みなし決議で株主総会を省くときの書類|全員の同意が条件

丸山 桃子
丸山 桃子
みなし決議で株主総会を省くときの書類|全員の同意が条件

この記事のポイント

  • 株主総会みなし決議議事録を作る前に確かめることを整理した
  • みなし決議が成立する条件
  • 議事録に書く4項目と通常の議事録との違い

株主総会を開かずに決めた。だから議事録もそれ用の形で作らないといけない。ここまでは分かっていても、実際に手を動かすと「自社はこの制度を使ってよいのか」という手前の問題で止まる人が多い。みなし決議は便利な仕組みだが、成立する条件が1つでも欠けると、決議そのものが無かったことになる。議事録という紙だけが残り、中身は空、という状態は避けたい。この記事では、みなし決議が成立する条件を先に確かめ、そのうえで議事録に何を書くのか、通常の議事録と何が変わるのか、作った書類をどう保存するのかを、会社法と会社法施行規則の記載に沿って順に整理する。

みなし決議は全員一致でなければ成立しない

みなし決議は、正式には株主総会の決議の省略という。書面決議と呼ばれることもある。条文はこう書いている。

取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。 出典: laws.e-gov.go.jp

短い条文だが、読み解く要素が4つ詰まっている。提案があること。提案の対象が株主総会で決めるべき事項であること。議決権を行使できる株主の全員が同意すること。その同意が書面または電磁的記録でなされること。この4つが揃ったときに限り、決議があったものとみなされる。

ここで多くの人がつまずくのが「全員」という言葉の重さだ。通常の株主総会なら、出席した株主の議決権の過半数で決まる議案がほとんどで、重い議案でも3分の2で可決できる。ところがみなし決議には、この多数決の考え方がない。議決権の99%を持つ株主が同意しても、残りの1人が同意しなければ成立しない。

この性質は、使い方を決める基準になる。株主が自分ひとり、あるいは家族だけという会社なら、全員の同意はほぼ自動的に揃う。だからみなし決議が圧倒的に早い。反対に、出資者として第三者が入っている会社や、親族間で意見が割れている会社では、同意を集める作業そのものが交渉になる。その場合は素直に総会を開いて多数決で決めたほうが、時間も関係も傷まない。

なお、同じ「書面」という言葉が出てくる別の制度と混同されやすいので、先に切り分けておく。書面による議決権の行使は、総会を実際に開いたうえで、出席できない株主が書面で賛否を出す仕組みだ。委任状による代理行使も、総会を開くことが前提になっている。どちらも総会を無くす制度ではない。みなし決議だけが、総会そのものを開かずに済ませる制度である。

自社で使えるか。先に確かめる5つの点

議事録の雛形を探す前に、次の5点を確認してほしい。ここで1つでも引っかかったら、みなし決議は使えないか、使う前にやるべきことがある。

1. 株主名簿が現状に合っているか。 株式を譲渡したのに名簿を書き換えていない、相続が起きたのに名義が亡くなった人のまま、という会社は実際にある。この状態で同意を集めると、本来同意すべき人から取れていないことになる。登記事項証明書で発行済株式の総数を確認し、株主名簿と突き合わせておく。

2. 議決権を行使できる株主が誰かを特定できるか。 議決権の数え方は1株につき1個が基本だが、単元株式数を定款で定めている会社では1単元につき1個になる。会社が自分で保有している自己株式には議決権がない。議決権のない種類株式を出している会社では、その株主はその議案について同意の対象から外れる。

3. 全員から同意を取れる見込みがあるか。 連絡が取れない株主がいる、反対が予想される株主がいる。どちらの場合もみなし決議は成立しない。無理に進めず、招集手続きを踏む判断に切り替える。

4. 同意を形に残せるか。 条文は書面または電磁的記録と定めている。電話や口頭での合意では要件を満たさない。署名押印した紙か、電子契約サービスの記録か、少なくとも内容と日付と本人が分かるデータが必要になる。

5. その議案がみなし決議になじむか。 毎年の計算書類の承認のような定型議案は問題ない。一方、事業譲渡や組織再編のように内容の説明を要する議案では、質問に答える場があったほうがよい。形式上は成立しても、後から「説明を受けていない」と争いの種になりうる。

5点すべてを通過したら、書類の作成に入る。順番を逆にして、先に議事録を作ってから条件を確かめると、書き直しになることが多い。

みなし決議が成立しない典型パターン

実際に形が崩れている書類を見ると、原因はだいたい次のどれかに当てはまる。

状態 何が起きるか
同意書が作られていない 議事録だけでは決議の成立を証明できない
一部の株主の同意が欠けている 決議があったものとみなされない
同意が口頭だけ 要件を満たさない
議事録の日付と同意書の日付が食い違う どの日に決議があったのか特定できない
会議を開いた前提の雛形をそのまま使っている 開催場所や議長名が書かれた矛盾した書類になる

とくに多いのが1行目だ。議事録という言葉が有名なぶん、そこだけ作って満足してしまう。みなし決議の根拠は、あくまで株主全員の同意である。同意書が無い議事録は、根拠を欠いた記録でしかない。

5行目も現場でよく見かける。市販の雛形やインターネット上のサンプルは、会議を開いた前提で作られているものが圧倒的に多い。そこへ「会社法第319条第1項の規定により決議があったものとみなされた」という一文だけを足すと、開催日時と場所が書いてあるのに開いていない、という読み方のできない書類ができあがる。どちらの形で行くかを最初に決めて、その形に必要な項目だけを書く。

議事録に書く項目は通常の総会と別物

会社法施行規則は、決議があったものとみなされた場合の議事録の内容として、次の4つを挙げている。通常の総会の場合と並べると違いがはっきりする。

項目 通常の総会 みなし決議
開催した日時と場所 書く 書かない
議事の経過の要領とその結果 書く 書かない
出席した取締役や監査役の氏名 書く 書かない
議長の氏名 書く 書かない
決議があったものとみなされた事項の内容 書かない 書く
提案をした者の氏名または名称 書かない 書く
決議があったものとみなされた日 書かない 書く
議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名 書く 書く

共通しているのは最後の1つだけだ。それ以外はほぼ入れ替わる。だから通常の議事録を修正してみなし決議用に直す、という進め方は向かない。最初から別の紙として作ったほうが早い。

実際の書き方は次のようになる。

株主総会議事録

1 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
 第1号議案 第〇期計算書類承認の件
  第〇期(令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日まで)の
  貸借対照表および損益計算書を、提示のとおり承認する。
 第2号議案 取締役の報酬額決定の件
  取締役の報酬額を年額〇〇〇万円以内とする。

2 上記事項の提案をした者
 取締役 〇〇〇〇

3 株主総会の決議があったものとみなされた日
 令和〇年〇月〇日

4 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
 取締役 〇〇〇〇

上記のとおり、会社法第319条第1項の規定により株主総会の決議が
あったものとみなされたので、本議事録を作成する。

令和〇年〇月〇日
株式会社〇〇〇〇
 取締役 〇〇〇〇 印

日付は2か所に出てくるが、意味が違う。3番の日付は、株主全員の同意が揃った日である。末尾の日付は、この議事録を作成した日だ。同意が揃った日より前に議事録を作ることはありえないので、末尾の日付は3番と同じか、それより後になる。

株主総会の議事録には、取締役会の議事録と違って会社法上の署名押印の義務はない。ただし登記の添付書類として使う場合には押印が求められる場面があるので、実務では押しておくのが通例だ。

同意書に書くこと

みなし決議の根拠となる紙である。様式は法律で決まっていないが、次の要素を入れておけば、後から見て条件を満たしたことが読み取れる。

・提案された議案の内容(議事録に書く内容と一字一句そろえる) ・提案した人の氏名と提案日 ・その提案に同意する旨 ・同意した日付 ・株主の氏名または名称、保有株式数と議決権の個数

提案書と同意書を1枚にまとめた形がよく使われる。

株主総会の決議の省略に関する提案書兼同意書

株式会社〇〇〇〇

会社法第319条第1項の規定に基づき、下記のとおり提案します。

【提案者】取締役 〇〇〇〇
【提案日】令和〇年〇月〇日

【提案の内容】
第1号議案 第〇期計算書類承認の件
 第〇期の貸借対照表および損益計算書を、提示のとおり承認する。
第2号議案 取締役の報酬額決定の件
 取締役の報酬額を年額〇〇〇万円以内とする。

上記提案の内容につき、株主として同意します。

令和〇年〇月〇日
 住所 東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号
 株主 〇〇〇〇 印
 保有株式数 〇〇株(議決権の個数 〇〇個)

株主が複数いる場合は、同じ内容の紙を人数分用意して、それぞれから署名をもらう。集まるまでに数日かかることもあるが、それ自体は問題ない。最後の1人が同意した日が、決議があったものとみなされた日になる。

議案の文言をそろえることは、地味だが効く。同意書では「報酬額を年額〇〇〇万円以内とする」と書き、議事録では「報酬の総額の上限を〇〇〇万円と定める」と書く。意味は同じでも、文字が違えば別の提案に見える。コピーして貼り付ける、という単純な作業で防げる。

決算の報告は別の条文で処理する

定時株主総会では、決議だけでなく報告も行われる。事業報告の内容を株主に報告する場面がそれにあたる。報告は決議ではないので、みなし決議の条文では処理できない。

会社法には、これに対応する別の定めがある。取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知し、その事項を株主総会に報告することを要しないことについて株主の全員が書面または電磁的記録で同意したときは、報告があったものとみなす、という内容だ。実務では報告の省略、あるいは書面報告と呼ばれる。

定時株主総会を丸ごと開かずに済ませたい場合は、この2つを組み合わせることになる。決議を要する議案についてはみなし決議、報告を要する事項については報告の省略。同意書を2枚に分けてもよいし、1枚の中に両方の同意欄を置いてもよい。

自社に事業報告の作成義務があるかどうかは、会社の規模や機関設計によって変わる。決算を依頼している税理士に確認したうえで、必要な分だけ同意を取る形にすれば足りる。

この議案はみなし決議で決められるのか

条文は「株主総会の目的である事項」と書いているだけで、議案の種類による制限は設けていない。普通決議で決める事項も、特別決議で決める事項も、株主全員の同意が揃うなら決議があったものとみなされる。特別決議だからみなし決議が使えない、ということはない。

それでも実務では、向く議案と向かない議案がはっきり分かれる。

議案 みなし決議との相性 理由
計算書類の承認 向く 毎年の定型議案。内容の説明で争いになりにくい
取締役の報酬の総額決定 向く 金額の枠を決めるだけで、手続きが軽い
取締役の選任(再任) 向く ただし就任承諾書を別に用意する
定款の変更 使えるが要注意 特別決議の事項。全員の同意が揃うかを先に確かめる
事業譲渡や組織再編 向かない 内容の説明を尽くす場があったほうがよい
役員の解任 向かない 対立が前提の議案。全員の同意は現実的に揃わない

向かない議案の共通点は、株主の間に温度差がある点だ。みなし決議は反対する人がいると成立しないので、対立のある場面ではそもそも機能しない。逆に言えば、全員の意見が揃っているときだけ使える省力化の仕組みである。

もうひとつ、議案の内容が複雑なときは、同意を求める前に説明の資料を添えておきたい。計算書類の承認なら、承認の対象となる貸借対照表と損益計算書を提案書と一緒に渡す。定款変更なら、変更前と変更後を並べた新旧対照表を付ける。同意した株主が何を見て同意したのかが残っていると、後から内容を争われたときの備えになる。

株主が自分ひとりの会社では、この手間は不要に感じるだろう。それでも、承認の対象となった決算書を議事録と同じフォルダに入れておくだけで、数年後に見返したときの手がかりになる。

同意が揃ったあとに残る作業

議事録に押印して終わり、ではない。決めた内容によっては、その先に期限のある作業が控えている。

登記。 役員の選任、本店移転、事業目的の追加、商号変更などを決めた場合は、決議があった日から一定の期間内に登記を申請する。起点は同意が揃った日だ。期限を過ぎると過料の対象になる。

税務。 役員報酬を決めた場合、毎月同額を支払う形にするなら、改定の期限がある。国税庁の説明では、その事業年度の開始の日が属する会計期間の開始の日から3か月を経過する日までに改定するのが原則とされている。賞与のようにまとめて払うものは事前の届出が必要になる。詳しい条件は役員に対する給与の説明ページで確認できるが、金額や事情で扱いが変わるため、実際に届け出る前に税務署か税理士に確認したい。

社会保険。 役員報酬の額が大きく動いたときは、社会保険料の等級も見直しの対象になる。手続きの要否や様式は会社の状況で変わるので、日本年金機構の案内で該当箇所を確かめるか、年金事務所に問い合わせる。

保管。 議事録と同意書を本店に備え置く。期間は次の章で触れる。

この4つを1枚のチェックリストにして、議事録のファイルの先頭に挟んでおくと、毎年の作業が機械的に終わる。年に1度しかやらない作業ほど、手順を紙に残しておく価値がある。

取締役会のみなし決議は条件が1つ多い

みなし決議という言葉は、取締役会についても使われる。ただし条件が違うので、株主総会と同じ感覚で進めると失敗する。

比べる点 株主総会 取締役会
定款の定め 不要 必要
同意する人 議決権を行使できる株主の全員 議決に加われる取締役の全員
追加の条件 なし 監査役設置会社では監査役が異議を述べていないこと
議事録の署名押印 会社法上の義務なし 書面で作った場合は出席した取締役と監査役が署名または記名押印

いちばん重要なのが、定款の定めの有無だ。株主総会のみなし決議は、条文の要件さえ満たせば定款に何も書いていなくても使える。一方、取締役会の決議の省略は「定款で定めることができる」という書き方になっているため、定款にその条文がなければ使えない。

自社の定款を開き、取締役会の章に決議の省略に関する条文があるかを確認してほしい。設立時に使った雛形によっては入っていない。入っていなければ、定款を変更する(株主総会の特別決議が必要になる)か、実際に取締役会を開くことになる。

監査役を置いている会社では、取締役の全員が同意しても、監査役が異議を述べた場合は決議があったものとみなされない。監査役にも提案の内容を知らせ、異議がないことを確認したうえで進める。異議がなかった旨を書面で残しておくと、後から説明しやすい。

登記で使うときに詰まりやすいところ

みなし決議で決めた内容が登記の対象になることは多い。役員の選任、本店移転、事業目的の追加、商号変更。いずれも議事録が添付書類になる。

ここで詰まりやすいのが、次の3点だ。

就任承諾の扱い。 役員を選任した場合、選ばれた本人が就任を承諾したことを示す書類が要る。会議を開いていないので「席上就任を承諾した」という書き方はそぐわない。別途、就任承諾書を作っておく。

押印と印鑑証明書。 登記の種類によっては、議事録への押印や、印鑑証明書の添付を求められる。何が必要かは議案の内容と会社の機関設計で変わるため、申請前に管轄の法務局か司法書士に確認しておくのが確実だ。商業登記の手続きの案内は法務省のサイトから法務局のページをたどって確認できる。

期限。 登記が必要な事項は、決議があった日から一定の期間内に申請しなければならない。みなし決議の場合、その起点は同意が揃った日になる。議事録の3番に書いた日付が、そのまま期限計算の起点だ。日付をあいまいに書くと、期限を過ぎていることに気づけない。

なお、定時株主総会の議案すべてについて決議があったものとみなされた場合、その時に定時株主総会が終結したものとみなす、という定めが条文にある。役員の任期は定時株主総会の終結の時を基準に計算するので、この日付が任期満了日の判定にも効いてくる。

保存と、見せろと言われたときの備え

作った書類は、どこに、いつまで置いておくのか。

書類 保管期間 保管場所
株主総会議事録 株主総会の日から10年間 本店
株主総会議事録の写し 株主総会の日から5年間 支店
同意の書面または電磁的記録 みなされた日から10年間 本店

電子データで保存しても構わないが、10年後に取り出せる状態であることが前提になる。クラウドサービスは解約すると消えるので、年度ごとに印刷して1冊にまとめておくか、少なくとも複数の場所にコピーを置いておきたい。

保存の義務がある理由は、外から見せろと言われる可能性があるからだ。会社法は、株主および債権者は会社の営業時間内であればいつでも、同意の書面の閲覧または謄写(コピーを取ること)を請求できる、と定めている。電子データの場合は、その内容を表示したものが対象になる。

そして、備え置きを怠った場合や、正当な理由なく閲覧や謄写を拒んだ場合は、100万円以下の過料に処される可能性がある。議事録に記載すべき事項を書かなかった場合や、虚偽の記載をした場合も同じ条文の対象だ。過料は前科がつく刑罰ではないが、裁判所から通知が届けば支払う義務が生じる。

つまりこの書類は、社内の備忘録ではなく、外に見せる前提の記録である。日付の整合性、議案の文言、同意した人の記載。この3点が揃っていれば、見せて困るものにはならない。書類の形式や保存年限の考え方を体系的に押さえておきたい人には、ビジネス文書検定の学習範囲が実務の下敷きとして使える。

電子で同意を集めるときに気をつけること

条文は書面または電磁的記録と定めているので、紙でなくてもよい。メール、電子契約サービス、社内の申請システム。どれを使っても要件は満たしうる。ただし、10年先まで取り出せることが前提になる。

メール本文だけで完結させない。 「同意します」とだけ書かれたメールでも意思表示にはなりうるが、10年後にそのアカウントが残っている保証はない。同意の内容をPDFにして保存し、議事録と同じ場所に置く。

誰が同意したのかが分かる形にする。 電子契約サービスを使えば、署名者の識別と日時の記録が自動で残る。部署の共有アドレスから届いた同意は、後から本人の意思だったかを確認しにくい。

ファイルを分散させない。 議事録は共有フォルダ、同意書は個人のメールボックス、決算書は税理士から届いたまま。この状態だと数年後には確実に揃わなくなる。年度ごとのフォルダを作り、関係する書類を同じ場所に入れる。

紙の控えも1部作る。 クラウドサービスは解約すれば消える。決算のたびに印刷して1冊のファイルに綴じるほうが、結果として手間が少ない会社も多い。

電子で保存できることと、保存の義務が軽くなることは別の話だ。形式が電子でも紙でも、求められたときに出せなければ意味がない。

議決権の個数を実際に数えてみる

全員の同意という条件は、誰から同意を取るのかが決まらないと満たしようがない。数え方を具体的な数字で追ってみる。

発行済株式の総数が1,200株、そのうち200株を会社が自分で持っている(自己株式)会社を考える。自己株式には議決権がないので、議決権の総数は1,000個になる。残りの1,000株を、株主Aが600株、Bが300株、Cが100株持っているとする。このとき同意が必要なのは3人全員だ。Aだけで600個、つまり6割を握っているが、それでも足りない。Cの100株が同意しなければ、決議はなかったことになる。

単元株式数を定款で定めている会社は、もうひと手間かかる。1単元を100株としている会社で、ある株主が1,250株を持っている場合、議決権の個数は12個になる。100株に満たない50株の部分には議決権がない。この端数だけを持っている株主、つまり単元未満株式だけを持つ人は、その議案について議決権を行使できないので、同意を求める相手には入らない。

議決権のない種類株式を発行している会社も同じ考え方になる。その株式の株主は、議決権がない範囲の議案については同意の対象から外れる。ただし、どの議案について議決権がないのかは定款の書き方で決まるので、自社の定款を開いて種類株式の欄を読む必要がある。

数えた結果は紙に残しておきたい。同意書の枚数と、株主名簿の人数、議決権の合計が一致していることを確認できれば、条件を満たしたことが後から説明できる。数えた過程をメモにして議事録と一緒に綴じておくと、翌年はそれを見るだけで済む。

3月決算の会社が1年で踏む段取り

みなし決議は、決算のスケジュールの中に組み込んでしまうと迷わなくなる。3月31日が期末の会社を例に、日付順に並べる。

時期 やること
3月31日 事業年度が終わる
4月から5月上旬 決算書を作る。税理士とのやり取りはここで終わらせる
5月中旬 提案書兼同意書を株主に送る。承認の対象になる貸借対照表と損益計算書を同封する
5月下旬 最後の株主の同意が届く。この日が決議があったものとみなされた日になる
同意が揃った日以降 議事録を作って押印する
5月31日まで 法人税などの申告と納付を済ませる
同意が揃った日から2週間以内 役員の任期が満了していれば、役員変更の登記を申請する
6月30日まで 役員報酬を毎月同額で払う形にするなら、その改定を終える
6月中 議事録と同意書、決算書を年度のファイルに綴じて本店に置く

法人税などの申告は、事業年度が終わった日の翌日から2か月以内が期限になる。3月決算なら5月31日だ。みなし決議で計算書類の承認を終える日を5月下旬に置いておけば、申告の期限に間に合う。逆に、承認が6月に入ってしまうと、申告のほうが先に来て順番がねじれる。

役員報酬の改定の期限は、事業年度の開始から3か月以内なので、3月決算の会社では6月30日までになる。5月下旬に総会の議案として報酬を決めておけば、この期限には余裕がある。役員の顔ぶれが変わる年は、選任の決議と報酬の決議を同じ提案書に載せてしまうと1回で済む。

この表を1枚印刷して、毎年のファイルの先頭に挟んでおく。年に1度の作業は、手順を覚えるより紙に残したほうが確実だ。

自分で作るか、専門家に頼むかを費用で比べる

みなし決議の書類そのものに、役所へ払うお金はかからない。費用が出てくるのは、決めた内容を登記するときだ。金額は税額表で決まっている。

本店または支店の移転の登記 本店または支店の数 1箇所につき3万円 取締役または代表取締役もしくは監査役等に関する事項の変更の登記 申請件数 1件につき3万円(資本金の額が1億円以下の会社については1万円) 出典: nta.go.jp

役員を再任しただけでも、資本金1億円以下の会社なら1万円がかかる。事業目的を足す、商号を変える、といった変更の登記は1件3万円だ。同じ申請書で複数の変更をまとめられる場合もあるので、決めることが複数あるなら、登記の回数を分けないほうが安く済む。

登記が終わったあとに取り寄せる書類にも手数料がある。登記事項証明書は窓口や郵送で請求すると1通600円、オンラインで請求して郵送で受け取ると520円、オンラインで請求して窓口で受け取ると490円だ。印鑑証明書はそれぞれ500円、450円、420円になる。銀行や取引先に提出する分をまとめて取るときは、オンライン請求のほうが1通あたり80円ほど安い。

司法書士に頼む場合の報酬は事務所ごとに違うので、相場を前提に考えず、2社か3社から見積もりを取るのが早い。判断の目安になるのは、登記が伴うかどうかだ。書類を作るだけで完結する議案(計算書類の承認、報酬の枠の決定)は自社で回せる。登記が伴う議案は、添付書類と押印の組み合わせで補正になりやすいので、初回だけ頼んで書式を手元に残し、2回目以降は自社で作るという進め方もある。

株主が自分ひとりでも書類を作る理由

株主も取締役も自分だけ、という会社では、この一式を作る意味が見えにくい。誰に見せるのか、という疑問が先に立つ。実際に見せる場面は、思っているより多い。

融資の審査。 金融機関は決算書と一緒に、直近の株主総会の議事録を求めることがある。計算書類を承認した記録が無いと、その決算書が会社として確定したものなのかを確認できない。

補助金や助成金の申請。 申請の要件に、機関としての決定を示す書類を挙げているものがある。

株式を譲る場面。 事業を誰かに引き継ぐとき、買う側は過去の決定の記録を必ず確認する。議事録が数年分抜けていると、値段の交渉より前に説明の作業が発生する。

税務調査。 役員報酬の額をいつ誰が決めたのかを聞かれたとき、議事録と同意書があれば1分で終わる。無ければ、口頭の説明を重ねることになる。

任期の判定。 役員の任期は定時株主総会の終結の時を起点に数える。みなし決議の場合は、すべての議案について決議があったものとみなされた日が終結の時になる。この日付が残っていないと、任期がいつ切れるのかを計算できない。

株主が1人の会社なら、同意書は1枚で済む。議事録も定型なので、前年のファイルを開いて日付と金額を差し替えるだけだ。作る手間は毎年10分程度に落ち着く。その10分を惜しんだ結果、数年後に融資の申込みや事業の引き継ぎで足を止められるのは割に合わない。

紙仕事を抱え込まないという判断

ここからは、フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場からの観察を書いておく。

みなし決議の書類は、作り方さえ分かれば1回あたり30分で終わる。時間を食うのは作る作業ではなく、調べる作業のほうだ。条文を開き、雛形を探し、自社に当てはまるかを判断する。ここに半日を使い、しかも1年後には忘れている。小さな会社を回している人の時間の使われ方を見ていると、この調べ直しの時間が積み上がって、事業そのものに使える時間を確実に削っている。

長く続いている会社に共通しているのは、判断の余地が少ない定型作業を自分の手元から外していることだ。議事録の下書き、登記書類の整理、記帳、請求書の発行。手順が決まっている仕事は外部に切り出せる。業務委託でこうした事務を請け負う人は年々増えていて、仕事の性質も「指示された作業をこなす」から「任せておけば社内の紙が回る」という関係に変わってきた。運営者として見てきた限りでは、長く仕事が続く受け手ほど、作業量ではなくこの安心感を作ることに時間を使っている。

そして、仲介手数料が乗らない直接のやり取りには、単純だが無視できない効果がある。同じ予算で依頼する側はより多くを頼めるし、受ける側は手数料0%のぶん手取りが厚くなる。金額の大小の話ではなく、取り分の質が変わるという話だ。会社を作った直後で売上がまだ小さい時期ほど、この差は効いてくる。

外部に頼む側として相場を把握したい人、受け手として自分の単価の目安を知りたい人は、職種別のデータを先に見ておくと判断が早い。文書作成や編集の仕事については著述家,記者,編集者の年収・単価相場に、開発寄りの仕事についてはソフトウェア作成者の年収・単価相場に、職種ごとの水準がまとまっている。

社内の作業をどう切り出して外に出すかという設計から相談したい場合は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事に業務の棚卸しから自動化までを請け負う仕事の中身が整理されている。システム開発を伴う委託についてはアプリケーション開発のお仕事が参考になる。外部に発注する側に回ったときに書面へ何を残すべきかは、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに整理されている。

みなし決議の書類も、発注書も、突き詰めれば同じ性質のものだ。誰がいつ何に合意したかを、後から説明できる形で残す。形式を整えること自体が目的ではない。その視点で見れば、同意書を省いてはいけない理由も、日付をそろえる理由も腑に落ちるはずだ。

よくある質問

Q. みなし決議は株主の何人が同意すれば成立する?

議決権を行使できる株主の全員の同意が必要になる。過半数や3分の2ではない。議決権の99パーセントを持つ株主が同意しても、残り1人が同意しなければ決議があったものとはみなされない。全員の同意が見込めない議案は、通常どおり総会を開いて多数決で決めることになる。

Q. 議事録だけ作れば足りる?

足りない。株主が同意したことを示す書面または電磁的記録が別に必要になる。会社法は、決議があったものとみなされた日から10年間、その同意の書面などを本店に備え置くことを求めている。提案書と同意書を1枚にまとめた形が実務ではよく使われる。

Q. みなし決議の議事録に開催場所は書く?

書かない。会議を開いていないため、会社法施行規則が定める記載項目は、決議があったものとみなされた事項の内容、提案をした者の氏名、みなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名の4つになる。会議を開いた前提の雛形を流用すると矛盾した書類になる。

Q. 取締役会でもみなし決議は使える?

定款にその定めがあれば使える。株主総会のみなし決議は定款の定めがなくても使えるが、取締役会の決議の省略は定款に定めることが前提になっている点が違う。さらに監査役を置いている会社では、監査役がその提案に異議を述べていないことも条件になる。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月17日最終更新:2026年9月19日
丸山 桃子

この記事を書いた人

丸山 桃子@SOHO編集部

アパレルEC運営支援・SNSコンサル

アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。

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