瑕疵担保責任の期間はどう決まるか


この記事のポイント
- ✓瑕疵担保責任期間は今の民法では契約不適合責任の通知期間として整理されています
- ✓商人間で6か月という区切りと
- ✓消滅時効との二段構えを一次資料で確かめて整理しました
瑕疵担保責任期間という言葉で検索してたどり着いた方は、たいてい手元に契約書があります。「瑕疵担保責任の期間は引渡しから2年とする」と書かれた一文を前にして、これは有効なのか、過ぎたらもう何も言えないのか、そもそも瑕疵担保責任という言葉自体が古いと聞いたが本当か。そのあたりで手が止まっているはずです。結論を先に書きます。期間には「いつまでに相手へ伝えるか」と「いつまでに請求そのものができるか」という性質の違う二つがあり、この二つを混ぜて理解していることが、判断を止めている最大の原因です。この記事では、法律の条文そのものを開いて確かめた内容だけを使い、売買・請負・新築住宅・商人どうしの取引という場面ごとに、どの期間が効いてくるのかを順番に整理します。
瑕疵担保責任という制度は、いまの民法には残っていない
最初に前提をそろえます。瑕疵担保責任は、かつての民法にあった制度の呼び名です。民法のうち契約や債権に関する部分を大きく見直した改正法が、2020年4月1日から施行されました。法務省は改正の目的について、契約に関する規定を中心に社会と経済の変化への対応を図るとともに、実務で通用している基本的なルールを明文化するものだと説明しています。この改正で、売ったものに欠陥があったときの責任は「契約不適合責任」という名前に置き換わりました。
瑕疵という言葉は、法律用語としては「隠れた欠陥」を指していました。ただ、この言葉が日常語から遠いうえに、何をもって隠れているといえるのかが争いになりやすい。そこで新しい民法は、引き渡されたものが「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」状態かどうかで判断する形に変えました。つまり、欠陥かどうかを物そのものの性質だけで決めるのではなく、契約で何を約束したかと照らして決めるという建て付けです。
この変更は、言葉の入れ替えにとどまりません。旧制度では買主が使える手段が限られていましたが、新しい制度では、直してもらう、足りない分を渡してもらう、代わりのものを渡してもらうという履行の追完請求、代金を減らしてもらう代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除という四つがそろっています。条文を読むと、追完請求について次のように定められています。
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。 出典: ja.wikibooks.org
ややこしいのは、施行日より前に結んだ契約には古いルールがそのまま生きていることです。長期の保守契約や、更新を繰り返している基本契約では、いまだに「瑕疵担保責任」と書かれた条項が現役で走っていることがあります。契約書の文言が古いというだけで無効になるわけではありません。当事者が何を約束したかという中身で読むことになります。条文そのものはe-Govの法令検索で、改正の経緯は法務省のページで、誰でも無料で確認できます。用語が変わった時期をまたぐ契約を扱うときは、必ず契約日を先に見る習慣をつけてください。
期間には性質の違う二つがある
ここが本題です。瑕疵担保責任期間という一語でまとめられがちな期間は、実際には二層構造になっています。
一つ目は、通知の期限です。民法は、種類または品質が契約に適合しない目的物を引き渡された場合について、買主がその不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しないと、追完の請求も、代金減額の請求も、損害賠償の請求も、契約の解除もできなくなると定めています。起算点は引渡しの日ではなく「知った時」です。ここを引渡し基準だと思い込んでいる人が非常に多い。引き渡されて3年後に初めて欠陥に気づいたとしても、気づいてから1年以内に伝えれば、この関門自体は通過します。
ただし、通知期限には例外があります。売主が引渡しの時点でその不適合を知っていた場合、または重大な不注意で知らなかった場合には、この1年の制限は働きません。相手が承知のうえで欠陥品を渡してきたのなら、期限で救ってやる理由がないという考え方です。
二つ目は、権利そのものが時効で消える期限です。民法の消滅時効の原則は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使することができる時から10年間で消滅するというものです。契約不適合を理由とする請求もこの原則の上に乗ります。実務では、権利を行使できる時とは通常、目的物が引き渡された時と考えられています。
つまり、引渡しから10年が過ぎると、欠陥に気づいていようがいまいが、時効という壁に当たります。この点を解説している法律事務所の記事では、次のように整理されています。
解説:買主が気づいているかどうかに関わらず、実際に権利を行使できる状態(通常は商品の引渡し時)になってから10年が経過すると、時効になります。 出典: komon-lawyer.jp
まとめると、欠陥に気づいてから1年という短いタイマーと、引き渡されてから10年という長いタイマーが同時に動いている状態です。どちらか一方が止まれば請求はできなくなります。契約書の「瑕疵担保責任の期間」という条項が指しているのは、たいていの場合は前者、つまり通知の期限のほうです。この区別がつくだけで、契約書を読むときの迷いはかなり減ります。
売買・請負・新築住宅で区切りが変わる
同じ「契約不適合」でも、契約の型が違えば期間の決まり方も変わります。四つの代表的な場面を並べます。
売買の場合は、先に述べたとおり、不適合を知った時から1年以内の通知が必要です。ここでいう売買には、ソフトウェアのパッケージ販売や物品の仕入れなど、幅広い取引が入ります。
請負の場合も、通知期限は1年です。民法は、注文者が不適合を知った時から1年以内に請負人へ通知しないと、追完請求、報酬減額請求、損害賠償請求、解除ができなくなると定めています。請負には建築工事だけでなく、システム開発、Web制作、動画編集、翻訳など、成果物を納めるタイプの業務委託の多くが含まれます。受注側にとっては、納品後もこの期間は責任が残るという意味になります。
請負にはもう一つ、覚えておくと得をする条文があります。注文者が用意した材料の性質や、注文者が出した指示が原因で生じた不適合については、注文者はそれを理由に追完も報酬減額も損害賠償も解除も請求できないというものです。ただし、請負人がその材料や指示が不適当だと知っていながら黙っていた場合は別です。クライアント支給の素材やクライアント指定の仕様が原因で起きた不具合を、受注側がすべて背負う筋合いはないという根拠になります。
新築住宅の売買は別格の扱いです。住宅の品質確保の促進等に関する法律は、新築住宅の売主に対して、買主へ引き渡した時から10年間、構造耐力上主要な部分等の瑕疵について担保の責任を負うと定めています。さらに、この規定に反して買主に不利になる特約は無効とされています。つまり、新築住宅で「瑕疵担保責任は2年」と書いても、構造の要になる部分については通りません。
宅地建物取引業者が自ら売主になる場合にも別の縛りがあります。宅地建物取引業法は、引渡しの日から2年以上となる特約を除いて、民法の定めより買主に不利な特約をしてはならないとし、これに反する特約は無効だと定めています。不動産の売買契約でよく見かける「引渡しから2年」という条項は、この下限ぎりぎりの設定です。つまり2年という数字は、業者が勝手に決めた数字ではなく、法律が許す最短を選んだ結果ということになります。
商人どうしの取引は驚くほど短い
見落とされやすいのが、事業者間の売買に適用される商法のルールです。商法は、商人間の売買において、買主は目的物を受領したら遅滞なく検査しなければならないと定めています。そのうえで、検査によって不適合を発見したときは、直ちに売主へ通知しなければ、追完請求も代金減額請求も損害賠償請求も解除もできないとしています。直ちに発見できない性質の不適合については、受領から6か月以内に発見した場合に限って同じ扱いになります。
これは相当に厳しい設計です。民法の1年に比べて半分の期間であるうえ、起算点が「知った時」ではなく「受領した時」になります。法人どうしで仕入れた部材に不具合があり、半年を過ぎてから気づいた場合、原則としてもう請求できません。ただし、売主が不適合を知っていた場合、つまり悪意だった場合には、この規定は適用されません。
個人事業主として法人と取引している場合、自分が商人にあたるかどうかで話が変わります。営利目的で反復継続して取引をしていれば商人と扱われることが多く、その場合はこの6か月ルールの世界に入ります。納品されたものをすぐ検品しないまま放置する癖は、それだけで請求権を失うリスクを抱えることになります。受け取ったらその日のうちに開封して確認する。地味ですが、これが最も効くリスク対策です。
契約書で期間を変えられる範囲と、変えられない一線
実務では、法律の原則そのままで取引することは少なく、契約書で期間を上書きしています。契約自由の原則があるため、当事者の合意で期間を延ばすことも縮めることもできるのが出発点です。
実際のビジネスの現場では、契約自由の原則に基づき、当事者間の合意によってこの期間を変更することが可能です。 出典: komon-lawyer.jp
ただし、越えられない一線がいくつかあります。
一つ目は、売主が知りながら告げなかった事実です。民法は、担保の責任を負わないという特約をしていても、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れることができないと定めています。免責条項を厚く書いたところで、故意に隠した欠陥までは守ってくれません。
二つ目は、新築住宅の構造部分です。先に触れたとおり、品確法の10年について買主に不利な特約は無効です。
三つ目は、宅地建物取引業者が自ら売主になる売買です。引渡しから2年以上とする特約以外に、買主に不利な特約はできません。
四つ目は、消費者が相手の場合です。事業者が消費者と結ぶ契約では、消費者契約法が事業者の損害賠償責任を全部免除する条項などを無効としています。個人向けにサービスを売っている場合、免責条項を書き込めば安心という発想は通用しません。
受注側の立場で見ると、期間を無制限にする条項が最も危険です。「納品物に不具合が発見された場合、期間の定めなく無償で修正するものとする」という一文は、何年先でも呼び出される権利を相手に渡していることになります。延々と無償対応が続く構造をつくらないために、期間の上限と、無償で直す範囲の線引きを同時に書いておくことが必要です。契約書の必須項目を点検するときは、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストで、発注書に書かせるべき項目とあわせて確認しておくと漏れが減ります。
「知った時から1年」を実務でどう守るか
通知期限を守るうえで実際に問題になるのは、法律の理解ではなく証拠です。1年以内に伝えたことを、あとから示せるかどうか。
第一に、通知の形式は法律で決まっていません。口頭でも成立します。ただ、口頭では「言った」「聞いていない」の水掛け論になります。メールやチャットのように、送信日時が残る手段を使ってください。相手の担当者の個人アカウント宛だけで完結させず、会社の代表窓口や契約書に書かれた通知先も宛先に入れておくと、組織として受け取ったという事実が残ります。
第二に、通知の中身です。「なんとなく調子が悪い」では通知として弱くなります。どの部分が、契約のどの内容と、どう食い違っているのか。この三点を書きます。仕様書の該当箇所を引き、実際の状態を写真やログで添える。この形にしておくと、のちの交渉でも争点がぶれません。
第三に、気づいた日を記録することです。起算点は「知った時」なので、いつ気づいたかが争点になります。検品の日付、不具合を最初に報告した社内チャットの日時、エンドユーザーからのクレームを受け取った日。こうした記録は後から作れません。
第四に、相手の反応が鈍いときの手当てです。通知だけでは時効は止まりません。時効の完成が近いと判断したら、内容証明郵便による催告や、話し合いによる時効の完成猶予の合意など、別の手を打つ必要があります。回収まで見据える段階に入ったら、未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】で、弁護士に頼んだ場合の費用感と裁判所の手続きの流れを先に把握しておくと、動くか待つかの判断が早くなります。
契約書のやり取りや通知文を書く力そのものを底上げしたいなら、ビジネス文書検定のように、文書の型と敬語の使い分けを体系的に学べる資格を一度通しておくのが近道です。通知文は、感情を書くほど弱くなり、事実を並べるほど強くなります。
期限を過ぎてしまったときに残る道
1年の通知期限や6か月の商事ルールを過ぎてしまった場合、完全に手詰まりかというと、そうとも限りません。残る道をいくつか挙げます。
まず、売主が不適合を知っていた、または重大な不注意で知らなかったケースです。この場合、民法の通知期限の制限は働きません。相手が欠陥を把握していた形跡、たとえば社内で不具合報告が上がっていた記録や、他の取引先にも同じ不具合が出ていた事実が出てくれば、状況は変わります。
次に、数量の不足や権利の不適合です。民法の1年通知ルールは、種類または品質に関する不適合についての定めです。数が足りない、移転された権利が契約の内容に合っていないといった場面は、この制限の外にあります。
さらに、契約の解釈で押せる場合があります。相手が納品後も継続して保守や修正の対応をしていたのなら、その対応そのものが不適合を認めた行為と評価される余地があります。やり取りのログは捨てずに残してください。
最後に、期限とは別に交渉が成り立つ場合です。法律上の請求権が消えていても、取引を続けたい相手であれば、相手は評判や今後の受注を考えて対応することがあります。法的な権利がないことを自分から先に言う必要はありませんが、同時に、権利があるかのように相手を誤解させる伝え方もしてはいけません。事実だけを並べて、どう対応してもらえるかを尋ねる形が無難です。
なお、損害賠償を請求する場面では、支払が遅れた分についての利息の扱いも関係します。民法は法定利率を年3パーセントと定めたうえで、3年ごとに一定の計算方法で見直す仕組みを置いています。個別の金額や利率の適用は事案ごとに変わるため、具体的な計算は弁護士や司法書士に確認してください。
受注側から見た「期間」の読み方
ここまでは主に買主・注文者の視点で書いてきました。成果物を納める側に立つと、同じ条文がまったく違う顔を見せます。
システム開発やWeb制作の契約では、検収という手続きがよく置かれます。検収に合格した時点で納品完了とし、そこから契約不適合責任の期間を数え始める設計です。受注側にとって重要なのは、検収の合格条件が契約書に具体的に書かれているかどうかです。「注文者が満足する品質であること」のような主観的な条件だと、いつまでも合格が出ず、期間の起算すら始まりません。テストケースの合格本数、応答速度の数値、対応ブラウザの範囲。数字で書ける条件に落としておくと、揉めたときに立ち返る場所ができます。
もう一つは、責任の上限です。契約不適合責任で賠償する額の上限を、その契約の報酬額までとする条項は、受注側にとって生命線になります。上限がない契約で大規模な障害が起きると、報酬をはるかに超える請求に発展しかねません。上限条項を入れる交渉は、値引き交渉よりも優先度が高いと考えて差し支えありません。
さらに、無償修正の範囲です。契約不適合責任は、契約で約束した内容に合っていない場合の責任であって、契約後に出てきた追加要望にまで無償で応じる義務ではありません。「これも不具合ですよね」と言われたときに、仕様書のどこに書いてあるかを確認する。この一手間を省くと、無償作業がじわじわ積み上がります。
アプリケーション開発の分野は、この検収と契約不適合責任の設計がとくに効く領域です。案件の中身や関わり方の幅はアプリケーション開発のお仕事で整理されていて、どの工程を請け負うかによって負う責任の重さが変わることが見てとれます。生成AIの導入支援のように、成果の定義そのものが固まりにくい分野では、AIコンサル・業務活用支援のお仕事のような助言型の関わり方を選ぶことで、成果物の不適合という論点自体を軽くできる場合もあります。
保証期間と契約不適合責任の期間は別物
家電を買うと付いてくる「保証書」の1年と、ここまで説明してきた期間は、性質がまったく違います。混同したまま相談に来る人が多いので、切り分けておきます。
保証書に書かれた期間は、売主やメーカーが自分の判断で約束したサービスです。法律が義務づけているものではなく、内容も範囲も各社が決めています。無償で修理する、部品だけ出す、消耗品は対象外にする。こうした線引きは、その会社の方針の結果です。
これに対して契約不適合責任は、法律が定めた責任です。保証書の期間が切れていても、契約不適合責任の通知期限が生きていれば、そちらを根拠に請求できる余地が残ります。逆に、保証期間内であっても、保証の対象外と書かれた壊れ方であれば無償修理は受けられません。この二つは重なりながら別々に走っていると考えてください。
事業者として保証条項を書く側に回ったときも同じです。「保証期間は納品後6か月とする」と書いただけでは、法律上の契約不適合責任を6か月に縮めたことにはなりません。責任の期間を短くしたいのであれば、契約不適合責任について明示的に期間を定める条項を、保証条項とは別に置く必要があります。この書き分けができていない契約書は、実際にかなりの割合で見かけます。
期間の数え方でつまずく五つの点
条文の期間を実際のカレンダーに当てはめるとき、毎回のように引っかかる箇所があります。順に潰しておきます。
一つ目は、契約書がいう「引渡し」がいつを指すかです。物が相手の倉庫に着いた日なのか、検収に合格した日なのか、請求書を発行した日なのか。契約書に定義が書かれていないと、起算日そのものが争点になります。納品書や検収書に日付を入れて双方が保管する運用にしておけば、この争いは起きません。
二つ目は、「知った時」の意味です。不具合の現象を見た日なのか、それが契約違反だと判断できた日なのか。実務では、通常の注意を払えば契約に適合していないと分かる状態になった日と考えられています。原因究明に時間がかかったという事情だけで、起算日を後ろにずらせると考えるのは危険です。気づいた疑いの段階で、まず一報を入れておくほうが安全です。
三つ目は、通知が「発信」で足りるのか「到達」まで必要かです。民法の通知期限については、期間内に通知を発していれば足りると解されるのが一般的ですが、契約書で到達を要件にしていることがあります。契約書に「書面が相手方に到達した時に効力を生じる」と書いてあれば、郵送日数を見込んで動く必要があります。
四つ目は、期間の終わりが休日に当たる場合です。民法には、期間の末日が日曜日や祝日などに当たり、その日に取引をしない慣習がある場合は翌日を末日とするという定めがあります。ただ、これに頼る前提で締切ぎりぎりに動くのは得策ではありません。
五つ目は、複数の期間が重なっている場合です。契約書の特約、民法の原則、業法の下限、そして消滅時効。四つが同時に走っていることがあります。このとき効くのは、最も早く切れるタイマーです。契約書に短い期間が書いてあっても、それが法律で無効とされる場面なら法律の期間が生き残ります。逆に、契約書が法律より長い期間を定めていても、消滅時効が先に来れば請求はできません。自分に有利な一つだけを見て安心しないでください。
場面ごとに、どの期間を見ればよいか
覚えるべき数字を、場面に紐づけて並べます。
個人が事業者から物を買った売買では、不適合を知った時から1年以内の通知が基本線です。そのうえで、権利を行使できる時から10年という時効が背後にあります。
事業者どうしの物品の売買では、商法が優先します。受領したら遅滞なく検査し、すぐ分かる不具合は直ちに通知、すぐ分からない不具合は受領から6か月以内に発見した場合まで、という枠です。
制作物を納める請負では、注文者が不適合を知った時から1年以内の通知です。システム開発やWeb制作の多くがここに入ります。ただし、契約書で期間を短く定めていることが多いため、まず契約書を見てください。
新築住宅の売買や請負では、構造耐力上主要な部分等について引渡しから10年です。これより買主に不利な特約は効きません。
宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地や建物の売買では、引渡しの日から2年以上とする特約を除き、買主に不利な特約はできません。
この五つを押さえておけば、手元の契約書がどの世界の話なのかを見分けられます。判断に迷ったら、契約の相手が事業者か個人か、成果物を作らせる契約か既にある物を買う契約か、この二つから順に切り分けると早いです。
20年この市場を見てきた立場からの観察
在宅ワークと業務委託の仲介を20年続けてきた運営者として見てきた限りでは、契約不適合責任で本当に揉める案件には共通点があります。金額の大きさではありません。仕様が文章になっていないことです。
期間の交渉に神経を使う人は多いのですが、期間が問題になるのは「これは不適合か」で争いがあるときだけです。何を納めるかが具体的に書いてあれば、そもそも争いになりません。逆に、仕様が口約束と打ち合わせの雰囲気だけで決まっている案件は、1年でも2年でも揉めます。期間を1年から6か月に縮めることに費やす労力の半分を、仕様書の解像度を上げることに回したほうが、結果として双方が楽になります。
もう一つ、長く続いている受注者ほど、期間が切れたあとの振る舞いが違います。責任期間が過ぎた案件でも、軽微な修正なら引き受ける。ただし、無制限ではなく「この範囲なら」と線を引いたうえで引き受ける。この線引きができる人は、相手から見て扱いやすい存在になり、次の依頼が来ます。単発の作業をこなす関係ではなく、この人に任せると楽だという関係をつくることに時間を使っている人が、結果として長く残っています。
手取りの話も同じ構造です。中間マージンが乗らない直接取引では、依頼者は同じ予算でより多くを頼め、受け手の手元に残る額は厚くなります。手数料0%という条件は、単に安いという話ではなく、責任の範囲を自分で決められる余地が広いという質の違いとして効いてきます。中間に業者が入ると、契約不適合責任の条項も先方の雛形がそのまま降りてきて、交渉の余地が消えることが少なくありません。誰と直接話せるかは、契約条件そのものに跳ね返ります。
職種ごとに変わる「期間」の重み
最後に、契約不適合責任の期間が実際にどれくらい効いてくるかを、仕事の型で分けて考えます。
成果物が長く使われ続ける仕事ほど、期間は重くのしかかります。業務システム、基幹アプリケーション、組み込みのソフトウェア。これらは納品後何年も運用され、時間が経ってから不具合が表面化します。ソフトウェアを作る仕事の単価や働き方の相場はソフトウェア作成者の年収・単価相場にまとまっていますが、単価の高さの一部は、この長期の責任を引き受ける対価だと考えるのが実態に近い。契約書の責任条項を見ずに単価だけで比べると、判断を誤ります。
一方、成果物が納品時点で評価が終わる仕事は、期間の重みが軽くなります。記事や原稿、取材、編集といった仕事は、公開された時点で内容の当否が決まり、数年後に不具合が出るという構造になりにくい。著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると単価の幅は広いのですが、納品後に無償で直し続けるリスクという意味では、開発系より穏やかです。ただし、事実誤認や権利侵害のように、責任の性質がまったく別のものに変わる論点があります。期間の長短だけで安全性を測らないでください。
もう一つ、セキュリティやマーケティングのように、成果が外部環境の変化で揺れる仕事があります。導入時点では正しく動いていたものが、外部サービスの仕様変更で動かなくなる。これを契約不適合と呼ぶかどうかは、契約でどこまでを約束していたかで変わります。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように環境変化が速い領域では、契約書に「前提となる外部環境」を書き残しておくかどうかで、あとの立場がまるで違ってきます。
期間は、契約書のなかで最も数字で表しやすい項目です。だからこそ、そこだけを見て安心したり不安になったりしがちです。実際に効いているのは、何を約束したかという中身と、いつ気づいてどう伝えたかという記録のほうです。手元の契約書を開いたら、期間の数字の前に、成果物の定義がどれだけ具体的に書いてあるかを先に確かめてください。そこが薄いまま期間だけ短く直しても、守られるものはほとんどありません。
よくある質問
Q. 契約書に「瑕疵担保責任期間は2年」と書いてありますが、いまも有効ですか?
言葉が古いだけで、条項そのものが無効になるわけではありません。当事者が何を約束したかという中身で読むことになります。ただし新築住宅の構造部分は法律で10年とされ、これに反して買主に不利な特約は無効です。宅地建物取引業者が自ら売主の場合も引渡しから2年以上が下限です。自分の契約がどれにあたるかを先に確かめてください。
Q. 期間の起算点は引渡しの日ですか、それとも欠陥に気づいた日ですか?
民法の通知期限は「不適合を知った時から1年以内」で、起算点は気づいた日です。一方、権利そのものが消える消滅時効は、権利を行使できる時から10年が一つの目安になります。短いタイマーと長いタイマーが同時に動いていると考えると整理しやすくなります。商人どうしの売買は受領時が起算点になるため別扱いです。
Q. 事業者どうしの取引で、納品から半年以上たってから不具合に気づきました。もう請求できませんか?
商法は、商人間の売買で直ちに発見できない不適合については、受領から6か月以内に発見した場合に限ると定めています。ただし売主が不適合を知っていた場合はこの規定が適用されません。相手が把握していた形跡が残っていないかを先に確認し、判断が割れる場面では弁護士に相談してください。
Q. 受注する側として、契約不適合責任の条項で最初に直すべき点はどこですか?
期間よりも先に、賠償額の上限と、検収の合格条件を見てください。上限のない条項は報酬を超える請求につながり、合格条件が主観的だと期間の起算すら始まりません。そのうえで無償修正の範囲を仕様書と紐づけて書いておくと、追加要望との線引きが明確になります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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