経理の引継ぎマニュアルに書くことと、月次の作業を漏らさない作り方


この記事のポイント
- ✓経理の引継ぎマニュアルに書くべき項目と作り方を
- ✓日次・月次・年次の作業の洗い出しから
- ✓源泉所得税の納期限や帳簿の保存期間まで国税庁の記載で確かめて解説します
経理の担当者が退職や異動で替わることになり、引継ぎマニュアルを急いで作らなければならない。あるいは、前任者がいなくなった後に、何から手を付ければよいか分からないまま月末を迎えようとしている。この記事は、そうした状況にある人に向けて、経理の引継ぎマニュアルに何を書けばよいか、そして月次の作業を1つも落とさないためにどう作ればよいかを、順番に整理したものです。
結論から書くと、経理の引継ぎで漏れが出るのは「毎月やっていること」ではなく「毎月やっているのに、本人が作業だと思っていないこと」と「年に1回しかないこと」です。マニュアルは手順書であると同時に、カレンダーとチェックリストでもある必要があります。後半では、月次の作業を表やボードで見える形にする方法として、無料から使えるプロジェクト管理のPinatecaにも触れます。
経理の引継ぎで起きやすい失敗と、マニュアルが必要な理由
経理の仕事は、日々の入力そのものより「いつまでに何を終えるか」で成り立っています。請求書の発行、支払い、給与の振込、源泉所得税の納付、月次の締め。どれも期限があり、遅れると取引先や従業員、税務署に影響が出ます。だからこそ、担当者が替わる場面で漏れが出ると、すぐに外から見える問題になります。
引継ぎの現場で実際によく起きる失敗は、おおむね次の4つです。
・前任者の頭の中にしかない作業があり、後任が存在に気づかない
・年に1回の手続きが、引継ぎ期間中に1度も出てこなかったため説明されない
・銀行やクラウド会計のログイン情報、承認の権限が個人に紐づいたまま残る
・「この取引先だけは例外」という判断の理由が書かれていない
経理代行の会社が紹介している事例にも、こうした状況がそのまま出てきます。
長年勤めていた経理部門のスタッフが辞めてしまい、未経験の新入社員1名しかいなくなってしまいました。お客様にお送りする請求書まで間違うことが増え、月次資料の作成も遅れてしまい、とても困っています。 出典: skc-keiri.com
この事例で困っているのは、新人の能力ではありません。仕事の全体像と期限が、どこにも書かれていなかったことです。マニュアルがあれば、未経験の人でも「今日は何をする日か」までは分かります。分からない判断が出てきたときに、誰に聞けばよいかも分かります。
引継ぎマニュアルは、辞める人が最後に書く記念の文書ではなく、会社が経理の仕事を続けるための道具です。相手に「全部書いて」と頼むより、どんな形で書いてほしいかを先に決めて渡したほうが、短い期間でも使えるものができます。以下では、その形を具体的に示していきます。
マニュアルを書き始める前に、仕事を5つの周期で洗い出す
いきなり手順を書き始めると、思い出した順に並ぶだけのメモになります。最初にやるのは、経理の仕事を周期ごとに洗い出すことです。周期は次の5つに分けると、漏れが見つけやすくなります。
- 日次:入出金の確認、現金出納帳の記帳、経費の領収書の受付
- 週次:支払予定の確認、売掛金の入金消込(請求した代金が入ったかを照らし合わせること)
- 月次:請求書の発行、買掛金の支払い、給与計算と振込、源泉所得税の納付、月次の締めと試算表
- 年次:決算の準備、年末調整、給与支払報告書の提出、固定資産の棚卸
- 不定期:新しい取引先の登録、従業員の入社と退職、税務署や役所からの問い合わせ
洗い出しの方法としていちばん確実なのは、過去12か月の通帳の動き、会計ソフトの仕訳、前任者のメールの送信履歴を、月ごとに見返すことです。通帳を見れば「毎月25日に必ず出ていくお金」が分かり、送信履歴を見れば「毎月月初に誰かへ送っている資料」が分かります。本人が作業だと思っていない仕事は、たいていこうした記録の中にあります。
もう1つ効くのが、前任者に「1日の流れ」をそのまま話してもらうことです。「朝来たらまず何を開きますか」と聞くと、ネットバンキングを開いて入金を見ている、共有フォルダの請求書の受付箱を確かめている、といった細かい作業が出てきます。これを周期の表に振り分けていきます。
洗い出しの段階では、手順の細かさは気にしなくてかまいません。作業名、周期、期限、所要時間の目安、使う道具の5項目だけを表に並べます。この一覧が、後でマニュアル全体の目次になります。洗い出した作業が30を超えるのは珍しくありません。数が多いと感じたら、それがそのまま、前任者が1人で抱えていた仕事の量です。
月次の作業をカレンダーに並べる
洗い出した作業のうち、漏れたときの影響がもっとも大きいのが月次の作業です。月次の作業は、内容ごとではなく日付ごとに並べ直します。経理の月は、だいたい次のような順で回っています。
・月初:前月分の請求書の発行、前月の経費精算の締め
・10日前後:源泉所得税の納付
・中旬:取引先からの請求書の受付と支払予定の確定
・25日前後:給与の振込、取引先への支払い
・月末:売掛金の入金確認、月次の締めの準備
この中で、日付が法律で決まっているのが源泉所得税の納付です。給与や一部の報酬を払うとき、会社は所得税をあらかじめ差し引いて預かり、それを国に納めます。国税庁はその期限を次のように書いています。
源泉徴収した所得税および復興特別所得税(令和9年分以後は所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税。以下同じです。)は、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。 出典: 国税庁 No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
ここで引継ぎの落とし穴になるのが「納期の特例」です。給与を払う人数が常に10人未満の会社は、税務署に申請しておくと、1月から6月分を7月10日、7月から12月分を翌年1月20日にまとめて納められます。この特例を使っている会社では、源泉所得税の納付が年に2回しかありません。毎月の作業として説明されないため、引継ぎから漏れやすいのです。
マニュアルには、自社が毎月納付なのか特例なのかを必ず書きます。分からなければ、過去の納付書の控えや、ネットバンキングの納付の記録を見れば確かめられます。期限が土日や祝日に当たるときは、その次の平日が期限になることも、国税庁のページに書かれています。
月次のカレンダーは、1枚の表にまとめておくと引継ぎの初月に効きます。縦に日付、横に作業名、担当、確認する人を並べ、終わったら印を付ける形です。この表がそのまま、後で触れるチェックリストの元になります。
年に1回の作業は「いつ、何を、どこへ」で書く
年次の作業は、引継ぎ期間中に1度も出てこないことが多いのが問題です。たとえば3月に引継ぎを受けた人にとって、年末調整は9か月先の話です。前任者はもういません。だから年次の作業ほど、手順を細かく残しておく必要があります。
年次の作業として、多くの会社で共通して出てくるのは次のようなものです。
・決算の準備(棚卸、未払いや前払いの整理、税理士への資料の受け渡し)
・年末調整(従業員から書類を集め、1年分の所得税を計算し直す作業)
・給与支払報告書の提出(従業員ごとの1年分の給与を、住んでいる市区町村へ届け出る書類。翌年1月31日まで)
・源泉所得税の納期の特例を使っている場合の、7月と1月の納付
・固定資産の棚卸と、償却資産の申告が必要な場合はその手続き
決算や申告の期限は、会社の事業年度で決まります。ここは自社の事業年度と、前年の申告書の控え、顧問税理士との取り決めで確かめて書いてください。期限を一般論で書くと、事業年度が3月以外の会社ではずれます。
年次の作業を書くときは、手順の前に「いつ、何を、どこへ」の3点を先に書きます。たとえば年末調整なら、11月中旬に従業員へ書類を配る、12月の給与で精算する、翌年1月に給与支払報告書を市区町村へ出す、という流れです。そのうえで、前年に実際に使った書類の控えやファイルの保存場所を書き添えます。前年の実物があると、後任は「去年と同じものを作ればよい」と分かり、初めての作業でも迷いが減ります。
年次の作業の手前には、準備を始める日も書いておくと安心です。年末調整なら、書類を配る2週間前に「従業員の扶養の状況が変わっていないかを確かめる」という準備の作業が入ります。期限だけを書くと、気づいたときには間に合わないということが起こります。
1つの作業を書くときの型
洗い出した作業ごとに、手順を書いていきます。書く人によって粒度がばらばらになると、後任が読みにくくなります。次の7項目を型として決め、全部の作業を同じ形で書くのがおすすめです。
- 作業名と目的(なぜこの作業があるのか)
- タイミングと期限(毎月何日まで、など)
- 使う道具(会計ソフト、ネットバンキング、表計算のファイル名と保存場所)
- 手順(画面の名前とボタンの名前で、番号を振って書く)
- 判断の基準(迷いやすいところと、その決め方)
- 確認先(分からないときに聞く相手。社内、税理士、取引先の担当)
- よくある間違い(過去に起きたことと、その直し方)
この中で、手順そのものよりも大事なのが1の目的と5の判断の基準です。手順は会計ソフトが変われば変わりますが、目的と判断の基準は変わりません。目的が書いてあれば、画面が変わっても後任が自分で手順を組み直せます。
手順は、画面に出ている名前で書きます。「いつものところから出力する」ではなく、「会計ソフトの[レポート]から[試算表]を開き、期間を前月にして[出力]を押す」と書きます。画面の写真を貼れるなら、手順の番号と写真の番号を合わせておくと、後任が迷いません。
所要時間の目安も書いておくと、後任が自分の1か月の予定を組めます。「試算表の確認は30分」「給与計算は半日」と分かれば、月末に作業が重なる日を事前に避けられます。
手順を書き終えたら、前任者が見ていない場で、後任に一度その通りにやってもらいます。途中で手が止まったところが、マニュアルの穴です。引継ぎ期間が短くても、この試し打ちだけは省かないでください。書いた本人には、穴が見えないからです。
型に当てはめた記入例:毎月の請求書の発行
型だけでは書き方の加減が分かりにくいので、多くの会社にある「毎月の請求書の発行」を例に、7項目を埋めた形を示します。自社の作業に当てはめて読んでください。
・作業名と目的:毎月の請求書の発行。前月に納品や役務の提供が終わった取引先へ代金を請求し、入金予定を確定させるため。
・タイミングと期限:毎月1日から3営業日以内。取引先によっては「毎月5日必着」の決まりがあるので、その取引先は1日に送る。
・使う道具:請求書を作る会計ソフト、取引先と金額の一覧の表計算ファイル(共有フォルダの「経理/請求/取引先一覧」)、送付に使う会社の共用メールアドレス。
・手順:営業の担当から前月の納品の一覧を受け取る。取引先ごとに金額を一覧と照らし合わせる。会計ソフトで請求書を作り、PDFで書き出す。共用メールアドレスから送り、送った日を一覧に記入する。
・判断の基準:納品が月をまたいだ案件は、検収(取引先が納品物を確かめて受け取ること)の日で月を決める。迷ったら営業の担当に検収日を確かめる。
・確認先:金額の食い違いは営業の担当。請求書の宛名や送付先の変更は、取引先の経理の担当。
・よくある間違い:前月に単価が変わった取引先に旧単価で請求した。単価の変更は営業から連絡が来るので、届いた連絡を一覧の備考欄に必ず写す。
ここまで書いておけば、初めての人でも1回目の請求書を出せます。逆に、この中の1つでも欠けていると、後任はどこかで手が止まります。特に「確認先」が抜けていると、分からないことが出てきたときに誰にも聞けず、作業が期限を越えてしまいます。
記入例は、すべての作業を書き終えてから作るのではなく、最初の1つを書いた段階で関係者に見せるのがおすすめです。「この細かさで全部書く」という合意を最初に取っておけば、書く人によって粒度がばらつくことを防げます。
判断が入る作業は「理由」まで書く
経理の仕事には、手順だけでは書き切れない判断がたくさんあります。たとえば次のようなものです。
・同じ文房具でも、金額や用途によって勘定科目を変えている
・特定の取引先だけ、支払日を月末ではなく翌月10日にしている
・ある経費は、社長の承認を取ってから精算している
・毎月の売上のうち、前受けの分だけ翌月に回している
こうした判断は、結論だけを書くと、後任は「なぜそうするのか」が分からないまま真似することになります。そして事情が変わったときに、止めるべきかどうかを決められません。だから判断には必ず理由を添えます。「この取引先は資金繰りの都合で支払日を翌月10日にしてほしいと頼まれ、令和◯年に社長が了承した」のように、いつ、誰が、なぜ決めたかを書きます。
ある小さな事務所で実際にあった話を、匿名にして紹介します。前任者が毎月、ある取引先への支払いだけを手で金額を直してから振り込んでいました。マニュアルには「金額を確認して振り込む」としか書かれていなかったため、後任は請求書の金額のまま振り込みました。実は、その取引先とは前年に値引きの合意があり、請求書の金額から差し引くことになっていたのです。合意の書面はメールの中にしかありませんでした。結果として、後で返金を頼む手間が生じました。
この話から言えるのは、判断の理由は、それを裏付ける書面の場所とセットで書くということです。契約書、メール、議事録のどこにあるかを書いておけば、後任は自分で確かめられます。経理の仕事は、お金が絡む以上、後から「なぜそうしたのか」を説明できることが何より大切です。
帳簿と書類の保存期間と、保管場所の書き方
引継ぎマニュアルには、帳簿や書類をどこに、いつまで保管しているかも必ず書きます。保存の期間は法律で決まっていて、後任が勝手に処分すると問題になります。法人の場合、国税庁は次のように書いています。
法人は、帳簿(注1)を備え付けてその取引を記録するとともに、その帳簿と取引等に関して作成または受領した書類(注2)を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間(注3)保存しなければなりません。 出典: 国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間
ここでいう帳簿は総勘定元帳や仕訳帳、現金出納帳など、書類は貸借対照表や損益計算書、注文書、契約書、領収書などです。青色申告で赤字(欠損金)が出た事業年度は、10年間の保存になります。どの年度が赤字だったかは、マニュアルに書いておかないと後任には分かりません。
個人事業の経理を引き継ぐ場合は期間が違います。国税庁の案内では、収入や経費を書いた帳簿は7年、それ以外の帳簿や請求書、領収書などの書類は5年です。法人と個人で期間が違うので、どちらの経理を引き継ぐのかを最初に確かめてください。
もう1つ、最近の引継ぎで欠かせないのが電子データの扱いです。メールで受け取った請求書のPDFや、ネットで買い物をしたときの領収書のデータは、電子帳簿保存法という法律で、データのまま保存することが求められています。紙に印刷して終わりにしていないか、どのフォルダにどんな名前で保存しているかを、マニュアルに書きます。制度の詳しい内容は、国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトにまとまっています。
保管場所は「書庫」「共有フォルダ」のような書き方ではなく、棚の番号やフォルダの完全な場所で書きます。年度ごとの箱やフォルダに、いつ処分してよいかの年を書いた札を付けておくと、何年も先の担当者まで迷わずに済みます。
アカウント、パスワード、銀行の権限の引継ぎ
経理の引継ぎで、もっとも後回しにされやすく、もっとも困るのがログインと権限です。ネットバンキング、クラウド会計、給与計算のソフト、e-Tax、取引先の請求書の受け取りサービス。経理担当は多くのサービスに入っていて、その多くが前任者の個人のメールアドレスや携帯電話に紐づいています。
前任者が辞めた後で、ネットバンキングの承認ができない、二段階認証のコードが前任者の携帯に届く、という状態になると、給与の振込が止まります。引継ぎ期間中に、次の順で整理してください。
- 経理で使っているサービスを一覧にする(名前、用途、ログインに使うメールアドレス、二段階認証の届け先、契約者)
- 個人のメールアドレスで登録しているものは、会社の共用アドレスか後任のアドレスに変える
- ネットバンキングは、銀行の手続きで利用者と承認者を変更する
- 前任者のアカウントは、最終日に止める日を決めて実行する
パスワードそのものをマニュアルに書き込むのは避けます。マニュアルは多くの人の目に触れるので、パスワードは会社で決めた管理の方法で渡し、マニュアルには「どこで管理しているか」だけを書きます。この考え方は、情報処理推進機構(IPA)が公開している中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインにも沿っています。小さな会社向けに、何から手を付ければよいかが段階的に整理されているので、引継ぎを機に一度目を通しておくと役に立ちます。
銀行の利用者の変更は、窓口での手続きが要ることが多く、2週間ほどかかる場合もあります。引継ぎが決まったら、いちばん最初に手を付けてください。
引継ぎ期間が1か月しかないときの優先順位
経理の引継ぎ期間は、1か月程度しか取れないことがよくあります。その中で全部を完璧に書くのは無理なので、優先順位を決めます。考え方は単純で、「遅れたら外に迷惑がかかるもの」から順に書きます。
・1番目:給与の振込、取引先への支払い、源泉所得税の納付(遅れると従業員、取引先、税務署に直接影響する)
・2番目:請求書の発行と入金の確認(遅れると会社の資金繰りに響く)
・3番目:銀行やクラウド会計の権限の移し替え(前任者がいなくなると誰も手を付けられない)
・4番目:月次の締めと試算表(遅れても数日なら取り返せる)
・5番目:年次の作業(期限まで時間があるので、前年の控えと保存場所だけは必ず残す)
1か月の使い方としては、最初の1週目で洗い出しと優先順位付け、2週目と3週目で前任者が実際に作業するところを後任が横で見て、同時にマニュアルを書きます。4週目は後任が作業し、前任者が横で見る形に入れ替えます。最後の週に、前任者がいない状態で1日を回してみると、残っている穴が見つかります。
年次の作業は1か月の中で体験できないので、5番目にしています。ただ、体験できない分、書き残す価値はいちばん高い作業でもあります。前任者には、去年の控えのファイルの場所と、そのとき困ったことを一言ずつ書いてもらうだけでも、翌年の後任の助けになります。
月次の作業を漏らさない仕組み:チェックリストとボード
マニュアルを書いても、毎月それを開いて確かめなければ漏れは防げません。そこで、マニュアルとは別に「今月の作業の一覧」を作り、終わったものから印を付ける運用にします。小さな会社なら、表計算のファイルで十分に回ります。月ごとにシートを複製し、作業名、期限、担当、完了日の列を並べるだけです。
ただ、表計算のファイルには弱いところもあります。期限が近いことを誰も教えてくれない、複数の人で使うと誰がどこまで終えたかが分かりにくい、作業ごとのやり取りがメールやチャットに散らばる、といった点です。経理の担当が2人以上いる、税理士や社長と確認のやり取りが多い、という会社では、作業をカードにしてボードで管理する方法が合います。
その選択肢の1つがPinatecaです。公式サイトによると、カンバン、ガント、カレンダー、リストなど8種類のボードとチャットが無料プランから使え、5人までなら料金がかかりません。経理の月次の作業を1枚ずつカードにして、カレンダーのボードに期限で並べれば、今月どの日に何が集中しているかが一目で分かります。カードにはコメントを付けられるので、「この支払いは社長の承認待ち」といったやり取りを作業と同じ場所に残せます。毎月同じ作業が並ぶ経理には、カードの一覧そのものが引継ぎの記録になるという利点もあります。有料のスタンダードプランは1人あたり月額500円(税抜)で、6人目か11個目のボードから必要になります。
社内から経費精算や支払いの依頼を受け付ける窓口が、メールやチャットの個別のやり取りになっている会社では、受付の形を決めるのも引継ぎの助けになります。Halictは、フォームで受け付けた依頼を1件ずつ担当と状況つきで管理できるサービスで、無料プランから使えます。依頼が来た経路と処理の状況が1か所に残るので、担当が替わっても「どの依頼が終わっていないか」を後任がすぐに確かめられます。
Pinatecaは、@SOHOを運営する株式会社ライフスケープが開発・提供しています。
道具は何を選んでも、大事なのは「毎月の作業の一覧が、個人のメモではなく、会社の誰もが見られる場所にある」ことです。それができていれば、次に担当が替わるときの引継ぎは、ずっと短く済みます。
一人経理が辞めるときと、後任が決まっていないとき
小さな会社では、経理を1人で担当していることが珍しくありません。その1人が辞めるとき、後任がまだ決まっていないことも多くあります。この場合、引継ぎの相手は人ではなく「会社」です。マニュアルは、まだ見ぬ後任と、その間をつなぐ社長や外部の専門家の両方が読める形で書きます。
後任が決まるまでの間は、選択肢がいくつかあります。社長や別の社員が一時的に担当する、顧問税理士に記帳や給与計算を追加で頼む、経理代行の会社に一部を任せる、在宅で経理を受けている個人に業務委託で頼む、などです。どれを選ぶにしても、頼む側が「何を、いつまでに」を説明できなければ、見積もりも依頼もできません。洗い出した作業の一覧と月次のカレンダーは、そのまま外部への依頼の仕様書になります。
外に頼むときは、契約の形にも気を付けます。個人に業務委託で頼む場合、2024年11月に施行されたフリーランス法によって、発注する側には取引の条件を書面やメールで明示する義務などがあります。経理の仕事は、会社の会計データや従業員の給与情報を扱うので、秘密を守る約束も書面で交わします。契約の作り方に不安があるなら、契約書類の作成を専門とする行政書士に相談する方法もあります。行政書士の資格ガイドには、どんな仕事を頼める専門家なのかがまとまっています。
会社によっては、経理の担当者の退職をきっかけに、事業そのものの引継ぎを考え始めることもあります。後継者の問題を含めて考える段階なら、事業承継・引継ぎ補助金2026|中小企業のM&A・後継者不在を解決する支援制度で、国の支援の内容と申請の流れを確かめられます。
引継ぎを受けた側が、最初の1か月でやること
ここまでは渡す側の目線で書いてきましたが、受け取る側にもやることがあります。マニュアルを受け取ったら、最初の1か月で次の4つを進めてください。
- マニュアルの月次のカレンダーを、自分の予定表に写す(期限の3日前に気づける形で)
- 分からない言葉や判断を、日付と一緒にメモする(前任者か上司にまとめて聞く)
- 最初の月の作業は、終わるたびにマニュアルと違ったところを書き直す
- 年次の作業の控えの場所を、実際に開いて確かめる
3つ目がとても大事です。マニュアルは書いた瞬間から古くなり始めます。会計ソフトの画面は変わり、取引先は増え、制度も変わります。受け取った人が最初の月に直したマニュアルが、次の担当者にとっていちばん役に立つ版になります。
在宅で働く場合も同じです。在宅勤務で経理を引き継ぐと、前任者に横で聞くことができません。画面を共有しながら作業を見せてもらう時間を、引継ぎ期間の中に決めて確保してください。テレワークの環境を整える費用については、テレワーク 助成金 2026で、国の助成金の対象と条件を確かめられます。
マニュアルそのものの保存場所も決めておきます。前任者のパソコンの中や個人のクラウドに残したままだと、退職と同時に誰も開けなくなります。会社の共有フォルダに「経理マニュアル」のフォルダを作り、更新した日と更新した人を表紙に書く決まりにしておけば、どれが最新の版かで迷うことがありません。
最初の決算と年末調整を一度通すと、経理の1年の全体がつながって見えるようになります。それまでは、分からないことを恥ずかしがらずに確認先へ聞くことが、結果としていちばん早い習得の道です。
経理の仕事を外に頼む会社が増えている理由
20年この市場を見てきた立場から言えば、経理の引継ぎで困った会社ほど、次は「1人に任せきりにしない」形を選ぶ傾向があります。社内の担当者と、在宅で経理を受けている外部の人の2人で回す、日々の入力は外に、判断と承認は社内に、という分け方です。こうすると、どちらかが抜けても仕事が止まりません。そして、作業を外に頼むためには手順と期限を書き出す必要があるので、結果として引継ぎマニュアルが自然に整っていきます。
受ける側から見ても、経理の仕事は在宅で続けやすい分野です。月次の作業は毎月同じ流れで、期限がはっきりしているので、予定が立てやすいからです。長く続いている人ほど、作業をこなすだけでなく、依頼する会社のために作業の一覧と手順を整え、「この人に任せると引継ぎで困らない」という関係を作っています。仲介の手数料がかからない直接の取引なら、同じ予算で依頼する側はより多くを頼め、受ける側の手取りも厚くなります。双方が長く付き合いやすい形です。
経理の仕事を受ける側の目線で、どんな作業が頼まれているのか、どんな経験が求められるのかを知りたい人は、経理・財務・帳簿・税務のお仕事のガイドを見てください。記帳代行、給与計算、請求書の発行代行など、在宅で受けられる経理の仕事の種類と、それぞれに必要な知識が整理されています。引継ぎマニュアルを作った経験は、外部の経理の仕事を受けるときの大きな強みになります。
よくある質問
Q. 経理の引継ぎマニュアルは、どのくらいの期間で作れますか?
会社の規模や作業の数によりますが、1か月程度の引継ぎ期間で作ることが多いです。最初の1週目で作業を周期ごとに洗い出し、2週目と3週目で作業を見ながら手順を書き、最後の週に後任が実際に回して穴を埋める流れが現実的です。年次の作業は期間中に体験できないので、前年の控えの保存場所を必ず残してください。
Q. 経理の引継ぎで、最初に手を付けるべきことは何ですか?
ネットバンキングやクラウド会計のログインと権限の整理です。銀行の利用者の変更は窓口の手続きが要り、時間がかかることがあります。前任者の個人の携帯電話やメールアドレスに二段階認証が届く状態のまま退職されると、給与や支払いの振込が止まるおそれがあるので、引継ぎが決まった時点で一覧を作ってください。
Q. 帳簿や領収書は、引継ぎのときに処分してもよいですか?
処分しないでください。法人の帳簿と書類は、確定申告書の提出期限の翌日から原則7年間、青色申告で欠損金が出た年度は10年間の保存が必要です。個人事業は帳簿が7年、請求書や領収書などは5年です。保存期間が過ぎたかどうかは年度ごとに違うので、迷うときは顧問税理士か税務署に確かめてください。
Q. 後任がいないまま経理担当が辞める場合は、どうすればよいですか?
洗い出した作業の一覧と月次のカレンダーを残してもらい、社長や別の社員、顧問税理士、経理代行、業務委託の個人のいずれかに一時的に任せます。外部に頼むときは、作業の一覧が依頼の内容そのものになります。個人に業務委託で頼む場合は、取引条件を書面やメールで明示し、会計データの秘密を守る約束も交わしてください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを運営。生成AIで作成した下書きを、一次情報と照らし合わせて確認したうえで公開しています。

この記事を書いた人
@SOHO編集部
フリーランス・在宅ワークの専門メディア
@SOHOは2004年から続く、日本のフリーランス・在宅ワーク向け案件サイトです。記事は生成AIで下書きを作り、数値・固有名・出典を一次情報と照らし合わせる確認の手順を経て公開しています。
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