移動スーパーを開業する手順と、販売に必要な許可・仕入れ先の探し方


この記事のポイント
- ✓売る品目に合わせて保健所の許可か届出を済ませる
- ✓販売する場所の使用許諾を取る
- ✓食品衛生法上の許可と届出の分かれ目
移動スーパーの開業を考えはじめると、最初にぶつかるのは「何から手をつければよいか分からない」という壁です。車を買うのが先か、許可を取るのが先か、仕入れ先を探すのが先か。結論からいえば、順番は「仕入れ先と開業の型を決める」「売る品目を決める」「品目に合わせて保健所の許可か届出を済ませる」「販売する場所の使用許諾を取る」です。車はその後で、売る品目と許可の内容に合わせて選びます。この記事では、移動スーパーを開業する手順を、食品衛生法上の許可と届出の分かれ目、販売場所の考え方、仕入れ先の探し方、税務の届出まで、公的な情報をもとに順番に整理します。
移動スーパーという仕事の中身
移動スーパーとは、軽トラックなどを改造した販売車に食品や日用品を積み、住宅地や団地、個人宅の玄関先を回って販売する仕事です。スーパーまで出かけるのが難しい高齢者の暮らしを支える役割を担っていて、近年は過疎地だけでなく都市部の団地でも需要が出てきています。
中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21の開業ガイドは、この仕事の特徴を次のように説明しています。
軽トラックを改造した車で営業することが通常であり、開業の初期投資が少なくて済むことが大きな特徴である。また顧客との距離が近いため、そのニーズに応え生活を支えているという実感も持ちやすい。 一方で、採算に乗せるのが簡単な事業ではない。曜日別に15~20分単位で異なる場所に移動して多くの地区の需要を取り込むなど、効率的な営業を行う必要がある。 出典: J-Net21「移動スーパー」
ここに移動スーパーの性格がよく表れています。店舗を構える小売業に比べて初期の費用は抑えられますが、1台の車に積める商品の量には限りがあり、1日に回れる場所の数にも限りがあります。売上を伸ばすには、効率よく回れるルートを組み、決まった曜日に決まった場所で待っていてくれるお客さんを増やしていくしかありません。
1日の仕事の流れは、おおむね次のとおりです。朝に仕入れ先で商品を積み込み、午前と午後に決まったルートを回って販売し、夕方に戻って売れ残りの返品や精算、翌日の準備をします。生鮮食品や乳製品を扱う場合は、温度管理も日々の仕事に加わります。体力を使う仕事であることは、始める前に理解しておきたいところです。
お客さんとの関係が近いのも特徴です。週に1回か2回、同じ家を訪ねるので、顔を覚えてもらい、次回欲しいものの注文を受けることもあります。高齢のお客さんの様子の変化に気づき、家族や地域の窓口につなぐ役割を担う事業者もいます。
開業の型は3つ、どれを選ぶかで準備が変わる
J-Net21の開業ガイドは、移動スーパーの開業を3つの型に分けています。どの型を選ぶかで、仕入れ先の探し方も、許可の取り方も、必要な資金も大きく変わります。
| 開業の型 | 内容 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 業種パッケージ利用型 | 移動スーパーの事業者の販売パートナー制度を使う、またはコンビニの店主が移動販売を加える | 小売や食品の経験がない人 |
| 独自開業型 | パッケージを使わず、仕入れ先も販売方法も自分で組み立てる | 関連する業種の経験がある人 |
| 補助金利用・地域共生型 | 地域の要請に応えたり、国や自治体の買い物支援の補助金を使ったりする | 地域の団体や自治体とつながりがある人 |
3つ目の型は、1つ目や2つ目と組み合わせて使えます。
業種パッケージ利用型の仕組み
移動スーパーの事業者には、地域のスーパーマーケットと提携し、個人事業主が販売を担う仕組みを取っているところがあります。たとえば、移動スーパーの大手である株式会社とくし丸は、販売パートナーは原則として個人事業主としてスーパーマーケットと直接契約して開業する、と公表しています。
この型の利点は、仕入れ先と品揃え、販売のノウハウが最初から用意されていることです。提携しているスーパーの商品を積み込んで販売するので、仕入れ先を一から開拓する必要がありません。とくし丸の公表している収入の計算方法は、売上の17%に販売手数料を加えた額に営業日数を掛けるというもので、売上が伸びれば収入も連動する仕組みです。ただし、車両の費用や燃料代などは販売する側の負担になるため、手元に残る額は経費を差し引いて考える必要があります。
一方で、販売する地域は事業者側の決めたエリアに沿うことになり、品揃えも提携先のスーパーの商品が中心になります。自分の裁量で仕入れ先や価格を決めたい人には、制約に感じられる場面もあります。
独自開業型の難しさ
独自開業型は、仕入れ先も品揃えも価格も自分で決められる反面、すべてを一人で組み立てる必要があります。J-Net21のガイドも、通常は何らかの関連業種の経験がなければ難しいとしています。食品の仕入れの経験、温度管理の知識、販売ルートを開拓する営業力の3つがそろっていないと、採算に乗せるまでに時間がかかります。
開業までの手順を順番に並べる
開業の型が決まったら、次の順番で準備を進めます。
| 順番 | やること | 相談・提出先 |
|---|---|---|
| 1 | 開業の型と仕入れ先を決める | 事業者、卸売業者、生産者など |
| 2 | 売る品目を決める | 自分で決める |
| 3 | 品目に合わせた許可や届出の内容を確認する | 営業する地域の保健所 |
| 4 | 食品衛生責任者を確保する | 都道府県などの講習会 |
| 5 | 販売車を用意し、許可の申請や届出をする | 保健所 |
| 6 | 販売する場所の使用許諾を取る | 土地や施設の管理者、必要に応じて警察署 |
| 7 | 開業届と青色申告の申請を出す | 税務署 |
| 8 | 販売ルートを決め、お客さんに周知する | 自分で行う |
順番で特に大事なのは、2と3を5より先にすることです。売る品目によって必要な許可が変わり、許可によって販売車に求められる設備が変わります。車を先に買ってしまうと、あとから冷蔵設備や手洗いの設備が足りないことがわかり、改造に追加の費用がかかることがあります。
J-Net21のガイドも、手続きの最初に保健所への事前相談を置いています。東京都の例として、事前相談、食品衛生責任者養成講習会の受講、営業許可の申請、施設の検査という流れが紹介されていて、営業許可の申請書類は施設が完成する予定の10日くらい前に出すとされています。ただし、保健所によって所要日数や手続きが異なる場合があるため、必ず営業する地域の保健所に事前に相談してください。
売る品目で決まる、保健所の許可と届出
移動スーパーの開業で最も間違えやすいのが、食品衛生法上の手続きです。令和3年(2021年)6月に食品衛生法の営業許可の制度が見直され、許可が必要な営業と、届出で足りる営業が分けられました。届出とは、保健所に営業していることを知らせる手続きで、許可のように設備の検査を受けて認めてもらうものではありません。
どちらになるかは、売る品目と、その売り方で決まります。厚生労働省の通知をもとに、移動スーパーで扱いやすい品目を整理すると次のようになります。
| 扱う品目と売り方 | 手続きの区分 |
|---|---|
| 常温で保存できる、容器包装に入った食品だけを売る | 許可も届出も不要 |
| 牛乳などの乳類を売る | 届出(旧来の乳類販売業が届出に移行) |
| 精肉を、包装された状態で仕入れてそのまま売る | 届出 |
| 精肉を量り売りする、切り分けて包装する | 食肉販売業の許可 |
| 鮮魚を、包装された状態で仕入れてそのまま売る | 届出 |
| 鮮魚を切り身にする、むき身にする | 魚介類販売業の許可 |
| 車内で調理した総菜や弁当を売る | 飲食店営業などの許可 |
精肉や鮮魚について、通知は「専ら容器包装に入れられた状態で仕入れ、そのままの状態で販売するもの」を許可の対象から除くとしています。発泡スチロールのトレーとラップで包まれた状態のように、外からの汚染を防げる包装で仕入れ、開けずにそのまま売る場合は、許可ではなく届出の対象になるということです。提携先のスーパーで包装された精肉や刺身を積み込んで売る形なら、多くの場合はこちらに当たります。
一方、車の中で肉を切り分けたり、魚をさばいたりすると、許可が必要になります。総菜を車内で温めたり調理したりする場合も、飲食店営業などの許可が必要です。品目を決めるときは、「何を売るか」だけでなく「車の中で手を加えるかどうか」まで決めておくと、保健所との相談がスムーズに進みます。
また、すべての食品等事業者に、HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が求められるようになりました。HACCPとは、食中毒などの原因になる危害を工程ごとに洗い出して管理する衛生管理の方法のことです。小規模な事業者は、厚生労働省が公表している業種別の手引書を参考に、簡略化した方法で取り組めます。温度の記録や手洗いの手順を決めておくことが、日々の仕事の一部になります。
複数の地域をまたいで販売するとき
移動スーパーは、市町村の境をまたいで販売することがよくあります。許可が必要な営業を自動車で複数の地域にまたがって行う場合、厚生労働省の通知では、原則として各営業所の所在地を管轄する都道府県知事などに許可を申請する必要があるとされています。関係する自治体の間で調整がついている場合は、営業車の拠点となる施設を管轄する自治体だけの許可で足りる扱いもあります。どちらになるかは地域によって違うので、販売するルートの全体を示して、拠点の保健所に確認してください。
食品衛生責任者と、販売車に求められる設備
許可が必要な営業では、食品衛生責任者を置く必要があり、許可の申請書にはその氏名を書きます。食品衛生責任者とは、営業する施設の衛生管理を担う人のことで、調理師や栄養士などの資格がない人は、都道府県などが指定する講習会を受けて資格を得るのが一般的です。講習の受講料や日程は地域によって違います。届出の営業でも衛生管理の担当者を決めておくことが求められるので、届出で済む場合の扱いも含めて保健所に確認してください。
自動車で営業する場合、許可の申請では、施設の所在地として自動車の登録番号を書きます。販売車そのものが「施設」として扱われるということです。そのため、車を替えたり、別の車を増やしたりすると、改めて手続きが必要になることがあります。
販売車に求められる設備の基準は、都道府県などが条例で定めます。許可が必要な品目を扱う場合は、給水や排水のタンク、手洗いの設備、冷蔵や冷凍の設備などが求められるのが一般的です。基準の細部は自治体ごとに違うので、車の改造を業者に頼む前に、保健所で基準を確認し、改造業者にもその基準を伝えてください。過去に同じ地域で移動販売車を手がけた実績のある改造業者を選ぶと、基準に合わせた設計の相談がしやすくなります。
なお、医薬品は移動販売では売れません。医薬品の販売には店舗の許可が必要で、移動販売の車ではその条件を満たせないためです。酒類を扱いたい場合は、税務署の酒類販売業免許が別に必要になります。品揃えを広げたいときほど、扱えない品目と、別の許可や免許が必要な品目を先に確認しておくことが大切です。
保健所に許可を申請するときに用意するもの
許可が必要な品目を扱う場合、申請の書類で求められる主な事項は次のとおりです。厚生労働省の通知で示された内容をもとに整理しています。
| 申請で求められる事項 | 補足 |
|---|---|
| 営業者の氏名と住所 | 個人で始める場合は本人の情報 |
| 施設の所在地 | 自動車で営業する場合は自動車の登録番号 |
| 食品衛生責任者の氏名 | 講習会が未受講なら、許可後すみやかに受講するよう指導される |
| 施設の構造と設備を示す図面 | 販売車の改造の内容がわかるもの |
| 水質検査の結果の写し | 飲用に適する水を使う場合 |
| HACCPに沿った衛生管理の取り組みの種別 | 小規模事業者向けの手引書に沿うかどうかなど |
申請の手数料や、図面にどこまで書き込むかは自治体ごとに違います。改造業者から受け取る図面が、そのまま申請に使える形になっているかも、事前に保健所で確認しておくと二度手間を防げます。施設の検査では、実際に販売車を保健所に持ち込むか、指定された場所で確認を受けることになるので、検査の日程に合わせて車の納車時期を調整してください。
販売する場所を確保する
許可を取っても、販売する場所がなければ営業できません。移動スーパーの販売場所は、大きく3つに分かれます。
1つ目は、私有地の駐車場や空き地です。スーパーやドラッグストアのない地域の集会所の駐車場、商店の跡地、個人の土地などを、持ち主の許可を得て使います。2つ目は、団地やマンションの敷地です。管理組合や管理会社の許可を得て、敷地内の決まった場所で販売します。3つ目は、個人宅の玄関先を回る形です。注文を受けた家や、定期的に買ってくれる家の前に車を止めて販売します。
道路や公園での販売は、基本的に難しいと考えておいてください。J-Net21のガイドは、開業する場所を選ぶにあたって道路交通法や都市公園法を守る必要があり、一般的には道路上や公園での販売許可はおりないケースが多いとしています。そのため、私有地の使用許諾を受けたり、地域の施設や敷地を使わせてもらったりする必要がある、というのがガイドの説明です。道路で車を止めて販売する場面が出てくる場合は、所轄の警察署に事前に相談してください。
団地や住宅地で販売するときは、音への配慮も欠かせません。到着を知らせる音楽やアナウンスは集客に役立ちますが、音量が大きすぎたり、長時間流したりすると、苦情につながります。J-Net21のガイドも、団地などでは集客のための音声が騒音にならないようにするよう注意を促しています。
場所を確保するときは、許可を得たことを書面で残しておくと安心です。使える曜日と時間、駐車する位置、ごみの扱い、お客さんの車や自転車をどこに止めるかまで決めておくと、あとから地域の人との行き違いが起きにくくなります。
販売ルートの組み方
販売する場所の候補がいくつか集まったら、曜日ごとのルートに組み立てます。移動スーパーの売上は、1日に何か所を回り、それぞれで何人のお客さんに会えるかで決まります。J-Net21のガイドは、曜日別に15分から20分単位で異なる場所に移動して、多くの地区の需要を取り込む必要があるとしています。1か所に長くとどまるより、短い時間で多くの場所を回る組み立てが基本になります。
ルートを組むときは、次の点を考えます。まず、同じ場所には毎週同じ曜日の同じ時間に行くことです。お客さんは「火曜日の10時に来る」と覚えて待っていてくれるので、時間がずれると買い逃しが起き、次第に来てくれなくなります。とくし丸は、週2回程度お客さんのもとを訪ねて販売していると公表しています。生鮮食品を買う間隔を考えると、週に1回より2回のほうが、お客さんにとって使いやすい頻度です。
次に、移動の時間を短くすることです。地図の上で近い場所でも、道幅が狭い、一方通行が多い、坂道が急といった理由で、販売車では時間がかかることがあります。実際に車で回ってみて、移動の時間を計ってからルートを決めてください。
3つ目は、生鮮食品の温度を保つ順番です。冷蔵や冷凍の設備があっても、扉を何度も開け閉めすると温度は上がります。昼の暑い時間帯に販売が集中しないよう、気温の高い季節は午前中に生鮮食品がよく出る場所を回るといった工夫が必要です。
最後に、予約の注文を受ける仕組みです。毎回の販売で、次回欲しいものを聞いておき、その分を確実に積んでいくと、売れ残りを減らしながら客単価を上げられます。注文を書き留めるノートや、顧客ごとの好みの記録が、移動スーパーでは大切な資産になります。
仕入れ先の探し方
独自に開業する場合、仕入れ先をどう確保するかが事業の成否を分けます。主な仕入れ先は次のとおりです。
| 仕入れ先 | 特徴 |
|---|---|
| 地域のスーパーマーケット | 品揃えが広く、少量から仕入れやすい。提携の交渉が必要 |
| 食品の卸売業者 | 価格は抑えやすいが、取引の単位が大きいことがある |
| 地元の農家や生産者 | 地元産の野菜や果物で品揃えに特色を出せる |
| 地域の商店(豆腐店、精肉店など) | 地域で慣れ親しまれた商品を扱える |
移動スーパーの品揃えは、限られた車の荷台に積める量で決まります。J-Net21のガイドには、400品目1,200点程度を積み込んで営業している事例が紹介されています。品目を絞り込むほど、仕入れの量と売れ残りの管理が楽になりますが、お客さんの「ここで全部済ませたい」という期待には応えにくくなります。
仕入れ先と交渉するときは、売れ残った商品の扱いを必ず決めておきます。仕入れた商品を買い取る形なのか、売れ残りを返品できる形なのかで、利益の出方が大きく変わります。生鮮食品は日持ちしないため、返品できない形で仕入れると、売れ残りがそのまま損失になります。
地元の生産者から仕入れた野菜は、包装されていない状態で売ることが多くなります。農産物をそのまま売る場合の扱いや、小分けして袋に詰める場合の扱いは、保健所で確認してから品揃えに加えてください。
品揃えをお客さんの声で育てる
最初の品揃えは、販売する地域を歩いて回り、どんなものが買いにくくなっているかを聞いて決めるのが確実です。J-Net21のガイドも、実際には営業しながら顧客の要望をきめ細かく聞き、予約を取ることも含めて品揃えに反映するよう勧めています。毎回の販売で「次はこれを持ってきてほしい」という声を拾い、次の仕入れに反映していくことが、売上を安定させる近道です。
開業前に地域の需要を確かめる方法
移動スーパーの売上は、販売する地域にどれだけ「買い物に困っている人」がいるかで決まります。車や許可にお金をかける前に、需要を自分の足で確かめておくことが、開業の失敗を避けるいちばん確実な方法です。
J-Net21のガイドは、個宅の玄関先を回る形で営業する場合、歩き回って需要調査を行ったり、挨拶回りを行ったりすることが重要な開業準備だとしています。とくし丸も、スーパーの担当者と一緒に、自分のエリアのお客さんにあいさつしながら、買い物の状況を一軒一軒聞き取っていく方法を取っていると公表しています。地道な方法ですが、実際に買ってくれる人がどこに何人いるのかを知るには、これに勝る方法はありません。
聞き取りでは、次のようなことを確かめます。いま食料品をどこで、どのくらいの頻度で買っているか。買い物に行くときに困っていることは何か。家族が代わりに買ってきているか、宅配を使っているか。移動スーパーが来るとしたら、何曜日の何時ごろがよいか。どんな商品があればうれしいか。
あわせて、地域の様子も見ておきます。近くのスーパーやコンビニが閉店していないか、バスの本数が減っていないか、坂道が多く歩いて買い物に行きにくい地形ではないか。こうした条件がそろっている地域ほど、移動スーパーの需要は高くなります。反対に、近くに店があり、宅配の利用も広がっている地域では、移動スーパーが選ばれる理由をはっきりさせないと、お客さんは集まりません。
聞き取りの結果は、地図に書き込んでおくと、そのままルートづくりの材料になります。
開業資金と、売上の考え方
移動スーパーの開業資金で最も大きいのは、販売車の費用です。冷蔵や冷凍の設備を積んだ軽トラックは、改造の内容によって費用の幅が大きくなります。とくし丸の公表では、販売車を一括で購入する場合の車両の費用はおよそ370万円から400万円とされています。中古の車両を改造する、リースを使うなどの方法で初期の負担を抑えることもできますが、許可が必要な品目を扱うなら、改造の内容が保健所の基準に合っていることが前提になります。
車両のほかに必要になる主な費用は、食品衛生責任者の講習の受講料、許可の申請手数料、最初の商品の仕入れ代、つり銭、車両の保険料、燃料代などです。許可の申請手数料は自治体ごとに違います。
売上は、客数と客単価の掛け算で決まります。とくし丸の公表では、全国平均で1日の客数が35名から45名、客単価が2,000円から2,500円とされています。ここから、仕入れの原価、燃料代、車両の維持費、保険料などを差し引いた額が、販売する人の手元に残る額になります。始める前に、自分が回る予定の地域で1日に何人のお客さんに会えそうか、何曜日にどのルートを回るかを具体的に書き出して、売上と経費の見通しを立ててみてください。
国や自治体には、買い物が不便な地域を支援するための補助金を用意しているところがあります。対象になる事業や金額、募集の時期は自治体ごとに違い、年度ごとに変わることもあるので、販売する予定の地域の市町村に問い合わせてください。
開業届と青色申告の申請
移動スーパーを個人で始める場合は、個人事業主として税務署に届け出ます。
開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)は、事業を始めた日の属する年分の確定申告期限までに、納税地の税務署に出します。国税庁の案内には次のように書かれています。
事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください。 出典: 国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
青色申告をしたい場合は、青色申告承認申請書も出します。その年の1月16日以後に事業を始めた場合は、事業を始めた日から2か月以内が期限です。青色申告とは、帳簿をつけて申告すると税金の計算で有利な扱いを受けられる仕組みのことで、正規の簿記の原則で記帳して期限内に申告すると、最高55万円の青色申告特別控除を受けられます。電子帳簿保存かe-Taxでの申告をすると、最高65万円になります。詳しくは国税庁のタックスアンサー No.2070で確認できます。
移動スーパーは、毎日の仕入れと売上の件数が多い仕事です。開業した日から、仕入れの伝票と売上の記録を日ごとに整理しておくと、確定申告の時期に慌てずに済みます。販売パートナーとして提携先と契約する場合は、売上や手数料の明細がどのような形で届くのかも、契約前に確認しておくとよいでしょう。
長く続けるために、開業前に考えておきたいこと
移動スーパーは、始めることよりも続けることのほうが難しい仕事です。ルートが定まり、決まったお客さんがつくまでには時間がかかります。開業してすぐに売上が安定することは期待せず、最初の数か月は地域を歩いて回り、お客さんを探す期間だと考えておくと、気持ちの面でも無理がありません。
体調を崩したときや車が故障したときの備えも、開業前に考えておく必要があります。個人事業主には会社員のような休業中の手当がないため、休んだ日はそのまま売上がなくなります。車両の保険や、働けなくなったときに備える保険を検討しておくこと、車の点検を定期的に行うことが、事業を止めないための土台になります。
天候への備えも欠かせません。雨や雪の日は、お客さんが外に出てこられず、売上が落ちやすくなります。一方で、悪天候の日こそ買い物に出られない高齢のお客さんにとっては、移動スーパーが来てくれることの価値が高まります。雨の日は玄関先まで商品を届ける、事前に電話で注文を聞いておくなど、天候に左右されにくい売り方をいくつか用意しておくと、売上の波を小さくできます。夏場は車内の温度が上がりやすく、生鮮食品の管理にいっそう気を配る必要があります。
もうひとつ大切なのが、お客さんの暮らしとの関わり方です。高齢のお客さんが多い仕事なので、「いつもの日に出てこない」「様子がいつもと違う」といった変化に気づく場面があります。自治体によっては、事業者と見守りの協定を結び、異変に気づいたら市役所や地域包括支援センターに知らせる仕組みを設けているところもあります。販売の仕事と地域の見守りが結びついている点は、移動スーパーならではの特徴です。
移動スーパーに向いている人
移動スーパーは、販売の経験がなくても始められる仕事です。とくし丸も、販売パートナーには接客業の未経験者が多いと公表しています。一方で、向き不向きがはっきり出る仕事でもあります。
向いているのは、同じ相手と長く付き合うことを苦にしない人です。毎週同じ家を訪ね、同じお客さんと話す仕事なので、一度きりの販売より、関係を育てることに喜びを感じられる人が続きます。また、朝の積み込みから夕方の精算まで、体を動かす時間が長い仕事なので、体力に自信がある人のほうが無理なく続けられます。
反対に、決まった時間に必ず決まった場所へ行くことに縛られるのが苦手な人には、負担が大きくなります。移動スーパーは、お客さんが待っていてくれることで成り立つ仕事なので、自分の都合で休みにくい面があります。家族の予定や自分の体調の波と、毎週のルートを両立できるかを、始める前に考えておいてください。
運営者として見てきた、地域に根づく個人事業の共通点
在宅ワークや業務委託の市場を長く運営してきた立場から見ると、地域に根づいて長く続く個人事業には共通点があります。それは、売上の額より先に「この人に頼めば安心」という関係を一軒一軒積み上げていることです。移動スーパーはその典型で、決まった曜日に必ず来てくれる、欲しいものを覚えていてくれるという信頼が、そのまま次の売上につながります。
個人事業として働くうえでは、間に入る事業者にどれだけの手数料を支払うかも、手元に残る額を左右します。仕入れ先やお客さんと直接やり取りできる部分が多いほど、同じ売上でも手取りは厚くなります。手数料0%で直接取引できる環境が、発注する側と受ける側の双方にとって得になるのと同じ構造です。
移動スーパーを始める人の中には、販売の仕事と並行して、チラシやSNSでの告知、顧客の管理を自分でこなす人も増えています。集客の方法を学びたい人は、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事で、地域の小さな事業で役立つ発信や集客の仕事の中身を知ることができます。注文の受付や顧客の記録を仕組みにしたい人は、アプリケーション開発のお仕事で、業務を支えるアプリづくりの仕事がどのようなものかを確認できます。チラシや案内文を自分で書く機会が多い人は、ビジネス文書検定のように、伝わる文書を書く力を測る資格も参考になります。
よくある質問
Q. 移動スーパーの開業に資格は必要ですか?
許可が必要な品目を扱う場合は、食品衛生責任者を置く必要があり、調理師などの資格がない人は都道府県などの講習会を受けて資格を得るのが一般的です。運転免許も欠かせません。届出で済む品目だけを扱う場合の扱いや、必要な講習の内容は地域で違うため、営業する地域の保健所で確認してください。
Q. 包装された肉や魚を売るだけでも保健所の許可は要りますか?
包装された状態で仕入れ、開けずにそのまま売る場合は、令和3年6月の制度の見直しで許可ではなく届出の対象になりました。ただし車内で切り分けたり量り売りしたりすると、食肉販売業や魚介類販売業の許可が必要です。扱いは地域や売り方で変わるので保健所で確認してください。
Q. 道路や公園で移動スーパーの販売はできますか?
J-Net21の開業ガイドによると、道路交通法や都市公園法の制約があり、道路上や公園での販売許可はおりないケースが多いとされています。私有地の持ち主や団地の管理組合などから使用許諾を受けて販売するのが一般的です。道路での販売が必要な場合は、所轄の警察署に事前に相談してください。
Q. 移動スーパーの開業届はいつまでに出せばよいですか?
個人事業の開業届は、事業を始めた日の属する年分の確定申告期限までに、納税地の税務署へ提出します。青色申告をする場合は青色申告承認申請書も必要で、1月16日以後に開業したときは事業を始めた日から2か月以内が期限です。早めに出しておくと手続きの漏れを防げます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
三浦 健太@SOHO編集部
フリーランスCADオペレーター・建築系コンサル
一級建築士事務所で設計を担当した後、フリーランスのCADオペレーターに。建築・不動産・施工管理系の実務経験を活かした記事を執筆しています。
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