民法における契約不適合責任の期間

榊原 隼人
榊原 隼人
民法における契約不適合責任の期間

この記事のポイント

  • ✓契約不適合責任の期間を民法の条文ごとに整理しました
  • ✓売買の566条と請負の637条の1年通知ルール
  • ✓通知後に残る消滅時効の5年と10年

納品から半年経った成果物について「不具合があるので直してほしい」と連絡が来たとき、応じる義務があるのか。あるいは自分が発注側で、買ったものに欠陥が見つかったとき、いつまで文句を言えるのか。この判断の基準になるのが契約不適合責任の期間です。

そして、この期間の理解が実務でいちばん間違えやすい。というのも、契約不適合責任の期間は「1年」という数字だけが広く知られていて、その1年が何の1年なのかが正しく共有されていないからです。1年以内に裁判を起こさなければならないのか、1年以内に相手に連絡すればいいのか、1年の起算点はいつなのか。ここを取り違えると、権利があるのに諦めたり、逆にもう請求できないものを請求して交渉が長引いたりします。

私は制作物を納品する立場で、また業務用ツールを購入する立場で、どちらの側からもこの条文を使ったことがあります。結論として覚えておくべきは、「1年ルールは通知の期限であって、権利行使の期限ではない」「1年の上にさらに消滅時効が乗っている」「そして契約書で変更できる」という3点です。

この記事では、条文ごとに期間の内容を整理し、売買と請負の違い、数量不足の扱い、商人間売買の特則、契約で期間を短縮する実務、そして期間を過ぎてしまった場合に何が残るかまでを順に見ていきます。

契約不適合責任とは何を指すのか

2020年4月1日に施行された民法改正で、それまでの「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に置き換わりました。名前が変わっただけではなく、責任の性質が変わっています。

旧法の瑕疵担保責任は、売買の目的物に隠れた瑕疵があったときの特別な責任として位置づけられていました。買主が請求できるのは損害賠償と契約解除で、修理を求める権利(追完請求権)は条文上明記されていませんでした。

改正後は、引き渡された目的物が「種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない」場合の債務不履行責任として整理されました。判断の基準は「隠れていたか」ではなく「契約の内容に適合しているか」です。買主が請求できる手段は、次の4つに整理されています。

・履行の追完請求(修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し) ・代金減額請求 ・損害賠償請求 ・契約の解除

この4つが揃ったことで、買主の選択肢は広がりました。同時に、売主や受注者の側から見ると、契約書に書かれた仕様が責任範囲の基準になったということです。「仕様書に書いていないから対応しない」という主張の根拠が条文の側に移った、と言い換えてもいい。だからこそ、契約書や仕様書の記述が以前より重要になっています。契約書そのものを作る実務に関心があるなら、契約書・資料・企画書作成のお仕事で発注側がどこまで仕様を書き込むかを見ておくと、責任範囲の線引きの感覚がつかめます。

売買における期間制限は民法566条

売買契約で目的物の種類または品質に不適合があった場合の期間制限は、民法第566条にあります。条文はこうです。

売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。 出典: tek-law.jp

ここで押さえるべき点が3つあります。

第一に、起算点は「引き渡しの日」ではなく「不適合を知った時」です。旧法の瑕疵担保責任では引き渡しから1年という期間もありましたが、現行法では買主が不適合に気づいた時点から数えます。納品から3年後に欠陥が判明した場合、そこから1年の通知期間が始まります。長く使ったから権利が消えるという仕組みではありません。

第二に、1年以内にすべきことは「通知」です。訴訟を起こす必要はなく、裁判外の請求すら不要で、不適合の事実を売主に伝えれば足ります。ただし「何か調子が悪い」という曖昧な連絡では通知として不十分と解されるおそれがあります。実務では、どの部分がどういう状態で契約の内容に適合していないのかを特定して、メールなど記録の残る方法で送ります。私は不具合の症状、発生条件、契約書または仕様書のどの記載と食い違っているかの3点を書くようにしています。

第三に、例外があります。同条ただし書により、引渡しの時に売主が不適合を知っていたか、重大な過失によって知らなかった場合には、1年の通知期間は適用されません。欠陥を認識しながら黙って引き渡した売主が、1年経過を理由に免れることはできないという趣旨です。

1年は通知の期限であり、権利行使の期限ではない。ここを取り違えると、まだ請求できる状況で諦めることになります。まず通知を送って権利を保全し、そのうえで交渉する。この順序が正解です。

通知のあとに残る消滅時効の壁

1年以内に通知をしても、それで期間の問題が終わるわけではありません。通知によって保全された権利は、その後も消滅時効の進行を受けます。

適用されるのは民法第166条の一般的な債権の消滅時効です。債権は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のいずれか早い方の経過で消滅します。

つまり、契約不適合責任の期間は二段構えになっています。

・第一段:不適合を知った時から1年以内に通知する(民法566条) ・第二段:通知で保全した権利を、消滅時効の期間内に行使する(民法166条)

たとえば納品から2年後に不具合を発見し、その1か月後に通知を送ったとします。この時点で566条の要件はクリアしています。しかし、そこから交渉を続けて5年が経過すると、166条の消滅時効により請求権が消えます。実務で「通知したから安心」と思い込んで交渉を長引かせるのが危険なのは、この第二段があるからです。

引渡しから10年という上限も効きます。権利を行使できる時、つまり引渡しの時から10年が経過すると、不適合を知ったのが引渡しから9年11か月後だったとしても、残り1か月で時効が来ます。長期の潜在的欠陥については、この10年が実質的な上限になります。

交渉が長引きそうなときの対処は2つです。ひとつは訴訟や調停を起こして時効の完成を猶予させること。もうひとつは、相手から債務の存在を認める書面(承認)を取り、時効を更新させることです。「修補の義務があることは認めるが、時期については協議する」という趣旨の書面があれば、そこから時効が数え直されます。私は長引く交渉では、必ず途中で相手の認識を書面に残してもらうようにしています。

請負契約の場合は民法637条

制作や開発の仕事を請ける立場で関係するのは、売買の566条ではなく請負の第637条です。条文の構造はほぼ同じで、注文者が不適合を知った時から1年以内に請負人へ通知しなければ、追完請求、報酬減額請求、損害賠償請求、契約解除ができなくなります。

そして566条と同じく、目的物を引き渡した時に請負人が不適合を知っていた場合、または重大な過失によって知らなかった場合には、1年の通知期間は適用されません。

請負で注意したいのは、起算点が「引渡しの時」を基準に整理されている点です。引渡しを要しない仕事(調査報告、コンサルティング的な業務など)の場合は、仕事が終了した時が基準になります。納品という形が明確でない業務では、「業務完了報告書を出した日」を契約書で完了時点として定めておくと、後の計算が楽になります。

実務上のもうひとつの論点は、追完請求の内容です。請負では、不適合が軽微であって修補に過分の費用を要する場合、注文者は修補を請求できないと解されています。一方で報酬減額請求は可能です。つまり、修補か減額かの選択は自由ではなく、状況によって取れる手段が絞られます。受注側としては、修補で対応できる範囲にとどめる提案を早めに出したほうが、減額の話に流れずに済みます。

システム開発では、この期間の扱いが契約書で細かく定められているのが通例です。「検収完了後6か月以内に通知された不具合について無償で修補する」といった形で、法定の1年より短く設定されることが多い。開発案件の契約条件は単価水準とも連動しており、責任期間が長い契約は本来その分の対価が乗るべきものです。開発職の報酬水準はソフトウェア開発者の年収データで確認できます。責任期間だけ長く、単価が相場より低い契約は、リスクに対して対価が釣り合っていません。

数量不足と権利の不適合には1年ルールがない

見落としやすいのが、566条の1年通知ルールが適用されない類型です。条文は「種類又は品質に関して」と限定しています。したがって、次の2つには1年の通知期間がありません。

ひとつは数量の不足です。10個注文して8個しか届かなかった、100ページの原稿を発注して80ページだった、というケースです。数量の不足は外形から明らかで、買主が気づかないまま時間が経つ性質のものではないため、特別な期間制限を置く必要がないと考えられています。

もうひとつは権利に関する不適合です。買った土地に他人の抵当権が付いていた、購入した素材の著作権が第三者にあった、といったケースです。こちらも566条の対象外です。

これらには民法166条の消滅時効がそのまま適用されます。つまり、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年です。1年より長いので、買主にとっては有利な扱いになります。

実務で効いてくるのは、素材の権利関係が問題になったときです。たとえば購入した写真素材に肖像権の処理がされておらず、公開後に問題が発覚した場合。これは品質の不適合として1年ルールの対象になるのか、権利の不適合として5年になるのかで結論が変わります。安全策は、品質の不適合として扱われる可能性を前提に、気づいた時点から1年以内に通知を送っておくことです。通知は出しておいて損がありません。

自分が受注側で権利処理を担う場合は、この期間の長さが逆にリスクになります。素材の出所と許諾の記録を、納品後も最低5年は保管してください。私は案件ごとに素材の購入履歴とライセンス条項のスクリーンショットをまとめたフォルダを作り、契約書と同じ場所に置いています。権利関係の照会は数年後に来ることがあり、そのとき記録がないと反証できません。

商人間売買には6か月の特則がある

事業者同士の売買には、民法より厳しい期間制限がかかります。商法第526条です。

買主は『不具合を知ったときから1年以内』に不具合の内容を売主に通知することが必要です(改正民法第566条)。ただし、会社間の売買等は、商法第526条2項が適用され、売主は買主に対し、商品引渡し後6か月以内に不具合の内容を通知することが必要です。 出典: kigyobengo.com

商法526条の構造はこうです。買主は目的物を受領したら遅滞なく検査する義務を負います。検査で直ちに発見できる不適合を見つけた場合、直ちに通知しなければ権利を失います。直ちに発見できない不適合については、受領から6か月以内に発見して通知する必要があります。

民法566条との違いは2つです。起算点が「不適合を知った時」ではなく「受領した時」であること。そして期間が1年ではなく6か月であること。買主側の負担が明確に重くなっています。

この特則は、事業者同士の取引は迅速に確定させるべきという考え方に基づいています。個人事業主として物品を購入する場合も商人間売買に該当しうるので、納品物の検査は受領後すぐに行う習慣をつけてください。機材や素材をまとめ買いして、使うときになって開封するという運用をしている人は、この6か月に注意が必要です。

なお商法526条は任意規定なので、契約で排除できます。売買基本契約に「商法第526条の適用を排除し、検査期間は受領後30日とする」といった条項が入っていることがあります。買う側なら期間を伸ばす方向で、売る側なら短くする方向で交渉することになります。

契約で期間を変えるときの実務

ここまで民法と商法の原則を見てきましたが、これらはいずれも任意規定です。当事者の合意で期間を変更できます。実務では、法定の期間がそのまま使われることはむしろ少ない。

短縮する場合の典型は、「検収完了後6か月以内に書面で通知された不適合に限り、受注者は無償で修補する」という条項です。期間を6か月に短縮し、同時に責任の内容を修補に限定しています。受注側が提案する形としては標準的です。

さらに踏み込むと、「通知期間経過後は、受注者は一切の責任を負わない」という全部免責の条項もあります。ただし、故意または重大な過失がある場合にまで免責を及ぼす条項は、公序良俗違反として無効と判断されるおそれがあります。免責条項を置くときは「ただし受注者の故意または重大な過失による場合を除く」という留保を必ず入れてください。留保なしの条項は、いざ争いになったとき条項ごと否定される危険があります。

延長する場合もあります。発注側の立場が強い取引では「引渡しから2年」「引渡しから3年」といった期間が設定されます。受注側としてここを丸ごと受け入れるかどうかは、対価との釣り合いで判断します。私が使っている言い方は「責任期間を2年とするなら、保守費用として月額を別途設定させてください」です。期間の延長は実質的に保守契約なので、対価を分けて議論すると話が整理されます。

一方で、期間を変更できない領域があります。宅地建物取引業法第40条は、宅地建物取引業者が自ら売主となる場合、通知期間を引渡しの日から2年以上とする特約を除き、民法の規定より買主に不利な特約を無効としています。住宅の品質確保の促進等に関する法律は、新築住宅の構造耐力上主要な部分等について、引渡しから10年間の責任を強制しています。消費者契約法第8条も、事業者の責任を全部免除する条項を無効としています。相手が消費者である取引では、免責条項が効かない可能性を前提に組んでください。

契約書のこうした条項を読み解く力は、独学でも身につきます。契約類型ごとの条項構成を体系的に学べる資格として、行政書士の学習範囲には民法の債権各論が含まれており、ここを一通りやると条文の位置関係が頭に入ります。

期間を過ぎたときに何が残るか

通知期間も消滅時効も過ぎてしまった。この状態でも、打つ手が完全になくなるわけではありません。

まず確認すべきは、ただし書の適用です。売主または請負人が引渡しの時点で不適合を知っていた、あるいは重大な過失で知らなかったと言えるなら、通知期間の制限は外れます。設計段階で欠陥が分かっていた形跡がある、社内で問題が報告されていた記録がある、といった事情が拾えれば主張の余地が出ます。

次に、別の法的構成を検討します。契約不適合責任とは別に、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)という道があります。時効は損害および加害者を知った時から3年(人の生命身体を害する場合は5年)、不法行為の時から20年です。契約不適合責任の期間が過ぎていても、不法行為の時効が残っていることがあります。ただし故意または過失の立証が必要なので、ハードルは上がります。

製造物責任法が使える場合もあります。製造物の欠陥により生命、身体または財産に損害が生じたときの責任で、こちらは損害を知った時から3年、引渡しから10年です。

そして最後に、法的な権利とは別に交渉の余地があります。継続取引のある相手なら、期間が過ぎていても関係維持のために対応してくれることは珍しくありません。私は「法的には期間を過ぎていると理解していますが、実態として対応いただけないでしょうか」と正面から書いて解決した経験があります。権利があるふりをして押すより、率直に依頼したほうが通ります。

逆に自分が受注側で期間経過後の請求を受けたときは、期間経過の事実を冷静に伝えてください。感情的に断るのではなく、「契約書第〇条の通知期間を経過しているため、無償対応の義務はございません。有償での対応であれば見積もりをお出しします」という形にします。断るだけだと関係が終わりますが、有償の選択肢を残せば取引は続きます。

通知は何を書けば「通知した」ことになるか

期間の話を実務に落とすと、結局は「その通知が有効かどうか」に行き着きます。1年以内に連絡したつもりでも、内容が曖昧だと通知として認められない可能性があります。

裁判例の傾向として、単に「不具合がある」「調子が悪い」とだけ伝えた連絡は、通知として不十分と判断されるおそれがあります。求められているのは、売主や請負人が調査と対応の準備に入れる程度の具体性です。最低限、次の4点を入れてください。

・対象の特定(どの納品物、どのロット、どの機能か) ・不適合の内容(何が契約内容と違うのか。仕様書のどの記載と食い違うのか) ・発見の時期(いつ気づいたか。起算点を自分で明示する) ・求める対応(修補なのか、代替物なのか、代金減額なのか)

このうち3点目を書く人は少ないのですが、これが後で効きます。「知った時から1年」の起算点は、争いになると相手から「もっと前に知っていたはずだ」と攻められる場所です。通知の時点で自分から発見日を記載しておくと、こちらの主張が一貫します。

送り方は、記録が残る方法を選びます。日常的にやり取りしているチャットツールだけで済ませると、後からログが消える、退会でアクセスできなくなる、といった事故が起きます。私は重要な通知だけはメールに切り替え、件名に「契約不適合の通知」と明記して送っています。相手からの返信が来たら、それも含めてPDFで保存します。相手が無反応のまま期間が迫っている場合は、内容証明郵便に切り替えます。内容証明は配達証明を付けて初めて到達日の証明になるので、両方を付けてください。

逆に受注側として通知を受け取ったときは、受領した事実だけを先に返します。「ご連絡の件、確認いたします。調査結果を〇月〇日までにご報告します」という一文で構いません。無言で調査を始めると、相手は届いていないと考えて内容証明を送ってきます。ここで関係が硬直します。判断を保留したまま受領だけ返す運用は、法的にも実務的にも損がありません。

なお、通知の内容として「損害賠償を請求します」と書いてしまうと、金額の根拠を問われて話が止まることがあります。まずは修補を求め、修補が不能または拒絶された段階で賠償や減額に切り替える。この順番のほうが解決は早い。条文上も、追完の催告をしたうえで応じられないときに代金減額へ進む構造(民法563条)になっています。

起算点でもめやすい3つの場面

条文の期間が明快でも、実務では「いつから数えるのか」で争いになります。頻出するのは次の3つです。

1つ目は、納品と検収がずれている場面です。データを先に渡し、検収書の発行が2か月後、というケースは珍しくありません。請負の637条は「引き渡した」時点を基準にしますが、部分的な先行納品を引渡しと見るかは契約の書き方次第です。契約書に「検収合格をもって引渡しとする」と書いてあれば検収日が基準になります。何も書いていないと、実質的に支配が移った時点をめぐって解釈が割れます。納品と検収のどちらを基準にするかは、契約書に1行入れるだけで消せる争点です。

2つ目は、不具合が段階的に表面化する場面です。最初は表示の乱れとして報告され、半年後に原因がデータ構造の欠陥だったと判明する、という流れがあります。この場合「知った時」は最初の報告時なのか、原因が判明した時なのか。裁判例の傾向としては、契約内容との不適合を認識できる程度に具体的な事実をつかんだ時点と見られます。最初の報告が単なる使用感の違和感にとどまるなら、起算点は後ろにずれる余地があります。ただし争いになるので、疑わしい段階で通知を出しておくほうが安全です。

3つ目は、継続的な取引で納品が何度も繰り返される場面です。毎月データを納品している契約で、3年目に過去分の誤りが見つかった。このとき期間は納品ごとに別々に進行します。まとめて1つの期間で数えることはできません。継続案件では、月ごとの納品物と受領日を一覧で管理しておくと、後から遡るときに迷いません。表計算1枚で足ります。

いずれの場面でも、起算点を後ろに主張したい側が不利になりやすい。証明の負担が重いからです。だからこそ、気づいた時点で早めに通知を打つのが定石になります。

20年この市場を見てきた立場からの観察

フリーランスと発注企業の取引を長く見てきた立場から言うと、契約不適合をめぐるもめごとの大半は、条文の解釈ではなく記録の有無で決着しています。期間の計算が争点になった案件より、「そもそも何を納品する約束だったのか」が特定できずに双方が疲弊した案件のほうが、体感では何倍も多い。

長く仕事が続いている人ほど、納品時に仕様の確認メールを1通送っています。「本日納品した内容は、〇月〇日合意の仕様書v3に基づくものです。ご確認のうえ、修正点があれば〇日までにご連絡ください」という形です。これは検収の起点を作る行為で、同時に契約不適合責任の期間の起算点を自分側で記録する行為でもあります。手間は5分ですが、半年後にもめたときの立場がまったく違う。

もう1つ、運営者として見てきた限りでは、中間業者が何層も入る取引ほど責任の所在が曖昧になります。エンドクライアント、元請、二次請、実作業者という構造では、不適合の指摘が伝わるまでに時間がかかり、伝わったときには通知期間が残り少ない。中間マージンが乗らない直接取引には、手数料0%という金額面の利点だけでなく、契約の相手が誰かがはっきりするという構造上の利点があります。責任期間の交渉相手が目の前にいる状態は、受け手にとっても依頼側にとっても話が早い。

条文の知識をどこまで持つべきかは、仕事の内容によります。納品物に恒久的な機能を持たせる仕事、つまり開発や制作の受注が中心なら、契約不適合責任の理解は単価に直結します。責任期間を延ばす代わりに保守費を取る、という交渉ができるかどうかで手取りが変わるからです。発注単価の水準を把握しておきたいなら、ソフトウェア作成者の年収・単価相場に職種別の分布がまとまっています。責任範囲と対価の釣り合いを考えるときの目安になります。

契約書そのものを作る側に回る選択肢もあります。契約書や規程の作成支援は在宅で完結しやすく、法令の知識がそのまま値段になる分野です。どういう依頼が出ているかは契約書・資料・企画書作成のお仕事にまとまっています。法務の実務経験を持つ人の報酬水準は法務従事者の年収・単価相場で確認できます。条文を読む力を体系立てて証明したいなら、ビジネス実務法務検定は債権各論と契約実務を範囲に含んでおり、独学で取りやすい部類に入ります。

期間の条文を覚える意味は、請求を封じるためではありません。いつまでに何をすれば権利が残るのかを知って、手遅れにしないためです。不具合を見つけたら、まず記録の残る方法で通知を送る。この1手だけで、その後の選択肢は大きく変わります。

よくある質問

Q. 契約不適合責任の「1年」は裁判を起こす期限ですか?

いいえ。民法566条の1年は、不適合を知った時から売主に通知する期限です。通知さえ間に合えば権利は残り、その後は消滅時効(権利行使できると知った時から5年、権利行使できる時から10年)の範囲で請求できます。1年以内に訴訟を起こす必要はありません。

Q. 請負契約と売買契約で期間の扱いは違いますか?

起算点が違います。売買は「不適合を知った時」から1年、請負(民法637条)は「仕事の目的物を引き渡した後に不適合を知った時」から1年です。どちらも通知の期限であり、注文者や買主が保護される構造は同じです。数量不足や権利の不適合には1年の通知制限がありません。

Q. 契約書で責任期間を短くしても有効ですか?

民法566条も商法526条も任意規定なので、原則として有効です。ただし故意または重大な過失による不適合まで免責する条項は無効とされるおそれがあり、宅地建物取引業法や住宅品質確保法、消費者契約法が適用される取引では短縮できない場面があります。留保文言を必ず入れてください。

Q. 受注者として通知期間の管理で何をしておくべきですか?

納品時に仕様書のバージョンを明示した確認メールを送り、検収の起点を記録に残すことです。加えて素材の許諾記録や作業ログを最低5年は保管します。通知を受け取ったら、調査の可否を判断する前に受領の返信だけ先に出すと、内容証明に発展せずに済みます。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年6月5日最終更新:2026年9月24日
榊原 隼人

この記事を書いた人

榊原 隼人@SOHO編集部

フルスタックエンジニア・テックライター

SIerで8年間システム開発に携わった後、フリーランスエンジニアに転身。React/Next.js/Pythonを中心に開発案件をこなしながら、技術系の記事を執筆しています。

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