移動支援従業者として登録するまでの手順と、仕事の受け方


この記事のポイント
- ✓移動支援従業者(ガイドヘルパー)として働きたい人向けに
- ✓市区町村ごとに違う従事者の要件の調べ方
- ✓無料や低額で受けられる研修の探し方
移動支援従業者として働いてみたいと思って調べ始めると、「全身性」「知的・精神」「同行援護」と研修の名前がいくつも出てきて、結局どれを受ければいいのか分からなくなりがちです。実は、移動支援従業者の要件は国が一律に決めているのではなく、働く市区町村がそれぞれ決めています。そのため、最初にやるべきことは研修の申し込みではなく、働きたい市区町村の要件を確かめることです。この記事では、要件の調べ方、研修の選び方と受講料の相場、事業所に登録して一人で仕事を受けるまでの手順を、東京都や大阪府、市区町村の公表資料をもとに順を追って整理します。
移動支援従業者とはどんな仕事か
移動支援従業者とは、一人で外出するのが難しい障害のある人に付き添い、移動を支える仕事です。一般にはガイドヘルパーと呼ばれ、求人票でもこちらの名前のほうがよく使われています。
この仕事は、障害者総合支援法にもとづく「移動支援事業」として行われています。移動支援事業は、市区町村が地域の事情に合わせて中身を決める「地域生活支援事業」の1つです。厚生労働省の資料では、事業の仕組みが次のように整理されています。
3 サービス提供者 サービスを提供するにふさわしい者として市町村が認めたもの 4 利用料 利用者負担をもとめるか否かを含め市町村が判断 出典: 厚生労働省「移動支援事業について」
「市町村が認めたもの」という一文が、この仕事を理解するうえでの出発点です。誰が移動支援従業者として働けるかは、国の資格ではなく、市区町村の基準で決まります。同じ資料によると、令和6年度に移動支援事業を実施している市区町村は、全国1,741のうち1,685にのぼります。ほとんどの地域に仕事がある一方で、要件は地域ごとに少しずつ違うということです。
仕事の中身は、利用者の自宅に迎えに行き、買い物や余暇活動、役所への用事などの外出に付き添い、自宅まで送り届けるまでの一連の支援です。移動の介助だけでなく、外出先でのトイレや食事の介助、混雑した場所での安全確保、利用者が自分で選んだり決めたりできるような声かけも含まれます。地域によっては、特別支援学校への通学や作業所への通所の付き添いも移動支援の対象になっています。
付き添う相手は、車いすを使う人、知的障害や自閉スペクトラム症のある人、精神障害のある人など、さまざまです。障害の種類によって必要な支援がまったく違うため、研修も障害の種類ごとに分かれています。
登録までの全体の流れ
移動支援従業者として仕事を受けられるようになるまでの流れは、おおむね次の6つの段階に分けられます。
| 段階 | やること | 目安の期間 |
|---|---|---|
| 1 | 働きたい市区町村の従事者要件を確かめる | 数日 |
| 2 | 付き添いたい相手に合った研修の課程を選ぶ | 数日 |
| 3 | 指定を受けた研修事業者に申し込む | 1週間から1か月 |
| 4 | 研修を受講し、修了証明書を受け取る | 2日から数週間 |
| 5 | 事業所に応募し、登録ヘルパーとして雇用契約を結ぶ | 1週間から1か月 |
| 6 | 先輩ヘルパーとの同行を経て、一人で仕事を受ける | 数回から数か月 |
順調に進めば、調べ始めてから1か月から2か月ほどで最初の仕事を受けられます。研修の開講日が限られている地域では、申し込みから受講まで1か月以上待つこともあります。逆に、事業所に先に応募して、事業所の紹介で研修を受ける順番を選ぶ人もいます。どちらの順番でも構いませんが、最初の段階の「要件の確認」だけは飛ばさないことが大切です。
段階1 働きたい市区町村の要件を確かめる
最初に確かめるのは、働きたい市区町村が、どの研修の修了者を移動支援従業者として認めているかです。
大阪市は、移動支援に従事するヘルパーの資格要件を「大阪市移動支援事業従事者の要件」というページの表で公開しています。この表を見ると、持っている資格によって担当できる利用者が細かく分かれていることが分かります。
| 持っている資格 | 担当できる主な利用者(大阪市) |
|---|---|
| 介護職員初任者研修など | 知的障害、精神障害のある人 |
| 同行援護従業者養成研修 | 視覚障害のある人、盲ろうの人 |
| 重度訪問介護従業者養成研修(追加課程) | 全身性障害のある人 |
| 全身性障がい者移動支援従業者養成研修 | 全身性障害のある人 |
| 知的障がい者移動支援従業者養成研修 | 知的障害のある人(一部は精神障害も) |
| 精神障がい者移動支援従業者養成研修 | 精神障害のある人 |
ここで注目したいのは、介護職員初任者研修を修了していても、大阪市では視覚障害や全身性障害のある人の移動支援は担当できない表になっている点です。介護の資格を持っている人でも、追加の研修が必要になる場合があるということです。
県の研修を修了しても、市の要件を満たすとは限らない
もう1つの注意点は、都道府県が認めた研修を修了しても、それだけで市区町村の要件を満たすとは限らないことです。神奈川県はガイドヘルパー養成研修の案内で、移動支援事業のサービス提供者の資格要件は各市町村が定めるため、研修の修了者が要件を満たすかどうかは市町村によって異なると明記しています。
横浜市のように、障害の種類ごとに必要な資格を要綱の別表で定めている市もあります。働きたい市区町村のホームページで「移動支援 従事者 要件」と検索するか、障害福祉の担当課に電話で「どの研修の修了者が従事できますか」と聞くのが確実です。住んでいる市区町村と働きたい市区町村が違う場合は、働く側の要件を確かめてください。
段階2 付き添いたい相手に合った課程を選ぶ
要件が分かったら、次はどの課程を受けるかを決めます。研修の課程の名前と時間数は都道府県ごとに違います。代表的な例として、大阪府と東京都の課程を並べてみます。
| 付き添う相手 | 大阪府の課程と時間数 | 東京都の課程 |
|---|---|---|
| 車いすを使うなど全身性障害のある人 | 全身性障がい者移動支援従業者養成研修課程 20時間 | 全身性障害者移動支援従業者養成研修課程 |
| 知的障害のある人 | 知的障がい者移動支援従業者養成研修課程 19時間 | 知的・精神障害者移動支援従業者養成研修課程 |
| 精神障害のある人 | 精神障がい者移動支援従業者養成研修課程 14時間 | 同上 |
| 視覚障害のある人 | 同行援護従業者養成研修に集約 | 同行援護従業者養成研修 |
東京都の「障害者(児)移動支援従業者養成研修 開講日程の御案内」によると、要綱の改正にともない、令和8年4月1日から知的障害と精神障害の課程が「知的・精神障害者移動支援従業者養成研修課程」という名前になっています。大阪府では、視覚障害のある人の移動支援の課程を平成23年9月末で廃止し、同行援護従業者養成研修に集約しています。
どの課程から受けるか
迷ったときは、住んでいる地域で求人が多い課程から受けるのが現実的です。一般的には、知的障害のある人の移動支援は、余暇活動や通学の付き添いの依頼が多く、求人も見つけやすい傾向があります。全身性障害の課程は車いすの操作や移乗の介助を学ぶため、体を使う介助に慣れておきたい人に向いています。
大阪府の全身性の課程では、移動介助の基礎、車いすでの生活行為の介助、交通機関を使った移動の介助演習などを学び、知的の課程では、障害の理解、コミュニケーションの実習、外出介助の実習などを学びます。2つ以上の課程を修了しておくと担当できる利用者の幅が広がり、事業所からの依頼も受けやすくなります。最初は1つの課程から始め、仕事に慣れてから次の課程を受ける人も多くいます。
段階3 受講料を比べ、安く受ける方法を探す
受講料は、実施する事業者によって大きく違います。東京都が公開している「知的・精神障害者移動支援従業者養成研修課程」の開講日程(令和8年10月1日現在)を見ると、受講料は0円から30,000円まで幅があります。テキスト代も受講料に含めた金額です。
区や市が主催する研修
東京都の一覧には、区や市が自ら主催する研修も載っています。受講料は2,000円から3,500円と低く抑えられていて、申込条件は「区内在住・在勤者」などに限られています。担い手を地元で育てたいという自治体の意図が表れていると言えます。住んでいる市区町村で同じような研修がないか、まず確かめてみる価値があります。
事業所で働くことを前提にした研修
社会福祉法人や会社が開く研修の中には、受講料を0円にしているものもあります。この場合、申込条件として「当法人にて働くことを希望する者」と書かれていることが多く、修了後にその事業所で働くことが前提です。働く事業所がまだ決まっていない人には、職場探しと研修を同時に進められる方法でもあります。
修了後に受講料の助成を受ける
研修を修了して働き始めたあとに、受講料の一部を助成する自治体もあります。文京区は、区内で開かれている知的障害者・児の移動支援従事者養成研修について、修了後に申請すれば受講料の助成を受けられる制度があると案内しています。横浜市は、ガイドヘルパー等の受講料のうち上限2万5千円までを助成していて、研修修了後1年以内の申請、市内の事業所で3か月以上の就業、修了した研修に対応する障害の利用者へのサービス提供が1回以上といった条件を定めています。
全身性の課程は受講条件がある場合も
東京都の全身性の課程の一覧では、申込条件に「初任者研修またはヘルパー3級以上の取得者」「介護福祉士、介護職員初任者研修、実務者研修の修了者」などを挙げている事業者もあります。受講料は13,000円や32,450円といった例が見られます。介護の資格がない人は、受講条件のない事業者を探すか、知的・精神の課程から始めるとよいでしょう。
段階4 研修を受けて修了証明書を受け取る
研修を申し込む前に必ず確かめたいのが、その事業者が都道府県などの指定や認定を受けているかどうかです。大阪府は、似た名前の研修であっても、指定を受けていない事業者で修了した場合は有資格者として働けないと注意を呼びかけています。東京都や大阪府は、指定を受けた事業者の開講予定をホームページで公開しているので、申し込む前に事業者名が載っているかを照らし合わせると安心です。
研修は、講義、演習、実習で構成されています。大阪府の要綱では、各課程の修業年限はおおむね4か月以内とされていますが、実際には土日の2日間に施設での実習1日を加えた形など、数日で修了できる日程が多く組まれています。文京区の例では、2日間の講義に加えて施設での実習が1日あり、実習の日時は相談できると案内されています。
研修では、障害者福祉の制度と移動支援の仕組み、移動支援従業者の業務と職業倫理、障害のある人の人権、障害の特性と心理、移動介助の基礎、外出介助の実習などを学びます。欠席した科目は補講を受けないと修了できないため、日程は無理のない範囲で選びましょう。
研修当日までに準備しておくこと
実習や演習では、実際に街を歩いたり、電車やバスに乗ったり、車いすを押したりします。歩きやすい靴と動きやすい服装で参加し、交通系ICカードの残高も確かめておきましょう。施設での実習がある課程では、事前に健康状態の申告を求められることもあります。また、研修の前に、住んでいる地域の駅や商業施設のバリアフリーの設備、たとえばエレベーターや多機能トイレの位置を意識して見ておくと、講義の内容が具体的にイメージしやすくなります。
研修では、受講者同士で利用者役とヘルパー役を交代しながら演習する場面が多くあります。利用者役を体験すると、声をかけるタイミングや、車いすを押す速さが利用者にとってどう感じられるかがよく分かります。恥ずかしがらずに、気づいたことを講師や他の受講者と共有するほど、現場での判断に役立ちます。
修了すると、修了証明書が発行されます。携帯用の修了証明書を発行している都道府県もあります。事業所への応募の際に写しの提出を求められるので、原本は大切に保管してください。
段階5 事業所に応募して登録する
修了証明書を受け取ったら、移動支援を行っている事業所に応募します。移動支援従業者の多くは「登録ヘルパー」という形で働いています。登録ヘルパーとは、事業所に登録しておき、利用者の予定と自分の空いている時間が合ったときに仕事を受ける働き方のことで、事業所と雇用契約を結ぶパートやアルバイトとして扱われるのが一般的です。
事業所の探し方
求人サイトで「移動支援」「ガイドヘルパー」と地域名で検索するほか、市区町村が公開している移動支援事業所の一覧から探す方法もあります。横浜市は移動支援事業所の一覧を公開しています。自宅から通いやすい事業所、つまり担当する利用者の自宅が近い事業所を選ぶと、移動の負担が少なく、短い時間の依頼でも受けやすくなります。
応募書類と面接で伝えること
応募の際には、修了した課程と修了日、働ける曜日と時間帯、自宅から移動できる範囲を具体的に伝えると、事業所は担当できる利用者を考えやすくなります。たとえば「土曜日の10時から17時、自宅から電車で30分以内」のように伝えると、合う利用者がいるかどうかの返事も早くなります。福祉の仕事が初めてでも、子育てや家族の介護の経験、接客の経験など、人に合わせて動いた経験は評価されることが多いので、遠慮せずに書きましょう。運転免許の有無を聞かれることもあります。移動支援の付き添いは公共交通機関や徒歩での移動が多い一方、車を使う外出の扱いは自治体や事業所によって違うので、車の運転を求められるかどうかも面接で確かめておきましょう。
面接で確かめておきたいこと
| 確かめること | 確かめる理由 |
|---|---|
| 担当する利用者の障害の種類 | 自分の修了した課程と合っているか |
| 1回あたりの時間と時間帯 | 自分の空き時間と合うか |
| 移動時間や待機時間の給与の扱い | 実際の手取りに影響する |
| 当日キャンセル時の扱い | 外出の予定は変わりやすい |
| 先輩との同行の回数 | 初めての利用者に一人で入る不安を減らせる |
| 次の研修の費用補助 | 担当できる利用者を広げるときの負担が変わる |
| 記録の書き方と提出方法 | スマートフォン入力か紙の提出か |
雇用される以上、時給は都道府県ごとの最低賃金を下回ることはできません。また、勤務時間が増えると雇用保険や社会保険の加入の対象になることがあるので、どの程度の時間を働くつもりかも面接で伝えておきましょう。
段階6 先輩との同行を経て、一人で仕事を受ける
登録したあと、すぐに一人で利用者を担当することは多くありません。最初は先輩ヘルパーやサービス提供責任者と一緒に利用者の外出に同行し、利用者の特性、好きな場所、苦手な音や場所、パニックになりそうなときの対応などを覚えていきます。
同行の回数は、利用者の障害の程度や事業所の方針で変わります。重い障害のある人の支援では、新人ヘルパーが熟練のヘルパーと組んで支援する期間を制度として認めている例もあります。神戸市が公開している重度訪問介護の同行支援の取り扱いでは、新任ヘルパーごとに120時間以内まで、2人分の時間の報酬を算定できるとされています。移動支援でも、同行の期間をきちんと設けてくれる事業所は働きやすい事業所だと考えてよいでしょう。
仕事の受け方と、1か月の働き方のイメージ
一人で担当できるようになると、事業所から依頼が届くようになります。仕事の受け方は事業所によって違いますが、おおむね次のような流れです。
依頼が届く流れ
- 利用者や家族が、事業所に外出の予定を伝える
- サービス提供責任者が、担当できるヘルパーに日時と行き先を打診する
- ヘルパーが引き受けられるかどうかを返事する
- 確定した予定が、月ごとのシフト表やアプリで共有される
利用者の多くは、毎週土曜日の午後、毎月第2日曜日といった決まったパターンで外出します。同じ利用者を継続して担当することが多いので、一度担当が決まると、毎月の予定が立てやすくなります。
利用者の時間数から仕事量を考える
移動支援には、利用者ごとに1か月に使える時間数の基準が決められています。たとえば横浜市の実施要綱では、移動介護と通学通所支援を合わせて1か月あたり30時間を基準とし、社会生活上必要不可欠な外出と通学通所支援で30時間を超える場合は48時間を基準としています。1人の利用者から受ける仕事は1か月あたり数時間から数十時間の範囲になるため、まとまった時間を働きたい人は、複数の利用者を担当するか、居宅介護などほかのサービスと組み合わせることになります。
引き受けてはいけない外出
移動支援には、支援の対象にならない外出があります。横浜市の要綱では、通勤や営業などの経済活動に伴う外出、宗教の布教活動、ヘルパーに資格や用具の準備を求める活動、ヘルパーに危険を伴う活動、ギャンブルや飲酒を伴う外出などを対象外としています。利用者から当日に行き先の変更を頼まれ、それが対象外の外出に当たりそうなときは、自分で判断せず、事業所に連絡して指示を受けるのが基本です。
子どもの付き添いを担当する場合
移動支援の利用者には、障害のある子どもも多く含まれます。放課後や休日の余暇の外出のほか、地域によっては特別支援学校への通学の付き添いも移動支援の対象です。横浜市は「通学通所支援」として、特別支援学校への通学や作業所への通所の付き添いを移動支援の中に位置づけています。
ただし、子どもの付き添いには大人とは違う条件があります。横浜市の案内では、中学生未満の子どもが移動支援を使えるのは、ほかの送迎手段や付き添いを得られない場合に限るとされています。通学通所支援も、年齢に関わらず、ほかの送迎手段や付き添いを得られない場合に限られます。家族が付き添えない事情がある家庭のための仕組みだということです。
子どもの付き添いでは、急に走り出す、気になるものに向かって道路に飛び出すといった場面を想定し、手をつなぐ位置や歩く側を工夫します。保護者から子どもを預かるときと引き渡すときには、体調や様子、気になった出来事を短く正確に伝えることも大切です。通学の付き添いは朝の決まった時間に入る仕事なので、子育て中の人や、日中に別の仕事を持つ人にとっては、生活のリズムに組み込みやすい面もあります。一方で、学校の行事や長期休みで予定が大きく変わるため、1年を通じて同じ時間を働けるわけではない点は知っておきましょう。
似た仕事との違い
移動支援と似た仕事に、同行援護、行動援護、居宅介護の通院等介助があります。求人を見るときに混同しやすいので、違いを整理しておきます。
| 仕事 | 制度 | 主な相手と内容 |
|---|---|---|
| 移動支援 | 市区町村の地域生活支援事業 | 障害のある人の余暇や社会参加の外出に付き添う |
| 同行援護 | 国の障害福祉サービス | 視覚障害のある人を誘導し、周りの情報を伝える |
| 行動援護 | 国の障害福祉サービス | 行動上の困難が大きい知的障害や精神障害のある人の外出で、危険を避ける援護をする |
| 通院等介助 | 国の障害福祉サービス(居宅介護) | 病院への通院や役所での手続きに付き添う |
横浜市の案内でも、通院や官公署での手続きのための外出は、移動支援ではなく居宅介護で対応すると書かれています。同じ利用者の外出でも、行き先によって使う制度が変わり、求められる資格も変わります。事業所によっては、移動支援と居宅介護、同行援護などを組み合わせて担当することになるので、修了している研修で担当できる範囲を、事業所と一緒に整理しておくとよいでしょう。
1回の付き添いの流れ
研修の内容が現場でどう生きるのかをイメージできるように、知的障害のある成人の利用者と、休日に映画を観に行く場合を例に、1回の流れを追ってみます。
出発前
事業所から届いた予定で、集合時間、行き先、帰宅予定の時刻、利用者が持っていくお金の額を確かめます。利用者の自宅に着いたら、家族から当日の体調や気分、前の晩によく眠れたかなどを聞きます。予定の変更や、気をつけてほしいことがないかもここで確かめます。外出先で使うお金は、出発前に家族と一緒に金額を数え、記録しておくと、あとで行き違いが起きません。
移動中
駅までの道では、利用者のペースに合わせて歩きます。改札や乗り換えでは、利用者が自分で切符を買ったり、交通系ICカードをかざしたりできるように見守り、必要なときだけ手を貸します。電車が混んでいて落ち着かない様子なら、1本見送る、空いている車両に移るといった判断をします。大きな音や人混みが苦手な人の場合は、あらかじめ静かな経路を選んでおくことも大切です。
目的地で
映画館では、チケットの購入や売店での注文を、利用者が自分でできるように声をかけます。上映中にトイレに行きたくなったときの動き方も、事前に決めておくと安心です。何を観るか、何を食べるかを決めるのは利用者で、ヘルパーが代わりに決めることはしません。「自分で選べた」という経験を積み重ねることが、移動支援の大切な目的の1つだからです。
帰宅後
自宅に送り届けたら、使ったお金とレシート、残ったお金を家族と一緒に確かめます。その後、サービスの実施記録に、開始と終了の時刻、行き先、行った支援、気づいたことを書きます。「エスカレーターの前で立ち止まった」「売店の注文は一人でできた」といった具体的な記録は、次に担当するヘルパーや家族にとって大切な情報になります。
移動支援ならではの難しさと、つまずきやすい点
移動支援の仕事を始めた人がつまずきやすい点を、あらかじめ知っておくと、最初の数か月の不安を減らせます。
予定どおりに進まないことが前提
外出先では、電車の遅延、急な雨、目的の店の臨時休業など、予定を変えざるをえない場面がよく起こります。利用者によっては、予定が変わること自体に強い不安を感じる人もいます。代わりの行き先や過ごし方を事前にいくつか考えておき、変更が必要になったら、できるだけ早く、分かりやすい言葉や写真で伝えることが助けになります。
「手伝いすぎ」と「手伝わなさすぎ」の間
ヘルパーが何でも先回りしてしまうと、利用者が自分でできることまで奪ってしまいます。かといって、見守るだけで危険な場面に手を出さないのも問題です。どこまで手を貸すかは、利用者ごとに違います。最初のうちは、先輩ヘルパーや家族に「この場面ではどこまで手伝っていますか」と具体的に聞き、記録に残しておくと判断がぶれにくくなります。
利用者との距離のとり方
同じ利用者を長く担当すると、親しみが深まり、個人的な連絡先を交換したい、勤務時間外にも会いたいと頼まれることがあります。こうした頼みは引き受けず、事業所を通じて対応するのが原則です。利用者からの贈り物やお金を受け取らないことも、多くの事業所で決まりになっています。利用者との信頼関係を守り、ヘルパー自身をトラブルから守るための決まりです。
万一の事故への備え
外出中に利用者が転んでけがをした、店の商品を壊してしまったといった事故に備えて、多くの事業所は損害賠償の保険に入っています。登録する前に、事業所が保険に入っているか、事故が起きたときにどこへ連絡し、何を記録すればよいかを確かめておきましょう。利用者の体調が急に悪くなったときの連絡先と、救急車を呼ぶ判断の目安も、働き始める前に確認しておくと安心です。
移動支援から広がるキャリア
移動支援従業者として経験を積むと、担当できる仕事の幅を広げていくことができます。
移動支援従業者の資格を取得すると、現場での支援経験を積みながら、将来的にサービス提供責任者などの役職を目指すことも可能です。 出典: careritz.co.jp
代表的な広げ方は次のとおりです。視覚障害のある人の外出を支えたいなら同行援護従業者養成研修、自宅での介護も担当したいなら介護職員初任者研修、重い肢体不自由のある人を長時間支えたいなら重度訪問介護従業者養成研修という順に、仕事に合わせて研修を追加で受けていきます。介護職員初任者研修のあとに実務者研修を修了し、さらに実務経験を積めば、介護福祉士の受験資格にもつながります。
サービス提供責任者は、ヘルパーの派遣を調整し、利用者ごとの支援の計画を作る役割です。現場の経験を生かしながら、事業所の運営に関わる仕事へと進む道もあります。
運営者の視点で見る、移動支援と組み合わせやすい働き方
フリーランスや在宅ワークの市場を長く見てきた運営者の立場から言えば、移動支援のように「利用者の予定に合わせる仕事」を長く続けている人ほど、空き時間の使い方を上手に設計しています。移動支援の依頼は週末や夕方に集まりやすく、平日の日中や、当日キャンセルで生まれた時間がどうしても残ります。この時間を自宅でできる別の仕事に充てることで、収入の波をならしている人は少なくありません。
移動支援の仕事では、毎回の支援記録や事業所への報告など、事実を正確に短く書く場面が多くあります。この力は、文章を扱う在宅の仕事にも通じます。文章の仕事の収入の水準を知りたい人は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で公的統計にもとづく数字を確かめられます。記録や報告の文書の基本を体系的に学び直したい人には、ビジネス文書検定のような資格もあります。また、移動支援の事業所でも、記録や請求の管理をアプリやクラウドで行うところが増えていて、ITの道具に慣れておくと現場でも重宝されます。業務の効率化に関心がある人は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事のような仕事がどのように成り立っているかを見ておくと、福祉の現場で役立つ視点も得られます。
運営者として見てきたもう1つの実感は、仲介の手数料が乗らない直接の取引では、依頼する側は同じ予算でより多くを頼め、受ける側の手取りは厚くなるということです。移動支援のように時給の水準がある程度決まっている仕事と組み合わせるなら、もう一方の仕事は手数料0%の直接取引のように、手取りが目減りしにくい形を選ぶほうが暮らし全体の安定につながります。地域で人の外出を支える仕事を軸にしながら、空いた時間に自分の得意なことを生かす。その組み立て方が、移動支援を長く続けるための現実的な道です。
よくある質問
Q. 移動支援従業者になるには、どの研修を受ければいいですか?
働きたい市区町村が認めている研修を受けます。移動支援の従事者の要件は市区町村ごとに決められていて、付き添う相手の障害の種類によって必要な研修も違います。全身性障害、知的障害、精神障害の課程に分かれていることが多く、視覚障害のある人の付き添いは同行援護従業者養成研修が求められる地域が一般的です。申し込む前に、市区町村の障害福祉の担当課に確かめてください。
Q. 研修の受講料はどれくらいかかりますか?
事業者によって大きく違います。東京都が公開している令和8年10月1日現在の開講日程では、知的・精神障害者の課程の受講料は0円から30,000円まで幅があり、区や市が主催する研修は2,000円から3,500円でした。事業所で働くことを前提に無料にしている研修や、修了後に受講料を助成する自治体もあります。
Q. 介護職員初任者研修を持っていれば、移動支援の研修は不要ですか?
地域によって扱いが違います。大阪市の要件表では、初任者研修の修了者は知的障害と精神障害のある人の移動支援を担当できますが、視覚障害や全身性障害のある人の移動支援は担当できない表になっています。担当したい利用者の障害の種類と、働きたい市区町村の要件を照らし合わせて、追加の研修が必要かを確かめてください。
Q. 移動支援の仕事だけで十分な時間を働けますか?
1人の利用者が1か月に使える時間には基準があり、横浜市では原則として1か月あたり30時間です。1人の利用者から受ける仕事はその範囲に収まるため、まとまった時間を働きたい場合は、複数の利用者を担当するか、居宅介護や同行援護などほかのサービスと組み合わせるのが一般的です。事業所に希望の勤務時間を伝えて相談してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
杉山 リュウ@SOHO編集部
フリーランスデータアナリスト
外資系コンサルでデータ分析を担当後、フリーランスに独立。Python・SQL・BIツールを駆使し、データ分析・BI・統計系の記事を執筆しています。
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