが早く終わります。
作り直す作業そのものは、株主が数人の会社なら半日で終わります。時間がかかるのは、過去のできごとを思い出す部分です。だからこそ、毎年1回、招集通知を出す前に点検しておく意味があります。
独自データから見た、制度の言葉を扱う仕事の位置
会社法の条文は、項目そのものは単純なのに、定義された用語が別の条文で使われる構造になっているため、条文を1つだけ読んでも全体が見えません。株主名簿記載事項という言葉が第121条で定義され、第122条の証明書と第133条の名義書換で使われる、という関係がその典型です。この構造を読み解いて、手順の形に翻訳する仕事には一定の需要があります。
士業事務所や管理部門は実務を抱えたまま、社内向けの手順書や顧客向けの説明資料に手が回っていないことが多い。条文を読める書き手が作った資料と、読めない人が作った資料とでは、後から発生する問い合わせの量が明確に違います。制度を扱う文章の書き手がどの水準で取引されているかは、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で職種別に確認できます。
正確な書式の文書を組み立てる力そのものを鍛えたいなら、ビジネス文書検定の出題範囲は実務との距離が近く、株主名簿のような定型書類を扱う場面でそのまま効いてきます。
在宅ワークと業務委託の市場を20年運営してきた立場から言えば、長く仕事が続く事業者ほど、この種の地味な記録を欠かさず残しています。正直なところ、記録の有無と実力は関係がありません。関係があるのは、取引の規模が上がったときに止まるか止まらないかです。相手が金融機関や上場企業になると、判断の材料は実績ではなく書面になります。株主名簿の記載事項が揃っているかどうかは、その入口にあたる小さな条件です。
もう1つ、運営者として見てきた限りでは、中間に人が入らない直接の取引を続けてきた事業者ほど、記録を自分の手元に持っています。仲介が入る取引では書式も条件も相手方のものに乗りますが、直接の取引では自分で管理するしかないからです。手間は増えますが、そのぶん手取りは厚くなり、条件の交渉も自分の側で握れる。手数料0%という条件が意味を持つのは、金額よりもこの質の部分です。株主名簿の項目を自分で揃えておくという作業は、その延長線上にあります。
株主名簿記載事項は4つ、実質は3つ。足すべきは取得事由と備考、足すべきでないのは比率とマイナンバー。そこまで決めてしまえば、名簿の設計に迷うことはなくなります。
よくある質問
Q. 株主名簿の記載事項は法律で何項目と決まっていますか?
会社法第121条に4項目が列挙されています。株主の氏名または名称および住所、その株主が持つ株式の数、株式を取得した日、株券発行会社の場合の株券番号です。4つ目は株券発行会社だけが対象なので、株券不発行会社では実質3項目になります。それ以外の項目は法律上は任意です。
Q. 株主名簿に持株比率や議決権数は書く必要がありますか?
必要ありません。会社法第121条が求めているのは株式の数であって、比率や議決権数ではありません。議決権数と議決権数割合が必要になるのは、登記に添付する株主リストのほうです。比率を名簿に持たせると株数が変わるたびに直す必要が生じ、直し忘れによる矛盾の原因になります。
Q. 取得日には何の日付を書けばよいですか?
その株主が株式を取得した日です。設立時からの株主なら会社の成立日、つまり設立登記を申請した日を書きます。増資で引き受けた株主なら払込期日、譲渡で取得したなら譲渡の効力が生じた日、相続なら被相続人が亡くなった日です。名簿を作成した日や登記した日ではありません。
Q. 記載事項が抜けていると、どんな不都合がありますか?
会社法第122条の株主名簿記載事項証明書は、名簿に記載または記録された事項を証明する書面です。名簿に書かれていない項目は証明できないため、取得日などが抜けていると空欄の証明書になります。株式を譲渡する場面や融資の担保にする場面で相手から不足を指摘され、交渉の途中で名簿を作り直すことになります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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