取締役を選んだ株主総会の議事録|承諾書とセットで作る


この記事のポイント
- ✓取締役選任の株主総会議事録を作るときに必要な記載項目
- ✓印鑑証明書が要る場合と要らない場合
- ✓株主リストの作り方までを
取締役選任の株主総会議事録を探している人が最後につまずくのは、議事録の書き方そのものではない。議事録だけ持って法務局に行っても登記が通らない、というところだ。結論を先に書く。取締役の選任では、議事録に加えて就任承諾書、株主リスト、そして場合によっては印鑑証明書か本人確認証明書が要る。しかもこの「場合によって」の分かれ方が、取締役会を置いているかどうかで変わる。この記事では、議事録に書くべき項目を条文どおりに並べたうえで、一緒に作る書類がどこで必要になるかを整理する。
取締役を選ぶのは株主総会。定足数の扱いが少し特殊
まず前提を確認する。会社法は、役員および会計監査人は株主総会の決議によって選任すると定めている。ここでいう役員には取締役、会計参与、監査役が含まれる。取締役会で取締役を選ぶことはできない。取締役会が選ぶのは代表取締役であって、取締役そのものではない。
決議要件は、普通決議に近いが完全に同じではない。役員を選任し、または解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数、定款で3分の1以上の割合を定めた場合はその割合以上を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
通常の普通決議であれば、定足数は定款で完全に外すこともできる。ところが役員の選任と解任だけは、定款で下げられるのが3分の1までと決まっている。役員人事の決議だけは、あまりに少ない株主で通せないようにしてある、という作りだ。
この違いを知らないまま、自社の定款にある「当会社の株主総会の決議は、法令に別段の定めがある場合を除き、出席した株主の議決権の過半数をもって行う」という一文を役員選任にも当てはめてしまうと、議事録の定足数の書き方が実態と食い違う。定款に定足数を3分の1とする定めがあるかどうかは、議事録を書く前に確認しておきたい。
議事録に定足数の記載を入れるのは、法令が名指しで求めているからではない。会社法施行規則が求めているのは「株主総会の議事の経過の要領及びその結果」で、その中に「決議が成立するだけの出席と賛成があったこと」が読み取れる必要があるためだ。総議決権数、出席株主の議決権数、賛成した議決権数のどれかが抜けていると、登記の添付書類として使ったときに補正の連絡が来ることがある。
議事録に必ず入れる6つの項目
会社法は、株主総会の議事については法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければならないと定めている。その法務省令が会社法施行規則で、書くべき内容を次のように並べている。
・株主総会が開催された日時および場所。その場所に存しない取締役、執行役、会計参与、監査役、会計監査人または株主が出席した場合は、その出席の方法も含む ・株主総会の議事の経過の要領およびその結果 ・一定の規定により株主総会において述べられた意見または発言があるときは、その内容の概要 ・株主総会に出席した取締役、執行役、会計参与、監査役または会計監査人の氏名または名称 ・株主総会の議長が存するときは、議長の氏名 ・議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
実務でいちばん落ちるのは下の2つだ。議長の氏名と、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名。どちらも「誰が」を特定する項目で、他社のひな形をそのまま使うと最後の署名欄だけ埋めて本文に書き忘れる。条文が名指しで求めている項目なので、抜けていると添付書類として弱くなる。
オンラインで参加した人がいる場合の書き方も押さえておきたい。条文は「当該場所に存しない取締役、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含む」としている。「取締役〇〇はウェブ会議システムにより出席した」の1行で足りる。
なお、書面で全員の同意を取って総会を開かない形、いわゆる書面決議で取締役を選ぶこともできる。取締役または株主が提案をした場合に、議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する旨の決議があったものとみなされる。この場合の議事録には、決議があったものとみなされた事項の内容、提案をした者の氏名または名称、決議があったものとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名の4点を書く。議長も定足数も登場しない。
取締役選任の議事録ひな形
開催して決議した場合の骨組みは次のとおり。定時総会でも臨時総会でも構造は同じで、表題と報告事項の有無が変わるだけだ。
臨時株主総会議事録
1 日時 令和〇年〇月〇日 午前10時00分から午前10時30分まで
2 場所 当会社本店会議室
(東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号)
3 出席者
発行済株式の総数 1,000株
議決権を行使することができる株主の数 3名
総株主の議決権の数 1,000個
出席株主の数(委任状による者を含む) 3名
出席株主の議決権の数 1,000個
4 出席役員 取締役 〇〇 〇〇
取締役 △△ △△
5 議長 取締役 〇〇 〇〇
議長は、上記のとおり定足数を満たしている旨を述べ、
本総会の開会を宣し、議事に入った。
第1号議案 取締役2名選任の件
議長は、取締役全員が本総会終結の時をもって任期満了と
なるため、改めて取締役2名を選任したい旨を述べ、その
選任方法を議場に諮ったところ、出席株主全員の賛成を
得たので、議長は次の者を指名し、その可否を議場に諮った
ところ、出席株主の議決権の全員一致をもってこれを承認
可決した。
取締役 〇〇 〇〇(再任)
取締役 △△ △△(新任)
なお、被選任者はいずれも席上その就任を承諾した。
以上をもって本総会の全議案の審議を終了したので、
議長は午前10時30分閉会を宣した。
上記の決議を明確にするため、この議事録を作成する。
令和〇年〇月〇日
株式会社〇〇 臨時株主総会
議事録の作成に係る職務を行った取締役 〇〇 〇〇 印
最後の1行が、施行規則の「議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名」に対応する。単に「議長 〇〇 〇〇」とだけ書いて終わらせているひな形も世の中にはあるが、その形だと作成者の項目が埋まらない。
就任承諾書はなぜセットで要るのか
ここからが本題になる。株主総会が「この人を取締役にする」と決めただけでは、その人は取締役にならない。会社側の選任と、本人側の承諾。この2つがそろって初めて就任する。契約と同じ構造だ。
だから登記の添付書類としても、議事録とは別に「取締役が就任を承諾したことを証する書面」が求められる。就任承諾書と呼ばれる1枚だ。中身は簡潔でよく、次の程度で足りる。
就任承諾書
このたび、令和〇年〇月〇日開催の貴社臨時株主総会に
おいて貴社の取締役に選任されましたので、その就任を
承諾いたします。
令和〇年〇月〇日
住所 東京都〇〇区〇〇2丁目2番2号
氏名 △△ △△ 印
株式会社〇〇 御中
住所を書くことには理由がある。後述する本人確認証明書は、就任承諾書に書いた氏名と住所が、住民票などの公的な証明書と一致していることを確かめるための書類だからだ。氏名だけ書いた就任承諾書だと、この突き合わせができない。
実務では、議事録に「被選任者はいずれも席上その就任を承諾した」と書いておき、就任承諾書の代わりに議事録を使う扱いが知られている。ただしこの方法が使えるかどうかは、印鑑証明書や本人確認証明書の要否と絡んで条件が変わる。自社のケースで省略できるかは、管轄の法務局に事前に確認したほうが確実だ。書類が1枚足りないだけで登記が数日遅れる。
印鑑証明書が要る取締役と、要らない取締役
ここが取締役選任でいちばん間違えやすい部分になる。商業登記規則は次のように定めている。
取締役の就任、再任を除く、による変更の登記の申請書に添付すべき取締役が就任を承諾したことを証する書面に押印した印鑑について、市町村長の作成した証明書を添付しなければならない。つまり就任承諾書に個人の実印を押し、その印鑑証明書を付ける。
ところが同じ条文に読み替えの規定がある。取締役会設置会社における適用については、「取締役」とあるのは「代表取締役又は代表執行役」とする。
言い換えると、こうなる。
・取締役会を置いていない会社では、取締役全員の就任承諾書に実印と印鑑証明書が要る ・取締役会を置いている会社では、印鑑証明書が要るのは代表取締役だけで、それ以外の取締役には要らない
取締役会を置いていない小さな会社のほうが、書類の手間が重くなる。直感に反するが、条文はそう書いている。取締役会がある会社では取締役会という機関が本人性を担保している、という考え方になっている。
自社が取締役会設置会社かどうかが分からない場合は、登記事項証明書を見れば分かる。取締役会を置いている会社には「取締役会設置会社に関する事項」という欄があり、「取締役会設置会社」と記録されている。この欄がなければ取締役会は置いていない。定款を探すより確実で早い。取締役が3人以上いるからといって取締役会があるとは限らない点にも注意したい。取締役会を置くには定款にその定めが要る。
判断がそこで決まるので、議事録を書き始める前に登記事項証明書を1通取っておくと、あとの工程で迷わない。現在事項証明書なら記載量も少なく、窓口でもオンラインでも取得できる。
もう1つ、「再任を除く」という括弧が効く。任期満了で同じ人がそのまま再任される場合は、印鑑証明書は要らない。中小企業で2年ごとに同じ顔ぶれが選ばれ直しているようなケースでは、この括弧のおかげで毎回の実印取得を免れている。
印鑑証明書が要らない人には、本人確認証明書が要る
印鑑証明書が不要なら何も要らない、というわけでもない。商業登記規則は続けてこう定めている。
設立の登記または取締役、監査役もしくは執行役の就任、再任を除く、による変更の登記の申請書には、就任を承諾したことを証する書面に記載した氏名および住所と同一の氏名および住所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書を添付しなければならない。ただし、印鑑証明書を添付する場合はこの限りでない。
これが本人確認証明書だ。住民票の写し、戸籍の附票、住基カードの写し、運転免許証の写しに本人が原本証明をしたものなどが該当する。原本と相違がない旨を記載した謄本を含む、と条文にあるので、免許証のコピーに「原本と相違ありません」と記して署名する形でも足りる。
整理すると、新しく取締役になる人については次のどちらかが必ず要る。
・実印を押した就任承諾書と印鑑証明書 ・認印でよいが、氏名と住所が一致する本人確認証明書
そして再任の場合はどちらも要らない。取締役会設置会社の平取締役なら、新任でも本人確認証明書だけで済む。
なお、この扱いは株式会社の取締役の場合の整理であり、監査役や執行役、設立時の役員では条件が変わる部分がある。機関設計が特殊な会社では、管轄の法務局か司法書士に確認したほうが早い。
株主リストを忘れない
添付書類はもう1枚ある。法務省は、株主リストが必要となる場合について次のように案内している。
登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合 登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合 出典: moj.go.jp
取締役の選任は株主総会の決議で行うので、1つ目に当てはまる。つまり取締役選任の登記では株主リストが必ず要る。
書く相手の範囲は決まっている。議決権数の上位10名の株主か、議決権割合が3分の2に達するまでの株主か、いずれか少ない方だ。3分の2に達するまでの株主は、議決権割合の多い順に加算していく。
記載するのは、株主の氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数割合の5点で、これを代表者が証明する。自己株式のようにその事項について議決権を行使できない株式を持つ株主は除くが、総会を欠席した株主や議決権を行使しなかった株主は含める。ここは間違えやすい。株主リストは「出席者の名簿」ではなく「株主の名簿」だ。
法務省のページでは簡易書式の記載例も公開されている。株主が3人程度の会社なら、この簡易書式に数字を入れるだけで済む。
任期の数え方と、議事録が必要になるタイミング
取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされている。定款または株主総会の決議で短くすることはできる。
そして公開会社でない株式会社、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除く、では、定款によってこの任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸ばすことができる。株式に譲渡制限を付けている中小企業の多くが、この10年を採用している。
10年にしておくと登記の回数が減るので費用は浮く。ただし、途中で役員を変える必要が出たときに辞任や解任の手続が要る点、そして10年経ったときに全員が一斉に任期満了になる点は押さえておきたい。任期満了を忘れたまま放置すると、登記を怠ったことになる。
登記の期限も決まっている。法務局は、株式会社の役員変更登記の場合、登記の事由が発生した時から本店の所在地において2週間以内にしなければならないと案内している。
登記すべき期間内に登記を怠り、その後に登記申請をする場合であっても、そのことだけをもって申請が却下されることはありませんが、会社・法人の代表者に対して、裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります。 出典: houmukyoku.moj.go.jp
遅れても受け付けてはもらえるが、代表者個人にリスクが残る。さらに法務局は、最後の登記から12年を経過している株式会社はみなし解散の登記の対象になるとも案内している。任期10年にしていると、この12年が意外と近い。
登録免許税は、登録免許税法の別表で取締役や代表取締役に関する事項の変更登記が1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円と定められている。収入印紙で納めるときは割印をしないで貼る。割印をするとその印紙は使えなくなる。
議事録の原本は会社で10年間保存する必要があるので、原本還付を請求するのが通常だ。法務局は、原本をコピーしたものに申請書に押印した人が「原本に相違ありません。」と記載して記名したものを、原本とともに提出するよう案内している。
議事録がそろったあと、申請書をどう出すか
書類が整ったら変更登記の申請になる。法務局は申請の方法として、オンライン申請と書面申請の2つを案内している。書面申請にはさらに、通常の書面申請のほかにQRコード付き書面申請という方法がある。電子証明書を持っていない場合でもオンライン申請と同様の利点があるとされており、申請用総合ソフトを使える環境なら検討する価値がある。
申請書に書く内容で迷いやすいのは「登記の事由」と「登記すべき事項」だ。登記の事由には「取締役の変更」と書き、登記すべき事項には就任した取締役の氏名と就任年月日、退任した取締役の氏名と退任年月日および退任の理由を書く。就任年月日は総会の日ではなく、本人が承諾した日になる。総会の席上で承諾したなら総会の日と同じになるが、後日書面で承諾を得た場合はその日だ。
法務局は、申請で間違いやすい点をいくつか挙げている。申請書に会社の本店所在地、商号、代表者の住所、代表者の氏名を書いたか。登記原因が将来の日付になっていないか。日中つながる電話番号を書いたか。申請書が2枚以上にわたるときは各ページのつづり目に契印をしたか。訂正は二重線と押印で行い、修正液で消していないか。どれも単純だが、抜けると補正の連絡が来て数日失う。
補正という仕組みについても触れておく。法務局は、必要な添付書面が不足している、申請書や添付書面に記載した内容に誤りがあるといった不備があった場合には、登記所から申請人または代理人に連絡すると案内している。逆に言えば、登記完了予定日まで連絡がなければ補正はなく手続が完了したということになる。完了予定日は管轄法務局のホームページで確認できる。
なお、登記の申請から手続が完了するまでの間は、原則としてその会社の登記事項証明書と印鑑証明書が発行されない。金融機関の手続や入札で証明書が要る予定があるなら、登記の申請時期をそれと重ねないほうがいい。ここは意外と見落とされる。
選任から登記完了までを日付で追う
書類の点数が多い手続きなので、時間の流れで並べておく。3月決算の会社が6月の定時株主総会で取締役を選び直す場合を例にする。
5月下旬。登記事項証明書を1通取り、取締役会設置会社かどうか、現在の取締役の就任年月日、任期が切れる時期を確かめる。ここで機関設計が確定するので、あとの判断が全部決まる。定款も開いて、役員選任の定足数を3分の1にする定めがあるかを見る。
6月上旬。新任の取締役が入るなら、その人に印鑑証明書か本人確認証明書のどちらを用意してもらうかを伝える。印鑑証明書は作成後3か月以内のものを求められるのが通常なので、この時期に取ってもらえば総会後の申請に間に合う。全員が再任ならこの工程はない。
6月下旬。定時株主総会を開く。議事録には議長の氏名と、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を両方入れる。被選任者が席上で就任を承諾したなら、その一文を落とさない。株主リストもこの日の株主構成で作る。
総会の翌日以降。登記を申請する。総会の日より前に出すことはできない。期限は総会の日から2週間で、就任年月日は本人が承諾した日になる。
申請から1週間前後。登記が完了する。完了予定日は管轄の法務局が公表している。その日まで連絡がなければ、書類に不備はなかったということだ。
完了後。登記事項証明書を1通取り、役員の欄が意図したとおりに記録されているかを確かめる。ここまでで一区切りになる。
なお、申請から完了までの間は、その会社の登記事項証明書と印鑑証明書が原則として発行されない。融資の申込みや入札の予定が入っている月は、申請の時期をずらすか、先に証明書を取っておく。
費用の内訳と、印紙の扱い
資本金1億円以下の会社で、取締役を2人選び直し、うち1人が新任という場合の内訳を並べる。
・登録免許税 1万円。役員に関する事項の変更の登記は、登録免許税法の別表で1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円とされている ・新任者の個人の印鑑証明書 数百円。市区町村によって額が違う。本人確認証明書で済む場合は、住民票の写しの手数料または免許証のコピー代だけになる ・事前確認用の登記事項証明書 1通600円。オンラインで請求して窓口で受け取ると490円、郵送してもらうと520円 ・完了確認用にもう1通取るなら同額 ・会社の印鑑証明書が必要な場面では1件500円。オンラインで請求すると420円、郵送を求めると450円
自分で申請するなら、合計で1万2,000円前後に収まる。司法書士に頼む場合の報酬は事務所ごとに決まるので一律ではない。
登録免許税は収入印紙で納めるのが一般的で、収入印紙貼付台紙に貼る。ここで割印を押してはいけない。消印の作業の都合で右側に寄せて貼るよう案内されている。印紙を汚したり、割印を押したりすると、その印紙は使えなくなる。台紙を含めて申請書が複数ページになったら、つづり目に契印をする。契印に使うのは申請書に押したのと同じ印鑑、つまり代表取締役が登記所に届け出た印鑑である。
印鑑証明書が要る場所は、代表取締役の選び方で3通りに分かれる
取締役の選任と同時に代表取締役が就任する場合は、もう1つ別の条文が働く。商業登記規則61条6項は、代表取締役の就任による変更の登記について、次の3つの場合に応じてそれぞれの印鑑の証明書を添付しなければならないとしている。
株主総会の決議で代表取締役を定めた場合は、議長および出席した取締役が株主総会の議事録に押した印鑑。取締役の互選で定めた場合は、取締役がその互選を証する書面に押した印鑑。取締役会の決議で選定した場合は、出席した取締役および監査役が取締役会の議事録に押した印鑑である。
そして同項には、ただし書きが付いている。その印鑑と、変更前の代表取締役が登記所に提出している印鑑とが同一であるときは添付しなくてよい、という定めだ。実務ではここが効く。前の代表取締役がそのまま総会や取締役会に出席して会社の実印を議事録に押していれば、ほかの出席者の印鑑証明書は要らない。代表者が交代しない再任の場面では、この形でほとんど片付く。
逆に、代表取締役が交代して、前の代表者が議事録に会社の実印を押していない場合は、出席した取締役全員の個人の印鑑証明書が必要になる。総会の場でそれを知ると、全員に取りに行ってもらうことになる。開く前に確かめておきたい。
監査役も同じ日に選び直す場合
監査役を置いている会社では、任期の長さが違うことに注意する。会社法336条1項は、監査役の任期を選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとしている。2項で、公開会社でない株式会社は定款によって選任後10年以内まで伸ばせるとされている。
取締役が2年、監査役が4年という原則のままだと、両者の満了する年がずれる。取締役だけを選び直す年と、両方を選び直す年が交互に来るので、議案の数と登記の事由が年によって変わる。任期を両方10年にしている会社では、10年ごとに一斉に満了する。
監査役の登記には、もう1つ固有の項目がある。監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある会社では、その旨が登記事項になる。中小企業ではこの定めを置いている会社が多い。登記事項証明書に「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある」と記録されているかどうかを、申請書を書く前に確かめておく。
新任の監査役については、本人確認証明書が必要になる。印鑑証明書を添付する場合はそれで足りるが、監査役の新任に印鑑証明書を求める定めは置かれていないので、実際には本人確認証明書を用意することになる。
登記事項証明書は4種類ある。どれを取るか
窓口で「登記簿をください」と言うと現在事項証明書が出てくることが多いが、商業登記規則30条は4種類を用意している。目的によって取るものが変わる。
現在事項証明書には、現に効力を有する登記事項、会社成立の年月日、取締役や代表取締役などの就任の年月日、商号と本店の変更に係る事項で現に効力を有するものの直前のものが載る。取締役会設置会社かどうかの確認と、現在の役員の就任日を見るだけならこれで足りる。
履歴事項証明書には、現在事項に加えて、請求日の3年前の日の属する年の1月1日から請求日までの間に抹消された登記事項と、その期間に登記された事項で現に効力を有しないものが載る。過去の役員の入れ替わりを追いたいときはこちらになる。ただし3年より前に消えた記録は載らない。
閉鎖事項証明書は、閉鎖した登記記録に記録されている事項である。合併や解散で閉じた記録を見るときに使う。
代表者事項証明書は、会社の代表者の代表権に関する登記事項で現に効力を有するものだけが載る。代表者が誰かを示すだけで足りる場面、たとえば取引先に代表権の証明を求められたときに、ほかの情報を出さずに済む。
任期の確認のために取るなら、現在事項証明書で足りる。役員の履歴を整えたい場合は履歴事項証明書を選ぶ。どちらも手数料は同じで、窓口や郵送の請求なら1通600円である。
書き損じたときの直し方
手書きで作ると必ず起きるので、直し方も決まっている。商業登記規則48条は、申請書その他の登記に関する書面に記載する文字は字画を明確にしなければならないとし、2項で訂正の方法を定めている。
文字を訂正、加入、削除したときは、その旨とその字数を欄外に記載するか、訂正や削除をした文字に括弧その他の記号を付して範囲を明らかにし、字数を記載した部分または記号を付した部分に押印する。そしてこの場合において、訂正または削除をした文字はなお読むことができるようにしておかなければならない、と書かれている。
最後の一文が、修正液や修正テープを使えない理由である。消してしまうと、元の文字が読めなくなる。二重線で消して近くに正しい文字を書き、押印するのが正しい直し方だ。
押す印鑑は書面ごとに違う。申請書を直すなら申請書に押した印鑑、議事録を直すならその議事録に押した印鑑である。商業登記規則35条の2は、申請人またはその代表者が申請書に押印する場合には登記所に提出している印鑑を押印しなければならないとし、委任による代理人の権限を証する書面、つまり委任状にも同じ印鑑を押すとしている。認印で直すと、それ自体が直しの対象になる。
20年この市場を見てきた立場からの観察
在宅ワークとフリーランスの市場を長く運営してきた立場から見ると、役員変更の書類でつまずく会社には共通の型がある。「書類が難しい」のではなく「思い出すのに時間がかかる」のだ。
任期を10年にしている会社は、10年に1度しかこの作業をしない。前回やったときの担当者はもういないか、代表者自身がやったとしても手順を完全に忘れている。結果、議事録1枚のために半日から1日を使うことになる。
長く続いている会社を見ると、書類そのものを覚えているわけではない。前回の一式をフォルダにまとめ、何をどの順で出したかのメモを1枚添えている。次に使うのは何年も先だと分かっているから、未来の自分に向けた引き継ぎを先に作ってある。
外部に頼む判断も現実的になっている。事務代行や書類作成を業務委託で受ける人は増え、月に数時間だけ頼む形も一般的になった。ここで効くのは取引の構造だ。仲介手数料が乗らない直接の取引なら、同じ予算で依頼側はより多くを頼めるし、受ける側の手取りは厚くなる。安く買い叩くという話ではなく、支払った金額のうち実際に働いた人に届く割合が変わる。手数料0%の取引が続きやすいのはこの点で、同じ人に継続して頼めるようになると、年に1度しか出番のない書類ほど品質が安定する。
頼む相手をどう選ぶか、相場と資格から逆算する
自分でやるか外に出すかは、作業時間を金額に置き換えると判断しやすい。
文書の作成を担う職種の水準は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で職種単位に確認できる。議事録や社内規程の整備は、この領域と重なる仕事だ。自分の時間単価がこれを上回るなら、外に出したほうが会社としての採算は合う。
書式を扱う基礎力の目安としては、ビジネス文書検定が分かりやすい。社内文書の形式や敬語、構成を体系的に扱う検定で、事務代行を頼む相手を選ぶときの材料になる。資格が仕事の質を保証するわけではないが、何を学んだ人かは判断できる。
役員変更の手続を社内の業務フローとして組み直したい場合は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事が扱う領域に近い。年に1度しか動かない手続ほど属人化するので、書式と手順をセットで外部の目に整理してもらう価値がある。
契約や社内文書のセキュリティまで含めて見直すなら、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事の領域が参考になる。役員の住所や印鑑証明書のような個人情報を扱う以上、保管の仕方も同時に決めておきたい。
外注先との取り決めを書面で固める重要性については、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに発注書と契約書の必須項目がまとまっている。社内の議事録を整えるタイミングは、外との書面を見直す好機でもある。
提出前に確かめる項目
最後に、取締役選任の登記を出す直前に確認したい点を並べておく。
議事録に議長と作成者の氏名が両方書いてあるか。署名欄だけで本文に書いていないひな形が多い。
定足数の数字が自社の定款と合っているか。役員選任の定足数は定款で3分の1未満にできない。
就任承諾書の氏名と住所が、印鑑証明書または本人確認証明書と一字一句同じか。番地の表記ゆれ、丁目の漢数字と算用数字の違いで補正になる例がある。
再任かどうかを取り違えていないか。再任なら印鑑証明書も本人確認証明書も不要になる。逆に新任を再任として扱うと書類不足になる。
株主リストに欠席株主を入れているか。出席者名簿ではない。
登記の期限を過ぎていないか。選任の日から2週間が目安になる。
就任年月日を総会の日と取り違えていないか。承諾した日が就任日になる。議事録に「席上就任を承諾した」と書いてあれば総会の日と一致するが、後日の書面承諾ならその日付だ。
印鑑証明書の有効期限。就任承諾書に添付する個人の印鑑証明書は、作成後3か月以内のものを求められるのが通常だ。総会の前に取っておくと、手続が延びたときに期限切れになることがある。
同時に代表取締役も変わるかどうか。取締役の任期満了で全員が入れ替わる場合、代表取締役の地位も一度失われる。取締役の選任だけでなく代表取締役の選定まで必要になるので、議事録の議案数が変わる。
議事録は1枚だが、その1枚を生かすために必要な書類が数枚ある。作り始める前に、自社が取締役会を置いているか、その人が新任か再任か、この2つを先に確定させておくと、あとの判断がすべて決まる。
よくある質問
Q. 取締役選任の議事録だけで登記はできますか?
できません。議事録のほかに、就任承諾書と株主リストが必要です。さらに新任の取締役については、印鑑証明書か本人確認証明書のどちらかを添付します。取締役会を置いていない会社では取締役全員の印鑑証明書が要り、取締役会を置いている会社では代表取締役だけで足ります。
Q. 同じ人が任期満了で再び選ばれる場合も書類は同じですか?
再任の場合は簡単になります。商業登記規則は印鑑証明書の添付を求める対象から再任を除いており、本人確認証明書についても同様に再任は対象外です。ただし議事録と就任承諾書、株主リストは再任でも必要で、登記の期限が2週間である点も変わりません。
Q. 取締役の任期は何年ですか?
原則は選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです。株式に譲渡制限を付けている公開会社でない会社は、定款で選任後10年まで伸ばせます。10年にすると登記の回数は減りますが、任期満了を忘れやすくなる点には注意が必要です。
Q. 株主リストには誰を書けばいいですか?
議決権数の上位10名の株主か、議決権割合が3分の2に達するまでの株主か、いずれか少ない方です。氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数割合の5点を書き、代表者が証明します。総会を欠席した株主や議決権を行使しなかった株主も含める点に注意してください。
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編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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