株主名簿を作らないとどうなるか|会社法が求めていること


この記事のポイント
- ✓株主が1人だけの会社にも等しくかかります
- ✓会社法121条が求める記載項目
- ✓作らなかった場合の100万円以下の過料
結論から書きます。株主名簿の作成義務は、すべての株式会社にあります。株主が創業者1人だけでも、役員が自分1人だけでも、株券を発行していなくても、例外はありません。そして作っていない状態が発覚すると、会社ではなく取締役個人が100万円以下の過料を科されることがあります。法人成りしたばかりの会社では、定款と登記簿謄本だけ手元にあって株主名簿は影も形もない、という状態が珍しくありません。この記事では、会社法が具体的に何を求めているのか、いつ作るのか、作らないと実際にどこで困るのかを、条文にあたりながら順に確認していきます。
会社法121条は例外を設けていない
まず根拠を確認します。株主名簿の作成を定めているのは会社法121条です。条文はこう始まります。「株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下『株主名簿記載事項』という。)を記載し、又は記録しなければならない」。主語は「株式会社」で、規模や株主数による例外はついていません。上場企業も、株主が1人の会社も、同じ条文の対象です。
「しなければならない」と書かれている以上、これは努力目標ではなく義務です。定款で作らなくてよいと定めることもできません。株主名簿は、会社が誰のものかを会社自身が記録しておくための土台であり、そこを空白にしたまま会社を運営することを会社法は想定していない、と読むのが自然です。
株主名簿は株券発行がなくても、1人社長の会社でも、すべての株式会社で作成しなければいけない書類です。原則、会社の代表者が作成します。作成や保管を怠ったことが発覚した場合は、会社法第976条に基づいて100万円以下の過料が課せられる恐れがあります。 出典: kawamura-tax.jp
ここで一度、言葉を整理しておきます。株主名簿とは、その会社の株を誰が何株持っているかを記録した、会社が常に備えておく帳簿のことです。紙でもデータでも構いません。似た名前で「株主リスト」という書類がありますが、そちらは登記を申請するときに法務局へ添える別の書類で、常備するものではありません。中身も置き場所も違うので、同じものだと思っていると両方でつまずきます。
正直なところ、この義務は中小企業の現場でいちばん軽く扱われているものの一つです。会社を作った直後は、定款の認証、資本金の払い込み、設立登記、税務署への届出と手続きが続き、誰も催促してこない株主名簿は後回しになります。そして後回しのまま数年が過ぎ、株を誰かに譲るときや、銀行から提出を求められたときに、初めて存在しないことに気づきます。
書くのは4項目。増やすのは自由
会社法121条が求める記載事項は、次の4つです。
・株主の氏名または名称、および住所 ・その株主が持つ株式の数(種類株式を発行している会社は、種類と種類ごとの数) ・その株主が株式を取得した日 ・株券を発行している会社の場合は、その株式に係る株券の番号
法律が求めているのはこれだけです。凝った様式は必要ありません。ExcelでもGoogleスプレッドシートでも、この4項目が株主ごとに並んでいれば会社法上の株主名簿として成り立ちます。電磁的記録での作成も条文が明示的に認めています。
注目したいのは3つめの「取得した日」です。株主リストにはこの項目がありません。逆に株主リストにある「議決権数」と「議決権数の割合」は、株主名簿の法定記載事項ではありません。この非対称が、2つの書類を取り違える原因になっています。取得日を書かせるのは、誰がいつから株主だったのかを会社が把握しておくためです。相続や事業承継の場面で、この日付が意味を持ちます。
4項目は最低ラインなので、実務では情報を足すのが普通です。株式を取得した理由(設立時の出資、募集株式の発行、譲渡による取得、相続など)、取得と喪失の履歴、株主の連絡先、質権の設定の有無といった欄を作っておくと、後から経緯を追えます。実際に司法書士事務所が公開している記載例でも、株主の住所氏名と所有株式数を上に置き、その下に取得株式数と喪失株式数、取得または喪失の年月日、受付年月日、備考を並べる形が示されています。
(株 主) 住 所 東京都港区新橋1-7-10 氏 名 汐留太郎 所有株式数 100万株 出典: shiodome.co.jp
なお、株式に信託が設定されている場合は、その株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載しないと、会社その他の第三者に対抗できません(会社法154条の2)。持株会や信託を使った承継を考えている会社は、この記載も忘れないでください。
いつ作るのか、誰が作るのか
会社法は「設立から何日以内に作れ」という期限を書いていません。ただし、作るべき時期は別の条文から読み取れます。会社法132条1項は、会社が株式を発行した場合、その株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載しなければならないと定めています。設立時には必ず株式を発行するので、設立の時点で記載義務が発生していることになります。
つまり実務上の答えは「設立登記が終わったらすぐ」です。定款と払込証明書を用意した流れのまま作ってしまうのが最も楽で、時間が空くほど誰が何株出したかの記憶が薄れ、作るのが難しくなります。
作るのは誰か。条文の主語は会社なので、会社の業務執行として、代表取締役が作成するのが原則です。株主本人の署名や押印は必要ありません。税理士や司法書士に作成を依頼することもできますが、その場合でも義務の主体は会社のままです。
会社に代わって株主名簿の作成や備え置き、名義書換などの事務を専門業者に任せる制度もあります。会社法123条の株主名簿管理人です。定款に株主名簿管理人を置く旨を定めたうえで委託します。信託銀行や証券代行会社が担うのが一般的で、株主が数百人規模になり、名義書換の請求が日常的に届くような会社向けの仕組みです。株主が数人の会社では、置くメリットはほとんどありません。ちなみに株主名簿管理人を置いた場合は、その氏名または名称と住所、営業所が登記事項になります。
そして、株式を発行した後も記録は動きます。会社法132条は、株式を発行したとき、自社の株式を取得したとき、自己株式を処分したときに会社の側から記載することを求め、株式の併合や分割をしたときも同様としています。会社の都合で株式が動いたときは、株主から請求がなくても会社が自分で書き換えるということです。
名義書換の請求が来たときの扱い
一方、株主どうしで株式が動いたときは扱いが変わります。会社法133条1項は、株式を会社以外の者から取得した人は、会社に対して株主名簿への記載を請求できると定めています。これがいわゆる名義書換の請求です。
重要なのは同条2項です。この請求は、原則として、その株式の株主として株主名簿に記載されている人、つまり譲渡した側と共同で行わなければなりません。買った側が1人で窓口に来て、買ったので書き換えてほしいと申し出ても、原則としては通りません。売った側と買った側が揃って請求することで、なりすましによる勝手な書き換えを防ぐ設計です。
ただし譲渡制限株式については別の扱いがあります。会社法134条により、譲渡制限株式の取得では133条の請求が原則として使えず、会社の承認を受けている場合や、相続その他の一般承継で取得した場合などに限って請求できます。中小企業の株式はほぼすべて譲渡制限が付いているので、実際には「まず会社の承認を取る、承認が出てから名簿を書き換える」という順番になります。
ここを飛ばして、当事者同士で株の売買契約を結んで代金まで払ったのに、会社の承認も名義書換もしていない、という状態が現場ではよく起きます。契約としては有効でも、会社に対しては株主として扱ってもらえません。順番を守るだけで避けられるトラブルです。
作らないと困る場面1: 株式を譲渡したとき
罰則の前に、実務でどう困るかを見ておきます。会社法130条1項はこう定めています。株式の譲渡は、取得した人の氏名または名称および住所を株主名簿に記載しなければ、会社その他の第三者に対抗できない、と。
対抗できないとは、「自分が株主だと主張しても通らない」ということです。株を買って代金を払っても、名簿に載っていなければ、会社は前の持ち主を株主として扱えます。総会の招集通知は前の持ち主に届き、配当も前の持ち主に支払われます。買った側は会社に対して何も言えません。
そもそも株主名簿が存在しない会社では、記載のしようがありません。つまり、誰も会社に対して株主であることを証明できない状態になります。創業から数年たって外部から出資を受けよう、あるいは会社を売却しようという段になって、投資家や買い手が最初に求めるのが株主名簿です。ここが空白だと、株主構成を確認する作業そのものが止まります。金額の交渉に入る前の段階で立ち止まるので、損失としては相当に大きいものです。
作らないと困る場面2: 総会の招集と通知
会社法126条1項は、会社が株主にする通知や催告は、株主名簿に記載した住所にあてて発すれば足りる、と定めています。そして2項で、その通知は通常到達すべきだった時に到達したものとみなされます。
これは会社にとって守りの規定です。株主が引っ越したのに会社へ知らせていない場合でも、名簿の住所に出しておけば会社は責任を問われません。裏を返せば、名簿がなければこの保護を受けられません。株主総会の招集通知が届いていないという主張が後から出てきたとき、会社の側に「名簿の住所に出しました」と言える根拠がなくなります。招集手続きに瑕疵があると、決議そのものが取り消される余地が生まれます。
関連して、基準日の仕組みも押さえておくとよいでしょう。会社法124条は、一定の日を基準日と定めて、その日に株主名簿に記載されている株主を権利行使できる者とすることができるとしています。基準日株主が行使できる権利は基準日から3か月以内に行使するものに限られ、基準日を定めたときは原則としてその2週間前までに公告が必要です(定款に定めがあれば公告は不要)。この仕組みも、基準となる株主名簿があって初めて動きます。
作らないと困る場面3: 登記の添付書類
三つめが登記です。役員を変更した、商号を変えた、本店を移した。こうした登記を株主総会の決議にもとづいて申請するとき、法務局には株主リストを添えます。平成28年(2016年)10月1日以降の申請から、商業登記規則61条2項と3項にもとづいて求められるようになりました。
平成28年10月1日以降の株式会社・投資法人・特定目的会社の登記の申請に当たっては,添付書面として,「株主リスト」が必要となる場合があります(商業登記規則61条2項・3項,投資法人登記規則3条,特定目的会社登記規則3条)。 出典: moj.go.jp
株主リストには、議決権数の上位10名、または議決権割合が3分の2に達するまでの株主のうち人数の少ないほうについて、氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数の割合を書き、代表者が証明します。この元データになるのが株主名簿です。名簿がなければ、記憶と通帳の入金記録から株主構成を復元することになります。
そして法務省は、株主名簿を登記申請書に添付しても株主リストの代わりにはならないと明示しています。記載内容が違うからです。株主名簿を作れば登記の書類が要らなくなるわけでも、逆に株主リストを作れば名簿を作ったことになるわけでもありません。両方が必要です。
備え置きと閲覧請求
作るだけでは終わりません。会社法125条1項は、株主名簿を本店に備え置かなければならないと定めています。株主名簿管理人を置いている場合は、その営業所です。「備え置く」とは、請求があったときにすぐ見せられる状態で置いておく、という意味です。税理士事務所に預けっぱなしで本店にない、という状態は条文の求めるところから外れます。
同条2項により、株主と債権者は、会社の営業時間内であればいつでも、請求の理由を明らかにしたうえで、株主名簿の閲覧や写しの請求ができます。電磁的記録で作っている場合は、それを表示したものの閲覧や写しの請求になります。
会社はこの請求を原則として拒めません。拒める場合は3項に限定列挙されていて、権利の確保や行使に関する調査以外の目的で請求してきたとき、会社の業務を妨げたり株主の共同の利益を害する目的があるとき、閲覧で知った事実を利益を得て第三者に通報するための請求であるとき、過去2年以内に実際にそうした通報をしたことがあるとき、の4つです。理由がこれに当てはまらないのに拒否すると、それ自体が過料の対象になりえます。
小さな会社では、同族の株主から突然「名簿を見せてほしい」と言われる場面が実際に起こります。関係がこじれた後で慌てて作ると、内容が現実と食い違い、かえって争いの材料になります。平時に整えておくのが結局いちばん安くつきます。
罰則は会社ではなく役員個人にかかる
ここで罰則です。会社法976条は、取締役や監査役、清算人、株主名簿管理人などを名指しして、一定の行為があったときに100万円以下の過料に処すると定めています。関係するのは主に次の2つです。
・7号。定款、株主名簿、議事録、会計帳簿などに記載すべき事項を記載せず、または虚偽の記載をしたとき ・8号。会社法125条1項などの規定に違反して、書類の備え置きを怠ったとき
つまり、作らないことも、嘘を書くことも、作ったのに本店に置かないことも、それぞれ対象になります。そして処されるのは会社ではなく、取締役をはじめとする個人です。役員が自分1人の会社なら、その1人が負うことになります。
過料は刑罰ではないので前科にはなりませんが、裁判所から通知が届けば支払わなければなりません。もっとも、実際に科されるかどうかは事案によります。登記を怠った場合の過料はよく知られていますが、株主名簿は外から見えないため、発覚の経路が限られるのも事実です。とはいえ、裁判で株主の地位が争われたとき、閲覧請求を拒んだとき、監督官庁の調査が入ったときなど、表に出る場面はあります。発覚しにくいことを理由に作らない、という判断は、割に合いません。
自分1人しか役員がいない場合でも必要であり、万が一、株主名簿の作成や保管を怠ったことが発覚すると、100万円以下の過料が課せられることがあります。 出典: kawamura-tax.jp
なお、過料の金額や、どんな場合に実際に科されるかは、個別の事情で変わります。自社の状況が気になる場合は、司法書士や弁護士に具体的に確認してください。条文の全文はe-Gov法令検索の会社法で誰でも読めます。
いまから作る手順
存在しないことに気づいた場合、やることは難しくありません。順に進めます。
第1に、定款と登記事項証明書を見て、発行済株式の総数と資本金の額を確認します。第2に、設立時の出資者と出資額を、定款の発起人の記載や払込証明書、設立時の通帳の入金記録から拾います。第3に、設立後に増資や株式の譲渡があったなら、その都度の株主総会議事録、募集株式の発行に関する書類、譲渡承認の記録、売買契約書を時系列に並べます。第4に、これらをもとに、現在の株主ごとに氏名と住所、株式数、取得した日を書き出します。第5に、作った名簿を本店に備え置きます。
資料が揃わない場合もあります。設立から時間が経っていて譲渡の記録が曖昧なら、現時点の株主全員に内容を確認し、書面で合意を取っておくのが安全です。曖昧なまま数字だけ作ると、後で株主から異議が出たときに拠りどころがなくなります。ここは費用をかけてでも司法書士に相談する価値がある場面です。
更新のタイミングも決めておきます。株式を新たに発行したとき、自己株式を取得または処分したとき、株式を併合または分割したとき、株主から名義書換の請求があったとき、株主が引っ越して住所の変更を知らせてきたとき、株主が亡くなって相続が確定したとき。この6つが起きたら手を入れる、と社内で決めておけば、放置されにくくなります。決算の作業に合わせて年1回見直す運用にしている会社もあります。
株主名簿、登記簿、税務署の別表はどれも別物
会社の株主に関係する書類は複数あり、どれを見れば株主構成が分かるのかが混乱の元になります。3つを並べて整理します。
1つめが株主名簿です。会社が自分で作り、本店に備え置く帳簿で、外部には公開されません。株主の氏名と住所、持株数、取得した日が書かれています。株主構成の一次資料はこれです。
2つめが登記簿、つまり登記事項証明書です。誰でも手数料を払えば取得できますが、ここに株主の名前は載りません。載るのは商号、本店、目的、資本金の額、発行可能株式総数、発行済株式の総数、役員の氏名などです。発行済株式の総数は分かっても、それを誰が持っているかは分かりません。取引先の株主構成を調べようとして登記簿を取り、何も書かれていないことに驚く人がいますが、もともと登記事項ではないのです。
3つめが、法人税の確定申告書に添付する「同族会社等の判定に関する明細書」、いわゆる別表二です。この会社が同族会社に当たるかどうかを判定するための書類で、上位の株主とその持株数を書く欄があります。税務署に毎年提出しているので、実質的に株主構成の記録として機能しています。
面白いのは、この別表二が登記の場面で使えることです。法務省は、一定の条件を満たす場合に、別表二を添付する形式の株主リストを認めています。書式例2-1として、記載例とともに配布されています。株主構成が動いていない会社なら、毎年作っている書類をそのまま流用できるので手間が減ります。ただし使える条件が決まっているので、法務省のフローチャートで確認してから使ってください。
いずれにしても、別表二は税務のための書類であって、会社法が求める株主名簿の代わりにはなりません。記載事項が違いますし、本店に備え置いて株主の閲覧に供するという役割も果たしていません。別表二を作っているから名簿は要らない、という整理は成り立たないということです。
相続が起きたときに何をするか
株主名簿の更新でいちばん難しいのが、株主が亡くなったときです。中小企業の株式は譲渡制限が付いているのが通常ですが、相続のような一般承継による取得には、会社の承認は要りません。相続が起きた時点で、株式は相続人に移っています。
とはいえ、遺産分割が終わるまでは、株式は相続人全員の共有になります。共有状態の株式について権利を行使するには、権利を行使する者を1人決めて会社に通知しなければなりません。会社からの通知や催告についても、会社法126条3項が同じ仕組みを置いていて、共有者は受領する者を1人決めて会社に知らせることになっています。この通知がない場合、会社は共有者のうち1人に通知すれば足ります。
名簿の書き換えは、遺産分割が確定してから、誰が何株を取得したのかが決まった時点で行うのが基本です。確定前に相続人の1人を勝手に株主として記載すると、後の分割の結果と食い違う可能性があります。急ぐ気持ちは分かりますが、ここは順番を守ったほうが結果的に早く片付きます。
相続で株式が分散すると、その後の会社運営が重くなります。株主が増えるほど、総会の招集も決議も手間が増え、意見が割れれば決まるものも決まりません。中小企業で事業承継が難しいと言われる理由の大半はここにあります。そして、その分散の状況を正確に把握するための出発点が、やはり株主名簿です。承継を考え始めた会社が最初にやるべきことは、現在の株主名簿を最新の状態にすることだと言い切ってよいと思います。
年間のどこで名簿に手を入れるか
株主名簿は、思い出したときに触る書類ではありません。会社の年間の動きの中に置き場所が決まっています。3月決算の会社を例に、日付順に並べます。
3月31日。事業年度が終わります。基準日を定款で定めている会社は、この日に名簿に載っている株主が、そのあとの定時株主総会で議決権を持つ人になります。定めていない会社は、総会の時点の株主です。どちらにしても、この時点の名簿が正しいかどうかが後の手続き全部に影響します。
4月から5月。決算を固めます。このタイミングで名簿を開いて、資本金の額と発行済株式の総数が登記事項証明書と合っているか、株主の住所に変更の連絡が来ていなかったかを確かめます。決算の作業と一緒にやると、忘れません。
6月下旬。定時株主総会を開きます。招集の通知は、公開会社でない会社なら総会の日の1週間前までに発すれば足ります。取締役会を置いていない会社は、定款でこれより短い期間を定めることもできます。通知の宛先は名簿に記載した住所です。ここで名簿が古いと、届かない通知が出ます。
総会から2週間以内。役員を選び直したなら、登記を申請します。添付する株主リストの元データが株主名簿です。名簿を更新していれば、この作業は数分で終わります。
増資や株式の譲渡があった月。その都度書き換えます。年1回の見直しに回さず、起きた月に手を入れるのが確実です。会社の側の都合で株式が動いたときは、株主から請求がなくても会社が書き換える義務があります。
合同会社には株主名簿がない。代わりに何を持つか
法人成りの相談では、株式会社と合同会社のどちらにするかを迷う人が多いので、合同会社側の扱いも並べておきます。
合同会社に株主はいません。出資した人は社員と呼ばれます。ここでいう社員は従業員ではなく、出資して会社の持ち主になっている人のことです。そして合同会社には、株主名簿に当たる帳簿を作れという条文がありません。
代わりに、定款がその役割を担います。会社法576条1項は、持分会社の定款に社員の氏名または名称および住所、社員の出資の目的およびその価額を記載しなければならないと定めています。誰がいくら出したかは、名簿ではなく定款そのものに書いてあるという構造です。
この構造から、3つの違いが出ます。
社員が増えるときは、定款の変更が必要です。会社法604条2項は、社員の加入は当該社員に係る定款の変更をした時に効力を生ずるとしています。合同会社の場合は、定款を変更した時点で出資の払込みが済んでいなければ、払込みを完了した時に社員になります。
持分を譲るときの縛りが重いです。会社法585条1項は、社員は他の社員の全員の承諾がなければ持分を譲渡できないとしています。株式会社の譲渡制限株式でも会社の承認で済むところを、合同会社では全員の承諾です。ただし定款で別の定めを置くことは認められています。
登記簿に出る名前が限られます。合同会社の登記事項は、業務を執行する社員の氏名または名称と、会社を代表する社員の氏名または名称および住所です。出資した人全員の名前が登記簿に並ぶわけではありません。
やめるときにも残るものがあります。会社法612条は、退社した社員はその登記をする前に生じた会社の債務について従前の責任の範囲内で弁済する責任を負い、この責任は登記後2年以内に請求または請求の予告がなければ2年を経過した時に消滅するとしています。
結局のところ、合同会社で株主名簿に相当するのは「最新版の定款」です。社員の出入りを口約束で済ませて定款を直していないと、誰が社員なのかを示す書面が会社に存在しない状態になります。株式会社で名簿を放置するのと同じ問題が、別の場所で起きるということです。
いくらかかるか、何時間かかるか
株主名簿を作ること自体には費用がかかりません。様式の定めがないので、手元の表計算ソフトで足ります。収入印紙も、届出先も、手数料もありません。
実費が出るのは、資料の取り寄せだけです。登記事項証明書は、窓口や郵送で請求すると1通600円、オンラインで請求して窓口で受け取ると490円、郵送してもらうと520円です。これは登記手数料令が定めた額で、全国同じです。
作業時間の目安は、会社の履歴の長さで決まります。設立から数年で株主構成が動いていない会社なら、定款と払込証明書と設立時の通帳を並べて2時間から3時間で終わります。増資や譲渡を何度も経ている会社は、その都度の議事録と契約書を時系列に並べる作業が入るので、半日から1日を見ておくと安全です。
司法書士に頼む場合の報酬は事務所ごとに決まるので一律ではありません。頼む価値が高いのは、譲渡の記録が欠けている場合と、株主のあいだで話が合っていない場合です。数字を先に作ってしまうと、後から異議が出たときに拠りどころがなくなります。
勘違いしやすい5つ
現場でよく見る取り違えを、順に並べます。
株券を発行していないから要らない、という思い込み。会社法121条の4項目のうち、株券の番号だけが株券発行会社に限った項目です。残る3項目は、株券を出していない会社にもそのままかかります。
法人税の確定申告書に付ける別表二があるから足りている、という整理。別表二は同族会社かどうかを判定するための税務の書類で、本店に備え置いて株主の閲覧に応じる役割を持っていません。代わりにはなりません。
株主リストを作ったから名簿も作ったことになる、という誤解。株主リストには取得した日がなく、株主名簿には議決権数と議決権数の割合がありません。記載事項が違うので、どちらか一方で両方を兼ねることはできません。
株主の署名か押印が要る、という思い込み。株主名簿は会社が作って備え置く帳簿です。株主本人の署名も押印も条文は求めていません。会社の代表者印を押すことも義務ではありません。
税理士事務所に預けてあるから大丈夫、という状態。会社法125条1項が求めているのは本店に備え置くことです。データで作っているなら、本店のパソコンからすぐ表示して印刷できる状態にしておけば足ります。
会社の事務を軽く保つという視点
20年この市場を見てきた立場から言えば、法人化した働き手がつまずくのは、難しい判断ではなく、こうした地味な書類の積み残しです。株主名簿、議事録、契約書。どれも作るのに専門知識が要るわけではないのに、一度後回しにすると、いつ作ったらいいのか分からなくなって数年が過ぎます。
そして長く続く人ほど、この種の事務を自分の時間から切り離すのが早い傾向があります。すべてを自力でやる前提を捨てて、作れる人に直接頼む。中間のマージンが乗らない直接の取引であれば、同じ予算で依頼する側はより多く頼めますし、受ける側の手取りは厚くなります。事務を外に出すことが贅沢ではなくなる、というのがこの構造の効き方です。
書類を整える仕事は、実際に需要として存在し続けています。規程や報告書を読みやすい形に整える仕事の相場感は著述家,記者,編集者の年収・単価相場にまとまっていますし、その土台として評価されやすいのがビジネス文書検定です。文書の体裁と敬語の使い分けを体系的に問う試験で、事務代行や編集の案件で精度を求められる場面に効きます。会計の数字まわりを外に出したい場合の相場観は会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】が参考になります。
事業そのものを広げる方向では、業務の進め方をAIで組み替える支援が独立した職種として定着しつつあり、AIコンサル・業務活用支援のお仕事にその案件像が整理されています。セキュリティやマーケティングを含む領域はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事、開発側に寄せるならアプリケーション開発のお仕事とソフトウェア作成者の年収・単価相場を突き合わせると、単価の現実的な水準がつかめます。
法人になると、契約の当事者が個人から会社に変わります。個人のときは曖昧なまま通っていた条件が、会社同士の取引では通らなくなることもあります。発注書と契約書で最低限どこを押さえるかはフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに、報酬が止まったときの動き方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】にまとまっています。株主名簿は会社の内側を記録する帳簿で、契約書は外との関係を記録する書類です。どちらも「誰との間に、いつ、何が成立したのか」を残すという点で同じ役割を持っています。会社を続けるというのは、この記録を切らさないことだと言い換えてもいいくらいです。
よくある質問
Q. 株主が社長1人だけでも株主名簿は必要ですか?
必要です。会社法121条は「株式会社は」と定めており、株主数や規模による例外を設けていません。株主が1人なら記載する行も1行で済みますが、作成と本店への備え置きの義務は同じようにかかります。作っていないことが発覚すると、取締役個人が100万円以下の過料の対象になりえます。
Q. 株主名簿には決まった様式がありますか?
法律上の決まった様式はありません。会社法121条が求めるのは、株主の氏名または名称と住所、持株数、取得した日、株券発行会社なら株券の番号の4項目です。これが株主ごとに並んでいれば、ExcelやGoogleスプレッドシートで作っても有効です。電磁的記録での作成も条文が認めています。
Q. 株主名簿を作れば登記の株主リストは不要になりますか?
なりません。株主名簿には議決権数や議決権数の割合がなく、記載内容が異なるためです。法務省も、株主名簿を申請書に添付しても株主リストの添付は不要にならないと明示しています。株主名簿を元データにして、登記のたびに株主リストを別途作成してください。
Q. 株主から名簿を見せてほしいと言われたら拒めますか?
原則として拒めません。会社法125条2項により、株主と債権者は営業時間内であれば理由を明らかにして閲覧や写しを請求でき、会社は同条3項に列挙された場合を除いて拒めません。正当な理由なく拒むと、それ自体が過料の対象になりえます。日頃から内容を最新にしておくのが確実な備えです。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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