事業所を開いたときに出す届出の一覧

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
事業所を開いたときに出す届出の一覧

この記事のポイント

  • ✓事業所開設届出は1枚の書類ではなく
  • ✓法務局・税務署・都道府県と市町村・労働基準監督署・ハローワーク・年金事務所へ出す届出の束です
  • ✓期限の早い順に並べた一覧

事務所を借りた。支店を出すことにした。人を採る。そこで「事業所開設届出」と検索すると、税務署の話と法務局の話と社会保険の話が混ざって出てきて、結局どれを何枚出すのかが分からなくなります。

結論を先に書きます。事業所開設届出という名前の書類は1枚も存在しません。実際に出すのは、法務局、税務署、都道府県と市町村、労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所という6つの窓口への別々の届出です。そして厄介なのは、期限がそれぞれ違うことです。短いものは5日、長いものはその年の確定申告期限まで。動く順番を間違えると、後ろの手続きが受け付けてもらえません。

ここでは、法人が事業所を増やす場合と、個人事業で事務所を構える場合に分けて、どの窓口に何をいつ出すのかを公式の記載どおりに並べます。費用と、節約できるところ、出し忘れたときに何が起きるかも合わせて整理します。

「事業所開設届出」で出てくる情報がばらばらなのは、窓口が分かれているから

検索結果が噛み合わないのには理由があります。事業所を開くという1つの出来事に対して、国税、地方税、商業登記、労働保険、社会保険という5つの制度がそれぞれ独立して反応するからです。制度ごとに所管する役所が違い、根拠になる法律も違い、当然期限も違います。

・商業登記は法務局。根拠は会社法と商業登記法 ・法人税と源泉所得税は税務署。根拠は法人税法と所得税法 ・法人住民税と法人事業税は都道府県税事務所と市町村。根拠は地方税法 ・労災保険と雇用保険は労働基準監督署とハローワーク。根拠は労働保険徴収法と雇用保険法 ・健康保険と厚生年金保険は年金事務所。根拠は健康保険法と厚生年金保険法

税理士が書いた記事は税務署の話だけ、司法書士が書いた記事は登記の話だけ、社会保険労務士が書いた記事は労働保険と社会保険の話だけになります。どれも間違ってはいないのですが、1つだけ読んで全体像をつかんだつもりになると、必ず抜けが出ます。

もう1つ、事業所の作り方によって必要な届出が変わる点も混乱の原因です。登記した支店を作るのか、登記しない営業所や事務所を置くだけなのか。人を雇うのか、雇わないのか。この2つで必要な書類の枚数が大きく変わります。自分がどのケースかを最初に決めてから読み進めてください。

法人が事業所を増やしたときに出すもの

会社がすでにあって、新しい拠点を作るケースから見ていきます。

本店の法務局へ、支店設置の登記

定款や取締役会の決議で支店として置くと決めたなら、登記が要ります。ここで押さえておくべき大きな変更が1つあります。令和4年9月1日から、支店の所在地での登記は廃止されました。法務省の案内はこうです。

令和4年9月1日から、支店・従たる事務所の所在地における登記が廃止されます。 したがって、同日から、支店の所在地における登記は不要となり、仮にこれを申請しても、商業登記法第24条第2号により却下されることとなります。 なお、本店の所在地における支店の設置、移転又は廃止等の登記は引き続き必要ですので、御注意ください。 出典: moj.go.jp

以前は本店と支店の両方の法務局に出す必要がありました。今は本店の法務局に1件出せば足ります。古い解説記事を読むと二重に申請しそうになるので、ここは注意してください。申請しても却下されます。

期限は、支店を設置した日から2週間以内です。登録免許税は国税庁が公開している登録免許税の税額表でこう定められています。

登記の種類 課税標準 税額
支店の設置の登記 支店の数 1箇所につき6万円
本店または支店の移転の登記 本店または支店の数 1箇所につき3万円
登記事項の変更、消滅または廃止の登記 申請件数 1件につき3万円

支店を2か所同時に出すなら12万円です。ここが事業所を増やすときの最大の出費になります。

登記しない事務所や営業所なら、登記は不要

ここを勘違いする人が多いところです。事業所を増やすことと、支店を登記することはイコールではありません。営業所、出張所、作業場のように、会社の判断で「支店ではない拠点」として運営するなら、登記は要りません。登録免許税6万円もかかりません。

ただし、登記しなくても地方税と労働保険と社会保険の届出は必要です。これらの制度は登記の有無ではなく、実際に人が働いている場所があるかどうかで判断されるからです。「登記していないから何も出さなくていい」という理解は、後で追徴を受ける原因になります。

支店として登記するかどうかは、取引先への見え方や許認可の要件で決めるのが実務です。建設業や宅地建物取引業のように、営業所ごとに許可や専任者の配置が要る業種では、許認可のルールが先に立ちます。自分の業種に許認可があるなら、登記の判断より先にそちらを確認してください。

税務署へ、給与支払事務所等の開設届出書

新しい事業所で給与を払う事務を扱うなら、税務署への届出が要ります。国税庁の案内はこうです。

[概要]給与の支払者が、国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設、移転又は廃止した場合に、その旨を所轄税務署長に対して届け出る手続です。 [提出時期]開設、移転又は廃止の事実があった日から1か月以内に提出してください。 [提出先]給与支払事務所等の所在地の所轄税務署(移転の場合には、移転前の事務所等の所在地の所轄税務署)へ提出してください。 出典: nta.go.jp

ポイントは提出先です。本店の税務署ではなく、新しい事業所の所在地を管轄する税務署に出します。ここを間違えると転送されるまで時間を食います。

逆に、新しい拠点では給与計算をせず、本店でまとめて給与を払うなら、この届出は不要です。源泉所得税を納める場所も本店のままです。拠点を増やすたびに納付先が増えると事務が重くなるので、給与の支払事務は本店に集約しておくほうが楽になります。

なお、会社を新しく作った場合は、これとは別に法人設立届出書を出します。提出時期は法人設立の日、つまり設立登記の日以後2か月以内で、定款の写しを添付します。根拠は法人税法第148条です。

都道府県税事務所と市町村へ、法人設立・設置届出書

地方税は、事業所がある自治体ごとに課税されます。したがって、新しい市に拠点を作れば、その市と、その県にそれぞれ届出が要ります。使う書類の名前は「法人設立・設置届出書」で、地方税の電子申告システムであるeLTAXから電子的に出せます。

自治体ごとに様式も提出部数も微妙に違うので、必ずその自治体のサイトで確認してください。eLTAXが公開している記載要領には、支店や事業所を新たに設置した場合は所管の都道府県と市町村へ提出し、東京都の特別区への提出は不要である旨が書かれています。電子申告なら複数の自治体へまとめて送信できるので、拠点が多い会社ほどeLTAX 地方税ポータルシステムを使う価値があります。

ここで注意すべきなのが、法人住民税の均等割です。均等割は赤字でも払う税金で、事業所がある自治体ごとに発生します。拠点を1つ増やすと、その分だけ毎年の固定費が増えます。都道府県分と市町村分の両方がかかるので、小さな営業所でも年間で数万円単位の負担になります。拠点を増やす判断をするときは、この固定費を計算に入れておいてください。

人を雇うなら、労働保険と社会保険の届出が別に走る

事業所を開くだけなら税務と登記で終わりますが、そこで人を働かせるなら、もう3つ窓口が増えます。しかもこちらのほうが期限が短いので、実務では先に動くことになります。

労働基準監督署へ、保険関係成立届

労働保険は、労災保険と雇用保険をまとめた呼び名です。厚生労働省の案内はこうなっています。

適用事業については、その事業開始の日又は適用事業に該当することとなった日に自動的に保険関係が成立しますので、適用事業の事業主は、保険関係成立の日(その事業開始の日又は適用事業に該当することとなった日)から10日以内に、「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署又は公共職業安定所へ提出しなければなりません。 出典: mhlw.go.jp

読み落としやすいのが最初の部分です。保険関係は届出を出したから成立するのではなく、人を使った時点で自動的に成立しています。届出は、成立した事実を報告する行為でしかありません。だから出さないまま時間が経つと、未加入ではなく「加入しているのに届け出ていない」状態になります。

原則として労働者を1人でも使えば適用事業になります。農林水産業の一部を除いて、業種による例外はほとんどありません。パートでもアルバイトでも同じです。

ハローワークへ、雇用保険適用事業所設置届

労災と雇用保険をまとめて扱う一元適用事業の場合、順番が決まっています。先に労働基準監督署へ保険関係成立届を出して受理印をもらい、その控えを添えてハローワークへ雇用保険適用事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届を出します。

つまり、労基署とハローワークを同じ日に回ろうとしても、先に労基署を済ませないとハローワーク側で受け付けてもらえません。ここが手続きの順番を間違えやすいところです。拠点の開設日が決まったら、労基署の予定を先に入れてください。

年金事務所へ、健康保険・厚生年金保険新規適用届

社会保険はいちばん期限が短い届出です。日本年金機構が公開している手続の説明はこうです。

【手続概要】この届出は、事業所が健康保険、厚生年金保険に適用されることになった場合、事実発生から5日以内に事業主が行わなければなりません。 出典: nenkin.go.jp

5日です。開設の準備をしながらでは間に合わないので、書類は開設前に作っておくことになります。同じ説明に、この届出は被保険者資格取得届と必ず同時に提出するようにと書かれています。従業員の情報も同時に必要だということです。

添付書類にも期限があります。法人事業所の場合は法人の登記簿謄本を添えますが、提出日からさかのぼって90日以内に発行されたものである必要があります。古い謄本は使えません。支店設置の登記が終わってから謄本を取り、それを持って年金事務所へ行くという順番になります。

法人はすべて強制適用です。個人事業の場合は、常時使用する従業員が5人以上なら強制適用になります(サービス業の一部、農業、漁業等を除く)。5人未満の個人事業所は任意適用で、加入するなら新規適用届ではなく任意適用申請書を出します。

個人事業で事務所を借りたときは、書く書類が1枚で済む

個人事業主が自宅とは別に事務所を借りた、作業場を増やした、事務所を移した。この場合に出すのは「個人事業の開業・廃業等届出書」の1枚だけです。国税庁の手続案内はこう説明しています。

[概要]新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき又は事業を廃止したときの手続です。 [提出時期]事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください。 [手続根拠]所得税法第229条 出典: nta.go.jp

同じページに、覚えておくと手間が減る決まりが書かれています。新設や移転の対象になる事務所の所在地が納税地と違っていても、納税地を所轄する税務署長以外への提出は不要とされています。自宅が納税地で事務所が隣の市にあっても、出すのは自宅の管轄税務署1か所です。事務所の管轄税務署に行く必要はありません。

この届出は事業所得、不動産所得、山林所得を生む事業が対象です。届出の区分の欄で「事務所・事業所の新設、増設、移転、廃止」を選び、該当する日と場所を書きます。期限が「その年分の確定申告期限まで」と長いので、慌てる必要はありません。

ただし、個人事業でも人を雇えば話が変わります。給与の支払事務を扱う事務所を開設したことになるので、税務署への給与支払事務所等の開設届出書が1か月以内に必要になり、労働保険も社会保険も法人と同じ期限で走り出します。従業員を採るかどうかが、手続きの重さを決める分かれ目です。

期限の早い順に並べると、動く順番が決まる

ここまでを期限の短い順に並べ替えます。これが実務での行動の順番になります。

期限 窓口 出すもの 対象
事実発生から5日以内 年金事務所 健康保険・厚生年金保険新規適用届 人を雇う法人と一定の個人事業
10日以内 労働基準監督署 労働保険 保険関係成立届 人を雇う事業所
労基署の受理後すみやかに ハローワーク 雇用保険適用事業所設置届 人を雇う事業所
設置から2週間以内 本店の法務局 支店設置の登記 支店として登記する場合
1か月以内 事業所の所轄税務署 給与支払事務所等の開設届出書 その事業所で給与事務を行う場合
自治体ごとに定める期日 都道府県税事務所と市町村 法人設立・設置届出書 法人が事業所を置いた自治体
設立から2か月以内 納税地の所轄税務署 法人設立届出書 会社を新しく作った場合
その年分の確定申告期限まで 納税地の所轄税務署 個人事業の開業・廃業等届出書 個人事業の事務所の新設や移転

順番を見ると、実際には社会保険と労働保険が先に来て、登記と税務がその後になります。ところが年金事務所は登記簿謄本を求めるので、支店を登記するなら登記を先に済ませないと5日には間に合いません。

現実的な進め方はこうです。事業所の開設日を決めたら、その日より前に支店設置の登記を申請して完了させ、登記事項証明書を取っておく。開設日に人が働き始めたら、その日から5日以内に年金事務所、10日以内に労基署とハローワーク、1か月以内に税務署。地方税は自治体の指定に合わせる。この順で動けば、どこかで止まることがありません。

費用は登記が主で、届出そのものは無料

かかる金額を整理します。

・支店設置の登記の登録免許税: 1箇所につき6万円 ・本店または支店の移転の登記の登録免許税: 1箇所につき3万円 ・登記事項証明書と印鑑証明書の交付手数料: 1通あたり数百円程度の実費(請求方法と受取方法で変わるため、法務局の最新の手数料表で確認する) ・税務署、都道府県、市町村、労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所への届出: 手数料はかからない

つまり実費で見れば、登記をしない拠点なら証明書の取得費だけで済みます。登記をするなら6万円が動きます。これに加えて、司法書士や社会保険労務士に依頼すれば報酬が乗りますが、金額は事務所と内容で大きく変わるので、複数から見積もりを取って比べるのが確実です。

証明書の枚数も意外と積み上がります。年金事務所に添える登記簿謄本、金融機関で法人口座の支店を追加するときの証明書、賃貸借契約の相手方に求められる証明書。開設1回あたり数通は必要になるので、登記が完了したらまとめて取っておくと二度手間になりません。ただし年金事務所は発行から90日以内のものを求めるので、早く取りすぎても使えなくなります。

見落とされやすいのは、届出の費用ではなく開設後に毎年かかる固定費のほうです。法人住民税の均等割は事業所ごと、自治体ごとに発生します。営業所を1つ増やせば、そこに人が1人しかいなくても、その市と県に均等割を払い続けることになります。届出の手間より、この固定費のほうが長期的には効いてきます。

無料で使える窓口と、節約できるところ

費用と手間を減らす方法は実際にあります。

1つ目は電子申請です。国税はe-Tax、地方税はeLTAX、登記はオンライン申請、社会保険と労働保険はe-Govからの電子申請に対応しています。窓口へ行く移動時間がなくなり、受付の記録がデータで残ります。拠点が複数の自治体にまたがるなら、eLTAXで一度に送れる分だけ効果が大きくなります。

2つ目は登記事項証明書のオンライン請求です。法務局の窓口で書面請求するより、オンラインで請求して郵送または窓口で受け取るほうが手数料が安く設定されています。何通も必要になる場面では差が出るので、請求する前に法務局の手数料表を見ておいてください。

3つ目は、そもそも登記しない選択です。支店として登記する必要が本当にあるのかを先に検討すれば、6万円と司法書士報酬をまるごと省けます。取引先が登記事項証明書で拠点を確認する業界でなければ、営業所として運営するほうが身軽です。

4つ目は、相談を無料の窓口で済ませることです。労働保険と雇用保険の手続きは労働基準監督署とハローワークが無料で教えてくれます。社会保険は年金事務所、税務は税務署に相談窓口があります。書類の書き方を聞くだけなら、専門家に依頼する前にこれらを使うほうが早いことが多いです。

なお、拠点の開設に合わせて設備やシステムを入れるなら、補助金や助成金の対象になる場合があります。テレワーク環境を整えるならテレワーク 助成金 2026に制度の考え方がまとまっていますし、介護や福祉の事業所で記録をデジタルに移すなら介護・福祉事業所のDX化2026|IT導入補助金で介護記録を完全デジタル化が近い話です。送迎車両を使う事業所なら送迎バス安全装置の設置補助金2026|介護施設の義務化対応と申請手順のように、設備の義務化と補助が組みになっている制度もあります。届出の準備と並行して確認しておくと、開設の初期費用を抑えられます。

賃貸借契約の中身も、届出の前に一度読み直しておく価値があります。住居用として借りた部屋を事務所として使うと、契約違反になることがあります。法人名義で借りるのか、個人名義のまま会社が使うのかでも扱いが変わります。登記簿に載せる住所として使ってよいかどうかも、貸主に確認しておくべき点です。この確認を飛ばしたまま登記まで進めると、後から住所を変えることになり、本店移転や支店移転の登記で追加の登録免許税がかかります。

もう1つ、郵便物の受け取り方も先に決めておいてください。税務署、都道府県、市町村、年金事務所、労働基準監督署。届出を出した先からは、通知書や納付書が順に届きます。新しい事業所を届出の住所にしたのに、そこに人が常駐していないと、重要な通知を取り逃がします。納付書を見落とすと延滞になるので、誰がいつ郵便を確認するかを決めてから届出を出すのが安全です。

出し忘れると何が起きるか

期限を過ぎたらどうなるのか。制度ごとに重さが違います。

いちばん重いのが労働保険です。厚生労働省の説明によれば、指導を受けても自主的に成立手続を行わない事業主に対しては、行政庁の職権による成立手続と労働保険料の認定決定が行われます。その際はさかのぼって労働保険料を徴収されるほか、追徴金も徴収されます。

さらに厳しい扱いがあります。事業主が故意または重大な過失で労災保険の保険関係成立届を出していない期間中に労働災害が起き、労災保険給付が行われた場合は、さかのぼった保険料と追徴金に加えて、労災保険給付に要した費用の全部または一部を徴収されます。労災は金額が大きくなりやすいので、ここは会社の存続に関わります。

登記の懈怠も軽くはありません。会社法第976条は、登記を怠ったときなどに該当する場合、取締役等を百万円以下の過料に処すると定めています。過料は会社ではなく代表者個人に科されます。支店設置の登記を忘れたまま何年も経つと、別の登記をするときにまとめて指摘されることがあります。

税務の届出は、出し忘れても直ちに罰則があるわけではありませんが、納付先や課税関係がずれたままになるので、後から修正する手間が発生します。特に地方税は、自治体が事業所の存在を把握した時点でさかのぼって課税されるため、数年分の均等割をまとめて請求されることがあります。

届出の前に揃えておくもの

期限の短い届出があるので、書類を書き始めてから資料を探すと間に合いません。手元に先に置いておくものを並べます。

登記事項証明書。年金事務所へ出す分は、提出日からさかのぼって90日以内に発行されたものが必要です。金融機関で口座の手続きをするときにも求められるので、支店を登記するなら登記の完了後に数通まとめて取っておくと、取り直しの手間が減ります。取るのが早すぎると90日を過ぎて使えなくなるため、開設日の直前に取るのが現実的です。

会社の実印と代表者の印鑑証明書。登記の申請と、金融機関の手続きで使います。印鑑証明書にも有効な期間の定めを置いている窓口があるので、こちらも取る時期に気をつけてください。

賃貸借契約書の写し。労働保険や社会保険の届出で、事業所の実在を確かめる資料として求められることがあります。住居用として借りた部屋を事務所に使うと契約に反する場合があるので、契約書は届出の前にもう一度読んでおくほうが安全です。

新しい拠点で働く人の情報。氏名、生年月日、住所、基礎年金番号または個人番号、雇用保険の被保険者番号、給与の額、雇い入れの日。社会保険の届出は資格取得届と同時に出す決まりなので、従業員の情報が揃っていないと届出そのものが出せません。前職で雇用保険に入っていた人は、被保険者番号を前職の離職票などから拾います。

給与の締め日と支払日を決めた社内の書類。源泉所得税の納付先や納付の時期に関わるので、開設前に決めておきます。給与の事務を本店に集約するのか、新しい拠点で扱うのかも、ここで確定させます。

事業所の名称と所在地の表記。届出をまたいで同じ表記を使わないと、後から突き合わせるときに別の事業所と読まれます。建物名と部屋番号まで含めた正式な表記を1つ決めて、すべての書類でそれを使ってください。

拠点ごとに毎年くり返される事務

届出は開設のときだけの作業ですが、その後は毎年の事務が拠点の数だけ増えます。開設の判断をする前に、何がくり返されるのかを把握しておくと、あとで慌てません。

労働保険の年度更新。1年分の保険料を精算して、次の1年分を申告し直す手続きです。事業所ごとに保険関係が成立しているので、拠点を増やせばその分の申告が増えます。

社会保険の定時決定。毎年決まった時期に、従業員の給与の実績をもとに保険料の基礎となる金額を決め直します。これも事業所ごとの手続きです。

源泉所得税の納付と年末調整。給与の事務をその拠点で扱っているなら、納付も年末調整もその拠点の分として動きます。本店に集約していれば、この分は増えません。拠点を増やすときに給与の事務を本店へ寄せておく利点は、ここに出ます。

市町村への給与支払報告書。従業員が住んでいる市町村ごとに出すので、拠点の場所ではなく従業員の住所の数だけ相手が増えます。

償却資産の申告。事業所に置いた機械や備品などの資産について、市町村へ申告する制度です。新しい拠点に設備を入れたなら、その市町村への申告が加わります。

法人住民税の均等割。赤字でも発生し、事業所がある自治体ごとにかかります。都道府県分と市町村分の両方なので、拠点を1つ増やすと納付先が2つ増えます。

どれも時期が決まっているので、開設した年に一度、社内のカレンダーへ入れてしまうのが確実です。具体的な時期と様式は制度と自治体で違うため、初年度に窓口で確認して、その内容をそのまま記録に残しておいてください。2年目以降は同じことをくり返すだけになります。

移転や廃止のときは、同じ窓口を逆にたどる

拠点を閉じる、あるいは移すときも、開設のときと同じ6つの窓口が関係します。開設の届出だけ出して、閉じるときの届出を忘れる会社が少なくありません。

登記した支店を移すなら、本店の法務局で支店移転の登記をします。登録免許税は1箇所につき3万円です。支店を廃止する場合も本店の法務局での登記が必要で、こちらは登記事項の変更等として1件につき3万円がかかります。支店の所在地での登記は令和4年9月1日で廃止されているので、移転先の法務局へ行く必要はありません。

税務署には、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書を出します。開設と移転と廃止が1つの様式にまとまっているので、書類を探す手間はありません。移転の場合の提出先は、移転前の事務所の所在地を管轄する税務署です。ここは開設のときと逆になるので、間違えやすいところです。

地方税では、事業所を廃止した自治体へ届出を出します。これを忘れると、事業所がもうないのに均等割の納付書が届き続けます。届いた納付書を放置すると延滞の扱いになるので、閉じた時点で必ず出してください。

労働保険と社会保険も、事業所を廃止した旨の届出が要ります。従業員を別の拠点へ移すのか、退職になるのかで出す書類が変わるため、動かす前に労働基準監督署と年金事務所に手順を確認しておくほうが確実です。

勘違いしやすい5つ

最後に、相談の場で実際に出てくる思い違いを挙げます。

1つ目は、事業所開設届出という1枚の書類があると思ってしまうこと。窓口ごとに名前も様式も違う別々の届出です。まとめて出せる窓口はありません。

2つ目は、登記しなければ何も出さなくてよいと思ってしまうこと。地方税と労働保険と社会保険は、登記の有無ではなく人が働く場所があるかどうかで判断されます。営業所として運営しても、これらの届出は必要です。

3つ目は、支店の所在地の法務局にも登記が要ると思ってしまうこと。令和4年9月1日で廃止されました。申請しても却下されます。古い解説記事を読んで二重に申請しかけるのが、いまいちばん多い勘違いです。

4つ目は、給与支払事務所等の開設届出書を本店の税務署に出してしまうこと。提出先は新しい事業所の所在地を管轄する税務署です。ただし、その拠点で給与の事務を扱わないなら、この届出自体が要りません。

5つ目は、社会保険の5日という期限に開設後から動けば間に合うと思ってしまうこと。登記簿謄本と従業員全員の情報を揃えてから出す届出なので、開設してから準備を始めると確実に遅れます。書類は開設日より前に作り終えておいてください。

事業所を増やす前に確かめておきたいこと

届出の話とは別に、開設の判断そのものについて、在宅ワークと業務委託の市場を20年見てきた運営者の視点から触れておきます。

運営者として見てきた限りでは、拠点を増やした会社が後から重く感じるのは、家賃でも登記費用でもなく、拠点ごとに増える事務のほうです。均等割、労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届。1拠点なら年に数回で済む作業が、拠点の数だけ並びます。人を増やさずに拠点だけ増やすと、この事務が既存の担当者に積み上がります。

その流れの中で、固定の拠点を持たずに人を確保する形を選ぶ会社が増えています。業務委託で外部の専門家に頼めば、事業所を増やさずに仕事の量を増やせます。中間に立つ会社が何割か抜く仕組みを通すと、同じ予算で頼める量が減り、受ける側の手取りも薄くなります。手数料0%の直接取引なら、発注する側は同じ予算でより多く頼め、受ける側は手取りが厚くなる。長く同じ相手と続いている会社ほど、この構造を理解して相手を選んでいます。

外部に頼むときの相場感を持っておくと、拠点を作るのと委託するのとを同じ物差しで比べられます。開発の仕事ならソフトウェア作成者の年収・単価相場に全国平均と都道府県別の水準が並んでいます。資料作成や文章の仕事が中心なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場のほうが近い数字です。地域ごとの差が見えるので、どこに拠点を置くかを考えるときの人件費の目安にもなります。

拠点を増やすより先に、外部の力で回せる領域を洗い出すのも手です。社内の業務を生成AIで組み替えるならAIコンサル・業務活用支援のお仕事が扱う範囲が参考になりますし、技術と事業の両方に手が届く人を探すならAI・マーケティング・セキュリティのお仕事が近い領域です。自社のシステムを作り込むならアプリケーション開発のお仕事が直接の受け皿になります。

拠点を増やす判断そのものを客観的に検証したいなら、経営全体を見る視点を持つ人に相談する方法もあります。中小企業診断士は事業計画と経営分析を扱う国家資格で、拠点展開の是非を数字で検証する場面に向いています。医療や介護の事業所を増やすなら、レセプトや事務のルールに通じた人材が要るので医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)のような資格を持つ人を採用の基準に置く事業者もあります。

最後に、この記事の内容は公開時点の公式の記載に基づいています。自治体ごとの様式や提出期日、業種ごとの許認可の要件は個別に違うので、実際に動く前に管轄の窓口で確認してください。税務や社会保険の個別の判断は、金額や事情で扱いが変わります。判断に迷う部分は税務署、年金事務所、労働基準監督署、または税理士や社会保険労務士に確認するのが確実です。

よくある質問

Q. 事業所開設届出という名前の書類はどこでもらえますか?

その名前の全国共通の書類はありません。実際に出すのは、法務局への支店設置の登記、税務署への給与支払事務所等の開設届出書、都道府県と市町村への法人設立・設置届出書、労働基準監督署への保険関係成立届、ハローワークへの雇用保険適用事業所設置届、年金事務所への新規適用届です。自治体によっては地方税の書類を事業所開設申告書と呼ぶことがあります。

Q. 支店を出すと法務局に2回申請が必要ですか?

必要ありません。令和4年9月1日から支店の所在地における登記は廃止され、本店の所在地の法務局に1件申請すれば足ります。法務省は、支店の所在地に申請しても商業登記法第24条第2号により却下されると案内しています。ただし本店側での支店の設置、移転、廃止の登記は引き続き必要です。

Q. いちばん急がなければならない届出はどれですか?

健康保険・厚生年金保険新規適用届です。日本年金機構の説明では事実発生から5日以内とされています。次に短いのが労働保険の保険関係成立届で10日以内です。年金事務所には発行から90日以内の登記簿謄本を添えるので、支店を登記する場合は開設日より前に登記を終えておく必要があります。

Q. 費用はいくらかかりますか?

届出そのものに手数料はかかりません。かかるのは支店設置の登記の登録免許税で、国税庁の税額表では1箇所につき6万円です。これに登記事項証明書と印鑑証明書の交付手数料が実費として加わります。専門家に依頼する場合の報酬は事務所ごとに差が大きいので、複数から見積もりを取って比べるのが確実です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年1月13日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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