代表取締役を決めた議事録|取締役会のある会社とない会社の違い

前田 壮一
前田 壮一
代表取締役を決めた議事録|取締役会のある会社とない会社の違い

この記事のポイント

  • ✓代表取締役選任の株主総会議事録を作る前に
  • ✓自社がどの選定方法に当たるかを確かめる必要があります
  • ✓取締役会の有無で変わる選定の3パターン

代表取締役選任の株主総会議事録を検索して出てくるひな形は、そのままでは使えないことがある。理由は単純で、代表取締役をどうやって決めるかが会社によって違うからだ。結論を先に書く。取締役会を置いている会社では、代表取締役を選ぶのは原則として取締役会であり、株主総会の議事録ではなく取締役会の議事録を作ることになる。取締役会を置いていない会社では、定款で決める、取締役どうしの互選で決める、株主総会で決めるの3通りがあり、どれを選んだかで添付書類が変わる。この記事では、まず自社がどの型に当たるかを見分けたうえで、議事録の書き方と一緒に必要な書類を整理する。

代表取締役の決め方は、会社の作りで変わる

会社法は、取締役は株式会社を代表すると定め、ただし他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合はこの限りでない、としている。さらに、その取締役が2人以上いる場合には、取締役は各自、株式会社を代表するとも書いている。

つまり出発点はこうだ。代表取締役を特に決めなければ、取締役が全員そのまま会社を代表する。これを実務では各自代表と呼ぶ。取締役が1人だけの会社は、自動的にこの形になる。

そのうえで、取締役会を置いていない会社については別の条文がある。株式会社、取締役会設置会社を除く、は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選または株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる。

ここに3つの方法が並んでいる。

・定款で直接定める ・定款に「取締役の互選で代表取締役を定める」と書いておき、取締役どうしで決める ・株主総会の決議で定める

一方、取締役会を置いている会社では扱いが違う。取締役会は、取締役会設置会社の業務執行の決定、取締役の職務の執行の監督、そして代表取締役の選定および解職を職務とする。さらに、取締役会は取締役の中から代表取締役を選定しなければならないと定められている。

言い換えると、取締役会設置会社では代表取締役を置かないという選択肢がない。そして選ぶのは取締役会だ。この場合に作るのは取締役会議事録であって、株主総会議事録ではない。

自社が取締役会設置会社かどうかは、登記事項証明書を見れば分かる。取締役会を置いている会社には「取締役会設置会社に関する事項」という欄があり、そこに記録がある。定款を探すより早い。議事録を書き始める前に、まずこの1点を確定させたい。

株主総会で代表取締役を選ぶのはどんなときか

検索で「代表取締役選任株主総会議事録」を探している人は、おおむね次の3つのどれかに当たる。

1つ目。取締役会を置いていない会社で、定款に「代表取締役は株主総会の決議によって定める」と書いてある。この場合は株主総会議事録を作る。もっとも素直な形だ。

2つ目。取締役会を置いていない会社で、定款に代表取締役の定め方が何も書かれていない。この場合も株主総会の決議で定めることができる。条文が3つの方法を並列で認めているからだ。ただし定款に互選の定めがあるなら、そちらを使うほうが手続としては軽い。

3つ目。取締役会を置いている会社なのに、株主総会で代表取締役を決めたい。これは定款にその旨の定めがある場合に限られると解されている。法務局が公開している添付書面一覧でも、取締役会設置会社が株主総会で代表取締役を選定する場合の添付書面として、株主総会議事録とあわせて定款が挙げられている。定款の定めがないのに株主総会で選んだ場合の扱いは事案によって変わるので、管轄の法務局か司法書士に確認したほうが確実だ。

もう1つ、見落とされがちな場面がある。取締役の任期満了で全員が改選されるときだ。代表取締役の地位は取締役であることを前提にしているので、取締役の任期が満了すれば代表取締役の地位も一度失われる。同じ人が続けて代表を務める場合でも、取締役の選任と代表取締役の選定を両方やり直す必要がある。議案が1つで済むと思って総会を開くと、あとから議事録を作り直すことになる。

株主総会で選定した場合の議事録ひな形

取締役の選任と代表取締役の選定を同じ総会で行う形が実務では多い。その骨組みを示す。

臨時株主総会議事録

1 日時   令和〇年〇月〇日 午前10時00分から午前10時40分まで
2 場所   当会社本店会議室
         (東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号)
3 出席者
   発行済株式の総数                    1,000株
   議決権を行使することができる株主の数        3名
   総株主の議決権の数                   1,000個
   出席株主の数(委任状による者を含む)        3名
   出席株主の議決権の数                 1,000個
4 出席役員 取締役 〇〇 〇〇
           取締役 △△ △△
           取締役 □□ □□
5 議長    取締役 〇〇 〇〇

議長は、上記のとおり定足数を満たしている旨を述べ、
本総会の開会を宣し、議事に入った。

第1号議案 取締役3名選任の件

議長は、取締役全員が本総会終結の時をもって任期満了と
なるため、改めて取締役3名を選任したい旨を述べ、その
可否を議場に諮ったところ、出席株主の議決権の全員一致
をもって次のとおり承認可決した。

   取締役 〇〇 〇〇(再任)
   取締役 △△ △△(再任)
   取締役 □□ □□(新任)

なお、被選任者はいずれも席上その就任を承諾した。

第2号議案 代表取締役選定の件

議長は、前号議案により選任された取締役のうちから
代表取締役1名を選定したい旨を述べ、その可否を議場に
諮ったところ、出席株主の議決権の全員一致をもって
次のとおり承認可決した。

   代表取締役 〇〇 〇〇
   (住所 東京都〇〇区〇〇2丁目2番2号)

なお、被選定者は席上その就任を承諾した。

以上をもって本総会の全議案の審議を終了したので、
議長は午前10時40分閉会を宣した。

上記の決議を明確にするため、この議事録を作成する。

令和〇年〇月〇日
株式会社〇〇 臨時株主総会

議長 兼 議事録の作成に係る職務を行った取締役
                            〇〇 〇〇  実印
出席取締役                    △△ △△  実印
出席取締役                    □□ □□  実印

代表取締役の住所まで書いているのは、代表取締役の住所が登記事項だからだ。議事録に住所が入っていれば、登記すべき事項と突き合わせやすい。

押印を実印にしている理由は次の節で説明する。

議事録に書く6項目は、どの選定方法でも同じ

議事録の中身そのものは、会社法施行規則が定めている。これは選定方法が何であっても変わらない。

・株主総会が開催された日時および場所。その場所に存しない取締役や株主が出席した場合は、その出席の方法も含む ・株主総会の議事の経過の要領およびその結果 ・一定の規定により株主総会において述べられた意見または発言があるときは、その内容の概要 ・株主総会に出席した取締役、執行役、会計参与、監査役または会計監査人の氏名または名称 ・株主総会の議長が存するときは、議長の氏名 ・議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

このうち抜けやすいのが最後の2つになる。署名欄に名前を書いただけでは、本文の記載項目としては足りないと見られることがある。上のひな形のように「議長 兼 議事録の作成に係る職務を行った取締役」と明示しておけば両方を満たせる。

議事録の保存についても押さえておきたい。

株式会社は、株主総会の日から十年間、前項の議事録をその本店に備え置かなければならない。 株式会社は、株主総会の日から五年間、第一項の議事録の写しをその支店に備え置かなければならない。 出典: laws.e-gov.go.jp

本店で10年、支店には写しを5年。登記に出す原本は還付を受けて会社に戻しておく必要がある。

印鑑証明書が要る人は、選定方法で変わる

ここが代表取締役の登記でいちばん複雑な部分になる。商業登記規則は、代表取締役の就任による変更の登記の申請書について、次のように場合分けしている。

・株主総会または種類株主総会の決議によって代表取締役を定めた場合は、議長および出席した取締役が議事録に押印した印鑑 ・取締役の互選によって代表取締役を定めた場合は、取締役がその互選を証する書面に押印した印鑑 ・取締役会の決議によって代表取締役を選定した場合は、出席した取締役および監査役が取締役会の議事録に押印した印鑑

これらについて市町村長の作成した証明書、つまり個人の印鑑証明書を添付しなければならない。

ただし例外がある。その印鑑と、変更前の代表取締役で取締役を兼ねる者が登記所に提出している印鑑とが同一であるときは不要だ。前の代表者が会社実印を持っていて、その会社実印を議事録に押しているなら、議長や出席取締役の個人印鑑証明書は要らなくなる。同じ人が代表を続けるケースでは、この例外に当てはまることが多い。

法務局が公開している添付書面一覧は、この関係を1枚の表にまとめている。取締役A、B、Cを定時株主総会で選任し、それぞれの方法で代表取締役Aを定めた場合を想定した表だ。要点を整理すると次のようになる。

選定方法 選定に関する書面 その書面に押印した者の印鑑証明書
各自代表(代表取締役を定めない) なし 株主総会議事録の議長および出席取締役
定款で定める 株主総会議事録 議長および出席取締役
株主総会で定める 株主総会議事録 議長および出席取締役
取締役の互選で定める 定款および取締役の互選書 互選した取締役
取締役会で選定する 取締役会議事録 出席取締役および監査役
取締役会設置会社が株主総会で選定する 定款および株主総会議事録 議長および出席取締役

いずれの場合も、変更前の代表取締役の登記所届出印が押印されているときは印鑑証明書が不要になる点は共通している。

就任承諾書はどこまで要るのか

添付書類はもう1種類ある。就任承諾書だ。ここも選定方法で扱いが分かれる。

取締役A、B、Cの就任承諾書は、どの型でも必要になる。株主総会が選んだだけでは就任せず、本人の承諾が要るからだ。

その就任承諾書に印鑑証明書を付けるかどうかが分かれ目になる。商業登記規則は、取締役の就任、再任を除く、による変更の登記の申請書に添付すべき就任承諾書に押印した印鑑について市町村長の作成した証明書を添付しなければならないとし、取締役会設置会社ではこれを「代表取締役又は代表執行役」と読み替えると定めている。

結果として次のようになる。

・取締役会を置いていない会社では、取締役全員の就任承諾書に実印を押し、全員分の印鑑証明書を付ける ・取締役会を置いている会社では、平の取締役の就任承諾書に印鑑証明書は要らず、代表取締役の就任承諾書にだけ実印と印鑑証明書が要る

代表取締役自身の就任承諾書については、法務局の添付書面一覧では次の整理になっている。取締役の互選で選定した場合、取締役会で選定した場合、取締役会設置会社が株主総会で選定した場合には必要とされ、取締役会を置いていない会社が定款または株主総会で定めた場合には不要とされている。

この扱いは、その会社の定款の書きぶりによって判断が変わることがある。書類が1枚足りないだけで補正の連絡が来て数日失うので、申請前に管轄の法務局へ確認しておくのが結局は早い。

なお、印鑑証明書を添付しない人については、別の書類が必要になる。法務局の添付書面一覧には、印鑑証明書が添付書面とならない者については、再任の場合を除き、本人確認証明書が必要となると注記されている。住民票の写しや、運転免許証の写しに本人が原本と相違ない旨を記して署名したものなどが該当する。

また同じ注記で、設立の登記についてはこの表とは異なるとも書かれている。会社を作るときの書類と、あとから役員を変えるときの書類は別物だ。

取締役会で選定する場合は、議事録のルールが1段厳しい

自社が取締役会設置会社だった場合、作るのは取締役会議事録になる。こちらは株主総会議事録と扱いが違う点が2つある。

1つ目は署名押印の義務だ。会社法は、取締役会の議事については法務省令で定めるところにより議事録を作成し、議事録が書面で作成されているときは、出席した取締役および監査役はこれに署名し、または記名押印しなければならないと定めている。株主総会議事録には会社法上の押印義務の定めがないのに対し、取締役会議事録には明文で義務がある。電磁的記録で作る場合は、法務省令で定める署名または記名押印に代わる措置をとる必要がある。

2つ目は決議への関与の扱いだ。取締役会の決議に参加した取締役であって議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定される。黙って座っていた取締役も賛成したことになる、という推定が働く。反対したなら議事録にその旨を残す必要がある。

決議要件は、議決に加わることができる取締役の過半数、定款でこれを上回る割合を定めた場合はその割合以上が出席し、その過半数をもって行う。株主総会と違って議決権の数ではなく人数で数える。また、その決議について特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができない。代表取締役を解職する決議では、解職される本人が特別利害関係人に当たると解されており、その人を除いた取締役で決議することになる。

保存期間は、取締役会設置会社は取締役会の日から10年間、議事録等を本店に備え置かなければならないとされている。株主総会議事録と同じ10年だが、閲覧できる人の範囲が違う。監査役設置会社、監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社では、株主が閲覧や謄写を請求するには裁判所の許可が要る。

合同会社で代表社員を決めるときは、選べる方法が2つになる

株式会社ではなく合同会社の場合、代表を決める方法が株式会社より少ない。会社法は持分会社について次のように定めている。

業務を執行する社員は、持分会社を代表する。ただし、他に持分会社を代表する社員その他持分会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。 2 前項本文の業務を執行する社員が二人以上ある場合には、業務を執行する社員は、各自、持分会社を代表する。 3 持分会社は、定款又は定款の定めに基づく社員の互選によって、業務を執行する社員の中から持分会社を代表する社員を定めることができる。 出典: laws.e-gov.go.jp

株式会社にあった「株主総会の決議で定める」という方法が、ここには並んでいない。合同会社には株主総会という会議体がないためだ。したがって、代表社員を決める方法は、定款で直接定めるか、定款に互選の定めを置いて社員どうしで決めるかの2通りになる。

この違いは作る書類に直結する。定款で定める場合は、総社員の同意で定款を変更したことを示す書面が根拠になる。互選で決める場合は、定款と互選書の2点が根拠になる。株主総会議事録という書類は、そもそも出てこない。ひな形を探すときに株主総会議事録という語で検索すると合わない書式が出てくるので、総社員の同意書または互選書という語で探したい。

もう1つの違いは、業務を執行する社員そのものを定款で決める点だ。株式会社では取締役を株主総会で選ぶが、合同会社では誰が業務を執行するかを定款に書く。社員を増やす、業務を執行する社員を替えるといった変更は、そのたびに定款の変更を伴う。代表社員だけを差し替えるつもりでも定款の条文が2か所以上動くことがあるので、変更前と変更後の条文を並べて確認してから書面を作るほうが安全だ。

なお、代表社員が法人である場合は、その法人が職務を行う人を決めて、その人の氏名も登記する。個人事業から法人を重ねて作っている場合に出てくる形で、株式会社にはない仕組みだ。

肩書と代表権は別のものになる

代表取締役を選ぶ話を進めていると、社長という呼び方との関係が気になってくる。会社法に社長という言葉は出てこない。社長、副社長、専務、常務はいずれも社内の呼び名であって、登記される地位ではない。登記されるのは代表取締役という地位と、その人の氏名と住所だ。

とはいえ、呼び名を自由に付けてよいわけではない。会社法には、代表取締役以外の取締役に社長や副社長といった、会社を代表する権限があると見える名称を付けた場合について、その取締役がした行為について会社が責任を負うという定めがある。条文の見出しは表見代表取締役で、名刺の肩書を信じた相手を守るための仕組みだ。

代表権のない取締役に社長という名刺を持たせると、その人が結んだ契約について会社が責任を負うことになる。相手がその人に代表権がないことを知らなかった場合に限られるが、名刺と登記がずれている会社では十分に起こりうる。代表取締役を交代させたあと、前の代表者が社長の名刺を使い続けているといった場面が典型だ。

議事録を作るときは、この区別を文面に持ち込まないほうがよい。議案の表題は「代表取締役選定の件」であって「社長選任の件」ではない。社内の呼称を同時に決めたいなら、代表取締役の選定とは別の議案として立て、登記に出す議事録からは代表取締役の選定だけが読み取れる形にしておく。登記の窓口が見るのは、会社法上の地位が誰に移ったかという1点だ。

代表を交代させたときに、名刺、社内の掲示、ウェブサイトの会社概要、請求書の署名欄をあわせて直しておくのも、この条文があるからだ。書類の話ではなく、責任の範囲の話として扱いたい。

株主リストと、登記の期限と費用

株主総会の決議で代表取締役を定めた場合、株主リストも添付書類になる。

株主リストの添付は,次の2つの場合に必要となります。 登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合 登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合 出典: moj.go.jp

書く範囲は、議決権数の上位10名の株主か、議決権割合が3分の2に達するまでの株主か、いずれか少ない方。氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数割合の5点を書いて代表者が証明する。総会を欠席した株主も含める点は間違えやすい。

取締役会で代表取締役を選定した場合でも、同じ総会で取締役を選任しているなら、その取締役選任について株主リストが要る。取締役会議事録だけで完結する話ではない。

登記の期限は、法務局が、株式会社の役員変更登記の場合は登記の事由が発生した時から本店の所在地において2週間以内にしなければならないと案内している。期間内に登記を怠り、その後に申請する場合でも、そのことだけで申請が却下されることはないが、代表者に対して裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があるとしている。

登録免許税は、登録免許税法の別表により、取締役や代表取締役に関する事項の変更登記が1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円とされている。取締役の選任と代表取締役の選定を同じ申請で行っても、役員変更として1件の扱いになる。収入印紙で納めるときは割印をしないで貼る。

代表取締役が変わると、会社の印鑑も届け出し直すことになる。法務局は印鑑届書の様式を公開しており、印鑑届書には市区町村長が作成した3か月以内の印鑑証明書等の書類を添付する必要があるとしている。代表者が交代するときは、この1枚も忘れないようにしたい。

選定の日から登記が終わるまでを、日付で並べる

書類の数が多いので、順番を日付に置き換えてみる。4月1日に代表取締役を交代させる、取締役会を置いていない会社を例にする。前の代表者は会社の実印を法務局に届けていて、協力も得られる状況とする。

3月下旬。登記事項証明書を取って取締役会の有無を確認し、定款で代表取締役の定め方を確認する。新しく代表取締役になる人の印鑑証明書を市区町村で取る。印鑑証明書は取得から3か月のものが求められるので、この時期に取っておいて困らない。

4月1日。株主総会を開いて取締役を選任し、続けて代表取締役を選定する。議事録に議長と出席取締役が記名押印する。前の代表者が法務局に届け出ている会社の実印を押せるなら、議長と出席取締役の個人の印鑑証明書は要らなくなる。同じ日付で就任承諾書をもらう。

4月2日から3日。株主リストを作る。議決権の上位10名か、割合を足して3分の2に達するまでの株主か、少ないほうを並べる。欠席した株主も含める点に注意する。

4月4日。申請書を作り、登録免許税の分の収入印紙を貼る。印鑑届書も一緒に用意する。窓口、郵送、オンラインのいずれかで法務局へ出す。

4月中旬。登記が完了する。完了までは法務局によって1週間から10日前後かかる。完了したら登記事項証明書と会社の印鑑証明書を取る。ここで初めて、銀行の届出印の変更や取引先への通知に進める。

登記の期限は4月15日だ。上の流れなら余裕があるが、印鑑証明書を取りに行く日が取れないだけで数日ずれる。動き出す日をいつにするかが、実は一番効く。

実費をぜんぶ足すといくらになるか

資本金1,000万円の会社で、取締役の選任と代表取締役の選定を1件の申請にまとめ、自分で書類を作って出す場合の支出を並べる。

・登録免許税 1万円 ・新しく代表取締役になる人の印鑑証明書(市区町村) 自治体により数百円 ・登記が終わったあとに取る登記事項証明書 書面請求で1通600円 ・会社の印鑑証明書 書面請求で1通500円

登記所で取る証明書の手数料は、法務省が登記手数料についてで一覧にしている。登記事項証明書は書面請求で600円、オンラインで請求して郵送なら520円、オンラインで請求して窓口で受け取るなら490円だ。会社の印鑑証明書は書面請求で500円、オンライン請求で郵送なら450円、窓口で受け取るなら420円になる。いずれも令和7年4月1日から適用されている金額だ。

合計すると1万2千円前後になる。ここに、遠方の法務局へ郵送する場合の郵便代や、株主が多い会社で株主リストを作る手間が乗る。

司法書士に頼む場合は、この登録免許税と実費に報酬が加わる。見積もりを取るときは、報酬だけの金額なのか、登録免許税と証明書代を含む総額なのかを分けて確認したい。同じ3万円という提示でも、中身が違えば実際の支出は倍近く変わる。

金額の差を判断するときは、社内で誰がどれだけ時間を使うかを並べて比べるとよい。定款と登記事項証明書の確認、印鑑証明書の取得、議事録と株主リストの作成、申請書の作成、窓口とのやり取りまで含めると、初めて作る会社では半日から1日ぶんの時間がかかる。2度目からは1時間程度で終わる作業なので、1回目だけ外に出して書式を手元に残すという選び方もある。

代表取締役を2人置くとき、1人に戻すとき

代表取締役は1人でなければならないという決まりはない。2人以上置くこともできる。その場合、それぞれが単独で会社を代表する権限を持つ。片方だけの判断で契約が成立するという意味なので、置くかどうかは権限の設計そのものの話になる。

かつては2人が共同でなければ代表できないという共同代表という仕組みがあったが、いまの会社法にはない。2人置けば、2人が各自代表する形にしかならない。片方の判断を縛りたいなら、社内の規程で決裁の範囲を決めるか、重要な決定を取締役会や株主総会の決議事項にするという形で対応することになる。登記簿の上で縛ることはできない。

2人目を追加する登記も、役員に関する事項の変更として扱われる。1人目の選定と同じ書類がもう1人分必要になり、追加される人の就任承諾書と、選定方法に応じた印鑑証明書が要る。同じ申請でまとめれば登録免許税は1件分だ。住所も登記されるので、2人目の住所の表記も証明書とそろえる。

逆に2人から1人に戻す場合は、代表取締役を解職するか、本人が代表取締役だけを辞任する形になる。取締役の地位は残したまま代表取締役だけを降りることもできる。どちらの形を取るかで添付する書類が変わるので、議事録には「代表取締役を解職する」または「代表取締役の辞任」のどちらなのかを言葉で確定させておきたい。ここが曖昧な議事録は、登記の窓口で必ず質問される。

取締役会を置いている会社で代表取締役を解職する場合は、解職される本人が特別の利害関係を持つ取締役に当たると解されているので、その人を除いた取締役で決議することになる。取締役が2人しかいない会社でこれをやろうとすると、決議に加われる取締役が1人になる。人数の設計と権限の設計は、あとから変えにくい部分なので、代表を増やす段階で先に考えておきたい。

20年この市場を見てきた立場からの観察

在宅ワークとフリーランスの市場を長く運営してきた立場から見ると、代表取締役の変更でつまずく会社には共通点がある。手続が難しいのではなく、手続の順番が読めていない。

代表者を替えるという判断は、たいてい急に決まる。体調、家庭の事情、事業承継。そこから総会を開いて議事録を作り、印鑑証明書を取り、印鑑を届け出し直して、銀行の手続をして、取引先に通知する。この全部が2週間の登記期限の中に収まらないことがある。

うまく回している会社を見ると、順番を紙に落としている。誰が何を取りに行き、どの書類がどの書類の前提になるか。特に印鑑証明書は取得から3か月という期限があるので、取る順番を間違えると取り直しになる。

もう1つ、書類作成そのものを外に出す会社が増えた。事務代行や書類作成を業務委託で受ける人は多く、月に数時間だけ頼む形も普通になっている。ここで効くのが取引の構造だ。仲介手数料が乗らない直接の取引なら、同じ予算で依頼側はより多くを頼めるし、受ける側の手取りは厚くなる。安く叩くという話ではなく、支払った金額のうち実際に働いた人に届く割合が変わる。手数料0%の取引が続きやすいのはここで、同じ人に継続して頼めるようになると、年に1度も出番のない書類ほど品質が安定する。

誰に頼むかを、相場と資格から逆算する

自分でやるか外に出すかは、作業時間を金額に換算すると決めやすい。

文書作成を担う職種の水準は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で職種単位に確認できる。議事録や社内規程の整備は、この領域の人が請ける仕事と重なる。自分の時間単価がこれを上回るなら、外に出したほうが採算は合う。

書式を扱う基礎力を測るなら、ビジネス文書検定が分かりやすい指標になる。社内文書の形式や構成を体系的に扱う検定で、事務代行を頼む相手を選ぶときの判断材料になる。

役員変更の手続を社内の業務フローとして組み直したい場合は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事が扱う領域に近い。数年に1度しか動かない手続ほど属人化するので、書式と手順をセットで整理してもらう価値がある。

印鑑証明書や住所といった個人情報の保管まで含めて見直すなら、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事の領域が参考になる。役員の住所は登記で公開される情報だが、印鑑証明書の原本は社内で管理する書類だ。

社内システムに承認記録を残したいなら、アプリケーション開発のお仕事の範囲になる。決裁の履歴が残っていると、何年か後に「誰がいつ決めたか」を探す手間が消える。

外注先との取り決めを書面で固める話は、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに発注書と契約書の必須項目が整理されている。社内書類を整えるときは、外との書面も同時に見直したい。

申請前に確かめる項目

最後に、代表取締役の変更で詰まりやすい点を挙げる。

自社がどの選定方法に当たるか。登記事項証明書で取締役会の有無を確認し、定款で代表取締役の定め方を確認する。この2点で添付書類がほぼ決まる。

前の代表者の会社実印を議事録に押せるか。押せるなら議長と出席取締役の個人印鑑証明書が省ける。代表者が交代する場面では、前の代表者に協力してもらえるうちに押してもらう。

印鑑証明書の日付。代表取締役の就任承諾書に付ける個人の印鑑証明書は、作成後3か月以内のものを求められるのが通常だ。

代表取締役の住所の表記。議事録、就任承諾書、印鑑証明書で番地の書き方がそろっているか。丁目の漢数字と算用数字の違いで補正になることがある。

取締役の選任も必要ではないか。任期満了なら取締役の選任からやり直す。代表取締役だけを選び直す議事録では足りない。

印鑑届書を用意したか。代表者が交代するなら会社の印鑑も届け出し直す。

登記中は証明書が出ないことを織り込んだか。法務局は、登記申請を行って手続が完了するまでの間、原則としてその会社の登記事項証明書と印鑑証明書は発行されないと案内している。銀行や取引先の手続で証明書が要る予定があるなら、申請の時期をずらす判断が要る。完了予定日は管轄法務局のホームページで確認できる。

申請書の形式を確かめたか。法務局は間違いやすい点として、申請書に本店所在地、商号、代表者の住所と氏名を書いたか、登記原因が将来の日付になっていないか、日中つながる電話番号を書いたか、申請書が2枚以上にわたるときは各ページのつづり目に契印をしたかを挙げている。訂正は二重線と押印で行い、修正液は使わない。

代表取締役の登記は、書類の数そのものは多くない。分かりにくいのは、どの書類が要るかが会社の作りで変わる点だけだ。取締役会の有無と定款の定め。この2つを先に確定させれば、あとは表のとおりに集めるだけになる。

よくある質問

Q. 取締役会がある会社でも株主総会で代表取締役を選べますか?

定款にその旨の定めがある場合に限られると解されています。法務局が公開している添付書面一覧でも、取締役会設置会社が株主総会で代表取締役を選定する場合の添付書面として、株主総会議事録とあわせて定款が挙げられています。定めがないまま総会で選んだ場合の扱いは事案によるので、管轄の法務局に確認してください。

Q. 代表取締役の議事録に実印を押す必要はありますか?

株主総会の決議で代表取締役を定めた場合、議長と出席取締役が議事録に押印した印鑑の市区町村長作成の証明書が必要になります。つまり個人の実印を押すことになります。ただし、その印鑑が変更前の代表取締役で取締役を兼ねる者の登記所届出印と同一であれば、印鑑証明書は不要です。

Q. 同じ人が代表取締役を続ける場合も議事録は必要ですか?

必要です。取締役の任期が満了すると代表取締役の地位も一度失われるため、取締役の選任と代表取締役の選定を両方やり直すことになります。ただし再任にあたるため、就任承諾書に添付する印鑑証明書や本人確認証明書は不要になります。

Q. 代表取締役の変更登記にいくらかかりますか?

登録免許税法の別表では、取締役や代表取締役に関する事項の変更登記は1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円とされています。取締役の選任と代表取締役の選定を同じ申請で行っても役員変更として1件の扱いです。このほかに印鑑証明書や住民票の取得費用がかかります。

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監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年6月4日最終更新:2026年9月19日
前田 壮一

この記事を書いた人

前田 壮一@SOHO編集部

元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身

大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。

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