役員を変えるときの手続き全体|社内でやることと法務局に出すもの

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
役員を変えるときの手続き全体|社内でやることと法務局に出すもの

この記事のポイント

  • ✓社内で決めることと法務局に出すもの
  • ✓そのあとに残る届出の3段階に分けて整理しました
  • ✓一次資料で確かめた内容だけをまとめています

役員変更手続きで最初につまずくのは、書類の書き方ではありません。「何をどの順番でやるのか」が分からないまま、いきなり申請書の記載例を読み始めてしまうところです。結論から言うと、役員変更手続きは3つの段階に分かれています。会社の中で決めること、法務局に出すこと、そして登記が終わったあとに別の窓口へ出すこと。この3つを順番どおりに進めれば、専門家に頼まなくても終わる手続きです。

ただし、ひとつだけ動かせない条件があります。それが2週間という期限です。ここを外すと、手続きそのものは受け付けてもらえるものの、別のかたちで跳ね返ってきます。この記事では、その期限の意味から、集める書類、費用、登記後に残る届出までを、順番に並べていきます。

役員変更が起きる場面は、大きく5つに分かれる

「役員変更」と一言で言っても、中身はまったく違います。何が起きたのかによって、社内で決める手続きも、法務局に出す書類も変わります。まずは自社がどれに当てはまるのかを見極めるところから始めます。

ひとつ目は就任です。これまで役員になっていなかった人が、新しく取締役や監査役になる場面です。社内の人を昇格させる場合と、外部から人を招く場合があります。

ふたつ目は退任のうち、任期が切れたことによるものです。役員には任期があり、その任期が満了すると、何もしなくても役員ではなくなります。ここで同じ人が続ける場合は「重任」と呼びます。会社の顔ぶれがまったく変わっていないのに登記が必要になるのは、この重任があるからです。実務でいちばん見落とされるのもここです。

3つ目は辞任です。役員本人が「やめます」と会社に伝える場面です。会社が決めるのではなく、本人の意思で成立します。

4つ目は解任です。会社の側から役員の地位を取り上げる場面で、株主総会の決議が必要になります。就任や辞任と比べると数は少ないものの、後々もめやすい手続きでもあります。

5つ目は死亡や、住所や氏名が変わったことによる変更です。人が入れ替わるわけではないので軽く見られがちですが、代表取締役の住所が変わったときも登記事項が変わるため、手続きの対象になります。

この5つのうち、自社に当てはまるものを先に確定させてください。ここが曖昧なまま書類を作り始めると、後で議事録の書き方から作り直しになります。たとえば「社長が代わる」という一言には、前の社長が任期満了で抜けるのか、辞任するのか、代表取締役の地位だけを降りて取締役としては残るのか、という3通りの意味があります。どれなのかで添付する書類が変わります。

2週間という期限の中身と、破ったときに起きること

役員変更手続きで唯一、交渉の余地がないのがこの期限です。法務省は変更登記の義務について、次のように説明しています。

会社等の設立に当たって登記した事項に変更が生じたときは、2週間以内に、その本店又は主たる事務所の所在地において 、変更の登記をしなければなりません(会社法第915条第1項、一般社 団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」といいます。)第303条)。 また、会社法等の規定による登記をすることを怠ったときは、登記の申請を怠った代表者等は裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります(会社法第976条第1号、一般法人法第342条第1号)。 出典: moj.go.jp

過料とは、税金や罰金とは別枠の、行政上の制裁として払わされるお金のことです。刑罰ではないので前科にはなりませんが、裁判所から会社の代表者個人に通知が届きます。会社の経費ではなく、代表者が自分の財布から払うことになる点も見落とされがちです。

ここで気をつけたいのは、期限を過ぎたら申請できなくなるわけではないということです。法務局は遅れた申請でも受け付けます。だから「遅れているけれど、まだ出していない」という状態がいちばん危ない。出せば終わる話を、出さないまま何年も抱えている会社が実際に存在します。

その放置がどこへ行き着くのかを示す数字があります。法務局は毎年、長く登記が動いていない会社を整理する作業をしています。最後の登記から12年が過ぎた株式会社は、この整理の対象になります。毎年10月ごろに官報という国の公告紙に載り、登記所から通知書が届きます。公告から2か月のあいだに必要な登記か「まだ事業をやめていません」という届出をしないと、登記官の判断で解散したことにされてしまいます。

この整理作業で実際に解散扱いになった株式会社は、令和7年度(第17回)で25,195社でした。令和6年度は26,885社、令和5年度は27,887社で、毎年2万社台の後半が同じ扱いを受けています。営業を続けていても関係ありません。登記が動いていないという事実だけで対象になります。

なぜ12年なのかというと、取締役の任期を定款で最長まで伸ばすと10年になるため、その任期が一度も更新されていない会社は実体がないと見なす、という考え方です。つまり役員変更の登記を出し忘れることが、そのまま会社が消える入口になっています。

2週間の起算点も確認しておきます。数え始めるのは「登記すべき事由が発生した日」です。就任なら株主総会で決議されて本人が承諾した日、辞任なら辞任の意思表示が会社に届いた日、死亡ならその日です。書類が全部そろった日ではありません。ここを勘違いすると、書類集めに手間取っているうちに期限を越えます。

社内でやること:誰が決めるのかを定款で確かめる

法務局に出す前に、会社の中で決める手続きがあります。ここを飛ばして議事録だけ作ると、後で実体のない書類になります。

取締役を選ぶのは株主総会です。これは会社の規模に関係ありません。1人しか株主がいない会社でも、株主総会を開いたことにして議事録を残します。監査役を選ぶのも株主総会です。

一方、代表取締役を選ぶのがどこなのかは、会社によって違います。取締役会がある会社は取締役会で選びます。取締役会がない会社は、定款の定め方によって、株主総会で選ぶか、取締役の話し合い(互選)で選ぶかが変わります。だから最初にやるべきことは、自社の定款を開いて「代表取締役の選定」の条文を読むことです。ここを確かめずに議事録を作ると、株主総会で決めるべきものを取締役の互選で決めた書類ができあがり、法務局で差し戻されます。

定款が見つからない会社も少なくありません。設立から何年も経つと、原本がどこにあるか分からなくなります。その場合は設立を依頼した専門家の控えを探すか、会社の保管書類をあたることになります。法務局には定款の写しは保管されていないので、そこには頼れません。

任期の確認も同じタイミングでやります。法律上の原則は次のとおりです。

取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。 前項の規定は、公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)において、定款によって、同項の任期を選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。 出典: laws.e-gov.go.jp

監査役はこれが4年で、株式を自由に売買できない会社なら、定款で最長10年まで伸ばせます。

ここで読み取ってほしいのは、任期が「何年後の同じ日」ではなく「決算のあとの定時株主総会が終わるとき」で切れるという点です。2年の任期なら、選任から2回めの決算を終えた定時株主総会の終結時に任期が満了します。カレンダーで2年後を見ていると1回ずれます。

小さな会社では、この任期を定款で10年に伸ばしているケースが多いです。登記の手間と費用を10年に1回に減らせるからです。ただし10年は長い。設立から10年が経ったころに任期満了が来て、そのことを誰も覚えていないという状態が生まれやすくなります。設立時の定款をどう作ったかは、必ず一度は確認しておくべき項目です。

決議を終えたら、議事録を作ります。日付、場所、出席者、決議の内容、そして誰が議事録を作ったかを書きます。株主総会の議事録は、株主が1人でも必要です。後から作った書類であっても、決議した日付で作ります。

場面ごとに集める書類

書類は「決議を証明するもの」と「本人を証明するもの」の2種類に分かれます。この分け方で覚えると、何が足りないのかが見えます。

就任の場合に必要になるのは、株主総会の議事録、就任承諾書、そして本人を確かめる書類です。就任承諾書とは、選ばれた本人が「引き受けます」と書いた紙のことです。議事録の中に本人が承諾した旨とその人の住所が書かれていて、本人が押印していれば、別紙を省けることもあります。

本人を確かめる書類については、法務省が次のように整理しています。

設立の登記又は取締役、監査役若しくは執行役の就任に関する登記の申請書には、株主総会の議事録又は就任承諾書(※)に記載された取締役等の氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている市区町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該取締役等が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。)を添付する必要があります。 ただし、登記の申請書に当該取締役等の印鑑証明書(市区町村長が作成したもの)を添付する場合は、除きます。 出典: moj.go.jp

かみ砕くと、住民票の写しや戸籍の附票、運転免許証のコピー(本人が原本と同じだと書いて署名したもの)などが使えます。印鑑証明書を出す場合はこれを兼ねます。代表取締役を新しく選んだときは、その人の印鑑証明書が必要になるので、そこは住民票では代えられません。

もうひとつ、忘れやすいのが株主リストです。これは平成28年10月1日から必要になった書類で、法務省は添付が要る場面をこう説明しています。

株主リストの添付は,次の2つの場合に必要となります。 1 登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合 2 登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合 出典: moj.go.jp

取締役や監査役の選任は株主総会で決めるので、役員変更の登記ではほぼ必ず出すことになります。書く内容は、議決権の多い株主を上位10名まで、または議決権の割合が3分の2に達するまでの株主について、氏名か名称、住所、持っている株式の数、議決権の数と割合です。代表者が「間違いありません」と証明する形式になっています。

辞任の場合は辞任届が必要です。代表取締役が辞任するときは、辞任届に個人の実印を押して印鑑証明書を添えるか、会社の届出印(法務局に届けてある印)を押します。ここは通常の取締役の辞任より重くなっています。

解任の場合は、解任を決議した株主総会の議事録が中心になります。任期満了や重任の場合は、任期が満了したことと、あらためて選任されたことが議事録から読み取れる形にします。

死亡の場合は、死亡届の記載事項証明書や戸籍謄本、あるいは親族からの死亡届など、死亡した事実が分かる書類を添えます。就任承諾書のように本人に書いてもらう書類は当然作れないので、書類の構成そのものが変わります。

代理人に頼む場合は委任状が必要です。社内の別の人に申請を任せる場合も同じです。

法務局への申請は3通りある

申請の方法は3つあります。どれを選ぶかで手間と待ち時間が変わります。

1つめはオンライン申請です。法務局の申請用総合ソフトを使い、電子証明書で署名して送ります。会社の代表者が電子証明書を持っていれば、窓口に行かずに完結します。

2つめはQRコード付き書面申請です。同じ申請用総合ソフトで申請書のデータを作り、QRコードが印字された申請書を印刷して、添付書類とともに法務局へ持参または郵送します。電子証明書がなくても使えて、記載事項を手で打ち直す必要がないので、書き間違いによる補正が減ります。法務局もこの方法を推しています。

3つめは通常の書面申請です。申請書を自分で作り、添付書類と一緒に出します。記載例は法務局の商業・法人登記の申請書様式のページに、株式会社の役員変更、特例有限会社の役員変更など、場面ごとに分けて置かれています。

どの方法でも、出す先は本店の所在地を管轄する法務局です。近くの法務局ならどこでもよいわけではありません。管轄は法務局のサイトで調べられます。

申請してから登記が終わるまでは、通常1週間前後かかります。混み具合で変わるので、各法務局のサイトに出ている登記完了予定日を見ます。この期間中は、その会社の登記事項証明書と印鑑証明書が発行されません。融資の申込みや入札で証明書が必要な予定が入っているなら、申請のタイミングをずらすか、先に証明書を取っておく必要があります。ここは実務でかなり効く落とし穴です。

書類に不備があると、法務局から補正の連絡が来ます。連絡が来ないまま登記完了予定日を過ぎたら、問題なく終わったということです。

費用は登録免許税と実費に分けて考える

役員変更手続きで必ずかかるのは登録免許税です。国税庁の税額表には、次のように定められています。

取締役または代表取締役もしくは監査役等に関する事項の変更の登記は、申請1件につき3万円。ただし資本金の額が1億円以下の会社は1万円です。数字の根拠は登録免許税の税額表で確認できます。

小さな会社のほとんどは資本金1億円以下なので、実質は1万円だと考えてよいでしょう。ここで覚えておきたいのは「申請1件につき」という数え方です。同じ日に取締役3人が入れ替わっても、1件の申請にまとめれば1万円で済みます。逆に、時期をずらして別々に申請すると、そのたびにかかります。任期満了の時期が近い役員がいるなら、まとめられないかを先に考える価値があります。

なお、役員の住所や氏名だけが変わった場合も、同じ「登記事項の変更」として扱われます。

これに加わるのが実費です。印鑑証明書は1通あたり数百円、住民票の写しも同程度です。郵送で申請するなら、返信用の封筒と切手も要ります。登録免許税は収入印紙で納めるのが一般的で、印紙は法務局や郵便局で買えます。貼るときに割印を押したり汚したりすると使えなくなるので、そこだけ注意してください。

専門家に頼む場合の報酬は、おおむね3万円から5万円程度が目安として語られる水準です。役員の人数や、定款の変更を伴うかどうかで上下します。オンラインの登記書類作成サービスを使うと、これより安く済むものもあります。金額は事務所やサービスによって幅があるので、複数から見積もりを取るのが確実です。

つまり、自分でやれば1万円と数百円で終わり、頼めば4万円から6万円あたりになる、という構図です。役員が1人か2人の入れ替わりで、定款の変更がないなら、自分でやる難易度はそれほど高くありません。

登記が終わってから残る届出

役員変更手続きは、登記が終わって完了ではありません。ここが最も抜けやすいところです。登記は法務局に対するものであって、ほかの役所には自動で伝わりません。

まず税務署です。代表者が変わったときは、異動届出書を出します。国税庁の異動事項に関する届出の案内では、事業年度の変更や本店の移転などと並んで、代表者の変更もこの届出の対象として挙げられています。提出の時期は「異動後速やかに」とされていて、日数の指定はありません。添付書類も原則として不要ですが、異動の事実を確かめるために登記事項証明書などを求められることがあります。

都道府県税事務所と市区町村にも、同じ趣旨の届出が必要です。窓口ごとに様式が違うので、それぞれのサイトで確認します。

社会保険の窓口も忘れられません。代表者が変わったときは、年金事務所へ事業所の変更を届け出ます。届出の様式名や添付書類は変わることがあるので、管轄の年金事務所か日本年金機構のサイトで最新のものを確認してください。

許認可を受けて事業をしている会社は、その許認可ごとの届出も必要です。建設業、宅地建物取引業、労働者派遣、古物商、飲食店、運送業など、役員に関する要件がある許認可では、役員が変わったことを所管の役所へ届け出ることになっています。ここを落とすと、許認可の更新の段になって指摘されます。業種によっては新任役員の欠格事由の確認書類まで求められます。

このほか、実務として必要になるのが金融機関への届出です。代表者が変わると、口座の名義人情報や届出印、インターネットバンキングの権限者を変える手続きが生じます。融資を受けている場合は、代表者の交代が契約上の通知事項になっていることもあります。

取引先への連絡も同じ性質の作業です。契約書に記載した代表者名が変わるので、継続取引の相手には通知しておきます。請求書や見積書の書式、ウェブサイトの会社概要、名刺、社判なども更新の対象です。

整理すると、登記で終わるのは法務局の分だけで、そのあとに税務署、都道府県、市区町村、年金事務所、許認可の所管庁、金融機関、取引先という7つの宛先が残ります。登記申請を出した日に、この一覧を作っておくのがいちばん確実です。

手続きを日付で並べると、迷いが消える

ここまでの内容を、実際の時間軸に並べ直します。取締役1人が任期満了で退き、別の1人が新しく就任する場面を例にします。

まず、決議の前日までにやることが2つあります。定款を開いて、取締役の任期と代表取締役をどこで選ぶかを確認すること。そして、新しく就任する人の住所と氏名を、住民票の記載どおりに確かめることです。議事録に書く住所が住民票と1文字でも違うと、本人確認の書類と突き合わなくなります。マンション名や部屋番号の書き方は特にずれます。

次に決議の当日です。株主総会を開き、退任する取締役の任期が満了したこと、新しい取締役を選任したことを決議します。この場で新任の人から承諾を得て、就任承諾書に署名と押印をもらいます。本人がその場にいないなら、後日でも構いませんが、承諾した日付は記録しておきます。代表取締役を選び直す必要がある場合は、定款に沿って取締役会か互選の書類も同じ日に作ります。

決議から数日のあいだに、証明書を取りに行きます。新任の取締役の住民票の写し、代表取締役を新しく選んだ場合はその人の印鑑証明書です。印鑑証明書には期限があるので、決議より前に取っておくのは得策ではありません。議事録と株主リストも、この期間に仕上げます。

そして決議から2週間以内に、申請書と添付書類をそろえて管轄の法務局へ出します。郵送なら到着日ではなく、法務局が受け付けた日が基準になるので、余裕を見ます。

申請から1週間ほどで登記が終わります。終わったら登記事項証明書を取り、税務署、都道府県、市区町村、年金事務所、許認可の窓口、金融機関へ順に出していきます。登記事項証明書は複数の窓口で求められるので、必要な枚数をまとめて取るほうが手間が少なくて済みます。

この流れを紙に書いて、日付を入れてしまうのがいちばん確実です。やることが7つか8つしかないと分かれば、手続きへの抵抗はかなり減ります。

特例有限会社と合同会社では話が変わる

ここまでは株式会社を前提にしてきました。会社の種類が違うと、手続きの前提そのものが変わります。

特例有限会社は、かつての有限会社が会社法の施行後もそのまま残っている形の会社です。この会社の取締役と監査役には、法律上の任期がありません。だから任期満了による重任という手続き自体が発生しません。役員が実際に代わるとき、辞任するとき、亡くなったときだけ登記します。設立から何十年も登記が動いていない特例有限会社があるのは、そもそも動かす理由がないからです。前に触れたみなし解散の対象からも、特例有限会社は外れています。

合同会社は、出資した人がそのまま経営に関わる形の会社です。役員にあたるのは社員と業務執行社員、代表社員です。株主総会という機関がないので、決議の主体は社員の同意になります。業務執行社員が代わる場合は、定款を変更することになるケースが多く、そのための総社員の同意書を作ります。登録免許税の区分も株式会社の役員変更とは別立てになっているので、申請の前に管轄の法務局で税額を確かめてください。

自社がどの種類の会社なのかは、登記事項証明書の冒頭を見れば分かります。株式会社の記載例をそのまま使ってしまうと、添付書類の構成から違ってくるので、最初に確認しておきます。

つまずきやすい5つの場面

編集部で手続きの相談事例を見ていると、つまずく箇所はだいたい決まっています。

1つめは重任の見落としです。顔ぶれが変わっていないから何もしなくていい、という思い込みが原因です。任期が切れれば、同じ人が続ける場合でも登記が必要です。法務省も「再任の方も必要です」と念押ししています。

2つめは任期の数え間違いです。選任した日から2年後や10年後の同じ日ではなく、決算のあとの定時株主総会の終結時で切れます。事業年度と任期の関係を一度紙に書いて確かめると、ずれが見えます。

3つめは印鑑証明書の期限です。市区町村が発行した印鑑証明書には有効期間があり、登記の添付書類として使うときは発行から3か月以内のものを求められます。書類集めに時間をかけているうちに、先に取った証明書が使えなくなるという順番の事故が起きます。取る順番は最後にします。

4つめは株主リストの書き方です。議決権の割合の計算を間違える、上位10名の数え方を間違える、代表者の証明文を入れ忘れる。この3つが多いところです。

5つめは、退任した役員が持っていた別の資格の見落としです。たとえば辞任した取締役が同時に会社の支配人として登記されていたり、許認可上の専任者になっていたりすると、そちらの手続きも同時に必要になります。1人の役員が抜けることで、複数の登記や届出が連鎖することがあります。

自分でやるか、頼むかの分かれ目

判断の軸は3つあります。定款の変更が絡むか、役員の構成そのものを変えるか、期限がどれだけ迫っているか。

定款の変更が絡まず、役員が1人か2人入れ替わるだけなら、自分でやる負担は限られます。法務局の記載例が場面ごとに用意されていて、QRコード付き書面申請を使えば記入の負担も軽くなります。かかるのは1万円と数時間です。

一方、取締役会を廃止する、監査役を置くのをやめる、任期を変えるといった話が混ざると、定款の変更が必要になり、株主総会の特別決議も要ります。ここは登記だけの話ではなくなるので、専門家に相談したほうが早いです。

期限が迫っている場合も、迷わず頼んだほうがよいでしょう。2週間という期限は、初めて書類を作る人にとっては短いです。書き直しが1回入ると、それだけで数日が飛びます。

登記手続き自体は司法書士の領域ですが、事前の整理は自社でできます。そして、この手続きでやりとりされる書類はどれも定型の文書です。議事録、就任承諾書、辞任届、株主リスト。どれも形式が決まっていて、押さえるべき項目が一定しています。文書の作り方の基本を身につけておくと、この種の作業の速度がはっきり変わります。文書の構成や敬語、数字の書き方を体系的に扱う検定としては、ビジネス文書検定があり、社内文書の作成能力を測る指標として使われています。事務の担当者に登記書類まで任せる体制を作りたいなら、こうした基準を社内の目安にする方法もあります。

業務委託で仕事を回す会社が、この手続きでつまずく理由

在宅ワークや業務委託の市場を20年見てきた立場から言うと、役員変更手続きでいちばん困っているのは、社員を多く抱える会社ではありません。社内の事務が薄い会社です。

社員が数十人いる会社なら、総務の担当者が登記の期限を管理しています。ところが、代表者と数人の役員だけで、実務は外部のフリーランスに任せているという形の会社では、この種の期限を見る人がいません。経理は税理士、開発は業務委託の技術者、デザインは外部のデザイナー。役割はきれいに分かれているのに、登記と許認可の期限だけは誰の担当にもなっていない。設立から10年が経って任期満了が来たとき、そのことを知らせてくれる人が社内にいないわけです。

前に触れた毎年2万社台という、みなし解散の対象になる会社の数も、この構造と無関係ではないはずです。事業をやめたわけではなく、期限を見る人がいなかった会社が、そこに含まれていると考えるのが自然でしょう。

では、外部に任せる体制のまま、この手の期限をどう管理するのか。運営者として見てきた限りでは、うまく回している会社には共通点があります。作業ごとに人を探すのではなく、「会社の事務まわりを一通り見てくれる人」を1人決めて、長く付き合っているという点です。登記の期限、許認可の更新、保険の届出。個別の作業としては小さく、専門家に依頼するほどでもないけれど、誰も見ていないと事故になる。この種の仕事は、単発で切り出すと誰も引き受けたがりません。関係が続いている相手だから成立します。

そしてこの「長く付き合う」という形は、依頼のしかたによって作りやすさが変わります。仲介手数料が乗る経路では、依頼側は同じ予算でも頼める量が減り、受ける側は手取りが薄くなります。手数料0%の直接取引が効いてくるのは、金額そのものより、双方が続けられる関係を作りやすいという点です。長く続く人ほど、単発の作業を積み上げるのではなく「この人に任せると楽」という状態を作ることに時間を使っている。そういう相手が1人いるかどうかで、登記の期限を落とすかどうかが変わってきます。

掲載データから見える、事務まわりを任せる相手の探し方

在宅ワークの求人データを職種別に眺めると、事務や管理系の仕事には2つの層があることが分かります。ひとつは単純な入力や整理の作業、もうひとつは仕組みそのものを設計する仕事です。前者は単価が低く、置き換えも進んでいます。後者は相場が上がっています。

会社の期限管理を任せたいなら、見るべきは後者です。たとえば社内の情報や仕組みを整える側の仕事としては、AIコンサル・業務活用支援のお仕事のように、業務の流れを洗い出して自動化まで設計する案件が出ています。定型の届出や期限管理は、洗い出しさえ済めば仕組みに落とし込める部分が大きいので、この層の人に一度整理してもらう価値があります。

社内の管理ツールを自前で用意したい場合は、アプリケーション開発のお仕事の領域にあたります。市販のツールに合わせるより、自社の届出の型に合わせて小さく作ったほうが続くことがあります。

単価の見当をつけるには、職種ごとの相場を見ておくと交渉が早くなります。開発系であればソフトウェア作成者の年収・単価相場に職種別の水準が並んでいます。議事録や社内規程の文書化を任せたい場合は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場が参考になります。相場を知らずに依頼すると、安すぎて続かないか、高すぎて頼めないかのどちらかになります。

情報セキュリティや社内の権限管理まで含めて見てもらいたい場合は、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事の求人が近い領域です。役員が変わると、社内システムの管理者権限や金融機関のアクセス権も移すことになるので、登記の手続きと同時に整える必要が出てきます。

会社の資金まわりを外部と整えるときに知っておきたい知識としては、報酬の取りきりに関する実務も関係します。取引先が支払わないときの進め方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】に費用の目安まで整理されています。また、業務委託で人に頼む側になるなら、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストにある発注書の必須項目を押さえておくと、役員が代わったあとの契約の巻き直しでも迷いません。会計の実務を分かる人に見てもらいたい場合は、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】に、どういう人が外部で仕事を受けているのかが書かれています。

役員変更手続きは、1回だけ見れば終わる作業ではありません。任期がある限り、何年かごとに必ず戻ってきます。だからこそ、その都度あわてて調べるのではなく、期限を見る人と仕組みを先に決めておくのが、いちばん安い対処になります。

よくある質問

Q. 役員変更の登記は自分でできますか?

役員が1人か2人の入れ替わりで、定款の変更を伴わないなら、自分で申請できます。法務局のサイトに場面別の記載例と申請書様式があり、QRコード付き書面申請を使えば記入の負担も減ります。費用は登録免許税1万円(資本金1億円超は3万円)と証明書の実費だけで済みます。取締役会の廃止など定款の変更が絡む場合は専門家に相談したほうが早いです。

Q. 役員変更登記の費用はいくらかかりますか?

登録免許税は申請1件につき3万円で、資本金1億円以下の会社は1万円です。これに印鑑証明書や住民票の実費が数百円ずつ加わります。専門家に依頼する場合の報酬は3万円から5万円程度が目安として語られる水準です。同じ日に複数の役員が入れ替わるなら、1件の申請にまとめることで登録免許税は1回分で済みます。

Q. 2週間の期限を過ぎてしまったらどうなりますか?

期限を過ぎても申請そのものは受け付けてもらえます。ただし登記を怠った代表者に対して、裁判所から100万円以下の過料が科される可能性があります。過料は会社ではなく代表者個人が払います。さらに最後の登記から12年が過ぎた株式会社は法務局の整理作業の対象になり、官報公告から2か月のあいだに手続きをしないと解散したことにされます。気づいた時点ですぐ出すのが最善です。

Q. 同じ人が役員を続ける場合も手続きは必要ですか?

必要です。任期が満了すれば、いったん役員でなくなったうえで再び選ばれる形になるため、重任として登記します。顔ぶれが変わっていないので忘れられやすく、法務省も再任の場合も登記が必要だと案内しています。任期は選任から2年(定款で最長10年まで)以内に終わる事業年度の定時株主総会の終結時までなので、決算の時期と合わせて管理してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年6月25日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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