個人事業主が事業主として入る社会保険

丸山 桃子
丸山 桃子
個人事業主が事業主として入る社会保険

この記事のポイント

  • 事業主社会保険の仕組みを
  • 本人が入る制度と従業員を雇ったときの加入義務に分けて整理します
  • 保障を厚くする5つの制度まで具体的にまとめました

事業主社会保険という言葉で検索する人は、たいてい2つの問いのどちらかを抱えています。1つは「個人事業主である自分は、会社員と同じ社会保険に入れるのか」。もう1つは「人を雇ったら、事業主として社会保険に加入させる義務があるのか」です。この2つは制度上まったく別の話なのに、検索結果では混ざって出てきます。だから読んでも自分の答えが見つからない。

この記事では、その2つをはっきり分けて説明します。本人の話と従業員の話、強制的に入る場合と自分で選んで入る場合。それぞれの条件と手続き、そして保険料がいくらになるかまで順番に見ていきます。EC運営の支援をしている私自身、開業して最初に面食らったのがこの領域でした。デザインやマーケティングは勉強していたのに、保険の制度は誰も教えてくれなかったからです。

検索している人の立ち位置で、答えはまったく変わる

まず、自分がどの立場にいるかを確定させてください。答えが正反対になります。

立場1は、従業員を雇っていない個人事業主です。この場合、本人は国民健康保険と国民年金に加入します。会社員が入る健康保険や厚生年金には、原則として入れません。ここを「入れる方法があるのでは」と探し続けても、制度上の入口はありません。

立場2は、従業員を雇っている個人事業主です。この場合、事業所として社会保険に加入する義務が発生することがあります。義務が生じるかどうかは、業種と人数で決まります。そして重要なのは、事業所として加入しても、事業主本人は被保険者にならないという点です。加入するのは従業員だけです。

立場3は、法人を作った人です。株式会社や合同会社の代表になり、その法人から報酬を受け取っている場合、代表者本人も健康保険と厚生年金の被保険者になります。むしろ、社長1人だけの会社でも加入義務があります。

この3つのうち、自分がどれなのか。立場1の人が読むべき情報と立場2の人が読むべき情報はほとんど重なりません。以下、立場ごとに分けて書いていきます。

もう1つ先に押さえておきたいのは、社会保険という言葉の範囲です。広い意味では、健康保険、年金、介護保険、雇用保険、労災保険の5つを指します。狭い意味では、健康保険と厚生年金の2つだけを指すことが多く、手続きの現場ではこの狭い意味で使われます。年金事務所で「社会保険の適用」と言われたら、それは健康保険と厚生年金のことです。雇用保険と労災保険は労働保険と呼ばれ、ハローワークと労働基準監督署の管轄になります。窓口が違うので、まとめて手続きできると思っていると二度手間になります。

事業主本人が入るのは、国民健康保険と国民年金

従業員を雇っていない個人事業主が入るのは、市区町村の国民健康保険と、国民年金の第1号被保険者です。会社を辞めて独立した人は、退職から14日以内に市区町村の窓口で切り替えの届出をします。

国民健康保険の保険料は、住んでいる自治体によって計算方法も金額も違います。前年の所得に応じた所得割、加入人数に応じた均等割、世帯ごとにかかる平等割を足して計算する自治体が多く、同じ所得でも自治体が変われば年間で数万円の差が出ます。年間の上限額は医療分と支援金分と介護分を合計して100万円前後に設定されていますが、上限に届くのはかなり所得が高い人だけです。

ここで多くの人がつまずくのが、初年度の請求です。独立1年目の保険料は、前年の会社員時代の所得をもとに計算されます。つまり、収入が最も不安定な時期に、会社員時代の給与水準に応じた保険料が来る。私が開業した年も、6月に届いた通知書の金額を見て何度も計算し直しました。手元の口座に残しておく金額を決めるとき、ここを見落とすと資金繰りが苦しくなります。

なお、退職後2年間は前の会社の健康保険を任意継続できる制度があります。保険料は会社負担分がなくなるため単純計算で2倍になりますが、扶養家族が多い人は国民健康保険より安く収まることがあります。国民健康保険は家族1人ごとに均等割がかかるのに対し、健康保険の被扶養者には保険料がかからないためです。退職前に、両方の金額を市区町村と健康保険組合の双方へ問い合わせて比べてください。この比較は退職から20日以内に決断する必要があり、後から戻れません。

国民年金のほうは、所得に関係なく定額です。月額1万7千円台で、年度ごとに改定されます。会社員時代の厚生年金と比べると負担は軽く見えますが、その分だけ将来受け取る額も小さくなります。厚生年金には老齢基礎年金に上乗せされる部分がありますが、国民年金だけの人にはそれがありません。この差をどう埋めるかは、後の節で扱います。

個人事業主本人が厚生年金に入れない理由

「事業を大きくしたのに、なぜ自分は厚生年金に入れないのか」という疑問は、よく聞きます。理由は制度の作りにあります。

健康保険と厚生年金は、事業所に使用される人を対象にした制度です。使用される、つまり雇われている立場の人が被保険者になります。個人事業主は誰にも雇われていないので、この定義に当てはまりません。従業員を5人雇っていても、100人雇っていても、本人は対象外です。

ここが法人との決定的な違いです。法人の代表取締役は、法律上は法人という別人格に使用されている扱いになります。だから社長1人の会社でも、報酬が出ている限り被保険者になります。制度の入口が「雇われているかどうか」で切られている以上、個人事業主のままでは越えられない線です。

この線を越える唯一の方法が、法人を作ることです。いわゆる法人成りです。ただし、法人化すると社会保険料は会社負担分と本人負担分の両方を自分が用意することになり、合計の負担は個人事業主のときより増えます。法人住民税の均等割は赤字でも毎年かかりますし、決算や申告の手間も増えます。厚生年金に入りたいという理由だけで法人化するのは、割に合わないことのほうが多い。所得がある程度の規模になり、節税効果と合わせて判断する話です。

家族については例外があります。個人事業所が適用事業所になっている場合、事業主の家族であっても、他の従業員と同じ条件で働いていて事実上の使用関係が認められれば、被保険者になれる場合があります。判断は年金事務所が行うので、思い込みで手続きせず確認してください。

従業員を雇ったとき、加入義務が発生する条件

ここからは立場2の話です。人を雇った瞬間に何が起きるかを整理します。

まず労災保険は、労働者を1人でも雇った時点で加入義務が生じます。業種も人数も関係ありません。保険料は全額事業主負担で、パートやアルバイトも対象です。次に雇用保険は、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある人を雇うと加入義務が生じます。

健康保険と厚生年金は、条件が細かくなります。個人事業所の場合、法律で定められた業種に該当し、かつ常時5人以上の従業員を使用していると強制適用事業所になります。対象業種には製造、土木建築、販売、金融、運送などが含まれ、2022年10月からは弁護士や税理士などの士業も追加されました。

逆に、飲食店、理容美容業、旅館、農林水産業などは、5人以上雇っていても強制適用にはなりません。これらは非適用業種と呼ばれます。自分の事業がどちらに入るのかは、看板の業種名ではなく実際の事業内容で判断されるので、迷ったら年金事務所に確認するのが確実です。

そして繰り返しになりますが、強制適用事業所になっても加入するのは従業員だけで、事業主本人は加入できません。従業員の保険料の半分を事業主が負担する立場になるだけです。ここを誤解して「5人雇えば自分も厚生年金に入れる」と考えている人が、実際にいます。

任意適用という選択肢と、その手続き

強制適用の条件に当てはまらない事業所でも、申請すれば社会保険に加入できます。これが任意適用です。

手続きの流れは決まっています。まず、従業員の2分の1以上の同意を得ます。次に、任意適用申請書に同意書を添えて、事業所の所在地を管轄する年金事務所へ提出します。認可されると、その事業所は適用事業所として扱われ、従業員が被保険者になります。

注意点が2つあります。1つは、同意したのが2分の1以上であっても、加入は働いている人全員が対象になるという点です。反対した人だけ外すということはできません。もう1つは、一度適用事業所になると、やめるときにも手続きが必要で、こちらは4分の3以上の同意が要るという点です。入るより抜けるほうがハードルが高い設計になっています。

任意適用を選ぶ理由は、採用です。同じ仕事内容なら、社会保険が付いている職場のほうが人が集まります。特に、将来の年金額や傷病時の保障を気にする層には効きます。行政も、人材確保の観点から個人事業主に任意加入を勧めています。

費用の面では、従業員の保険料の半分を事業主が負担することになるため、人件費は確実に増えます。判断するときは、増える負担額と、採用や定着で得られるものを並べて比べることになります。所得や経費の前提を変えて試算するという意味では、開業まわりの試算ツールと同じ考え方です。

さらに、見込み納税金額のシミュレーションも可能。※なお、売上の3割を経費とした場合の見込み額を表示しています。経費額やその他の控除によって実際の納税額は変化します。今回は、青色申告65万円控除が一番おすすめの結果となりました。 出典: freee.co.jp

前提を置いた試算はあくまで目安で、実際の負担は経費の額や控除の使い方で変わります。任意適用の判断も同じで、公表されている平均値ではなく、自分の事業の人数と給与額で計算しないと答えは出ません。年金事務所では加入した場合の保険料を試算してもらえるので、迷っている段階で一度相談する価値があります。

国民健康保険と健康保険、実際いくら違うのか

金額の感覚を持っておきます。細かい数字は自治体と所得で変わるので、構造の違いを押さえてください。

健康保険と厚生年金の保険料は、報酬月額を等級に当てはめて決まります。料率は健康保険がおおむね10%前後、厚生年金が18.3%で、いずれも労使で折半します。つまり本人負担は合計で報酬の14%ほどです。

一方、国民健康保険と国民年金には折半してくれる相手がいません。国民健康保険料は全額自己負担、国民年金保険料も全額自己負担です。所得が低い時期は定額の国民年金が重く感じられ、所得が上がると国民健康保険の所得割が効いてきます。

給付の中身も違います。健康保険には、病気やけがで働けない期間の傷病手当金と、出産で休んだ期間の出産手当金があります。国民健康保険には、この2つが原則としてありません。自治体が条例で任意に給付することは可能ですが、実際に実施しているところはごく限られます。つまり個人事業主は、働けなくなった月の収入がそのままゼロに近づく設計の中にいます。

年金も同じです。厚生年金には老齢基礎年金への上乗せがあり、障害年金や遺族年金の水準も国民年金より手厚くなっています。負担が軽い代わりに保障も薄い。国民年金だけの人が将来受け取る額は、満額でも年間80万円前後です。生活費のすべてをここで賄う前提は成り立ちません。

この差を知ったうえで、次の節で埋め方を見ます。

事業主本人が保障を厚くする5つの制度

厚生年金に入れないなら、代わりの制度を積み上げます。どれも掛金が所得控除になるので、税負担を減らしながら保障を作れます。

1つ目は付加年金です。国民年金保険料に月400円を上乗せして払うと、受け取る年金が年額で200円かける納付月数だけ増えます。2年受け取れば払った分を上回る計算になり、費用対効果でいえば最も分かりやすい制度です。

2つ目は国民年金基金です。国民年金に上乗せする終身または確定年金で、掛金は全額が社会保険料控除の対象になります。ただし付加年金との併用はできません。どちらか一方を選びます。

3つ目は小規模企業共済です。廃業や引退のときに受け取る退職金のような制度で、掛金は月1,000円から70,000円まで500円単位で選べます。全額が所得控除になり、資金繰りが苦しいときは契約者貸付も使えます。事業をたたむときの生活費を先に積んでおくという性格の制度です。

4つ目は個人型の確定拠出年金です。第1号被保険者の拠出限度額は月額6万8千円で、国民年金基金や付加年金と合算した枠になります。掛金は全額所得控除、運用益も非課税ですが、原則60歳まで引き出せません。生活防衛資金を別に確保してから始める制度です。

5つ目は民間の保険です。就業不能保険や所得補償保険は、傷病手当金がない穴を埋める目的に直接対応します。ここは掛け捨てで必要な期間だけ持つのが基本で、貯蓄性の商品と混ぜると判断が難しくなります。保険料を経費にできるかどうかの線引きは、事業のための保険か個人の保障かで変わるため、個人事業主の保険料は経費にできる?仕訳と確定申告の方法で仕訳の実例を確認しておくと、確定申告のときに迷いません。

優先順位を付けるなら、まず付加年金、次に小規模企業共済、そのうえで余力があれば確定拠出年金という順番が扱いやすいと思います。金額が小さく、いつでもやめられるものから始めるのが安全です。

業種別の国民健康保険組合という第3の選択肢

市区町村の国民健康保険と会社の健康保険の間に、もう1つ選択肢があります。業種ごとに作られている国民健康保険組合です。

これは同じ業種の事業主と従業員が集まって運営している保険者で、建設、医師、歯科医師、薬剤師、食品販売、理容美容、そして文芸や美術やデザインの分野など、業種ごとに組合が存在します。加入できるのはその業種で事業を営んでいる人で、組合によっては特定の業界団体に所属していることが条件になります。

市区町村の国民健康保険との最大の違いは、保険料の計算方法です。市区町村は前年の所得に応じた所得割が中心ですが、組合は所得に関係なく定額という設計のところがあります。デザインや執筆の分野を対象にした組合はこの定額方式で、組合員本人と家族それぞれに月額が決まっています。所得が上がるほど市区町村の保険料は増えていくので、ある水準を超えると組合のほうが明確に安くなります。逆に所得が低い時期は、市区町村の軽減制度が効く分だけ市区町村のほうが安いこともあります。

加入の流れは組合によって違いますが、多くの場合、まず指定された業界団体の会員になり、その証明を添えて組合へ申し込みます。団体の年会費が別にかかるので、保険料の差額から年会費を引いて損得を計算してください。私の周りでも、売上が伸びてきた段階で組合へ移った人が何人もいます。切り替えは年度の途中でもできますが、市区町村側の脱退手続きを忘れると二重に請求されるので、順番を間違えないようにしてください。

注意点として、国民健康保険組合も国民健康保険の一種なので、傷病手当金があるとは限りません。組合独自の給付を持っているところもあるため、加入前に給付の一覧を必ず確認します。安さだけで選ぶと、いざ働けなくなったときに何も出ないという結果になります。

従業員を雇う前に決めておく3つのこと

人を雇うと、社会保険の手続きだけでなく、決めておかなければならないことが一気に増えます。順番を間違えると、後から条件を変えることになり、雇った相手との関係が悪くなります。

1つ目は、雇用契約か業務委託かの線引きです。同じ仕事でも、時間や場所を指示して働いてもらうなら雇用、成果物だけを約束するなら業務委託になります。この区別は呼び方ではなく実態で判断されます。業務委託のつもりで契約書を交わしていても、実際に勤務時間を決めて作業内容を細かく指示していれば、労働者として扱われることがあります。その場合、労災や雇用保険の未加入を指摘されるのは事業主側です。最初に実態のほうを設計してください。

2つ目は、所定労働時間です。週の所定労働時間が20時間を超えるかどうかで雇用保険の扱いが変わり、日数と時間が一般の従業員の4分の3以上かどうかで健康保険と厚生年金の扱いが変わります。募集の段階でこの線を意識して条件を決めておくと、後から加入手続きの有無で慌てません。

3つ目は、給与の締めと支払日です。社会保険料は月単位で発生し、資格を取得した月から保険料がかかります。締め日と支払日を曖昧にしたまま働き始めてもらうと、保険料の控除をどの給与から始めるかで混乱します。紙1枚の労働条件通知書でよいので、時間、賃金、休日、締めと支払日を書いて渡しておきます。

この3つを決めてから年金事務所とハローワークへ行くと、手続きは1回で終わります。決めずに行くと、確認のために何度も往復することになります。

手続きの窓口と期限を書き出しておく

制度ごとに窓口が違い、期限も違います。ここを一度紙に書き出しておくと、必要になったときに探し直さずに済みます。

退職して独立するときの国民健康保険と国民年金の切り替えは、市区町村の窓口で、退職の翌日から14日以内です。前の会社の健康保険を任意継続する場合は、退職の翌日から20日以内に健康保険組合または協会へ申し出ます。こちらは1日でも過ぎると受け付けてもらえません。

従業員を雇って適用事業所になる場合、新規適用届は事実が発生してから5日以内に年金事務所へ提出します。従業員1人ごとの資格取得届も同じ5日以内です。雇用保険の適用事業所設置届はハローワークへ10日以内、被保険者資格取得届は雇った月の翌月10日までです。労災保険の保険関係成立届は労働基準監督署へ10日以内になります。

任意適用申請には期限がありません。ただし認可されるまでに審査の期間があるため、採用の告知に社会保険ありと書くつもりなら、逆算して早めに申請してください。

年に1度の手続きもあります。7月には算定基礎届を出して保険料の基礎となる標準報酬月額を見直し、給与を大きく変えたときは月額変更届を出します。確定申告では、その年に払った国民健康保険料と国民年金保険料の全額が社会保険料控除の対象になるため、納付額の通知や領収書を1年分まとめて保管しておきます。国民年金は控除証明書が届きますが、国民健康保険は自治体によって通知が来ないことがあるので、口座の記録から自分で集計する必要があります。

家族の保障と、世帯単位で考える視点

個人事業主の社会保険は、本人だけで完結しません。世帯で見る必要があります。

配偶者が会社員として働いている場合、収入の条件を満たせば、その健康保険の被扶養者になれる可能性があります。個人事業主であっても被扶養者になれないわけではありませんが、健康保険組合によっては事業所得の扱いが厳しく、収入から経費を引く際に認められる経費の範囲が限定されることがあります。判断基準は組合ごとに違うので、配偶者の勤務先を通じて確認してください。

子どもがいる世帯では、国民健康保険の均等割が人数分かかる点が効いてきます。未就学児の均等割には軽減措置がありますが、それ以外は人数に比例します。世帯の保険料を下げる方法は限られており、所得の変動があった年は減免制度の対象になることもあります。申請しないと適用されないので、収入が大きく落ちた年は必ず市区町村へ相談してください。

保障の設計そのものは、年代によって考え方が変わります。子育て期に必要なのは大きな死亡保障と就業不能への備えで、独身期に必要なのは医療費と収入の谷への備えです。世帯の構成を前提に組み立てる考え方は、30代の生命保険おすすめ|子育て世代の保障設計に整理されており、公的保障の穴をどこまで民間で埋めるかの目安が分かります。商品選びから入るのではなく、公的制度で足りない部分を先に数えるのが順序です。

収入が上下する年の負担を平らにする方法

個人事業主の保険料が苦しく感じられる理由の半分は、金額そのものではなく、請求のタイミングにあります。所得が落ちた年に前年の高い所得を基準にした請求が来る。この時間差を埋める仕組みが、いくつか用意されています。

国民年金には、保険料の前納という仕組みがあります。1年分または2年分をまとめて口座振替で払うと、毎月払うより総額が安くなります。2年前納の割引額は1万5千円前後で、資金に余裕がある年に使うと効果があります。逆に払えない年には、免除や納付猶予の制度があります。全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除と段階があり、免除された期間も受給資格の期間には算入されます。ただし受け取る年金額は減るので、後から追納できる10年の期限を覚えておいてください。放置して未納にするのと、申請して免除を受けるのは、将来の年金額と障害年金の受給資格の両方で結果が変わります。手続きを一度するだけで差が出るので、払えないと思った時点で市区町村へ行ってください。

国民健康保険にも、所得が大きく減った世帯を対象にした減免制度があります。基準は自治体ごとに定められており、前年比で所得が3割以上減ったといった条件が設けられていることが多いです。こちらは申請しない限り適用されません。通知書が届いてから相談しても間に合う場合があるので、金額を見て無理だと感じたら、納期限の前に窓口へ行きます。一括で払えない場合の分割納付も、相談すれば応じてもらえることがほとんどです。滞納したまま放置すると、保険証の有効期間が短くなったり、資格証明書に切り替わって医療費を一旦全額払うことになります。

事業の側でできる調整もあります。国民健康保険料は前年の所得に連動するので、青色申告特別控除や小規模企業共済の掛金といった所得控除を使うと、翌年の保険料まで下がります。節税の話は所得税と住民税だけで語られがちですが、保険料への影響を合わせると効果はもう一段大きくなります。開業したばかりの年に青色申告の承認申請を出しておくのは、この意味でも効きます。

制度を選ぶ前に、収入の設計を確かめる

最後に、運営者としての観察を書いておきます。

在宅ワークと業務委託の市場を20年見てきて感じるのは、社会保険の議論に入る前に、収入の構造で詰まっている人が多いということです。保険料の負担が重いと感じる原因が、保険制度ではなく手取りの薄さにあるケースです。同じ仕事を同じ時間やっていても、間に何社挟まっているかで手元に残る額は変わります。中間の手数料が乗らない直接の取引なら、依頼する側は同じ予算でより多くを頼めて、受ける側の手取りは厚くなる。手数料0%という条件が効いてくるのは、単発の案件ではなく、同じ相手と何年も続けたときです。年間の保険料と同じくらいの差が、数年で生まれることは珍しくありません。

もう1つ、長く続いている人に共通するのは、単価そのものより「継続して発生する仕事」を持っていることです。月額で運用を任されている人は、収入の予測が立つので、保険や共済の掛金を決めやすい。逆に、単発の受注だけで回している人は、掛金を増やす判断ができず、保障が薄いままになりがちです。制度の選択は、収入の安定度とセットで決まります。

自分の職種が市場でどのくらいの水準にあるのかは、統計で確かめられます。文章やコンテンツ制作が中心なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場、開発が中心ならソフトウェア作成者の年収・単価相場に職種別の分布がまとまっています。継続的な依頼がどんな形で発生しているかを知りたい場合は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事のように、業務の切り出され方まで書かれた資料が参考になります。

社会保険の手続きは、期限が決まっているものが多い制度です。退職からの切り替えは14日、任意継続の選択は20日、従業員を雇ったときの適用届は5日以内。日数を手帳に書き写しておくだけで、後から慌てずに済みます。

よくある質問

Q. 個人事業主本人は厚生年金に加入できますか?

できません。健康保険と厚生年金は事業所に使用される人を対象とする制度で、誰にも雇われていない個人事業主は対象外です。従業員を何人雇っても本人は被保険者になれません。本人が厚生年金に入る方法は、法人を設立してその法人から報酬を受け取る形に変えることだけです。

Q. 従業員を何人雇うと社会保険の加入義務が生じますか?

個人事業所の場合、法律で定められた業種に該当し、常時5人以上の従業員を使用していると強制適用になります。飲食店や理容美容業などの非適用業種は、5人以上でも義務は生じません。なお労災保険は1人でも雇えば加入義務があり、雇用保険は週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みが条件です。

Q. 任意適用の手続きはどうすればよいですか?

従業員の2分の1以上の同意を得たうえで、任意適用申請書に同意書を添えて管轄の年金事務所へ提出します。認可されると従業員全員が被保険者になり、反対した人だけ外すことはできません。やめるときは4分の3以上の同意が必要で、入るより抜けるほうが要件は厳しくなっています。

Q. 傷病手当金がない分をどう補えばよいですか?

国民健康保険には傷病手当金が原則ないため、働けない期間の収入は自分で備えます。就業不能保険や所得補償保険が直接その穴に対応し、廃業時の備えとしては小規模企業共済が使えます。まずは生活費の6カ月分を現金で確保し、そのうえで掛け捨ての保険を必要な期間だけ持つのが安全です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年5月23日最終更新:2026年9月24日
丸山 桃子

この記事を書いた人

丸山 桃子@SOHO編集部

アパレルEC運営支援・SNSコンサル

アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。

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