偽装請負と言われる働き方|個人事業主の立場と罰則の決まり


この記事のポイント
- ✓偽装請負個人事業主罰則を
- ✓労働者派遣法59条・職業安定法64条・労働基準法118条の条文と37号告示にさかのぼって整理します
- ✓罰則は誰に科されるのか
「偽装請負個人事業主罰則」と検索してこのページに来た方は、たいてい次のどちらかの状況にあります。ひとつは、業務委託契約で仕事を受けているのに、始業時刻を指定され、常駐先の上長から日々の作業指示を受けていて、これは違法な形ではないかと不安になっている場合。もうひとつは、発注する側として、常駐型の委託契約が偽装請負にあたらないかを確かめたい場合です。まず、落ち着いて読み進めてください。偽装請負で罰則が向くのは基本的に事業者側であり、指示に従って働いていた個人事業主が罰せられる決まりにはなっていません。ただし、罰則が向かない代わりに、労災の補償や残業代、契約打ち切りのときの保護といったものが宙に浮きます。この記事では、何をもって偽装請負と判断されるのか、どの条文でいくらの罰則になるのか、そして個人で仕事を受けている人が自分の立場を確かめて動くにはどうすればよいのかを、厚生労働省の告示と条文にさかのぼって整理します。
偽装請負とは何か、個人で仕事を受ける人に何が起きるのか
偽装請負とは、契約書の表題は「業務委託契約」や「請負契約」になっているのに、実際の働き方が労働者派遣そのものになっている状態を指します。労働者派遣というのは、雇っている会社と、指示を出す会社が別々になる働き方のことです。この形で人を送り出すには国の許可が必要で、許可なく行えば違法になります。つまり偽装請負は、許可の要る働かせ方を、契約書の名前を変えることで許可なしにやってしまう状態です。
問題の中心は、責任の所在が消えてしまうことにあります。労働者派遣なら、派遣する側と受け入れる側のどちらが安全衛生の責任を負うか、労働時間の管理は誰がするかが法律で振り分けられています。請負なら、注文主は成果物を受け取るだけで、働き方の管理は請け負った側が全部負います。ところが偽装請負になると、注文主が日々の指示を出しているのに書類上は無関係という形になり、けがをしたとき、長時間労働になったとき、いきなり明日から来なくていいと言われたときに、誰も責任を引き受けない空白ができます。
厚生労働省もこの点を、責任の振り分けの問題として説明しています。
労働者派遣と請負とでは、労働者の安全衛生の確保、労働時間管理等に関して、雇用主(派遣元事業主、請負事業者)、派遣先及び注文主が負うべき責任が異なっています。このため、業務の遂行方法について労働者派遣か請負かを明確にし、それに応じた安全衛生対策や労働時間管理の適正化を図ることが必要です。 出典: mhlw.go.jp
ここで、個人で仕事を受けている人が混乱しやすい点をひとつ整理します。偽装請負という言葉は、もともと「請負会社が自社の従業員を注文主の現場に送り込み、注文主が直接指示を出している」状態を指す言葉です。従業員を雇っていない一人の個人事業主が、直接クライアントから指示を受けている場合は、厳密には偽装請負ではなく、別の問題として扱われます。それは「名目上は個人事業主だが、実態は労働者ではないか」という労働者性の問題です。検索している人の実感としてはどちらも同じ「おかしな働かされ方」ですが、当たる法律と動き方が変わるため、この記事では両方を分けて解説します。
契約書の名前ではなく実態で決まる。37号告示が並べる条件
労働者派遣にあたるか請負にあたるかを分ける基準は、昭和61年労働省告示第37号として公表されています。実務では「37号告示」と呼ばれ、最終改正は平成24年厚生労働省告示第518号です。告示の第2条は、請負の形で契約していても、次の条件のすべてに当てはまらない限り、その事業主は労働者派遣を行う事業主として扱うと定めています。
請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。 出典: mhlw.go.jp
条件は大きく2本立てで、それぞれに3つの柱があります。1本目は、自分が雇っている人の労働力を自分で直接使っているかどうか。具体的には、作業のやり方についての指示と評価を自分で行っていること、始業と終業の時刻、休憩、休日、休暇の指示を自分で行っていること、残業や休日労働をさせるかどうかの判断を自分で行っていること、服務上の規律についての指示を自分で行っていること、誰をどの持ち場に付けるかを自分で決めていることです。単に勤務時間を把握しているだけなら該当しないと、告示のなかにはっきり括弧書きで断り書きが入っています。
2本目は、請け負った仕事を自分の事業として、相手から独立して処理しているかどうか。こちらは、仕事に要する資金をすべて自分の責任で用意して支払っていること、民法や商法に定められた事業主としての責任をすべて負っていること、そして自分の責任と負担で用意した機械や設備や材料を使って処理するか、自分の企画や自分の専門的な技術や経験にもとづいて処理するかのどちらかであって、単に体を動かす労働力を提供しているだけではないことが求められます。ここで「業務上必要な簡易な工具を除く」という断り書きが付いているのが実務では重要で、自分のノートパソコンを1台持ち込んでいるだけでは独立性の根拠にはなりません。
さらに告示の第3条には、これらの条件を形だけ満たしていても、法律違反を免れるために故意に装ったものであって、本当の目的が労働者派遣を業として行うことにあるときは、労働者派遣を行う事業主であることを免れられないと書かれています。書類をそろえて条件を満たしているように見せる対策は、この一文で封じられています。
労働者かどうかを決める使用従属性の考え方
個人で仕事を受けている人にとって、37号告示よりも先に確かめたいのは自分の労働者性です。労働基準法第9条は「労働者」を、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者と定めています。この条文にもとづく判断は、2つの物差しで行われます。厚生労働省の説明を引きます。
労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか 報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか 出典: mhlw.go.jp
この2つをあわせて使用従属性と呼びます。使用従属性があるかどうかは、請負契約や委任契約といった契約の形式や名称にかかわらず、契約の内容、労務の提供のかたち、報酬の性質などから、個別の事案ごとに総合的に判断されます。具体的な判断のものさしは、労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)で次のように整理され、現在も使われています。
指揮監督下の労働であるかどうかを見る要素が4つあります。仕事の依頼や業務に従事する指示を断る自由があるか、業務の進め方について指揮監督を受けているか、勤務の場所と時間に拘束されているか、自分の代わりに他の人を使ってよいかどうかです。これに報酬が労働そのものへの対価になっているかという要素が加わります。時間あたりで報酬が決まっている、欠勤したときに差し引かれる、残業したときに割増が付くといった支払い方は、成果への対価ではなく労働への対価と評価される方向に働きます。
さらに判断を補強する要素として、事業者性の有無、専属性の程度、その他が挙げられます。事業者性とは、機械や器具を自分で用意しているか、報酬の水準が同じ仕事をする従業員に比べて著しく高いかといった点です。専属性とは、その相手の仕事に事実上しばられていて、他の仕事を受ける余地がないかという点です。厚生労働省はこの判断をわかりやすく確かめられるように、フリーランス向けの「働き方の自己診断チェックリスト」も公開しています。自分の状況が気になる方は、条文を読み解く前にまずこのチェックリストで当たりを付けるほうが早く進みます。
2つの物差しと補強要素を眺めてもらえば分かるとおり、ひとつでも当てはまれば労働者、という単純な線引きではありません。総合判断であるため、似た働き方でも結論が変わることがあります。したがって、自分の働き方が労働者に当たるかどうかは、一般論として断定できません。判断を得たいときは、後半で紹介する相談窓口に契約書と作業の記録を持って行くのが確実です。
個人事業主が巻き込まれやすい4つの型
現場で問題になるかたちは、おおむね4つに分かれます。どれも契約書だけを見ていると気づけません。
1つ目は、代表型と呼ばれるかたちです。請負契約や業務委託契約で常駐しているのに、注文主の社員が直接、日々の作業指示を出している状態です。朝礼に出る、注文主のチャットツールで当日の作業を割り振られる、注文主の部長が作業手順を直接変更してくる。このあたりが重なると、契約書の表題は意味を持ちません。
2つ目は、形式だけ責任者を置いているかたちです。請負会社の現場責任者が名簿に載っているのに、その人は注文主の指示を伝えるだけで、自分では何も判断していない状態です。37号告示が求めているのは指示を伝えることではなく、自分で判断して管理することなので、伝言役を挟んでも偽装請負の評価は変わりません。
3つ目は、何重にも下請けが連なるかたちです。元請から一次、二次、三次と流れていき、末端で働いている人が誰の指示で動いているのか、誰に雇われているのかが当事者にも分からなくなります。IT分野の常駐開発や、建設、製造の現場で古くから指摘されてきた形です。個人で受ける立場からすると、報酬が段ごとに削られていくうえに、事故が起きたときに誰も責任を引き受けないという二重の不利になります。
4つ目が、一人の個人事業主を実質的に社員として使うかたちです。業務委託契約を結んだうえで、出勤簿を付けさせ、始業と終業の時刻を指定し、他社の仕事を受けることを禁じ、業務の進め方を細かく指示する。この場合は前の節で見た労働者性の問題になり、実態が労働者と判断されれば、労働基準法や最低賃金法、労働契約法の保護が本来は及んでいたはずだ、という話になります。未払いの割増賃金や、契約打ち切りが解雇として扱われるかどうかが争点になります。開発や運用の常駐案件では、どこまでが正常な仕様調整で、どこからが指揮命令なのかの線が特に見えにくくなります。分野ごとの仕事の受け方と契約の実情については、アプリケーション開発のお仕事で扱っている業務の範囲や進め方の説明も、線引きを考える材料になります。
罰則は誰に科されるのか。条文ごとに整理する
ここが検索の核心なので、条文を1つずつ確かめます。まず前提として、罰則が向くのは事業者です。指示に従って働いていた個人が罰金を払わされる決まりは、どの条文にもありません。
第一に、労働者派遣法の許可なく労働者派遣事業を行った場合です。同法第59条は、許可を受けないで労働者派遣事業を行った者を、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処すと定めています。偽装請負の実態が労働者派遣だと判断されれば、送り出した側がこれに当たります。なお刑法の改正により、罰則の表記は懲役ではなく拘禁刑になっています。古い解説記事が懲役と書いているのは改正前の表記です。
第二に、職業安定法の労働者供給にあたる場合です。同法第44条は、労働組合などが許可を得て行う場合を除き、労働者供給事業を行うこと、およびその供給を受けて自分の指揮命令のもとで働かせることを禁じています。この禁止に違反したときは、同法第64条により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。条文が「何人も」と書いているとおり、供給した側だけでなく、受け入れて指揮命令した側も対象になります。注文主が「請負会社がやったことだ」と言い逃れできないのは、ここに根拠があります。
第三に、労働基準法の中間搾取にあたる場合です。同法第6条は、法律にもとづいて許される場合を除き、業として他人の就業に介入して利益を得てはならないと定めています。違反したときの罰則は同法第118条で、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。何重にも下請けが連なり、途中の会社が仕事を回すだけで手数料を取っている構図は、この条文の射程に入ることがあります。
罰則のほかに、行政の処分もあります。労働者派遣法にもとづく許可の取消し、事業停止命令、改善命令、そして企業名の公表です。刑事罰に至らなくても、公表されれば取引先への影響は避けられません。発注する側が偽装請負を恐れるのは、多くの場合この公表と取引停止のほうです。
条文の原文を自分で確かめたいときは、e-Govの法令検索で読めます。労働者派遣法は労働者派遣法の条文、職業安定法は職業安定法の条文、労働基準法は労働基準法の条文です。解説記事の孫引きではなく条文を直接見ておくと、相談窓口でのやり取りが早く済みます。
労働契約申込みみなし制度。発注者に雇用の申込みが生じる仕組み
罰則の話ばかりが取り上げられますが、働いている本人にとって実益が大きいのは、労働者派遣法第40条の6の労働契約申込みみなし制度です。これは、労働者派遣の受け入れ側が違法な受け入れを行った場合、その時点で、その人に対して、そのときの労働条件と同じ内容の労働契約の申込みをしたものとみなす、という決まりです。
対象となる行為は5つ列挙されていて、5番目が偽装請負に向けた規定です。条文は、この法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を結び、労働者派遣契約に定めるべき事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けることを挙げています。つまり、法律の適用を逃れる目的があったと認められる偽装請負では、受け入れ側から雇用の申込みがあったものとして扱われます。
この申込みは、対象の行為が終わった日から1年を経過する日までの間は撤回できません。働いている側がその期間内に承諾すると伝えれば、労働契約が成立します。逆に、期間内に承諾も不承諾も伝えないと、申込みは効力を失います。ここで注意したい条件が2つあります。ひとつは、受け入れ側が、自分の行為が違法な受け入れに当たると知らず、かつ知らなかったことに過失がなかったときは、みなしの対象から外れると但し書きがあること。もうひとつは、5番目の類型には「適用を免れる目的」という要件が入っており、うっかり線を越えただけでは足りないと読める点です。
この制度が使えるのは、請負会社に雇われている人が注文主の現場で働いている場合です。雇用されずに一人で受けている個人事業主には、この条文はそのまま当てはまりません。一人で受けている人が同じような救済を求める道は、自分が労働基準法上の労働者だったと認めてもらう方向になります。ここが、偽装請負と個人事業主の労働者性を分けて考えなければならない実務上の理由です。
その働き方で個人事業主が実際に失っているもの
罰則の有無より先に、金額として何を失っているかを見ておきましょう。実態が労働者に近い働き方をしながら個人事業主として扱われている場合、次のものが手元から抜け落ちます。
割増賃金です。労働基準法が適用される労働者なら、1日8時間または1週40時間を超えた時間に割増賃金が付きます。個人事業主として扱われていると、この割増は請求の根拠を失います。常駐して残業も持ち帰りもしているのに、報酬は月ごとの定額のまま、という相談は珍しくありません。
労災の補償です。業務中や通勤中のけがや病気に対する補償は、雇われている人には自動的に付いてきます。個人事業主は原則として対象外で、特別加入の手続きを自分で行った場合にだけ補償を受けられます。常駐先の作業でけがをしたときに、治療費も休業中の収入も自分の負担になるという差が出ます。
雇用保険です。仕事を失ったときの基本手当、教育訓練給付、育児休業給付は、いずれも雇用保険に入っている人の制度です。個人事業主として扱われていると、契約が終わった翌日から収入がゼロになっても、失業に対する給付は受けられません。
契約打ち切りのときの保護です。労働者なら、解雇に客観的に合理的な理由が要り、少なくとも30日前の予告か手当が必要です。業務委託契約だと、契約書の解約条項に従うだけになります。契約期間の定めがなく、いつでも解約できる条項になっていれば、来月から仕事がなくなる事態を止める手立てがほとんどありません。
社会保険です。厚生年金と健康保険に会社と半分ずつ負担で入れるか、国民年金と国民健康保険を全額自分で払うかの違いは、老後に受け取る年金額にもそのまま出ます。報酬の額面が同じなら、個人事業主のほうが手元に残る金額は確実に薄くなります。自分の分野の報酬水準が、雇われている場合と比べてどのくらいの位置にあるかを確かめたい方は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場や著述家,記者,編集者の年収・単価相場のような職種別の相場データと自分の報酬を突き合わせてみてください。額面が周囲と同じなら、社会保険料と割増賃金の差だけ不利になっている計算になります。
フリーランス法が別に定めている発注者の義務
令和6年11月1日から、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律が施行されています。フリーランス・事業者間取引適正化等法、略してフリーランス法と呼ばれる法律です。これは偽装請負を取り締まる法律ではありませんが、従業員を使わずに個人で仕事を受けている人が相手の場合に、発注する事業者が守らなければならないことを定めています。偽装請負や労働者性とは別の入口として、押さえておく価値があります。
義務の柱は7つあります。書面などで取引条件を明示すること、報酬を期日までに支払うこと、7つの禁止行為を行わないこと、募集情報を正確に表示すること、育児や介護と業務の両立に配慮すること、ハラスメント対策の体制を整えること、中途解除や不更新のときに予告することです。禁止行為には、受領の拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入や利用の強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更ややり直しが並びます。
条文を確かめるときは、フリーランス法の条文が原文です。制度の全体像は厚生労働省のフリーランス向けページに、法律本体、施行令、施行規則、解釈ガイドライン、Q&Aまでがまとまっています。同じページには「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」も掲載されており、こちらは令和8年1月1日に改定されています。
押さえておきたいのは、この法律が労働者性の問題を解決するわけではない点です。フリーランス法が守るのは、事業者どうしの取引としての公正さです。自分が本当は労働者ではないかという疑いがあるなら、フリーランス法の申し出窓口ではなく、労働基準監督署のほうに行く必要があります。取引条件の一方的な変更や報酬の減額に困っているならフリーランス法、指揮命令を受けているのに保護がないことに困っているなら労働者性、という振り分けです。発注側との取引条件をどう書面にしておくかという実務は、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストで契約書の必須項目まで具体的に扱っています。
自分の働き方を点検する手順
抽象論で悩むより、手元の材料を並べたほうが早く進みます。順番はこうです。
第一に、契約書を読み直します。見るのは表題ではなく中身です。仕事の範囲が成果物で書かれているか、それとも作業時間や常駐日数で書かれているか。報酬が成果に対して決まっているか、時間あたりで決まっているか。再委託や、自分の代わりに人を立てることが禁じられていないか。他社の仕事を受けることが禁じられていないか。契約の期間と、解約するときの条件はどうなっているか。この6点を書き出すだけで、自分の位置がだいぶ見えてきます。
第二に、実際のやり取りの記録を集めます。ここが一番大事です。誰から、どういう言い方で、どの頻度で指示を受けていたかが分かる材料を残します。チャットの履歴、メール、朝会の議事録、勤務表、入館の記録、指示のスクリーンショット。これらは日付が分かる形で保存しておきます。労働者性の判断も37号告示の判断も、契約書ではなく実際の運用を見て行われるため、実態を示す材料が結論を左右します。
第三に、厚生労働省の「働き方の自己診断チェックリスト」に当てはめます。断る自由があるか、業務の進め方に指揮監督があるか、時間と場所に拘束されているか、自分の代わりを立てられるか、報酬が時間で決まっているか、機械や材料は誰が用意しているか、その相手だけに専属しているか。この並びは前に見た昭和60年報告の要素と対応しています。
第四に、外部の窓口に持って行きます。自己判断で結論を出す必要はありません。労働者に当たるかどうかは総合判断なので、書類を見せて意見を聞くのが一番早い道です。
なお、記録を集める段階で気をつけたいのは、業務上知った情報の扱いです。証拠のためといって、取引先の営業秘密や顧客の個人情報をまとめて手元に写すと、別の問題を招きます。集めるのは、自分がどういう指示を受けていたかを示す部分に絞ります。書面の残し方そのものに不安があるなら、社外に出す文書の基本の型を押さえておくと、窓口に出す説明書きも読み手に通じるかたちになります。
相談と申し出の窓口。どこに何を持って行くか
窓口は目的ごとに分かれています。間違ったところに行くと、所管が違うと言われて時間を失います。
自分が労働者ではないかという疑いなら、労働基準監督署です。フリーランス法の施行に合わせて、令和6年11月1日から全国の労働基準監督署に「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」が設けられました。受付時間は平日の8時30分から17時15分までです。契約書と、指示のやり取りの記録を持って行きます。
取引条件の明示がない、報酬が支払われない、一方的に減額された、といった取引の問題なら、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)と公正取引委員会が所管です。フリーランス法の違反を申し出る窓口が用意されています。
契約や仕事上のもめごとを弁護士に相談したいなら、フリーランス・トラブル110番があります。厚生労働省の委託事業として令和2年11月から設けられている窓口で、フリーランスや個人事業主が無料で弁護士に相談できます。起業して業務委託を受けて働いている人も使えます。何から手を付けるか分からない段階なら、ここから始めるのが現実的です。
偽装請負そのものを申し出たいなら、都道府県労働局の需給調整事業を担当する部門です。労働者派遣事業と職業紹介事業の指導監督を行っている部署で、労働者派遣法にもとづく調査や指導はここが動きます。厚生労働省の労働者派遣事業のページに、都道府県労働局の窓口一覧が掲載されています。
報酬が支払われないまま連絡が取れなくなった、という金銭の回収に直結する話なら、相談窓口と並行して法的な手続きを検討することになります。着手金や手続きの費用感を先に把握しておきたい方は、未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】で費用の目安と支払督促の流れを確かめてから動くと、判断の材料がそろいます。
最後にひとつ。窓口に行くこと自体で取引を切られるのが怖い、という声はよく聞きます。ここは正直に書きますが、相談したこと自体を理由に不利な扱いを受けたときに、それを止める仕組みは万全ではありません。だからこそ、動く前に記録を集めておくこと、そして相談と並行して次の仕事の当てを作っておくことが、現実的な備えになります。
偽装請負と言われない契約と仕事の進め方
発注する側と受ける側のどちらにとっても、線を越えないための勘所は共通しています。37号告示の条件を裏返して読むと、次のようになります。
仕事の単位を、時間ではなく成果で切ることです。「週3日常駐して作業する」ではなく「この機能を、この仕様で、この期日までに納める」と書きます。同じ仕事でも書き方で位置づけが変わります。
作業の進め方の決定権を、受ける側に残すことです。どの順で手を付けるか、どの道具を使うか、どこで作業するかは受ける側が決めます。発注側が伝えてよいのは、仕様、品質の基準、納期、連絡の窓口です。ここを混ぜると指揮命令に近づきます。
始業と終業の時刻を指定しないことです。会議に出てもらう必要があるなら、その会議の時刻を個別に合意します。就業時間として拘束する形にしないのが要点です。
報酬の決め方を、労働への対価に見えない形にすることです。時間あたりの単価で契約せざるを得ない場面もありますが、その場合は成果物の受け入れ基準と検収の手続きを併せて定めます。欠勤控除や残業割増に似た計算を持ち込むと、労働への対価だと評価されやすくなります。
再委託や代替を一律に禁じないことです。品質と秘密保持の観点から事前承諾を条件にするのは自然ですが、絶対に本人が行わなければならないと書くと、代替性がないという評価につながります。
他社の仕事を受けることを禁じないことです。競合先での同種業務を一定期間制限するといった限定的な取り決めはありえますが、およそ他の仕事を受けてはならないという条項は、専属性の高さを示す材料になります。
機械や設備の負担を明確にすることです。作業に必要な機材を発注側が全部用意し、受ける側は体だけを持ち込むという形は、独立性がないと見られる典型です。守秘の都合で貸与する必要があるなら、貸与であることと理由を書面に残します。
指示の経路を一本にすることです。受ける側に担当者を置き、発注側からの連絡はその担当者に集めます。現場の社員が直接、日々の作業を割り振る形にしないことが大切です。セキュリティやマーケティングの領域では、発注側の内部データに触れる必要があるため経路が乱れやすくなります。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事やAIコンサル・業務活用支援のお仕事のように助言と実作業が混ざる仕事では、どこまでが助言でどこからが受託作業かを契約書で分けておくと、後の争いが減ります。
技術の裏付けを示せる資格を持っていることは、独立した事業者としての専門性を説明する材料になります。ネットワークの構築や運用を請け負う立場ならCCNA(シスコ技術者認定)のような認定が、自分の企画と専門的な技術にもとづいて業務を処理していることの説明を助けます。
長く市場を見てきた立場からの観察
在宅ワークと業務委託の市場を20年にわたって見てきた運営者の立場から、ひとつだけ実感を書きます。偽装請負に近い形に長く留まってしまう人には、共通する状況があります。取引先が1社しかないことです。
指揮命令に近い扱いを受けても断れないのは、その取引を失うと収入がゼロになるからです。逆に、複数の相手と取引している人は、無理な指示が来たときに交渉ができます。そして交渉ができる人には、発注側もはじめから無理な指示を出しません。専属性の程度が労働者性の判断を補強する要素として挙げられているのは偶然ではなく、専属になった時点で力の関係が傾き、そこから働き方の実態が変わっていくという順序があります。
もうひとつ、額面ではなく手取りの話をします。仲介が何段も入る構図では、同じ予算でも受け手に届く額が段ごとに削られます。中間のマージンが乗らない直接取引なら、依頼する側は同じ予算でより多く頼めて、受ける側は手数料0%のぶん手取りが厚くなります。運営者として見てきた限りでは、この構図の差は単価表の数字より、続けられるかどうかに強く出ます。手取りが薄い取引を数でこなしている人は、無理な指示を断れなくなり、そこから偽装請負の型に近づいていきます。
長く続いている人の共通点も書いておきます。単発の作業をこなすことではなく、この人に任せると楽だという関係を作ることに時間を使っています。仕様の抜けを先に指摘する、検収でもめない形で納品物を整える、連絡の経路を一本にして相手の手間を減らす。こうした積み重ねが、結果として指揮命令を必要としない仕事の進め方になっています。偽装請負を避ける技術と、良い仕事をする技術は、かなりの部分で重なっています。
会計や税務のように資格に裏打ちされた分野でも、雇用と業務委託の線引きは同じ問題として出てきます。会計士や税理士のように資格に裏打ちされた分野の副業についての解説でも、そこで扱われている論点は、結局は誰の指揮で働いているのかという一点に行き着きます。自分の分野の相場と契約の型を押さえたうえで、複数の取引先を持ち、指示ではなく成果で仕事を受ける。この形に近づけていくことが、罰則の条文を暗記するより確実な防ぎ方になります。まずは自分の職種の相場と仕事の範囲を著述家,記者,編集者の年収・単価相場のような職種別データで確かめ、いまの取引条件と突き合わせてみてください。
よくある質問
Q. 偽装請負で個人事業主自身が罰せられることはありますか?
罰則が向くのは事業者側です。労働者派遣法59条、職業安定法64条、労働基準法118条のいずれも、無許可で派遣事業を行った者、労働者供給を行った者や受け入れて指揮命令した者、業として就業に介入して利益を得た者を対象にしています。指示に従って働いていた本人を処罰する規定はありません。ただし保護が宙に浮くため、労災や割増賃金の面で不利を被ります。
Q. 罰則の金額と期間はどれくらいですか?
無許可で労働者派遣事業を行った場合は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。職業安定法44条の労働者供給の禁止に違反した場合も1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、労働基準法6条の中間搾取にあたる場合は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。刑法改正により表記は懲役ではなく拘禁刑になっています。
Q. 業務委託なのに始業時刻を指定されています。これは偽装請負ですか?
時刻の指定は、労働者性の判断で拘束性を示す要素のひとつですが、それだけで結論は出ません。断る自由があるか、業務の進め方に指揮監督があるか、報酬が時間で決まっているか、代わりの人を立てられるかなどを合わせた総合判断になります。契約書と指示のやり取りの記録を持って、労働基準監督署の労働者性の相談窓口で意見を聞くのが確実です。
Q. まずどこに相談すればよいですか?
自分が労働者に当たるのではないかという疑いなら、全国の労働基準監督署に設けられた労働者性の相談窓口です。受付は平日8時30分から17時15分までです。契約や報酬のもめごとを弁護士に相談したいなら、厚生労働省が設置しているフリーランス・トラブル110番を無料で使えます。取引条件の明示や報酬の減額の問題は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が所管です。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを運営。生成AIで作成した下書きを、一次情報と照らし合わせて確認したうえで公開しています。

この記事を書いた人
@SOHO編集部
フリーランス・在宅ワークの専門メディア
@SOHOは2004年から続く、日本のフリーランス・在宅ワーク向け案件サイトです。記事は生成AIで下書きを作り、数値・固有名・出典を一次情報と照らし合わせる確認の手順を経て公開しています。
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