準委任契約で契約不適合責任を問われる場面と、受注側の備え方


この記事のポイント
- ✓契約不適合責任は準委任契約に当てはまるのかを
- ✓民法の条文と法務省の資料で整理
- ✓履行割合型と成果完成型の違い
業務委託の契約書を受け取って、「準委任契約」と書いてあるのに「契約不適合責任」の条項も入っている。これはどういう意味なのか、自分はどこまで責任を負うのか。この記事は、そうした疑問を持ったフリーランスや副業の受注側に向けて書いています。結論から書くと、民法の契約不適合責任は、もともと売買や請負のように「完成した物や成果を引き渡す契約」のための仕組みで、準委任契約にはそのまま当てはまるものではありません。ただし、準委任でも、仕事の進め方に落ち度があれば別の形の責任を問われますし、契約書に不適合責任の条項を入れれば、その合意に従うことになります。以下では、民法の条文と法務省の資料をもとに、準委任で責任を問われる場面と、契約前に受注側がしておくべき備えを順に整理します。
準委任契約とは何か
業務委託という言葉は法律の用語ではなく、実務での呼び名です。民法の上では、業務委託の契約は主に「請負」と「委任・準委任」のどちらかに分類されます。
請負とは、仕事を完成させることを約束し、その完成した結果に対して報酬を受け取る契約です。Webサイトを完成させて納品する、アプリを作って引き渡す、といった契約が典型です。
委任とは、法律行為(契約の締結など、法律上の効果を生む行為)を相手に任せる契約で、弁護士に訴訟を頼むのが代表例です。準委任は、法律行為ではない事務を任せる契約で、委任のルールがそのまま使われます。システムの運用保守、開発チームへの参加、コンサルティング、記事の執筆業務、事務代行など、フリーランスが受ける仕事の多くはこの準委任に当たると考えられています。
両者の違いを並べると次のようになります。
| 項目 | 請負 | 準委任 |
|---|---|---|
| 約束する内容 | 仕事を完成させること | 事務を適切に処理すること |
| 報酬の対象 | 完成した仕事の結果 | 事務の処理(時間・工数、または成果) |
| 結果が出なかったとき | 原則として報酬を請求できない | 適切に処理していれば報酬を請求できる |
| 受注側が負う主な責任 | 契約不適合責任 | 善管注意義務に基づく責任 |
| 途中でやめる場合 | 注文者は完成前ならいつでも解除できる | 双方がいつでも解除できる(損害賠償が必要な場合あり) |
ここで大事なのは、契約書のタイトルが「業務委託契約書」でも「準委任契約書」でも、実際にどちらに当たるかは中身で判断されるという点です。タイトルが準委任でも、実態として完成した成果物の引き渡しを約束していれば、請負に近い扱いを受けることがあります。
契約不適合責任とはどんな責任か
契約不適合責任とは、引き渡した物や仕事の結果が、種類、品質、数量の面で契約の内容に合っていないときに、引き渡した側が負う責任のことです。2020年4月に施行された改正民法で、それまでの「瑕疵担保責任」に代わって整えられました。
相手が求められる手段は、主に4つです。
- 履行の追完(修補、代わりの物の引き渡し、足りない分の引き渡し)
- 代金(報酬)の減額
- 損害賠償
- 契約の解除
請負の場合、この責任には期間の制限があります。法務省が公表している改正民法の新旧対照条文では、請負について次のように定められています。
前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。 出典: moj.go.jp
つまり請負では、注文者が不適合を知ってから1年以内に通知しなければ、その不適合を理由とした請求はできなくなります。ただし、引き渡しの時点で請負人が不適合を知っていた、または重大な過失で知らなかった場合は、この期間の制限は使えません。また、注文者が渡した材料や注文者の指図が原因で生じた不適合については、請負人がその材料や指図が不適当だと知りながら告げなかった場合を除き、責任を負わないとされています。
改正前の瑕疵担保責任では、引き渡しから1年以内に請求までする必要がありましたが、改正後は「知った時から1年以内の通知」に変わりました。受注側から見ると、責任を問われうる期間が実質的に長くなったと言えます。
準委任に契約不適合責任は当てはまるか
では、準委任契約には契約不適合責任が当てはまるのでしょうか。民法の条文の作りから見ると、答えは「原則として当てはまらない」です。
契約不適合責任の規定は、売買の章に置かれ、ほかの有償契約にも準用(性質に反しない範囲で同じルールを使うこと)されます。請負には、さらに専用の規定(先に引用した期間の制限など)があります。一方、準委任は「事務を適切に処理すること」を約束する契約で、完成した物を引き渡すことを前提にしていません。物や結果を引き渡さない契約に、「引き渡した物が契約に合っているか」を問う責任は、性質としてなじみにくいのです。
履行割合型と成果完成型
ただし、2020年の改正民法では、準委任の報酬の決め方について2つの型が明文化されました。
1つ目は履行割合型です。作業した時間や工数に応じて報酬を払う形で、いわゆる月額の稼働契約やSES(エンジニアがチームに参加して作業する契約)の多くがこれに当たります。改正民法では、委任者の責めに帰すことができない理由で事務を続けられなくなった場合や、委任が途中で終わった場合には、受任者はそれまでに行った割合に応じて報酬を請求できると定められました。
2つ目は成果完成型です。事務を処理した結果として得られる成果に対して報酬を払う形です。改正民法では、次の条文が新設されました。
委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。 出典: moj.go.jp
成果完成型の準委任は、成果に対して報酬が払われる点で請負に近い形です。それでも、約束しているのは「事務を適切に処理すること」で、成果の完成そのものを保証しているわけではない、という点で請負とは区別されます。改正民法でも、成果完成型の準委任について請負から準用されているのは、途中で終わった場合の報酬の規定(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)で、契約不適合責任の規定そのものではありません。
成果完成型の準委任に、売買の契約不適合責任の規定が準用されるかについては、専門家の間でも見方が分かれています。成果物の引き渡しを伴う以上、性質が許す範囲で当てはまりうるという考え方もあります。実務では、条文の解釈に頼るより、契約書で責任の範囲をはっきり決めておくことが何より大切になります。
準委任で実際に問われる責任
契約不適合責任が当てはまらないからといって、準委任の受注側が何の責任も負わないわけではありません。準委任では、別の形で責任を問われます。
善管注意義務とは
準委任の受任者は、委任のルールにより、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負います。これを善管注意義務と呼びます。言い換えると、「その職業や立場にある人として、通常求められる程度の注意を払って仕事をする義務」です。自分の物を扱うときの注意ではなく、プロとして当然払うべき注意が求められます。
たとえば、システムの運用保守を受けているエンジニアが、決められた手順を守らずに本番環境の設定を変えて障害を起こした場合や、記事の執筆を受けたライターが、明らかに確認すべき一次資料を確かめずに誤った数字を書いた場合は、善管注意義務に反したと評価される可能性があります。
債務不履行責任
善管注意義務に反して相手に損害を与えた場合、受注側は債務不履行(約束した義務を果たさなかったこと)として損害賠償の責任を負います。契約不適合責任と違い、請負のような「知ってから1年以内の通知」という専用の期間制限はありません。適用されるのは一般の消滅時効で、法務省の改正の概要では、業種ごとに異なっていた短期の時効を廃止し、原則として「知った時から5年」に統一したと説明されています。改正民法では、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のどちらか早いほうで時効になります。
つまり、準委任で問われる責任は、契約不適合責任よりも「長い期間、問われうる」面があります。この点は見落とされやすく、「準委任だから責任が軽い」と考えるのは正確ではありません。
結果が出なくても報酬は請求できる
一方で、準委任の受注側に有利な点もあります。善管注意義務を尽くして事務を処理していれば、期待された結果が出なくても、原則として報酬を請求できることです。たとえば、広告運用の準委任で、適切に運用したのに売上が伸びなかった場合、売上が伸びなかったことだけを理由に報酬の支払いを拒まれる理由はありません。ここが、完成しなければ報酬を請求できない請負との大きな違いです。
責任を問われやすい場面
フリーランスが受ける準委任の仕事で、責任をめぐってもめやすい場面を、職種ごとに整理します。
システム開発・運用保守
開発チームに参加する準委任では、作ったプログラムに不具合が見つかったときに、「修正は無償でやってほしい」と求められることがあります。準委任では、不具合があること自体が直ちに責任につながるわけではなく、その不具合が、通常求められる注意を払っていれば防げたものかどうかが問題になります。レビューや試験の手順を守っていたか、指示された仕様どおりに作ったかを、記録で示せるかどうかが分かれ目です。また、チームで開発している場合は、不具合の原因が自分の担当部分にあるのか、他のメンバーの部分や発注側が用意した環境にあるのかを切り分ける必要があります。原因が分からないうちに「自分のミスです」と認めてしまうと、後から責任の範囲を争いにくくなります。まず事実を確かめ、原因が分かった段階で、自分の担当部分に誤りがあればその範囲で対応する、という順番を守ることが大切です。
運用保守では、障害が起きたときの対応の速さや手順が問われます。対応時間や連絡の手段、どこまでを受注側の範囲とするかを、契約や運用の取り決めで決めておかないと、「すぐ対応しなかった」という不満が責任の追及につながりやすくなります。
記事作成・編集
記事の執筆や編集を準委任で受ける場合、事実の誤りや、他人の文章をそのまま使った著作権の問題が、責任につながりやすい場面です。事実確認の範囲(一次資料を確かめるのは誰の仕事か)、修正の回数、公開後の誤りが見つかったときの対応を、事前に決めておく必要があります。
コンサルティング・業務改善の支援
助言や分析を提供する仕事では、助言どおりにやったのに成果が出なかった、という不満が出ることがあります。準委任である以上、成果を保証していないことを契約で明確にし、助言の前提となる情報を相手から受け取った記録を残しておくことが、身を守ることにつながります。
契約書に契約不適合責任の条項がある場合
準委任の契約書に、契約不適合責任の条項が入っていることは珍しくありません。発注側が使い回している契約書のひな形に、請負向けの条項が残っている場合もあれば、成果物の品質を担保したいという意図で、あえて入れている場合もあります。
民法の規定の多くは、当事者の合意で変えられる「任意規定」です。準委任の契約でも、当事者が「成果物が契約に合わない場合は、受注者は無償で修補する」と合意すれば、その合意は原則として有効です。つまり、契約書に条項がある以上、「準委任だから不適合責任は関係ない」とは言えません。
条項を読むときの確認点
契約書の不適合責任の条項を読むときは、次の点を確かめてください。
- 対象は何か(成果物全体か、特定の納品物だけか)
- 何を求められるか(修補だけか、減額、損害賠償、解除まで含むか)
- 期間はいつまでか(検収後3か月、6か月、1年など)
- 期間の起算点はいつか(引き渡し時、検収完了時、不適合を知った時)
- 損害賠償の上限があるか(受け取った報酬の額までなど)
- 発注側の指示や提供資料が原因の場合を除く定めがあるか
特に注意したいのは、期間の起算点です。民法の請負の規定は「知った時から1年以内の通知」なので、契約書で起算点を定めないと、引き渡しから何年も経ってから不適合を指摘される余地が残ります。受注側としては、「検収完了から6か月以内に通知されたものに限る」のように、起算点と期間をはっきり決めておくのが安全です。
損害賠償の上限も重要です。上限の定めがないと、システムの障害で発注側の売上が止まった、といった場合に、受け取った報酬を大きく超える賠償を求められる可能性があります。「損害賠償の額は、本契約に基づき受注者が受け取った報酬の額を上限とする」といった条項を提案するのは、受注側として一般的な交渉です。
契約類型を明記しておく
契約書の冒頭に、この契約が準委任であることと、報酬が履行割合型か成果完成型かを明記しておくと、後から「実態は請負だった」と主張される余地が小さくなります。あわせて、「受注者は、業務の完成を保証するものではない」という一文を入れておくと、準委任の性格がはっきりします。
請負と準委任、受注側はどちらで受けるべきか
同じ仕事でも、請負で受けるか準委任で受けるかは、交渉で決められることが多くあります。どちらが受注側に有利かは、仕事の性質によって変わります。
請負で受けるのが向いているのは、完成の基準がはっきりしていて、自分で工程を管理できる仕事です。たとえば、仕様が固まった画面の制作や、決まった本数の記事の納品などです。請負は完成させれば報酬を請求でき、作業時間が短く済めば、時間あたりの収入が上がります。その代わり、完成しなければ報酬を請求できず、引き渡した後も契約不適合責任を負います。
準委任で受けるのが向いているのは、完成の基準があいまいで、発注側の判断や環境に左右される仕事です。要件が固まっていない開発、継続的な運用保守、改善の提案などがこれに当たります。準委任なら、適切に作業していれば結果に関係なく報酬を請求でき、仕様の変更が続いても、作業した時間の分は報酬の対象になります。
迷ったときの目安として、「完成の基準を、着手前に文章で書けるかどうか」を考えてみてください。書けるなら請負、書けないなら準委任のほうが、後から争いになりにくい形です。完成の基準を書けないまま請負で受けると、どこまでやれば完成なのかで発注側と意見が割れ、報酬の支払いが止まる原因になります。
途中で形が変わる場合
最初は準委任で要件を固め、仕様が決まった段階で請負に切り替える、という段階を分けた契約もよく使われます。この場合は、どこからどこまでが準委任で、どこからが請負なのかを、契約書や個別の発注書で区切っておくことが大切です。区切りがあいまいだと、準委任の段階で作ったものにまで、請負の契約不適合責任を求められるおそれがあります。
労働者に当たる可能性にも注意する
準委任で発注側のチームに入って働く場合、もう1つ気をつけたいのが、実態として「雇われて働く人」と変わらなくなっていないかという点です。厚生労働省のフリーランス向けのページでは、労働基準法上の労働者に当たるかどうかは、契約の形式や名称にかかわらず、実態を見て総合的に判断されると説明されています。
たとえば、仕事を断る自由がない、作業の進め方や時間を細かく指示されている、勤務場所や時間が決められていて自分で調整できない、報酬が働いた時間だけで決まり成果との関係が薄い、といった事情が重なると、契約書が準委任でも、実態は雇用に近いと判断される可能性があります。
労働者に当たる場合は、労働の法律による保護が及ぶ一方で、発注側は本来、雇用の手続きを取るべきだったことになります。受注側としては、自分の働き方がどちらに近いのかを意識し、疑問がある場合は、厚生労働省が案内している労働基準法の相談窓口に相談できます。準委任の契約で働きながら、実態が雇用に近いと感じた場合は、契約の見直しを話し合うきっかけにもなります。
修正の依頼にどこまで応じるか
準委任の仕事で日常的に起きるのが、「ここを直してほしい」という依頼です。すべてを無償で引き受けていると時間が足りなくなり、すべて断ると関係が悪くなります。線引きの考え方を整理しておきます。
まず、自分の作業に明らかな誤りがあった場合は、速やかに直すのが基本です。準委任でも、通常求められる注意を払っていなかった結果の誤りは、善管注意義務の問題になりうるからです。誤字や計算の誤り、決められた手順の抜けなどは、ここに入ります。
次に、発注側の要望の変更や、新しい要望による修正は、もともとの業務の範囲の外です。履行割合型の準委任なら、作業時間として報酬の対象になります。成果完成型の場合は、追加の作業として見積もりを出し、了承を得てから着手するのが原則です。
判断に迷う場合は、修正の依頼を受けた時点で、「この修正は当初の範囲内として対応します」「この修正は仕様の変更に当たるため、追加で○時間かかります」のように、どちらに当たると考えているかを文章で伝えておくと、後から認識のずれが生まれにくくなります。返信の文面はたとえば次のような形です。
「ご依頼の件、確認しました。1点目の表記の誤りは当方の確認漏れのため、本日中に修正します。2点目の画面構成の変更は、当初いただいた仕様から変わる内容のため、追加の作業として約3時間を見込んでいます。ご了承いただければ着手します。」
このように、自分の落ち度と仕様の変更を分けて伝えることで、責任の範囲を自然に示せます。
検収と報告の仕組みを決めておく
準委任の仕事で責任の範囲をはっきりさせるうえで、契約書の条項と同じくらい役に立つのが、検収と報告の仕組みです。
成果完成型の準委任では、成果物を引き渡した後、発注側が内容を確かめて受け取ったことを示す「検収」の手続きを決めておきます。検収の期限(引き渡しから10営業日以内など)と、期限までに連絡がなければ検収が終わったものとみなす定めを入れておくと、いつまでも検収が終わらず報酬の支払いが遅れる、という事態を防げます。検収が終わった時点を、不適合の通知期間の起算点にしておけば、責任を問われうる期間も見通しやすくなります。
履行割合型の準委任では、成果物の検収の代わりに、作業の報告が重要になります。週ごとや月ごとに、行った作業、かかった時間、発注側に確認してほしい事項をまとめて報告し、了承を得ておくと、「何をしていたのか分からない」という不満を防げます。民法でも、受任者は委任者から求められたときに事務の処理の状況を報告する義務を負うとされており、定期的な報告は義務を果たしていることを示す記録にもなります。
損害賠償に備える方法
契約書で賠償額の上限を決めておいても、相手の損害が大きい場合や、上限の定めがない契約を引き受けざるをえない場合もあります。そうした場面に備える方法として、業務上の過失で相手に損害を与えたときの賠償を補う保険があります。フリーランス向けの団体や保険会社が、個人事業主でも入れる形で用意しているものがあり、補償の対象となる業務や上限額、自己負担の額は商品によって異なります。
保険に入る場合は、自分の仕事が補償の対象に含まれるか、準委任の業務での過失も対象になるか、契約で負った賠償の上乗せ部分(法律上の責任を超えて約束した分)が対象外になっていないかを確かめてください。保険はあくまで備えの1つで、契約書の条項で責任の範囲を決めておくことが先です。
フリーランス法で守られる点
2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)は、従業員を使わずに1人で業務を受けるフリーランスと、発注する事業者の取引に適用されます。準委任か請負かを問わず、業務委託であれば対象です。厚生労働省が公表している法律の概要から、責任をめぐるトラブルに関係する点を整理します。
特定業務委託事業者は、特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければならないものとする。 出典: mhlw.go.jp
1つ目は、取引条件の明示です。発注する事業者は、業務の内容や報酬の額などを、書面または電子メールなどで明示しなければなりません。口頭だけで始まった仕事でも、明示を求めることができます。
2つ目は、報酬の支払期日です。従業員を使う発注事業者は、成果を受け取った日から60日以内に報酬の支払期日を決めて、支払わなければなりません。「不具合が直るまで払わない」として、支払いを先送りにされる場合でも、この期日の定めが手がかりになります。
3つ目は、禁止行為です。1か月以上の業務委託では、受注側に責任がないのに報酬を減らすこと、受け取りを拒むこと、内容を変えさせたりやり直させたりして受注側の利益を不当に害することなどが禁止されています。発注側の都合で仕様が変わったのに、無償でのやり直しを求められる、といった場面では、この規定が関係します。
4つ目は、中途解除の予告です。6か月以上の業務委託を途中で解除する場合、発注側は原則として30日前までに予告しなければなりません。
違反があった場合、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省が、助言、指導、勧告などを行う仕組みがあります。
トラブルになったときの進め方
責任をめぐって発注側ともめたときは、感情的なやり取りを避け、次の順番で進めるのが現実的です。
- 契約書、発注書、メールやチャットのやり取り、作業の記録を集める
- 指摘された問題が、契約で約束した範囲に入っているかを確かめる
- 問題の原因が、自分の作業か、発注側の指示や提供資料かを整理する
- 対応できる範囲と、有償になる範囲を分けて、書面で回答する
- 話し合いで解決しない場合は、外部の相談窓口や専門家に相談する
フリーランスの取引に関するトラブルは、厚生労働省が案内している「フリーランス・トラブル110番」で、弁護士に無料で相談できます。厚生労働省のフリーランス向けのページによると、この窓口は令和2年11月から設けられており、起業して業務委託を受けて働く人も利用できます(厚生労働省 フリーランスとして業務を行う方へ)。報酬が支払われないまま話し合いが進まない場合は、裁判所の支払督促や少額訴訟といった手続きもあります。費用や流れは未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】で詳しく解説しています。
日頃から残しておく記録
トラブルになってから記録を集めるのは大変です。日頃から残しておきたいのは、次のようなものです。
・発注側からの指示や仕様の変更を受けたメールやチャット ・作業の進め方や確認の手順(レビューの記録、試験の結果) ・納品や報告をした日時と、その内容 ・発注側が確認した、または了承したことが分かるやり取り
準委任では、「通常求められる注意を払っていたか」が責任の判断の中心になるため、手順を守って作業していたことを示す記録が、そのまま身を守る材料になります。
契約前のチェックリスト
ここまでの内容を、契約前に確かめるチェックリストとして整理します。
| 確認すること | 受注側が目指す形 |
|---|---|
| 契約の類型 | 準委任であることと、履行割合型か成果完成型かを明記 |
| 業務の範囲 | やること、やらないことを具体的に列挙 |
| 成果の保証 | 「業務の完成を保証するものではない」と明記 |
| 不適合責任の条項 | 対象、手段、期間、起算点を限定 |
| 損害賠償 | 受け取った報酬の額を上限とする定め |
| 発注側の指示や資料 | それが原因の問題は責任を負わない定め |
| 修正や追加の扱い | 範囲外の修正は有償で、見積もりを出してから着手 |
| 支払い | 支払期日(受け取りから60日以内)と、検収の期限 |
発注書や契約書に最低限書いておくべき項目は、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストでも整理しています。契約書を読み慣れていない人は、条項を1つずつこの表と照らし合わせるだけでも、見落としを減らせます。
受注側の立場から見た考察
最後に、業務委託の取引を長く見てきた運営者の視点から、準委任の責任をめぐる問題を整理します。
運営者として見てきた限りでは、準委任の責任でもめる取引の多くは、法律の解釈の問題というより、「何を約束したか」が最初に決まっていなかったことから始まっています。発注側は「完成したものが届く」と思い、受注側は「決められた時間、作業をする」と思っていた、というずれです。契約書の条項を整えることはもちろん大切ですが、それ以上に、着手前に業務の範囲と成果の扱いを言葉にして共有しておくことが、トラブルを防ぐ一番の方法です。
もう1つ見えてくるのは、仲介を通さない直接取引のほうが、こうした認識のずれを早く埋めやすいという点です。発注側と受注側が直接やり取りできれば、仕様の変更や修正の範囲をその場で確かめられます。中間の手数料がかからない分、依頼する側は同じ予算でより多く頼め、受ける側は手取りが厚くなります。手数料0%の取引は、金額の面だけでなく、責任の範囲を直接すり合わせられるという点でも、双方にとって得のある形です。
準委任で多いのは、開発やITの仕事です。仕事の内容と求められるスキルはアプリケーション開発のお仕事で、報酬の相場はソフトウェア作成者の年収・単価相場で、公的統計をもとに整理しています。生成AIの導入支援のように、成果の定義が難しく準委任で受けることの多い分野は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事で仕事の形を確認できます。契約の形を理解したうえで仕事を選べば、責任の範囲に振り回されず、本来の仕事に集中できます。
よくある質問
Q. 準委任契約にも契約不適合責任は適用されますか?
民法の契約不適合責任は、売買や請負のように物や仕事の結果を引き渡す契約のための仕組みで、準委任には原則として当てはまりません。ただし、成果完成型の準委任については見方が分かれており、契約書に不適合責任の条項があれば、その合意に従うことになります。契約書の条項を必ず確認してください。
Q. 準委任で受注側が負う責任は何ですか?
準委任の受注側は、その職業の人として通常求められる注意を払って事務を処理する善管注意義務を負います。これに反して相手に損害を与えると、債務不履行として損害賠償の責任を負います。一般の消滅時効が適用され、知った時から5年または権利を行使できる時から10年で時効になります。
Q. 契約書の不適合責任の条項で何を確認すべきですか?
対象となる成果物、求められる手段(修補、減額、損害賠償、解除)、期間とその起算点、損害賠償の上限、発注側の指示や資料が原因の場合の扱いを確認します。受注側としては、検収完了から一定期間に限り、賠償額は受け取った報酬を上限とする形に整えるのが一般的な交渉です。
Q. 発注側から無償でのやり直しを求められたらどうすればよいですか?
まず、指摘された問題が契約で約束した範囲に入っているか、原因が自分の作業か発注側の指示かを記録で確かめます。フリーランス法では、1か月以上の業務委託で受注側に責任がないのにやり直させて利益を不当に害することは禁止されています。話し合いで解決しない場合は、フリーランス・トラブル110番などに相談できます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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