偽装請負を厚生労働省はどう判断するか

丸山 桃子
丸山 桃子
偽装請負を厚生労働省はどう判断するか

この記事のポイント

  • ✓偽装請負を厚生労働省はどう判断するのか
  • ✓37号告示の2つの柱と疑義応答集が示す具体的な線引きを整理しました
  • ✓労働契約申込みみなし制度

偽装請負とは、契約書の上では請負や業務委託の形をとりながら、実態としては発注者が働く人に直接指示を出している状態のことです。結論から言うと、厚生労働省はこれを契約書の名称では一切判断しません。判断の根拠になるのは1986年に出された1本の告示で、そこに書かれた2つの条件を両方満たしていなければ、書面に「請負契約」と書いてあっても労働者派遣として扱われます。

この記事では、厚生労働省が使っている判断基準の中身、行政が公表している具体例、代表的な4つのパターン、違反したときに起きること、そして業務委託で働く側がどう自衛するかまでを順に整理します。発注する立場でも受ける立場でも、どこに線が引かれているかを知らないまま進めるのが一番危ないという特徴があります。

偽装請負がなぜ問題として扱われるのか

偽装請負が問題になる理由は、責任の所在が空白になる点にあります。雇用関係であれば、雇っている側が労働時間を管理し、安全衛生に配慮し、社会保険に加入させ、労災の責任を負います。労働者派遣であれば、派遣元と派遣先がそれぞれ何を負うのかが法律で細かく割り振られています。ところが請負の形をとりながら実際には発注者が指示を出している状態だと、指示を出している側は「雇っていないから責任はない」と言い、契約上の雇い主は「現場のことは知らない」と言える構造になってしまいます。

この構造が最も深刻な形で現れるのが労働災害です。現場で事故が起きたとき、安全衛生の措置を講じるべきだったのは誰かという問いに答えが出ない。厚生労働省がこの問題に長く取り組んできた背景には、製造業の現場で実際にそういう事故が繰り返された経験があります。

もう1つの問題は、労働者派遣事業の許可制を実質的に迂回できてしまう点です。労働者派遣は、厚生労働大臣の許可を受けた事業者だけが行えます。許可には資産要件や個人情報管理の体制、教育訓練の計画といった条件が課され、派遣期間の上限や派遣先の責任も法律で決まっています。請負という形にすればこれらすべてを飛び越えられるので、放置すれば許可制そのものが意味をなくします。

2026年時点で、この問題は在宅で働く人にも無縁ではありません。従来は製造現場や建設現場、システム開発の常駐案件が主戦場でしたが、リモートワークが定着してから、オンラインでの指示が濃密になるケースが増えました。毎朝の朝会に出席させ、稼働時間をツールで記録させ、日々のタスクを発注側が割り振る。物理的に同じ場所にいなくても、指揮命令の実態は成立します。厚生労働省の判断基準は場所を要件にしていないので、リモートだから大丈夫という理屈は通りません。

判断の土台は37号告示の2つの柱

厚生労働省が判断に使っているのは、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」という告示です。1986年、当時の労働省が出した告示第37号なので、実務では37号告示と呼ばれます。40年前の文書ですが、今も判断の出発点はここです。

告示が定める条件は2つあります。第1に、受注側が自分の雇っている労働者に対して、業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行っていること。第2に、請け負った業務を自分の事業として、発注者から独立して処理していること。この両方を満たしている場合にだけ請負と認められ、どちらか一方でも欠けていれば労働者派遣に該当します。

告示にはもう1つ、念押しのような条文があります。上の2つの条件を形式的に満たしていても、それが法律の適用を免れることを目的とした偽装であって、実態が労働力の提供にすぎない場合は、労働者派遣事業として扱うという趣旨の規定です。つまり書面上のつじつま合わせは通用しません。

この2つの柱は、抽象的に読むと分かりにくいので、行政は補足資料を重ねて出してきました。「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」は、発注者と受注者の双方が現場で何に気をつけるべきかをまとめた冊子です。さらに「37号告示に関する疑義応答集」が3集にわたって公表されていて、こちらは実際に寄せられた質問と回答を並べた形になっています。判断に迷ったときに最も役に立つのはこの疑義応答集です。抽象的な基準ではなく、「この指示は出してよいか」という粒度で答えが書かれているからです。

告示と資料はすべて厚生労働省のサイトで公開されています。発注側の担当者と話がかみ合わないときは、この資料を根拠として示すのが最短です。個人の感覚を持ち出すより、行政が出している文書を並べたほうが話が早い。これは私が業務委託で常駐していたときに実際に効いた方法です。担当者本人も社内の慣行に従っていただけで、基準を知らなかったというケースが少なくありません。

柱1は自ら指示と管理をしているか

1つ目の柱、業務の遂行に関する指示と管理を自ら行っているかは、さらに3つの観点に分けられています。

1つ目が業務の遂行方法に関する指示です。何をどの順番でどう作業するかを、受注側の責任者が決めて自社の労働者に伝えているかを見ます。発注者が直接、作業者に手順を指示していれば、この観点で欠けていると判断されます。技術的な内容についての指示も含まれるので、発注側のエンジニアが受注側の作業者に実装方法を細かく指示する形は危険です。

2つ目が労働時間などに関する指示です。始業と終業の時刻、休憩の取り方、休日、残業の有無を誰が決めているかを見ます。発注者が「今日は残ってほしい」と作業者に直接言う、発注者の勤怠システムで出退勤を管理する、といった形は指揮命令の徴表になります。

3つ目が企業における秩序の維持と確保のための指示です。服務規律、配置の決定と変更を、受注側が自分で行っているかを見ます。誰をどの作業に割り当てるか、人を入れ替えるかを発注者が決めているなら、それは実質的に労働力を融通されている状態です。

実務でよくある誤解は、「発注者が直接話しかけてはいけないという規則だ」という理解です。そうではありません。仕様の説明、成果物の要求水準の共有、質問への回答といったやりとりは、請負でも当然必要です。線が引かれるのは、それが業務の遂行方法や勤務時間の決定に踏み込むかどうかです。疑義応答集でも、発注者が作業の内容や納期を伝えることは問題なく、作業の割り振りや手順の指示は受注側の責任者が行うべきだという整理がされています。

システム開発の現場は、この線が最も曖昧になりやすい分野です。仕様の質問と実装方法の指示は地続きで、日々のやりとりの中で境界が溶けていきます。開発の工程ごとにどんな仕事の受け方があるかを整理したアプリケーション開発のお仕事を読むと、常駐と持ち帰りで契約の形が変わることが見えてきます。契約の形が変われば、受けてよい指示の範囲も変わります。

柱2は独立した事業として処理しているか

2つ目の柱は、受注側が事業者として自立しているかを問うものです。こちらも観点が分かれています。

まず、業務の処理に必要な資金について、自分の責任で調達し支払っているか。次に、事業主として法律上の責任を負っているか。ここには民法上の請負人としての責任、労働基準法上の責任、労働安全衛生法上の責任などが含まれます。そして、業務に必要な機械や設備、器材、材料を自分で用意しているか。最後に、自分の持つ専門的な技術や経験に基づいて業務を処理しているか。

この4つ目が特に重要です。

業務に必要な資金・機材・人員を自ら調達・管理し、発注者から独立して業務を遂行していることが要件です。また、専門技術や経験に基づいて業務を処理し、単に「人を出す」だけではないことが求められます。 出典: legalontech.com

単に人を出すだけではないこと、という一文が柱2の核心です。請負の本質は、成果や役務を自分の裁量で作り出して提供することにあります。頭数を提供して、その頭数が発注者の指示で動くのであれば、それは労働力の提供です。

機材については、現実的な運用があります。発注者の工場でしか使えない特殊な設備を受注側が買い揃えるのは不合理なので、賃貸借契約や使用貸借契約を別に結んで、対価を払って借りるという形が認められています。ここで大事なのは、契約と対価が実際に存在することです。「なんとなく使わせてもらっている」状態だと、機材の自己調達という要件を満たしません。リモートでの開発でも同じ話で、発注者が用意したパソコンや開発環境を無償で使い続けている場合、この点を突かれる可能性があります。

自分の専門性で処理しているかを確かめるには、報酬の決め方を見るのが手っ取り早い方法です。成果物や業務の単位で決まっているなら事業者としての請負に近く、時間単価で拘束時間に応じて決まっているなら労働力の提供に近づきます。時間単価そのものが違法というわけではありませんが、時間単価かつ稼働時間を発注者が管理しているという組み合わせは、かなり危うい形です。開発職の単価がどう決まっているかの相場観はソフトウェア作成者の年収・単価相場で確かめられます。相場を知っておくと、単価の根拠を自分の技術で説明できるようになり、それ自体が事業者性の裏づけになります。

現場で現れる4つのパターン

行政の資料や実務の解説で繰り返し挙げられるのが、次の4つのパターンです。自分の状況がどれに近いかを見るだけでも、危険度の判断がつきます。

1つ目は代表型と呼ばれる形です。発注者が受注側の作業者に直接、業務の指示や管理を行っている状態で、最も分かりやすい偽装請負です。発注者の社員が朝礼で作業を割り振り、進捗を確認し、残業を頼む。契約書だけが請負になっています。

2つ目は形式だけ責任者型です。受注側が現場責任者を置いてはいるものの、その責任者が発注者の指示をそのまま伝えるだけの役割しか果たしていない形です。責任者の実態が伝言役なら、指示を出しているのは発注者だと判断されます。責任者が自分の判断で作業の割り振りを変えられるか、労働時間を決められるかが分かれ目です。

3つ目は使用者不明型です。請負が何層にも重なり、誰がその作業者の使用者なのか分からなくなっている形です。建設や物流の現場で起きやすく、事故が起きたときに責任の追及先が定まりません。二次請け、三次請けと重なるほど、間に入る事業者が取り分を抜くので、末端に届く報酬も薄くなります。

4つ目は一人請負型です。実態としては雇用であるのに、働く人と雇用契約を結ばず、個人事業主として請負契約を締結する形です。労働時間も作業内容も発注者が決めているのに、契約上は独立した事業者なので、労災も社会保険も有給休暇も適用されない。在宅で働く人が最も遭遇しやすいのはこの型です。

私が業務委託で常駐していた頃、3つ目と4つ目が混ざった現場に入ったことがあります。契約の相手は元請けの会社で、指示を出してくるのはその先の発注者の社員。質問をすると「それはうちの管轄ではない」と言われ、誰に確認すればよいのか分からない状態が続きました。結局、契約の相手に書面で確認の窓口を1つに決めてもらうまで、その曖昧さは解消しませんでした。契約の形が入り組んでいるときほど、誰が何を決めるのかを最初に文字にしておく必要があります。

疑義応答集が示している具体的な線引き

抽象的な基準だけでは現場は動きません。厚生労働省が3集にわたって出している疑義応答集は、実際に寄せられた質問に答える形で線を引いているので、迷ったときはここを引くのが早道です。代表的な論点をいくつか紹介します。

発注者が業務の内容や納期を受注側に伝えることは、請負でも当然に必要とされています。問題になるのは、それを受注側の責任者を通さずに個々の作業者へ直接伝え、しかも手順や順番まで指定する場合です。つまり、伝える内容ではなく伝える経路と粒度が判断の分かれ目になります。

緊急時の対応についても整理があります。災害や事故が起きたとき、発注者が安全確保のために直接指示を出すことは、偽装請負とは評価されません。人命に関わる場面まで経路を守れという趣旨ではないからです。ただしこれは例外であって、日常的な業務指示をこの理屈で正当化することはできません。

発注者と受注側の作業者が同じ部屋で働くこと自体も、直ちに問題になるわけではありません。ただし、席の配置や作業スペースが混在していて、誰がどちらの所属か外から区別できない状態は、指揮命令が混ざっている徴表として見られやすくなります。名札や作業服、メールアドレスの表示で所属が分かるようにしておくのが実務上の対応です。

打ち合わせへの参加も論点になります。受注側の作業者が発注者の会議に出ること自体は禁じられていませんが、その場で発注者が直接に作業の割り振りを決めるなら、経路が崩れています。受注側の責任者が同席して持ち帰り、自社の判断として作業者に伝える形を保てるかどうかが要点です。

リモートでの運用に置き換えると、チャットツールのチャンネル設計がそのまま経路の設計になります。発注者と個々の作業者が1対1で常時つながっていて、そこで日々の作業が指示されているなら、代表型の偽装請負とほぼ同じ構造です。受注側の責任者が入るチャンネルを窓口として決め、作業の割り振りはそこを通す。この一手間だけで、実態はかなり変わります。

混同されやすい契約形態を並べて整理する

偽装請負の話をややこしくしているのは、似た言葉が複数あることです。整理しておきます。

請負は、仕事を完成させることを約束して報酬を受け取る契約です。成果物が完成していなければ報酬を請求できず、その代わり作り方は自分で決められます。準委任は、成果物の完成ではなく業務の遂行そのものを引き受ける契約です。システム開発でよく使われる形で、成果物の完成義務がない代わりに、善良な管理者としての注意をもって業務を行う義務を負います。この2つはどちらも労働者派遣ではないので、発注者からの指揮命令を受けないという点は共通しています。

労働者派遣は、派遣元と雇用関係にある労働者を派遣先の指揮命令のもとで働かせる契約です。指揮命令を受けること自体が制度の前提なので、指示を出されること自体は問題ありません。その代わり、事業には厚生労働大臣の許可が要り、派遣先にも期間制限や責任者の選任といった義務が課されます。

いわゆるSESは法律上の用語ではなく、多くの場合は準委任契約を指す業界の呼び名です。呼び方が独立しているために「派遣でも請負でもない第3の形」と誤解されがちですが、法律上は準委任か派遣のどちらかに振り分けられます。準委任と言いながら発注者が指揮命令しているなら、それは偽装請負です。

2024年11月に全面施行されたフリーランス新法、正式には特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律も関係します。この法律は、従業員を使わない個人が業務委託を受けるときの取引条件の明示、報酬の支払期日、募集情報の的確表示、ハラスメント対策の体制整備などを発注者に義務づけました。偽装請負を直接取り締まる法律ではありませんが、取引条件を書面で明示する義務があるため、結果として「誰が何を決めるのか」が文字になりやすくなっています。書面が残れば、実態とのずれも指摘しやすくなります。

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違反が認定されたときに起きること

偽装請負が認定されると、まず行政指導が入ります。都道府県労働局の需給調整事業部門が調査を行い、是正を指導します。指導に従わない場合は事業改善命令や事業停止命令に進み、許可を受けている派遣事業者であれば許可の取消しもあり得ます。

罰則も定められています。

労働者派遣法の第59条では、第5条第1項の許可を受けないで労働者派遣事業を行った者、つまりは厚生労働大臣による許可を得ずに労働者派遣を行った事業者について、懲役1年以下もしくは100万円以下の罰金とすると定められています。 出典: legalontech.com

適用される法律は1つではありません。労働者を供給する形と評価されれば、職業安定法の側でも罰則がかかります。

職業安定法の第64条では、第44条の規定に違反した者、つまりは労働者供給事業を厚生労働大臣の許可なく行った事業者について、懲役1年以下もしくは100万円以下の罰金とすると定められています。 出典: legalontech.com

罰則を受けるのは受注側だけではありません。派遣を受け入れる側にも禁止規定があるので、発注者も責任を問われます。

そして働く側にとって最も意味が大きいのが、労働契約申込みみなし制度です。労働者派遣法に置かれた規定で、偽装請負などの目的で違法な派遣を受け入れていた場合、派遣先が労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなされます。働く人がその申込みを承諾すれば、発注者との間に直接の労働契約が成立する。つまり、発注者の従業員としての地位を主張できるということです。

この制度があるため、偽装請負の指摘は発注企業にとって単なる行政指導のリスクでは済みません。関わっていた人数分の雇用責任が現実化する可能性を抱えることになります。1年以下の懲役という条文よりも、この民事上の効果のほうが実務では重く受け止められています。

発注する側が最低限そろえておく体制

受ける側だけでなく、仕事を出す側にも準備があります。小規模な事業者が外部に業務を頼むとき、悪意なく偽装請負の形に滑り込んでしまうことが少なくありません。社内の慣行をそのまま外部の人に当てはめてしまうのが原因です。

第1に、契約書で業務の範囲と成果を定義します。「開発業務一式」「運用支援」といった書き方では、何をもって完了とするのかが決まらないため、結果として日々の指示で埋めるしかなくなります。範囲が曖昧な契約は、そのまま指揮命令を呼び込みます。工程や機能の単位で切り、検収の基準を書いておくのが基本です。

第2に、受注側の責任者を1人決めて、そこを窓口にします。作業の割り振り、進め方、勤務時間の設定は責任者が自社の判断として行い、発注者は責任者に対して仕様と納期を伝える。この経路を崩さないだけで、代表型と形式だけ責任者型の両方を回避できます。責任者が伝言役に徹してしまうと形式だけの状態になるので、責任者に判断の裁量を渡しておくことも必要です。

第3に、勤怠を管理しないという線を守ります。発注者の勤怠システムに登録させる、始業の打刻を求める、有給休暇の申請を受け付ける。これらはすべて雇用関係を前提にした運用です。稼働の実績を把握したいなら、作業報告書や工数の請求という形で受け取ります。同じ数字でも、管理として取るのか、請求の根拠として受け取るのかで意味が変わります。

第4に、機材と環境の扱いを契約に書きます。発注者の設備や社内システムを使ってもらう必要があるなら、使用貸借や賃貸借の条項を入れて対価を明記します。セキュリティの都合で発注者の端末を使わせるケースは実務上よくありますが、契約に何も書かないまま渡すのが一番まずい形です。

第5に、記録の残し方を決めます。やりとりをチャットの個別連絡に散らさず、窓口のチャンネルと課題管理の仕組みに集約する。あとから第三者が見て、誰が何を決めたかをたどれる状態にしておけば、調査が入ったときの説明もできます。

外部に頼む業務の切り出し方そのものに迷っているなら、どこまでを社内で持ち、どこから外に出すかを考える材料が要ります。業務の改善を外部の目で進める仕事の実像をまとめたAIコンサル・業務活用支援のお仕事は、成果の単位で仕事を定義するとはどういうことかを具体的に示しています。書面の型を整える基礎を確認したい場合はビジネス文書検定の出題範囲が、契約書や発注書の書き方を見直す手がかりになります。

業務委託で働く側がどう自衛するか

偽装請負は発注側の違反ですから、働く側に責任はありません。ただ、巻き込まれると実害を受けるのは働く側です。指示に従って残業しても残業代は出ず、事故に遭っても労災の扱いが揉め、体調を崩しても休業補償がない。だから、入口で確かめておくことに意味があります。

契約を結ぶ前に見るべき点は4つです。第1に、指示を出す窓口が誰なのか。契約の相手方の担当者なのか、その先の会社の社員なのか。第2に、稼働時間の扱い。時刻を指定されるのか、成果で評価されるのか。第3に、作業環境と機材。誰の設備を使い、それに対価を払うのかどうか。第4に、作業の手順を誰が決めるのか。仕様は受け取るが方法は自分が決める形になっているか。

この4点を契約書か発注書に書き込んでもらうのが最も確実です。書面に残っていれば、後で実態が違ってきたときに指摘の根拠になります。発注書や契約書に入れるべき項目を洗い出したフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストは、この作業の下敷きとして使えます。

すでに始まっている取引で違和感があるなら、記録を残すことから始めてください。誰からどんな指示が来たのか、日時と内容をメールやチャットの形で残す。口頭の指示は自分でメモに起こして相手に確認のメールを送る。この積み上げが、後で相談するときの材料になります。相談先は都道府県労働局の需給調整事業部門、労働基準監督署の総合労働相談コーナー、そしてフリーランス・トラブル110番です。

20年この市場を見てきた立場から言えば、偽装請負の疑いが濃い案件と、そうでない案件の違いは、入口の説明の丁寧さに現れます。危ない案件は「まずは入ってもらってから」と言い、条件の言語化を後回しにします。健全な案件は、範囲と成果の定義を先に出してきます。単価の高さではなく、この説明の質で選ぶほうが、長い目で見て手取りは安定するという傾向が見られます。

運営者として見てきた限りでは、指揮命令を受ける形で働き続けた人は、何年たっても単価が動きません。時間を売っているので、時間以上の値段が付かないからです。逆に、成果の単位で受けて自分の裁量で組み立てている人は、同じ作業でも年ごとに単価が上がっていきます。中間に事業者が挟まらない直接の取引なら、依頼する側は同じ予算でより多くを頼めて、受ける側は手数料0%の分だけ手取りが厚くなります。偽装請負を避けるという話は、法律を守るという話であると同時に、自分の値段を自分で決められる立場を保つという話でもあります。

よくある質問

Q. 発注者から直接質問に答えてもらうのも偽装請負になりますか?

なりません。仕様の説明、成果物の要求水準の共有、質問への回答は請負でも必要なやりとりです。線が引かれるのは、作業の手順や順番を発注者が決める、始業終業の時刻や残業を発注者が指示する、人の配置を発注者が変えるといった場合です。判断に迷う具体例は厚生労働省の疑義応答集に載っています。

Q. リモートワークでも偽装請負は成立しますか?

成立します。厚生労働省の判断基準は働く場所を要件にしていません。オンラインの朝会への出席を義務づける、稼働時間をツールで管理する、日々のタスクを発注側が割り振るといった形は、物理的に離れていても指揮命令の実態として評価されます。在宅だから安全という理屈は通りません。

Q. 偽装請負だった場合、働いていた人はどうなりますか?

労働者派遣法の労働契約申込みみなし制度により、違法な派遣を受け入れていた発注者が労働契約を申し込んだものとみなされます。働く人が承諾すれば、発注者との間に直接の労働契約が成立します。過去の残業代や社会保険の扱いについても、あらためて争える余地が出てきます。

Q. 発注者のパソコンや開発環境を使うのは問題がありますか?

無償で使い続けていると、機材を自分で調達しているという要件を満たさないと判断される可能性があります。特殊な設備の場合は、賃貸借契約や使用貸借契約を別に結んで対価を払う形が認められています。契約と対価が実際に存在していることが要点で、慣行で使わせてもらっている状態は避けたほうが安全です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年5月7日最終更新:2026年9月25日
丸山 桃子

この記事を書いた人

丸山 桃子@SOHO編集部

アパレルEC運営支援・SNSコンサル

アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。

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