個人事業主が入る経営セーフティ共済の仕組み

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
個人事業主が入る経営セーフティ共済の仕組み

この記事のポイント

  • 個人事業主が経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)に入るときの加入資格
  • 2024年10月から変わった再加入後2年の取り扱いまでを中小機構の資料にもとづいて整理します

経営セーフティ共済を個人事業主が調べるとき、入り口はほぼ「節税になるらしい」という話です。掛金が全額そのまま必要経費になる、上限は年240万円、積立限度は800万円。確かに数字は魅力的に見えます。ただ、結論から書くと、この制度は節税の道具ではなく、取引先が倒産したときに資金を借りるための備えです。掛金は経費になりますが、解約して戻ってきたお金は事業所得の収入になります。つまり課税は先送りされるだけで、消えるわけではありません。ここを取り違えたまま加入すると、資金繰りだけが苦しくなります。この記事では、中小機構が公表している制度のしおりにもとづいて、加入できる条件、掛金の扱い、貸付の中身、解約したときに何が起きるかを順番に整理します。

経営セーフティ共済とは何か。倒産の連鎖を止めるための制度

正式名称は中小企業倒産防止共済制度です。中小企業倒産防止共済法(昭和52年法律第84号)にもとづき、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しています。制度が始まったのは昭和53年4月1日です。

仕組みは単純です。共済契約者が毎月掛金を積み立てておき、取引先の事業者が倒産して売掛金などの回収が困難になったときに、その掛金を原資として共済金の貸付けを受けられます。貸付けを受けられる額は「納付された掛金の10倍(限度額8,000万円)」と「回収困難となった売掛金債権等の額」のいずれか少ないほうです。無担保、無保証人、無利子で借りられます。

中小機構自身が制度の性格を明確に書いています。

国の機関である中小機構が運営する小規模企業共済制度は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための、積み立てによる退職金制度です。 2017年3月時点で、全国で約133万人の方が加入されています。掛金は全額を所得控除できるので、高い節税効果があります。 将来に備えつつ、契約者の方がさまざまなメリットを受けられる、おトクな制度です。 出典: moka.shinkumi.jp

引用したのは小規模企業共済の説明です。中小機構は二つの共済を運営していて、名前が似ているので混同されがちですが、中身は別物です。小規模企業共済は経営者自身の退職金を積み立てる制度で、掛金は所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象になります。経営セーフティ共済は取引先の倒産に備える制度で、掛金は事業所得の必要経費です。控除と経費では申告書の書く場所が違いますし、効き方も違います。どちらの話をしているのかを、記事や相談の場で必ず確認してください。

対象になる倒産の種類も決まっています。法的整理、取引停止処分、でんさいネットの取引停止処分、私的整理、災害による不渡り、災害によるでんさいの支払不能、特定非常災害による支払不能です。逆に、夜逃げは共済金の貸付けの対象になりません。連絡が取れなくなっただけでは制度は動かない、ということです。

個人事業主の加入資格。1年以上の継続が入り口

本制度に加入できるのは、引き続き1年以上事業を行っている中小企業者です。この「1年以上」が最初の関門になります。開業したばかりの人は、どれだけ売上があっても加入できません。

会社または個人の事業者の場合、業種ごとに「資本金の額または出資の総額」か「常時使用する従業員数」のいずれかに該当すれば中小企業者に当たります。製造業・建設業・運輸業その他の業種は3億円以下または300人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、サービス業は5,000万円以下または100人以下、小売業は5,000万円以下または50人以下、ゴム製品製造業は3億円以下または900人以下、ソフトウェア業または情報処理サービス業は3億円以下または300人以下、旅館業は5,000万円以下または200人以下です。個人事業主には資本金がないので、実質的には従業員数の基準で判断されます。一人で仕事をしている人は、当然この基準の中に入ります。

要件を満たしていても加入できない場合があります。住所または主たる事業の変更を繰り返して継続的な取引状況の把握が困難な人、事業に係る経理内容が不明の人、すでに借りた共済金や一時貸付金の償還を怠っている人、中小機構から返還請求を受けた金額の返還を怠っている人、納付すべき所得税または法人税を滞納している人、12か月分以上掛金の納付を怠ったなどの理由で契約を解除され解除日から1年を経過していない人、不正行為により貸付けや手当金を受けようとした日から1年を経過していない人、そして現に共済契約者となっている人です。

もう一つ、加入前に必ず読むべき注意書きが制度のしおりに書かれています。本制度は取引先事業者の倒産によって生じる回収困難な売掛金債権等に対する貸付制度であるため、一般消費者を取引先とする事業者、金融業者、不動産業者などは、取引先事業者に対する売掛金債権等が生じず、共済金の貸付けの対象にならない場合がある、という内容です。

ここは個人事業主にとって決定的です。店舗で一般のお客さんに売っている人、個人向けのサービスを提供している人は、そもそも「取引先事業者の倒産」という事態が起きません。制度の本来の目的を使えない状態で掛金だけ払い続けることになります。掛金を経費にする効果だけを狙って加入すると、この構造を見落とします。事業者間の取引で売掛金が立つかどうかを、加入前に自分の請求書で確かめてください。

掛金の決め方と積立の上限

掛金月額は5,000円から20万円までの範囲で、5,000円単位で設定できます。加入申込みのときに決め、契約の途中で増額も減額もできます。納付は毎月の口座振替で、振替日は毎月27日(土日祝日の場合は翌営業日)です。前納(前払い)もできます。

積立限度額は掛金残高が800万円に達するまでです。月20万円で積み立てると40か月で上限に届きます。上限に達したあとは納付が止まります。

掛金の税法上の扱いは、個人の場合は事業所得の必要経費、法人の場合は損金です。前納した掛金は、前納の期間が1年以内なら支払った日の属する年分の必要経費に算入できます。前納の期間が1年を超える場合は、各年末において期間の経過に応じて算入します。年末に一括して1年分を前納すれば、その年の必要経費を最大240万円増やせる、という計算になります。

ここに個人事業主だけの落とし穴があります。中小機構の注意事項には、個人事業の場合、事業所得以外の収入(不動産所得等)は掛金の必要経費としての算入が認められないと明記されています。不動産所得が主で事業所得が小さい人、あるいは事業所得がない人は、掛金を払っても必要経費にできません。ここを確認せずに加入して、申告のときに気づく例が毎年あります。

必要経費に算入するには手続きも要ります。『特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書』に記入して確定申告書に添付します。この明細書を付け忘れると、掛金を払っていても必要経費として認められません。会計ソフトで仕訳を入れただけでは完結しない、という点を覚えておいてください。

共済金の貸付け。無利子だが「利子相当」の負担はある

取引先が倒産したときに借りられる額は、回収困難となった売掛金債権等の額と、納付された掛金総額の10倍の額のいずれか少ないほうです。上限は8,000万円です。掛金総額が800万円に達していれば、その10倍の8,000万円まで借りられる計算になります。

貸付条件は無担保、無保証人、無利子です。ただし、無利子には条件が付いています。制度のしおりには、貸付金額の10分の1に相当する額が納付された掛金から控除されると書かれています。つまり、1,000万円を借りると掛金総額から100万円が消えます。利息は取られませんが、積み立てた掛金の一部が戻らなくなるという形で負担が発生します。実質的な調達コストとして、この10分の1を計算に入れておいてください。

償還は貸付額に応じて期間が分かれます。5,000万円未満は5年、5,000万円以上6,500万円未満は6年、6,500万円以上8,000万円以下は7年で、いずれも据置期間6か月を含む毎月均等償還です。据置期間があるので、借りた直後から返済が始まるわけではありません。

請求の手続きにも段取りがあります。共済金の貸付請求は登録取扱機関を通じて行い、取引先の倒産の事実と、回収が困難になった売掛金債権等の額を示す書類が必要になります。取引の確認が済み次第、借りられるという建て付けです。逆に言えば、普段から請求書や注文書、納品の記録を残していないと、いくらの債権が回収できなくなったのかを示せません。個人事業主でメールのやり取りだけで受発注している人は、この点で不利になります。制度に入るなら、取引の記録の残し方も同時に整えておくほうが確実です。

倒産が起きていなくても使える貸付けもあります。一時貸付金です。貸付限度額は機構解約時の解約手当金の95パーセント、使途は設備資金や運転資金などの事業資金、貸付利率は年0.9パーセント(令和7年4月1日現在)、利息は貸付時に一括前払い、期間は1年、担保・保証人は不要、償還は期限一括です。取引先の倒産という条件なしに、積み立てた範囲でつなぎ資金を引ける仕組みになっています。利率は改定されることがあるので、使う前に最新の数字を確認してください。

解約手当金。12か月未満は掛け捨て、40か月で全額

制度でいちばん誤解されるのが解約です。解約手当金は、掛金納付月数が12か月以上のときに支払われます。支給率は解約の事由と納付月数で決まります。

任意解約の場合、1か月から11か月は0パーセント、12か月から23か月は80パーセント、24か月から29か月は85パーセント、30か月から35か月は90パーセント、36か月から39か月は95パーセント、40か月以上で100パーセントです。機構解約(掛金の滞納などで機構側から解除される場合)は、それぞれ0、75、80、85、90、95パーセントとやや低くなります。みなし解約(個人事業主の死亡や事業の全部譲渡など)は0、85、90、95、100、100パーセントです。

12か月未満は掛け捨てになるという点は、短期で出入りを考えている人には効きます。そして40か月、つまり3年4か月以上続けて初めて全額が戻る設計です。ここを知らずに「節税になるから1年だけ」と入ると、確実に元本を削ります。

なお、ここでいう掛金総額は、納付した掛金からいくつかの額を差し引いた額です。共済金貸付額の10分の1に相当する額、そして共済金や一時貸付金の償還を怠ったためにその償還や違約金の納付に充てられた額が引かれます。借りた履歴があると、戻る額はその分小さくなります。

解約したお金には税金がかかる。ここが最大の論点

掛金を経費にできるところまでは、どの解説にも書かれています。問題はその先です。

経営セーフティ共済の掛金を支払った際は損金算入(または必要経費算入)できる反面、解約手当金は益金(個人事業主の場合は事業収入)となり、課税されます。

限度額の800万円まで積み立てていた場合、それが解約時の一時の益金になるため、累進税率等の関係から税額が大きく増加する可能性があります。

何か大きな損金または必要経費の支出がある年度に解約するなど、解約のタイミングには注意しましょう。 出典: freee.co.jp

中小機構の制度のしおりにも同じ趣旨が書かれています。解約手当金は、法人の場合は益金の額、個人の場合は事業所得の収入金額に算入するとされています。

個人事業主にとって、この一時の収入は重い意味を持ちます。所得税は累進課税なので、800万円がその年の事業所得に上乗せされると、適用される税率の段が上がります。住民税も国民健康保険料も、所得を基準に計算されるものはまとめて跳ね上がります。掛金を払っていた各年で少しずつ下げた税額の合計より、解約した年に増える税額のほうが大きくなる、という逆転も十分に起こり得ます。

実務を見てきた側からの指摘も、同じ方向を向いています。

その経験から、多くの個人事業主が「倒産防止共済=節税」という認識のもとに加入し、結果としてキャッシュフローを悪化させてしまうケースを多く目にしてきました。最後まで読んでいただけたら、 出典: accomp.jp

正直なところ、「節税」という言葉でこの制度を語るのは筋が悪いと考えています。正確には課税の繰延べです。今年の税金を減らす代わりに、将来のどこかで同じ金額が所得として立ちます。繰り延べる意味があるのは、解約する年に大きな必要経費や赤字が見込める場合、たとえば設備を入れ替える年、事業をたたむ年、大きな損失を計上する年です。そうした出口が見えていないなら、繰り延べは単なる先送りにすぎません。

2024年10月から変わった、再加入後2年のルール

令和6年(2024年)10月1日から、掛金の扱いに制限が加わりました。中小機構の説明はこうです。

令和6年10月1日以降に共済契約を解約し、再度共済契約を締結(再加入)する場合、その解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金については、必要経費または損金の額に算入できません。 出典: kyosai-web.smrj.go.jp

この改正が狙っているのは、40か月まで積んで解約し、また入り直して経費を作り直す、という回転のさせ方です。改正前はこれが可能だったため、制度本来の目的から外れた使われ方が広がっていました。

個人事業主にとっての実務上の意味は二つです。一つは、いったん解約すると2年間は掛金が経費にならないということ。解約して再加入する計画を持っている人は、その2年分の掛金が単なる資金の拘束になります。もう一つは、解約のタイミングを決めるときに、この2年を含めて考える必要があるということです。「今年は利益が大きいから解約せずに置いておく」という判断と、「解約して出口を作る」という判断のどちらを取るかで、その後2年の選択肢が変わります。

制度は改正されます。2年ルールのように、加入時には無かった制限が後から加わることもあります。長期で積む前提の制度ほど、この不確実性を見込んでおく必要があります。

加入手続きと、契約後に必要になること

加入手続きは、中小機構と業務委託契約を結んでいる委託団体または代理店の窓口で行います。委託団体は、会員となっている商工会、商工会議所、中小企業団体中央会、または組合員である中小企業の組合などです。代理店は、融資取引のある銀行、信託銀行、信用金庫、信用組合、商工中金の本支店です。支店によっては取り扱っていない場合があるので、事前に確認してください。

必要な書類は、契約申込書、掛金預金口座振替申出書、重要事項確認書兼反社会的勢力の排除に関する同意書、そして提示書類です。個人事業主の場合は、確定申告書の控えなど、1年以上事業を継続していることを確認できる書類の提示を求められます。委託団体で申し込む場合は、事前に預金口座のある金融機関で口座振替申出書の確認を受けておく必要があります。

契約後は、加入申込みをした委託団体または口座振替を行っている金融機関店舗が「登録取扱機関」になり、掛金に関する届出や共済金の貸付請求などの手続きはこの登録取扱機関を通じて行います。掛金に関する各種手続きの締切日は毎月5日(中小機構に必着)です。書類は共済契約者から登録取扱機関へ持参し、そこから中小機構へ届くため、余裕を持った日程で動く必要があります。

口座振替ができなかった掛金は、翌々月に請求月分と合算して引き落とされます。ただし、12か月分以上の滞納は契約解除の理由になります。口座の残高管理は自分で握っておいてください。

掛金の増額・減額・掛止めという調整弁

経営セーフティ共済は、いったん決めた掛金を変えられない制度ではありません。契約の途中で掛金月額を増やすことも減らすこともできます。範囲は加入時と同じで、5,000円から20万円までの5,000円単位です。

この柔軟さは、個人事業主にとって重要な設計です。売上が読めない年に月20万円で固定してしまうと、資金繰りが苦しくなったときに逃げ場がなくなります。まず月5,000円から1万円といった小さい額で始め、事業所得が安定して伸びてきた年に増額するほうが、途中で解約して掛け捨てや目減りを出すより結果は良くなります。解約手当金が100パーセントになるのは40か月以上なので、続けられる額であることが何より効きます。

納付を止める掛止めという扱いもあります。ただし、掛止めや滞納の扱いは契約の維持に影響します。12か月分以上の掛金の納付を怠ると、中小機構によって契約を解除されることがあり、その場合の解約手当金は任意解約よりさらに低い機構解約の支給率で計算されます。12か月から23か月の納付月数なら、任意解約の80パーセントに対して機構解約は75パーセントです。うっかり口座の残高が足りずに数か月飛んだ、という状態を放置しないでください。

引落しができなかった掛金は、翌々月に請求月分と合算して引き落とされます。つまり、1か月飛ぶと翌々月は2か月分がまとめて落ちることになります。月20万円で積んでいる人なら40万円です。この合算引落しで残高が足りず、さらに飛ぶという連鎖が起きやすいので、掛金の設定は「普段の月」ではなく「売上の少ない月」を基準に決めるのが安全です。

前納という選択肢もあります。掛金を前払いすれば、前納の期間が1年以内なら支払った年の必要経費に算入できます。年末に翌年分を前納して、その年の必要経費を増やす使い方です。ただし、前納した分の現金は先に出ていきます。資金に余裕がある年の調整弁として使うもので、毎年の常套手段にすると資金繰りを圧迫します。

小規模企業共済との使い分けを間違えない

名前が似ているせいで混ざりやすいので、二つの共済の違いを整理します。どちらも中小機構が運営していますが、目的も税の扱いも出口も違います。

経営セーフティ共済は、取引先の倒産に備える制度です。掛金は事業所得の必要経費に算入します。解約手当金は事業所得の収入金額になり、その年の所得として課税されます。掛金の上限は月20万円、積立の上限は800万円です。

小規模企業共済は、経営者や個人事業主が自分の退職金を積み立てる制度です。掛金は所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象で、事業の経費ではありません。受け取るときは、一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得として扱われる設計になっており、どちらも専用の控除が用意されています。

この違いが出口で効きます。経営セーフティ共済は、戻ってきたお金を受け止める年をこちらで用意しないと、税率の段が上がるだけです。小規模企業共済は、受け取り方そのものに優遇された枠が用意されているため、出口の設計が制度側にある程度組み込まれています。老後資金を作りたいだけなら、先に小規模企業共済を検討するのが筋です。

順番としては、事業者間の取引で売掛金が立っている人は経営セーフティ共済で資金繰りの穴を塞ぎ、そのうえで余力があれば小規模企業共済で自分の退職金を積む、という組み立てになります。逆に、一般消費者を相手にしていて売掛金が立たない人は、経営セーフティ共済の本来の価値が届かないので、小規模企業共済のほうを先に見るほうが合理的です。どちらも中小機構の窓口は共通なので、相談の場でまとめて聞けます。

契約を引き継げる場合もある

個人事業主に相続が起きたとき、あるいは事業の全部を譲渡したときに、共済契約を引き継ぐ道が用意されています。制度のしおりでは「承継」と呼ばれています。

承継できるのは、共済契約者に相続、法人の合併、会社分割(事業の全部を承継させるものに限る)、事業の全部譲渡があった場合です。その包括承継人または事業の全部の譲受け人が、本制度に加入できる資格を持っていることを条件に、相続等のあった日から3か月以内に登録取扱機関を通じて申し出て、中小機構の承諾を得れば、共済契約者の地位を引き継げます。

要件は三つです。事由が生じてから3か月以内に申し出ること。承継しようとする人に加入資格があること。そして、旧共済契約者の共済金および一時貸付金の償還義務と、それに関する違約金の納付義務を引き受けることです。借入れが残っていれば、それも一緒に引き継ぐことになります。

承継すると、掛金月額と掛金総額は旧共済契約者の契約内容を引き継ぎます。承継する人がすでに共済契約者である場合は、それぞれの掛金月額を合算しますが、合算して20万円を超える場合は20万円が上限です。掛金総額も合算し、800万円を超える分は返還されます。

3か月という期限は、相続の手続きの中では短い部類に入ります。個人事業主が経営セーフティ共済に入っている場合は、契約の存在と登録取扱機関の連絡先を、家族が分かる場所に残しておいてください。知らないまま期限が過ぎると、承継ではなく、みなし解約として解約手当金を受け取る形になります。みなし解約の支給率は任意解約より高く設定されていますが、事業を続ける人にとっては、積み上げた掛金総額と貸付枠をそのまま引き継げる承継のほうが価値があります。

個人事業主が判断するときの三つの問い

情報を並べたので、判断の軸を三つに絞ります。

一つ目は、そもそも制度の本来の使い道が自分にあるかです。取引先が事業者で、売掛金が立っていて、その事業者が倒れたら資金繰りが止まる。この条件が揃っている人にとっては、無担保・無保証人で掛金の10倍まで借りられる備えは合理的です。一般消費者を相手にしている人、受注のたびに前払いや即時決済で回収している人には、この価値が届きません。

二つ目は、出口の年を想定できるかです。解約手当金は事業所得の収入になります。大きな設備投資の年、事業を縮小する年、赤字が見込める年など、受け止められる年が視野に入っているかどうかで、繰り延べの意味は変わります。出口が白紙のまま800万円まで積むのは、将来の自分に大きな宿題を渡す行為です。

三つ目は、掛金として毎月出ていく現金を、事業が止まっても払い続けられるかです。月20万円は年240万円です。この現金は、40か月経つまで満額では戻りません。手元資金が薄いまま上限額で積み始めると、税金は減っても資金繰りは悪化します。減額も掛止めもできる制度ではありますが、最初から無理のない額で始めるほうが結果的に長く続きます。

金額や税務の個別判断は、所得の構成や他の控除との兼ね合いで変わります。この記事の内容は制度の仕組みの整理であって、個別の有利不利を断定するものではありません。実際に決める前に、税務署か税理士、制度の条件は中小機構または登録取扱機関に確認してください。

備えの順番を考える。先に手取りの土台を固める

在宅ワークや業務委託の市場を長く運営してきた立場から見ると、共済や保険の相談で共通しているのは、順番の問題です。掛金を払える体力ができる前に、節税の話から入ってしまう。結果として、毎月の現金が細り、仕事を選ぶ余裕がなくなります。長く続いている人ほど、先に収入の土台を安定させて、余った分を制度に回しています。

土台を厚くするうえで効くのは、単価そのものより、中間に何が挟まっているかです。仲介の手数料が乗らない直接取引なら、同じ予算で依頼する側はより多くを頼めて、受ける側の手取りは厚くなります。手数料0%の取引が意味を持つのは、まさに「毎月の掛金を無理なく出せるか」という場面です。数万円の差が、40か月続けられるかどうかを分けます。

自分の仕事にいくらの値が付くのかを確かめたいときは、職種別のデータが目安になります。文章や編集の仕事なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場、開発を請け負っているならソフトウェア作成者の年収・単価相場を見ると、掛金をいくらに設定するかの判断材料になります。

仕事の幅を広げたい場合は、業務委託の需要がどこに集まっているかを押さえておくと、売上の落ち込みそのものを防ぎやすくなります。AIコンサル・業務活用支援のお仕事アプリケーション開発のお仕事では、必要な経験と発注の形が職種ごとに整理されています。ネットワークの知識を足したい人はCCNA(シスコ技術者認定)、書類のやり取りを整えたい人はビジネス文書検定といった資格ガイドも参考になります。

保険料や掛金の処理でどこに書くかを迷ったら、個人事業主の保険料は経費にできる?仕訳と確定申告の方法で、必要経費に入れるものと所得控除で処理するものの違いを整理しておいてください。経営セーフティ共済は必要経費、小規模企業共済は所得控除と、隣り合った制度でも欄が違います。家族の保障まで含めて組み立てたい場合は30代の生命保険おすすめ|子育て世代の保障設計も判断の材料になります。

よくある質問

Q. 個人事業主はいつから経営セーフティ共済に加入できますか?

引き続き1年以上事業を行っていることが条件です。開業したばかりでは加入できません。加入手続きは商工会や商工会議所、中小企業団体中央会、融資取引のある金融機関の窓口で行い、確定申告書の控えなど事業の継続を確認できる書類の提示を求められます。

Q. 掛金はいくらから始められますか?

月5,000円から20万円までの範囲で、5,000円単位で設定します。積立の限度額は掛金残高800万円までです。途中で増額も減額もできるので、売上が読めないうちは小さい額で始めて、事業所得が安定してから増やすほうが続けやすくなります。

Q. 解約したお金に税金はかかりますか?

かかります。解約手当金は個人事業主の場合、事業所得の収入金額に算入されます。掛金を必要経費にした分の課税が先送りされているだけなので、大きな必要経費や赤字が見込める年に解約時期を合わせないと、税率の段が上がって負担が増えることがあります。

Q. 解約するといつ全額戻りますか?

掛金納付月数が40か月以上であれば、任意解約でも掛金総額の100パーセントが戻ります。12か月未満は掛け捨てで0パーセント、12か月から23か月は80パーセントです。なお2024年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約日から2年を経過するまでに支出する掛金は必要経費に算入できません。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年1月8日最終更新:2026年9月23日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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